閃光のALICE




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第2話 『閃光のALICE』





智樹 「風呂、上がったか?」

アリス 「…ん」

俺はアリスを風呂に入れると新しい服を置いておいた。
といっても女物は当然持っていないので俺の服ということになるのだが。
下着もないので本人には悪いが…。

ガララ…。

アリス 「……」

智樹 「よし、ちゃんと新しい服も着たな」

アリス 「ちょっと大きい…」

智樹 「お前の着ていたロープも十分でかかっただろうが」

あれはどう考えても男用だった。
それならば俺のでも問題ないだろう…。

智樹 「とりあえず寝る場所に案内するからついてきて」

俺はそう言って二階に案内する。
空き部屋がふたつあるからな。
布団さえ持っていけば寝る場所はOKだ。

智樹 「とりあえずここが寝場所ね」

俺は自分の部屋の隣にアリスを案内する。
布団はすでに用意してある。

アリス 「……」

アリスはゆっくり部屋に入ると部屋の中を見渡す。
気に入ってくれたか?

智樹 「じゃ、俺は自分の部屋で寝てるから」
智樹 「なにかあったら呼んでくれよ?」

俺はそう言うと自分の部屋に入る。
時間は午後10時。
少し早いが今日は寝ることにする。



…………。



智樹 「グググ…」(眠)

ガタン!

智樹 「ん…?」

突然、なにか大きい音が部屋の外から聞こえた。
賊でも入ったか?
て、そういえば今日はアリスがいたっけ。
ああ…だったら大丈夫か…。

智樹 「ググ…」

ガタン!
ゴト、ガタ!

智樹 「…何やっているんだアリスの奴?」

音はひっきりなしに聞こえる。
時間は何時?
え? 12時?
こんな真夜中に何やっているんだ?


智樹 「一階からか…」

部屋を出ると音は下から聞こえていた。
どうやら発音源はリビングのようだな。

智樹 「たく…やれやれ」

俺はしぶしぶリビングに向かうのだった。



…………。



アリス 「……」

ガタ、ガタン!

智樹 「…何探しているんだ?」

一階に降りるとアリスは何やらリビングで何かを探しているようだった。
電気くらいつけろよ…。

パチン!

アリス 「…ん?」

俺は手元付近のスイッチを押して電気をつける。
アリスはそれに気付き俺のいる入り口の方を向く。

智樹 「何探しているんだ?」

アリス 「…水」

智樹 「水?」

アリス 「…喉渇いた」

智樹 「ああ…」

俺はそれを聞くと台所に向かう。
水道の蛇口を開くと、水をコップに注ぐのだった。

智樹 「ほら」

俺は水の入ったコップをアリスに渡す。

アリス 「ングング…」

アリスは水を受け取ると一気に飲み干す。
そういや、食事の時も飲み物出していなかったな。
スープは飲んだろうが、あれはあれで更に喉を乾かすからな。

智樹 「困った時は俺を呼べ」

アリス 「ん…そうする」

俺はそう言うとふたたび寝るため自分の部屋に戻るのだった。



…………。
………。
……。



智樹 「……」(眠)

トントン。

智樹 「…?」

トントン。

突然扉をノックする音。
一番端の部屋だな。
ちなみにアリスの部屋が真ん中で一番階段に近い。
そのとなりの玄関側に俺の部屋があり、アリスの部屋の向かい側の奥側にもうひとつ部屋がある。
アリスの奴…そこの扉を叩いているようだ。


智樹 「…部屋が違うぞアリス」

アリス 「……」
アリス 「…間違えた」

アリスは何を思ったか誰もいないもうひとつの部屋をノックしていたのだ。
そこをノックしても誰も出てこないぞ…。

智樹 「で、今度はどうした?」

アリス 「用を足したい…」

智樹 「ああ、トイレな…」
智樹 「だったら一階に…て、連れて行ったほうがいいな」

もし教えただけだったらどこがトイレかわからない可能性がある。
連れて行ったほうがいいだろう。

智樹 「こっちな」

俺はアリスをトイレに連れて行くとやっとまた眠りにつくのだった。
時間はすでに2時になっていた。



…………。
………。
……。



ピピピ!
ピピピピ、ピピピピ!

智樹 「…ググ」(眠)

アリス 「……」

ゆさゆさ、ゆさゆさ。

智樹 「んぐあ?」

なんだか体が揺れている…。
じ、地雷震だお〜…。

アリス 「なにか鳴ってる…いいのか、智樹?」

智樹 「あと10分〜」

アリス 「…わかった」

それっきり揺れは収まった。
ただいまの震度俺3、津波の心配ありませーん。

ピピピ!
ピピピピピ!

智樹 「うるさいー…」

ガタン!

俺は時計を止める。
ん? 時計…?

智樹 「……」

俺は急に眠気が覚める。
もしかしてとんでもない事態に…?

智樹 「時間…8時25分?」
智樹 「8時25分ですとー!?」

あと10分でホームルームではないか!?
なんで熟睡しているんだよ俺!!?

智樹 「う、うわ!? 急いで着替えないと!」

アリス 「智樹、大丈夫か?」

智樹 「大丈夫なわけ無いだろ! ていうかなんで俺の部屋にいるんだよ!?」

アリス 「さっきからそれがうるさかったから…」

智樹 「とっとと起こせよ!」

アリス 「もう少しとか、あと10分とか言ってた」

智樹 「マジすか…?」

アリス 「ん…」

どうやら俺は相当寝ぼけていたらしい。
全然記憶に無い。
ていうか、こんなことやってる場合じゃない!

智樹 「き、着替えるから部屋を出て!」

アリス 「? どうして?」

智樹 「着替えるからだっつーの!」

俺はそう言うとアリスを部屋の外に追い出して急いで制服に着替えた。



…………。



智樹 「げっ!? もう30分!? 朝飯食う暇もねぇ!?」

着替えてリビングに行くと時間はすでに8時30分だった。
ここから学校まで30分はかかるっつーの!

智樹 「い、行ってきます!」

俺は急いで家を出るのだった。



智樹 「くそ! 目の前に学校はあるのになんでこんなに遠いんだ!?」

理由は簡単。
直進できないからだ。
目の前に学校がありながら大きく蛇行しながら向かわないといけない。
なんてイヤらしい街づくりだ!

アリス 「あの建物に向かっているのか?」

智樹 「アリス? ついてきたのか?」

アリス 「ん…」

アリスはそう言うと首を縦に振る。

智樹 「そうだよ…もう間に合わないがな…」

アリス 「どうしてだ?」

智樹 「時間が無いからだ、空でも飛べたら別かもしれないけどな」

アリス 「…空が飛べたら間に合うのか?」

智樹 「そりゃ、直進できるからな」

空さえ飛べれば道を蛇行する必要なんて無い。
まっすぐ学校に向かえばそれですむ。
まぁ、世の中そんなに上手くいかないから俺はもう諦めてるんだけどな…。

アリス 「そうか、わかった…」

智樹 「ん? なにが…て、おお!?」

アリスは何を思ったか突然俺を抱えだす。
ていうか、その細腕のどこに56キロの俺を抱える力が!?

アリス 「…!」

ヒュン!!

智樹 「って、ええ!!?」

突然、目の前が真っ白になったような感覚に陥った。
そして、気がつくと知らない場所に。

智樹 「こ、ここどこ?」

アリス 「ここに来たいんじゃなかったのか?」

智樹 「ま、まさか…」

俺はもしやと思って周りを見渡すと確信する。
ここは…学校の屋上だ。

智樹 「あ、アリス…何したの?」

アリス 「……」

しかし、アリスは何も答えてくれない。
ひ、秘密ですか…?

智樹 (空でも飛べたら…か…)

まさか、本当に飛んできた?
この娘、人間ですか!?

智樹 「て、時間ないんだった!」
智樹 「アリス! あ、ありがと!」

アリス 「ん…」

俺は礼を言うと急いで下駄箱を目指すのだった。
畜生! 結局間に合わないんじゃないのか!?



…………。



キーンコーンカーンコーン。


智樹 「ギリギリセーフ!!」

俺はチャイムが鳴ると同時に自分の教室に入った。
幸い、まだ担任は来ておらず、チャイムの後だったがセーフだ。
うちの担任は何故かいつもチャイムから少し遅れる。
まさか、またこんな時間に登校する羽目になるとはな。

蛍 「あ、おはよう、唐沢君」

智樹 「おはよう霧島」

今日も律儀にそう挨拶してくれる霧島。
だた、今日はこっちの状況が違う。
わけがわからんが何故か間に合った。
でも、できれば正門前に送ってほしかったな…アリス。

成明 「なんだ、二日連続ではないか、めずらしい」

智樹 「そういう時もある」

この台詞、昨日も言ったな…。

成明 「ふ、女と寝て遅れたんじゃないのか?」

蛍 「えっ!?」

智樹 「んなわけあるかー!!」

俺は力一杯否定する。
アリスが居たのは確かだが一緒に寝てはいない!

成明 「ふっ、怪しいところだな」
成明 「まぁ、お前も男だ、ひとつふたつ隠し事もあるだろう」

智樹 「たく! 俺はもう席に戻るぞ?」

成明 「ふむ、熊谷もそろそろ来るしな」

成明はそう言うと自分の席に戻った。

蛍 「……」

智樹 「どうした霧島?」

蛍 「え!? な、なに…?」

智樹 「顔赤いぞ? 風邪か?」

蛍 「ち、違うよ! あ、先生来た、じゃあまた後でね唐沢君!」

蛍はそう言うと慌てて自分の席に戻った。
その様子たるやどうみてもぎこちない。
なんで動揺してるんだよ…。

熊谷 「あ〜、お前ら席に座れ!」

智樹 「と、いけね」

俺も急いで席に戻るのだった。
ふぅ、なんとか無遅刻無欠席記録は守ったな。



…………。



キーンコーンカーンコーン。

先生 「じゃあ、今日はここまで」

智樹 「ふぅ…腹減った…」

4限目終了…これでやっと昼休みだ。

成明 「ふ、どうした智樹よ…腹減りで死にそうな顔しおって」

智樹 「腹、減ってんだよ…」

蛍 「どうしたの? 朝ごはん食べなかったの?」

智樹 「食べられなかったの…」

成明 「ふ、やはり女と…」

智樹 「くどい!!」

蛍 「……」

智樹 「そして、霧島は戸惑うな!」

いちいち霧島も顔を赤くしないで欲しい。

智樹 「はぁ…パン買ってくるか…」

成明 「ふ、不便だな…弁当ならばいちいち購買まで行かなくてもいいだろうに」

智樹 「うるさい、そっちの方が面倒だろ」

蛍 「だったら、よかったら私が作ってきてあげようか?」

智樹 「マジ!? でも霧島に悪いぞ?」

成明 「ふ、迷惑と思って自分から言うやつはいないぞ智樹よ」

蛍 「う、うん…それにお弁当を作るのに一つも二つも変わらないし」

智樹 「でも、やっぱいいよ、なんか霧島に悪い」

蛍 「わ、私は別に…」

成明 (ふ、霧島よ…智樹はお前に脈なしのようだな…)

智樹 「成明、何か言ったか?」

成明 「ああ…鈍感なんだなってな」

智樹 「はぁ?」

蛍 「……」

成明 「ははは! さぁ、さっさと購買に行ってパンを買って来い!」

智樹 「はぁ…しゃあねぇな」

俺は渋々パンを買いに購買へ向かう。

ちなみに霧島と成明は弁当だ。
霧島はともかく成明まで自分で弁当を作っているから驚きだ。
金持ちの癖に弁当はイヤに庶民的だし。
あいつの感覚は誰にもわからん。
本人曰く天才の行為は凡人には理解できないそうだ。
俺には奇人にしか見えないが。



………。



智樹 「おばちゃん、いつものある?」

俺は購買に行くとおばちゃんに聞いてみた。
購買は見事に人がおらず、明らかに出遅れたことを示している。
しかーし! 俺は問題ないなぜなら…。

おばちゃん 「はい、カレーパンとあんぱんね」

智樹 「ありがと、これ代金ね」

おばちゃん 「はいよ、ありがとうございましたー」

俺はおばちゃんからパン二つとコーヒー牛乳を貰うとその代金を払う。
俺はこのおばちゃんにいつもパンを確保してもらっているのだ。
よって急ぐ必要なし。
ていうか急ぐと購買はまるでそこはコミケ会場のような込み合いになる。
よーするにウザイ。
よってこれくらい空いた状態で行くのがベストだ。

智樹 「さて、成明はともかく霧島を待たせるのは本人に悪いし、急いで戻らんとな」

あんな奴だが成明もわざわざ待っていてくれる。
ただ、パン食の俺の方が圧倒的に食べるのが早いんだから待っていなくてもいいんだが…。



男子生徒A 「なー知ってるか?」

男子生徒B 「なにを?」

男子生徒A 「さっき構内をすっげー綺麗な女の子が歩いていたんだよ」

男子生徒B 「ああ、あの日本人離れした青髪の女の子だな」

男性生徒A 「なんだよ、知っていたのかよ…」

男子生徒B 「あの娘この学校の生徒だったのかな?」

男子生徒A 「いや、私服だったし違うだろ」

智樹 「…失礼だけどその娘どこ行った?」

俺は購買を出るととても気になる会話を聞いた。
会話の内容を聞く限りほぼ間違いなくアリスだ。
なんで学校に出没しているんだ?

男子生徒A 「え? さぁ、何でか知らないけどみんなところどころで姿を消しているから…」

男子生徒B 「そういや、その娘が消える時って必ず窓が開いてるよな?」

男子生徒A 「ああ、それか初めから外気に触れているかな」

智樹 「…ありがと」

俺はそれを聞くとその場を離れた。
アリスの奴…一体何しているんだ?
それと、どこにいるか?

智樹 「屋上…か?」

もはや勘だがそこに居る気がする。
最初に来たのが屋上だったからな。



アリス 「あ…智樹」

智樹 「なんでまだ学校に居るんだ?」

屋上に行くと本当にアリスがいた。
本来屋上は立ち入り禁止なのだがなぜか鍵は閉まっていない。
そのため案外勝手に屋上へ上がるものは多いのだ。
俺も今回ばかりはその一人なわけで。

アリス 「智樹を探してた…」

智樹 「探した? どうして?」

アリス 「…お腹すいた」

智樹 「家にカップラーメンのストックあったろうに」

アリス 「硬くて食いにくかった」

智樹 「お湯入れろよ…」

アリス 「……」
アリス 「それはどうすればいい?」

智樹 「…はぁ、帰ったら教えてやる」

俺はもうアリスに呆れていた。
ようするにご飯をたかりに来たわけか。

智樹 「ほら、アンパンやる」

アリス 「?」

俺はそう言ってアリスにあんぱんを投げ渡した。
アリスはそれを受け止める。

智樹 「それ食ったら家に帰ってろ」

アリス 「……」

智樹 「? どうしたアリス?」

アリスは受け取ると突然横を向いた。
なんだ…?
空を見ている…いや、違う?

アリス 「見られてる…」

智樹 「は? 誰に?」

アリス 「わからない…でも、まだ来ないみたい…」

智樹 「…?」

俺もアリスの見ている方を見る。
あるのは住宅街と空だけだ。
…一体なんなんだ?

智樹 「まぁいい…パンは渡したからな…じゃあ俺は行く」

俺はそう言うと屋上を離れて教室に向かうのだった。



………。



成明 「遅いぞ、智樹」

智樹 「悪い悪い…て、食ってるじゃないか」

成明 「あまりに遅いのでさすがに食べさせてもらった」
成明 「もっとも、霧島嬢は食べていないがな」

智樹 「あれ? なんで霧島は食べていないんだ?」

蛍 「唐沢君を待っていたから…」

智樹 「一緒に食べたら俺の方が圧倒的に早く食い終わるんだから食べてていいって」

成明 「ふ、それが女心というやつだ」

智樹 「女心ねぇ…」

蛍 「……」

成明 (ふ、本当に鈍感な奴だ…私が手助けしてやっても智樹はまるで気付かない)

智樹 「まぁいいや、さ、食お食お」

蛍 「うん」

成明 「? あんぱんはどうした?」

智樹 「ん? ああ、残念ながら今日は手に入らなかった」

蛍 「そうなんだ…じゃ」
成明 「半分食うか?」

智樹 「いらん! お前に恵んでもらうほど困ってはいない!」

成明 「ふ、残念だよ」

智樹 「ちなみに霧島も気持ちは嬉しいが別にいいぞ」

俺は一応同じ事を言おうとしていた霧島にそう言っておく。
もちろん気持ちは本当に嬉しい。
しかし、ただでさえ量の少ない霧島の弁当を半分ももらえるわけなど無い。

霧島 「わ、私は別に…」

智樹 「いいっての、ていうか早く食え」

俺はそうこう言いながらも既にカレーパンを食べ終えて今はコーヒー牛乳を飲もうとしていた。
霧島はまだ箸しか持っていなかった。

蛍 「あ、いただきます」

霧島はそう言うとやや慌てて食べ始めた。

智樹 「そんなに急がなくてもいいぞ」

成明 「ふ、しかしあまり時間があるともいえまい」

智樹 「まぁ、そう言うわけだから時間は気にしながらな」

俺たちはそう言うととりあえず霧島が食べ終えるのを待つのだった。

智樹 (見られてる…か)

俺はふと教室の窓の外を見た。
窓の外はアリスの見ていた方角だった。
俺にはさっぱりわからなかったがアリスには確信した目だった。
一体…なんだったんだろうか?
それよりアリスは本当に人間か?
彼女は見た目こそ人間だがその実は人間離れしていた。
錯覚…なわけがない。
錯覚で家の前から学校の屋上まで俺を連れてこれるものか。
もしかしたら、彼女が何も覚えていないのは何かわけがあるんじゃないだろうか?

蛍 「どうしたの、唐沢君?」

智樹 「いや、ちょっと考え事を」

成明 「女のことか?」

智樹 「同じネタは三度まで!」

成明 「では、娼婦のことか?」

智樹 「いい加減にしろ!!」

蛍 「……」

霧島はやはり顔を真っ赤にしながら固まっていた。
今度は耳まで赤くなっているぞ。
成明が直球ストレートに言ったからな…。

智樹 「霧島もいちいち気にするな…馬鹿が移るぞ」

成明 「馬鹿とは誰のことかな?」

智樹 (お前以外誰がいる?)

しかし、それは口にはしない。
言ったら余計こいつは調子に乗るからな。

キーンコーンカーンコーン。

智樹 「と、鳴った」

蛍 「ご、ご馳走様!」

霧島は慌てて食べ終えた。
俺たちはそれで自分たちの席に戻るのだった。



…………。



キーンコーンカーンコーン。

熊谷 「あ〜、お前らそのまま席にいてろ」

6限目終了と同時に担任の熊谷が入ってくる。
この担任がチャイムと同時に入ってくるなんて珍しいな。

智樹 (さっさと終わってくれないかな〜)

俺はけだるいながら担任のHRが終わるのを待っていた。


熊谷 「あ〜、では今日は終わりだ、学級委員!」

蛍 「起立、礼!」

霧島は学級委員をやっているためこうやって毎日やっている。
俺は立ち上がって礼をするとすぐに帰り支度をする。

成明 「智樹、この後暇か?」

智樹 「忙しいから駄目だ」

成明 「そうか、だそうだぞ霧島嬢よ」

蛍 「そうなんだ…じゃあ仕方ないね」

智樹 「へ?」

何故か突然霧島が出てくる。
どういうこと?

成明 「では、さようならだ、智樹よ」

蛍 「さようなら、唐沢君」

智樹 「アリーヴェデルチ(さようならだ)…」

俺はなにか釈然としない思いをしながらふたりに別れを告げた。
えと、ゲームとかでいうところのイベント失敗?
エタメロなら絶望だな…。

智樹 「は〜…帰ろ」

俺は少しヘコみながら帰るのだった。



…………。



アリス 「智樹…」

智樹 「ん? アリスか…まだ居たのか?」

アリス 「ん…」

正門を抜けるとアリスが待っていた。
まさか居るとは思わなんだ。

アリス 「…! 来る!?」

智樹 「ん? どうした?」

アリスは突然険しい顔で東の空を見た。

アリス 「!!」

智樹 「へ?」

アリスは突然消えたかと思うと、西の空にいた。
ていうかいつの間に!?
あと、翼も無いのに何で飛んでるんだ!?

智樹 「おい! アリス待てー!!」

俺は走ってアリスの後を追った。
するとそんなに遠くない所に降りるのだった。
あの辺り…公園辺りか!?

智樹 「!?」

突然、家の屋根、ビルの屋上を跳ねるように走る何かを目撃する。
あまりに早く、上を気にしてなかったら全く気がつかなかった。
同様に、アリスの降りた辺りに向かった。

智樹 「くそ! 一体何が起きているんだよ!?」

俺はもうやけくそになってアリスの降りたと思う場所に向かった。



…………。



智樹 「はぁ…はぁ…アリスー!」

俺はアリスが降りたと思われる児童公園に来た。
ここは学校から遠くもなく、しかし、住宅街から離れた小山の上にひっそりあるためほとんど人が来ない。
敷地は広く、様々な遊戯や広場があるのだが場所が悪い性だろう。
気がついたらアリスはここに居たらしいが。

ガサァ!!

智樹 「アリス!?」

アリス 「くぅ…!」

突然、2メートル程の高い森の中からアリスが落ちてきた。

智樹 「大丈夫かアリス!? 一体どうしたんだ!?」

アリス 「? 智樹…?」

アリスは怪我をしていた。
左腕に切り傷がある。
その他にも様々な怪我が…。
俺のあげた服もところどころ破れてしまっている。

アリス 「く…」

アリスは自分の降ってきた場所を睨むと剣を構えた。

智樹 「アリス…お前その剣いつの間に…」

アリスが持っていたのは俺が家で拾った、『Alice』と書かれていた剣だった。
やや、青みを帯びた綺麗な輝きを放つ刀身をしている。

智樹 「まさか…戦って怪我したのか?」

俺はまさかと思う…。
普通に考えてアリスをこうまでできる人間なんて想像がつかない。
しかし、アリスと同じように人間離れしているのだったら…?

アリス 「く…逃げて! 智樹!」

智樹 「え?」

しかし、アリスがそう言った瞬間。
再び、激しく音がなる。

ガサァ!

アリス 「!」

キィン!

突然、上からアリスの色違いのような少女が剣を振り下ろしながらアリスを襲った。

アリス 「はぁっ!」

アリスはそれを振り払う。
するとアリスを襲った少女は2メートル程跳んだ。

智樹 「な、なんだ…?」

謎の少女 「…人間が迷い込んだか…」

謎の少女は全身が黄色を基調としていた。
髪はショートだが黄色く、瞳も服装もそして、剣も黄色だった。
そして、アリス同様人間とは思えない美しい顔立ちだった。
傍から見るととてもアリスを襲うような少女には見えない。

アリス 「…つぅ」

謎の少女 「あくまで戦うのね…青の『DOLL』」
謎の少女 「でも、あなたが水の属性を持つ限り雷である私には勝てないわよ…」

アリス 「……」

智樹 「なんだ…何を言っているんだ?」

わけがわからない。
ただ、あまりいい事態ではないということはわかる。
あまりに現実離れして、あまりに危険すぎる状態。
明らかに謎の少女はアリスに殺意を持っている。

謎の少女 「組織を抜け出して、一体なんになるの青の少女?」

アリス 「何のことを言っているのかわからない…私はアリス…」

謎の少女 「そう、残念ね…あの人はかなりの力を持っているって言っていたのに」
謎の少女 「仕方ないわね、何も知らないうちにあなたには消滅してもらうわ!」

アリス 「!?」

智樹 「早…!?」

キィン!

突然少女は目のも留まらないスピードでアリスに襲い掛かる。
アリスは何とか剣で少女の斬撃を受け止めた。
しかし、アリスはそれで吹っ飛ぶ!

智樹 「アリスッ!?」

謎の少女 「トドメ!」

智樹 「止めろー!!」

俺はふたりの間に割ってはいって止める。

謎の少女 「邪魔よ、これ以上関わるのなら命の保障はしないわ」

アリス 「く…智樹、逃げて…」

智樹 「バカヤロウ! 逃げられるか!」
智樹 「このままじゃお前死ぬぞ!?」

俺に何かができるとは思えない。
でも、それでもこうするしか俺に道はなかった。
俺にはただ呆然と見ているだけなんて出来なかった。

智樹 「くっ! 貸せ!」

アリス 「あ…! 智樹!」

俺はアリスの剣をとる。
そして構え、少女と対峙した。

謎の少女 「勝てると思っているの?」

智樹 「や、やってみないとわからないだろ!」

俺の体は震えていた。
明らかにこれも相手のも真剣。
そして、ド素人の俺に勝てるはずが無い。
それでも、今のアリスよりマシだ。

謎の少女 「!」

智樹 「え…?」

ガキィン!!

アリス 「智樹!!」

突然、閃光が走ったかと思った。
少女はわざと俺の剣を叩いて俺をふっ飛ばしたんだ。
そして、俺は皮肉にもアリスに受け止められたのだった。

智樹 「く、くそ…なんてやつなんだ…」

体がズキズキする。
人間離れしすぎだ…。

謎の少女 「今のはわざとよ、まだやるのなら今度は即死してもらうわ」

智樹 「く…退くわけにはいかないんだよ!」

俺はゆっくり立ち上がると構えてそう言った。

謎の少女 「そう…」

智樹 「!!?」

少女はまた目にも留まらないスピードで来る。
今度こそ…終わりか!?

アリス 「智樹!」

キィィン!!

突然、アリスが剣と俺の体に触れる。
すると物凄い輝きが俺とアリスの周辺からあふれ出した。

謎の少女 「これは…一体!?」

少女は慌てて止まった。
俺にも何が起こったかわからない。

しかし、光はすぐに消えた。
そして…。

謎の少女 「!? まさか…!?」

智樹 「い、一体何が…!? あ、アリス!?」

気がつくとアリスの姿が消えていた。
まさか、光と一緒に!?

アリス 『私はここ…』

智樹 「!? アリス!?」

突然、頭の中でアリスの声が響いた。

アリス 『私は智樹の中に居るの…智樹と融合(フュージョン)したの』

智樹 「融合(フュージョン)!?」

アリス 『今の私は智樹の持っている剣…』
アリス 『私はDOLL…人間ではなく人形』

智樹 「人形…?」

謎の少女 「まさか…あの人以外に『融合』できる人間がいるなんて…」
謎の少女 「く…覚悟!」

智樹 「!? はぁ!」

謎の少女 「きゃあっ!?」

キィン!

俺は襲い掛かってきた少女を逆に吹き飛ばす。
何てことだ…まるで俺じゃなくなっている。
さっきはまるで光のように早かった相手が今度は逆に遅く感じる。
いや、違う俺が早くなったんだ…。
まるでアリスの視点だ…。
いや、それ以上か…。

智樹 「よく見ると…服装も違う」

気がつくと俺の服装は変わっていることに気付く。
学生服じゃなく、青色の鎧にも似た特殊なスーツのような服を着ていた。
どうやら、アリスと融合することで随分パワーアップしたみたいだな。

智樹 (しかし、こうなったからにはあの少女と戦わないといけないということ)
智樹 (さすがに少女を斬るというのは気が退けるな…)

アリス 『私たちはDOLL…人間じゃない』

智樹 「そうは言ってもよ…」

俺、さっきまでは普通の学生だよ?
いきなり殺し合いなんてできるわけないだろ…。

アリス 『私たちはDOLLを殺すには2つある』
アリス 『ひとつは致命傷を与えれば人間と同じように死んでしまう』
アリス 『もうひとつは武器を破壊すること…私たちの体は武器が保っている』
アリス 『だから、武器が破壊されたら光となって消滅してしまう』

智樹 「アリスもか?」

アリス 『ん…』

アリスは声だけだが悲しそうな声でうなづいた。

智樹 「武器破壊か…それしかないな」

アリス 『でも武器は命の塊…それゆえに破壊するのは致命傷を与えるのより難しい…』

智樹 「だろうな…」

じゃなきゃ、そんな大切な物ぶんぶん振り回さないわな…。

智樹 「だけど、苦しませて殺したくない…」

アリス 『……』

俺には少女が致命傷を負って、苦しみながら死ぬ姿なんて見たくなかった。
本音は逃げてくれた方が嬉しい。
殺したくなんて…ない。

謎の少女 「このぉ!」

智樹 「くっ!」

相手の動きは良く見えるし、体は戸惑うどころかそれが当たり前のように動いてくれる。
負ける気がしない…それだけに戸惑う。

智樹 「抵抗するんじゃない! 行っちゃえよ!」

俺はそう言って少女を吹き飛ばす。
本当に逃げてくれ!

謎の少女 「くぅ…こうなったら…」

バチチィ…。

少女の剣が帯電する…。
そういや雷がどうとか言っていたな…。
それならば雷的な力を使っても不思議じゃないか…。
だが、それなら俺も出来るはず。
アリスが水なら水の力を融合した俺にも使えるはずだ。

謎の少女 「はぁっ! サンダーブレイド!!」

少女は飛び上がって剣を振り下ろす。

智樹 「ハイドロ…」

謎の少女 「!?」

智樹 「プレッシャー!!」

俺は剣を振り上げる。
圧縮された水は脅威のカッターとなって少女の剣を叩き折る。

謎の少女 「!!?」

すると少女は突然金色の光を放ちながら消滅していった。
やがて、その場には少女の血一滴落ちず、ただ俺とアリスがいるだけになった。

キィィン…。

智樹 「あ…元に戻った?」

アリス 「……」

気がつくと剣を持ったアリスが目の前にいた。
どうやら融合は解かれたらしい。

智樹 「大丈夫か…アリス?」

アリス 「…ん」

智樹 「て、おい…!」

アリスは傷ついた体に限界を感じたのか俺に倒れかかってくる。

智樹 「どうした…痛いのか? それとも疲れたのか?」

アリス 「違う…」

智樹 「じゃあどうした?」

アリス 「…お腹すいた」

そう言うとアリスは腹の音を鳴らした。
そうか、朝飯食べてない上アンパン一個だったもんな。

智樹 「ああ、俺も腹減った…」

こうして俺の平凡は消え去った。
こんなことがあったからには恐らくまた起こるだろう。
そして、その度にアリスは傷つき、戦うのだろう。
そして…俺も…。

智樹 「今日はラーメン屋にでも行くか」

アリス 「ん…」




第2話 「閃光のALICE」 完


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