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第4話 「邪神」




俺たちは更に増えたふたりの仲間と共に、エレル山を越えようとしていた。
そして、今ようやくエレル山の頂上に着いたのである。
後は橋を渡り、山を下るのだが…。

悠 「もう、すっかり夜になっちまったな…」

それでも、山頂付近は一応明かりが設置されており、そこまで暗いわけではなかった。
だが、下の道はそうではない。
このまま進んでいくのは少々無理があるようにも思えた。

レイナ 「今日はここで野宿かな…」

ウンディーネ 「その必要はないで」

悠 「え? どうしてですか?」

俺はウンディーネさんに聞いてみる。
すると、ウンディーネさんは。

ウンディーネ 「このエレル山の頂上にはウチらの先生がおんねん」

ナル 「先生って、まさか…」

ノーム 「知ってるの? ナル姉ちゃん?」

ナルさんがそれを聞いて思い出したように。

ナル 「ゾルフ先生のこと…?」

ウンディーネ 「ほえ〜。なんで知っとるん?」

ウンディーネさんは驚いたように聞き返す。
ちなみにこっちは意味不明だ…。

ナル 「子供の頃はお世話になったから…」

ウンディーネ 「ちゅうことは、もしかしてガストレイス孤児院の出身!?」

何だか聞きなれない言葉が出てくる。
っていうか…ガストレイスって。
デリトール大陸の首都だよな。

ナル 「え、ええ…そうだけど、もしかしてウンディーネも?」

ノーム 「そうだよ! 俺たちは孤児院出身なんだ」

ナル 「そうだったの…」

ナルさんたちは、心底驚いたように顔で互いを見ていた。

ウンディーネ 「でも、いつ頃からおらんようなったん?」

ナル 「もう15年位前ね…。私が5歳の時に、イフリート師匠に引き取られたから…」

何か勝手に話が進んでいる。

ウンディーネ 「ほうか…ウチは6歳の時に孤児院に来たからそら、知らんわな…」

ノーム 「そうだったの? 俺はてっきり産まれた頃からいたんだとばかり思ってた」

ウンディーネ 「ウチはちゃうよ。言わんかったっけ?」

ノーム 「聞いてない」

って言うか聞いてたらいつまでも終わりそうになかったので、俺は話を切り出す。

悠 「あの、身内ネタはそこまでにして、そのゾルフ先生の家はどこに?」

我に返ったようにウンディーネさんがはっ、となる。

ウンディーネ 「あかん、忘れとった。この橋を渡ったらすぐやったと思うで」

ウンディーネさんはそう言って進行方向の橋を指差す。
一応それなりに大きな橋で、頑丈そうではあった。
だが、この大人数で一気に行くのはさすがに度胸がいる。

悠 「とりあえず、2人づつ行きましょう」

レイナ 「そうね…その方が安全よね」

ナル 「そこまで神経質にならなくても…」

とりあえず、俺たちはできる限り安全に橋を渡り、少し大きめの小屋の前に辿り着いた。
正直、俺は気が気じゃなかった…。

レイナ 「…悠?」

悠 「…何だ?」

レイナ 「あ…ううん、何でもない」

悠 「…そうか」

さすがに俺の不安を感じ取ったのか、レイナが話し掛けてきたが、どうにも言い切れなかったようだな。

ウンディーネ 「何? もしかして悠って高所恐怖症?」

悠 「……」

はぁ…こう言う時って、どうリアクションしたらいいのかな?

ノーム 「あれ、そうなの?」

レイナ 「……」

ナル 「ああ…成る程」

もう、レイナの気遣いが台無しだ。

ウンディーネ 「あははっ、まぁ誰にでも弱点はあるて! それよりも先生おるかなぁ?」

ノーム 「そりゃあ、明かりが点いているんだからいるだろ?」
ノーム 「それに、最近は孤児院の方にも顔出してないみたいだし」

ナル 「ほったらかしにしてるの?」

それはまずいだろう…。

ノーム 「ううん…シェイド姉ちゃんが、孤児院の面倒を見てるから」

また知らない名前が出てきた…。
知人だろうけど…。

ナル 「そう、シェイド姉さんが…」

悠 「それよりも、小屋に入れてもらいましょうよ?」

ウンディーネ 「そやな、また忘れるとこやったわ」

ウンディーネさんはドアをノックする。

ドンドン!

声 「はいはい…」

中から渋い声が聞こえる。
数秒ほど間があり、ゆっくりとドアが開く。
すると、例の先生らしき、老人が出てきた。
どっからどう見ても老人で、髭もすごかった。
完璧に白髪で、どこからどこがもみ上げなのかもわからないくらいだ。
服装は厚手のローブを着ていた。色は茶色だ。
杖は持っていない、真っ直ぐ立っている所を見ると、腰は大丈夫のようだ。
って言うか…もしかしてガタイいい?
結構身長のある老人だった。
少なくとも170以上はある。

ウンディーネ 「先生ぇ! お久しゅう!」

ウンディーネさんはびしっ、っと額に手を当ててポージングする。
それを見て、先生は笑顔で返す。
大らかな人だ…そう思えた。

ゾルフ 「おお…ウンディーネ。で、どうした今日は?」

ウンディーネ 「ちょっと一晩ほど泊めてほしいんやけど…」

ウンディーネさんは両手を目の前で合わせて、お願いのポーズを取る。
悩ましいポージングも完璧だ。

ゾルフ 「ふぉふぉふぉ…構わんよ。もう夜遅いしな…それにしてもえらく大所帯じゃのう?」
ゾルフ 「いつから、こんなに連れを作ったんじゃ?」

ウンディーネ 「まぁええやん! 悠! OKやて!」

俺はその合図を聞いて小屋に入っていく。
皆も、中に入ってきた。
中に入るといきなり大部屋で、ペンションのような感じだった。
木造の小屋で、中にはいくつかのランプが点いている。
部屋の中心には、大きな四角いテーブルが設置されており、椅子も8個くらいはあった。
大部屋だけでもそれなりに広く、10人位は大の字になって寝れる位だ。
他にもいくつか小さい部屋があるようで、正面にひとつ、その左右にひとつづつが見えた。
俺たちはある程度エリアを決めて、それぞれの荷物を置き、とりあえず体を休めた。

悠 「ふう…」

とりあえず、壁際に持たれかかり、床に座って俺は大きく息を吐く。
俺は南西の方角、入り口側の角の方にエリアを取った。
個人的に端っこが好きなだけだが。
断じて窓際族ではない。

レイナ 「体の方は大丈夫?」

そこへレイナが近づいてくる。
レイナは俺と向かい側のエリアだ。
ようするに北西側の角。
そこから順に東に向かって、未知さん、ウンディーネさん、ナルさんがエリアを構えた。
逆にこっち側は、俺から、ノーム、降さん、神次さんの順番だ。
一番東側で奥の部屋は、中でキッチンとトイレに分かれている部屋らしい。
正面の部屋はゾルフ先生の部屋で、西側の部屋は布団などが入っている大きな押入れだそうだ。
その押入れの中には、かなりの量の布団があったので、十分寒さには困らなさそうだ。

悠 「ああ、レイナの魔法は完璧だよ。俺のよりもよく効く」

俺はやや強がってそう言う。
実際には致死量に近い出血だったはずだ。
俺はかなり今貧血気味で、回復しているといっても、それは見た目だけだな。

レイナ 「そう…ありがとう」

レイナはほっとしたように胸をなでおろす、そして、やや小走りに自分のエリアに戻った。



ナル 「先生、お久しぶりです」

私はテーブルに座っている先生の方に向かい、挨拶を交わす。
すると、先生は私を見て驚く。

ゾルフ 「おお! もしかしてナルか? 15年ぶりじゃのう…元気にしとったか?」

ナル 「はい、おかげさまで」

そう言って、先生は私との再会を喜ぶ。

ゾルフ 「それでどうじゃった? 炎は扱えるようになったか?」

それを聞き、私は顔を俯け。

ナル 「……」

ふるふると首を横に振る。

ゾルフ 「そうか…ダメじゃったか。イフリート様は何と?」

ナル 「師匠自身にも…わからないそうです」

それ聞いて、先生も顔を俯ける。
これはもう15年越しの問題…。
結局はもう無理なことなのだろう。

ノーム 「ナル姉ちゃん、炎の精霊なのに炎が使えないの?」

ナル 「ええ…私は結局ダメな精霊なのよ」

言ってて自分でも空しくなってくる。
何故使えないのか、理由さえわからないんだから。

ゾルフ 「…ナルよ、大丈夫じゃ。いつかきっと精霊たちもわかってくれる。それまでは頑張るんじゃ」

ナル 「……」

実際には、私は精霊の声を聞くことすら出来ない…耳を傾けてもらえない。
私は相当、嫌われているのよ…。

ノーム 「頑張れよナル姉ちゃん! 俺でも魔法は使えるんだから大丈夫だって!」

ウンディーネ 「そういうもんでもないんよ…精霊なら、自分の属性にあった魔法は使えて『当たり前』や、それができへんのやから、ナルは悩んどんねん」

ノーム 「あっ、そっか…」

ノームはしまったと言う風に顔を俯ける。

ゾルフ 「まぁまぁ…今日はそんな暗い話をしに来たわけでもあるまい? もっと、色んな事を聞かせてくれ」

それを聞いて私は心持ち、明るい顔に戻す。

ナル 「はいっ、そうさせてもらいます」

こうして、夜遅くまで私たち精霊は再会の会話に花を咲かせていた。
そして、次の朝が来る…。



………。



悠 「…ん? 朝か」

上体を起こし、窓から外を見ると、今日もいい天気だった。
日差しからすると、まだかなり早朝だ。
もっと眠れるかと思ったら、どうも起きてしまったらしい。

ゾルフ 「悠…。少し聞きたいことがあるんじゃが、いいかな?」

突然、ゾルフ先生が俺の元にやってくる。
俺はぎょっとして、先生を見る。
まだ、他の人は寝ているようだ。

悠 「何ですか?」

ゾルフ 「あの、レイナという少女のことじゃ…」

俺ははいはい…と思いつつも、真面目に答えた。

悠 「黒い翼でしょ…。レイナはそんな不吉な娘じゃないですよ」

ゾルフ 「いや、いつからああなのじゃ?」

俺の考えとは裏腹に、先生はそう聞く。
至極真面目な顔だ。
俺はちょっと真剣に考え。

悠 「いつからって…産まれた時からじゃないんですか?」

少なくとも俺と初めてあった時から黒かった。

ゾルフ 「そうか、知らなければいいんじゃ」

そう言って、先生は少々強面な表情で背中を向ける。
俺は聞きたいことがあり、呼び止める。

悠 「先生…」

ゾルフ 「なんじゃ?」

先生は振り向き、昨日と同じような優しい表情をする。

悠 「先生は、黒い翼の伝説をご存知なんですか?」

俺はもしかしたらと思い、訊ねてみた。
それを聞いて、先生は思い返すように…悲しい表情をした。

ゾルフ 「…知っとるも何も、ワシは邪神戦争の生き残りじゃよ」

悠 「!?」

俺は心底驚いた。
まさか、そんな台詞が出てくるとは…。
冗談にしては笑えない。
何せ300年も前の話だぞ?

ゾルフ 「うむ…どうやら、時が来たようじゃの…皆が起きたら、全てを話そう」

悠 「は、はぁ…」

俺はよくわかないままそう返事した。



………。
……。
…。



やがて皆が起き、先生を中心に扇形に俺たちは並んで座る。

ゾルフ 「…全員、揃っておるな?」

ウンディーネ 「話って何?」

ゾルフ 「…今から話す。黙って聞いておれ」

一同 「………」

俺たちは黙ってゾルフ先生の話に耳を傾けた。

ゾルフ 「今より300年前、邪神戦争が勃発したのは知っておるな?」

俺たちは全員頷く。
レイナにはあらかじめ俺が説明できる範囲で教えておいた。

ゾルフ 「その戦争では、邪神ドグラティスが現世に復活し、この世界を支配しようとした…。じゃが、その邪神もひとりの人間の力により封印された」

ナル 「ちょっと待ってください! 邪神は滅んだのでは!?」

突然ナルさんがツッコム。
どうやら、ヤバげな話らしい。

ゾルフ 「それは、歴史書での話じゃ。実際には滅んでおらん」

ナル 「じゃあ、また復活すると?」

さすがに話がヤバイ。
大体、復活したとしても…。

ノーム 「でも、そんなの俺たちには関係ないんじゃないの? もしかしたらずっと先の話かもしれないじゃん」

そうそう…やっぱりそうだよな。
だが、先生の表情が全てを語っていた。
…マジかよ。

ゾルフ 「いや、もうすぐ復活する」

俺たちは全員凍りついたように、沈黙した。
俺はふとゴンズの言葉を思い出す。
まさか、本当にゴンズの予感が当たるなんて。

ゾルフ 「そして、その邪神を倒すのはお前たちじゃ」

悠 「なっ…!?」

レイナ 「……!?」

ウンディーネ 「んな、あほな…」

ナル 「無茶言わないでください! 私たちにそんなことできるわけないじゃないですか!!」

ナルさんの言い分ももっともだ。
そんな物は俺たち子供の出番じゃない。
と言ってもナルさんやウンディーネさんは大人か…。
ゾルフ先生は冷静に話しつづける。

ゾルフ 「今すぐにとは言わん…それまでに強くなるのじゃ」

悠 「そんな…俺たちはまだ子供ですよ?」

俺は呆れながらもそう返す。
無茶がありすぎだ。

ノーム 「そうだよ! それにもうすぐっていつなんだよ!?」

ゾルフ 「後、半年もあるまい…」

レイナ 「そんなにすぐに…」

悠 「なんで、そんなことがわかるんですか?」

ゾルフ 「…黒い翼の少女が現れたからじゃよ」

全員がレイナに注目する。
レイナは若干怯えているようにも見えた。

レイナ 「!?」

悠 「レイナが…?」

ゾルフ 「そう…その黒い翼は、邪神の力の影響によって黒くなったのじゃ」

レイナ 「邪神の力…」

ゾルフ 「うむ…邪神が封印されてある内はそんなことはないはずなのじゃが、どうやら何者かが、一部復活させたのじゃろう」

ナル 「一部?」

ゾルフ 「うむ、邪神は計6体に別れた。その内のひとつが目覚めたのかもしれん」

悠 「じゃ、まだ完全体じゃないってことか…」

つっても、普通じゃない。
相手は神だ…俺たちが戦って勝てるとは到底思えない。

ゾルフ 「うむ、じゃが今のお前たちではそれを破壊することもできん。お前たちが強くなる頃には邪神は目覚めるじゃろう…」

悠 「そんな…神様に勝てっていうのかよ…」

ゾルフ 「お前ならそれができるのじゃぞ? 聖魔 悠」

悠 「なっ…?」

全員が俺を注目する。

ゾルフ 「お前は…300年前、邪神を倒した戦士、ユシルの力を受け継ぐ者なのじゃ…」

悠 「俺、が…?」

信じられなかった。
何で俺がそんな凄い人の力を?
大体、それって俺がその人の息子とか言うわけ、か?

ゾルフ 「正確には子供ではない。だが、力は紛れもなく本物じゃ」

悠 「俺の中にある力が邪神を倒した力だと?」

ゾルフ 「そうじゃ」

馬鹿馬鹿しい。
俺にそんな力があるわけない…。
とも思えなかった。
時折吹っ飛ぶ意識。
どう考えても普通じゃない身体能力、魔力。
思い当たる節はいくらでもあった。

悠 「……」

ゾルフ 「…思い当たる節があるようじゃな」

ぴたりと言い当てられる。
俺は反論できなかった。
何が邪神だ…。
そんなの国の偉い奴らがやればいいんだ。
俺はまだ子供だぜ…。

レイナ 「…私は、信じます」

悠 「レイナ!?」

俺の予想を覆してレイナが強くそう言う。

レイナ 「私は戦います! ゾルフ先生! 方法を教えてください! 私たちなら勝てるんでしょ!?」

ゾルフ 「うむ、今は無理でも戦力を整えれば、勝てるはずじゃ」

レイナ 「だったら、教えてください! 私は戦います!!」

悠 「な、何言って…」

俺はさすがに止めようとする。
だが。

レイナ 「悠、私は戦うわ。止めてもダメ。だって、それが私の運命のような気がするの!」
レイナ 「怖くないと言えば嘘になる…でも、このまま逃げつづけても私の記憶は戻らない気がするの…」
レイナ 「それに、私の記憶も多分…邪神のせいなんだと思う」

悠 「…レイナ」

レイナの意思は硬かった。
俺が何を言ってもレイナは戦うだろう。
それぐらいの意思の強さを感じることができた。

神次 「ふふふふふ…ハーーーッハッハッハ!! ついに、ついにこの私の力が必要になる時が来たようだな!!」
神次 「邪神など恐れるに足らず!! この私の前には屑星同然!!」

降 「神次さん。話がややこしくなりますから、ちょっと外に出てましょう」

神次 「おい! 降! 何をする! 離せーー!!」

神次さんは降さんに連れられて外に出た。
降さんってやっぱり結構力あるよな…。
そして、未知さんが何かを悟ったように。

未知 「あの…私もわかります。とても邪悪な気が感じられます…どんどん大きくなっていって、今はまだ小さいですけど、いずれは世界をも飲みこむほどの邪気が…」

ゾルフ 「なんと…わかるのか?」

未知 「はい。はっきりと…今まででもこんなことはありませんでした」

未知さんまでもがそう言う。
本当にそうなのか?
皆で俺を担ごうとしているんじゃ…。

ゾルフ 「…悠、決断は君に任せる」
ゾルフ 「だが、どうあっても我々は戦わねばならん」
ゾルフ 「無論、君に無理強いはしない。君が自分で決めなさい。君が『戦えない』というならば、他の方法を使う」
ゾルフ 「そのために、ワシが死ぬことになってもな…」

悠 「!? どういうことですか…?」

ゾルフ 「君の中にある力を、ワシの命を使って『戦える者』の体に移す」
ゾルフ 「そうすれば、その者がきっと邪神を倒す。世界が救われるのならば、ワシのような老人の命、いつでも差し出そう…」

悠 「……」

ドクン…

鼓動が大きく感じる。
俺は、どうする?

レイナ 「…悠、私は戦う。たとえ、ゾルフ先生が死ぬことになっても、多分私は戦う」
レイナ 「悲しいけど…地球が邪神の手に渡ったら、きっと…もっと悲しい」

俺は震えながら語る、レイナの頬を伝う涙を見て、決断した。
レイナが怖くないわけがない。
色んな意味でレイナは自分を取り戻そうとしている。
悩むことなんてない。
俺はレイナを守るって言ったじゃないか!!
その俺が自分で決めたことも守れないなんて…。

悠 「先生…俺がやります」

ゾルフ 「うむ…わかった。では、これからのことを説明しよう」

ウンディーネ 「ちょい待ち!! ウチらの事忘れてへんか!?」

ウンディーネさんが突然挙手する。

悠 「ウンディーネさん!?」

ノーム 「そうだよ! 俺たちだってやるぜ!!」

未知 「及ばずながら、私も」

レイナ 「ノーム、未知さん…」

皆が立ち上がって手を取り合う。
本当に邪神と戦うって意味わかってんのかな?
それでも、俺は皆の上に手を重ねる。

ガチャ!

神次 「ふっはっはっは!! 邪神など、この私の力で滅ぼしてくれるわ!! 世界を統一するのは邪神ではなく! この私だーーー!!!」

降 「はいはい…もういいですって…あっ、僕たちも戦うという事で話を進めておいてください」

ガチャ…バタン!

そう言って、降さんはまた神次さんを外に出す。

神次 「ええーーーい!! はむかうなーーー……!!」

見事なドップラー効果だ。

悠 「………」

レイナ 「それじゃ、このメンバーで行くんですね?」

ナル 「…あんな馬鹿に先越されたのが悔しいけど、一名追加ってことで」

最後まで、考え込んでいたナルさんが、結局挙手する。

悠 「ナルさん…」

結局全員ってわけだ…。

ゾルフ 「ふふふ…良き仲間に恵まれたの…」

レイナ 「それで、方法とは…?」

ゾルフ 「うむ、それは…」

その時、突然風が吹きこんできた。
小屋の中だと言うのに、まるでこれは…。

ビュウーーー!!

悠 「突風!?」

ゾルフ 「まずい! 敵じゃ!!」

一同 「!?」



ズバァーーーアンッ!!!


突然、小屋が破壊される。
咄嗟にゾルフ先生が魔法で俺たちを防護し、大事には至らなかった。
だが、小屋の壁や屋根は完全に吹っ飛んでいた。
相当の魔法だ。
俺は剣を取って外に出る。
すると、昨日の少年が立っていた。

悠 「貴様! あの時の!?」

少年 「今回はお前に用はない」

悠 「何っ!?」

レイナ 「悠! 大丈夫?」

そこへ、レイナが現れる。
もしかして…。

少年 「目標発見…これより任務を遂行する」

悠 「何だと!?」

少年の周りに砂塵が舞い上がり、少年は空を飛んで、突進してくる。

悠 「!?」

だが、少年は俺の横を通りすぎて、レイナを狙う。

悠 「レイナ!?」

レイナ 「きゃっ!」

ガキィン!!

その時、俺は幻覚を見たのかと思った。
なんと、少年の剣をひとりの男が止めていた。
そいつは俺の知ってるやつだったから、そう思ったんだ。
何であいつがここに?

悠 「バル!!」

そう、間違いなくそれは俺の親友、バルバロイ・ロフシェルだった。
バルは少年の剣を大剣で止めていた。
かなりの大きさで、クレイモア以上の大きさだ。
いつの間にあんな剣を…。

少年 「!?」

少年は驚いたように、バルを見る。
そして、危険を察知したのか上空に逃げる。

悠 「バル! どうしてここに?」

俺はバルに近づこうとすると。

ゾルフ 「いかんっ! レイナ、退がるのじゃ!!」

そうゾルフ先生が叫んだとほぼ同時に。

ドスッ!

悠 「なっ…?」

場が凍りついたように思えた。
一瞬周りの色がモノクロに変わる。
そして、俺はあの時のことを思い出していた。
なぜなら、バルは懐から短剣を取り出し、後ろにいる無防備なレイナの胸を貫いていたからだ。

ドシャアッ!

スローモーションのようにレイナは地面に倒れ、ピクリとも動かない。
そして、止まった時が動き出したように…レイナの体から血が流れてくる。

ドクン!

また鼓動が大きく感じる。
何だ、この感覚は?

ナル 「レイナ!!」

ウンディーネ 「んな、あほな…」

ノーム 「レイナ姉ちゃん!!」

未知 「レイナさん…?」

降 「!? レイナちゃん!」

神次 「な、何だ? あいつは…!?」

悠 「……」

ドクン!

バル 「ふっ、これで俺たちの仕事は終わりだ…」

バルがそう言うと、少年は地上に降り、バルと肩を並べる。

悠 「バル…どういう事だ!?」

俺は怒りを抑えてそう叫んだ。
俺の鼓動はより強く感じた。

バル 「ふん…説明しても理解はできんだろう?」

悠 「何だと…!?」

俺はすでに理性がなくなりかけていた。
だが、今なくなるわけにはいかない。
理由を聞く必要がある。

バル 「お前はそいつの相手をしてもらおうか…」

そう言って、バルが指差した方向には。

レイナ 「…ぅぅぅ……ぅぅ」

俺の後ろで、レイナが立ちあがっていた。
しかも、いつの間にか傷が再生している。
だが、おかしかった。
そう、誰が見てもそう思えたはずだ。
なにやら、レイナの髪は浮き上がり、翼は変形して大きくなっている。
そして、なにやら唸り声を上げていた。
まるで、魔物のように。

悠 「レ、レイナ…?」

レイナ 「ぅぅぅ……あああああああああああっ!!!」

レイナは突然叫び出す。
それと同時に、何やら体が重くなった。

ナル 「な、何!?」

ウンディーネ 「か、体が…。言うこときかへん…」

ノーム 「なんで、急に…」

未知 「…うう、すごい邪気。こんな巨大な邪気は…き、危険です!」

降 「く…ダメだ……・立っていることすらできない…」

神次 「ぐうう…馬鹿な! この私が、1歩も動けんというのか!?」

悠 「レ、レイナ…!!」

全員が体の自由を奪われている。
だが、バルと少年はまるで平然としていた。
俺はかろうじて立っていることができ、体を無理に動かす。
正直かなり辛い…。

ゾルフ 「悠! レイナは邪気によって、暴走しておる!! 止めるのじゃ!!」

悠 「なんだって…?」

暴走…?
どうしてレイナが…?
俺はもう一度バルを見る。

バル 「……」

バルはさも嬉しそうにほくそ笑んでいた。
なるほど…初めからこれが目的だったわけかよ…。
どうしてバルがこんな事をしたのかはもうはどうでもよくなった。
今はレイナを何とかしなきゃ…。

悠 「レイナッ!!」

俺は力を振り絞って、レイナに歩み寄る。

レイナ 「ウワァァァァァァァァッ!!!」

レイナは絶叫と共に、俺を素手で切り刻む。

ズバァッ! ザシュッ!

悠 「ぐ…!」

まるで刃物で切り裂かれたような感覚だ。
レイナの爪から俺の血が滴り落ちる。
どうやら肉体的にも変化しているらしい。
恐らく、これが邪神の力だ。
勘だが、レイナの翼は邪神の影響だそうだ。
なら、何故関係するのか?
単純に、レイナの体には邪神の力が眠っている…そんな気がした。
俺の体にも似たような物があるんだから。

ウンディーネ 「悠!」

ノーム 「悠兄ちゃん!」

俺は構わず前進する。

ドシュッ! ザシュゥッ!!

レイナは俺の体を切り刻み続ける。
やがて、俺の体は血まみれになり。もう、立っていることもできはしなかった。
だが、どうにかレイナを抱き止めることができる距離に辿り着いた。

悠 「…レイナ」

俺は倒れ掛かるようにレイナに抱きついた。

レイナ 「グゥゥゥァァァッ!! アアアアアアアァァァッ!!!」

ズシャアッ!

その瞬間、レイナは叫び、俺の腹を貫いた。

悠 「……!!」

俺は喀血する。
だが、俺はレイナを離さなかった。
むしろ、絞め殺さんばかりの力で俺はレイナを抱きしめた。

悠 「……」

声は出ない。
もうそんな気力はない。
でも、何故だかレイナの心が感じることができた…。
怯えてる。
怖いんだ。
でも、大丈夫。
もう、ひとりじゃないだろ…?

レイナ 「……!?」

レイナの動きが止まった。
俺の心の声が、聞こえた…?
そう思った時、レイナの声がふと、頭に響いた。

レイナ (悠……?)

悠 (なんだい? レイナ…)

レイナ (悠は、私の側にいてくれるんだよね? 私をひとりにしないよね?)

悠 (もちろんだ。でも、俺だけじゃない…)

レイナ (え…?)

悠 (俺の他にもナルさんがいるし、ウンディーネさんやノーム。それに、神次さんや降さん、未知さんも仲間なんだから…)

レイナ (一緒にいてくれる…?)

悠 (ああ。だから、もうそんなに怯えなくてもいいよ…)

レイナ (うん…ありがとう、悠)

俺の意識はそこまでだった。
後は俺は地面に吸いこまれるように、レイナの足下に倒れた。

ドサッ…



レイナ 「…悠?」

気がついたら、悠が足下に倒れていた。

レイナ 「悠!! 悠!!」

私は悠の名を叫びながら、悠の体を起こす。

悠 「………」

悠は何も答えなかった。
目を閉じて、ぐったりしていた。

レイナ 「嘘…。悠…イヤァ!! 悠、死なないで!!」

私の命はどうなってもいい!! 悠を救えるなら!!

ナル 「…レイナの翼が!?」

ウンディーネ 「光っとる…?」

ノーム 「何だ? 心地良い…」

ゾルフ 「おお…あれは…」

私はただ、悠の傷を治すことを考えた。
すると、私の中に何かあるような気がした。
私はそれを迷わずに解放した。

カアァァァァッ!!

未知 「ま、眩しい…」

降 「…レ、レイナちゃん?」

神次 「!? 光の翼だと〜!」

私は全力で持ちうる最高の回復魔法を唱えた。

レイナ 「ブレス・ライト!!」

悠の体が白い光に包まれ、傷がみるみるうちに癒えていく。

レイナ 「悠…?」

私は悠の容態を確かめる。

悠 「………」

見ると、悠はすーすーと寝息を立てていた。

レイナ 「よかった…」

奇跡でも起こったのだろうか?
でも、助けられた。
私は悠を強く抱きしめた。
でも、まだ危機は去っていなかった。

ザシャッ

ふたりの人間が私の前に立つ。

バル 「…なるほど、確かに大した力だ。光と闇の力を備えているわけか」

少年 「どうする?」

バル 「命令通りだ、コントロールできないならここで殺しておく」

少年 「了解した」

レイナ 「バルバロイ! どういうことなの!? その子もあなたが送りこんだの!?」

バルバロイはそれを聞くと、微笑し。

バル 「正確には、俺も送りこまれたんだがな…」

レイナ 「どういうこと…?」

全くわからなかった。
でも、バルバロイは今は敵であるということだけは分かった。
私は剣を構える。

バル 「俺たちふたりを相手にやる気か?」

レイナ 「今戦えるのは私だけ…やってみせるわ!」

バル 「ふっ…お前など、俺が出るまでもない。クルス、任せるぞ」

バルバロイはそう言って、数歩後ろに退がる。
そして、クルスと呼ばれた少年が剣を構える。

クルス 「了解」

直後、クルスが突っ込んでくる。

レイナ 「!!」

このクルスは悠でも勝てなかった相手、でも…。

レイナ (私が…やらなきゃ!)

ビュンッ!

私は一気に翼を羽ばたかせ、上空に飛びあがる。

クルス 「!?」

ギュンッ!

クルスも、すかさず私の後を追って飛びあがる。

レイナ 「スピードでも、向こうの方が上…」

でも、私のスピードに風の魔法を加えれば…。

レイナ 「エア・ウイング!!」

私は風の力によって、スピードを加速させる。

クルス 「!? 早い!」

私はそのスピードのままクルスに向かって剣を振り下ろした。

ガキィンッ!

クルス 「ぐ…」

クルスは勢いに負け、スピードが落ちる。
私はこのチャンスを逃さない。

レイナ 「はあああっ!!」

私は更にスピードを上げて2撃目を放つ。

クルス 「ちぃ!」

ザンッ

クルスは瞬時に身を捻り、致命を避けた。

レイナ (私よりも小さな子供だけど、ごめんなさい! 私はここで倒れるわけにはいかないの!)

私は覚悟を決めて、クルスにとどめをさそうとした。

クルス 「ふっ…」

直後、クルスが視界から消える。

レイナ 「そんなっ!?」

魔法を使った私のスピードより早い!?

バル 「クルスは風の十騎士。スピードだけならば世界でも最速だろう」

クルス 「ここまでだ」

クルスは私以上のスピードで、突っ込んできた。

レイナ 「!?」

ガキィンッ!

私は剣で受けるが、衝撃に耐え切れず、地面に向かって吹っ飛んだ。

ナル 「レイナ!!」

ドンッ!

レイナ 「!? ナルさん!」

なんと、ナルさんが私を受け止めてくれた。

ナル 「大丈夫? レイナ…あうっ!!」

ナルさんはどうやら、私を受け止めた時に腕を痛めた様だった。

レイナ 「ナルさん…ごめんなさい」

ナル 「いいわよ…それよりも、ひとりで戦おうなんて思わないで! 私たちも戦えるのよ?」

レイナ 「え?」

見ると、ウンディーネさんとノームも立ちあがっていた。

ウンディーネ 「今、レイナを死なせたらあかんからな!」

ノーム 「俺だって、サポートぐらいはできるぜ!」

レイナ 「でも、体は?」

ウンディーネ 「もう動けんほどやない。十分戦えるで!」

ノーム 「おう!」

ナル 「レイナ、あなたはあっちのバルバロイの相手をしなさい!」

レイナ 「え…」

ナル 「クルスも一緒に相手をしていたんじゃ勝ち目はないわ…でも、バルバロイだけなら勝てるかもしれない…」

レイナ 「でも、バルバロイはもっと強いパルス(気の波長)を感じるわ」

ナル 「でも、勝たなきゃならない! そうでしょ?」

レイナ 「わかった…」

ナル 「ごめんなさい、でかいことを言っても、わたしはこの腕じゃ戦えないわ…」

レイナ 「大丈夫です。ゆっくり休んでください」

バルバロイ 「…さすがに、あれだけの数はクルスひとりでは辛いか」

バルバロイはそう言って私の方を向く。

レイナ 「バルバロイ…」



ウンディーネ 「よっしゃ! ノーム、サポート任せたで!」

私がそう言うと、ノームはすかさず魔法の集中に入る。
そして、地上にいるクルスに向かって魔法を放つ。

ノーム 「おう! くらいやがれ! ストーン・シャワー!!」

ノームの唱えた魔法により、地面から弓矢ぐらいの尖った岩が空中に飛び出し、クルスの上から多量に降り注ぐ。

ヒュヒュヒュンッ! ヒュヒュヒュンッ! ヒュヒュンッ!

クルス 「くっ…!?」

ザシュッ! ドスッ!

クルスはかわし切れずに地上で動きを止める。

ウンディーネ 「もろたで!!」

ウチは全力を込めてクルスの顔面に右回し蹴りを放った。

バキィ!

クルス 「ぐっ!」

クルスはウチの蹴りを受けて、ズザザザザッと地面を転がった。
強い言うても、子供の体重や、肉弾戦では不利やでっ。

クルス 「く…!」

ウンディーネ 「くらい! アイス・ランサー!」

ウチは右手に氷の槍を生み出し、それをクルスに投げつける。

クルス 「ちぃ! サイクロン・カッター!!」

ゴオオオオオッ!!

クルスの魔法が放たれると、真空の巨大な竜巻が槍を砕き、ウチらを襲う。
せやけど、魔法で精霊族に向かうのはただの阿呆やでっ。

ウンディーネ 「ノーム! 頼むで!!」

ノーム 「おっしゃーーー!! アース・ウォールッ!!」

ノームの魔法で、地面から竜巻よりも巨大な岩の壁が一瞬で現れる。

クルス 「何!?」

竜巻はその壁に当たり完全に消滅する。

ウンディーネ 「わかったか? 風と地の魔法は相殺するんや! しかも地の精霊でもノームの魔法は筋金入りや!」

ノーム 「そう言うこと!」



レイナ 「バルバロイ…あなたどうして? 敵に操られているの?」

今更とも思ったが、やはり聞いておきたかった。
だって、悠はバルバロイのことを親友だと言っていたのに…。

バル 「…俺は邪神の力によって生み出された邪獣だ。ゆえに初めからお前たちの敵だ」

レイナ 「…なら、どうして悠を騙したの!!」

バル 「あいつは邪魔だからな…油断させておけば、楽に殺せる」

レイナ 「邪神の1部はあなたが復活させたの!?」

バル 「そこまで敵のお前に話す気はない」

バルはそう言って大剣を抜いた。
バルは普通両手で扱うような大剣を片手で構えた。

レイナ 「あなたは何故…?」

私は疑問が離れなかった。

レイナ (このバルバロイからは、邪悪なパルスがそこまで感じられない…)
レイナ (ううん、それならあのクルスと言う少年もそう)

何故かはわからないけど、いつのまにかそんなことが分かるようになっていた。
悠のおかげだろうか?
人の心の色がわかるようになった。
バルバロイやクルスは、邪悪なパルスを持っていない。
私はなんとなく、ふたりが誰かに操られているような気がした。
いつからかはわからない。
でもそんな気がした。

バルバロイ 「いくぞ!」

レイナ 「くっ…!!」

私は突っ込んでくるバルバロイの剣をかわし、距離を取る。
スピードはクルスより数段下だけど、パワーは数段上だわ。
一撃食らえば、それで終わりかも…。
私は、魔法の集中を始めた。
本気でやらないと、私が死ぬことになる。
今私が使える、最強の魔法を!

バルバロイ 「させると思うのか!!」

バチバチィ!!

レイナ 「きゃあ!!」

私の体を突然電撃が襲う。
私は地面に倒れ、苦しむ。

レイナ 「…な、何?」

バル 「ふ…お前の魔法が強力なのは分かりきっている、だが、強大な魔法ならばたやすく止めることもできる」
バル 「そして、俺がお前に魔法の溜めを許さない限り、俺は負けることがない」

レイナ 「くっ…!」

私は体を無理に起こす。
正直、あの悠に使った魔法の影響がかなり大きい。
あれで魔力自体が切れかかっている。
せいぜい一発が限界。
それでも、バルは私に魔法の溜めを許さない。
どうすれば…剣の勝負は圧倒的にこっちが不利。

レイナ 「……?」

私はここでふとあることを思いついた。
これなら…いけるかもしれない。
でも…。

レイナ (バルバロイはそれでも私より早く魔法を放てる)

それが問題だった。
バルバロイは小さな魔法で私の動きを止めることができる。
魔法の溜めなら私の方が数段早いはず。
それでも、バルバロイを一撃で倒すほどの魔法となれば、どうしても時間がかかる。
溜めの時間さえあれば…!


ナル 「くっ…まずいわ、このままじゃ!」

未知 「ナルさん…私が」

未知が座り込んで動けない私の側に来る。
どうやら、未知はそんなにダメージがないようね。
未知は私の体に手をかざして、何やら集中する。

ナル 「未知…? あなた回復魔法を?」

未知 「いえ、私に魔法は使えません…これは、神力の一部です…効果は期待できませんけど」

パァァァ…

優しい光が私を包む。
これが…神力?

ナル 「……!」

体が動く。
腕の痛みもなくなった。
効果は期待できないって…十分よ!

未知 「ごめんなさい…今は、これが精一杯です」

そう言って、未知は息を切らしてその場に座り込む。
逆に、私は立ち上がってレイナを見る。

ナル 「ありがとう未知! ゆっくり休んでて!!」

私はレイナの側に向かう。



バル 「ふっ…諦めろ。お前に勝ち目はない」

レイナ 「それでも…私は諦めない!」

ナル 「そうよ、その意気よ!」

突然後ろから声がする。

レイナ 「ナルさん!?」

ナル 「何とか戦線復帰…これからが本番よ!」

バル 「ふ…何匹来ても同じことだ」

ナル 「さ〜て、それはどうかしらね」
ナル 「(レイナ…私が時間を稼ぐから)」

レイナ (えっ!?)

ナルさんはそう言ってバルバロイに突っ込む。
私はすぐに魔法の集中に入る。

レイナ 「失敗は出来ない…!」



バル 「お前の考えはわかっている、レイナに溜めを作らせる気か」

ナル 「わかっていても、止められるかしら?」

私は全身に気を巡らせる。
そして、バルバロイの剣を私は受け流す。

ズドオッ!

地面がえぐれ、バルバロイは動きを止める。

バル 「お前は! 闘気を扱えるのか!?」

ナル 「その通り! 動き…止めさせてもらうわよ!!」

バル 「ちぃ!!」

ナル 「なっ!?」

バルバロイは力任せに剣を振り下ろしたところから横薙ぎに振り回す。
私は咄嗟に空中に跳び上がって避ける。

ナル 「冗談でしょ…? 何て馬鹿力」

バル 「勝てると思うなよ!」

レイナ 「それは、あなたの方よ! バルバロイ!!」

バル 「!? しま…っ!」

バルバロイが回避行動に移る前に私は照準を合わせて両手を前にかざす。
そして、ゴンズさんから貰った光の魔石の力も入れて、全力で魔法を放つ。

レイナ 「ホーリィーーー・ブラスタァーーーー!!」

バル 「馬鹿な!? どこにこれほどの魔力が!!」

ギュアアアアァァァァァァァァァッーーーーー!!!

白い閃光が直径2メートルぐらいの光線となり、バルバロイを飲みこむ。

バル 「うおおおおぉぉぉっ!!」

バルバロイは咄嗟に回避しようとするが、間に合わずに吹き飛ぶ
そして、当然のようにバルバロイは崖から落ちる。

バル 「………」

バルバロイは気絶したのか、無造作に落ちていった。

レイナ 「はぁ…はぁ…」

ナル 「お疲れ様…良くやったわ」

レイナ 「は、はい…」

私は座り込んで、そう答えた。
もう、空っぽだわ…。



クルス 「!? バルバロイ!」

ウンディーネ 「どこ見とんねん!!」

ウチはよそ見をしているクルスに向かって右回し蹴りを放つ。

クルス 「くっ!」

クルスは両手を上げてガードするが、小柄で軽量なクルスは吹っ飛ぶ。

クルス 「くそ…失敗だと……?」

クルスはよろよろと立ちあがって、自分から崖に落ちていった。

ウンディーネ 「なっ!?」

だが、クルスはそのまま魔法で飛び去っただけだった。
バルバロイを助けるつもりなのだろうか?
どっちにしても…。

ノーム 「逃がしたのか…」

ウンディーネ 「しゃあないやろ…」

空を飛んで逃げられたら追いようがあらへん…。
ウチははぁ〜と大きく息を吐いて、その場に座りこんだ。
もう動かれへんな…。
これが限界や。



レイナ 「…バルバロイ」

この崖から落ちて生きているとは思えない…。

レイナ (ごめんなさい…あなたを結局救えなかった)

私は心の中で謝り、悠の方へ向かった。
すると、私は新たな危機に襲われた。

悠 「…はぁ……はぁ……はぁ」

レイナ 「悠!!」

悠は苦しんでいた。
傷は治ってるはずなのに…。

ゾルフ 「おそらく…邪気の影響じゃ」

レイナ 「邪気…?」

ゾルフ 「レイナが暴走した時、ここにいる全員が邪気に包まれた。悠は直接レイナに近づいた分、邪気の影響で命が危ない…」

レイナ 「そんな、どうすれば?」

私は苦しむ悠を抱えてそう聞く。

ゾルフ 「すぐに山を降りて、そこから正面に見えるメルビスの町に向かうのじゃ! そこにユミリア・デミールという医者がいる、そこで助けてもらうのじゃ!」

レイナ 「は、はい!」

ゾルフ 「そのままでは町まで持たんじゃろう…ワシの魔力を全て渡そう」

そう言って、先生は私の手を取る。
そして、先生の手から魔力が私に流れてくる。
見る見るうちに、私は魔力を取り戻した。

レイナ 「ありがとうございます! それじゃ、私先に行きます!」

ナル 「レイナ! 後から私たちも行くから、待っておいてねー!!」

レイナ 「はいっ!!」

私は悠を抱えて、翼を羽ばたかせた。
魔力は戻っても、疲れがある、それでも、今は急がないと…。
私は空を羽ばたき、一直線にメルビスの町を目指した…。



…To be continued




次回予告

レイナ:私の暴走のせいで傷ついた悠。
私はエレル山のふもとにあるメルビスの町に向かって翼を羽ばたかせる。
そして、メルビスの名医ユミリア・デミール先生によって、新たな情報が託される…。


次回 Eternal Fantasia

第5話 「十騎士」

レイナ 「悠が、十騎士…?」




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