Menu
BackNext




第17話 「紅蓮の烈」




シーナ 「……」

姉さんたちと別れてから、丸一日…。
私たち3人はセイレーンから船に乗り、ソルジネス大陸に着いていた。
そして向かう先は、ヴェルダンドのさらに北にあるサーヴェス山。
そこは、前に私が訓練をした所で、バルバロイさんが自分で作った訓練場らしい。
雪がちらつく山道を歩いていると、やがて左方向にヴェルダンド城が見える。
そこは私の祖国。
でも…今は。

バル 「…別に、少し位なら寄り道してもいいんだぞ?」

バルバロイさんが私の心境を察してか、そう聞いてくる。
だけど、私は首を横に振る。

シーナ 「ううん…いいんです、今はまだ帰りたくないですから…」

バル 「そうか…」

クルス 「………」

それからは、会話もなく、夜にはサーヴェス山に到着することができた。



………。



『サーヴェス山』

ヴェルダンドの北に存在する、標高500メートル程度の山。
基本的に登山者は少なく、近づく人間も少ない。
野生の動物も少なからず存在し、一般の人間が近づくのは危険とされている山である。



シーナ 「……」

バルバロイ 「……」

クルス 「………」

山の南側で私たちは一度立ち止まる。
やはり言葉はない。
風の音が聞こえ、やや動物の気配も感じる。
訓練場は、この山の地下に存在する。
私たちは、山の麓を南側から右に沿って歩いていく。
すると、小さな洞窟が見える。
人がひとり何とか入れる程度の小さな入口。
私たちは、バルバロイさんを先頭に洞窟内に進入した。
中は暗く、前も見えないので、私が光魔法で灯りを作る。
そして、更に前へと進んだ。
数分ほど下っていくと、やがて前から小さな灯りが見えてくる。
そこが目的地の訓練場。
奥に着くと、多くの魔石による灯りで周りが見えてくる。
中は割と広く、直径およそ200メートルはある。天井も大体10メートル以上だ。
灯りは光の魔石で作られており、少し強い位の光を放っていた。

シーナ (バルバロイさん…ちょくちょくここに来てるのかな?)

見た所、魔石は新しい物らしく、以前に見た時よりも明るく輝いているような気さえした。

バル 「とりあえず、荷物を部屋に置くぞ」

私たちは、入口から正面に向かって突き当たりの壁にあるドアを開け、更に2〜3メートルぐらいの真っ直ぐな通路を進み、突き当たりのドアを開けて部屋に入った。
そこが休憩室。
部屋はひとつしかないので、全員がここで眠ることになる。
風呂場もないので、しばらくは汚れが大変だ。
私たちはそれぞれ荷物を置くと、武器を手に広間へと戻り、すぐに訓練に入る。



………。



バル 「まずは、シーナ…お前の今の実力を測らせてもらうぞ」

シーナ 「私の実力を…?」

バル 「ああ…クルスはしばらくひとりで訓練をしておいてくれ」

クルス 「…わかった」

そう答えると、クルスは私たちから離れた場所で訓練を始めた。
訓練場には一応器具のような物があり、クルスは直径1メートルの魔方陣の中心に座り、精神世界で訓練に入る。
主に、魔法力や、精神力を上げる訓練だ。

バル 「…始めるぞ」

バルバロイさんは剣を抜き、構えもせずに棒立ちの状態でいた。
このままでも十分威圧感がある、さすがに戦い慣れている感じだ。

シーナ 「…よし」

私は意を決し、槍を構えてバルバロイさんに向かって切りかかった。

キィン!

シーナ 「きゃあ!」

私の攻撃は片手でいとも簡単に弾かれ、私は吹き飛ぶ。
決して手加減はしていない、それでもこれだけのパワー差がある。

バル 「どうした…それで終わりか?」

バルバロイさんはなおも構えを取らずに、そう挑発する。

シーナ 「くっ…」

私は全力を持って、槍を振るう。

ガキィン! ギィン!!

だが、私の攻撃は全て片手で受け流されてしまう。
バルバロイさんは表情すら変えない。

バル 「それだけか!? 俺を殺すつもりでかかって来い!!」

シーナ 「うわあああああ!!」

ガキィ!

バル 「ただ正面から攻撃すればいいわけじゃないんだぞ!? 頭を使え!!」

ズシャアッ!

シーナ 「くぅ…!!」



………。
……。
…。



こんな調子で、2時間ほど戦って今日の訓練は終わった。
私はそれだけでボロボロになり、部屋に着くなり、布団に倒れ、そのまま眠ってしまった。



………。
……。
…。



声 「シーナ、起きろ」

シーナ 「う、ううん…」

私は誰かに体を揺すられ、目を覚ます。
すると、正面にバルバロイさんの顔があった。
私は寝ぼけた目でバルバロイさんを見る。
特に気にした風も無く、バルバロイさんはこう言う。

バル 「訓練を始めるぞ…早く支度をしろ」

シーナ 「…朝食は?」

バル 「訓練の後だ…」

シーナ 「……」

私は、空腹に腹を押さえながらも、槍を片手に訓練場に向かった。
当然力が入らない…。



バル 「シーナ、お前は翼人族ゆえにパワーはかなり少ない。ならば、スピードを上げた方が恐らく強くなれるだろう」

シーナ 「スピード…」

私はどちらかと言うと力技の方が得意ではあった。
それでも、やはり種族的な差は覆せないのかもしれない。

バル 「それから、魔力も磨いておけ…翼人族は本来、力よりも魔力の方が優れた種族だからな」

シーナ 「はいっ!」

そして、約2時間程で早朝の訓練が終わる…。
例によってボロボロになった…朝からこれでは昼は耐えられるのだろうか?



………。



シーナ 「……」

バル 「どうした? 食わないと体が持たんぞ」

シーナ 「は、はい…」

でも、疲労のせいか、食事が喉を通る気がしなかった。
バルバロイさんとクルスは特に疲れた風も無く、食事を摂っている。
私は半分無理に食事を取り、私は訓練に赴いた。
次はクルスとの模擬戦だ。
正直気だるい…でも頑張らないと。

クルス 「………」

シーナ 「はぁっ!」

ブンッ

私はクルスに向かって槍を振るう。
全身の力を込めて振るうが、かすりもしない。

バル 「もっと、シャープに攻撃を繰り出せ! 威力があっても当たらなければ意味がないぞ!!」

シーナ 「たあぁっ!!」

ヒュッ!

クルス 「………」

それから2時間クルスと組手を続けたけど、一撃も当てる事はできなかった。
元々スピードが違いすぎるのもあるけど、それ以上の壁を感じた…。



………。
……。
…。



シーナ 「………」

今度は精神世界に入ることによって、魔力を鍛える訓練。
昼までは、その訓練を続けた。



………。



そして昼食。

シーナ 「……」

バル 「……」

クルス 「………」

ふたりとも黙々と食べている。
結局、私だけほとんど食事が通らなかった。
昼はまたバルバロイさんとの組手。
それから、約7時間、何回か休憩を挟みながら訓練を続けた。
夕食は一口も喉を通らなかった…。
体は限界かもしれない。
それでもまだ訓練は続く…。
それから3時間、また同じようにバルバロイさんとの組手…。



………。



シーナ 「……」

もう動く事もできなかった。
体が悲鳴をあげている。
でも睡眠時間は5時間…。
これからもそんなメニューが続くのだから、気が重い…。
情けない気はするけど、もう根をあげていた…。



………。
……。
…。



そして、次の日の朝5時…。
私は痛む体を引きずりながらも訓練に赴く。

バル 「……」

シーナ 「…はぁっ!!」

バル 「ふんっ!」

シーナ 「!?」

キィンッ!

バル 「!?」

ズダンッ!!

シーナ 「う……」



………。
……。
…。



シーナ 「……?」

気がつくと、天井があった。
…そっか、気を失っちゃったんだ。
訓練中に、力が入らなくて、防御が甘くなって壁に叩きつけられたんだ…。
時間はもう夜になっていた。
ほとんど丸一日寝ていたの…?

クルス 「…気がついたのか?」

シーナ 「…クルス?」

右を向くとクルスの姿が見える。
左にはバルバロイさんがいた。

クルス 「………」

バル 「…大丈夫かシーナ?」

シーナ 「…はい」

バルバロイさんがやや無感情にそう言う。
私は情けなくなって顔を俯けた。
これじゃ…ただの足手まといだ。

バル 「どうやら、少しハイペース過ぎたか…」

クルス 「………」

シーナ 「…すみません」

申し訳なかった…けど、それ以上に自分が嫌になった。
ひ弱な体が恨めしい…。

バル 「…今日は食事を摂ってすぐに休め」

シーナ 「…はい」

私は言われた通り、食事を摂るとすぐに床についた。
眠れなかった…眠いはずなのに。

クルス 「………」

シーナ 「クルス…?」

眠れずに私が唸っていると、クルスがいつのまにか近くにいた。
気配を感じなかった…私には姉さんのようなことはできないのだろう。

クルス 「…薬だ、疲労に多少は効くはずだ」

それだけを言って、クルスは部屋を出た。
私はそれを受け取って、しげしげと眺める。
その薬は薬草をすりつぶした物らしく、粉状だった…。

シーナ 「…クルス」

何だか嬉しかった、私はクルスからもらった薬を飲んでから眠ることにした。
とりあえず、一口服用する。

シーナ 「…苦っ」

良薬口に苦し…。
そして、今度はすぐに眠ることができ、私は朝まで眠った。



………。
……。
…。



バル 「…体は大丈夫か?」

シーナ 「はい!」

私は力強く返事をする。
気合一発、今はそれで何とかするしかない。
どんなに辛くても、どんなに苦しくても、やらなければ前に進まない。
逆に言えば、いつかは前に届くはずだ。
だから…今は頑張ろう。
私は自分にそう言い聞かせて、槍を構える。

バル 「……」

シーナ 「はあああっ!!」

私はスピードを意識して槍を打ち込む。
早く、正確に!
そして、それでも力強く!

キィン! ガキィンッ! ガァキィ!

バル 「…ほう」

だが、バルバロイさんはいともたやすくいなす。
だが、表情を変えるぐらいはできた。
これだけでも凄い進歩だ。

シーナ 「く…!」

キィンッ!

シーナ 「きゃっ…!」

バル 「その程度か?」

ちょっと油断した…すぐに切り返される。
私は集中力を研ぎ澄ます。
私には姉さんのような戦いはできない。
だから、こうやって少しづつでも戦闘能力を上げていくしかない。

シーナ 「ええい!!」



………。
……。
…。



そして、今日も一日の訓練が終わった。
結局1本も取る事はできなかった、でも打ち疲れることはそんなになかった。
気合のノリだけでもやっぱり違うのだろう。

バル 「…何があったのかは知らんが、ずいぶんと腕が上がっていたな」

シーナ 「え…? そうですか?」

バル 「ああ、この前とは別人のようだ」

シーナ 「…まぁ、薬が効いたんですよっ」

私はそう言って少し照れた。
実際には私の気の持ちよう。
前までは私には多少でもおごりがあった。
自分は力になれる、力になると思っていたのがいけなかった。
自意識過剰…ってやつね。

バル 「……?」

クルス 「………」

ふたりは特に気にしなかったようだ。
私は笑って誤魔化す、これでいい。
肩の力を抜いてやれる分には楽になる。





………………。





それから大体1ヶ月が過ぎた…。
私たちはそれぞれが以前と見違えるほどのレベルアップを遂げたと思う。
…まぁ、そのせいもあって、私は未だにバルバロイさんから一本も取れていない。
私も強くなっているはずだけど、バルバロイさんやクルスはもっと強くなっていく。
素質の違いもあるのだろうけど、自分としては納得がいっていない。
でも、これが種族としての差なのだろう。
翼人族は体力が低い…これを無理に鍛えても限界がある。
体の作りが根本的に違うので、どうしてもカバーできるのに限界がある。
私は…この1ヶ月で、限界を感じ始めていた。

シーナ 「はぁっ!」

ヒュッ!

バル 「……」

シーナ 「せいっ!」

キィンッ! ガキィ!

バル 「くっ…?」

シーナ 「アクア・カッター!」

バル 「ちぃ!」

バルバロイさんは雷魔法で私の水魔法を相殺する。
これが私の答え。
肉体的なハンデはどうにもならない、だから翼人族の特徴や長所でもある魔力、スピードを伸ばす。
最初にバルバロイさんに言われたことを遂行しただけなのだが、私にとってもこれが一番いいと思える。

シーナ 「はあっ!!」

バルバロイさんが魔法で相殺している隙に、私はバルバロイさんに突きかかる。
スピードで上回るのなら、こういうこともできる。

バル 「!?」

ガキィ!

シーナ 「!?」

だが、バルバロイさんは剣の腹で槍を受け止めていた。
決まったと思ったのに…。

バル 「ふっ…」

今度はバルバロイさんが攻撃に転じる。
私は槍を引き戻し、防御に入る。

バル 「ふん!」

ヒュッ! ビュッ!

私は剣をかわし、反撃に転じる。
足を止めて打ち合うことはできない、翼人族は体重がかなり低いためにどうしても踏ん張りきれない。
かわして、打ち込むのが理想だ。

シーナ 「ええい!!」

バチィッ!

シーナ 「きゃっ!?」

突然、体に電流が走る。
一瞬だが、私は怯む。

チャキッ

気が付くと、喉元に剣を突きたてられる。
結局、いつもと同じだ。
バルバロイさんの魔法は溜めが早すぎて、私ではまだ反応しきれない。
その代わり、バルバロイさんは雷系以外を使えないようだけど…。
ひとつの属性を絶対の物に昇華させると、ここまでの差になるのよね。
私は水と光、風辺りを使い分けるけど、そのせいかどうしても使い所が難しくなってくる。
要は私の判断が遅いのだ。

バル 「…甘かったな」

シーナ 「…はぁ、またやられちゃった」

私は槍を地面に放って、後方に倒れる。
そのまま今日は終了となった。
そして、その日の夜…。



………。



シーナ 「……?」

夜、私は部屋に戻ろうとすると、中からバルバロイさんとクルスの声が聞こえる。
私はつい、ドアの前でその話に聞き耳を立ててしまう。

バル 「…どう思うクルス?」

クルス 「…予定以上といった所だろう」

予定…? 何のことだろう?

バル 「ああ、これなら心配する事もあるまい…」

心配…?

バル 「…シーナは俺の想像以上の力を発揮している。俺もうかうかしてはいられんな…」

あっ…そう言うことか。
私の成長の事だったんだ。

バル 「やはり、シーナも翼人族の王家の力を発揮しつつある…」

シーナ (王家の力…?)

そう言えば聞いたことがある…。
翼人族の王家には、邪を払うことの出切る、光の力があるって…。
でも、それはあくまで正当王家だけが持つことのできる力とも聞いたことがある。
戦争の話が本当なら、300年前にその正当王家は滅んでいる。
つまり、現実にその力を発揮するのはセイラ王女の力を受け継ぐ姉さんだけ…。

シーナ (私の力…か)

私はそこで悩むのもなんなので、そろそろドアを開ける。

ガチャ

バル 「!?」

シーナ 「えへへ…聞いちゃった♪」

バル 「……」

バルバロイさんは照れ隠しなのか、頭をぽりぽりと掻いて黙ってしまう。
私はそこでちょっと、バルバロイさんに色々聞いてみることにした。
バルバロイさんってクールで結構謎が多そうな人だから、気になる事は一杯ある。
決して私が聞きたがりなのではない…はず。

シーナ 「あの…バルバロイさんって好きな女性っているんですか?」

バル 「…いきなりな質問だな」

自分でもそう思う。
でもしょうがないじゃない、気になるんだから♪

シーナ 「だって、気になりましたから。仲間内では女性の比率も多いですし、バルバロイさんにもそういう女性がいるんじゃないかなぁ…?って」

バル 「……」

バルバロイさんは言うのが嫌なのか、沈黙する。
心当たりがあるにはあるのだろう…でもはっきりしない。

シーナ 「もしかして、仲間の誰かですか?」

バルバロイ 「…今はそういうことは考えないようにしている」

シーナ 「そうなんですか?」

予想通りと言うか何と言うか、ありきたりな台詞。
ただ逃げとも思える。

バルバロイ 「ああ、俺たちは戦争をしようとしているんだ…今はできるだけそういう感情は押さえたいのさ」
バルバロイ 「と言っても…俺には初めからそんな感情はないがな」
バルバロイ 「俺は邪獣だ、元々人を滅ぼすために産み出された存在だからな」

シーナ 「…でも、邪獣だって、感情はありますよ」
シーナ 「過去に、ユシルさんはセイラさんと恋をしたんでしょ? だったら、バルバロイさんだって」

ユシルさんはセイラさんが好きで未来に力を託した…でも。
実際には、未来に自分の想いを残したかったのかもしれない…。
悠さんと、姉さん…できるなら、平和な世の中に、ふたりの幸せな恋を見たかったのかもしれない…。

バル 「…俺は、ユシルとは違うさ」

そう言って、バルバロイさんは部屋を出てしまう。
心持ち、悲しそうな顔に見えた。
嘘を言っている…というわけでもないかもしれない、それでも…気になった。

シーナ (う〜ん、やっぱり片想いが有力かな?)

と、勝手に想像してしまう。
そして、そんな感じで今日は終わった。



………。



バルバロイ 「……」

俺は外に出ていた。
そして考える、あいつのことを。

バルバロイ (ユシル…お前は、そうだったのか? セイラというひとりの少女のために、お前は命を投げうったのか?)

確信が持てなかった。
あいつは、もっと大きな物を見ている気がした。
過去に、俺はあいつと戦った。
結果は無残な物だった。
俺にはあいつに一太刀すら与えることができなかった。
あいつにあって、俺に無いもの…それが愛だったのか?
それは、それほどまでに力になるものだったのか?

バルバロイ 「…俺には、知ることはできないか」

確かに邪獣に感情が無いわけではない。
人と恋に落ち、子孫を残した十騎士もいる…俺にもそう言う感情があったとしても不思議ではない。
だが、俺にはわからない。
気になる女か…いないわけではない。
だが、それが俺にとって愛かどうかはわからない。

元は人族だった少女。
だが、そのあまりにも強い力のせいで、闇の十騎士として育てられた女。
今でも、あいつは戦い続けているのだろう…自分と。
あいつの力は、本気で解放されれば四天王さえ凌ぐ力だろう。
だが、ゼイラムはそれを恐れてあいつの力を記憶と共に封じた。
そして、新たな記憶を与えられ、人格さえも変えられた。
俺の中には、あの日のあいつの顔が未だに頭に残っている。
無邪気な笑顔…子供の頃だったあの笑顔。
俺は生まれた時点ですでに成人と同じ体だったから、まるで親子と言っても差し支えなかったろう。
それでも、あいつは俺によく笑いかけてくれた。
俺は…あの笑顔が見たかっただけだったのかもしれんな。
今では…もう見ることもできん。

バルバロイ (ネイ…お前は、この先どう生きるのだ?)

このまま行けば、戦うことは必死だろう。
そうすれば、間違いなくどちらかが滅びる。
そう言う戦いを俺たちはしているのだ。
烈や襲、氷牙はどうするのだろうか?
烈はあの性格ゆえに、いつまでも留まるまい。
氷牙は場合によっては味方に引き込める、襲はわからんな…あいつも強さだけで言えば相当なものだ。
実力で屈服させるには相当な実力がいるだろう。
正直、俺でも襲を倒す自信は無い…。
あれだけの素質を持った人間はそうはいまい。

バルバロイ 「…来るか、烈」

まだ遠い所に、そんな気配を感じた。
それは明らかな殺気。
俺は剣を握り締める。
だが、その殺気はひとつではなかった。

バルバロイ (…面倒なことになりそうだな)

ゼイラムの奴が仕込んだのだろう、邪気がここまで伝わってくる。
と言っても、邪獣でなければ反応はできまい。
俺はその方向を睨む。
そして、戦闘態勢を取る。



………。



シーナ 「…ねぇ、クルス」

クルス 「……?」

私が話しかけると、クルスは顔だけを向ける。

シーナ 「クルスは、今はどうして戦うの?」

クルス 「……?」

クルスは何故?と言う顔で私を見る。
まるで戦うのが当たり前と言わんばかりだ。

シーナ 「…クルスは、無理に戦う理由は無いと思うけど、でも戦っている」
シーナ 「それは、どうして?」

クルス 「………」

クルスは地面を見て、しばらく黙る。
言いたくないのかな?
私がそう思っていると。

クルス 「…シーナを護るため、それでは不満か?」

シーナ 「…えっ?」

今度は私が黙ってしまう。
多分、顔が真っ赤になっているであろうと自分でわかった。
どうしてそう言うことを真顔で言えるかなぁ…凄く恥ずかしいんだけど。

クルス 「…俺には元々何も無い」
クルス 「戦うことでしか自分の存在意義を見出せなかった」
クルス 「だが、今は…シーナがいる」
クルス 「シーナは俺のことを必要としてくれた」
クルス 「だから、俺はシーナを護る」

シーナ 「あ、ありがとう…嬉しいよ」

でも、私クルスに一度殺されかけたんだよね…。
あれはクルスの意思だったのだろうか?

クルス 「…すまない」

シーナ 「え?」

一瞬焦る。
自分の心を見抜かれたのかと思ったが、それは杞憂だとすぐにわかる。

クルス 「俺は…シーナを殺そうとした」
クルス 「シーナに剣を突き立てる時も、何も抵抗は無かった」
クルス 「それでも、血を出して倒れるシーナを見て、俺は自分が怖くなった」
クルス 「今まで、何人殺してもそう思ったことは無かった」
クルス 「それが、自分の存在意義だと思ったから」

シーナ 「…でも、それは」

私が遮ろうとするが、首を横に振ってクルスは続ける。

クルス 「俺はそう思っていただけだった」
クルス 「だから、シーナが倒れた時、俺は初めて悲しみを知った」
クルス 「俺を必要としてくれる人がいる…」
クルス 「それが、今の俺にとって一番大切な人だ」

シーナ 「…クルス」

嬉しいことを言ってくれる。
私がしたことは間違いではなかった。
それが嬉しかった。

シーナ 「大丈夫、私はクルスを護れるくらい強くなるからねっ」

そう言って、笑顔を振り撒く。
クルスは、笑うことは無かったが、嬉しそうに見えた。

クルス 「…もう、寝た方がいい」

シーナ 「うん、明日も早いからね」

私たちは、互いにそう言って、布団に包まる。
そして、眠りに着くことにさほど時間は必要なかった。



………。
……。
…。



シーナ 「…あれ?」

ふと夜中に目が覚めると、バルバロイさんとクルスがいないことに気付く。
私はさすがに気になって部屋を出てみる。
そして、私はあるパルスを感じ取った。
姉さんほどに正確ではないので、イマイチ確信が無い…でも知っているパルスに似ていた。

シーナ (このパルスは…!?)

私は正面のドアの向こう側に、その知ったパルスを感じ取り、すぐに訓練場に出る。

シーナ 「……」

私が訓練場に出ると、正面にいる男が不適に笑っていた。
そして、その男をやはり私は知っている。

烈 「さぁ、死んでもらうぜ!!」

シーナ 「烈!!」

突如現われた烈。
その表情は前に見たそれとは明らかに違った。
パルスもどこか違う。
ここまで黒々しいパルスを持った人間ではなかったのに…。
だが、今はその烈と私が戦わなければならなかった。



…To be continued




次回予告

シーナ:突然夜襲をしかけてきた烈。
姿を消したバルバロイさんとクルス…。
ふたりはその時、それぞれ別の敵と戦っていた。
そして、私の力の秘密…。

次回 Eternal Fantasia

第18話 「王家の力」

シーナ 「翼人族、王家の力よ…私に力を貸して!」




Menu
BackNext




inserted by FC2 system