それは、運命のイタズラだろうか?
彼女……アルセウスが人々とポケモンに確認されたのは遥か昔……まだ文字すらもない古の時代。
彼女は戦い続けた、この星を穢す巨悪と、この星を滅ぼす危機と。
何度も傷つき、幾度も挫けそうになっても彼女は歯を食いしばり、魔と立ち向かった。
そのことに何の意味があるのか、果たしてこの醜くも儚い星を護ることに意味はあるのだろうか?
彼女はただ、護りたかっただけだ。
右も左も分からない赤子の彼女に優しくしてくれた人々を、ポケモンたちを護りたかっただけだ。
この世界は何度も危機にさらされた、それは時に人の手で、それは時にポケモンの意思で。
うんざりするほどの戦いの数々、疲れても疲れても……彼女は戦いをやめることはなかった。
だが、この世界を襲う巨悪はアルセウスの意思なぞ汲むはずもなく、ただアルセウスを疲弊させた。
いつしか巨悪は徐々に膨れ上がり、彼女にも止められなくなった。
世界に欲望が渦巻く、力が……抗うことの出来ない者が喰われる世界に変貌する。
護れなかった……彼女がある時涙を流した。
だが、人々とポケモンたちは彼女に言った。
今度は我々が助ける番だ。
人々とポケモンは疲れたアルセウスの盾となり、剣となって巨悪と立ち向かった。
それでも、アルセウスにさえどうにも出来ない巨悪に人々はどうしようもなかった。
人は無力で絶望しか無いのか? だけどある時一人の青年が現れた。
その青年は戦う力も無く、頭も悪かったがひとつだけ才能があった。
優しく、絶対に諦めない正義の才能。
アルセウスはその青年と一緒に戦った、その青年は彼女の足をひっぱる事も多かったが、苦難の末巨悪を滅ぼすことに成功したのだ。
そう、それからだった……アルセウスと共に戦う者のことを『契約者』と呼ぶようになったのは。
「汝(なれ)! 名はなんという!?」
「ああああああっ! トモエ! 古戸無朋恵!!」
「トモエか、気に入った!」
それは光だった。
マフィア風の男たちに周囲を囲まれ絶体絶命の中、焦るトモエをよそに余裕を見せるアルセウス。
トモエの名を聞くと、アルセウスの体がまるで小さな太陽に化けたかのように白色光を放ったのだ。
その光は熱くはない、でも優しげな光というわけでもなく、全ての色ある物質を奪うかのような凶暴な発光。
「な、なんだぁ!? どうなってんだお前の体……て、俺もかぁ!?」
目も開けられない程の強い光だったが、トモエには周りの者が感じるほどの光は感じなかった。
はっきりとアルセウスの姿を確認し、そして自分の体も確認できる。そしてそこには細胞ひとつひとつが強く燃焼するかのように光を放っていることに気づく。
『汝よ、我が契約者古戸無朋恵よ。己の声が聞こえるか? 我はアルセウス、この星の守護者なり』
ふと、トモエの頭の中にあるビジョンが浮かんだ。凛とした顔立ちで、整然と真っ白な空間に立ち、こちらに少女の声で語りかけてくるアルセウス。
今目の前で光を放つポケモンだということは本能的にわかった。
『己は汝の手、汝の足となった。己が汝に与える代価は己を扱う権利。だがその代わり汝には代価として己と共に巨悪へと立ち向かってもらう』
それを聞いてトモエははぁっ!? 目を大きく見開いた。
正直訳も分からず名を聞かれて、それが契約、巨悪? 立ち向かう?
それは一体何の話でしょうか。これはアニメでしょうか、それともゲームでしょうか。映画の撮影かなにかでしょうか?
トモエの理解力はすでに限界をとうの昔に超えている。
これ以上彼の頭に何かを詰め込むのは不可能だろうが、彼女……アルセウスは彼の事などお構いなしに話をすすめる。
『まずは目の前の悪漢ども叩き伏せる。力を貸してもらうぞトモエ!』
「て、ちょっとまてーーーっ!!」
光が失せる。再び夜の暗さを取り戻すとその場には何事もなかったかのようにトモエとアルセウス、そして周囲を取り囲む男たちの姿があった。
「おいアルセウスとやら……巨悪に立ち向かうってどういうことだ? 契約ってなんだ?」
トモエは光が失せると自分の体を舐めるように確認する。どこも異常は感じられない。
あの光がなんだったのか、それはトモエ自身考えたくも無い。
「トモエ、そんなことを言っている場合ではないが、いいのか?」
「へ?」
まるで素っ頓狂な声を出した瞬間だった。痺れを切らしたマフィア風の男たちは一斉にマシンガンの銃口をトモエとアルセウスに向けた。
刹那放たれる大量の鉛玉、それは一発一発が確実にトモエの命を絶つ威力を誇る凶悪な殺人兵器。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
トモエが悲鳴を上げ、それらを拒むように両手を前に突き出した。
そんなことをしても何の意味も無い。それらは無情にもトモエの命を刈り取るだろう。
だが、トモエの前にはありえない壁がそびえていた。
「――え?」
トモエが両手を前に突き出し、命の危機を強烈に拒んだ瞬間だった。
目の前には自分自身を十分に覆える強大な光の壁『リフレクター』が立ちふさがり、凶弾を空中で静止させた。
「な、なんだよこれ……?」
トモエは驚愕した。それはまるでポケモンが使う技のようで、強固な盾となってマシンガンの銃弾を全てはじき飛ばしたのだ。
驚愕したのはトモエだけではない、それを目の当たりにしたマフィア風の男たちもそうだ。
にやりと笑ったアルセウスが、トモエの背中を護るようにしてつぶやく。
「驚いているようだな汝よ。だが不思議がる必要はない、汝は己の契約者となったのだ。それは己の力の一部、汝はそれを扱う権利がある」
「わ、訳わからねぇことつらつら言い並べやがって……ど、どういう理屈だよ?」
トモエは震えていた、自分の手を信じられない物のように見つめ、わなわなと震えている。人が持ちえない破格の力、それをトモエはなんの気兼ねも無く使ったのだ。
トモエの中で何かが弾けるようだった、それは戦慄に近い。
「説明は後だ、それよりこれでお前も奴らのターゲットの仲間入り、さぁどうする?」
アルセウスは横顔だけトモエに見せてにやりと笑った。
悪女め……トモエは毒づくようにつぶやいた。
「だぁぁぁっ! ああ! 話は後だ! まずはここを切り抜けるぞ!」
「応っ! 契約者よ!」
アルセウスは態勢を低く構えると、頭頂部にエネルギーを集める。
「『スピードスター』か! いけっ!」
トモエは瞬時にアルセウスがやろうとしていることを読んだ。アルセウスはトモエの判断の速さに多少驚いたが、同時にそれは頼もしくも思えた。
アルセウスが天高く吠えるように頭を空へと突き上げると頭頂部から無数のヒトデ型の星が大量に飛び出し、それは縦横無尽に空を駆け、そして敵意を持つ無数の男たちに牙を向いた。
どこまで逃げても追う星は、マシンガンを切り裂き、男たちの体を傷つける。
たった一瞬、その一瞬で勝負はつく。
たった一度の技で、20人近くいたマフィア風の男たちは無残にも全滅したのだ。
「すごい……」
トモエは感嘆の声を上げた。だが同時に悲痛な顔をして胸の辺りを強く押さえ込む。
まるでその力を恐れるように、見たくないものから必死で目をそらすように。
「ん、大丈夫かトモエ?」
ふと、トモエの様子に気づいたアルセウスは心配そうにしゃがみ込みトモエの目線と同じ高さに立つ。トモエは顔を青く染め上げ、俯いたままワナワナと震えた。
さすがに心配になってアルセウスはどこか具合がわるいのかとトモエに聞いてみたが、トモエはアルセウスの体をドンッ! と押しのけた。もちろん320キロの巨体はその程度の衝撃で動くことも無いが、突然の反応にアルセウスは驚いた。
「くるな……くるなよっ! 俺に近づくな!」
「ど、どうしたんだ汝!? 一体突然に!?」
まるで錯乱するように、アルセウスに怯えるようにトモエは突然アルセウスを拒み始める。あまりの変貌ぶりにアルセウスも戸惑いを隠せず、その大きな体からは考えられないうろたえようを見せた。
だが、直後排気量の高いバイクのエンジン音が響き、近づいてくる。
周囲を蹴散らし、突然その場に大型のバイクがこの場へと突っ込んでくる。
「な、なんだなんだっ!? と、突然!?」
慌てていつもの様子を取り戻すトモエと、バイクを見て戦う態勢のままそれを睨みつけるアルセウス。バイクは地面にタイヤの跡を残すほどのブレーキングで躍り出て数メートル横向きに滑ったが停止する。
何事かと、注意深くバイクとそのライダーを注目する一人と一匹。ライダーはゆっくりとヘルメットを取ると、そこからは紅い髪が飛び出し、美しい凛とした女性が姿を表した。
ライダースーツの上から白衣を纏い、紅い髪がゆらりと風にゆられる美貌の女性はゆらりと首を回してトモエを直視した。
ごくりと、唾を飲み込んで喉を鳴らすトモエ。その妖艶な女性が何者なのか、それが気になって仕方がない。
「……あ〜、コホン、テステス」
「? なんだアレは?」
突然女性はまるでマイクテストをするように、その場で何かつぶやき始める。
その様子はまるでトモエたちなど目に留まっていないように無視しており、アルセウスは訝しげに女性を見た。
次の瞬間、ようやく女性がトモエたちに口を開いた。
「はぁーーいっ! そこなボーイ! とりあえずその隣にいるアルセウスというポケモンをこちらに渡しやがれなのであーる!!」
トモエは思わず素っ転びそうになった。
その怪しげな女性から妖艶なイメージを受けたトモエは、その激しいギャップについていけなかった。
「おんやぁ? どうしたのであーるか? そこな少年よ」
バイクに跨り、足を組んで妖艶なポーズを取るが、その言動がその女性像のイメージ全てを粉々に破壊する。
もはや、さっきのシリアス成分は欠片もトモエには残っていない。
「あんた一体何者だーーっ!? 一体アンタといいお前といい俺になんか恨みでもあるのか!?」
「何故に汝を恨む必要がある」
「恨む道理はないであーるな」
トモエが人差し指を立てて一人と一匹をまくし立てる。
彼女たちはそれを冷静に受け流すが、さすがにトモエもこの理不尽かつ意味不明の展開にはついていけそうにない。
「だがしかぁし、少年よ。聞かれれば答えよう!! 我が名はマルス! ドクターマルスであーる! 我々ダークプリズンのため、そのアルセウスをさっさと渡しやがれぇい!!」
ダークプリズン……その名を聞いた瞬間トモエの震えが止まった。顔を俯かせ低い声で喋る、それは注意しなければ聞き取れないほどの小さな声だった。
「ダークプリズン、だと……?」
「どうしたトモエ?」
ダークプリズン、このミレリア地方で活動する極悪組織の名前だ。ミレリア地方各地、とりわけこのアークスにおいて活動の活発なダークプリズンは殺人誘拐強盗麻薬、あらゆる悪に手を染める軍隊でも手がつけられない凶悪組織、人々は彼らに恐れおののき、ダークプリズンの毒牙にかかった者は数え切れない。
このアークスにおいて、ダークプリズンはまさに頂点に立つ組織だと言えた。
「許さねぇ……てめぇらみたいな悪党野放しにできるほど俺は人間できてねぇんだよっ!!」
突然トモエが吠えた。まるで怒りをぶつけるようにドクターマルスを睨みつけ、威嚇する。
「なんだ少年よ、貴様ひとりのちっぽけな力で何ができるであーる?」
「うるせぇ!!」
「お、おい落ち着けトモエ!」
慌ててアルセウスがトモエを抑える。トモエは今にも襲いかからんが如く興奮しきっていた。
彼が何故これほどダークプリズンを憎むのか? それは別に彼はダークプリズンを憎んでいるわけではない。
いや、彼ほどの正義感を持つ者ならば誰しもダークプリズンを快く思うわけがない。だが彼の憎しみの理由は他にあった。
ダークプリズンはポケモンを用いた凶悪犯罪を多数行っている。
彼、トモエにはそれがどうしても許せないのだ……そう、自我を忘れるほどに。
「やれやれ、これだから野蛮人は嫌いであーる。さてまぁ、邪魔をするのなら……消し炭になってもらうのであーる!!」
必死で抑えるアルセウスをよそにトモエが暴れまわるのを見ると、はぁ……とため息を零して胸ポケットからボールのような何かを取り出す。
それは一見するとモンスターボールのようなもので、ボールの中央部にあるボタンを押すと、ボフンと煙を上げてひとつのとんでもない武器を彼女に与えた。
「!? パ、パンツァーファウスト!? ど、どこからそんなもの!?」
それは女性には大きく、弾頭が外気にさらされた無骨な兵器。
小型ではあるが重量は3.2キロ、射程距離30メートルの対戦車用爆撃兵器通称パンツァーファウストだった。
「モンスターボールとて拡縮機能やパソコン転送機能がついているであーる、このドクターマルスの手にかかればこれくらい朝飯前であーる!」
そう言いつつ砲塔をアルセウスに向けるドクターマルス、我に帰ったトモエは慌てて後退る。
「アディオス♪ 誇り高き少年よ、アーハッハッハッ!!」
引き金が引かれる時、推進装置から火花が散り、トモエとアルセウスめがけて弾頭が猛加速する。
勝利を確信したドクターマルスは高笑いし、その末を見届ける。
「……調子に乗るなよ、この阿呆が」
「アーハッハッハ……は?」
何かがアルセウスの逆鱗に触れたらしい。アルセウスが怒りを露にしたように声を荒げると、突然パンツァーファウストがアルセウスの目の前で静止する。アルセウスの防御技『リフレクター』で強引に止めたのだ。
「あ、アルセウス!? 大丈夫なのか!?」
しかし、アルセウスは弾頭を押さえるのに苦しんでいる様子を表情から見せている。トモエはそれを見て慌ててアルセウスの側に寄った。
「お、己がこの程度でやられるわけがなかろう……」
表情もそうだが、声も決して楽という感じではない。
さすがのアルセウスもパンツァーファウストのような大型の弾頭を止めるの辛い様子だった。それを見たトモエは何か決意しアルセウスの前に出る。
それをみたアルセウスはトモエに叫んだ!
「よせトモエ! 危険だぞ!」
「――危険、てことはお前、大丈夫じゃないんだよな」
冷静に言葉を紡ぐトモエにアルセウスは図星をつかれ、ぐうの音もでない。
もうすぐこの弾頭は『リフレクター』の壁を突破してしまう。
「お前、言ったよな。巨悪と戦うために力を貸す、だから戦えと」
「トモエ?」
アルセウスにはトモエが何をしようとしているのか分からなかった。ただ弾頭を止めるのに必死でトモエにまで気を回せない。
すると、トモエは突然パンツァーファウストの弾頭に触れた、芯管を叩かない限りそれは爆発することはないが、アルセウスは顔を青くして叫んだ。
「お、お前は馬鹿か!? 阿呆か!? さ、下がれ!!」
「ざけんな……ふざけんなぁ!!! 戦ってやろうじゃねぇか!! 俺はダークプリズンみたいな奴らが大っ嫌いなんだよぉっ!!!」
トモエはアルセウスの力を引き出したのか、目の色が白く変色する。その瞬間トモエの中で……『世界の見え方が変わった』。
推進剤を噴出し、燃えるように火を噴く弾頭、その動きがまるでスローモーションの様に見えた。
ただ、手を添えてクルリと弾頭をまるで、お手玉のように回して見せる。
その作業は今のトモエにはなんでもない、実に簡単な作業。だが今明らかにトモエは人の技を越えた。
「へ? ちょ……嘘でしょーーっ!?」
進む方向が逆転した弾頭は当然のようにドクターマルスを襲う。クルリと反転し後ろに向かって猛ダッシュするも弾頭の方が当然早い。
大爆発、ドクターマルスは吹き飛んでしまう。
だが、その安否を気にするものは誰もいない。
「トモエ……」
『リフレクター』を解いたアルセウスは心配そうにトモエの側に寄った。
「はぁ……はぁ……」
トモエは息を荒らげて地面に膝をつく。すでに目の色は元に戻っており、トモエの世界観も元に戻っていた。
あの一瞬、一瞬だけだったがトモエは確実に人と呼べるそれではなかった。
そしてその力の根幹を思い知る……目の前にいる一匹のポケモン、アルセウスがトモエに与えた力なのだと。
「阿呆、教える前に力を使うな。人間が己の力を扱うには訓練が必要だというのに」
「だが、やらなきゃ共倒れだろ? アル?」
アルセウスは犬のようにしゃがみ込むとそう説教をするように愚痴る。
だが、トモエはそれを差し置いてわずかに笑顔を浮かべた。
アル……聞き慣れない言葉にキョトンとするアルセウスにトモエは言葉を続けた。
「アル、ニックネームだよ。俺の相棒になるんだろ? だったら個体名じゃ味気ないだろ?」
トモエは決意した。
このアルセウスの契約者になることを。
彼はポケモンとふれあうことを極度に恐れた、それが何を意味するのかそれはこの時点では分からない話。
ただ、彼はどうしようもない馬鹿なんだ……ただ、優しく、正義感の強いだけの馬鹿。
『ゆ、ゆゆゆゆ……許さんであーる!!』
「――! あの小娘、まだ生きておったか?」
突然、スピーカー越しと思われる声が大音量で街に響いた。
ズドォン、ズドォンと大きな足音がすると地響きが起こり、それは大きくなってこちらへと近づいてくる。
「ま、まさかとは思うが……」
トモエは顔を青ざめた。このしぶとさと、そしてこの嫌に重厚感のある響き。トモエは恐る恐る音のする方向を振り返った。
直後、目の前のビルが真横に倒壊する、その先には。
「きょ、きょ、巨大ロボットーーっ!?」
ビルを倒壊させるほどの巨大ロボット、体長50メートルほどの人型のロボットは黒光りするボディをもち、強靭な四肢を暴れ狂わす。
カメラアイと思われる二つの目は光り、燃え上がる街を背景にこちらを睨みつけた。
『このスーパーウルトラデラックスハイパーメガトンロボ! 略してスパロボで貴様らを踏みつぶしてやるのであーる!!』
「略す場所、間違えてないか?」
この緊迫の状況もあのドクターマルスの声を聞くと、どうも和んでしまう。トモエは急に顔を緩ませて冷静に突っ込んでしまった。
とはいえ、さすがに巨大ロボには敵わない、すでに街並みを破壊し、機動警察を物ともせずトモエの方へと進軍してきている。
改めてダークプリズンの力を象徴する巨大ロボ、度々このアークスシティを騒がせているがいざ相手をすると、これがどうして軍隊でもなかなか勝てない相手だ。
だが、二人はなんの恐怖も心配もなかった。
互いを信頼し、たとえ強大で巨大なロボットが相手でも勇敢に立ち向かうだろう。
「トモエ、我が最大の奥義、お前に見せてやろう……」
アルセウス……アルが一歩前へと進んだ。
今までに無い気迫を見せ、ドクターマルスが乗る巨大ロボを睨みつける。
アルセウスの体全体にエネルギーが満ちる、体に黄金の膜が生じ、それは流動的に動きまるでマグマのように迸る。
その力はアルセウスの頭頂部に集まると、アルセウスの叫びと同時に放たれた。
「受けよ、己の必殺の一撃!! 『さばきのつぶて』!!」
それはアルセウスの咆哮のようだった。
アルセウスの頭から天高く放たれる一本の光の筋は雲を貫き、闇を切り裂く光の刃。
まるで月に届くかと思うほど空高く打ち上げられた光は突然空で花火の様に弾け、それが無数のレーザーとなって巨大ロボを襲う。
大きいが、鈍重な巨大ロボはその無数の光にまるで至近距離から強力なショットガンを受けたように穴だらけにされて、ブレイクダウン……戦闘不能に陥るのだった。
「すごい……これが、お前の……」
トモエは感動した。その力は今まで見たどんなポケモンの技よりも強力で恐ろしい技だったが、それ以上に……『美しかった』。
まるで流星のように輝くその光は天から降り注ぎ、悪しき者へと裁きを下す。
まるで神の息吹のような荘厳さを持つ、その技は放たれたと同時にまるで、ケルベロスの咆哮のような凶暴さを持ちながら、その輝きはまるで菩薩のように優しげ。
そして……戦いを終えたアルセウスは、月の光を浴びて、まるで天女のように美しく輝いていた。
ふと、ぼうっと惚けていたトモエに気づいたアルセウスはトモエに振り返り小さく微笑んでみせた。
トモエはなんだか恥ずかしくなった、一瞬とはいえそのアルセウスの美しさに惚れてしまったことに。
そして同時に思った、これからは彼女が自分の新たなるパートナーなのだと。
「――よろしくな、アル」