Menu
BackNext




第19話 「砂漠の王国」




悠 「ユミリアさん、それでどこに向かうんですか?」

ユミリア 「まずはデリトールに向かうわ、そこに私の友人がいるの」

レイナ 「友人、ですか…」

ユミリア 「ええ…」

俺たちはユミリアさんの案内で一路デリトール大陸に向かった。
港町セイレーンからでは、行くことが出来ないので、今回はメルビスから東側の港町『カービル』から船に乗っていた。
今はすでに海の上で、俺たちは甲板でこれからのことを話していた。
なお、今までユミリアさんのことは『先生』と呼んでいたのだが、ユミリアさんに嫌がられて『さん』付けになったのだ。
本当に、どうしてこういうことには可愛らしいのかな、この人は…。

悠 「……」

レイナ 「悠、大丈夫?」

俺がボーっとしていると、レイナが心配そうに話しかけてくる。
大丈夫、とは船酔いのことだろう。
例によって俺は弱いからな。
もっとも、乗り物全般そうだが。

悠 「ああ、ユミリアさんから酔い止めの薬をもらったから」

レイナ 「そう…」

俺は軽く手を上げてそう言う。
だが、レイナは何だか不安そうな顔をしていた。
やはり、色々と心配なのだろう…。
本当に俺たちで、奴らに勝てるのだろうか?
少なくとも、ゼイラムの強さは異常だ。
たった2ヶ月修行した所で勝てるとは思えない。
そんな不安を持ちつつ、俺たちはデリトール大陸にたどり着いた。



………。
……。
…。



ユミリア 「…さぁ、着いたわよ」

悠 「そう言えば、ユミリアさんの友人ってどんな人なんですか?」

俺はデリトールの港町、『サラブ』に着いてからそう聞いた。
やはりユミリアさんの友人と言う位だから強いんだろうな。

レイナ 「やっぱり、戦争の経験者なんですよね…」

ユミリア 「そうよ…名前はアリア・ヘルミネス。一応ここで落ち合うことになっているわ」

ユミリアさんが俺たちにそう説明すると、ユミリアさんの後ろにひとりの女性の姿があった。
肩まで伸びるさらっとした後ろ髪。
薄い赤の口紅を着け、右耳にピアスをしている。
服装はまさにブラックオンリー…ローブのような感じにも見えるが、腰の所で絞めて止めているようにも見える。
長袖でぴっちりとフィットしており、足の方も足首までがきちんと覆われていた。
はっきり言って、このくそ暑い砂漠地帯のここでどうしてこの暑苦しい格好しているのかがわからない位だ。
それでも、苦しそうな様子はなく、むしろどこか憂いを秘めた表情が、かなり大人を感じさせる女性だった。

ユミリア 「あら、相変わらず時間に正確ね」

アリア 「あなたは、もしかして変わった…?」

ユミリア 「…そう? 自分では変わってないつもりだけど…」

アリアさんは懐かしむように、そして、どこか思い出すようにそう言う。
対して、ユミリアさんはどこか悲しそうに答える。
そして、アリアさんは小さく笑い。

アリア 「以前のあなたは、そんなに明るくなかったわ」
アリア 「もっと…辛そうな顔をしていたもの」

ユミリア 「…もう昔のことよ、今は未だと思うことにしたの」

ユミリアさんは俯き加減にそう言った。
過去に辛いことがあったんだろう…どうにも秘密が多いから余計気になるんだけどな。

アリア 「ところで…そのふたりが例の?」

アリアさんは、俺たちを見て、そう訊く。
ユミリアさんは頷き、俺たちを見る。

ユミリア 「ええ、そうよ…聖魔 悠とレイナ・ヴェルダンド」

アリア 「そう…この子たちが、ユシルとセイラの…」

そう言った時のアリアさんの表情は、何故だか悲しく見えた。
やはりユミリアさんと同じで、過去に何か持っている人なんだな…。

ユミリア 「で、例の王子は…?」

アリア 「今から迎えに行くつもりよ」

ユミリア 「そっ、じゃあガストレイスまで行きましょうか」

ユミリアさんは俺たちに向かってそう言う。
笑っていた、今度は割と自然だ。
どこか安心したような感じで、いつもよりもあどけなく見えた。
アリアさんは、ユミリアさんにとって、それだけ影響の大きい人なんだろうな。

悠 「…はい」

レイナ 「ガストレイスって、首都…ですよね?」

ユミリア 「ええ、そうよ…さぁ、行くわよ」

こうして、アリアさんと合流した俺たちはデリトールの首都、ガストレイスに向かった。
首都に向かう砂船の定期船に乗って、大体2時間。
大陸のほぼ全てが砂漠に覆われている、このデリトールでの唯一の移動手段。
と言っても、長距離をそこまで移動できるわけではなく、ひとつの町分位にしか移動できない。
作り手によってはまた違うのだろうが、少なくともこれに関してはサラブ〜ガストレイスが限界のようだった。
特に何事もなく、俺たちは首都のガストレイス王国に到着した。





………………。





アリア 「着いたわ」

悠 「…あ、暑い」

サラブも相当だったが、ここもかなりの日差しだった。
空を見上げれば雲ひとつない晴天だ…干からびそうだな。

レイナ 「…でも、凄い人の賑わいですね」

ユミリア 「そりゃ、首都だからね…特に、ここは他の国よりも栄えているわ」
ユミリア 「砂漠地帯のデリトールで唯一と言っていいほど水に恵まれているから」

悠 「水に…オアシスですか?」

俺がそう聞くと、ユミリアさんは説明してくれる。

ユミリア 「オアシスならどこの町にもあるわよ…ガストレイスは水の神の恩恵を受けているのよ」

レイナ 「つまり、それだけ水が豊富だと…?」

ユミリア 「まぁ、そう言うこと…」

悠 「えっと…水の神ってことは、ポセイドンか」

レイナ 「ネプチューン様もよね…」

ユミリア 「あら、ふたりともよくわかっているじゃない」
ユミリア 「その通り、ここはそのふたりの神を奉っているのよ」

悠 「へぇ…成る程ね、それだけ水が豊富なら自ずと人が集まるわけか」

アリア 「話はいい? そろそろ行くわよユミリア」

俺たちが一通り話し終えると、アリアさんがそう言ってユミリアさんに言う。
ユミリアさんは少々ダルそうに。

ユミリア 「それじゃあ、私は今からアリアと一緒に城に行くから、ふたりは街の噴水広場で待ってて」

レイナ 「はい、わかりました」

ユミリア 「あまり、動き回っちゃだめよ? 捜し辛くなるから」

悠 「は〜い…」

俺が気のない返事を返すと、ユミリアさんたちは微笑して城に向かっていった。



………。
……。
…。



悠 「駄目だ…暑い」

ユミリアさんたちが城に向かってからたった1時間。
俺は早くも音をあげていた。
噴水広場に着いたことは着いたが、やはり暑い。
上着は完全に脱いで、肌着のシャツだけになっているが、汗がとにかく出る。
レイナもさすがに暑そうだが、女の子だけに脱ぐに脱げなかった。
せめて半袖なら良かったろうが、レイナは長袖しか持っていなかった。
タオルで汗を拭きながら、やや辛そうにしていた。

レイナ 「…ちょっと、お店で飲み物でも買ってくるわ。ここで待ってて」

悠 「ああ、頼むよ…」

俺はそう言って、広場のベンチに座り込む。
タオルを噴水の水で濡らし、頭から被った。
後はレイナを待とう…。



………。



レイナ 「えっと、飲み物は…」

私はしばらく歩いていると、飲み物を売っている出店を見つけて、そこに向かう。
結構人が並んでて、時間がかかりそうだったけど、私は並んで待つことにした。
そして、3分ほどして順番が回ってくる。

主人 「へい! いらっしゃい!!」

店の主人は私に向かって、威勢のいい声で対応してくれる。
私は商品を眺め、とりあえず簡単な飲み物を買うことにする。

レイナ 「…グレープとオレンジを」

主人 「ほいきた! ちょっとお待ちを…ちなみに4Gね!!」

私はそれを聞いて、代金を置いておく。
そして、10秒後にはふたつの飲み物が出てきた。
私はそれを受け取り、悠の元に戻ろうとする。

声 「Hey! そこの彼女!」

突然、明るい声に呼び止められる。
私は振り向いて、声の方を見る。
すると、男性が立っていた。
額に白のバンダナを巻いていて、後ろ髪が腰まで伸びる長さで、背中の辺りのところを紐で結んで束ねていた。
前髪も鼻の辺りまで伸びていて、表情豊かに私を見る。
服装は割とファッショナブルで、半袖のシャツを着ながらその上に薄いジャンパーを着ていた。
ズボンはどこかのメーカー品なのか、立派な物をしている。
腕輪にネックレスと装飾品にも気を配っているようだ。
顔立ちはそれなりに美形、いかにも軽そうな男性だ。

男 「ねぇ、君! よかったら、これから俺と一緒に食事でもどう?」

その人は突然そんなことを言い出す。
言わずと知れたナンパだろう…私はやや控えめにあしらう。

レイナ 「いえ…私、人を待たせていますので」

男 「え、もしかして彼氏?」

レイナ 「えっ…いえ、そういうわけじゃ…」

男 「ふ〜ん…まぁいいや、君みたいな可愛い娘に出会えただけでも幸運だ」

レイナ 「は、はぁ…」

少し寒気がする。
私って、多分こう言うタイプは苦手…。

男 「今度会ったら、デートでもしよう♪」

レイナ 「え? あ、あの…」

その人は私の返事も待たずに、走り去っていった。
ダメだわ…着いていけない。

レイナ 「…はぁ」

私はすぐに頭を切り替え、悠の元に戻ることにした。



………。



声A 「いいぞー! やれーーー!!」
声B 「どうしたどうした!」

歓声が聞こえた。
それも複数。

レイナ 「何かな…?」

私は悠がいた場所に人が集まっていることに気づく。
そして、すぐに大体のことは予想できる。

声C 「子供相手にてこずってんじゃねぇぞー!!」

レイナ 「…はぁ」

私は確信と共に、人ごみを分けて現場に向かう。
すると、すぐにその光景が目に入った。



………。



男A 「オラァ!!」

俺は男の右拳を難なくかわしてみせる。

男B 「この野郎!!」

そしてもうひとりの男が、上から木刀を振り下ろしてくる。

ガキィ!

俺はそれを剣の鞘で受け止める。

男C 「くそっ!!」

3人目が俺の体を後ろから掴んで動きを止める。

男A 「今だ!!」

男が俺の顔面に向かって拳を振るう。

バキィ!

男の拳が俺の顔面を直撃。

男A 「どうだ!!」

悠 「…バーカ、効いてねぇよ」

バキッ! ドカァッ!!

俺は後ろの男を頭突きで吹っ飛ばしてから、前の男を蹴り飛ばした。

男B 「ち、畜生!! 覚えてやがれっ!!」

残った男は、ふたりを連れて情けない捨て台詞を残して走り去った。

観客 「いいぞー! 小さいのにやるじゃねぇか!!」

悠 「どうも、どうも〜♪」

俺は手を振って観客に答える。
そして、俺は観客の方にレイナを見つけた。
レイナは呆れ顔で、俺に近づいてきたが。

レイナ 「はぁっ…」

何ともやるせない溜息。
余程気に入らなかったようだ。

レイナ 「もう、どうしてあんなことになったの?」

悠 「どうしてって…あいつらが、からかってきたんだよ」

レイナ 「からかったって…それだけで?」

悠 「それだけって…」

それ以上の理由はないと思うが…。
売られた喧嘩は買うのが俺イズムだ。

レイナ 「…悠は、戦士なんだよ? こんなところで喧嘩なんかして、もし相手を怪我させちゃったらどうするの?」

悠 「…手加減はしてるよ」

しなきゃ今ごろ全員あの世逝きだ。

レイナ 「そう言う問題じゃないよっ、不必要に戦ったりしちゃダメだよ!!」

レイナは強くそう言い、瞳には涙をためていた。
さすがにちょっと退いてしまう。

悠 「…ごめん、気をつけるよ」

レイナ 「うん…」

そして、俺はレイナから飲み物を受け取りレイナと一緒に飲み始めた。
何気に空気が重い。
どうにもこう言うのは苦手だ。
俺って…あんまり女の子と相性よくないんじゃないかと思えた。
どうにも話題に乏しいし、ロクなことしてない。
だが、考えても仕方ないので、ぼ〜っと過ごすことにした。
レイナも何も言わなかった。
俺たちって、本当に冷めてるよな…これでカップルに見られたら、そいつの目は腐ってるね。



………。
……。
…。



悠 「…ユミリアさんたち、遅いな」

レイナ 「そうね…もう1時間ぐらい経つのに」

あれから特に何もなく、ただ時間だけが過ぎていた。
俺は沈黙に耐え切れず、そう切り出す。

悠 「まさか、敵に襲われたとか…」

レイナ 「まさか…ユミリアさんたちを倒せるほどの敵だったら、何らかのパルスを感じると思うわ」

確かにそうだ。
あのユミリアさんがそう簡単にやられるわけもない。
だとしたら、何かイザコザでもあったのかな?

悠 「動いたらまずいよな…」

レイナ 「うん、もし入れ違いになったら大変よ」

悠 「やれやれ…」

俺がそう言ってため息をつくと、遠くから見知った顔を見かけた。

ユミリア 「ふたりともー! 遅れてごめんなさい!」

そこで、ようやくユミリアさんが現われた。
でも、ひとりだった。

悠 「あれ? アリアさんは?」

ユミリア 「ちょっと、ね…別行動中よ」

レイナ 「何かあったんですか?」

レイナが心配そうに尋ねる。
だが、ユミリアさんの表情は、どこかウザそうだった。

ユミリア 「実はこの国の王子がね…」

悠 「王子?」

ユミリア 「行方不明なのよ」

悠 「なんだ、そんなこと…」

レイナ 「大変じゃないですか!!」

レイナが叫ぶ、そうか…大変だったのか。

ユミリア 「いや、まぁそこまで大変ってわけでもないんだけど…」

ユミリアさんがそう言う…どっちなんだよ、結局。

悠 「ってことはアリアさんはその王子を探していると」

ユミリア 「その通り」

レイナ 「それじゃあ、私たちはどうするんですか?」

ユミリア 「とりあえず王子の捜索よ…国王からは許可をもらったから」

悠 「許可? 何のです?」

ユミリア 「王子と海槍ポセイドンの借用よ」

悠 「ポセイドン…それって確か」

俺がそう言うと、ユミリアさんが解説してくれる。

ユミリア 「察しの通り。あの海神ポセイドンの力を宿すと言われる伝説の槍よ」

レイナ 「それがこの国に…」

ユミリア 「これからの戦いを潜り抜けて行くには、それぐらいの戦力が必要よ」

悠 「確かに…」

伝説の武具があるのならまさに一騎当千の戦力だ。
実際に見たことはないが、一振りで嵐は巻き起こるとかああ言う奴だろう。
等と簡単な想像はしてみるが、どうもピンと来ない。

レイナ 「とりあえず、私たちも王子を探しましょう」

アリア 「その必要はないわ」

悠 「!?」

突然背後から声。
振り向くと、アリアさんがひとりの男性を後ろに連れて立っていた。
それなりに美形だ、だが軽そうだな…。
ちなみに、アリアさんよりも身長が高い。
アリアさんは165位で、女性としてはそれなりに長身だが、その男は172位はありそうだ。
ちなみに、男の手には太い棒のような物が握られている。
恐らくあれが例の槍だろう…。

ユミリア 「あら、見つかったの?」

アリア 「ええ、この子が…」

男 「あーっ、君は!!」

突然男性が叫び出す。
そしてレイナの前まで歩いて行き、良くある笑みを浮かべる。
二枚目スマイルと言う奴だろう…だが、レイナは別に大した反応はしなかった。

レイナ 「あっ…あなたは、あの時の」

悠 「知ってるのか?」

レイナ 「飲み物を買いに行った時に…」

男 「いやぁ、奇遇だなぁ…また会えるなんて」

レイナ 「は、はぁ…」

レイナは何だか苦手そうに対応する。
相手としては、余程嬉しいらしく、大げさな笑顔をしている。
レイナって、結構こういうのに弱そうなんだがな…純情そうだから。

男性 「そういえば、自己紹介も何もしてなかったな。俺はシャール・ガストレイス、一応…この国の王子なんだけど、呼び捨てで構わないぜ」

シャールと名乗った男性は笑顔でそう言う。
さわやかな笑顔だ…と言っても、レイナは全く反応しない。
こういう所は冷静なんだな。

レイナ 「私は…レイナ・ヴェルダンドと言います」

シャール 「レイナか…いい名前だな」

悠 「……」

シャールさんがそう褒める。
恐らくはお世辞のはずだが、レイナはやはり無反応。
レイナを口説くのはどうやらかなり難しいらしい…。
少なくともこのシャールと言う人はかなりのナンパ士と思えるのだが…。
口説きのテクニックに反応しないからどうにもならないな。

ユミリア 「まぁ、細かい紹介は後にしましょう。今から水の神殿に向かうわよ」

シャール 「水の神殿…? 何の用でですか?」

アリア 「あなたたちの修行のためよ」

シャール 「修行って…何故?」

ユミリア 「あなた、何も知らないの…? 邪神と戦うために決まってるでしょう」

ユミリアさんは呆れ顔でそう言った。
って言うか、知らずにここまで来たのか…。

シャール 「じゃ、邪神!? どういうことですか!!」

アリア 「説明は、向こうに着いたら話すわ。…とにかく今は時間が惜しいの」
アリア 「あなたの力は、これからの戦いに必要になると言うことだけは覚えておいて」

アリアさんが、やや俯き加減にそう言う。
何て言うか…アリアさんってユミリアさんと対照的だよな。
ユミリアさんは…何て言うか、色々と感情的な所があるけど、アリアさんって…どうにも沈着冷静。
多分…感情を押し殺せる人なんだろうな。
だからこそ、ユミリアさんの友人なんて勤まるのかもしれない。

ユミリア 「…じゃあ、行きましょうかふたりとも」

悠 「はい」

レイナ 「わかりました」

こうして…俺たちは修行場となる、水の神殿に向かった。
水の神殿は首都ガストレイスから、東南の方角…徒歩で大体1時間程度の距離。
特に敵が襲ってくるわけでもなく、道も作られているのですんなりとたどり着けた。



………。





『水の神殿』

デリトール大陸に存在する、唯一の神殿。
神殿としては、広い方ではなく、神官の数も微々たるもの。
しかしながら、首都ガストレイスに近いこともあって、参拝客は多い。
その名の通り、水をほぼ無限と言えるほどに有し、砂漠の大陸でありながら、水の恩恵を感じさせるのに十分なほどの水量を存在させる地である。
そして、何よりも海神ポセイドンと水神ネプチューンのふたりより創られた、水の守護者リヴァイアサンがここを護っているのだ…。



レイナ 「綺麗…ここが水の神殿」

周りは相変わらずの砂漠だが、ガストレイスとこことを結ぶ道路があり、参拝客のための配慮が伺える。
神殿自体は、そこまで大きい物ではないが、風格はかなり感じる。
所々が年季を感じさせる創りで、数え切れない時間を生きてきたと言うことがまじまじと伝わった。
外側の材質はほぼ石で出来ているようだ、神殿前には、4つの支柱があり天井が乗っている、割とよく見る形のアーチがあった。
そして、他の神殿と決定的に違う所がある。
地面に溝があり、そこを水が流れているということだった。
恐らく、ここの水はガストレイスにも直結しているものと思われる。
まさに、水の神殿と言うわけだ。
砂漠の風と共に、水の流れる音が、妙に心を和らげてくれる気がした。

悠 (ここまであまりにもすんなり来れた…)
悠 (正直、敵の襲撃でもあると思っていたんだが、ユミリアさんやアリアさんの存在がある以上、迂闊には手を出せないと言うことなのか…)
悠 (それとも、敵は俺たちを、まだそれほど重要視してるわけじゃないんだろうか)
悠 (だとしたら、逆にチャンスと言うわけか…果たしてどこまで強くなれるのか)
悠 (どちらにしても、やらなきゃ世界は終わりなんだ…選択肢なんて無い)

色々と不安ばかりが浮かんでくるが、今はユミリアさんを信じるしかない。
俺の中にユシルさん以上の物が存在するなら、勝てないわけじゃないはずだ。

ユミリア 「……」

男性 「来たか、ユミリア…アリア」

アリア 「リヴァ…久しぶりね」

俺たちが、最初のアーチを潜り、神殿内部への入り口前に立った所で、ひとりの男性が現れる。
アリアさんはその人をリヴァと呼んだ、見た目はバルと同じ位の長身、長髪で、同じように美男子と言った感じの男性だった。
服装は神官と言うよりも神父様と言った感じ。
水色のラインが入っている、白色が基調の服だ。
額には装飾のついたバンドを巻いてあり、表情は割と無表情だった。
手に聖書は持っていないが、ここの管理者だと言うことは予想できた。
それも、相当な位の人物だろう…。

シャール 「リ、リヴァイアサン様…」

悠 「リヴァイアサン…?」

シャール 「知らないのか? 海神ポセイドン、ネプチューンのふたりの力によって生み出され、この大陸の守護者なんだぞ?」

悠 「…いや、それ位は知ってるけど」

まさかそこまで凄い人とは思っていなかった。
そうか、この人が守護者の…なるほど、ユミリアさんたちってかなり顔が広いんだな。
神族の知り合いまでいるとは…。

リヴァ 「部屋はすでに用意してある、好きな部屋を使え」

ユミリア 「それじゃ、悠君とシャール王子は突き当たりを左に曲がった奥の部屋。私たちは右側の部屋を使うわ」

悠 「突き当りを左側ですね…」

シャール 「了解…」

ユミリア 「荷物を置いたら、とりあえず休んでなさい、食事ができ次第呼びに来るわ」

悠 「はい」

俺はそう返事をすると、シャールさんを先頭に部屋に向かった。
神殿の中はまず入っていきなり大聖堂があった。
当然、この時点で突き当たり、見ると左右に道がふたつあった。
この左側が俺たちの部屋へと続くのだろう。

シャール 「こっちだ」

悠 「あ、はい…」

シャールさんが先頭で案内してくれるので正直助かる。
俺は方向音痴だからな…。
左側の道を何メートルか進んだ所で、いくつか部屋を見つける。
一瞬どれかわからなかったが、寝室はひとつだけのようで、ちゃんと区別はしているようだった。

ガチャ…

部屋のドアは枠が石、扉は木で出来ており、ちょっと重い感じがした。
中を見ると結構広く、男ふたりでも広く感じられるほどだ。
一応、布団がいくつかあって、部屋の隅に畳んでおいてあった。
テーブルと椅子もいくつかあり、窓にはカーテンがかけられてる。
カーテンを開けると、窓は木の板で仕切りられており、突っかけ棒で引っ掛けて開けるタイプだ。
眠る時には、砂塵とかが心配な気がするが、かなり丈夫なようなのでとりあえずは大丈夫だろう。
後は特に何もなかった。
俺たちは荷物を適当な場所に置き、テーブルの前の椅子に腰を下ろした。

シャール 「ちょっといいかい…悠、だっけ?」

突然シャールさんが話し掛けてくる。
椅子に座って一呼吸置いた後だ。
表情からは何を考えているのかはわからない。

悠 「はい…何ですか?」

シャール 「堅くならなくて結構だぜ、別に普通で構わない…」
シャール 「俺は敬語が嫌いなんだ、だから普通でいい」

悠 「は、はぁ…」

何だかこの人が王族だとは思いにくい…。
俺としては気軽な方が付き合いやすいので全然構わないのだが、王族相手に気軽と言うのもおかしな話だと思えた。
俺がそんなことを考えていると、シャールさんは少し神妙な顔つきで言葉を続ける。

シャール 「でいきなりだが、君はレイナの恋人なのかい?」

悠 「は?」

俺は素っ頓狂な声をあげる。
いきなり何を言い出すんだこの人は…。

シャール 「意味は言葉通りだ。で、どうなんだ?」

悠 「そういうわけじゃないですけど…」

俺はそう答える。
昔の俺なら『そうだ』と言っていたかもしれないが、今は今。
レイナもああは言ってくれたが、気持ち全てが昔と同じだとは思えない。
それに、俺自身…本当にレイナが好きなのかがわからない。
戦争だとか何だとか言っている間に、そんな気持ちがどんどん消えていった…。
冷めているんだろうな…俺は。

シャール 「ふむ…」

悠 「何でそんなことを聞くんですか?」

何やら考え込むシャールさんに向かって、今度は俺がそう聞く。

シャール 「いや、俺は一応人の恋人に手を出すような真似はしたくないからな…」
シャール 「ただのポリシーだ気にしないでくれ」

悠 「はぁ…」

シャール 「……」

シャールさんは何だか呆れ顔で俺を見る。
この人、本当に何考えているんだか…。

シャール 「…君は余程鈍感なのか、それとも鋭すぎるのか…」

悠 「…?」

話の意図がやはりわからない。
予想はできるのだが、いちいち真面目に答える気がしないだけだが。

シャール 「まぁ、まだ子供だしな…」

悠 「そういえば、シャールさんって何歳なんですか?」

シャール 「ん? 俺は今年で18になった」

悠 「じゃあ、俺よりふたつ上…」

俺は実はもう誕生日を迎えており、先月16になった。
もっとも、いつのまにか過ぎてたようなもんだからしばらく気づかなかったけど…。
ちなみにレイナの方が俺よりも誕生日が少し早く、もう16だ。
昔は誕生日祝いとかやったものだが…今はそんな気分にさえなれないな。

シャール 「君は、もうちょっと…人の目を気にした方がいいな、じゃないと気づかないうちに誰かを傷つけるぜ?」
シャール 「もしかしたら、手遅れかもしれないが…心当たりがあるなら、早い内に謝っておくことだ」

悠 「は、はい」

シャールさんはそう言うと、自分の布団の上に寝転がり、仮眠をとった。

悠 「……」

何だか引っ掛かる台詞を言われた。
知らない内に、か…。
ここで何故だかルーシィの顔が脳裏に浮かんだ。
俺は…傷つけたんだろうな。
今度会ったら謝っておくか…理由はわからないけど。
そして、俺もしばらく仮眠をとることにした。
やがて、小1時間ほどして、ユミリアさんが食事を知らせに来てくれた。
すでに夕日は傾いており、夕飯だ。
食堂はユミリアさんたちの部屋がある方の通路側にあり、大衆食堂といっても差し支えない広さだった。
10人以上は余裕で囲んで座れる、長方形の大テーブル。
キッチンは別の部屋にあるので、食事をトレーやカートでもってこなければならない仕組みだった。
上を見上げると、天井がやけに高く感じる。
開放感があるが、どこか落ち着かない感じがする。
神殿での食事なんて初めてなので、新鮮ではあるな。

リヴァ 「神殿ゆえに、大した物はないが、好きなだけ食べてくれ」

悠 「腹減った〜、食えるなら何でもいいよ」

シャール 「こんなところで贅沢は言えないからな」

レイナ 「いただきます」

俺たちは静かに食事をとり始めた。
パンに野菜、水だけと、かなり質素な食事だが、量だけはあったので満足することは出来た。
食事中は誰も喋ることなく、静かな食事となった。



………。
……。
…。



やがて食事が終わり、レイナとアリアさんが洗い物を終えるまでその場で俺たちは休憩していた。
ここから見える窓の景色で、外はもう夜の闇に包まれていることがわかった。
時間は、大体21時ぐらいだろう。
やがて、洗い物を終えたふたりがやって来る。

レイナ 「あの、リヴァイアサン様…」

リヴァ 「…何だ?」

レイナが控えめにリヴァイアサン様を呼ぶ。
さすがに呼ぶのにも抵抗があるのか、ちょっとぎこちなかった。
気持ちはわかるがな。

レイナ 「浴場は、どこですか?」

ユミリア 「あっ、それなら私も入るから、一緒に行きましょ♪」

レイナ 「あ、はい」

ユミリアさんがちょっと楽しそうにそう言う。
やっぱり大浴場になるのだろうか?
まぁ、ここがこれだけ広いんだから、浴場も広そうだな。

シャール 「(…聞いたか?)」

突然、シャールさんが小声で囁きかけてくる。
かなり周りを気にしているようだが、一体何を考えているのだろうか。
予想はできるが、馬鹿馬鹿しくて考える気も起きなかった。

悠 「何をですか?」

シャール 「(レイナたちの話…)」

悠 「風呂でしょ…それが何か?」

シャール 「(わっからねぇかなぁ…チャンスじゃねぇか!)」

悠 「(覗くつもりですか?)」

この人本物の馬鹿野郎だ…。

シャール 「(当然だろうが! こんなチャンスは滅多にないぞ?)」

悠 「(大体どうやって…)」

シャール 「(安心しろ、ルートはすでに確保済みだ)」

一体いつの間に…。
常習犯かよ。

シャール 「(もちろん行くな?)」

悠 「(俺は遠慮します…)」

大体あのふたり相手にばれたらどうなるか…。

シャール 「(お前、本当に男か!? 後悔しないな?)」

悠 「(しませんよ…)」

シャール 「(そうか、ならば俺は行ってくる!)」

そう言って、シャールさんはどこかに行ってしまった。
殺人が起きなきゃいいんだがな…。



………。



ユミリア 「ここよここ! 露天風呂なのよ? 星を眺めながら入るには絶好ね!」
ユミリア 「ああん! お酒を持って来ればよかったなぁ〜」

レイナ 「…お風呂に入りながらは体に悪いですよ?」

ユミリア 「大丈夫! 医者だから」

それ以上はあえて聞かなかった。
とりあえず、私は少し周りを見渡す。
浴場は温泉のようで、温泉の周りが石段で囲ってあり、結構な人数が同時に入れるようだった。
と言うか…下手したら混浴になるのよね。
一応外壁も石で出来ており、高さも5メートルぐらいはあった。

ユミリア 「まずは体を洗いましょっ」

レイナ 「そうですね」

私たちはふたりで体を洗う。
備え付けの石鹸とタオルで丹念に体を拭く。
髪も石鹸で洗うが、私は長髪なのでやや時間がかかる…それはユミリアさんも同じようだ。
ただ、私には翼があるのでかなり時間と石鹸がかかる。
特に、翼の付け根辺りがかなり辛い…手をかなり伸ばさなければ届かない。

ユミリア 「辛そうね…手伝うわ」

レイナ 「えっ…あ、すみません…」

ユミリア 「いいのよ、同じ女同士、袖刷り合う仲って言うじゃない」

そう言って、ユミリアさんはタオルに石鹸を着けて、私の背中を含めた翼の部分を優しく洗ってくれる。
昔は…こうやって誰かに洗ってもらったこともあった気がする。
私はそんなことを思っていた。



………。



シャール (よし、着いたぞ…さて、どこかに隙間はあるか…?)

俺はまず隙間を探す。
だが、外壁はかなり分厚い石で出来ており、隙間があるとは思えなかった。



ユミリア 「♪〜♪♪ えいっ!」

レイナ 「ひゃあぅっ!?」

突然、両胸が鷲づかみされる。
言うまでもなくユミリアさんの手だ。
不意打ちなのでかなり驚いた。
かなり恥ずかしい声が出てしまったので、誰かに聞かれたら誤解されること請け合いだと思えた。



シャール (な、何だ今の喘ぎ声は! 一体中で何が起こっているんだぁ!?)



ユミリア 「レイナって、私よりも胸大きいよね…」

レイナ 「…! ユ、ユミリアさん…胸を、揉まないでください

ユミリアさんはあろうことか私の両胸を掴んだまま、軽く揉みしだく。
さすがにちょっと感じてしまう。
って言うか、それはまずいでしょ! さすがに!!

ユミリア 「あらあら…レイナってもしかして胸弱い?」

レイナ 「何、言わせる気なんですか!? もう…止めてくださいよ」

ユミリア 「あははっ! ごめんごめん…だって羨ましかったから」
ユミリア 「私、あまり胸大きくないのよね…身長はあるのに」

レイナ 「そんな普通ですよ…」

ユミリア 「レイナはスタイルいいからうらやましいわ〜、こんなに立派な物を持っているんだから胸を張りなさい!」

レイナ 「ひぐっ! だから、止めてくださいって!!」



シャール (…い、いかん…声だけで鼻血出そう)
シャール (し、しかし肝心の立派な物が一向に覗けん!! こうなったら魔法で覗き穴を…)

ドーンッ!!

レイナ 「へぐっ!?」
ユミリア 「はえ?」

突如爆音。
見ると、正面の壁が円形に破壊されていた。
そして、そこには…。

シャール (だぁーーーやりすぎた〜!! しかし絶好のアングル!!)

レイナ 「……いやあああああああああああああああああああ!!!!!」

キュイーッ! カアァー!! ドギュアアアアアアアアアアアアァァァッ!!!



………。
……。
…。



ユミリア 「あらあら…派手にやったわね」

レイナ 「…うう、私もうお嫁に行けない」

完全に見られたし。悠にも見せたこと無いのに…ぐっすん。

ユミリア 「あははっ、大丈夫よ。女の裸は見られてこそ価値が上がるのよ!」

レイナ 「それ、フォローになってませんよ〜…」

ユミリア 「…やっぱり? まぁ私も見られた気がするし」

レイナ 「私の影で見えてないと思います〜…」

ユミリア 「……やっぱり?」

結局、湯船には浸かることが出来なかった…。



………。
……。
…。



そして、次の日…。


悠 「……はぁっ」

シャール 「何が言いたい…」

悠 「いや、人間どこまで行けば『馬鹿』が褒め言葉になるのかと…」

ユミリア 「馬鹿な事するからよ…もう」

シャール 「…反省してます」

そう、昨日の騒ぎでシャールさんは大怪我をしたのだ…。
自業自得だが、意外に危険だったのでアリアさんが治療してくれたようだ。
予想はしてたが、本気で殺す気だったらしい…どんなポーズを見られたのか。

シャール 「(いやぁ…えがった、あれを見た上で命があるのなら俺は幸せもんだ〜)」

悠 「……はぁ」

もうため息しか出ない。
とりあえずレイナに同情する…。

アリア 「さぁ、早速訓練に入るわよ」

シャール 「俺も…?」

ユミリア 「当然でしょ」

怪我をしているシャールさんも引き連れられ、俺たちは神殿の訓練場に向かった。
訓練場は地下にいくつか分けられており、俺はユミリアさんと、レイナはアリアさん、シャールさんはリヴァイアサン様と分けられた。

リヴァ 「ここならば、よほどのことがない限りは大丈夫だ。安心して暴れてくれ」

ユミリア 「そうね、そうさせてもらうわ。じゃあ、私と悠君はここ」

アリア 「わかったわ…じゃあレイナ、私たちは別の部屋に行きましょうか」

レイナ 「はい」

リヴァ 「では、我々はこちらだ」

シャール 「あ、はい」

全員がそれぞれの動きを見せる。
ようやく修行開始だ、気合入れなきゃな!
俺は体の節々を念入りに動かし、準備体操する。

ユミリア 「…じゃあ準備はいい? まずは、あなたの力の秘密を話すわ」

悠 「力の秘密?」

ユミリア 「そう…ユシルが持っていた時の力。あなたは、それを使いこなさなければならないのよ」



…To be continued




次回予告

悠:ユシルさんが邪神を倒したと言われる力。
それが俺の中にも存在する。
死に物狂いで俺はそれを習得しようとするが、問題が起こる。
それはまるで運命の針が狂うように…。

次回 Eternal Fantasia

第20話 「時の翼」

悠 「…助けよう」




Menu
BackNext




inserted by FC2 system