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Fantasy

第12話 悪戯―Trick star―





「――お、落ち着くであるアリサよ! い、一体全体どうしたんであーーるっ!?!?」

「ロボボボボボッボボボボボ!!!」

 昼下がりのアークスシティ、今日も今日とてしつこくドクターマルスがトモエとアルセウスに襲い掛かる。
 だが、今は少し様子がおかしかった。

「ええいっ! あの機械娘どうしたというのだ!?」

 まるで狂ったように訳のわからない言葉を並べ、主であるドクターの言うことも聞かない。
 まるで暴走したようにある時突然大暴れ、街は瞬く間に阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わって言った。




 ……始まりはほんの30分前のことだった。


「ふっふっふ……!」

 昼下がり、昼ごはんを少し遅らせてトモエたちはアークスシティできつめのランニングをしていた。
 まだまだ残暑が残り暑いアークスシティでそれなりに強度のあるランニングはトモエにも辛い。
 当然のようにその後ろを必死で着いてくるイーブイのタルタロスには更に辛いだろう。

「ふ……まてぇぇいで・あーる!! そこのトモエとアルセウスよ!」

「ッ!? ドクターマルス!」

 突然ランニングをしているとまるで狙ったかのように突然正面に現れて、道を塞ぐ一人と一匹と一機。
 すなわち、ドクターマルスとポリゴン2、そしてアリサだ。

 トモエは足を止めると荒い呼吸を整える間も無くキッとドクターマルスを睨みつけた。
 なんだなんだと野次馬もその場に集まりだし、気がつけば周囲は人ごみで埋まる。
 もう何度か繰り返されたトモエとドクターマルスの戦いは、すでにアークスの住民達にはいつものことになっていた。
 多少荒っぽく、場合によっては命の危険にさらされることもあるというのに集まるのは、この街の住民のずぶとさだろう。
 今日も今日とて、毎度馬鹿馬鹿しいなにかをやってくれるのかと、薄い期待を抱いて住民達はこの戦いを観戦するのだ。

「ふっふっふ、今日こそ因縁つけたらぁぁである!! 覚悟はいいか!? 我が永遠のライバルトモエよ!!」

「はっ! そっちこそ本当にいいのか!? どうせいつものように吹き飛ばされるのがオチだぜ!?」

 トモエには何の不安も無ければ何の恐怖も無い、すでにドクターとは何度も戦った結果、ある種のお約束が出来たせいだろうか?
 だがドクターもふてぶてしくもいつもこうやってトモエの前に現れる。
 ことこのドクターに関して言えばどこまでがダークプリズンの仕事でどこまで私怨なのかさっぱりわからないが、おおよそ今回の件に関して言えば私怨だといえるだろう。

「ふ、この私ドクターマルスが何ゆえに大天才と言われるか、それは即ち、あ、昨日の失敗は今日の成功につなげられるからであーる!」

「……トモエよ、敵を支援するわけではないが確かにドクターは戦うたびに強くなる、気をつけろ」

 長い首をゆっくり下ろしてアルはトモエに注意を促す。
 トモエはゆっくりと頷くと、ギュッと拳を握り締めた。

 ドクターとの戦いは言葉で言うほど決して簡単ではない。
 アリサの力は強大だし、ポリゴン2の実力も日進月歩で上がっていく。
 だからこそトモエたちもトレーニングを怠らない。
 それは十分にドクターたちの実力を評価しているからだ。

「ふふふ、アリサよ。我々がすでに以前我々でないということを見せてやるである!」

「……」

 隣に佇む静かな少女、あのドクターマルスの最高傑作である機械乙女アリサにドクターは言葉をかけるがアリサは何の反応も示さなかった。
 ふと、トモエに違和感が走る。
 最初は気にしなかったが今ははっきりと違和感を感じている。

(アリサの奴……こんな物静かだったか?)

 トモエの記憶にある機械少女は騒がしく活発で、恋に憧れる感情豊かな少女だったはず。
 ところが今目の前にいる少女は、普段とは違いまるで気絶しているかのように反応を示さないのだ。
 それにはさすがにドクターマルスにも戸惑いが産まれた。

「アリサ? おーい……聞こえているあるか〜?」

「ッ!? あ、は、はいですます! ママ、どうしたんでありますです!?」

 突然だった。機械少女はまるでそれまで気絶していたような様子から一変突然目を覚ましたかのように背筋を伸ばしてなにやら状況を把握していないようにその場をキョロキョロとした。

(ロボットが気絶? そんなことあるのか……て、ドクターの作ったロボットだしありえそうだよなぁ)

 なにせ、あの『大天才』の創ったロボットだ。
 すでに散々アリサには驚かされているトモエとしては、この程度のことありえることなのかと変なところで納得してしまう。

「アリサ、しっかりしてくれである。それとママではなくマスターというように!」

「も、申し訳ないでありますです! マスター!」

「……まぁいい、それじゃ覚悟!」

 ドクターが構えた、そしてそれより少し早くトモエたちが構えた。
 ドクターがいつものようにモンスターボールを取り出す。
 どうせ中に入っているのは十中八九ポケモンではありえまい。

 その予想は的中であり、ボールから出てきたは女性には明らかに大きいであろうバズーカ砲だ。

「まずはこのトリモチ弾をくらうであーーる!!」

 バズーカは火を噴いた。
 だが今回は硝煙の臭いがしない、一瞬トモエの頭が早く計算を始めた。
 トリモチ弾?
 すると、今回出てきた弾は白い何かであることに気づく。

「ッ! アル!」

「わかっている! 茶チビ!」

「ブイッ!」

 トモエは瞬時にその場から飛び退いた。
 タルタロスもアルセウスの体にしがみつくと、一斉にその場から飛び退いたのだ。
 直後その場にまるでくもの糸のような粘着性を持つ白い塊が地面に着弾する。
 トリモチ弾……文字通り巨大なトリモチだ、うかつに触ってしまえばその強靭な粘着性にやられて身動きが取れなくなるところだったろう。
 だが当たらなければただのモチ、邪魔ではあるが苦にはならない。

「ヘッ! ドクターこれがアンタの――ッ!?」

 刹那……トリモチの回避の刹那目の前に閃光が走った。
 とっさに力を引き出し、『世界の見え方が変わった』時、その目に移ったのは電光石火の動きでトモエの隙を狙ってきたアリサだった。
 アリサの右手に持たれたマグナム銃をトンファー代わりにしてトモエの頭部を狙ってきたのだ。
 回避は……不可能だった。
 マグナム銃の砲身がトモエの頭部を捉え、触れた。
 このままなら一瞬でトモエの頭はミンチになり、その場周辺に赤い肉片や脳漿をばら撒くことになるだろう。
 だがただで喰らうほどトモエも甘くは無い。
 当たると同時にトモエはすぐさま衝撃から逃れるように自分で吹っ飛んだ。

 アスファルトを転がるトモエの姿は派手に打たれたようにはたからは見える。
 だが、実際には衝撃が突き抜ける前に抜けたのだから大したダメージはない。

「く……このぉっ!」

 すぐさま受身を取ったトモエが正面を見定めた時、その場に少女の姿は無い。
 一瞬、トモエを影が覆った。
 速すぎる……見てから反応するのは難しい、だからトモエはそれを目視で確認はしない。
 風の流れを読み、気配を察知して、わずかに体をずらし、殺気の元を回避した。

 回避と同時に一瞬遅れてアスファルトの地面が穿たれる。
 アリサの踵落としがアスファルトの地面を抉ったのだ。

「ふははははははっ! どうした苦戦しているではないかトモエよ!!」

「ちぃ! トモエーーッ!」

 この間はまだ30秒も経っていないだろう、たった数回の駆け引き、だがそのどれにも致命傷に繋がる危険な綱渡りが含まれている。
 すぐさまアルセウスもトモエを助けに行きたかったがそう言うわけにも行かなかった。

「ポリーーッ!」

「くっ!?」

 おなじみの戦術ではあるが、自身に背景に溶け込むテクスチャーを張ったポリゴン2ことむてきんぐの迷彩に加え、すきあらば放たれる『トライアタック』に迂闊な動きができない。
 強引に突破してもいいが、むてきんぐには『でんじほう』もあるし、『トライアタック』の副作用を貰うのもまずく、迂闊に動くことも出来ないのだ。

「なめんなよドクター!」

「ハァァァァッ!」

 三合目、トモエとアリサが交錯する。
 互いに狙ったのは相手を一撃で吹き飛ばすハイキック、まるで鏡に写したように両者のモーションは似ている。

(ちっ!? アリサの方がやはり速いか!?)

 トモエの狙いはただのハイキックではないが、一瞬にしてアリサのスピードを体感し、苦虫を潰したような顔をした。
 このままぶつかれば先に当たるのはトモエであり、この一撃を受ければ体の骨は粉々になり、痛みと共に絶命するだろう。
 だからトモエは駆け引きを込めた。トモエのハイキックは実はフェイクであり、彼の狙いはローキック。
 当たる瞬間に軌道を変え、相手の体勢を崩すのが狙いだ。
 だが、不意にアリサに異変が起きる。

「ッ!?」

 なんとアリサの体が一瞬止まったのだ。
 一瞬トモエも戸惑った、だが自身の体は止まらない。
 ままよと放った一撃は一瞬無防備になったアリサの体に叩き込まれる。
 アリサの体はまるでダンプカーに跳ねられたかのように吹き飛んだ。
 マネキンの如く地面を1回2回と跳ねて転がり、三回目のところでなんとか四肢を踏ん張って止まる。

 10メートルほど離れたドクターの真横まで押し戻せた。

「だ、大丈夫であるかアリサよーーっ!?」

 気が気でないのはドクターマルスであった。
 トモエの本気の一撃を受けてもやられるほどやわらかくはないが、それでもドクターには我が子のように愛しいアリサが心配で心配で仕方が無い。
 一瞬止まったと言う現実、それはドクターには当然わからない速度の世界だが、トモエはまたもや違和感を感じた。

 そして……その違和感はいよいよもって表面へと浮き出ようとしている。

「……ロト」

「ろと?」

 突然顔を俯かしたアリサが不思議な言葉をこぼした。
 思わず復唱するようにドクターが首をかしげて同じことを言う。

「ロットーーーーー! ロボボボボッ!」

「!?!?!?!?!?!?!」

 それはあまりに突然だった。
 今までに無いくらい大きな声で奇声をあげたアリサはまるでゴリラのようにドラミングを始めた。
 それに驚いたのはとなりにいたドクターマルスだけではない。
 トモエたちも、それを観戦していた住民達も一斉に驚いた。

 とりわけ、ドクターはいきなりのことに思わず尻餅をつき、顔を蒼くしてワナワナ震えていた。

「あ、あの……アリサ……さん?」

 思わず敬語になるドクターマルス。
 状況が飲み込めないのはどうやらその場にいる全員のようだ。

「ロッ! ロッロロロ〜!」

 突然、アリサはその場で奇妙なダンスをすると、キラリとトモエに目を向けた。
 ゴクリ……とトモエの喉仏が鳴る。
 なにか良くわからない不思議な気配には恐怖は感じないが、安心もない。
 それは戸惑い、だがすぐに恐怖へと変貌するだろう。

「ロボッ!」

「! トモエ!」

 アルが叫んだ。突然アリサがトモエに飛び込んできたのだ。
 拳をグーにして飛び掛るアリサ、だがその動きは先ほどに反してあまりに雑だった。
 距離が離れていたこともあり、トモエはアリサのパンチを軽々回避する。

「あ、あんだぁっ!?」

 それは、あまりに繊細さに欠ける。
 先ほどまでまるで芸術かとおもえるほど、隙の全く無い苦しい攻撃を仕掛けてきた少女とは思えないほどあまりに隙だらけで雑な攻撃を行ってくるのだ。

 トモエの目の前に着地したアリサはすぐさまパンチキックをなんの法則もなく無軌道にトモエに放った。
 スピードはあるが雑で回避もたやすく、トモエはそれを捌いていく。

「ロロロロロロロロッ!!」

 だが、いかに雑な攻撃でも息つく間もなく放たれれば厄介だ。
 なぜ突然攻撃が雑になったのか謎ではあったが、トモエはその攻撃を嫌がりアリサの腹部に蹴りを入れてアリサを引き剥がした。

「ど、どうしたんである、アリサよ! そのような戦い方を教えた覚えは!」

「ロボッ?」

 突然アリサは首をかしげた。
 何故自分の攻撃が突然通用しなくなったのか不思議がっているように首をかしげたのだ。
 ふと、腰に収められたマグナム銃が目に入ったアリサは不用意にその引き金に指をあわせた。

 銃は脅威ではあるが、放たれた弾丸を見切ることはトモエには難しくない。
 まして、今距離は8メートルほど離れている。

 アリサが銃を抜いたことで巻き添えはごめんだと、砲身の向く先にいた住民達は一斉に離れる。

「そんな距離からじゃあた――」

「ロトッ!」

 ……一瞬アリサの体を伝い、マグナム銃に電気が走ったように見えた。
 次の瞬間放たれた弾は、トモエにあたることは無くその横を掠めていった。

 ただし、トモエの反応を全くゆるさずにだ。
 その銃弾から放たれた衝撃波は凄まじく、弾の通った側のショーウインドウのガラスが軒並み衝撃波で粉々に割れてしまった。
 後から遅れたように突風がその場に巻き起こる。

「…………は?」

 トモエは口をポカンとあけて、さきほどの光景を思い出した。
 一体なんだったのだ今のは?
 ドクターの開発した新しい武器か?
 少なくとも以前までは見えた弾丸が今回はまるで見えなかった。
 いや、それ以前攻撃力がまったく違う、ソニックブームが発生するほどの弾速。
 弾がトモエの横を通り過ぎた時、まるで轟音のような音が耳を突き刺した。

「な、なんなんだアレは!? ドクター、貴様あんな物をいつのまに!?」

 これには超常現象の塊であるアルセウスでさえ驚いた。
 あまりの事態にタルタロスやむてきんぐでさえ唖然として、戦いを止めている。

「……し、しらないあるよ、あ、あんな機能はついていないはずである!」

「ロト?」

 アリサは銃に顔を近づけると不思議そうに眺めていた。
 今のアリサは一体何を考えているのか?
 少なくともあまりの異常事態の連続にトモエもドクターもすでに戦う意思を失っていた。

 普段から命の危険にさらされるアークスの住民達はなお鼻が効くらしく、これはまずいと一斉に蜘蛛の子を散らすようにその場から去っていった。

「ど、どうしたってんだよ……アリサ?」

「ッ! ロボーーン!」

 突然アリサは飛び上がった。
 近くの屋根に乗ると瞬く間に屋根から屋根へと飛び移り遠くへ離れていく。
 ドクターとポリゴン2を置いてけぼりにして。

「……て、アリサーーー!? この私を置いて君はどこへ行くと言うーーっ!?」

「ポ、ポリーーッ!」

 一瞬、我を忘れるドクターマルスとポリゴン2であったが、事態を把握した途端、慌ててアリサを追いかけるのだった。
 その場に取り残されたトモエたちは呆然とするしかなかった。

「なぁ……契約者、追いかけるべきなのか?」

 いまいち、未だに事態を把握しきれないアルセウスは思わずトモエに聞いた。

「さぁ?」

 しかし、それはかとなくトモエにも困る。
 思わず首を傾げてしまった。

「ぶ〜い〜?」

 タルタロスもまた、トモエをまねるように首をかしげた。

(それにしても突然どうしたんだアリサの奴……暴走……なのか?)

 トモエは不意にアリサが心配になる。
 元々トモエもアリサは嫌いではない。
 だからこそ心配してしまうのだろう。

 だが、トモエはそれ以上に気になることがあった。

(あの弾丸……放つ前にアリサの体から電気が走ったように見えた……あれがレールガンってやつなのか?)

 だが、あんな機能はドクターも把握してはいなかったようだ。
 今までの戦いから考えても恐らく放電する機能なんてアリサにはないだろう。
 だからこそ、ドクターたちも戸惑った。

「まるで人が変わったようだったな……機械娘め、良くわからんやつだ」

「人が変わった……?」

 言われてみればたしかにアレはまるで別人だった。
 いや、人というイメージを受けないむしろあれは動物みたいだった。
 ふと……トモエの頭に何かが引っかかる。

 だが、何か答えが出てこない。
 気になり、必死に思い出そうとするが中々出てこず、仕方なくトモエは。

「……アリサを追いかけようと、気になる」

「……ふむ、わかった」

「ブイ!」

 トモエとタルタロスはアルセウスの背中に乗ると、すぐさま駆けた。
 しかしアリサが去った方角へと向かうとその状況の酷さを垣間見ることになるのだった。





「ジグザグマしっかりしろ!」

「あたしのマリルリがー!」


「……どういうことだこれは?」

 トモエたちは少し離れた地区へと入るとその事態に愕然とする。
 道の先々に戦闘不能で倒れているぼろぼろのポケモンたちがトレーナーに抱えられているのだ。
 トモエはアルセウスから降りると、すぐ近くのトレーナーに何があったのか聞いた。

「一体何があったんだ?」

「よくわからないけど、変な少女が現ると、ポケモンに襲い掛かってきたんだ! 滅茶苦茶強くて皆こんな有様だよ」

「人に被害は?」

「え? それはないけど?」

(トレーナーのポケモンだけを狙ったのか? アリサのやつ……)

 トモエはその惨状の端に目をやった時被害を受けた者、被害を受けなかった者の違いに気づく。

(怯えているニャース……野生のポケモンか、他にも)

 よく観察してみると被害を受けたのはトレーナーの持つポケモンだけで、野生のポケモンは被害を受けていない。
 もちろんトレーナーも被害を受けていないということに気づく。

「アンタ、早くそのジグザグマをポケモンセンターに連れて行ってやりな!」

 俺は話を聞いてくれた人にそう言うと、すぐさまアリサを追いかけた。
 俺の勘が囁いている、この事態何か別の何かが動いていると。





「はぁ……はぁ……アリサァァ……一体どうしたんであるか?」

「ポリリ〜」

 やがて、追いかけていくとようやくアリサに追いつく。
 そこには先に到着したドクターたちの姿があった。

「大丈夫か、ドクター?」

「!? お前はトモエ!? どうしてここに!?」

「気になってきたんだよ」

 明らかに息を切らすドクター、体力不足がみえみえだな。
 だが、ドクターのことはどうでもいい、むしろアリサ……いや。

『アリサの中にいる奴』に用がある。

「ロトーーーッ!」

「お、落ち着くであるアリサよ! い、一体全体どうしたんであーーるっ!?!?」

「ロボボボボボッボボボボボ!!!」

「ええいっ! あの機械娘どうしたというのだ!?」

「どうしたもこうしたもない……俺の考えているとおりなら恐らく」

「!? 契約者よ!? 何か気づいたのか!?」

「確信じゃねぇけどな」

 頭の中に引っかかり続ける感覚。
 先ほどの惨事の共通性から薄っすらと答えが出てきた。

「トモエよ……お前一体何を知っているであるか?」

「ポケモンバトルだ、アルセウス、本気で行くぞ?」

「ポケモンバトル? 誰と?」

 トモエは顎でアリサを指す。
 未だ理解できていないアルセウスは戸惑うがタルタロスを降ろしてアリサと対峙した。

「ブイーー!」

「タルタロスはそこで見ていること、これはポケモンバトルだからな」

「ぶい〜?」

 タルタロスは自分もとばかりに前に出るが、トモエはそれを制する。
 まだこの戦いはタルタロスに危険なこともあるし、だがそれ以上にトモエは確信が出来つつあった。

「バトルしたいんだろ? だからトレーナーばかり襲った」

「ロボ? ロッボボ〜ッ!」

 アリサはバトルと聞くと突然やる気になる。
 また不思議なダンスを踊ると、静かに構えた。

「な、何をするであーる! ポケモンバトルなどと訳のわからないことを言って! ハッ!? まさかこの機に乗じてアリサを破壊する気!?」

「心配すんな、大丈夫さ」

 多分ね、と心の中で継ぎ足すトモエ、ドクターマルスは不安そうに後ろからトモエの背中を除いた。

「アルセウス、『スピードスター』!」

「ハァァァッ!!」

 トモエの号令と同時にアルセウスの頭頂部からエネルギーが放出される。
 大量にばら撒かれる『スピードスター』の弾幕、アリサはすぐさまその場から離れて避けようとすると『スピードスター』はそれを追う。
 避けられない、そう感じたアリサはそれを打ち落とす方法を取ってきた。

 突然アリサの体から全方位に向けて大量の電気が放出された。
 ビルのガラスを割り、『スピードスター』は電気の膜を突破できず拡散していく。

「な、なんだアレは!?」

「ただの『ほうでん』だ! 『サイコキネシス』!」

「くっ! くらえっ!」

 未だ事態のわからないアルセウスではあったが、トモエの命令を聞いて体内にふしぎプレートを取り込み、『サイコキネシス』を放つ。
 空中で身動きの取れないアリサはすぐさま『サイコキネシス』の呪縛に捉えられる。

「! !? ロットー!」

 空中で動きを封じられて身動きの取れないアリサは突然黒い球体をアルセウスに放ってくる。
 咄嗟のことに直撃してしまったアルセウスは怯み、アリサは『サイコキネシス』の呪縛から逃れてしまった。

「な、なんだ今のは?」

「『シャドーボール』、効果抜群の時を突かれちまったか」

「『シャドーボール』だと……?」

 アルセウスはそれほどダメージを受けてはいない、どうやらそこまで攻撃力が高いわけではないようだ。
 だが、これで確信が取れた。
 そうか……こいつは、間違いなく!

「ロトム! なんだってアリサに取り付いたか知らないが、その体から引っぺがさせてもらうぜ!」

「ロトム!? あれはポケモンなのか!?」

 驚いたのはアルセウスだった。
 どうやらアルセウスもついに今まで気づかなかったようだったな。
 トモエも見るのは初めてだけに中々確証は持てなかった。
 だがロトムは電気の体で家電製品など機械の体に乗り込み、操る能力がある。
 たまたま乗り込んだのアリサだったようだが、『ほうでん』、そして『シャドーボール』から判明した。

「さしずめロボットフォルム、タイプは電気鋼で特性は『ふゆう』ってところか?」

「そうすると弱点は炎と格闘だけか?」

「まぁそうなるな」

 冷静に相手のスペックを考察するトモエとアルセウス。
 意外と出してみるとかなりの強豪な気がしてならない。
 フォルムチェンジしたロトム特有の特性は『ふゆう』、だとすると電気と鋼の弱点で4倍の地面が消えて、電気は弱点は地面だけだから残る弱点は鋼の炎と格闘2倍だけか。
 逆に耐性無効2つ含む14個。

「等倍水だけかよ、ナットレイ並に耐性だらけじゃねぇか」

 さすがにトモエも苦笑する。
 どうやら今の現状ではしずくプレートの状態でないと等倍ダメージは狙えないらしい、が水になると向こう電気確定なので冗談ではすまない。
 最も先ほどのダメージからしてもレベル差があるので問題なさそうだが。

(空のモンスターボールは……よし)

 トモエは腰に常備している空のボールを確認する。
 このバトルでトモエは、ロトムをゲットする気なのだ。

(放置するとまた問題起こしそうだからな、ゲットしておいた方が安全だろう)

「ロットー!」

 アリサの体を乗っ取ったロトムは再び『シャドーボール』を形成、それをアルセウスに放った。
 だが、わかってしまえば敵ではない。

「『しんそく』!」

 トモエの命令と同時にプレートを外に出してノーマルタイプになったアルセウスはアリサに突っ込んだ。
 途中『シャドーボール』が襲い掛かるがすでにノーマルタイプとなったアルセウスには無効、そのままアリサは体当たりを受ける。
 驚いた表情をするのも束の間、アリサの体はビルの壁面に激突する。

 後ろからドクターの悲鳴が聞こえるが、すぐに静かになった。
 恐らく気絶したと思われる。

「ロ……ロト」

 アリサの体を乗っ取っている以上アリサが受けたダメージはロトムにダイレクトに響く。
 ましてアリサ自身と違い、ロトムは痛みをより如実に感じるだろう。
 痛みで怯まないアリサと違い、ロトムはひるむ、それに戦い方も素人だ。
 わかってしまえば……敵ではない。

「ロットーーーッ!」

 突然、ロトムが叫んだ。
 すると、アリサの体から小さな霊魂のような物が飛び出てくる。
 プラズマポケモンのロトムだ!
 トモエはその瞬間を待っていたとばかりに空のモンスターボールを手に取った。
 だが、一瞬その後に驚いたことがこの先を分かつこととなる。

「!? あれはプレート!? 『いかずちプレート』!?」

 アルセウスが叫んだ。
 そう、ロトムが持っていたのはロトムサイズまで縮んでいるがたしかにいかずちプレートだった。

「こんな近くにあったのか!? そうか、機械娘の中にあったから気配が外に漏れなかったのか!」

「ロトッ!」

「ッ!? しまっ!?」

 一瞬、そうほんの一瞬の戸惑い。
 プレートを確認したことに戸惑った瞬間、ロトムは一目散に逃げ出したのだ。
 ボールを投げるのが間に合わなかった。

 だが……直後、いいか悪いかは別として奴は……ロトムは戻ってくることとなる。


 ズシィィン……ズシィィン……と大地を踏みしめ、アークスシティを揺らして。

「おい……この懐かしい音は」

「ロトムのやつ……とんでもないのに憑依したらしいな」

 アークスシティでこれだけの地響きを鳴らす存在はそうは無い。
 どうやらロトムはリターンマッチを望んでいるらしい。

『ロットトーーーーーーッ!!!!!!!』

 大音量スピーカーから響くロトムの盛大な鳴き声。
 昼間にも関わらず突如出現したダークプリズンの巨大ロボットは街の中央で暴れ周り、周囲を火の海にしてこちらに迫ってくる。

「おい、ドクター起きろ!」

 トモエはすぐさまドクターマルスをひっぱたいて起す。
 うーんと寝ぼけ眼のドクターはトモエの顔がすぐ近くにあることにも驚いたが、それ以上に。

「ここは……トモエ!? て……私のスパロボがナゼーーッ!?」

 すでに背後まで迫るロトムに乗っ取られた巨大ロボット。

「ドクター、そこに倒れているアリサをつれて急いで逃げろ!」

「わ、わかったであーる! む、むてきんぐよ! 退散である!」

「ポリ!」

 ドクターは逃げる準備を終えるとすぐさまその場から離れた。
 そして対峙する、トモエたちとロトム。

「ロトムのいうのは凄いな……あんな巨大な物すら乗っ取り操るのか」

「いや、恐らく無理だ、いかずちプレートを得たことで力が強化され、アリサやこの巨大ロボットをのっとれるようになったんだろう」

 ニュースでもこんな巨大な物を操るロトムは聞いたことがない。
 これをコントロールしうるのはいかずちプレートのためか。

「ふ……だが、ロトムも知るまいな、恐らく本人は自身が考えうる最高の乗り物に乗ったはずだ」

「ああ……だが、己には……いや、己たちには無意味だ」

「ああ……いくぞアル!」

 トモエたちに恐怖はない。
 いや、あろうはずが無い。
 これが初めてならば恐怖も会ったろう。
 だが……それはすでに倒した相手、そしてそれが以下に無意味かロトムは知ることとなる。

「アル! 『さばきのつぶて』!!」

「くらえーーーーっ!!!!」

 アルの体が金色に光る。
 その莫大なエネルギーが一点に集中する、その場所は頭頂部。
 アルの全身全霊のエネルギーの込められたそれは一気に上空に放たれた。

 空気を切り裂き、天高く放たれたエネルギー体は上空で拡散、そして文字通り裁きの礫を化してまるで流星群となって巨大ロボットに襲い掛かるのだ。
 一つ一つが凶悪な一撃、ロボットはあっというまに穴だらけにされ、その場に倒れこむのだ。

「さてと……」

 そして、トモエはモンスターボールを手に構える。
 ロトムが慌てて逃げるためロボットから抜け出した、その隙を狙い。

「いけ! モンスターボール!!」

「ロトッ!?」

「いかずちプレートも返してもらう!」

 トモエのモンスターボールとアルセウスが同時に飛び出した。
 アルセウスはロトムからいかずちプレートを奪い返すとそれを体内に取り込み、電気タイプとなる。
 そしてモンスターボールはロトムに当たり、ロトムの体はボールの中に取り込まれるのだった。

「ロトム……ゲットだぜ!」

 トモエはゲットが完了したボールを手に取るとロトムの入ったモンスターボールを天高く掲げる。

「ロトム、でてこい」

「ロト?」

 トモエはロトムをゲットすると早速ロトムを外に出す。
 トモエは屈みこむと優しい声で。

「お前はポケモンバトルがしたかったんだよな? でも、やっていいことと悪いことがあるんだぞ?」

「ロト……」

「俺と一緒にこい、ロトム……お前の名前は、ロキ!」

 トモエは手を差し出す。
 ロトムは不思議そうにトモエの顔と手を交互に見比べた。

 やがて、ロトムが笑顔を浮かべる。
 だが、直後邪悪な微笑を浮かべて!

「ロットーーッ!」

「あばばばばばばっ!?」

 なんと、ロトムが突然、『ほうでん』をしてトモエをしびれさせるのだった。
 まんまと引っかかったと言わんばかりに上機嫌にロトムはトモエの上を浮遊する。

「……どうやら、相当のイタズラ者のようだな」

「ブーイィィ」

 その様を見たアルとタルタロスは、これから決して平穏ではすまないだろうなという雰囲気を感じ取るにはたやすいだろう。

 ファンファンファン―――!

 やがて、警察のサイレンが近づいてくる。
 ハッと起き上がったトモエは自分の体の埃を払うと。

「警察が来ると面倒だ、行くぞアル、タルタロス、ロキ!」

「おう」
「ブイーッ!」
「ロットーッ!」



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