閃光のALICE




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第19話 『IFという時代』







智樹 「というわけで、テラーを1週間、面倒を見ることになった」

テラー 「……」

ティアル 「…なにがというわけよ…たく、このお人好しは…」

アリス 「……」

イェス 「え…えーと、テラーさん?」

ヴィーダ 「テラー、すごい不気味なのぉ〜…」

テラー 「……」

自分から全く動こうとしないテラー。
光学迷彩のようにゆらゆらとした色合いは、非常に目に痛い。
しかし、本当にえらく動かないもので、その様はまるでダッチ…もとい人形だった。

智樹 「正直、どう扱ったらいいものか…」

イェス 「一応、お客様ですから…」

ティアル 「全く、動かない上、反応しないけど?」

テラー 「……」

そう、本当に全く反応しないのだ。
イェスも、ティアルも、ヴィーダにもテラーは反応を示さない。
唯一、俺にだけ反応を見せるのだ。

智樹 「テラー、お前は一体何者なんだ?」

テラー 「……!」

ギョロ。

俺がテラーに顔を近づけて、何者か聞くと、それに僅かに反応してか目線が合う。

智樹 「うおっ!? 反応した!?」

ティアル 「今に始まったことじゃないでしょうが…」

智樹 「いや、今まで話しかけて反応はしなかったぞ!?」

アリス 「反応が良くなった?」

ティアル 「どっちにしろ、私たちには何しても、反応しないしねぇ?」

イェス 「一体なぜ、智樹さんにだけ、反応するんでしょうか?」

ティアル 「変な物の怪に好かれる傾向でもあるんじゃない?」

アリス 「それって、私たちか?」

ティアル 「……」←物の怪2
イェス 「……あはは……」←物の怪3
ヴィーダ 「え〜?」←物の怪4
アリス 「……」←物の怪1

テラー 「……」←物の怪5

智樹 「物の怪ってかDOLLな…はぁ、なんだかなぁ〜…」

そういえば考えたことなかったけど、俺ってDOLLに好かれる性質でもあるのか?
なんで、ことごとくDOLLが関わるんだよ…。

アリス 「テラー、私がアリスだ、わかるか?」

テラー 「ありぃぴぃ…?」

ティアル 「!? しゃ…喋ったぁ!?」

智樹 「しかしなんだよ…ありぃぴぃって…てか、喋れたのかよ……」

まぁ、発音のイメージを辿るとこ、アリスと言ったつもりなんだろうな…。

アリス 「ありぃぴぃじゃないぞ、アリスだぞ」

テラー 「リャァレァサァ?」

ティアル 「余計わからなくなったわよ…」

ヴィーダ 「むぅ〜…テラーってやっぱりなんなの〜?」

智樹 「おい、俺はわかるか、テラー?」

テラー 「……?」

智樹 「智樹、唐沢智樹だぞ?」

テラー 「ろぉよぉしぃ?」

智樹 「だめだこりゃ、認識は出来るみたいだが、全然合ってない」

話せるようになっただけで、上出来だろうが…これじゃぁなぁ?

イェス 「あの……智樹さん」

智樹 「? なんだよ、イェス?」

イェス 「テラーさんの成長速度は…急激過ぎませんか?」

智樹 「? どういう意味だ?」

イェス 「彼女…本当にDOLLなんでしょうか? なんだか違和感を覚えたもので…」

智樹 「DOLLじゃない…ねぇ?」

俺はテラーを見る。
アリスがテラーをかまっているが、テラーはアリスの問いにちょっと捻った(?)言葉を返しているのみだった。

智樹 (最初は植物人間同然だった…その次に目が動いた…次は…頭…体…そして、喋った…最初のアクションを起こして僅か10時間少しで…か)

俺にはDOLLたちの仕組みなんて知らない。
イェスがおかしいっていうのだったらおかしいんだろうがな…。

イェス 「……晩御飯の用意しますね?」

智樹 「ああ…テラーの分はいらないそうだぞ、ヨハンの話だと」

イェス 「あ…えと、でも…一応は」

智樹 「うん、一応用意しといて」

正直、テラーってなんなんだろうか…。



…………。



アリス 「ここがトイレだぞ?」

テラー 「トェイ?」

アリス 「トイレだ」

テラー 「トレイ?」

アリス 「おしいけどやっぱり違うぞ、トイレだ」

テラー 「トゥパァ〜?」

ティアル 「もしかして、意味分かってないんじゃない?」

智樹 「大いにありえるな」

次の日、日曜と言うことでテラーにいろいろな物をアリスが教えていた。
なんだか、心配なんで俺も同伴しているのだが、テラーって俺たちの言ってること反復しているだけじゃないだろうな?
もっとも、反復になってないから余計分かりづらいのだが。

アリス 「ちなみに、トイレとは何をする場所かといえば…」

ティアル 「……説明するの?」

アリス 「? なにか問題か?」

テラー 「モ〜マンタ〜イ?」

アリス 「あ、それでだな。トイレとは…」

智樹 「はーい! 次行くよ次!」



…………。



アリス 「ここが智樹の部屋だ」

智樹 「……て、おい」

テラー 「き〜お〜と〜?」

ティアル 「男の癖に無駄に整理された部屋ね…」

智樹 「俺は元々、整理する方だっつーの」

トイレの次に案内した場所は何を考えたか俺の部屋だった。
見られて困る物はないが、あまりどうどうと公開するのもどうかと…。

ティアル 「てか、ここは書籍? テレビもパソコンもないわけ?」

智樹 「ラジオはあるぞ?」

ティアル 「…はぁ」

智樹 「あんだよ!?」



…………。



アリス 「ここは私とヴィーダの共同部屋だ」

ティアル 「…あら、随分と女の子らしいのね」

アリス 「初めからこうだったぞ?」

智樹 「……」

テラー 「……?」

ティアル 「アリスが揃えたわけじゃないってか」

智樹 「妹の部屋だ」

ティアル 「そう妹……て、妹ぉ!?」

テラー 「イ〜ト〜ト〜?」

ティアル 「妹いたの!?」

智樹 「今はイギリスだがな…」

アリス 「ユニオンジャック?」

智樹 「お前よく知ってるな…ていうか、どこから手に入れてくるんだその無駄知識…」

ちなみに、ユニオンジャックとはイギリスの国旗のことだな。
アメリカの国旗を星条旗、日本の国旗を日の丸というように、イギリスの国旗のことをユニオンジャックと言うそうだ。

ティアル 「なんで、イギリスに?」

智樹 「親父が外交官やってるからな…お袋と一緒に妹も、勤め先の英国日本領事館に行かせた」

ティアル 「もしかして、あんたっていいとこのぼっちゃん…?」

智樹 「…と、思えるか?」

ティアル 「…いえ、全然」

智樹 「…じゃ、そういうわけだ」



…………。



アリス 「次はティアルとイェスの……」

ティアル 「ちょっとまったぁぁぁぁっ!!!」

智樹 「あん? どうしたティアル?」

ティアル 「こ、この部屋には何にもないから、もう下行きましょ! ほら、早く!!」

アリス 「? 見られたら困る物でもあるのか?」

ティアル 「そ、そうよ! 悪い!? これでも一応女なのよ!?」

智樹 (顔を真っ赤にして言うあたり…マジらしいな…)

アリス 「どうする智樹?」

智樹 「家主が許す、開けろ」

アリス 「ん」

ティアル 「いやぁぁぁぁ!! きゃーーーーーっ!!!!?」

ギィィィ。

アリスはティアルの悲鳴を無視して、扉を開ける。
中は……。

智樹 「…いたって普通だぞ?」

ティアル 「へ……?」

中に入ってみたが、別にそうなにか変な物があるようには見えなかった。
とすると、タンスの中か?

ドタドタドタッ!

テラー 「……?」

イェス 「な、何事です!? 今、ティアルさんの悲鳴が!?」

そこへ、ドタドタと大慌てでイェスが2階に上がってくる。

ティアル 「イェ、イェスゥ〜……」

イェス 「智樹さん、これは?」

智樹 「ん〜、家内見学?」

イェス 「はぁ?」

ティアル 「イェス、私の仕事着は?」

イェス 「あ、洗濯中ですけど?」

ティアル 「よ、よかったぁぁぁ〜……」

智樹 「仕事着…ねぇ?」

ティアル 「想像するなぁっ!!」



…………。



…その後、風呂場、キッチン、居間と次々とテラーに紹介していったが、テラーがそれを認識したかどうかは…微妙だ。



智樹 「明日…学校で俺、居られないんだよな…」

ティアル 「学校に連れて行くわけにはいかないわね」

イェス 「私は、午前中は家に居られます」

アリス 「私は朝から昼までだ」

ティアル 「私は昼から夕方まで」

ヴィーダ 「ヴィーダはずっといるよ〜」

テラー 「ヴィパラァ〜?」

智樹 「…とりあえず、午前中はイェスとティアルにお任せだな」

ヴィーダ 「ヴィーダだっているよっ!」

智樹 「わかってるわかってる、ヴィーダにも期待しているよ」

ヴィーダ 「ぶぅ〜! 適当〜!」

テラー 「ト〜モ〜ピィ〜」

智樹 「う〜ん…大分俺の名に近づいてきたんだけどなぁ〜…」

テラーは僅か2日でかなり曖昧な喋りを行い、手を引っ張れば、動くことは動く。
最初は俺にしか反応しなかったが、次第にアリスに、他の者に反応するようになった。
この分を見ると、とりあえず俺が居なくなっても問題はなさそうだ。

智樹 「そんじゃ、そういうことで明日はよろしくな」

アリス 「ん」
ティアル 「ええ」
イェス 「はい」
ヴィーダ 「ほ〜い♪」
テラー 「ぽえ〜?」



…………。



『同日 時刻23:55 場所:???????』


アルド 「…こいつが唐沢智樹か?」

巫 「そうだよ、DOLLと融合するって点さえ除けば、なんてことのないただの子供だよ」

アルド 「へぇ…まぁ、今回は挨拶みたいなもんだ、アリスの完成度も見てみたいしな」

巫 「明日、仕掛けるのかい?」

アルド 「ああ…状況がよければ、近日中には…動くぜ?」

巫 「そん時はようやくあたしも表に出られるわけか」

アルド 「頼むぜ?」

巫 「任せな…」

コッペリア 「……」

アルド様と巫さんが悪いことを考えている。
アルド様は巫さんから渡された写真を見て笑い、近日中に何かを起こすと言う。
私は悪い娘だ…きっとお父様に背くことになるだろう。
だけど、私はアルド様のDOLL…人形は主人には決して背かない…。
だから私は、アルド様のために生き、そして死ぬ…。



…………。



『次の日 時刻12:45 某高校』


成明 「むぅ…今日も白姫嬢はこんな」

蛍 「最近、来てくれない日が多いよね」

智樹 「なんでかね?」

昼休み…俺はいつものごとく、いつものメンバーで昼飯を摂る。
白姫先輩が転校してきてからは、白姫先輩含む4人で食っていたんだが、今日も来る様子はない。
今日も……というように、ここ最近の白姫先輩は付き合いが悪かった。
時々、現れては俺と蛍を呼ぶこともあるけど、昼飯なんてここのところ1週間に1回程度にまで落ちてきた。
なんでかねぇ…?

蛍 「やっぱり、クラスメートと食べているのかな?」

智樹 「かもしれないな…ま、こないんじゃ仕方がない、俺たちも食おうぜ?」

俺たちはそう言って二つ連結した机を囲んで、飯を食べ始める。
白姫先輩…そういえば、来なくなったと思ったら、来たときに限って俺にとって不幸なことが多かったな。
今回もまさか、そっち系なのだろうか?
単に、俺たちよりクラスメートを優先しただけと思いたいがね…。

蛍 「ねぇ、智樹君、最近変わったことない?」

智樹 「変わったこと? いや…ないが?」

蛍 「そう」

智樹 「? どうしたんだよ、蛍?」

蛍 「別に」

成明 「ふ、智樹よ、霧島嬢はお前の隠し事を伺っているのだよ、何か隠してないか?」

智樹 「なっ!? べ、別に隠し事なんて…!」

て…もしかしてテラーのことか?
隠し事っちゃ隠し事だけどよぉ…。

智樹 「でも、なんでいきなり…?」

蛍 「だって…この土曜日、智樹君の家の前を通ったら、リムジンが止まってたもん…」

智樹 (げ…それってあの時の!?)

そういや、十数分、俺の家の前にヨハンが乗っていたリムジンがあったっけ…。
あんな目立つ車があったら…そりゃ不審がるわな…。

智樹 「て…なんで、蛍が俺の家の前を通ったんだよ!?」

蛍 「え!? え…えと…それは…」

智樹 「? 蛍?」

何か知らないが、いきなり蛍が顔を赤くする。

成明 「大方デートの誘いだろう、なんだか入りづらくて通り過ぎたんだろうがな」

蛍 「〜〜〜〜〜」(赤面)

図星か…そうか、デートか。
そりゃ残念賞だな、まぁ来てもそれどころじゃなかったろうが。

成明 「そういえば、霧島嬢よ。夏コミの方はどうなんだ?」

智樹 「夏コミ?」

蛍 「じ、神宮寺君! そ、それは智樹君には!?」

成明 「おっとすまんすまん、まぁ、こういうこともあるだろう…はっはっは」

成明はそう言って、うすら笑う。
こいつ…わざとか。
しかし…夏コミって…あれだよな…同人誌即売会の…。

智樹 「蛍…お前まさか」

蛍 「し、してないしてない! 夏コミに参加して、同人誌なんて売らないから!」

智樹 「そうか、サークル参加するのか」

蛍 「はううううっ!?」

蛍はこれでもかっと言うくらいに赤面していた。
そして、力なく机に倒れ、ゆっくりと顔を上げると…。

蛍 「はぁぁぁぁ〜……ヲタクじゃない…ヲタクじゃないのにぃ〜…これでマニアックなレッテルがぁ〜…」

智樹 (まぁ…蛍が意外とマニアックなのは事実だがな)

アニメ好きだし、ゲームも好きだ、オマケに本人は漫研所属ときた。

智樹 「ちなみに、夏コミでだす本は?」

蛍 「…えと、その……」

智樹 「まさか…BL系とかじゃないだろうな…?」

蛍 「ち、違う違う違う違う! 私そっち系の人間じゃない! ていうか、むしろそれなら百合を描く!」

成明 「ふ…それはそれでどうだろうな」

智樹 (百合って…結局のところBLと似たりよりけりだと思うのだが?)

ちなみに、分からない人に教えると、BLとはボーイズラブのことで、なんとも非生産的だが、男と男のラブものだ。
百合は、これが女と女になるだけ…て、受け入れがたい人にはとことん受け入れられない世界だな…。

智樹 「で、どんなの描くの?」

蛍 「は…はうぅ……その…少女漫画…系…の…」

蛍は超赤面したままそう言う。
そうか、少女漫画系か、やっぱ美少女系か。
でも、最近は逆もあるんだよなぁ…蛍はそっち系かなぁ…。

蛍 「し、失礼な想像しないでよ!? これでも、健全な方なんだから!」

智樹 「わ、わぁってるわぁってる!」

ごめんなさい蛍。
ちょっと、失礼な想像しちゃいました。
と、とりあえず心の中で謝っておく。

成明 「……そろそろ、昼飯時間がまずいぞ?」

智樹 「と、本当だ! 急げ急げ!」

蛍 「わわっ!?」

くだらない会話に花が咲くと、時間が経つのを忘れてしまう。
気がつくと昼休みは後10分と、かなり危機的状況。
ていうか、次体育だっつーの!



…………。



『同日 時刻16:00 某学校前:校門』


蛍 「…で、やっぱり隠し事あるんだよね?」

智樹 「…はぁ、本当にしつこいな」

蛍 「だって…心配なんだもん…また、無茶しないか」

智樹 「今回は本当に大丈夫だ、蛍が暴走するような何かもない」

テラーの件はA&Pからの依頼だ、アーティスの時のようなことはありえない。
だから蛍が知らなくても大丈夫だ。

智樹 「じゃあな、俺ぁ帰る」

蛍 「……」

スタスタスタ。

俺はマイホームへと向けて、足を動かす。
そして、蛍と別れた…つもりだったんだが、蛍が俺についてくる。

智樹 「…どういうことですかな?」

蛍 「うそつき」

智樹 「嘘って…おいおい…そうくるかい」

蛍 「大丈夫だって言うのだったら、証拠見せて!」

智樹 (はぁ…駄目だこりゃ。絶対引き下がらないな)

蛍って結構、頑固なところあるよなぁ…オマケに暴走癖があるし。

智樹 「わぁったよ…着いてこいよ、その代わり誰にも話すなよ?」

蛍 「……うん」

俺は蛍を連れて家へと向かうことにする。
テラーは謎のままにしときたかったが、蛍に疑われっぱなしというのも嫌だ。
因果応報かのぅ…。

しかし、家へと着く前に、俺の目の前には、とある一行があった。

テラー 「ぴぃやぁ〜?」

アリス 「ぴぃやぁ? なんだそれは?」

ヴィーダ 「突っ込んだらきりがないのぅ…」

智樹 「おい、そこの三人」

アリス 「! 智樹…と、蛍?」

蛍 「あ、久しぶり、アリスさん、ヴィーダちゃん…それと?」

アリス 「テラーだ」

テラー 「てりゃぁぁぁ?」

蛍 「あ…えと、初めまして、霧島蛍です」

テラー 「ほぱぱるぅぅるぅぅ?」

蛍 「は?」

智樹 「すまない、蛍…テラーは痛い子だから」
智樹 「ていうか、なんでお前らがこんなところにいるんだ!?」

ちなみに、こんなところとは、学校から300メートルほど離れたところで、いわゆる通学路だ。
幸い、周りに人影はないが、テラーはとにかく目立つ!
なんで、外出しているんだよ!?

アリス 「テラーに外の世界を教えていた」

蛍 「…あの、テラーさんって、一体?」

智樹 「俺もよくわからん。ただ、蛍が気にしているリムジンとこのテラーは関係がある」

蛍 「え…それって……!?」

アリス 「!」

ヴィーダ 「これって…!?」

智樹 「お、おい? お前らどうした?」

アリス 「殺気だ…それもDOLL特有の」

智樹 「はぁ!? ちょ…嘘だろ!?」

ヴィーダ 「ここは危ないの! 絶対、危ないの!」

智樹 「ち……! しゃぁない! いつもの公園だ!」

俺にはさっぱりわからんが、アリスたちは、DOLLが放つという特有の殺気を感じ取ったようだった。
俺はアリスに捕まり、大急ぎでいつもの寂れた公園に向かう。
ちなみに、テラーは都合上蛍が担いだ。



……………。



『同日 時刻16:25 某児童公園』


智樹 「お前ら武器は…てぇ…あるわけないか」

アリス 「ない…」

ヴィーダ 「ヴィーダもないのぅ…」

テラー 「ヴィパァ?」

俺はアリスたちを見て正直、絶望だと悟る。
剣にしろ斧にしろそんな物騒な物を持ち歩けるわけがないからな…。
持っていたら間違いなく警察に捕まるわ…。

蛍 「あの…私でよければ、あるけど…鞭」

智樹 「蛍?」

蛍はそう言うと、バッグから鞭を取り出した。
蛍…恐ろしい娘…よもや通学のバッグの中に鞭を入れるなんて。

智樹 「で…殺気は…?」

ヴィーダ 「!! アリスおねーちゃん危ないの!!」

アリス 「!?」

ヴォン!!!

今日はいつもより暗くなるのが早く、すでに影が見えない時間帯。
突然、アリスの真上から、一人の少女が襲い掛かってきた。
アリスはその場から一瞬早く動き、難を逃れるが、地面には一本のレイピアが突き立てれていた。

アリス 「!? お前は…!?」

智樹 「嘘…だろ…!?」

蛍 「!? どうしたの智樹君!?」

突然、アリスを強襲した少女…それは、見覚えのある少女だった。
抱きしめたら折れてしまいそうな、細い体…真っ白な髪、それをポニーテールにしている。
どこか、儚く…そして憂いのある瞳が…こちらを向いた。

智樹 「コッペリア!?」

蛍 「コッペリア…?」

そう、その少女は間違いなくコッペリアだった。
なんで…どうしてコッペリアが俺たちを襲うんだ!?

コッペリア 「お久しぶりです、智樹さん」

ヴィーダ 「間違いないのぅ…コッペリアおねーちゃん…」

アリス 「どうして…コッペリアが?」

コッペリア 「是非は問いません、私のマスターのため、あなたを討ちます! アリスさんっ!!」

アリス 「!!」

コッペリアはそう言うと、真剣な眼差しで、レイピアを構え、超スピードでアリスに襲い掛かる。

蛍 「くっ!」

コッペリア 「!?」

ピシィ!!

蛍の鞭が地面を叩く。
コッペリアはそれに反応して、瞬時に止まり、難を逃れた。

蛍 「ここは私が…!」

智樹 「ま、待ってくれ蛍! コッペリアは悪い奴じゃないんだ!」

蛍は会ったことがないから、知らないだろうがコッペリアは本当にいい奴だ。

蛍 「だけど! この人はアリスさんの命を狙っている!」

智樹 「コッペリア! 一体、どうしてなんだ!? なんでアリスを狙うんだ!?」

コッペリア 「言ったはずです……マスターのためだと!」

コッペリアはそう言うと再び、アリスに襲い掛かった。
俺は納得が出来なかった。
ただ、俺はアリスの前にたち、コッペリアに立ちふさがっていた。

コッペリア 「…! 一体なんのつもりですか?」

コッペリアは俺の目の前で止まった。

智樹 「コッペリア…お前みたいな優しいやつが、こんなことするなんて…よほどのことだと思う…だけど! だけど俺たちが戦うのはおかしい!」
智樹 「コッペリア、やめてくれ! 俺はコッペリアに戦って欲しくない!」

コッペリア 「…! く…智樹…さん、私は…私は…私はDOLLです!!」
コッペリア 「主人のために生き、主人のために死ぬ存在です! あなたが私の邪魔をするのなら、あなたを切ります!!」

コッペリアが剣を振り上げる。
俺は一瞬目を閉じた。
次の瞬間。

タァン! ビシィ!!

コッペリア 「!?」

智樹 「!」

突然、撃鉄を叩く音がすると、地面に何かが弾け、コッペリアは一瞬のうちに、俺たちが10メートルほど、離れた。

ティアル 「ギリギリセーフ……」

イェス 「大丈夫ですか、智樹さん!」

アリス 「ティアル! イェス!」

突然、ティアルとイェスが魂命をもって、救援に駆けつける。

ティアル 「ビンゴね! あの『男』の言っていた通りだわ!」

智樹 「あの男…?」

ティアル 「それより! どういうことかしらコッペリア!?」

イェス 「これはA&Pの差し金ですか?」

コッペリア 「いいえ、違います…これにA&Pは関係ありません…これは…」

アルド 「……俺の差し金だ」

智樹 「!? 誰だ…あんた!?」

突然、コッペリアの後ろから、一人の長身の男が現れる。
白いローブに身を包み、白い髪の毛が短くバラバラにされている。
青い瞳に、白い肌から…西欧人だということがわかった。

ティアル 「!? アルド!?」

イェス 「アルドさん!?」

智樹 「知っているのか!?」

ティアル 「…詳しいことは知らないわよ、ただ…アリス奪還のとき、こいつに私は『起こされた』」

智樹 「起こされた?」

ティアル 「そう…そして、智樹の抹殺と、アリスの奪還を命じられた!」

アルド 「ああ…そんなこともあったなぁ…ていうか、まだ生きているのかよデュミナスのくせに」

ティアル 「! 私はデュミナスじゃない!」

智樹 「デュミナス…?」

蛍 「『失敗作』って…それって……」

ティアル 「くっ! アルドォ! アンタを撃つのはためらわないわよ!?」

智樹 「…て、おい!?」

ティアルはアルドっていう男に向けて、銃を構えた。

アルド 「…いくぞ、コッペリア」

コッペリア 「はい、マスターアルド様」

ティアル 「アルドォ!!」

タァン!!

ティアルの銃から、弾が発射される。
しかし、アルドはその間にコッペリアを抱き寄せ、ぼそりと…『ある言葉を』言った。

アルド 「『融合(フュージョン)』…!」

キィィィン…!

蛍 「!? この光り…!?」

智樹 「まさか!?」

突然、アルドとコッペリアから目も開けられないほどの光りが発せられる。
この光り…そんなまさか!?

スパァン!

アルド 「へっ…大したこと無い弾だな」

突然、白装束に身を包んだアルドはレイピアを右手に持ち、コッペリアの姿がなかった。

アリス 「…まさか…融合?」

そう、それはまさしく融合だった。
アルドが…コッペリアと融合を果たした!?

アルド 「別に不思議なことないだろう? お前だってそいつらと融合できるだろうが?」

智樹 「…!?」

…考えてもいなかった。
気がついたらアリスたちと融合することに違和感を覚えていなかった。
でも、自分以外の人間の融合は考えてなかった。
自分だけじゃない…自分が特別なわけじゃない…。
それを…目の前で実証された…。

ティアル 「くっ!?」

アルド 「遅ぇよ!」

ドカァッ!!

ティアル 「がはっ!?」

智樹 「!? ティア…!?」

アルド 「ふっ!!」

イェス 「きゃあっ!?」
蛍 「ああっ!?」

ヴィーダ 「あ、あっという間に三人!?」

コッペリアと融合を果たした、アルドという男は、一瞬のうちにティアルを倒し、そのままティアルを蹴り飛ばして、蛍とイェスを倒す。
あっという間の神業…まるで戦いのランクが違う…!
これが…融合したやつ力…!
俺…俺たちは、こんな力で戦っていたのか!?

アリス 「くっ! 融合だ! こっちも融合するぞ、智樹!」

智樹 「お、おう…!」

アリスが手を伸ばす。
俺も手を伸ばした。
融合するためだ、しかし…その機会はあっけなく…なくなる。

アルド 「へっ!!」

ドスゥッ!!

アリス 「!?」

アリスのわき腹に、レイピアが刺され、レイピアがアリスの腹部を貫いた。

テラー 「!!!!!!!!!!!??????????」

智樹 「あ…アリスゥゥゥ!!!!?」

ヴィーダ 「い…いやぁぁぁぁっ!?」

テラー 「アリス…アリス…アリス…アリス…アリス!!!!!!!!!!」

アルド 「!?」

智樹 「テラー……ッ!?」

突然のことだった。
アリスの腹部が貫かれ、気が動転していた時、さらに混乱する事態が起きた。
テラーがなにやらアリスの名を激しく叫んだ瞬間、一切のざわめきがなくなった。
そして、場に…俺とアリスとアルド…そして、テラーをのぞいて、だれも居なくなった。

智樹 「!? ティアル…イェス? ヴィーダ…蛍!?」

アルド 「なんだ…どういうことだ…くっ!」

アリス 「あうっ!?」

智樹 「!? アリス!! きさまぁ!!」

アルドはレイピアをアリスの腹部から抜き、俺たちから距離を離す。
俺は倒れるアリスを急いで、抱きかかえた。

智樹 「大丈夫か、アリス!?」

アリス 「大丈夫…この程度の傷…」

智樹 「大丈夫ってお前…! 腹貫かれたんだぞ!? 重症だぞ!?」

アリス 「大丈夫…ほら…もう…」

智樹 「!? 傷が…!?」

アリスの貫かれた腹部を見ると、すでに回復を始めていた。
これも…IFの力なのか…!?

アリス 「…それより、みんなは?」

智樹 「わからない…どこへ行ったんだ?」

いつもの児童公園。
なんら変わりはなく、ただ気になるのは鳥のさえずりも、虫のさざめきも、風の音も…全てが聞こえない。
あたかも、まるで存在しないかのように…なにも感じないのだった。
よく感じてみると、すでに7月だというのに、暑ささえ感じない。

テラー 『我はガーディアン、運命を司るIFを守護する者…それを欲する者を駆逐する』

智樹 「テラー? どういうことなんだ、それは!? てか…テラー!?」

アリス 「ラウ? ロウ、セィア、パルゥ!」

智樹 「!? アリス…?」

アリス 「…! 智樹、テラーの言ったことが分かるのか? あの言語が…?」

突然、アリスが聞いたことのない言葉を喋り出した。
しかし、アリスはとても、不可解なことを言ったぞ…?
分かるのか…あの言語が?
どう言う意味…だ?

アルド 「Where am I!?」

智樹 「!? 英語…?」

テラー 『私の言葉は、世界に囚われない。私の声を聞いたものは、私の言葉を理解する』

智樹 「…それって…?」

アリス 「こう言いたいんだと思う、テラーの言葉は誰にでも馴染みのある言語で訳され、聞こえるって…」

智樹 「そんなの……ありえるのか?」

アリス 「今は日本語聞こえるな…不思議だ」

だけど、テラーのやつ、あいつIFを守護するとか言っていた…。
ついでにそれを欲する者は駆逐するとも…。

智樹 「テラー! ティアルたちはどこだ!?」

テラー 『この世界にはいない。ここは私が作り出した世界だ。鏡の向こうに私の世界はある』

智樹 「鏡……ッ!?」

俺は公園内に設置されていた、ミラーを覗き込むと、そこにはありえない光景があった。





ティアル 「痛たた…なんて奴よ…て、智樹!? アリス!?」

イェス 「くぅ…智樹さん!?」

ヴィーダ 「と、突然みんな消えたの〜!!? みんな何処行ったの〜!?」





智樹 「なんで…鏡の中にあいつらがいるんだよ!?」

テラー 『違う。それは正しくない。鏡の中に居るのは私たちだ』

智樹 「俺たちが…馬鹿な!?」

テラー 『馬鹿なことはない。これもIFの力の一部に過ぎない。この鏡の領域は私の世界であり、私がIFを欲する者を駆逐する世界』
テラー 『この世界に入ったら最後、抜け出すことは不可能』

アルド 「…け。そうか…なるほどな。こういうことだったのか」

智樹 「アルド…?」

アルド 「利用できるなら利用するつもりだったが…これじゃあしかたねぇな! 死んでもらうぜテラー!!」

テラー 『私は死すら許さない。この世界で死ぬとどう言う意味を持つか…わかるか?』

アルド 「知るかぁ!!」

テラー 『この世界で死ぬと。それは現実世界との別れを意味する…すなわち、お前という存在は無かったことになる』

アルド 「うおおおっ!!」

アルドはテラーに突っ込む。
テラーはいたって落ち着きを払っていた。
ただ…次の言葉を言った瞬間には、テラーと言う存在の危険さを物語った気がした。

テラー 『私は全にして、壱なる者』
テラー 『私よ。IFを狙う者を駆逐せよ』

ヒュンヒュンヒュン!!

アリス 「テ…テラーが一杯!?」

突然公園内に無数のテラーが出現した。

アルド 「なんだと!?」

テラー 『どうした? 私はこの無数に私の中の一人だ』
テラー 『この場に居るのは全て私本人ではあるが、この私たちを統率するのは一人の私だ』
テラー 『わかるか? この『666』体いる、統率を司る私が?』

コッペリア 『アルド様! いったいどうすれば!?』

アルド 「ち…一旦融合を解くぞ!」

キィィィン!!

突然、アルドは融合を解く。
なんで、解除したのかは知らないが、広いはずの公園がテラーで埋め尽くされたのはかなり気味が悪い。

智樹 「なぁ…俺たちも出られないのか?」

アリス 「…いや…多分出られる」

智樹 「!? マジか?」

アリス 「…ここがIFの力の一端が作り出した世界なら、IFの力ならこじ開けられるはず…」
アリス 「…やってみる…!」

アリスが目を瞑り、何かを考える。
恐らく、IFの力を使う気だ。
しかし、ここ最近日を増すごとにIFの力を使いこなしている気がする…。
もうすでにアリスは完全にIFの力を使いこなしているのか?

キィィィン!

智樹 「!? この光りは!?」

突然、俺とアリスが光りに包み込まれる。
まるで融合のときの光りだ。

アリス 「見えた…出る!!」

ヒュン!!



アルド 「……消えたか」

コッペリア 「どうするんですか?」

アリスさんと智樹さんは私たちの目の前で、IFの力を使い脱出をした。
IFの力を使えない私たちはこの世界から出ることが出来ない…。
一体どうすれば…?

アルド 「…決まっている、コッペリア! 全員切り殺せ! うおおおっ!」

ザッシュウウッ!!

アルド様は、懐に隠していた剣を取り出し、周囲にうごめくテラーを切る。
テラー一体一体は非常に弱いようで、何の抵抗も無く、切られて倒れた。

コッペリア 「くっ!!」

私も、テラーに切りかかる。
レイピアという都合上、切り裂くことは出来ないが、それでもなんとかテラーを倒しながら、前進した。

コッペリア 「はぁ!! ………!?」

ガッ!!

突然、後ろから、体を掴まれる…一体じゃない…何十体ものテラーの手が…絡みついて!?

アルド 「馬鹿な!? なんで…後ろから…!?」

コッペリア 「!? 再生している!?」

後ろを見た瞬間、私たちは驚愕した。
なんと、私たちが倒したテラーたちは、急激な速度で、自己修復を行い、何事も無かったかのように後ろから襲ってきたのだ。
忘れていた…この娘は不死身なんだ!

コッペリア (くっ!? やっぱりIFの力は、禁忌の力…私たちが手を出せる物では…!)

テラー 『どう足掻いても、自らの運命を作り出せない、あなた方うつろう者には私は倒せない』
テラー 『さぁ、最期としましょう…これで…』

アルド 「へ…てめぇが…本体かぁ!!」

一体のテラーが私たちに近づいた。
私たちはすでに何十体ものの、テラーに羽交い絞めにされ、身動きひとつ取れない現状だった。
それを見て、本体が近づいたのだろう。

ガッ!!

テラー 『!?!? な…!?』

アルド様は、左手につけていた巫さんからもらった手袋テラーさんの右腕を掴んだ。
その瞬間、私たちにしがみ付いていたテラーたちは、次々と力なく倒れていた。
いや、この場にいた666体のテラーたち全員が倒れている。

アルド 「へ…! どうだ…てめぇの力を奪われる気分は!?」

テラー 『馬鹿な…なんだ…体…重い…!?』

アルド 「へ……てめぇに触れているこの手袋はなぁ、そいつの持つ能力を固着して、取り出すことが出来る手袋なんだよ」
アルド 「もう、お前はこのテラーたちを統率することはできない、そしてこの世界の維持もな!」

ピシ…ピシピシ!

突然、世界に亀裂が走る。
地面に走るならともかく、空にまで亀裂が走っていた。

コッペリア 「アルド様…これは?」

アルド 「世界を維持できなくなってきたらしいな…ふん!」

テラー 「!?」

アルド様の右手がテラーの心臓にめり込む。
テラーはビクンと体を震わしたが、直後手が抜き出された時には、外傷は無かった。

アルド 「こいつが…お前の力を物質化したもんだ」

アルド様の右手にはぼんやりと光る謎の球体があった。
あれが、能力の塊?

テラー 『な…なぜ…貴様が、このような過ぎた力を!?』
テラー 『こんな力…このような世界に存在するはずが…』

アルド 「さぁな、巫の貰いもんだ。そして俺の切り札だ」

テラー 『く…おのれ……だが、おぼえているがいい…』
テラー 『私は……まだ完全ではない。IFがある限り、私はIFを守護し続ける…』
テラー 『必ずや…再び…貴様を……ああ…!?』

ガッシャァァァン!!

アルド 「ほう、安心した。この程度の力なら、あっても無くても意味が無いからな…へ、返してやるぜこの能力、時の狭間で回収しときな」

世界が一気に崩壊し、まるでガラスが割れたかのような音がすると、いきなり世界が真っ白になった。
そこはまるで虚無の世界のようだったけど、なにか光りを感じていた。

アルド 「出口はあっちか…行くぞ」

コッペリア 「は…はい」

アルド様はテラーから奪ったという能力を、その真っ白な世界に棄てた。
私はアルド様についていき、光の中に解けるのだった…。

アルド 「ついに…時代は動くぜ…一時は俺は混沌となる」
アルド 「しかし…すぐに…すぐに俺そのものが秩序になるのさ…ヒャハハハ…」

コッペリア 「……」






第19話 「IFという時代」 完


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