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第6話 「憎しみの再会」




新たな仲間を探すため、砂漠の王国である、デリトールに向かったウンディーネさんとノーム。
そのふたりと別れ、レイナ、ナルさんを含めた俺たち3人は最初の目的地、ヴェルダンドに向かう船に乗るため、港町セイレーンに辿り着いていた。
メルビスの町から1週間ほど歩いてようやく着くことができた。
その間、敵に襲われることもなく、平穏に着くことができた。
無論、さすがに1週間野宿はレイナが辛そうだったが。
食事は毎回レイナが作ってくれてたからな…。
まさにレイナ様だ。

悠 「やっと、セイレーンに着いたな…」

レイナ 「うん…」

ナル 「じゃあ、私が船のチケットを買ってくるから、そこの広場で待っていて」

ナルさんはそう言って、港のチケット売り場に向かった。
俺たちは町の中心である広場で待つことに。
かなり広い広場で、ちょうど真ん中には噴水があった。
多くの人が行き交い、今日は天気もいいせいか、店が活気付いていた。

悠 「北の大陸ソルジネスか…どんな所なんだろう?」

レイナ 「悠は行ったことないの?」

悠 「ああ、俺はレギルを離れたことはないよ」

強いて言えば、学校の遠足で首都のディラールに行ったぐらいだ。
大陸を越えたことは一度もないので結構楽しみだ。
と言っても、遠足気分にはなれないんだろうな…邪神がどうとか言ってるし。
周りを見渡しても、そんな気配は全く見えない。
町の人たちは活き活きしてて、港町らしく市場で競なども行われているらしい。

レイナ 「そう…私は何も覚えてないから、わからない」

レイナはそういって少し俯く。
気にしているんだろう…何せ王女様らしいからな。
よくよく考えれば、俺は王女様と友達ってわけだ。

悠 (ん…? 待てよ)

ここで俺はあることに気付く。
あの時…レイナを殺したのは、つまり国王と王妃…?
俺はここで考えるのを止める。
さすがに怖かった。
俺は気を取り直して、記憶のことを聞く。

悠 「まだ、記憶は戻らないのか…」

レイナ 「うん、少しづつ戻っているようなんだけど、まだ…過去のこととかは、全然…」

俺は俯くレイナの肩をぽんと叩き。

悠 「大丈夫だって、きっと思い出すよ。俺たちが手伝うから大丈夫さ!」

根拠はないが、俺はそう言って元気づけようとした。
俺が全て話せば記憶は戻るかもな…。
でも、俺は言うつもりはなかった。
何となく、まだその時じゃない気がした。
でも、近い内に話すことになるとは思っている。



そして、しばらくしてナルさんが戻ってきた。

ナル 「お待たせっ、もうすぐ出航時間らしいから、早く乗りましょ」

こうして、俺たちはセイレーンから真っ直ぐ北にあるソルジネスの港町、ノウスに向かう船に乗った。
船はそんなに大きくはなく、客は俺たち以外は乗っていなかった。
ナルさんが気を利かせて、貸切できる船を選んでくれたのだろう。

悠 「船に乗るのは初めてだ…」

ナル 「そうなの? 私は旅行とかで色々行ったことがあるわ」

レイナ 「じゃあ、ヴェルダンドはどんな所だったんですか?」

ナル 「綺麗な所よ…雪に覆われて、なんだか神秘的な感じがするわ。少し寒いけど、風がいい所よ」

ナルさんは甲板の壁に持たれながら、海を見てそう言った。
風でなびくショートヘアーが魅力的だ。

レイナ 「そうなんですか…」

ブオ〜ンッ

やがて、出航を知らせる笛が鳴り、船は出発した。

ナル 「じゃあ、私は部屋で一眠りするわ、何かあったら呼んで」

レイナ 「はい」

そう言って、ナルさんは船室に入っていった。
慣れた足つきだ。

悠 「なんか、揺れるな…」

足下がおぼつかなかった。
揺れるといっても、ここまでフラフラになるのだろうか?
そう思った矢先、何故か気持ち悪くなってきた。

レイナ 「悠、どうしたの?」

レイナが心配して俺の所に来る。

悠 「いや…なんか、気持ち悪くて…」

レイナ 「ええっ? どうして?」

悠 「うっ…!」

俺は直後に海に吐いた。

悠 「うう…」

レイナ 「大丈夫? しばらくじっとしてたほうがいいかも…」

悠 「………」 こくり

俺は頷いて、その場に座りこんだ。



………。
……。
…。



レイナ 「………」

静かだった。
波の音は聞こえるけど、静かだと思える。
でも今はその静かさが不気味な感じがした。
いつ敵に襲われるかもわからない状況なのだから、当然かもしれない。
でも、それ以上に何か不安があった。
王女と聞いてから、記憶に引っかかるものがある。
そんなことを考えていると…。

船員 「船長! 前方に翼人族がいます!!」

レイナ 「!?」

突然、マストにいる船員が叫んだ。

船長 「何!? いかん! 帆をたため!! 碇を下ろせ!! 船を止めるんだ!!」

船員は急いで帆をたたみ、碇を下ろしてゆっくりと船は停止した。
そして、前方にひとりの翼人族らしい、女の子が水の上に立っていた。
セミロングの髪にカチューシャを頭につけている。
服装は赤い上着に黒い肌着のようだった。
下は紺のズボンで、茶色の革靴を履いている。
そして、白い翼を広げ、その小さな体に似つかわしくない大きな槍を右手に持っている。
ちなみに、浮いているんじゃない、水の上に立っている…。
少女の体から、無数の魔力が出ているのがわかった。
普通の魔力じゃない…私と同じ位か、それ以上。
確実に敵だと認識できる程に、憎しみのこもったパルスを放っている。
だけど、その少女を見た時から、私は妙な気持ちにかられた。

レイナ (何…私、あの娘を知ってる? どうして)

少し考えたが、前方の少女は何やら、左手を掲げて魔力を集中しだした。
私はそれを察知し、少女の前に飛ぶ。

少女 「ウォーター・ランサー!」

少女の左手に水の槍が現れ、私に向かって投げつける。

レイナ (ダメ! かわしたら船が…)

間違いなく船が沈むほどの威力が予想できた。
私はすかさず魔法を集中する。

レイナ 「バーニング・ウォール!!」

ジュワアァァァァッ!

水の槍は私の両手から生み出された炎の壁にぶつかって蒸発した。

レイナ 「あなたは誰なの!?」

私は大き目の声で少女に語りかける。
だけど、私はその娘の顔を見て、不思議な感じになる。

レイナ (私に、似てる…)

釣り目で、髪がなびくその姿は、まるで私にそっくりだった。
ただ、その表情は敵意に満ちていた。

少女 「答えるまでもないでしょう…」

レイナ 「……!」

私は少女の殺意を感じ、剣を抜く。

少女 「あなたはここで死ぬのよ!」

少女は右手の槍を構え、私の方に向かって突っ込んでくる。

ガキィ!

私は剣でそれを受け止める。

レイナ (強い…私よりも数段力は上だわ…)

翼人族は翼を持って飛ぶと言う性質上、骨格がどうしても通常の人間よりも脆い。
それでも、高い魔力を有するために、その脆さを補うことができる。
でも、それはあくまで魔法を使う場合の話で、肉体能力だけで、これだけの力があるなんて…。
これも、邪神の力なんだろうか?

少女 「はぁ!」

少女は力任せに私を吹っ飛ばした。
スピードも相当ある。
パワー、スピード、魔力…非のうち所がないわ。

レイナ 「くっ…」

私は水面ギリギリで止まり、翼をはためかせて少女に向き直る。

少女 「………」

何故か、少女は追撃してこなかった。
ただ、じっと私の顔を見ている。

少女 「…あなたさえ、あなたさえいなければ」

レイナ 「……?」

少女は何やらその場で語りだした。
その表情は、悲しみと憎しみに満ちている。

少女 「わからないの? 私が…」

レイナ 「…誰?」

何かを感じてはいたが、誰かは思い出せなかった。
ただ、確実に彼女は私を知っている。

少女 「そう…記憶を無くしたっていうのは本当だったのね」

レイナ 「誰、あなたは! 私を知っているの!?」

私は強く叫ぶ。
少女は、静かに答える。

少女 「私は…シーナ、シーナ・ヴェルダンド。あなたの妹よ…」

レイナ 「!? 私の…妹?」



悠 「!?」

俺はそれを聞いて、驚いた。
レイナに妹が…。
確かに、似ている。
だけど、まずい…。
レイナの性格だと、妹とわかった途端に手を抜きかねん。
俺は気持ち悪い体を突き動かして、魔法で海の上ぐらいに浮き、レイナに近づく。

悠 「レイナ、気をつけろ!! その娘はお前を殺す気だぞ!」

レイナ 「で、でも…」

レイナは戦意を失いかけている。
やはり…だが無理もない。
記憶がないのに、いきなり妹だ。
錯乱してもおかしくない。
ましてやその妹が敵で現れたとあっちゃ…。

シーナ 「せめて苦しまないように一撃で殺してあげるわ!」

シーナは槍を両手で構え、気を込める。
どうやら闘気を扱えるらしい…だからあれ程の接近戦がこなせるのか。
だが、本格的にまずい…俺はロクに動けないし、あの攻撃を受けたらレイナは本当に一撃だ!

レイナ 「どうして!? どうして姉妹が戦わなきゃならないの!?」

レイナは力の限り叫んだ。
だが、シーナはそれを無視する。

シーナ 「問答無用…覚悟しなさい!」

シーナは凄まじいスピードで一気にレイナとの間合いを詰め、力任せに槍を突く。
狙いは心臓だ。

レイナ 「!?」

悠 「ちぃ!」

俺はこの位置から、軽い魔法を放つ。

悠 「サンダー・ボール!!」

シーナ 「!?」

ズバァンッ!

よし! 止めた!!
が…。

ザシュッ!

レイナ 「ああっ!!」

悠 「レイナー!!」

シーナは魔法を受けながらもレイナを攻撃していた。
タフな奴だ…直撃だったのに。
闘気の幕で軽減したのかもしれん…。
レイナはどうにか身を捻って急所を外していたようだ。
刺さったのはレイナの左肩。
レイナは肩に刺さった槍を後ろに退がって抜く。
その場でよろよろとふらついたが、落ちるほどではなかった。

シーナ 「余計な邪魔を…!」

シーナは恨めしそうに俺を睨んだ。
余程頭にきたのだろう。

悠 「貴様ー! どういうつもりなんだ!! なぜ妹なのにレイナを狙う!?」

シーナ 「姉さんが、私を狂わせたのよ!!」

俺がそう叫ぶと、カウンターとばかりにシーナが叫ぶ。
そして、シーナはレイナに槍を向けて、再び構える。

レイナ 「!?」

悠 「レイナのせい…?」

シーナ 「はああ!!」

レイナ 「シーナ!! 目を覚まして!!」

レイナの叫びはシーナには届かない。
レイナは剣でシーナの突きをどうにか捌く。

ガキィ!

シーナ 「私は目は冷めてるわ!」

今度は槍を上に構え、力任せに振り下ろす。

バキィンッ!!

レイナ 「きゃあぁっ!!」

レイナの剣は折れ、槍がレイナの右肩を切り裂く。
幸い、致命傷ではない。
それでも、これでレイナは両腕が使えなくなってしまった。

レイナ 「…シーナ」

悠 「止めろレイナ!! 今は戦え!!」

俺は吹っ切れないレイナに檄を飛ばす。
俺が言うのもなんだけどな…。

レイナ 「悠…」

悠 「俺たちには、ユシルさんとセイラさんの希望が込められてるんだぞ!? こんなところで無駄死にする気か!!」

シーナ 「うるさいわね…さっきからあなたは邪魔なのよ!!」

シーナは水の槍を俺に投げつける。

悠 「!?」

しまった、かわしきれない!

ドスッ!

悠 「うおっ!」

槍が俺の左腕を貫く。
咄嗟に見を捻ってよかった。
じゃなければ顔を打ち抜かれてた。

レイナ 「悠!!」

シーナ 「今度こそ終わりよ!!」

シーナは俺に向かって突っ込んでくる。

悠 「くっ…」

ダメだ、俺に空中戦はこなせない。
俺はその場で剣を構えて受け流そうとした。
右手1本で受けきれるか?
ガキンッ!

何とか受け流す。
俺は間髪いれずにあらかじめ集中していた魔法を放つ。

悠 「サンダー・ディストーション!!」

俺のから左手から放電し、稲妻がシーナを包む。
貫かれた傷からかなり血が出たが、気にしない!

バチバチバチィッ!!!

シーナ 「くっ!? きゃあああ!!」

シーナはそれでも倒れず、空中で持ちこたえた。

悠 「なんだと…? 直撃したのに…」

シーナ 「負けない…こんな所で、負けない…!!」

シーナの目はまだ生きている!
俺はすぐに魔力を溜める。

悠 「何!?」

ズバッ、ズバッ! ズバンッ!!

無数の水の刃が俺を切り刻む。
俺よりも…溜めが早い!?

シーナ 「これまでよ!!」

レイナ 「ホーリーブラスタァーーー!!!」

シーナ 「!?」

ギュアアアアアアアアァァァァァァァァァッッ!!!!

悠 「!?」

俺は海に沈んで難を逃れた…。
だが、レイナ…。

シーナ 「…あ」

レイナ 「……」

シーナは無造作にその場で浮いていた。
レイナは両腕を血みどろにしながら、魔法を撃ち終った体勢だった。
そう…シーナには当たらなかった。
シーナの右側を掠めるように、レイナは魔法をわざと撃ったのだ。

レイナ 「くっ…」

レイナは泣いていた…痛みのせいじゃない。
実の妹に対して牙を向けたことが、辛いんだ。

シーナ 「…どうして?」

シーナはわからずに動きを止めていた。
だが、すぐ横を貫いていった魔法を見たせいか、戦意を喪失していたようだ。

シーナ 「どうして!? 当てれば私を殺せたのに!! 私は敵なのよ!?」
シーナ 「私はあなたを憎くて殺そうとしたのに……それなのに」

シーナも最後の方は涙目だった。
レイナは泣きながら答える。

レイナ 「あなたは…私の妹なんでしょ? だったら…殺せないよ」
レイナ 「私には記憶がないけど…私が見つけた、最初の…家族だもの」

レイナの涙が上から海に落ちる。

シーナ 「ね、姉さん…」

シーナも、泣いていた…。
俺はどうにか魔力で海の上に上がり、シーナ…いや、シーナちゃんの右肩をポンと叩いた。
よく考えたら、俺の左腕が痛かった…我ながらマヌケな。
シリアスに決まらねぇ…。
だが、とりあえず台詞を続ける。
かなり痛みに我慢しているが。

悠 「…もういいだろ、シーナちゃん。これ以上続けても、お互いに辛くなるだけだ…」

シーナ 「……」

シーナちゃんは力を抜いて、涙を流しながら海に沈む。

バシャンッ!!

レイナ 「シーナ!!」

レイナがすぐに降りてくる。
だが、その前に俺が捕まえた。

悠 「よっと!!」

シーナ 「!?」

またしても左腕…正直感覚がなくなってきた。
血が…足らねぇ。

シーナ 「どうして、助けるの…私は敵なのに」

悠 「レイナの妹だからだよ…」



………。
……。
…。



そして、シーナちゃんは俺たちと一緒に船に乗り、船は再び出航した。

悠 「うう…」

ナル 「悠君、これ酔い止め。飲みなさい。まだ船旅は長いわよ?」

悠 「ありがとうございます〜」

俺は薬を飲んで、レイナの部屋に向かった。
正直貧血だ…左腕はもうしばらく動かん。
レイナの方も傷ついていたので、自分の回復魔法でどうにか傷は癒したが。



悠 「どうだ、具合は?」

俺は中に入ってすぐにそう言う。

シーナ 「……」

シーナちゃんは、まだ納得がいかないのか、ぶすっ…としていた。
釣り目がちな目が、逆に可愛く見えた。

レイナ 「悠…」

ナル 「へぇ…確かにそっくりね」

ナルさんが感心したようにシーナちゃんを見る。
そう言えば、戦闘中この人は何してたんでしょうね〜。

レイナ 「ナルさん、今まで何してたんですか?」

さすがにレイナが皮肉をこめて聞く。

ナル 「…寝てた」

あっさりとそう言う。
その際、レイナの目を見ずに言ったのはかなり秘密だ。
俺は先に聞いてたけどね。

悠 「船が止まったのにも気づかなかったんだって…」

レイナ 「もう…大変だったんですからね?」

レイナが珍しく、怒ったようにそう言う。
ちょっと怖いかも…。

ナル 「と、ところでシーナ王女?」

シーナ 「……」

シーナちゃんは答えようとしない、ただ黙っていた。

レイナ 「シーナのこと、知っていたんですか?」

ナル 「そりゃあね…ヴェルダンドの一人娘、って聞いてたし」

レイナ 「……」

シーナ 「…そう、姉さんのことは世間に隠していたんだ」

シーナちゃんはやりきれないように肩を落としてそう言う。

悠 「にしてもだ…何でそんなに姉のレイナに突っかかるんだ?」

俺は腕組をしながら椅子に座ってそう聞くと、シーナちゃんは静かにこう言う。

シーナ 「…姉さんは国から逃げ出して私に全てを押しつけたのよ」

レイナ 「…そう言えば、レイナ…という名前は本当に私の名前だったの?」
レイナ 「ユミリア先生が言った時は忘れていたけど…レイナという名前は、悠がつけてくれたのに」

悠 「………」

レイナがそう言って俺を見る。
ナルさんとシーナちゃんも注目していた。
だが、俺は何も言わなかった。

ナル 「悠君がつけた名前…。偶然にしてはできすぎね」

ナルさんはかなり聞きたそうだ…俺は仕方なく折れる。

悠 「…わかった、話そう。俺の知ってること全部」

俺はついに決心をし、全てを語ることにした。

悠 「…あの出来事は今から3年前。俺はまだ孤児院にいて、生活していたころだ。その頃のガイアは魔法都市ではなく、村だった」

ナル 「ガイア村とチェイル村ね?」

悠 「はい。そして、その頃の大陸は内乱で、村は酷く荒れていた」
悠 「孤児院は、他の大陸からも孤児たちが集められて、色んな種族がいた。魔族、精霊、妖精、獣人、そして、ひとりの翼人族…」

ナル 「もしかして…」

ナルさんが気付いたようだが、俺から言う。

悠 「そう、その翼人族が、黒い翼を持つ少女、レイナ・ウインドです」

シーナ 「…ガイアにいたのね」

シーナちゃんは特に無感情にそう言った。

悠 「レイナは、当時その黒い翼のせいで、友達はおろか、虐められていつも泣いていた」
悠 「俺は、レイナをほっとけずにレイナを守っていたんだ」
悠 「でも、レイナは他人が信じられなく、守っている俺をも拒絶した」

レイナ 「……」

心なしか、レイナの表情が暗い…だが、俺は続ける。

悠 「でも、俺は根気よくレイナに接して、次第にレイナの心は解けていった」
悠 「俺とレイナはどんどん仲良くなっていくことができた」
悠 「当時…俺はレイナのことが好きだったし、レイナも多分俺のことを好きでいてくれたと思う」

レイナ 「……」

レイナは特に感情の変化が見られなかった。
ナルさんはほうほう、と頷いている…楽しんでるな?
シーナちゃんは…わからん。

悠 「そして戦争は終わり、孤児院が取り壊されて皆が別の寮に入れられることになった日。悲劇が起きたんだ」

ナル 「悲劇?」

悠 「その日、突然ふたりの翼人族が姿を現した。格好はよく覚えないけど…レイナが王族なら、そのふたりは王族ということだろう」

これはついこの前疑問に思ったことでもある。

シーナ 「!? どういうこと!?」

ここで、初めてシーナちゃんが食いかかる。
俺はシーナちゃんをなだめて続ける。

悠 「まずは聞いて! つまり、レイナの両親が現れたんだ。でも…」

レイナ 「…でも?」

悠 「ここからは信じられないだろうが…」
悠 「そのふたりは、レイナを…」

ナル 「………」

レイナ 「…私を……?」

シーナ 「…まさか」

悠 「…殺した」

レイナ 「!?」

全員に衝撃が走る。
正直俺は思い出したくもなかった。
それに、どうにも矛盾点が出てくる。

シーナ 「嘘っ! だって、姉さんは現に…」

悠 「だから、さっき信じられないだろうと言ったんだ。でも、俺の目にはあの光景が焼きついている」
悠 「再会を心から喜ぶレイナに向かって、笑いながら剣を突き刺す男の姿が…」
悠 「レイナの血を浴びてなお笑ってやがった…俺はそれを絶対に忘れない」

ぎり…と俺は右拳を握り締める。
ちょっと血がにじんだかもしれない。

ナル 「でも、そのレイナがこのレイナという確信はあるの?」

悠 「レイナが今持っている短剣…それはその頃のレイナが肌身離さず持っていたアクセサリーです」

レイナ 「これが…?」

レイナは懐のポケットからそれを取り出す。

シーナ 「見せて…」

シーナちゃんはレイナから短剣を受け取ってそれを見つめた。

シーナ 「…間違いない、これ…私のと同じ短剣」

悠 「そうなのか?」

どうやら、ちょっと謎が解けたか?

シーナ 「…母さんが、私たちが産まれた時に渡してくれたアクセサリー」

レイナ 「私の気がついた頃から、それを持っていたわ」

悠 「当然だ、俺がそれと一緒に、レイナの遺体を奇跡の森の泉に沈めたからな」

ナル 「人を生き返らせるという奇跡の…」

悠 「俺はそんな世迷いごとを信じてレイナを沈めた」
悠 「それから、俺は毎日泉を見るが、レイナは生き返った様子はない」
悠 「だけど…ある日、レイナは俺の前に姿を現した」

ナル 「まぁ、よくよく考えれば、ゾルフ先生やユミリア先生の話を繋げれば納得するわね。黒い翼の少女はひとりだけみたいだし」

シーナ 「そういえば、どうして姉さんの翼は…?」

俺たちはその辺りの事をシーナちゃんに話した。



………。
……。
…。



シーナ 「…そうだったの。それじゃ、姉さんは逃げたんじゃなくて、追放…」

どうやら、ようやくわかってくれたようだ。
シーナちゃんの表情が、力抜けたように感じた。

悠 「でも、シーナちゃんにどうして逃げたなんて嘘を…?」

ナル 「…もしかしたら、ヴェルダンド王と王妃は操られている可能性があるわね」

シーナ 「父さんと、母さんが…」

シーナちゃんは思い当たる節があるのか、否定はしなかった。

レイナ 「私に…そんなことが」

悠 「レイナ、何か思い出したか?」

レイナ 「…ううん、わからない。そんなこといきなり言われても…わからない」

結局、混乱させる結果になってしまったかな?
俺はとりあえず。

悠 「黙っていたことは謝るよ。でも、俺がレイナを助けたくて旅に同行したのは信じてほしい」

レイナ 「うん…わかってるよ。悠の事は信じる」

ナル 「これは、運命なのかもね…」

シーナ 「……」

悠 「シーナちゃん。そういえば、君は何故そんな力を?」

少なくとも、通常の翼人族のレベルをはるかに超える戦闘力だ。

シーナ 「バルバロイ…という人に教えこまれたわ」

悠 「バルに!?」

シーナ 「知っているの? なら話は早いわ。私が1年前、国を出て間もなく、バルバロイさんが現れて私に色々と戦い方を教えてくれたわ」

悠 「……」

レイナ 「シーナを利用するために…」

ナル 「できすぎね…やっぱり王たちは」

悠 「もういいじゃありませんか。今俺たちはヴェルダンドに向かっています。それではっきりしますよ」

俺は半ば無理やりに話を打ち切った。
バルが…シーナちゃんを利用してまで。

レイナ 「…そうね、行けばわかるんだよね」

ナル 「わかったわ、でも用心はしましょう。何があるかわからないわ」
ナル 「邪神の手が入っているということだけは、十分頭に入れておきましょう」

悠 「はい」
レイナ 「はい」

シーナ 「…あ、あの」

シーナちゃんが、控えめに俺たちを呼ぶ。

悠 「ん? なんだいシーナちゃん?」

シーナ 「私も連れて行ってください!」

悠 「なんだって?」

レイナ 「シーナ、ダメよ…これは危険だわ」

ナル 「いいえ、連れていきましょう。ユミリアさんの指令は仲間を集めることよ? シーナが加わってもいいと思うわ」

悠 「そうだな、いざとなったら俺たちが守ってやればいい」

レイナ 「でも…」

シーナ 「ごめんなさい…今更だけど、罪滅ぼしはしたいの」

シーナちゃんがそう言った時、その悲しみが痛いほど伝わってきた。

レイナ 「…わかったわ、でも無理はしないで」

シーナ 「わかってる。私、頑張るから」



そして、俺たちは部屋の外に出て、色々と話していた。

悠 「そういえば、神次さん港で現れませんでしたね?」

俺はふと思い出した疑問を投げかける。
酔い止めのおかげで船酔いはどうにか収まった。

ナル 「そういえばそうね…まさかヴェルダンドで待ち伏せかしら?」

船員 「船長! 前方に筏が漂流しています!! 3人ほど人が乗っています!!」

マストから再び船員の声。

ナル 「筏…? 3人?」

悠 「まさか…?」



………。



降 「よかった、船ですよー!」

未知 「これで、大丈夫ですね…」

神次 「ふっ…どうやら、神はこの天才を味方しているようだな」



………。



悠 「どうします?」

ナル 「いっそ、神次だけ海に投げ捨ててやろうかしら…」

本気でやりかねない勢いだ。
俺はそんなナルさんをなだめておく。



こうして、俺たちはシーナちゃんに神次さんたちも含め、7人でヴェルダンドに向かうことになった。



…To be continued




次回予告

ウンディーネ:悠たちと別れて、ウチらふたりはデリトールの首都ガストレイス王国に辿り着く。
そして、ウチらは自分たちが育った孤児院に戻り、親友のシェイドを探す。
せやけど、そのシェイドが単独で敵のいる遺跡に乗り込んだらしい。
相変わらず、無茶やなぁ…まぁシェイドやったら無茶でもないか。
そして…その時、強敵が目を覚ます。


次回 Eternal Fantasia

第7話 「怒りのウンディーネ」

ウンディーネ 「こいつは…ウチが倒す!!」




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