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第16話 「シェイドの戦い」




シェイド 「……」

男 「……」

男は無言でこちらを睨みつけていた。
私たちは敵の刺客らしき、長身で短髪、飾り気の全くない黒い戦闘スーツに身を包み、肩と胸に鉄のプロテクターを着けていた。
瞳は酷く冷たい…まるで意思が通っているようには見えなかった。
以前戦った、ネイやアイズとは全く違う印象を受ける。
私は、少々合点がいかなかった。

ウンディーネ 「何や…ひとりか? ええ度胸しとるやんっ」

サラマ 「気をつけろウンディーネ! ひとりとは限らんぞ!」

ジン 「だな…怪しすぎるぜ」

シェイド 「……」

私は周りに気を配るが、全くそんな気配はない。
少なくとも見た所はひとりだ。
これで隠しているのなら、見事な隠蔽術だ。

男 「……」

男はその場から微動だにせず、やはり無言のままだった。
ただ、その鋭くも冷たい瞳は確実に私たちを睨みつけていた。
だが、不思議と何の威圧感もない。
間違いなく敵意を持っている、だが意思を感じない。

ノーム 「何だこいつ…? 無口な奴だな…」

男 「…これよりターゲットを消去する」

ダッ!

シェイド 「くっ!?」

あまりにも突然だった。
男はその場から突然動き出し、正面の私に素手で殴りかかってくる。
たった一足飛びで、5メートルは離れているはずの私のすぐ側まで近づいてきた。
私は、警戒心を強める。

男 「……」

ドゴォ!

ウンディーネ 「何や、今のは!?」

男が上から振り下ろした右拳を、私は左に避ける。
すると、私がいた場所の地面がたやすくえぐれる。
間違いなく、これは…。

シェイド 「…闘気か!」

ジン 「このやろう! ウインド・カッター!!」

ジンは、攻撃後の隙だらけな男に向かって、魔法を放つ。
男の左右と正面から、同時大きな風の刃が襲う。
あの状態で回避は困難だ。

男 「……」

ダッ!

ジン 「な!?」

男はその魔法には目もくれずにジンのいる場所に突進する。

ビュゥンッ!!

正面からの刃は男の体に当たるとまるで何事もなかったかのようにすり抜ける。
無効化したのか?
いや、それにしては風が弱まった。
正面から刃を受けきったと言うのか!?

男 「……」

サラマ 「ジン! 避けろっ!!」

ジン 「うおおっ!」

男はわずか数秒で、ジンのいる距離に移動し、攻撃態勢に入る。
ジンの位置は私、ウンディーネの後ろだ。
5メートル以上は離れている遠距離のはずなのに、何と言うスピードだ!

ドガァッ!

ジン 「ぐあっ!」

ジンは咄嗟に男の右ストレートを後ろに避けるが、同時に発せられていた闘気によって吹き飛ばされる。

ズシャアァァッ! ゴロゴロゴロ!!

ジン 「ぐ…」

かなり派手に吹っ飛ぶ、自分から後ろに飛んだのもあるだろうが、それでも相当な威力だ。
ジンは背中から地面にぶつかり、勢いよく転がって崖っぷちギリギリで止まる。
ダメージはかなりあるのだろう、すぐに動く気配はなかった。

サラマ 「ジン!」

ウンディーネ 「あかんっ! サラマ!!」

男 「……」

男はよそ見をしたサラマに照準を合わせる。
サラマもそれに気付いて、すぐに迎撃体制をとる。
サラマの溜めは決して遅くはない。
だが、それでも男の踏み込みが早すぎる。
サラマは十分な魔力を溜めることが出来ず、即席の魔法で誤魔化す。

サラマ 「ちぃ!」

ゴオッ!!

サラマの創った炎の壁は地面から出現するように壁を形成する。
即席といっても、十分な炎だ。
少なくとも正面からの突破は…。

ドゴオォッ!!

サラマ 「ガハァッ!!」

ズザザザザァァァッ!

男は炎の壁を右拳に込めた闘気で突き破り、サラマをジンとは逆の方向に数メートルほど吹き飛ばす。
馬鹿な…闘気で固めているとは言え。

ノーム 「畜生! これでどうだ!! グラビティ・プレス!!」

ゴゴゴゴゴゴォォォォォッ…!!!

ノームの放った魔法で男の周りの重力が倍化する。
かなり威力を集中させているので、範囲は男のいる場所のみに集中している。
周りには全く影響がないので、離れる心配はない。
ノームの魔力は我々の中でもトップクラスだ、簡単には逃れられん。

男 「……!」

男はさすがに効いたのか、その場で喀血して膝を着く。

ノーム 「おおりゃあぁぁぁ!!」

ノームはなおも魔法を維持する。
相当な魔力が注ぎ込まれている。
場所が山であることも手助けしているのだろう、ここは地の精霊が多く存在している。

男 「……ぬぅんっ!!」

ウンディーネ 「ノーム!!」

ドオオアアァァァッッ!!

ノーム 「うぅわぁぁぁぁぁっ!!」

ウンディーネ 「ぐううううっっ!」

男は着いた膝を立て直し、天を仰いで咆哮と共に気合を入れる。
そしてその瞬間、重力の倍加している領域内から、闘気の力を爆発させて魔法を打ち破った。
その衝撃波で、近くにいたノームとそれを咄嗟に庇ったウンディーネもろとも吹き飛ばした。

シェイド 「バカなっ…!!」

男 「後、ひとり…」

シェイド 「…くっ」

男は小さく呟く。
その瞳はやはり冷たかった。
意思が全く感じられない。
だが、それでも並の強さではない。
確実に以前に戦ったネイ以上の力だ。

ウンディーネ 「…く、シェイド…気ぃつけや…!」

ウンディーネは傷だらけになった体を無理に動かして私にそう言う。
ノームも気絶しているのか、動く気配はない。
全員たった一撃で、か。

男 「……」

男は最後の私に照準を合わせ、突進する。
私は右手で剣を抜き、両手で上段に構えて正面から切りかかる。

ガキィ!

男は私の剣を闘気のこもった右拳で止め、もう一歩踏み込んで左拳を振るう。

シェイド 「はぁっ!!」

私は剣から左手を離し、そこから小さな闇の魔法剣を創り、その拳を止める。

男 「…!?」

シェイド 「はあっ!!」

男は止められたことに驚いたのか、動きが一瞬だけ止まる。
私はその機を逃さず、左の魔法剣の魔力を高めて男の腹を切りつける。

ザシュ!

男 「!!」

男は瞬間的に後に下がり、致命傷を避けた。
魔力を高めた一瞬で間合いを離されたのだ。

シェイド 「せいっ!」

男 「……!」

ガキッ!

私は魔法剣を消し、右手の大剣を両手で持ちなおし、上から切り下ろす。
男は闘気のこもった右手で、私の剣を掴む。
衝撃で地面が少し抉れた。
何という力だ…!
だが、私はここまでは予測しており、すぐに剣の刃から魔力を解き放つ。

シェイド 「ダーク・プリズン!!」

男 「!?」

ゴゥッ!!

私の剣から闇の魔法が放たれる。
闇の魔力が霧状に男を包み込み、やがて闇の魔力で出来た牢獄を形成する。

ドオオオゥッ!!

闇の牢の中は闇の波動で溢れ返る。
それは男の体力を徐々に奪う。
だが、このままではすぐに脱出するだろう。
私は剣を中段に構え、その牢を横薙ぎに右から切りつけようとする。

シェイド 「終わりだ!!」

男 「!!」

ヒュッ…ドオオオォォンッ!!

シェイド 「!?」

男は私が剣を振るうよりも早く、牢を破壊する。
予想外の爆風を受け、私は後に吹き飛ぶ。
倒れはしなかったが、バランスは崩した。
私はすぐに体勢を立て直すが、男の追撃はすぐに来なかった。

男 「……」

シェイド 「こ、こいつ…?」

男の瞳には輝きがなかった。
まるで私を見ていない。
最初から意思の感じない冷たい瞳をしていたが…。
今度はまるで、死人のような…。
まるで生気を感じさせず、虚ろな目で虚空を見つめ、男は両腕をだらんと下げて立ち尽くしていた。

シェイド (殺気が消えた…。だが、なんだこの違和感は…?)

さっきからおかしな感覚に捕らわれていた。
体が思うようにいうことをきかない…。
あんな爆風程度で、こんなはずは…。

男 「……」

男はこちらを向き、虚ろな目のまま、素早く突っ込んできた。
それも、今までで一番早い。
私は殺気のない男の動きに対し、完全に反応が遅れる。

バキィ!

シェイド 「ぐぅ…なぜだ…?」

かわすはずだった。
それ位の体力は残っているはずだったのに。
私は思うように体を動かせず、男の右フックをまともに左頬に受け、よろめく。
倒れはしないが、体が自由に動かない…。
男は追撃を行わなかった、何故だ?
これだけの力を残しているのなら、追撃は可能なはずだ…。

シェイド 「はっ!?」

私はそこで気付く。
男の体から妙な気流が出ているように見えた。
薄黒い…気?
視覚的にはほとんど見えない。
現在は深夜を回っており、灯りは小屋から灯される小さな明かりくらいだ。
それでも、私はその気流を見つけることが出来た。
そして、私は同時に理解した。
あの黒い気が私の体力を奪っていたのだ。
いや、私だけじゃない…この場にいる全員が。

ウンディーネ 「…あかん、こんな時に体が動かへん」

ノーム 「この感覚…レイナ姉ちゃんの時と同、じ…?」

ジン 「畜生…このままじゃ姐さんがっ」

サラマ 「…ぐうぅぅ!」

見ると、皆は倒れた状態で唸っていた。
もしかして最初からあの気が出ていたのか?
全員が地面に吸いつけられるようにして動く気配がなかった。

男 「……」

シェイド 「…くぅ…!」

私は気力を振り絞り、動かない男に向かう。
スピードはほとんど出ていない、あのスピードで動かれればたやすく避けられるだろう。

シェイド 「はああぁぁっ!!」

バキィィィンッ!!

私の剣は男の左拳によって叩き折られる。
折れた刃が私の右頬を掠め、崖の下まで飛んでいく。
右頬から焼けるような痛みと共に血が滲む。
だが痛みを感じる間もほとんどなく、男は右拳を引き直し、すぐに私の腹めがけて振るう。

シェイド 「ぐ…!」

ブンッ

私はギリギリで男の拳を右に避けた。
男は明らかに反応が遅い。

シェイド (剣を創り出してる余裕は無い…この一撃で!)

私はカウンター気味に右拳を男の腹に叩きこみ、同時に魔法を放つ。

シェイド 「はあああぁぁっ!!」

ドオオオオオオゥンッ!!!

私の右拳から放たれた魔法で、闇の魔力が大爆発する。
密着状態で叩き込んだ闇の魔法は爆発を起こし、男の体は宙に浮いて地面に落ちる。
私も衝撃で後ろに吹っ飛ぶ。

ドシャアアッ! ズシャアアアアァッ!!

シェイド 「……」

男 「……」

私はどうにか倒れることなく踏みとどまった。
我ながらよく止まった物だ。
自分の魔法の威力が高すぎて自滅する可能性もあったかもしれない。
私は首だけを動かして、倒れた男を見る。
男は動かなかった。
黒い気も消えている。
どうやら…終わったようだ。

シェイド 「う……」

私は気が遠くなる。
ここで倒れたら、もう起き上がれないだろう…。

ゾルフ 「シェイド!」

いつのまにか外に出ていた先生が私の側に駆け寄る。
先生は私の両肩を掴み、支えてくれた。

ウンディーネ 「くっ…シェイド!」

ノーム 「シェイド姉ちゃん!」

ジン 「…姐さんっ!」

サラマ 「シェイド、しっかりしろっ!」

次第に皆が集まる。
どうやら、皆動くことはできるようだ。

ウンディーネ 「どや? 動けるか?」

シェイド 「ああ…どうにか、動く事はな」

ウンディーネが心配そうに私を見てそう言う。
それに対して、私は微笑してアピールする。
正直、口で言うほど楽ではない、あの黒い気の影響でかなり体が軋んでいる。

ノーム 「よかった…」

ジン 「しっかし…とんでもねぇ敵だったな」

サラマ 「ああ…ひとりでここまでの戦いができるとは」

確かに、あの強さは予想をはるかに越えていた。
自惚れていた訳ではないが、私がいれば修行中の間位は皆を守れると思っていた。
結局、相手の情報は全くなかった。
十騎士だったのか、それとも違ったのか…。
ただ、邪神の手の者だということは何となく分かった。

ウンディーネ 「多分あいつ…変な力で操られとったんちゃうか?」

ノーム 「うん…俺もそんな気がする」

ジン 「はぁ? 何言ってんだよ…」

ウンディーネとノームが突然そんな事を言い出す。
ジンは?を浮かべて呆れているように見えた。

シェイド 「あながち、そうじゃないとも言えないな…」

サラマ 「何か根拠があるのか?」

ウンディーネ 「レイナん時とおんなじなんや…」

ノーム 「そう…あの黒い気。レイナ姉ちゃんと一緒だった」

ウンディーネとノームが思い出すように俯いてそう言う。
そうか、過去にあったことだったのか…。

ゾルフ 「うむ…恐らくは邪神の力によって、力を増幅させられたのじゃろう」

シェイド 「それも強制的に…」

ゾルフ 「そうじゃ…じゃから、本人の体がその力に耐えられず、暴走したと言う方が正しいのかもしれん」

私は倒れて動かない男を見る。
邪神に力を増幅…か。

ジン 「じゃあ…どうするんだ? トドメ差すか?」

シェイド 「いや…その必要は無い。こいつを部屋に運ぶぞ」

ウンディーネ 「ええんか? もしかしたら、また襲ってくるかもしれへんで?」

ノーム 「…うん」

シェイド 「…だが、場合によっては情報が手に入るかもしれん」

今は少しでも情報が多い方がいいと思った。
ユミリアさんか多少のことは聞いているが、どうにも今の情報とは当てはまりにくい気がする。
あくまで過去の情報から予想されるだけだからだ。

ゾルフ 「ふむ…まぁ、とりあえずは傷の手当てをしてやろう」
ゾルフ 「それから皆で話し合えばいい…」

ジン 「おいおい…マジかよ?」

サラマ 「…いいから手伝え」

ジン 「へいへい…」

ジンは納得いかないように頭を掻いてそう言う。
サラマとジンはふたりで男を抱え、小屋の中に運び、隅っこの方の布団に寝かせた。

ゾルフ 「ふむ…とりあえずは邪気を除かねばならんのぅ」

シェイド 「しかし…どうすれば? 方法があるのですか?」

ゾルフ 「ほっほっほ…あれからワシも色々と薬を集めておった。このぐらいの事ならすぐに治して見せるわ」

ウンディーネ 「さっすが先生!」

ジン 「年の功だな!」

ゾルフ 「…余計なお世話じゃ。さぁ始めるぞ」

先生は薬を取り出し、男の全身に振りかけていった。
5cm位の小瓶だ。
中には粉上なのか何なのかわからないような物が入っていた。
それが男の体にかかると、淡い光を放ち、消えていく。
どうやら、特殊な魔力の集合体なのかもしれない。

シェイド 「……」

ウンディーネ 「……」

ノーム 「……」

ジン 「……」

サラマ 「……」

ゾルフ 「…これでいいじゃろう」

私以外の全員が唖然とする。
余程何かを期待していたのだろう。

ノーム 「もう終わり? ただ、薬振りかけただけ?」

ゾルフ 「大丈夫じゃよ、これで邪気は抜けるはずじゃ」

ウンディーネ 「うっわ…目っ茶期待外れ」

ジン 「かなり凄い事をしてくれると思ったのに…」

サラマ 「いや、多分これでも相当凄いと思うのだが…」

シェイド 「……」

それぞれが思い思いを口にする。
先生は…複雑そうだった。

ゾルフ 「さぁ、もう遅い…今日は皆休みなさい」

ウンディーネ 「せやけど、ウチらが寝とる間にこいつ逃げへんやろか?」

シェイド 「それなら、私が見張りにつく…皆は寝ていればいい」

ジン 「だけど、姐さんが一番疲れてるだろ…」

サラマ 「うむ…俺がやろう」

シェイド 「だが…」

ゾルフ 「ジンの言う通りじゃ、お前が1番疲労しておる…休んでおかねばいざと言う時に体が動かんぞ?」
ゾルフ 「皆を守りたいのなら、休むことじゃ」

シェイド 「…わかりました」

私は頷く。
今は、従うしかないな…。

ウンディーネ 「ほらシェイド、布団敷いといたから」

シェイド 「ああ…」

ウンディーネは男と逆の対称方向に布団を敷いてくれていた。
私はそこまで自力で向かい、横になる。
すぐに眠気は来た、私は気が抜けたのか意識があっという間に遠くなった…。



ノーム 「大丈夫かな…?」

ジン 「シェイドか? 心配ないだろ…」

ノーム 「いや、サラマ兄ちゃん…朝起きたら死体が転がってたりしたら嫌だろ?」

あの強さだったんだから、復活したらやばいだろう…。

ジン 「…ありえる話だけに恐ろしいな」

サラマ 「…あのな」

ジン 「しばらくしたら交代するよ…その方が安全だ」

サラマ 「…わかった」

ノーム 「んじゃ、俺は寝るよ〜」

ゾルフ 「うむ…ゆっくり休むがよい」

俺が見張ってても意味無いだろうし。
俺はふたりを尻目にあっさりと横になった。
ちなみに、今回も西側が男、東側が女エリアだ。
西は南側から俺、ジン兄ちゃん、サラマ兄ちゃん、謎の男。
東は南側からシェイド姉ちゃん、ウンディーネ。
俺は布団に包まって目を瞑ると、すぐに眠ることが出来た。



………。



サラマ 「…どう思います?」

ゾルフ 「うむ…邪気は完全に断った。じゃが、この男の強さは本物であろう」
ゾルフ 「邪気の増幅は、精神状態や魔力、闘気などに大きく作用する物で、肉体的な作用はあまりない」
ゾルフ 「せいぜい痛覚を軽減させるぐらいじゃろう」

俺と先生は、皆が寝静まった辺りでそう話していた。
この男の力はかなりの物だった。
だが、それは与えられた物だったのか、それとも元々持っていた力だったのか。
結論は両方なのかの知れない…。

サラマ 「常人なのでしょうか…?」

ゾルフ 「いや…ある程度は鍛えられておるようじゃの。それに、因子も植付けられとる」

サラマ 「ということは…」

ゾルフ 「うむ…十騎士じゃろう」

俺は考える、聞いた話だとすでに以前の戦いで半数以上の十騎士が死んでいるはずだ。
そして、新たに創ったと思われる十騎士は元々人間がベース…。
シーナちゃん、クルス、そして…この男か。

サラマ 「…今の時代の十騎士は、ほとんどが強化された人間が十騎士というわけですね」

ゾルフ 「うむ簡易的な処置じゃ…じゃが、この者は産まれてから植えられたわけではないようじゃな」

サラマ 「…しかし、あの強さは脅威的な物です」

ゾルフ 「うむ…明日から忙しくなるぞ」

サラマ 「覚悟は出来ています…」

修行を積むしかない。
誰と戦っても負けないくらいに。
俺たちは、崖っぷちでいつも戦っているような物だ。
一回たりとも、負けるわけにはいかない。

ゾルフ 「うむ…では、ワシも少し眠るとしよう」

サラマ 「はい…見張りは任せておいてください」

俺はそう言って、男を見張る。
先生は自室に戻って就寝したようだ。
やがて、3時間ほどした後でジンが起き、俺と交代した。



………。
……。
…。



シェイド 「……う、ん」

ウンディーネ 「目ぇ覚めたか?」

朝起きると、ウンディーネの顔が見えた。
窓から入ってくる明かりは朝日だった。

シェイド 「…もう、朝なのか?」

ウンディーネ 「そや、もうじき朝食が出来るさかい、先にテーブルの前に座っとき」

シェイド 「ああ、わかった…」

私は起き上がって、ふと自分の服を見る。
昨日の戦闘で相当ボロボロになっているな…まぁ仕方ないだろう。
かなり千切れそうになっているが、何とか上と下は隠せるはずだ。
私は布団を畳み、テーブルに向かった。

ジン 「おっ、姐さんおはようございますっ」

シェイド 「ああ…それより」

サラマ 「奴ならまだ眠っているぞ」

私が言う前にサラマがそう言う。
見ると、ウンディーネとノームを除いた全員が座っていた。
私が最後だったのか。
私はちらりと男の姿を一瞥して椅子に座った。

ウンディーネ 「皆! 朝食できたでー!!」

ノーム 「おまたせー!!」

シェイド 「…もしかして、あのふたりが作ったのか?」

ゾルフ 「そうじゃ、見事な腕じゃぞ? お前にも劣らん位になっておる」

シェイド 「…そうですか」

ウンディーネ 「ウチが腕によりをかけて作ったんや! 絶対美味いで!」

ノーム 「俺も手伝ったんだからね!」

そう言って、ウンディーネとノームは大量の食事をテーブルに並べていく。
と言っても、内容は割と庶民的な物が多く、特に目立つような食材はなかった。
特性ドレッシングのかかった野菜サラダ、甘い匂いを漂わせる卵焼き。
強火で炒めた焼き飯もかなり良い匂いだ。
他にも、ミートボールやソーセージと言った、細かい物も用意されていた。
朝から豪勢なことだ…。

ジン 「んじゃ、いっただっきま〜す!」

ジンは箸を手に取り、手始めに一番手前にあった卵焼きから食べ始める。

ジン 「おっ、いけるぜこれ!」

ウンディーネ 「当然や! ウチの作ったもんやからな」

ウンディーネは胸を張ってそう言う。
自信はあったのだろう。

サラマ 「さぁ、シェイドも食べろ」

シェイド 「あ、ああ…」

サラマに勧められ、私も箸を握り、食事を頂いた。
いつも自分が作ってるだけに、他人の作った物はあまり食べた経験がない。
ゆえに少し違和感があった。
私はミートボールを掴んで口に運ぶ。

ノーム 「ど、どう?」

シェイド 「これは、ノームが作ったのか?」

私がそう聞くと、ノームは恐る恐る頷く。

シェイド 「…うん、甘さと辛さのバランスがいい」

ノーム 「やったぁ! 褒められましたぜ!?」

ノームはガッツポーズを取って喜ぶ、余程嬉しかったのだろう。
他の品目も、味はほぼ問題なかった。
私たちは楽しく食事を戴いた。



………。



ジン 「ごちそうさん」

サラマ 「大分腕を上げたなウンディーネ」

ウンディーネ 「まだまだシェイドには勝てへんけどな」

ノーム 「そりゃ、シェイド姉ちゃんは子供の頃から作ってるんだから…」

ゾルフ 「ふふふ…じゃが、本当によく出来ておったぞ」

確かに、お世辞抜きに美味しかった。
料理は愛情だと何処かの偉い人が言っていた気がするが、まさにその通りだと思った。

ウンディーネ 「まぁ、当然やな」

ノーム 「伊達に野宿生活で鍛えられてないからね!」

シェイド 「…ウンディーネ、まだ食事は余ってるか?」

ウンディーネ 「ん? あるけど…足りんかったか?」

シェイド 「いや…そうじゃない。昨日の男の事だ。食事はいるだろう?」

ウンディーネ 「ああ、わかっとるよ、ほならちょっと盛り付けてくるわ」
ウンディーネ 「その間に起こしとき」

シェイド 「ああ、じゃあ、頼む」

ウンディーネ 「ほいきた!」

ウンディーネは一度キッチンに戻って、食事を新しい皿に盛りつけに行った。

私はまだ寝ている男の側まで行き、体を揺すってやる。

男 「……」

起きる気配がない、まだ意識が回復しないのだろうか?
少々不安にもなる。

ウンディーネ 「何や、まだ寝とんのか〜?」

いつのまにかウンディーネが側にいた。
すでに食事はトレイに乗せてテーブルに置いたようだ。

男 「……」

ウンディーネ 「無理やり起こしたろか…?」

シェイド 「よせ…まだそっとしておこう」

ウンディーネ 「しゃあないなぁ…食事は暖かい内が華なんに」

男 「…む」

だが、その時男は反応した。
私たちは全員が注目する。

シェイド 「ん…?」

ウンディーネ 「何や、起きたんか?」

男 「…ここは?」

シェイド 「私たちの先生の家だ…」

私は冷静に応える。
と言っても、相手は状況が把握できるのだろうか?

男 「誰だ…お前は?」

シェイド 「何…?」

ある程度は予測していたが、どうやら戦った相手の顔も覚えていないらしい。

ウンディーネ 「やっぱ、操られとったんやな…昨日戦こうた相手の顔も覚えとらん」

男 「戦った…?」

シェイド 「そうだ、それも覚えていないのか…。まぁいい、まずお前の名は?」

男 「襲…闘羅 襲だ」

襲…と控えめに名乗った男は呆然としていた。
だが、瞳からは着実な意思が伝わる。
前とは違った。

シェイド 「では襲、まずは食事を摂れ。話はその後だ」

襲 「食事…?」

ウンディーネ 「ほれ、こっちや…」

ウンディーネは襲の手を引き、起こしてテーブルに案内する。

襲 「……」

ジン 「おっ…よく逃げなかったな」

サラマ 「ジン、余計な事は言うな」

ジンがわざとそう言うが、サラマが少し強めの口調でそう制する。

ゾルフ 「ふむ…どうじゃ気分は?」

襲 「…悪くはない」

ウンディーネ 「ほな、とりあえず食べっ。まだ冷め切ってへんはずやから」

襲 「……」

襲は、戸惑いながらも箸を取って品を掴む。
ソーセージだ。
それを口に含み、ゆっくりと噛み締める。

襲 「……」

ウンディーネ 「……」

ノーム 「……」

襲は無言で、そのまま食べていった。
感想はなかった。
まぁ、どう言っていいのかも分からないのかもしれない。
ウンディーネも何も言わずに、ただ微笑していた。



………。



やがて、襲の食事が終わり。
ウンディーネとノームが洗い物をする。
その間、少々時間があったが、特に何も語ることはなかった。
やがて、15分程してウンディーネとノームがようやく椅子に座る。
わたしは、そこから話を切り出した。

シェイド 「さて、いきなりで悪いが、お前は邪神の手の者だな?」

襲 「…ああ、俺は邪神の因子を植付けられ簡易的に生み出された『気』属性を持つ十騎士だ」

シェイド 「次だ、新しく創られた十騎士はどう言った奴らで構成されている?」

襲 「稲妻のバルバロイ・ロフシェル、大地のアイズ・ガルド、常闇のネイ・エルク」
襲 「疾風のクルス・エアロ、純水のシーナ・ヴェルダンド、紅蓮の火山 烈、霧氷の虹村 氷牙…」
襲 「そして、残りが俺…剛気の闘羅 襲だ」

ウンディーネ 「あれ? 光と時は?」

確かに、2人抜けている。
それでは8人しかいない。

襲 「光と時は新しく産み出されていない」
襲 「力を継ぐ者がいるそうだが、確かな情報は伝わってない」

ノーム 「時は悠兄ちゃんだとして…光かぁ」

ゾルフ 「…シャイン・ルフト」

先生がそう呟く…。
全員が途端に注目する。

シェイド 「その名は…?」

ゾルフ 「光の邪獣、ノイン・ルフト…そして、平凡な人族の女性、カイ」
ゾルフ 「そのふたりの間で生まれた子、シャインじゃ」

ウンディーネ 「邪獣とのハーフかいな!? やっぱ敵なん!?」

ゾルフ 「…いや、そうではない」
ゾルフ 「じゃが、シャインが味方とも限らん」

ノーム 「何だよそれ…微妙だな」

ノームが腕を組んで唸る。
はっきりしないのは確かに微妙だろう。

ゾルフ 「それでもシャインは少なくとも人類の敵になることはあるまい」

シェイド 「会ったことは?」

ゾルフ 「何度か…前に会ったのはもう1年前になるがな」
ゾルフ 「それも、ガストレイス王国でじゃ。今もデリトールにいると思うが」
ゾルフ 「もしかしたら誰かが出会っているかもしれんな」

ジン 「…ふぅん、まぁ今はどうでいいんじゃねぇの?」

サラマ 「確かに、少なくとも敵でないなら無視してもいいかもしれん」

ふたりは簡単にそう言う。
だが、そんな宿命を背負った男を無視できるのだろうか?
十騎士の子供…それがどんな宿命を持っているか、本人はわかっているだろう。

襲 「名前だけは話に聞いている、シャイン・ルフト…会ったこはないが、少なくともゼイラムは敵視しているようだった」

ゾルフ 「では最後にもうひとつ。邪神はもう目覚めているのか?」

まさに核心だ、それがわかれば苦労はしないが。

襲 「さぁな…その辺も俺たちは何も聞かされてはいない」
襲 「邪神のことは全てゼイラムの管轄だ、俺たち十騎士が関与すべきことではない」

ジン 「何だ…たいして役にたたねぇじゃねえか」

まぁ、当然だろう。
それでも十騎士の内容がわかっただけでも良しとする。
襲が挙げた中で、バルバロイ、クルス、シーナは味方で、アイズは既に死亡。
悠はこちらの主力とも言えるし、光のシャインか…これも何となく味方な気がする。
残ったのは氷と闇か…すでにふたりだけになっている。
私は妙な感じがした。
果たして、この状況を予測できなかったのか?と…。
どうしても、不安が拭えなかった。

襲 「…これから俺をどうする気だ?」

シェイド 「…好きにすればいい」

ジン 「なっ!?」

ノーム 「いいの!?」

私は簡単にそう言う。
ウンディーネとゾルフ先生、サラマは特に気にしなかったようだ。
私がこう言うのをわかっていたのだろう。

襲 「正気か? またお前たちの敵として現れるかもしれんぞ?」

シェイド 「…構わん、その時は今度こそ容赦はしない」

襲 「……」

サラマ 「…そういうことだ」

襲は何も言わなかった。
ただ、不思議そうな顔をしていた。

ゾルフ 「…襲。お前はゼイラムに操られていたのではないのかね?」

襲 「ああ、何か魔法のような物をかけられた…それから俺の意識はない」
襲 「俺は一番最後に十騎士として組み込まれた」
襲 「正確には、3年前にゼイラムに捕らえられた、17歳の時だ」
襲 「喧嘩喧嘩に明け暮れ、レギルのどこかで野垂れ死にしそうになった所をゼイラムに拾われた」

ノーム 「うわ…硬派だな」

ジン 「よくありそうな話だな…極道かよ」

ふたりが茶々を入れるが、気にせずに襲は話す。

襲 「わけのわからない所に連れ込まれ、戦闘訓練を受けた」
襲 「そして、つい最近になって、急に俺を十騎士に組み込み、そこから俺の意識はない」

ゾルフ 「正確にはいつごろからじゃ?」

襲 「さぁな、記憶がないからうろ覚えだが…今日は何日だ?」

ウンディーネ 「えっと…11月4日やな」

ウンディーネはカレンダーを見てそう言う。
一応小屋の中、北側の壁に貼ってある。

襲 「なら、俺はもう3ヶ月も操られていたことになる」

シェイド 「3ヶ月も…」

襲 「元々、無理やりゼイラムに引き込まれたようなものだからな。無論俺だけじゃない…他の十騎士も、そういう奴がいる」

シェイド 「で、お前はどうするんだ?」

襲 「…逃げても結局は始末されるだろう。なら…戦って死ぬさ」

シェイド 「…私たちと、か?」

襲 「少なからず、お前たちには助けてもらった恩がある…それを返すのも悪くないだろう」

襲は笑ってそう言う。

ジン 「ってことは、俺たちの味方になるって事か?」

サラマ 「そういうことだ」

ノーム 「まぁ、敵になるよりはマシだよね」

ウンディーネ 「まっ、ええんちゃう? シェイドもそうさせるつもりやったんやろ?」

シェイド 「さぁな…」

私はとぼけておいた。
そう、私はそうさせるつもりだった。
何故なら、この男も…戦争の犠牲者なのだから。
敵である必要など、何所にもないのだ。

襲 「…で、お前たちはこれから何をするつもりなんだ?」

私たちはこれまでの経緯を含めながら襲に話した。



………。



襲 「…そうか、ならば俺もその修行に付き合わせてもらおう。どの道、今のままでは奴らには及ばないからな」

ゾルフ 「話しはまとまったようじゃな…ならば」

先生は何やら北側、カレンダーの裏にある壁を手で押した。
よく見ると、カレンダーの裏にはボタンのような物があった。
先生がそのボタンを押すと、何と、テーブル南側方面の床が下に落ちる…と言うよりも変形した?

シェイド 「これは…?」

ゾルフ 「さぁ、行くがよい…この先にはお前たちの修行場に繋がっておる」
ゾルフ 「こんな時のために、ワシが用意しておいたのじゃ」

ウンディーネ 「よっしゃ!! ほな、行くで!」

ウンディーネが一番乗りでその道を進んでゆく。
先は階段になっており、底は見えなかった。

ジン 「おしっ、俺も行くぞ!」

サラマ 「行くぞノーム!」

ノーム 「OK!」

続いて3人が進む。
すぐに中の連中は見えなくなっていった。

襲 「…俺も行って大丈夫なのか?」

ゾルフ 「心配はいらん…道はお前さんたちの心にあるじゃろう」
ゾルフ 「そして、自分の力で道を切り開くがいい」

シェイド 「私は先に行く…」

私はその道に進んだ。
ある程度降りたところで、地面に着く。
地下通路のようになっていて、一応灯りがついており、どうやら緩やかな下り坂になっているようだ。
私はどんどん、先に進んだ。



………。



十分ほど走っただろうか? 私は行き止まりに着いた。
行き止まりは円状の部屋になっていた。
他の皆はいない。
ただ、魔方陣がひとつある。
直径3〜4メートルはある魔方陣だ。

シェイド 「転送用…か?」

私はその魔方陣の中心に立った。
すると、闇が私を包みこみ、私の視界には何も映らなくなった。



………。
……。
…。



ウンディーネ 「あれ…? ここなんか見覚えある…」

湖があった。
やっぱ、あれは転送陣やったんやな…。
でも、何やろ…初めてやない気がする。
視界には広い湖があり、先が見えへん。
足元は花畑で、周りは森に囲まれとる。

声 「ここはあなたの産まれ故郷の湖よ」

ウンディーネ 「誰や!?」

見ると、湖の上にひとりの女性が立っとった。
長いウェーブのかかった髪に水色で露出度の高いローブを着たごっつ美人の姉ちゃんや…。
スタイルもかなりやりよる…。

女性 「よく来たわねウンディーネ。私は水の精霊王、ネレイド・フォティ…あなたに修行をつける者よ」

ウンディーネ 「あんたが高位精霊?」

聞いたことあるわ…精霊族には、それぞれの属性を束ねる精霊王がおるって。
元々は守護者の力で生み出された精霊らしいけど、この人がそうなんか。

ネレイド 「…せいぜい、強くなってもらうわよ」



………。



ノーム 「あれ…? ここどこ?」

見た感じ、山の頂上みたいだった。
景色はかなりいいが、下の状況が全く見えない…完全に雲の上だ。
空気もかなり薄く、寒い感じがする。
岩肌で覆われたその山は、緑すらなかった。

声 「よくぞ来た…」

ノーム 「!?」

俺は後を振り向く。
すると、短髪で大柄、やや歳を感じさせる顔つきに白のローブで身を包んだ男がいた。
右手には分厚い本を持っている。
よく見ると、神父様のようにも見えた。

男 「我は地の精霊王、ミドガルド・ジ・アスラ。お前に修行をつける者だ」

ノーム 「他の皆は?」

ミドガルド 「案ずるな…他の者はそれぞれの修行場にいる」
ミドガルド 「我らと同じように、な」



………。
……。
…。



ジン 「ん? ここは草原? 何もねえな…」

しかし、どこかで見覚えがある。
心落ち着く場所だ…そうだ、忘れるはずもない、ここは…。

声 「ジン…久し振りですね」

突然、上空から声。
見上げると、空から翼の生えた女性が降りてきた。
セミロングの髪に鳥のような、まるで天使の翼。
そして、緑のローブを身に纏ったおしとやかそうな女性。

ジン 「…イーリス様」

イーリス 「覚えていてくれたのですね」

ジン 「当たり前です…! 風の精霊王、イーリス・シフォン様! 俺の育ての親…」

俺はイーリス様の手を取り、感激する。
まさかこんな所で出会えるなんて。

イーリス 「今日から2ヶ月間、私があなたの修行のパートナーです…頑張りましょう」

ジン 「は、はいっ!」



………。
……。
…。



サラマ 「ここは…溶岩? 火山か?」

どうやら、転送陣によってこんな所にワープさせられたようだな。
かなりの気温で、秋服の俺にはかなり暑かった。

声 「お前がサラマンダーか!」

サラマ 「!?」

声がした。
だが誰もいない…。
すると、溶岩が突然浮き上がり、炎が弾けて男が現れた。

声 「俺は炎の精霊王、バーン・ドレイド! よく来た、ここがお前の修行場だ!!」

サラマ 「ここが修行場…?」

なるほど…精霊王とはな、これ以上の師匠はそうはいない!

バーン 「これからみっちりしごいてやるから覚悟しろ!!」



………。
……。
…。



シェイド 「…闇? な、何だ…ここは?」

何も見えなかった。
ただ闇が広がるだけ。
私は真っ直ぐ歩を進めた。
地面はある。
行き止まりはない。
そして、しばらく歩くと。

声 「…シェイド・オブシダン」

シェイド 「……?」

闇の中から声。
私は歩を止めその場で待機する。
敵ではない、それだけはわかる。

シェイド 「…誰だ?」

声 「私はハーデス…闇を守護する者」

突然私の背後にその声が響く。
私はすぐに振り向き。

シェイド 「ハーデス…? 闇の守護者、ハーデス様だと!?」

何故闇の守護者であるハーデス様がここに…?
だが、振り向いた先には何もいなかった。
私はすぐに後ろを振り返る。

ハーデス 「私はお前の成長を手助けするためにここにいる…」

今度こそ姿がわかった。
淡い光に包まれ、全体像が見える。
地面はタイルだかリノリウムだかわからないような地面だった。
天井は…見えない。
ハーデス様は、黒い魔導師の服に身を包み、肩の辺りまであるセミロングの髪。
身長は私よりも高く、180cmはありそうだ。
そして、私は何よりも気になることがあった。

シェイド 「私の成長…?」

ハーデス 「私がお前を生み出してから23年…どうやら、ほぼ問題なく成長しているようだな」

シェイド 「…生み出した…?」

ハーデス 「そうだ…精霊族は、元来我等守護者から生み出されるのだ」

シェイド 「……」

聞いたことはある、精霊王と呼ばれる高位の精霊は守護者の力によって生み出され、精霊族を守っていくという。

ハーデス 「確かに…精霊族も多種族のように男女の性交で生まれる事も出来る」
ハーデス 「だが、お前はその中でも特別例外だ。お前は私の力から直接生み出した…今の脅威と戦うために」

シェイド 「……」

ハーデス 「さぁ…お前の力を完全にする時が来た」
ハーデス 「今こそ私を超え、真なる悪を倒すがいい」



………。
……。
…。



襲 「…ここは?」

魔方陣から転送されると、そこは自然が溢れる場所だった。
遠くには山。
近くには森林と湖。
鳥が飛び交い、動物が走りまわっている。
空は青く、雲もまばらに見つかる。
何だ…?
何故…こんな場所に……?

襲 「ここで、俺は修行をしろというわけか…」

他には誰もいないようだった。
ひとり、か…。
だが、考えていても始まらない。
強くなるしかない…。
今はそれだけだ。



………。
……。
…。



ゾルフ 「…これはまだ始まりじゃ」
ゾルフ 「辛い戦争はこれから始まる…」
ゾルフ 「皆…頑張るのじゃぞ」



…To be continued




次回予告

シーナ:皆と別れて、私はバルバロイさん、クルスと一緒にヴェルダンドの更に北にある山の頂上へと向かった。
そこで私はバルバロイさんに戦闘術を再び習う。
だんだんと力をつけていく私。
そこへ、十騎士である火山 烈が現れた…。

次回 Eternal Fantasia

第17話 「紅蓮の烈」

シーナ 「私の、力…」




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