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第18話 「王家の力」




シーナ 「…烈!」

烈 「…覚悟するんだな!」

私は槍を構え、烈を睨みつける。
明らかに前に見た烈とは異なる。
パルスすらも異常に思えた。
恐らくは、何かの付加作用で…。

烈 「はああああ!!」

烈はハルバード(槍斧)を持って私に切りかかる。

シーナ 「!!」

ガキィ!

私は槍で正面からそれを受け止める。
かなりの衝撃だが、受けきれないほどではない。
正直、自分でも驚いた。

シーナ 「はぁっ!」

ガキィ!

私は素早く切り返し、烈の動きを制限する。
スピードで撹乱すれば、ついて来れないはず。
だが、烈は強引に私の槍を弾き返して突き返してくる。

ビュ!

シーナ 「くっ…」

私はその槍を横に避けながら反撃に転じようとする。
槍斧だけに、切り払うこともできる相手の攻撃を、こちらの槍で対応するのは予想以上に辛かった。

シーナ 「やあっ!!」

烈 「…!」

ガキィ!

またも受け止められる。
私は今度はそこから魔法を放つ。
前もって溜めは作っておいたので、素早く解放する。

シーナ 「アクア・ブラスト!!」

ギュアーーー!!

私が走叫ぶと、烈の足元から水柱が噴き出し、衝撃で烈を後に吹き飛ばす。

烈 「ぐっ…!!」

シーナ 「!?」

ドジュウウゥゥ!!

烈の手元から炎が噴き出し、私の魔法を蒸発させながら炎の玉が飛んでくる。

シーナ 「キャアッ!」

ドオオオォォォンッ!!

私は直撃を避け、炎の玉は後ろの壁に当たって爆発したが、部屋が崩れる様子はなかった。
が、私はバランスを崩してしまう。
その隙に当然烈が、攻撃してくる。
槍を右手に持ち、左手を空けて魔法を放つ。

烈 「ファイアー・ボール!!」

ドウン! ドウン!

烈の左手から2つの炎球が飛び出す。

シーナ 「アクア・シールド!」

私は自分の体が全て覆えるぐらいの水の盾を創り出し、それを防ぐ。

ジュウウウゥゥ

私は水の盾に身を守りながら烈に突っ込む。
魔力では私の方が歴然として高い。
この程度の魔法なら問題なかった。

烈 「うおおおお!!」

烈は私に向かって魔法を連続放ち続けた。
だが、全て私の盾に当たり消え去る。
正直、無駄。

シーナ 「はあっ!!」

ザンッ

私は盾魔法を維持したまま、槍で烈の体を切り裂く。

シーナ 「浅い!」

だが、烈は咄嗟に身を捻り、致命傷にはならなかった。
間合いが悪かったわね。
私は追撃の体勢に入るが…。

烈 「ぐ…うおおおおおお!!」

烈は怒り狂ったように吼え、猛然と反撃してくる。
私は少し驚いて軽くバックステップする。
全て大振りなため、私は軽く避けることができた。

ブンッ! ブンッ!

シーナ (何…? 獣とかじゃあるまいし、あまりにも適当な攻撃)

私は何だか疑問に思ってきた。
烈の行動があまりにも野性的だからだ。
少なくとも前に烈の戦いを見た時はこんな感じじゃなかった…。
元々荒々しい性格ではあったけど、ここまで野性的ではない。
私の中で疑問が確信に変わりつつある。

烈 「おおおおお!!」

烈は業を煮やしたのか、炎魔法を全力で放つ。
思ったよりも溜めが早く、私の反応がやや遅れる。

シーナ 「ちょ…!?」

私は慌てて水のシールドを全力で放つ。

カッ! チュドオオオオォォォンッ!!

シーナ 「きゃあああ!!」

だが、反応が遅れたために私の未完成なシールドは破られ、私は爆風に吹き飛ばされてしまう。
衝撃で後ろの壁に叩きつけられ、私は一瞬気が遠くなる。
それでも、私は気を保って烈を見据える。

シーナ 「く…!」

私は水の回復魔法を自分に唱えながら、起き上がる。
まさに焼け石に水かもしれない…姉さんほどの即効性はない。

烈 「オオオオオッ!」

烈はなおも私に向かってくる。
私は翼を使い、一旦空中に逃げる。

烈 「ぐ…? オオッ!!」

烈は空中に向かって炎魔法を放つ。
私は持ち前のスピード(それでも姉さんやクルスに比べると大分遅い)だけで何とか回避する。

シーナ (姉さんほどの回避があるわけじゃないけど…)

ドオンッ! ドオンッ! ドオンッ!

烈はひたすら炎魔法を唱え、私を攻撃する。
私は回復をある程度終え、回避に専念する。



………。



ドオン! ドオンッ!

それから、数分…烈は私に向かって魔法を打ち続けた。

シーナ (…くっ、あれだけの魔法を放ってまだ魔力が尽きないの?)

私は弾切れを狙い、回避だけに専念したたが、いまだに烈の魔力は尽きない。
正直、普通じゃない。
魔力の底が明らかに相手の方が深い。
これは私としては計算外過ぎ。
このままでは烈よりも先にこちらの体力がなくなってしまう。
私は作戦を変更し、空中から烈に向かって急降下する。
やはり攻撃は最大の防御!

烈 「!?」

シーナ 「へやああああ!!」

ドガアッ!!

私は槍で烈の頭部を思いっきり殴った。
まさか直撃するとは…防御する間もなかったのかな?
とりあえず、烈はその場に倒れる。
えらくあっけないなぁ…これで終わり?
私はそう思いつつも、一応警戒はしながら、少し離れた場所に待機する。

烈 「ぐぐ…」

烈はまだ起き上がる、どうやらまだ戦えるようだ。
やっぱ切った方が良かったかな?
そうは思うが、今更遅い。

シーナ 「く…まぁ、あれで終わるわけないとは思ったけど」

私は再び、槍を持って突っ込んだ。
さすがに烈も動きが遅い、ダメージと疲労は確実にあるはず。



………。



クルス 「…氷牙」

氷牙 「クルス…お前も裏切るとはな」

敵の気配を感じ、訓練場から外(山の麓に当たる)に出れば奴がいた。
そして、今はこうやって対峙している。
俺は臨戦体制を取って氷牙を見る。

氷牙 「考え直す気はないのか?」

クルス 「………」

俺は無言で氷牙に切りかかる。
先手を取るも、距離があったため、受け止められる。
力では奴の方が若干上か。

ガキィ!

氷牙 「成る程…それが答えか!」

氷牙も説得を諦めたのか、剣で俺に切りかかってくる。

クルス 「……」

俺は空中に上がり、そこから攻撃を仕掛ける。

氷牙 「くっ…!?」

クルス 「……」

俺は最大のスピードで上下左右と、氷牙を惑わし、そこから剣による攻撃を重ねる。

氷牙 「…舐めるな! アイス・ストーム!!」

氷牙が魔法を唱えると、吹雪が俺を包みこむ。

ゴオオオオオオッ!!

クルス 「!?」

俺は風魔法で防御に入る。

氷牙 「動きは止まったぞ! アイス・ランサー!!」

氷牙の放った氷の槍が俺目掛けて飛んでくる。
俺は瞬時に風魔法を発動させる。

クルス 「………」

ヒュンッ!

氷牙 「何!?」

俺は風の魔力を身に纏い、あっさりと攻撃をかわす。
あの程度の攻撃ならば、俺には止まって見える。

氷牙 「なんというスピードだ…これほどとはな」

クルス 「……!」

俺は無言で風の魔法を氷牙に放つ。
強力な突風が吹き、氷牙は後方に飛ばされ、木に激突する。

ドガアアアッ!!

氷牙 「…ぐ」

氷牙はバランスを崩し、動きを緩める。

クルス 「………」

俺は好機と見て、氷牙に向かって突っ込む。

クルス 「!?」

俺はそこで急ブレーキをかける。
見知った顔が、近くに現れた。
外に出ているとは思ったが…。

バル 「…氷牙か」

氷牙 「!? バルバロイ…」

バルバロイはやや曇った表情で氷牙を見る。
氷牙はかなり驚いた様子でバルバロイを見て動きを止めた。

バル 「お前が刺客とはな」

氷牙 「ち…あいつは間に合わなかったのか?」

バル 「あいつ? 誰だ、烈か…?」

氷牙 「…俺ではここまでだな、やるがいい」

バル 「観念したか」

氷牙 「……」

氷牙は瞳を閉じ、成り行きを待つ。
だが、バルバロイは何もする様子は無かった。
俺もそれを察して剣を収める。

バル 「…勘違いはするな」

氷牙 「何だと…?」

バルバロイはそう言って、特に感情も無く俺の方を見た。
俺は特に問題はないと、ジェスチャーする。
バルバロイは安心したのか、また氷牙を見る。

バル 「俺はお前を殺すつもりはない」

氷牙 「…いつからそんなに甘くなった?」

バル 「…さぁな」

クルス 「………」

氷牙はバルバロイの記憶が元に戻ったことを知らないのだろうか?
俺がそんなことを考えていると、とてつもない気配を感じる。

氷牙 「…来たか、遅かったな」

バル 「!?」
クルス 「!!」

バルバロイは突如後を振り返る。
俺もほぼ同時に振り返る。
そこにはひとりの女の姿があった。
俺は初めて見る顔だ…。
だが、その女からはとてつもない殺気が伝わってきた。
他の十騎士のレベルとは比較にならない。

バル 「…ネイ」

ネイ 「…見つけた」

バル 「……」

氷牙 「…随分遅かったな」

ネイ 「…なぁんだ、もう捕まったの? だらしのない」
ネイ 「これだから簡易的な邪獣は…」

氷牙 「………」

ネイと呼ばれた女は、そう言って氷牙を罵倒する。
感情も込めず、まるでうっとうしそうに俺たちを見た。

バル 「…クルス、戻ってシーナの様子を見て来い」

バルバロイは振り向かずにそう言う。
正直、この事態はかなり危険なはずだ、それでもこの指示を俺に出した。
俺は迅速に行動することにする。

クルス 「…了解、すぐに戻る」

俺は洞窟内に入り、シーナの元に向かう。
今のままでは全滅さえ考えられる。
未完成と言えど、シーナの力が必要になるだろう。



………。



シーナ 「やあああ!!」

バキィ!

烈 「……」

まただ…あれだけ攻撃を加えたのに一向に倒れない。
あれから、数十分に渡って私は攻撃を加え続けた。
槍による、『打撃』のみのせいもあるが、それしても打たれ強すぎる。
明らかに烈の体からは血が流れ落ち、皮も剥がれ、箇所によっては肉もえぐれている。
これ以上は烈の命に関わる…でも。

シーナ (私に烈を殺せる? いや無理)

自分でもそう思う。
甘い性格と言えばそうかもしれないけど、『操られている』とわかっている相手を簡単に殺すことは私には出来ない。
戦いの中で確信した。
確実に烈は何かの術で操られている。
もはや眼は私を見ておらず、焦点があっていない。
私は次第に後に追い詰められ、壁に背を取られる。

烈 「……」

シーナ 「……」(汗)

烈は虚ろな目で虚空を見ながら、烈が槍斧を私に向かって振り上げると、私は槍を構えて受け止めようとする。
正直、そろそろ私の槍も折れそうな位損傷している…次喰らったら折れるかもね。

バキッ!! ドサァッ!

シーナ 「?」

鈍い音…すると、烈が地面に倒れる音。
見ると、目の前にはクルスがいた。
背後から一撃食らわせたらしい。

シーナ 「クルス! 無事だった!?」

クルス 「…ああ」

そして私は烈を見ると、どうやら気絶しているようだった。
あれだけ殴っても倒れなかったのに…。

シーナ 「…どうやったの?」

クルス 「…三半規管を強く殴れば簡単だ、相手を殺すことも無いから役に立つ」

シーナ 「…覚えておきます」

そんな簡単な方法があったのね…ところで三半規管ってどこ?
今度また聞いておこう…私ってつくづく学がないなぁ。

シーナ 「ちなみに、バルバロイさんは?」

クルス 「敵と交戦中だ…急いで俺たちも救援に行くぞ」

シーナ 「それは大変…急がなきゃ!」

私たちは頷きあい、バルバロイさんの元に走る。
これで間に合わなかったらギャグだなぁ…。



………。



バル 「……」

ネイ 「…さぁ、覚悟はいいわね?」
ネイ 「言っておくけど手加減なんてしてやらないわよ? しても勝てると思うけど」

バル 「…安心しろ、すれば負けるのはお前だ」

ネイが嘲笑してそう言うが、俺も同じように返す。
以前の俺であれば勝ち目は無いだろうが、今ではマシになっているだろう…シーナもこういうことに役立ってくれた。

ネイ 「…へぇ、強気なのは相変わらずね。嫌いじゃないわよ? その性格…」

バル 「…お前も相変わらず無駄口が多い」
バル 「モタモタしているとクルスやシーナが駆けつけるぞ?」
バル 「お前と言えども、3人相手はきつかろう」

ネイ 「冗談…何人かかっても一緒よ。何だったら来るまで待ちましょうか?」

だが、ネイは魔法剣を生み出して、それを構えながら突っ込んでくる。
待つ気は毛頭ないということだ…余程俺との戦いを楽しみたいらしい。
俺も剣を構え、ネイの攻撃を受け止める。

ガキィ!

バル 「…く」

ネイ 「はぁっ!!」

ネイは力任せに、俺を吹き飛ばす。
悠以外で俺を力技で吹き飛ばせるのはこいつくらいかもしれない。
しかも力だけでなく、早い…。
俺はうまく体勢を立て直し、構えを取り直す。
ネイが突っ込んでくるスピードに合わせ、俺は剣を両手持ちに、右から左に薙ぐ。

ネイ 「…ふふ!」

ネイは空に跳んで避ける。
俺はそこからすぐに対空の斬撃に切り替える。

ヒュンッ!

バル 「!? イリュージョンか!」

俺は咄嗟に前に出る。
だが、反応が遅かった。

ザシュッ!

バル 「ちぃっ!」

ネイ 「あら、反応が早くなったじゃない…」

俺の背中が右斜め上から左下向かって浅く切られる。
血は出ただろうが、大した痛みではない。
俺は振り向いてすぐに上から下に向かって斬撃を放つ。

ネイ 「ふふふ…」

ヒュッ! ドガァッ!!

またかわされる。
だが、俺は今度はそこから動かない。
今目の前にいるのはイリュージョンだ。
ネイの得意技でもある。
実体はすでに別の場所にいる。
そして、俺は攻撃を待つ。

ザシュッ!!

バル 「ぐうっ!!」

ネイ 「!?」

俺はネイの剣が俺を攻撃する瞬間に、体で受け止める。
ネイはまた背後から俺を狙ったが、俺はギリギリまで引き付け、振り向いて剣を受けたのだ。
切られた個所は左肩で、俺は魔法でカバーしながら受け止めた。
接近しすぎたため、ネイの剣は根元で俺に当たり、肩口で止まった。
これでネイは動きを止める。

バル 「!!」

ドガァッ!

ネイ 「うぐぅ!?」

俺はすかさず右膝でネイの腹部を蹴る。
ネイは一瞬よろめき、俺はその瞬間を逃がさない。

ザシュウッ!!

ネイ 「!!」

バル 「…ちぃ」

俺の斬撃がネイの腹部を切り裂く。
血が滴り落ち、ネイは腹を抑える。
深くはないが、浅くもないだろう。
ここで俺たちは互いに動きを止めた。

ネイ 「…くっ、よくも私の体に!」

バル 「貴様を倒せるのならば、腕の一本や二本はくれてやろう…!」

現状、俺の方が有利にも見えるが、そうでもない。
俺の肩からは闇の魔力の影響し、体が鈍い。
だが、ネイも腹から雷撃の影響があるはず…動きは遅くなったはずだ。



シーナ 「バルバロイさん!!」

そして、その時シーナとクルスが駆けつけてきた。
これで形勢は逆転だろう。
いくら強がってもあのダメージでは切り抜けられん。

ネイ 「……」

氷牙 「烈はやられたのか!?」

クルス 「奴なら、向こうで気絶しているぞ」

氷牙 「ちぃ…」

氷牙はもはやこれまでかと諦めたように後ずさる。

ネイ 「これで3対2か…烈もたいした事ないわね、強化されておきながら…」
ネイ 「簡易邪獣では所詮限界があるのよ…ゼイラムも底が知れてるわね」

シーナ 「強化…」

バル 「…やはりそういうことか」

シーナ 「…?」

予想はしていた。
ゼイラムの術の中でも特に凶悪な部類に入るものだ。
何故、裏切るとわかっているような人材を鍛え、放置していたのか。
精神の方はどうでもいい…奴からしてみれば、体さえまともならという所だろう。

バル 「…烈は自分の意思とは無関係に力を強化され、戦わされたということだ」

シーナ 「そんな…それじゃ、やっぱり烈は…」

シーナもどうやら自分で結論を出していたようだな。
ネイはそれを嘲笑うように。

ネイ 「くだらない感情ね…同情心って言うの?」
ネイ 「そんな心があるから、あなたも出来そこないだったのよ」

シーナ 「!? あなたには、そういう心はないの!?」

バル 「無駄だ…こいつは、元々そういう感情は持ち合わせてはいない」

ネイ 「よくわかってるじゃない…戦いに情けなんて無意味よ」
ネイ 「敵は倒してこそ意味があるのよ、そして勝った者こそがそれを称えられる」
ネイ 「弱い者は戦いに出る必要もないわ…」

ネイは笑ってそう言う。
本当に楽しそうに、まるで私が悔しがるのを楽しむように。
私は怒りが込み上げるが、バルバロイさんの手前、抑える。

氷牙 「……」

クルス 「動くな…死にたくなければ、だが」

クルスは、いつの間にか氷牙の後ろに移動し、首に剣を突きつけて警告する。

シーナ 「氷牙、あなたも操られているの…?」

シーナは悲しそうな眼でそう言う。
だが、氷牙は首を横に振る。

氷牙 「俺は、正気だ…少なくとも烈や襲のように無理やりに強化される必要もないからな…」

シーナ 「…だったらどうして!?」

ネイ 「いちいちうるさいわね…面倒だから一気に終わらせるわ!」

バル 「やってみるか…? 恐らくお前も消し飛ぶぞ」

ネイ 「!? バルバロイ…!」

ネイが最大の魔法でこちらを狙う前に、俺は最大の魔力を込めてネイに向ける。
互いの魔法がぶつかれば、恐らくは相打ちになるだろう。
闇と雷…ぶつかっても互いが反応することはない。
互いが直撃を受けて吹っ飛ぶのが関の山だ。
属性的に良くも悪くもないからな。
ネイもそれがわかっているから放つのを躊躇った。

シーナ 「バルバロイさん…」

ネイ 「…わかったわ、そこまで覚悟しているならここは退いてあげる」
ネイ 「…私もここで倒れるつもりはないわ」

ネイはそう言うと、一瞬でその場から消えた。
魔石によるワープだろう。
これで当面の危機は去ったな。

シーナ 「!?」

バル 「……」

氷牙 「終わったか」

俺は剣を鞘に収め、氷牙の方を向く。
氷牙はその場であぐらをかいて座り、好きにしろといった感じで諦める。

氷牙 「殺せ…」

バル 「…お前が死ねば、サリサさんが悲しむぞ?」

氷牙 「!? 何故お前が?」

バル 「知らないとでも思っていたのか…?」

と言っても、知っているのは俺位の者かもしれんな。
誰にもその情報は伝わっていなかったはずだからな、氷牙自身も語ろうとはしなかった。

シーナ 「もしかして、サリサさんって…ヴェルダンド王国、騎士団長サリサ・シオーネのことじゃ…?」

氷牙 「…その通りだ」

シーナが驚いてそう言う。
確かに、シーナが知らないはずはないからな。

シーナ 「でも、どうしてサリサさんが?」

バル 「サリサさんは氷牙を利用するために人質にされたのだ…」
バル 「恋人だからな…氷牙の」

シーナ 「ええ!?」

氷牙 「……」

バル 「氷牙、サリサさんはすでに俺が救出している。お前がこれ以上戦い続ける必要はない」
バル 「サリサさんの元に帰るがいい…あの人はお前を待っている」

氷牙 「…そうか」



シーナ 「……」

ずっと前にサリサさんがまだ騎士団の団員だった頃。
小さい私と一緒に話をしたことがある…。
それで、その時何となく氷牙のことを聞いた覚えがある。
記憶に霞む程度だけど…。

氷牙 「…そう、だな」

クルス 「……」

氷牙はそう呟き、力を抜いて俯いた。
クルスも黙って剣を収める。



………。



氷牙 「…さらばだ、恩は忘れん」

氷牙はそう言って静かにその場を去っていった。
サリサさんはヴェルダンドから西側に位置する、コール村に預けられているそうだ。
氷牙はそこに向かうのだろう。

シーナ 「…よかった、これで氷牙も敵にはなりませんよね」

バル 「ああ…大丈夫だろう」

バルバロイさんは疲れた様子でそう言う。
ネイとの戦いがそれなりに応えているのだろう…出血も少なくないようだ。
私は光魔法で、バルバロイさんに着いた闇の魔力を除去する。

クルス 「…烈はどうする?」

バル 「そうだな、とりあえずは戻るぞ」

簡単な治療を済まし、私たちは、烈が倒れている場所に向かった。



………。
……。
…。



シーナ 「まだ寝てる…」

バル 「…部屋へ運ぶぞ」

シーナ 「大丈夫かな?」

バルバロイさんは、烈を抱え、部屋に運んだ。
気がつく様子はなく、まるで死体のようだった。



………。



シーナ 「気のせいかな? 何だか…パルスを感じない」

バル 「何だと?」

私は一応、烈の胸に手を当ててみた。
しばらく沈黙する。
と言うか時が止まった。
漫画で言うと、ネガポジ反転だろう。

シーナ 「……」

バル 「……」

クルス 「………」

シーナ 「……」

バル 「…?」

シーナ 「…止まってる」

バル 「…心臓が、か?」

シーナ 「うん…」

クルス 「………」

バル 「……」

シーナ 「……」

そしてまたもや沈黙。
ここでもネガポジ反転が理想の画面効果だろう。

バル 「…おい、待てっ! いくらなんでも、シャレにならんぞ!!」

シーナ 「で、でもっ…どうするんですか!?」

バルバロイさんが慌てるのは初めて見る。
ちょっと新鮮だ。
だけど、本気でどうするんだろう?

バル 「…こうなったらお前だけが頼りだな」

バルバロイさんは私を見て、そう言い放つ。
何か、なすりつけられた?

シーナ 「って…どうすれば」

バル 「翼人族の王家には、特別な力があることは知っているな?」

シーナ 「えっ? あ、はい…」

知ってることは知っているけど…。

バル 「その力を使うしかないだろう…」

シーナ 「でも、どうやって…? あれって正当王家にしか使えないんですよ?」

バル 「そんなことは知らん…それでもお前だけが頼りだ」

シーナ 「そ、そんな…いくらなんでも適当過ぎですよ」

大体使えたとしても、そんな力どうすれば使えるの…?
でも悩んでいる暇は実際なかった。
心臓停止が長く続くと、蘇生が出来なくなるって聞いた事がある。
私は自分の魔力を最大まで使って回復魔法を烈にかける
やっぱり王家の力と言うぐらいだから、光の魔法が正解だろう。

カアァァァッ!!

私の最大魔力の光魔法が烈を包む。
と言っても、まさに姉さんのから見たら、貧弱貧弱〜な感じだけど。

シーナ 「……」

烈 「……」

バル 「やっぱり駄目か…」

一向に烈は目を覚まさない。
って言うか、やっぱりって…あのね!

シーナ 「…はぁ」

クルス 「……自分を信じろ」

シーナ 「…えっ?」

完全に諦めムードでため息をつくと同時にクルスがそう言う。
多分根拠なんかない…それだけはわかる。

クルス 「…シーナにしかできないことだ、なら…必ずできる」

シーナ 「…うん、ありがとう」

何だか自信が持てた。
当然できるかはわからないけど…。
でも、できる『ような』気がしてきた。
そして、何だか私の中で『何か』を感じることができた。
これが、前に姉さんが言っていた大きな力…?
私はそれを感じ、烈に向かって解放する。

カアアァァァァァァッッ!!

バル 「!?」

激しい光が烈を包み込んだ。
そして、光は烈に吸い込まれるように、少しづつ消えていった。

シーナ 「…ぅ」

クルス 「…シーナ!」

私が倒れそうになったところをクルスが抱きとめてくれる。
正直、魔力の消耗が半端じゃない。
姉さんだったら大丈夫なのだろうか?

シーナ 「ご、ごめん…」

バル 「…烈は?」

烈 「く…」

息を吹き返した。
陳腐だけど、奇跡と言ってもいいかもしれない。
正当王家だけの力のはずなのに…それとも、私にも正当王家の血が混ざってるってことかな?

バル 「烈! 無事か?」

烈 「…バルバロイ? 何で…俺はこんな所に?」

私たちは、烈に今日の出来事を話した。
本人は特に驚いた様子もなく、淡々と聞いていた。
案外肝が据わっているわね…。





………『説明中』………





烈 「…そうか、そんなことになっていたのか」

バル 「後はお前の好きにしろ、何もしなければ奴らもさほどお前を重要視はしないだろう」

烈 「冗談じゃねぇ…勝手に操られたってのに黙ってられるか」

烈はそう言って、右拳と左掌をバチンッと重ねる。
やる気は満々だ。

シーナ 「じゃあ…」

烈 「俺も戦わせてもらう…ちょうど、潮時だと思っていたところだ」

つまり、初めから裏切るつもりだったのね…まぁ予想は出来たけど。
烈って一本気だからな〜。

バル 「好きにしろ」

烈 「ああ、そうさせてもらうぜ」



………。
……。
…。



…そして次の日。

シーナ 「ホントにやるの?」

烈 「当たり前だ」

昨日、烈は私にボコられたのが余程気に入らなかったらしく、再戦を申し込まれた。
正直、負ける気はしないというのが私の本音。

シーナ 「…もう、しょうがないなぁ」

烈 「俺が負けたのは操られていたからだ!!」

シーナ 「でも、強化されてたんじゃないの?」

だから、弱くなっているというのが普通。
だったら余計勝てないと思うけど…。

烈 「それを今から証明してやる!」

シーナ 「はぁ…」

烈 「行くぞ!!」

烈は槍斧を振り上げ、突っ込んでくる。
私は溜息をひとつついて、槍を構える。
明らかにスピードが違う…。



………。



烈 「……」

気が付くと、俺は天を見上げていた。
そして、俺の視界に入るひとりの少女の姿。
その姿まさに威風堂々!!
俺の立ち入る隙がなかった…。

シーナ 「…何考えてるか知らないけど、時間の無駄かもね」

烈 「こんなはずはない!!」

俺は頭を抱えて唸る。
まさかここまで実力に差があるとは…。
確かに訓練をサボって、音楽に熱中していたのは認めよう!
だが、これが現実?

バル 「……」

クルス 「…お前の負けだ、諦めろ」

烈 「馬鹿なーーー!?」

結局、突っ込んで行った俺を、シーナは軽く跳ね返して、俺はそのまま吹っ飛んで無残に地面に横たわったのだ。

シーナ 「そんなんじゃ足手まといだよ?」

烈 「ぐさっ」

正直胸に来る…致命傷に近いぞ。

バル 「ま、まぁ…まだ期間はある、気長に鍛えるんだな…」

シーナ 「気長にって…後1ヶ月ですよ?」

烈 「……」

血反吐を吐きそうだ…俺って大丈夫だろうか?
少なくとも、目の前であどけなく笑うどこにでもいそうな少女にあしらわれたのはかなりダサいだろう…。

バル 「…だ、大丈夫だ」

クルス 「…根拠はあるのか?」

烈 「…やったろうじゃねぇか!! 1ヶ月で見返してやる!!」

俺はそう言って、訓練に集中することにした。
もう考えるのはやめだ…強くなる以外に今は意味がない!



シーナ 「…ホントに大丈夫かな?」

なんて不安もあるけど、きっと大丈夫なのだろう…。
根拠は例によってないけど、そんな気がする。
少しづつでも、いい方向に向かって進んでいる気がする。
予知能力なんて私にはないけど、きっと苦労は実を結ぶ。
私はそんな未来を抱き、後1ヶ月と言う短い期間で修行に励んだ。



…To be continued




次回予告

レイナ:悠と一緒に、ユミリアさんの元で修行することになった私たち。
私たちは一路デリトール大陸へと向かい、そこでユミリアさんの親友のアリアさんと出会う。
そして、私たちはガストレイス王国へ…。
そこで、私たちは新たな仲間を迎える。

次回 Eternal Fantasia

第19話 「砂漠の王国」

レイナ 「ここが…ガストレイス」




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