閃光のALICE




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第15話 『アーティスとナイツ』







『某日 時刻21:55 茨城県DOLL開発研究施設周辺』


ガサ…ガサガサ…。

森の中獣道ではなく、全く未開拓の道を進む。
この先にとある施設があるはずだ。

? 「ルクス」

ルクス 「ルック〜♪」

ルクスと呼ばれる小動物の姿を模した発光物体。
人工精霊という物で、とある異世界の錬金術師に精霊の器として創ってもらった。
体は液体金属で出来ており、それにとある仕掛けを施し、精霊を宿すことによって体を得るそうだ。
ルクスは液体金属ゆえ、決まった形はない。
眠っているときは本当にただの液体だ。
今は日本のアニメに感化されたのか丸っこいずんぐりむっくりな生き物。
天使なのか背中にそれっぽい小さな羽もある。
体長は10センチほど。

? 「人工の光…ついたようね」

ルクス 「ルクルク♪」

? 「ルクス、戻って」

私は光を放つことの出来るルクスを先行させていたが、ルクスを手元に戻し、一緒に持ってきている巾着袋にルクスを入れる。
すでに人工物の放つ光がある。

ガサ…ガサガサ…。

私は森の木々を掻き分け施設へとさらに近づいた。

? 「DOLL開発研究施設…」

ようやく目視でその全貌が見えた。
私は身を屈め。

? 「こちらナイツ…本部、応答せよ」

私は携帯電話型の無線機を使い、とある組織へと連絡を取る。

? 『良好だ、ナイツ、応答せよ』

ナイツ 「DOLL開発研究施設の目の前よ、ポール」

ポール 『そうか、では次は潜入ミッションだ』
ポール 『DOLL開発研究施設の詳細なデータはない、だが近年では監視衛星というものが発展した、上面図が手元にあるだろう?』

ナイツ 「あるわ、これね」

私はライトを使い、この施設の上面図を見る。

ポール 『進入口は3つ、まずは正面玄関、次に裏口、そして最後に中庭からだ』

ナイツ 「中庭はすでに見えているわ、けど隠れる場所が無い…進入は難しそうね」

ほかで考えても玄関も裏口も危険そうだけど。

ナイツ 「排気ダクトとかはないの?」

ポール 『監視衛星からの情報ではらしきものはあるが…進入できる代物かどうかはわからないぞ?』
ポール 『そこは軍事施設ではないからな、民間施設に侵入できるほどダクトがあるのか?』

ナイツ 「とりあえず、周囲を確認して可能性の高いと思うところから進入を試みるわ」

ポール 『了解だナイツ、その施設はこれまで何人もの諜報員が潜入を試みたが、生きて帰るどころか情報を得ることさえできなかった難攻不落の場所だ!』
ポール 『くれぐれも気をつけてくれ、OVER』

私は無線機を仕舞うと、隠れながら周囲を確認する。

ナイツ 「『ディジーズ』が10年以上見てきて…今だ何ひとつわかっていない謎の施設か…」

DOLLというのもなんとも謎の存在だ。
A&Pの極秘プロジェクトだそうだが立ち上げは20年くらい前。
しかもA&Pにおいてもその存在を知るのはわずか数名。
ディジーズの調査員も何名かA&Pに潜り込んだこともあったが、それも失敗に終わっている。
知らない人物が多すぎた。

ナイツ 「まず…中庭」

時間も時間だから出歩いている人物はいない。
中庭はA棟とB棟を繋ぐ渡り廊下の隙間周辺。
続いてB棟側の裏側に回る。






ナイツ 「裏側…なるほど、ドアがあるわね…問題は入った先なんだけど」

例によって誰もいない。
警備も何もないというのも無用心な話だ。

ルクス 「ルック?」

ナイツ 「! ルクス…そうね、ルクスちょっとあの中を調べてきて頂戴」

ルクス 「ルック〜♪」

私はルクスを放し、偵察をしてもらう。
ルクスの体は液体金属だからドアの隙間から中に進入できる。
進入可能ならここからが一番安全だろう。
正面は危険すぎる。

私は身を屈めしばらく待つと。

ルクス 「ルックー」

ナイツ 「ルクス、どう? 進入できそう?」

ルクス 「ルクルク!」

ルクスは大きく頷く。
私はそれを聞くと意を決して中への進入を試みる。

ルクス 「ルクルク!」

ナイツ 「ん? ああ、はいご苦労様」

ルクス 「ルック〜♪」

ルクスは仕事をしたのでおねだりをしてくる。
私はルクスに○ロリーメイトを1ブロックあげる。
するとルクスはそれを嬉しそうに食べた。
精霊の癖に栄養調整食品を好むのもどうかと…。

ナイツ 「さぁ、巾着袋に入ってルクス!」

ルクス 「ルックー!」



…………。



ガチャ…ギィィ…。

ナイツ (たしかに誰もいないわね…)

私は裏口の扉から慎重に入る。
入った先に誰かがいるということは幸い無かった。
私は音を立てないようにドアを閉めた。
ここからは情報が一切無い。
なんとか、情報を得ないといけないのだけど。

ナイツ 「一応、支給品の白衣と伊達メガネでなんとかごまかすけど…」

問題は他の荷物。
色々あるのでさすがに問題がある。

ルクス 「ルク! ルクルクッ!」

ナイツ 「ルクス? て…ここに置いていけっての?」

ルクス 「ルク!」

ナイツ 「駄目よ、せめて外ね…荷物は外に隠しておきましょう」

ルクスはここに置いて行けというがさすがにそれでは不審物すぎるでしょう。
一応隠しておかないと。



…………。



ナイツ (ふぅ…後はどうやってここの情報を得るかだけど…)

どんな些細な情報でもいい。
得られないよりマシだ。
はたして生きて帰られるかどうかさえわからないという場所だ。

青DOLL 「あはは♪」

緑DOLL 「こっちこっち♪」

ナイツ 「!」

突然、狭い通路を二人の小学生くらいの少女たちが走ってくる。
さすがに驚いてしまうが、これがDOLLなのだろう。
青い少女と緑色の少女だ。
ルペイン家のDOLLと違ってここのDOLLは服装もその人物の色に合わせているようだ。
たとえが青い髪と目の少女は服装も白い戦闘服のような服に青色のラインが型から胸を通ってズボンの裾まで降りていた。
緑の少女はこれが白地に緑のラインがといった具合だ。
オシャレな服に見えなくも無いが、これが区別のためだというのは何となくわかった。

ナイツ (DOLLたちはそれぞれ色が違うけどこれには意味があるのかしら?)

少なくとも私がこれまで見たことがあるのは赤と黄色と緑色だった。
ところがここには青もいるらしい。
車などでいう色違いだろうか?
それとも色によってなにか性能が違うのか?

青DOLL 「ん?」

緑DOLL 「ほえ?」

ナイツ 「あ…」

二人の少女は私の存在に気付いて私の顔を見る。
私は咄嗟に顔を隠してその場を離れることにした。

青DOLL 「あのおねーちゃん誰?」

緑DOLL 「しらなーい」

ナイツ (あぶないあぶない…ここで疑われるとまずいからな)

私は早く調査を始めるのだった。

ナイツ 「! 第2研究室?」

いかにもな看板を見つける。
私は注意しながら中へと入ってみる。

青DOLL 「……」

ナイツ 「あ…」

中は比較的狭い部屋で2メートル大のカプセルが壁に3つあった。
机にはパソコン、壁に警報と内線もある。
そして、部屋の真ん中に椅子に座る一人のDOLLがいた。

青DOLL 「…誰?」

ナイツ 「あなたは?」

青DOLL 「私はアーティス」

ナイツ 「そう、私はナイツよ」

アーティスと呼ばれる少女は青い髪が腰まで伸びており、比較的華奢と思える体格。
身長は160ギリギリなさそうだ、大人しそうな子だけど…。

ナイツ 「? あなた右腕と左腕の太さが違うのね…?」

アーティス 「ああ…これ?」

ジャキン!

ナイツ 「!?」

アーティスは右腕を上げるとなんと手から鎌が出てくる。
さすがにいきなりのことに驚かされた。

アーティス 「私、新型DOLLだから、魂命を右腕に内蔵して隠しているの」

アーティスはそう言って鎌を手に戻した。
新型…ていう部分も気になるけど。

ナイツ 「痛く…ないの?」

アーティス 「痛いわよ、たまらなく痛い…出し入れした時…とてもね」

アーティスの右腕から血が出ることは無い。
だが、アーティスはその右腕を労わるようにさすっていた。

ナイツ 「新型というのは?」

アーティス 「…あなた、ここの人間じゃないわね?」

ナイツ 「……」

私は何も答えない。
しかし、無言でいると彼女は。

アーティス 「ふふ、まぁいいけど、私がそこにある警報を鳴らせばここには大量の警備がやってくるわね」

ナイツ 「カマかけているの?」

アーティス 「さぁ? 生まれて3日の私にはよくわからないわね」

ナイツ 「3日? あなたが?」

アーティス 「そうよ、私たちDOLLは成体のまま誕生するらしいわよ、子供の姿で生まれれば永遠に子供の姿ね」
アーティス 「ふふ、不思議? 実を言うと私にも不思議なんだけどね」

ナイツ 「……」

この娘…なにを考えているのかしら?
最初は大人しい子かと思ったけど少し違うようだし…。

アーティス 「ねぇ、あなたここに何しに来たの?」

ナイツ 「何だと思う?」

アーティス 「聞いているのはこっちよ」

ナイツ 「答える義務は無いわ」

アーティス 「ああ、そう」

ナイツ 「…警報を鳴らす?」

アーティス 「どうして?」

ナイツ 「…私はあなたに危害を加えに来たのかもしれないわよ?」

アーティス 「違うわね、危害を加えに来たのなら会話は出来ないわね、あなたは何か情報でも得に来たんじゃない」

ナイツ 「何度も言うけど、それに答える義務はないわ」

アーティス 「そうね、ふふ…あなたは警報を鳴らされると面倒」

ナイツ 「……」

鳴らす気なのか…それとも脅しのつもりなのか。
少なくとも鳴らされるとこちらにメリットは全くない。
とはいえ、この娘と話してもラチはあかなさそうだ。
こんなことをやっているうちに誰か別の人が来る可能性だってあるんだから。

アーティス 「ねぇ、あなた…私を連れ出す気はある?」

ナイツ 「は…? あなたは…?」

アーティス 「最新型DOLL1体、どんな情報よりも大きな収入じゃない?」

ナイツ 「…悪くはない話ね…だけど何故?」

アーティス 「別に…利用されるのが嫌なだけ」
アーティス 「まだ、教育があまりされてないものでね、色々見るうちに嫌なもの好きなもの出てくるのよ」

ナイツ 「嫌なもの…ねぇ」

アーティス 「別にここが嫌いなわけじゃない、私を創った槲も悪い奴じゃないし」
アーティス 「ただ…あいつが嫌いなだけ…私を利用しようとしているあいつが…」

ナイツ 「あいつ?」

アーティス 「アルド…よく知らない奴、けど私がそこのカプセルに入っていた頃、よく来ていた…」
アーティス 「嫌らしい目でこっちを見て…あいつ…顔が嫌だ!」

ナイツ 「そう…まぁいいわ、ならあなたは貰っていくわ」

デウス 「そうはいかない」

ナイツ 「!?」

私は咄嗟に後ろを振り向く。
すると長身の赤髪の女が立っていた。
そこにいたのは…。

ナイツ (デウス!? まるで気配を感じなかった…!?)

デウス 「ナイツ…さんね? 悪いけどその子をあなたに渡すわけにはいかないわ」

ナイツ (ち…しまったな…丸腰か)

幸運なのは向こうも丸腰だということだ。
とはいえ、DOLLがどれだけの身体能力を持っているのかはまだわからない。

アーティス 「ねぇ、チップ次第では助けてあげるわよ?」

ナイツ 「は…? あなた…」

アーティス 「別に私はあなたがどうなったって構わないわ、ここにいる方がよっぽど安全だもの…どうするの?」

ナイツ 「…金は無いわ、こいつで引き受けてくれない?」

私はそう言って本来ルクス用の○ロリーメイトをアーティスに差し出す。

アーティス 「なにこれ? 食べ物? …あら、美味しいじゃない」

アーティスは○ロリーメイトの封を切って、中身を食べる。
どうにも微妙に思える味のやつだったんだけど…。

アーティス 「まぁいいわ、助けてあげる…!」

ジャキン!

アーティスは右腕から鎌を出し、臨戦態勢を取る。

デウス 「アーティス、あなたは何をしたいの?」

アーティス 「何をって? 今は考えていないわねぇ、ただ、ここにいるよりこの人についていったほうがマシそうだし?」

デウス 「マシ…ね、それは同感するわ、けど、これも仕事でね…本気でおしおきをすることになるわね」

アーティス 「おお、怖〜、おばさん、怖いねぇ〜」

デウス 「あなた…」(怒)

ナイツ 「はぁ…あんまり相手を挑発するのはよしなさい」

どうも最初の印象とはだいぶ違う。
最初は大人しい娘かと思ったが随分ちゃっかりしている。

アーティス 「さっさと来なよ、おばさんさぁ!」

加えて、口が悪い。
なんとも変な娘を捕まえてしまった。
さっき通路で出会った小学生くらいのDOLL捕まえた方がよかった気もする。

デウス 「新型DOLL…ねぇ、それじゃ旧式との性能差を教えてもらいましょうか」

アーティス 「しかもおばさん、プロトタイプだし、しかも第2研だし」

デウス 「…! あのね…あなたも第2研出身でしょうか!」

ナイツ (第2研? ああ…研究室)

しかし、いい加減デウス氏も怒りが爆発しはじめている。
冷静そうに見えてその実は案外熱いのかしら?
対してこのアーティス、性格的に雑に見えるが徹底的に相手をいじめている…悪く言えば冷酷。
冷徹ともとれるが…。

アーティス 「さぁって…なんかへんなことされても嫌だし…!」

ザッシュウ!! バッチチィ!

デウス 「…! 内線を…」

アーティスはその鎌で内線を切り壊してしまう。
つまり、増援は呼ばせないと。

アーティス 「…さて、ほかに荒らしていもいんだけどねぇ…壊しちゃおうかな〜あのカプセルとか」

アーティスはいやらしく視線を壁側に向けて言う。
壁には機械に繋がれた人の入れるほど大きなカプセルが3つ並んでいる。
たしかさっきアーティスはあそこに浸かっていたと言っていたわね。
あれはDOLLにおいてなにか重要なものなのかしら?

デウス 「壊した瞬間、あなたも相当の仕打ちを受けるわよ」

アーティス 「やれる〜? おばさんに」

デウス 「…甘く見ないでよ」

ナイツ 「……」

デウスは凄まじい殺気を放つ。
本気だ…そしてアーティスも…。
しかし、アーティスにも冷や汗が流れている。
足が中々動かない。

ナイツ (さっきからここを突破しようとしない…それはつまりこのデウスと絶対に戦いたくないということの表れ…)

無駄に時間を費やしているのではなくなんとか突破口を開こうとしているのね。
でも、問題はどうする気?

アーティス 「…!」

デウス 「!!」

ナイツ 「な…!?」

両者動く。
アーティスはカプセルを割りに、デウスはそれを阻止しに。

ルクス 「ルクッ!」

ナイツ 「ルクス!? そうか!」

ルクスは巾着袋から一言鳴く。
そうだ、デウスが動いたということは塞がれていた道が開いたということ!
私は道が開いた隙に研究室をでるがデウスは見逃してくれるらしい。

アーティス (そう! それが正解! …そして!)

ヒュン!

デウス 「ちっ! はぁ!」

アーティス 「無駄だよおばさん! 青DOLLにスピードで勝てると思ったわけ!? まして青DOLLは空を飛べるのよ!」

ナイツ 「え!?」

なんとアーティスは一瞬で天井に逆さまになりながら張り付き、そのまま天井を蹴ってこっちまで一瞬で飛んできた。
まるで常識外れの軌道でデウスの射程圏内から下がり、アーティスも脱出する。

ナイツ 「あなた一体…!?」

アーティス 「説明は後! 今は脱出に専念しなよ!」

ナイツ 「く…!」

私たちは全速力で施設を抜け出す。
施設の外に出られれば後は森に入る、そうなったらもうこちらを見つけることは不可能!



…………。



ナイツ 「持ち物も回収…どうやら無事のようね」

私は森の中に隠しておいた自分の荷物を回収する。
白衣は脱ぎ、動きやすい状態になる。

ナイツ 「こちらナイツ、本部、応答せよ!」

ポール 「良好だナイツ! 状況は?」

ナイツ 「新型の青DOLLをかく…!」

アーティス 「! あぶない!」

ナイツ 「え!? きゃ…!?」

ズガァン!

私は突然アーティスに跳ね除けられる。
次の瞬間、私の無線機はなにかに切り裂かれてしまった。

? 「困るんだよねぇ…その子を連れ出されると…」

ナイツ 「大鎌…誰!?」

突然、振り下ろされた大鎌、それは私の無線機を突き刺した。
そしてそれが振り上げられ、とある女性の肩にあたる。

アーティス 「あんた誰!?」

? 「私? 私は巫、誰も知らない黒DOLLさ」

ナイツ 「DOLL!?」

アーティス 「く…!」

巫 「おっと、逃がさないよ、お嬢ちゃん、あんたは特に重要だ、大切な器だからね」

ナイツ 「器…? どういう意味なの?」

巫 「はっ! これから死ぬあんたが知る必要はないよ」

アーティス 「たぁぁぁ!」

巫 「…! っと、せっかちだねぇ…と!」

ドコォ!!

アーティス 「あぐっ!?」

アーティスは不意を突いて巫という女に切りかかるが、巫は悠々それを回避しアーティスの腹部に膝蹴りをいれた。
あのスピードに対応したの!?

巫 「体、大事にしなよ〜? 今ここで傷物になられちゃ困るしねぇ」

アーティス 「そ、そんな…勝手な理屈…」

ナイツ 「ち…!」

ジャキン!

私は道具の中からとある一刀の刀を取り出す。
神刀草薙の剣。

ナイツ (草薙…久しぶりに力を借りるぞ!)

草薙 (心得た!)

ゴオォゥッ!!

草薙は黒い炎に包まれるとその炎で身を焼き、不思議な模様が生まれる。
私の草薙の剣、2刀存在するといわれる神器のひとつで、私の草薙は闇の力を意味する。
本来壇ノ浦での決戦で行方不明だそうだが、ここにあるのは異世界から渡ってきた剣だ。

巫 「へぇ…変わった剣だ」

アーティス 「く…! 鎌だ 鎌を狙うんだ! DOLLにとって魂命を破壊されたら終わりだ!」

ナイツ 「鎌…ね、はぁ!」

巫 「ち!」

ブォン!

巫は私の一刀を受けようとはせず避ける。

巫 「調子に乗るなよ! 人間!」

キィン!

巫は避けると同時に鎌を私の首を狙って振るってくる。
私はそれを草薙で受け止める。

ナイツ 「人間を…甘く見るなよ!!」

ザァン!!

私は草薙の切れ味を利用して大鎌を真っ二つにする。

巫 「…あ〜あ、大事な大鎌が真っ二つ…だめだこりゃ」

アーティス 「!? そ、そんな!? どうして存在しているの!? 大鎌は真っ二つだったのに!」

巫 「あっはは! たしかにDOLLにとって魂命がやられると即終了だねぇ…そんな大切な命…さらさらさらけ出すのって、おかしくない?」
巫 「私の本当の魂命は…こっちさね」

巫は鎌を捨てると、ひとつ、大きな盾を構える。

アーティス 「そんな!? 盾の魂命!? 魂命は武器の形をとるのでは!?」

巫 「私以外のDOLLわね、でも逆におかしいと思わないの? なんで魂命は武器なの? 本来は自分の命を具現化した代物だよ?」
巫 「自分の命と引き換えに最強の武器を得たっていう研究者もいるけど、それもおかしくない? それだったらもっと有効な形だってありそうなものさ」

ナイツ 「ち…どうでもいい…ようはそれを破壊したらお前は死ぬんだろう?」

巫 「出来る物ならね」

ナイツ 「はぁ!!」

ガキィ!!

ナイツ 「!?」

私は渾身の力で草薙を振り下ろす。
しかし今度は巫の盾に完全に防がれてしまう。

巫 「魂命はそんなに脆くはないよ、この世にあるどんな金属より硬いよ!」

ナイツ 「ちぃっ!?」

ブォン!

私は咄嗟に後ろへ退く。
そしてその空を切るように巫の蹴りが入った。
まずいな…どうする…?

ルクス 「……」

ナイツ (ルクス…?)

ルクスが珍しく真剣な眼差しで私を見ている。
そうね…こういうときは大人しく逃げるが一番。
…といってもただでは逃がしてくれないわね。

ナイツ 「ルクス!」

ルクス 「ルックー!!」

アーティス 「え!?」

巫 「な、なんだい!?」

私の一声でルクスは巾着袋から出てきて、巫の顔に張り付く。
私はアーティスの手を取ると。

ナイツ 「あっちの方角に迷わず走って! それと絶対に振り向いちゃだめ!」

アーティス 「え、う、うん!」

私はアーティスの背中を押して走らせる。

ナイツ 「光の理力よ、輝くその色を我に貸し給え!」

巫 「!? なにを…!?」

ナイツ 「フラッシュボム!」

カッ!!

巫 「なっ!?」

私は精霊魔法『フラッシュボム』を使い、巫の視力を奪う。
ルクスがいるからこそ使える精霊魔法だが、この世界はマナが薄すぎて魔法を一発放つとその時点でルクスがダウンしてしまう。
こうなると3日は目覚めない。
私はルクスを回収すると一目散にその場から逃げ出した。



巫 「…やられたよ、まさかあそこで目暗ましとはね」

見事にしてやられたわけだ。
あ〜あ、こりゃ面倒なことになった。
よりによって器をパクられるなんてねぇ…。

巫 「どうする? 追う?」

アルド 「ヒャハハ…いや、いい」

私は暗闇なの中から一部始終観察をしていた男に言う。

アルド 「どっちみち、あいつは完成する、それまでどこにいたって構わないさ…その身が傷つきさえしなけりゃな」

巫 「でもいいのかい? アリスと合流されると厄介だよ?」

アルド 「はっ! アリスか…そろそろ時は近づいているからなぁ…IFの力も発現しやがったし…そろそろ…だな」

巫 「理想郷はまじかかい?」

アルド 「はっ! 理想郷…まじで言ってるのか? お笑いだな…まぁ、そのうち嫌でも動き出すさ…運命の歯車…IFはな」

巫 「…ふん」

どうやったって動き出した歯車は止まらないか。
それでいいさ、闇に葬られた私にはどうだっていい。
ALICEが望むのなら、終焉はひとつしかない。
『破滅』しか…ね。



…………。



『同日 某時刻 DOLL開発研究施設』


ヨハン 「まさか、あのアーティスを外に放してしまうとは…」

アルシャード 「我々の不始末だ、罰はいかようにも俺が受ける」

ヨハン 「我々が求めているのは処罰ではありません! あなた方にはアーティスの捜索および、回収を命じます!」

アルシャード 「了解した…」

ヨハン 「…あれは、最近開発された新型のDOLL、元2研のあなたなら十分知っているでしょう」

アルシャード 「ひとつ聞きたい…俺は特に聞かされなかったのだが、アーティスには特殊な因子が搭載されていると聞いているのだが?」

ヨハン 「搭載はされています、詳しい項目は私でさえ知りえません、槲主任に聞いてみては?」

アルシャード (ここの管理責任者であるヨハンでさえ知らないだと? 俺は槲に聞いたのだぞ?)
アルシャード 「わかった、あとで槲君に聞いてみる」

最も、2度目になるがな。
あのアーティスは第2研で製造されたはずだ、しかし主任の槲はよく知らないと言っている。
一体、あのDOLLはなんなんだ?
単に最新型のDOLLというだけではないのか?

ヨハン 「DOLLの存在は今だ極秘裏に進められています、あの娘は調整がほとんど行われていない状態、どんな不始末を起こすかは予測不能です」
ヨハン 「まして、相手が正体不明、もしDOLLの情報が他の企業や組織の手に渡ればそれは大きな事です、アリス嬢やマリオン、ヴィーダの比ではありません」
ヨハン 「事はくれぐれも慎重に、そして確実に」

アルシャード 「わかっている、ただどこにいるのかもわからない相手を闇雲に探すのは非効率的だ」
アルシャード 「また、相手が脱出ルートを用意しており、国外へと逃げたというのならそれは事だぞ?」

ヨハン 「空は既に押さえてあります、海も海上警備隊が巡回しています、潜水艦でも使わなければ国外への逃亡は不可能です」

アルシャード (潜水艦か…まさかな、それなら国が気付く…しかし海上警備隊とは、自衛隊まで動かすとはな…最も、国には何も知らされていないだろうが)
アルシャード (さしずめ…スパイが国内にはいった、逃げられないよう警備を強化してくれ…こんなところか)

A&Pの運営資金は日本の国家予算を超えている。
国をある程度操ることは造作も無い。
しかし、デウスの話ではナイツという謎の女だったそうだ。
ナイツ…か、一体どこの者だ?



…………。



ナイツ 「くそ…無線機がやられたからな…本部と通信できない」

アーティス 「…そのディジーズって一体どういう組織なの?」

ナイツ 「表向きには人材派遣会社」

アーティス 「表向き?」

ナイツ 「裏は…そうね、情報屋とでも思えばいいわ、金融ともとれるけどね」

アーティス 「情報屋な銀行? それった単なるマフィアとかヤクザじゃないの?」

ナイツ 「…そういう取り方もできるわ、いわゆる情報や金を集めてそれを売るのが裏の仕事、そして情報を集めるため私のようなスパイが派遣される」

アーティス 「なんていうか○07みたいなのが本当に存在したのね」

ナイツ 「あなた…生まれたのは数日前というわりにはよく知っているわね…」

まぁ、○07といえばそうだろうか…どちらかというと敵組織だと思うけど…。(汗)

アーティス 「でもさ〜、これからどうするの?」

ナイツ 「…しばらくはこの国に潜伏するしかないわね…」

無線機をあの巫とかいう女に破壊されてしまった。
日本の機関の目を掻い潜って単独脱出は不可能に近い。
いくらなんでもこの国の捜査網もそんなに甘くはないしね…。
本部への救援を送れないのは痛すぎる。

ナイツ 「ふぅ…木を隠すなら森の中…か」

とりあえず、今後の方針は決まった。
どうなるかはわからない。
少なくとも顔は割れてしまっている。
ならばどれだけ予測不能な場所に潜むか…。

ナイツ 「動くわよ、アーティス」

アーティス 「どこへ行くの? 時間は遅いわよ?」

ナイツ 「東京よ、朝まで歩けば着くわ」

アーティス 「え〜? 歩くの? 私が飛んで運んであげるわよ?」

ナイツ 「監視衛星もあるし、空の航空便もあるわ、危険よ」
ナイツ 「大変かもしれないけど、歩いて都心まで行くのが一番安全よ」

アーティス 「ここ、茨城の山奥よ? 東京って…県境越えるんですけど?」

ナイツ 「我慢しなさい」

アーティス 「あ〜、貧乏くじ引いたわね」

私はしぶしぶ愚痴るアーティスを連れて夜の山道を下ってひたすら南下して行く。
東京までいけば、ディジーズのエージェントと接触するチャンスもあるかもしれない。
まずはあえて相手の懐に入ろう。



…………。



『次の日 時刻06:30 唐沢宅』


智樹 「ん〜! はぁ、今日もいい天気だ」

俺は珍しく早起きして1階のキッチンへと降りてきた。
キッチンにはいつも通り、イェスがいる。
さすがだな、こんな朝早くからもう起きているなんて。
さすがにアリスもティアルもヴィーダも起きてはいないようだが。

智樹 「イェス、おはよう」

イェス 「あら、智樹さん、おはようございます、今日は早いのですね?」

智樹 「ん? ああ…まぁね」

実は早起きしたのにはわけがある。
本日より、テストが始まる。
そう、期末試験だ。
はっきり言って成績の悪い俺はこれの結果次第で夏期講習の可否が決まってしまう。
はっきり言って夏休みに学校へ行くのは痛すぎる!
幸い、ここ最近は成明や蛍、マリオンさんに極めつけ、デウス先生にもご指南受けていた。
とはいえ、相変わらず一夜漬けな俺は結局…『寝ずに』朝を迎えてしまった。
はぁ…眠い。

イェス 「? 大丈夫ですか? 眠そうですけど?」

智樹 「ああ…大丈夫大丈夫…はは」

イェス 「コーヒー淹れますね、座っていてください」

智樹 「ああ…」

イェス 「ああ、あと、これ使いますか?」

智樹 「? 医薬品? なんだ…○眠打破?」

ああ、眠気覚ましか。
一時期、作者も愛用していた一品だな。
効果は結構あるようだ。
カフェインが大量に含まれているからな。
ちなみに、カフェインはコーヒーにも含まれている、いわゆる眠気覚ましだ。
元来はイスラム教の信者が眠気覚ましに愛飲していたのが元祖で、それが十字軍遠征だか、なんだかの時オスマン軍のキャンプの中からコーヒーが発見され、広く普及したとか聞いたことがある。

智樹 「んっんっ! はぁ…なんか効いたような効いてないような…」

まぁ、半分はブラシーボに頼らないと話にならないが。
まぁ、ようは今日の試験の時まで眠気に負けなければいいだけの話だ。
後は気合でなんとかしよう。

ガサッ!!

智樹 「ん?」

突然、庭の方から音がする。
一体、何事だ?
まさか…族? 盗人か!?

智樹 (冗談じゃないぞ…こんな朝早くに…)

俺は恐る恐る庭へと近づく。
そして窓際に立つと…。

ヒョコ!

アーティス 「ぷはぁ…お腹減った…ん?」

智樹 「……」

突然、庭の植木に頭を突っ込んでいた謎の少女が、植木から頭を引っこ抜き、腹が減ったとぼやく。
そして俺と目が合う。

アーティス 「…こんちわ」

…それが、彼女の俺に対する第一声だった。

智樹 (またDOLLかぁ!?)

それは、越えには出せない心の叫びだった。
相手はどこからどう見ても青DOLL。
青い髪の毛が腰まで伸びるストレートヘアーで、目つきはやや幼い。
アリスと特徴が似ているが、アリスとは違った雰囲気があった。
俺はどうやら…DOLLと関わり続ける運命にあるらしい…。

智樹 (問題は敵かどうかだが…)

俺はコッペリアを信じたい。
コッペリアはもうA&Pはアリスを諦めたと言った。
だったら、この娘は刺客ではないということになる。
しかしそれなら…一体…。

智樹 (この娘は何なんだ!?)

ナイツ 「アーティス、勝手に人の家に入っては…あ」

智樹 「……」

ナイツ 「こんにちわ…」

…それは、彼女の俺に対する第一声だった。

智樹 (さらに謎の外国人美人が現れたーっ!?)

それはある意味運命のいたずらとも思える、最悪の出会いだったかもしれない。
運命は動いている…確実に何かを中心に。
その中心が何かはまだ、確信をもてない。
だが、運命は既に決められていたのかもしれないと…後の俺は思ってしまう。





第15話 「アーティスとナイツ」 完


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