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第2章 『伝説の武具を継ぐ者達』


第22話 「新十騎士」




悠 「……」

俺たちは新たなパーティで、伝説の武具を探す旅に出た。
ここ、レギル大陸を担当するメンバーは、シャインさん、降さん、未知さんをメインに、俺とバルとネイ担当する。
いまいちメイン選抜の意味がわかっていないのが何とも言えなかった。
まぁ、そんなことを考えながらも、王都ディラールへ向かい、すでに2日が過ぎていた。
メルビスの町から大森林を東側に迂回していくため、景色はほとんどが森だった。
俺たちは馬車に乗って移動しているため、それなりに楽だった。
一般的な馬車で、馬1頭が荷台を引くという物。
荷台は俺たちが全員乗っても余裕のあるスペース。
手綱を引いているのはシャインさんだ。
馬の足音と車輪の音ばかりが最近耳に残る。
同じようにすれ違う馬車も少なくはなく、人の通る道だというのは理解できた。

ネイ 「ねぇねぇ! 王都ってどんな所なの?」

ネイがそう質問してくる。
こいつは暇なのが耐えられないのか、よくこうやって沈黙を破る。
しかもどうでもいいことばかり聞いてくるので、結構ウザイ。
と言っても答えないのも悪いので、さっと答えて、ハイ終わりと言うのが定番になってきた。

悠 「そうだな…俺なんかは明らかに場違いな気がする所だ」

ネイ 「場違い…?」

ネイが?を浮かべる。
これもいつものことだ。
何かにつけて疑問を持ちやがるから、説明するのもうっとうしくなる。

バル 「…本来そこにいるべきじゃない、とか、そういう意味とでも思えばいい」

ネイ 「ふ〜ん、よくわからないけどそうなんだ」

バルが冷静に答える。
ネイはイマイチよくわかってないようだが、どうでも良くなったのだろう、聞くのを止めた。

ネイ 「ん? 何?」

悠 「いや…何でもない」

俺と目が合ってそう聞いてくる。
俺は何でもないと言って流す。
正直緊張感がなさ過ぎる。

未知 「ところで、王都にはどんな武具が…?」

今度は未知さんが俺たちに向かってそう言う。
レギルに住んでて知らないのか…? 少なくともひとつ位は知っている物だが。

悠 「どうせ聖剣だろう?」

俺はそう言う。
って言うかこの大陸にあるのはそれしか知らない…。

バル 「エクスカリバーか…当時は、シド王子が継承していたが」

悠 「シド王子…? 一体いつの王子様だ?」

少なくとも俺はまったく聞いたことのない名だった。
もっともバルが言うのだから例によって300年前の話だろう。

バル 「今から、9代ほど前のディラール王だ」

悠 「9代前…その当時、バルは?」

バル 「…世界の敵として、邪神軍にいた」

悠 「…操られて?」

バル 「…いや自分の意志で」

全員 「……」

沈黙…ジョークのつもりだったのが。
だが、その沈黙はあっという間に破られることになった。

シャイン 「…止まれ!!」

馬 「ヒヒィィィィンッ!!」

悠 「な、何だ!?」

突然馬車が急ブレーキする。
衝撃でかなり荷台が揺れたが、全員無事のようだ。

ネイ 「どうしたの?」

バル 「…人の気配」

悠 「敵か…?」

未知 「…気をつけてください! 敵です!!」

未知さんがそう叫ぶと、俺たちはすぐに外に出る。
そして、それとほぼ同時に、草むらから俺に向かって高速で突っ込んでくる女が現れた。

悠 「!? くっ!」

ガキィ!

俺は女が薙ぎ払った剣を自分の剣で受け止める。
スピードがある。
パワーもいい、正直止められたのは偶然だったかもしれない。

悠 「……」

俺は女を見る。
女はバッ、と後ろに退がり、こちらを見据える。
俺たち全員が女を前に立つ形となった。
女は鋭い視線、獲物を見る目だ…間違いなく敵だ。
肩まで伸びるセミロングの髪で、全身黒服に上半身は胸当てのようなプロテクターで覆っていた。
細い体だが、バルのような大剣を片手で操る辺り、腕力はありそうだ。

悠 「……」

女は俺たちを見ながら口を開く。
初めて聞くその声は、高い音程でやや凄みを込めた声だった。

女 「なるほど…少しは楽しめそうね」

バル 「貴様、一体…?」

悠 「バル?」

バルは女を見て何やら不思議そうな顔をする。
驚いたと言うよりも、予想していたと言うような表情だ。
知り合いなのか…?

女 「ふふ…そんなに私の存在が気になる? 兄さん」

悠 「何だと!?」

兄さん…って、兄妹かよ!!
ここに来て何だってんだ…。

バル 「やはり、貴様!」

女 「ご名答…私はドグラティス様の細胞から新たに作り出された邪獣」

おいおい…急展開だな。
いきなり新しい敵かよ。

シャイン (ちぃ、ある程度予測できたことではあったが。向こうは、思ったよりも行動が早かったか)

シャインさんは何かを考えながら舌打ちする。
どうやら、想像よりもやばそうだ。
女はでかい声で自己紹介する。

女 「私はアルファ。邪神軍、新十騎士、稲妻のアルファよ!!」

悠 「新…十騎士」

要するに新しく編成したわけか…まぁ、ほぼ全員が裏切ったからな。
しかし、偉く手回しのいい…初めから計画されていたと思うのが自然か。

バル 「なるほど、俺たちがこうなることを初めから予想して、お前達の編成を計画していたと言うわけか」

アルファ 「その通り。ゼイラム様は、あんたたちが反逆することなど初めからわかっていたのよ…」

シャイン 「…だが、それにも誕生の時間はかかる。ゆえに簡易邪獣で誕生までの時間稼ぎをしたわけか」

声 「そう…こちらも色々と忙しいのでね、回りくどいですがそういう方法を取らせてもらったのです」

突然背後から声。
今度は男の声だ。
俺たちは咄嗟に後ろを向く。
するとひとりの男が立っていた。
腰までのロングヘアーを首で束ねてお下げにしており、白い装束で身を包んでいた。
一般的なローブと言うよりも魔導師の服に近い。
右手には、何やら鉄の棍を装備していた。
体つきは細く、あまり肉弾戦向きではないようだが…。

シャイン 「…こいつも」

男 「そう、私は閃光のラムダ。…以後お見知り置きを」

ラムダと名乗った男は、右腕を前に、左手を腰の後ろに回し、丁寧に頭を下げそう挨拶した。
笑顔が返って怖い、何を考えているのかわからないタイプだ。

ネイ 「まだいるよ!!」

ネイが叫んだ方向、ラムダの後ろにうすらでかい男が闇から急に現れた。
バルと同じようにロングヘアー。服は薄着で半袖のシャツ。
ズボンも薄い生地のようで、どちらも色は黒。
体は大きく、2メートル近くはある。
だが、そこまで筋肉質なわけではなく、バランスの取れたいい体だった。
正直、見た目からして強そうだ。
右手にはでかい槍を持っている、3メートルはありそうだ。

男 「……」

ラムダ 「彼は常闇のシグマ。…無口なのであまり口を開きませんが、どうぞよろしく」

言われた通り無口で、こっちを鋭い目で見ていた。
睨んでいたと言うわけではない…不思議と敵意があまりない気がした。
十騎士と言っても人間…か。
何となくそうは思ったが、戦闘はどう考えても避けられそうにない。

悠 「…挟み撃ちか」

前にラムダとシグマ、後ろにアルファ。
左右は林で遮られているので、少々動きづらいかもしれない。
だが、人数的にはこちらの方が多いので、挟み撃ちの利点はあまりない。

降 「…やっぱり逃げられませんよね?」

シャイン 「ああ、迎え撃つしかあるまい」

俺たちは戦闘態勢を取る。
その瞬間、背後からとてつもない殺気を感じる。

アルファ 「じゃあ…始めましょうか!」

バル 「来るぞ!!」

そして、アルファがバルめがけて突っ込んでいく。
俺たちもそれに応じて動く。

バル 「はああ!!」

ガキィィンッ!!

バルとアルファは互いに剣を打ち合い、鍔迫り合いになる。
俺はアルファをバルに任せてラムダたちに向かうことにした。
あいつならひとりでも大丈夫だろう。

悠 「俺が切り込む、サポートは任せた!」

ネイ 「オッケー!」

俺はネイにそう言ってラムダ、シグマの両名に切り込む。
俺の後ろからネイが着いて来る。
俺は剣を上段に構え、ラムダの頭部をめがけて振り下ろす。

悠 (こいつは何を考えているかわからない…できるだけ動きを止めた方がいいだろう!)

ラムダ 「おっと!」

ガキィンッ!

俺の斬撃はラムダの棍で遮られる。
力を込めたんだがな…意外と力もあるな。
俺は切り替えして剣を横から打ち込む。

ビュッ!

今度はバックステップでかわされる。
スピードもある、反応も早い。
こいつは予想以上のようだ。

ラムダ 「さて、さすがに多勢に無勢なのでこちらも増援を使わせていただきましょうか…」

ラムダがそう言うと、突然光の中から怪物が現れた。
見たこともない形だ、まるで霊体のようにゆらゆらしている。
実体がないとも思える。
恐らくは魔力の集合体のような感じだろう。
白い光の中に不気味な姿が映し出されているようだった。
一応上半身だけが人間のような形をして両手と頭がある、だが下半身はない。
空中を浮遊しているようで、霊体や精霊といった類と同類だろう。

シャイン 「光の邪獣か…!」

ラムダ 「これで、お互いハンデなしですね」

ネイ 「何言ってるのよ! そっちの方が数が多いよー!!」

確かに、光の邪獣は目視できるだけで10対以上いた。
俺、ネイ、シャインさん、降さん、未知さんを囲むように奴等は少しづつ間合いを詰めてくる。
どんな攻撃をしてくるのかもわからない。

ラムダ 「こいつらは所詮低級な知能を持たない生物…これ位いた方がバランスが取れるというものです」

ラムダは笑顔で静かにそう言う。
やっぱりしたたかだぜこいつ…。
実際にはいくらでも出せるのだろう、打ち止めと思わせてまた出ると思った方がいい。
とすれば…。

シャイン 「降! 未知! 邪獣は任せる! 悠、ネイはシグマを!!」

降 「はいっ!」
未知 「わかりました…」
悠 「しゃあねぇ…!」
ネイ 「了解!」

俺たちは言われた通りに動く。
降さんと未知さんが、闘気、神力を持って次々に邪獣を仕留めていく。
邪獣は攻撃を受けると光が萎むように消えていく。
どうやら、耐久力はないようだな。
俺はネイと一緒にシグマを見る。

シグマ 「……」

全く動じない。
動きすらも見せない。
戦う気がないのか?
戦わないに越したことはないんだが…。

ネイ 「……」

悠 「……」

シグマ 「……」

しばらく睨み合いが続く。
シグマは構えることなく、突っ立っているだけだった。



シャイン 「ラムダ…私が相手をしてやる!」

ラムダ 「できますか…? あなたに?」

ラムダはそう挑発する。
私は接近戦が苦手だ。
ラムダは悠の斬撃をも止めて見せた、生半可な力ではないだろう。
だとすれば、近づかれればこっちに勝機はない。

シャイン 「ふんっ!」

ダァンッ! ダァンッ!

私はラムダに向かって銃を放つ。

ラムダ 「おっと…危ないですね」

ラムダは弾を左右に回避して、こちらとの距離を徐々に詰める。
いい動きだ、銃弾の軌道をも予測しているのだろう、この距離でかわされるとはな。

シャイン 「くっ…!」

ラムダ 「逃がしませんよ…」

ドガッ!

シャイン 「ぐはっ!」

私はバックステップで退がろうとしたが、ラムダの棍が私の胸を強打する。
三節棍か…棍が3つに分かれ、伸びて私の体を捉えたのだ。
私はそのまま吹っ飛び地面に背中を着く。



バル 「はぁ!!」

ビュ!

アルファ 「遅いわよ」

俺は剣を全力で振るうがかすりもしない。
かなりのスピードだ、俺は負けじとスピードを上げて切り返す。

バル 「おおっ!!」

アルファ 「はぁっ!」

ガキィィン!!

振り下ろしも、アルファは難なく打ち返す。
このままではいかんな…。

バル 「くっ…」

アルファ 「はああっ!!」

ガキンッ! キンッ! ガキィィ!

アルファは連続で俺に切りかかる。
縦、横、斜め…高速の連撃。
俺は全てを止めるが、徐々に押されていく。
後ろには木があり、後がない。

バル 「ちぃ…」

アルファ 「サンダー・ボール!!」

バチィ!

バル 「…!」

俺はアルファの雷球の下を潜り、そこから剣を下から切り上げようとする。

バル 「はぁっ!」

ドゴッ…!

バル 「ぐうぅっ…!」

俺が切りかかる前に、アルファはカウンターで右膝蹴りを俺の腹部に叩き込んだ。
早い…肉弾戦も十分こなしてくる。
正直、これほどとはな…。



ネイ 「えーい!!」

シグマ 「…!」

ガンッ! ギィン!

悠 「ネイ、無理はするな!」

しばらく沈黙が続いたが、ネイが先に手を出したことがきっかけで戦闘が始まる。
しかも先手必勝とはいかず、シグマは警戒を強める結果になった。
予想を遥かに上回り、シグマは強い。
ネイは剣で切りかかるが、シグマは槍で全て受け流す。
パワータイプと思ったら、かなりのテクニシャンだ。

シグマ 「ふんっ!!」

ガアァンッ!! ヒュヒュヒュヒュヒュ…ガシィンッ!!

ネイの剣がシグマにはじき飛ばされた。

ネイ 「あっ!」

シグマ 「ぬぅんっ!」

悠 「ちぃぃっ!!」

ザシュッ!

ネイ 「悠!?」

シグマの槍が俺の左肩を切り裂く。
咄嗟にネイを庇った結果だ、この程度なら問題ない!

悠 「ったく…!」

ネイ 「ご、ごめん…!」

悠 「謝る暇があったらもうちょっと考えて行動しろ!」

俺はそう言って剣を構え直す。
まずはこの状況をどうにかしないとな。



降 「はぁっ!」

ドォンッ!

邪獣 「シャアアアァッ…!」

僕は闘気を球体にして手から打ち出す。
それに当たって邪獣は消える。
もう何匹倒しただろうか…?

未知 「えいっ!」

ドシュウンッ!!

邪獣 「シュウゥゥゥゥ…!!」

未知ちゃんの神力が邪獣を消し飛ばす。
形はなく、力の波動が空間を歪めるのだ。
その波動が邪獣にダメージを与える。
未知ちゃん…大丈夫かな?

ドシュゥッ!

邪獣 「ヒャァァァァァ…!!」

降 「駄目だ…いくら倒してもどんどん出てくる」

未知 「諦めてはいけません! 絶対に限りはあるのですから!!」

確かにそうだろうけど…それでも僕たちの体力の方が先に尽きてしまう気がする。
それでも、諦めるわけにはいかなかった。
せめて邪獣の目を引き付けるだけでもやらないと!

未知 「降さん!」

降 「えっ? うわぁぁぁっ!」

ジュウウゥゥゥ…!

僕の油断がいけなかった。
邪獣はいつのまにか僕の背後に浮遊し、右肩を掴まれる。
その瞬間僕の右肩から蒸気のような物が出てとてつもない熱を感じる。
まるで溶かされるような感覚だった。

未知 「えいっ!!」

ドシュンッ!!

邪獣 「キャシャァァァァッ…!」

未知ちゃんの神力で邪獣は消えてなくなる。
僕は肩膝をついてよろめく。
正直効いた…邪獣と言っても一回の攻撃でこれだけのダメージを負うなんて。



アルファ 「…この程度なの? 期待はずれね…」

バル 「…随分舐められたものだな」

俺は笑い飛ばすアルファに向かって余裕の笑みを見せる。

ガキィン!!

アルファ 「…なっ!?」

俺が放った剣でアルファの動きを止めた。
アルファは驚いた表情だった。

バル 「そろそろ、様子見はいいだろう…」

アルファ 「へぇ…どうやらまだ楽しめそうね、嬉しいわ!」

バル 「おおっ!」

キィン! ガキンッ!

俺はアルファに反撃の隙を与えぬよう、コンパクトにスピード重視に、連続で切りかかった。
一転して俺が優勢に転じる。
今までわざと大振りを繰り返していたのだ、相手の行動を探るためのもので、もう大体のパターンは読めた。

アルファ 「く…このっ! サンダー・スピア!!」

バル 「サンダー・ディストーション!!」

バチバチバチィッ!!

アルファの魔法を予測していた俺は、いち早く魔法を繰り出し、相殺した。
俺の魔法の方が上位だった故、押し返す。

アルファ 「きゃあっ!」

アルファは魔法の衝撃で多少バランスを崩す。
だが、すぐに体勢を立て直して剣を振るう。

アルファ 「このお!」

ブンッ

アルファ 「!?」

アルファの剣は空を切る。
俺はアルファの剣をしゃがんでかわしたのだ。

バル 「ここまでだ!」

バキィィィッ!!

鉄を叩いたような衝撃音。
俺は渾身の力を込めて、下から剣を振り上げた。
だが、アルファはヒットする直前に剣で防御したらしく、衝撃と共に空中へと吹っ飛んだ。

ドシャアァッ!!

アルファ 「う……」

アルファはすぐには立てないのか、呻き声をあげた。
致命傷とはいかずとも骨位はいってるかもしれんな…。



ラムダ 「…アルファ!?」

シャイン (気を取られたな!)

私はこの機を逃さない。
全身の魔力を銃に込めて打ち出す。
距離は近い、かわしようはあるまい!

ラムダ 「しまった!?」

シャイン 「バースト・レイ!!」

キュイー…ギュアーーー!!

ラムダ 「ちぃ!!」

ラムダは咄嗟に防御をするが遅い。
太い光の閃光が放たれ、レーザーのような光がラムダの全身を覆って貫いていく。
防御が薄いまま、ラムダは閃光をまともにくらい、衝撃で後ろに吹っ飛ぶ。

ズシャアアッ!!

ラムダ 「ぐぅ…」



シグマ 「…ここまでだな」

悠 「何だと!?」

そう言ってシグマは槍を引く。
戦うのを止めたのか?

ネイ 「どうして…?」

シグマ 「これ以上戦っても双方に利はない…ならば引くのが道理だろう」

ラムダ 「…仕方ありませんね、撤退しましょう!」

シグマ 「…さらばだ」

アルファ 「お、覚えておけっ! この借りは必ず返すっ!!」

アルファはバルを睨み付けた後、魔石の力により、ふたりと共にテレポートした。



………。



沈黙…風に靡く木々のざわめきが聞こえるほどだった。
戦闘は終わった…随分疲れた感じがする。

悠 「……」

バル 「…勝ったか」

ネイ 「…はぁ」

悠 「ネイ、大丈夫か?」

俺は尻餅をついたネイを気遣う。
だが、傷は特に見当たらず、至って問題ないようだった。

ネイ 「そ、そんなことよりも悠の方こそ大丈夫!?」

悠 「あん…?」

俺は足元を見る。

ポタッ…ポタッ…

見ると、かなりの出血が出ていた。
俺は気が張ってて気が付かなかったが、ネイを庇った時のアレらしい。
血溜まりが出来るほど、出血しているのによく俺は平然としていたものだ。
思ったところでちょっと倒れたくなる。

バル 「おい、しっかりしろ!!」

ネイ 「悠!!」

未知 「ふたりとも、どいてください。治療します!」

悠 「……」

未知さんがバルとネイをどけて俺の前に来る。
俺は立っているのがやっとで、それでもちょっと辛い。

未知 「大丈夫です…これならすぐにでも」

パアァァァ…!

悠 「……」

俺の傷はすぐに塞がり、痛みはなくなった。

未知 「これで傷は塞がりました…でも失った血までは」

確かにちょっと貧血気味で頭がボ〜っとする。
まぁ、そのうち治るだろ。

悠 「十分ですよ、後はほっとけば治りますから」

降 「さすが、未知ちゃん…」

ネイ 「…凄いなぁ〜」

確かに凄い。
神力の力とはそれ程なのか…初めての実体験だが、確かに魔法とは違う気がした。
魔法での治療は、何となく自分の体を無理矢理再生〜…っていう感じがするんだが、神力は優しく直していってくれる…でも早い。
そんな感じ…説明がわかりにくくてすまぬ…。

バル 「しかし、正直あれほどの強さとはな…」

シャイン 「生まれたばかりであれほどの能力とは…考え方を変えた方が良さそうだ」

降 「それだけ、ドグラティスが復活していると言うことでしょうか?」

シャイン 「かもしれん…」

悠 「どっちにしても、早く行こうぜ? また来たら、どうしようもないぜ?」

俺はそう言って馬車を指差す。
戦闘中でも逃げ出すことなく座って休んでいた。
肝の据わった馬だ…。

降 「そうだね…もうこっちも、ずいぶん疲労してる…」

未知 「…急ぎましょう」

シャイン 「では、すぐに行こう! ディラールはもう目の前だ」

こうして俺たちは再び馬車に乗ってディラールを目指した。
そして、日が暮れる前になって到着することが出来た。



………。
……。
…。



『光の王都・ディラール』

光の神ゼウスの力によって加護を受ける、レギル中最大の都市。
人口も他とは比べ物にならず、常に人の通りが見受けられる。
それだけに、活気も大きく、街そのものが生きているのを実感できるほどである。
また、伝説の王家一族が統治するこの国は絶対的な信頼を得ている。
国民が王を頼りにし、それに対して全力で答える王。
王と民が手を繋いで支えるのが、この国の特徴でもあった。



悠 「…やっぱ、城に向かうのが正解なんだよな?」

シャイン 「ああ、それが目的だからな」

ネイ 「大きい〜…すご〜い」

バル 「ネイ、はぐれるなよ?」

俺たちは寄り道せずに、真っ直ぐ城に向かった。
とりあえず、俺は来たことがあるので感想は適当に。
でかい、すごい、うるさい。
この3拍子だ。
国のほとんどがでかい建物で、住宅街もすこぶる大きい。
国土自体がレギルでも最大なので、歩くのも苦労する。
しかも、いつの時間帯も大抵人が多いので、本気で迷うことも考えられる。
ガイドなしじゃきついかもな。



………。
……。
…。



と言いつつ、俺たちはシャインさんの先導の元問題なくたどり着くことが出来た。
問題はすで日が暮れていることだ。

シャイン 「しまったな…もう少し早く着くつもりだったのだが」

悠 「まぁ、敵に襲われちゃあね」

そればっかりは敵のせいだ。
とりあえずダメ元で俺たちは門に向かった。
例によって門番に止められる。

門番 「何者だ? 城に用がおありか?」

シャイン 「私はシャイン・ルフトと申します…どうか、国王に会わせていただきたい」

シャインさんはそう言う。
って言うか、それで通用するのか?

門番 「シャイン・ルフト…? どこかで聞いたような…?」

おいおい、やっぱ顔広いなシャインさん…。
だが、門番が悩んでいる所、突然門が開いて、中からひとりの老兵が姿を現した。
かなりのベテランだろうな、顔つきが違う。
60過ぎ位に考えられたが、眼光の鋭さは間違いなく騎士団長だとかそういう感じがした。
軍師かな…やっぱり?

老兵 「これは…シャイン殿。よく訪ねられた…」

老兵はシャインさんを見て笑ってそう言う。
知り合いだったのね…なるほど。

門番 「隊長…お知り合いで?」

老兵 「うむ…この方は訳有りだ、通しなさい…」

門番 「はっ! 失礼いたしました、お通りください!」

門番はそう言って敬礼し、俺たちを簡単に通す。
俺たちは老兵の後ろに着いていき、城の中に入る。
さすがに城は初めてで、柱、カーペット、装飾品…etc。
どれもが普通に見えなかった。
まさに城! 王族って金持ちだよなぁ…。
そして、しばらく真っ直ぐ歩いた所で、やがて謁見の間に着いた。

ギィィッ!

音をたてて、大きなドアが開く。
そして、中には数人の兵士が左右に配置され、玉座には年老いた国王が座っていた。

悠 (マジかよ…まさか、本気で王様に会えるなんて…)

年老いても風格は衰えず、まさに国王だと言うオーラが出ていた。

老兵 「陛下…」

老兵が片膝と片手を床につき、敬礼しながら王様に語りかける。
すると、王様はわかっていたかのように頷く。

王 「うむ…時が来たのだな? シャイン殿…」

シャイン 「はい、どうかご助力を…」

シャインさんも老兵と同じように敬礼してそう言う。
王様は頷く。
邪神のことを予測していたと言うことか…ってことは、他の国もわかっているってことなんだろうな。
ガストレイスの時もそうみたいだったし。

王 「聖剣の力が必要になるな、だがこういう時のための聖剣であろう」

そう言って王様は立ち上がり、自らの腰に刺さっている剣を取る。

悠 「って…まさか、王様自ら…?」

俺がそう危惧すると、王様は笑い出す。
ジョークだったのね…。

王 「はっはっは…さすがに私はもはやこの年だ。そこまで無理はできん…シオン!」

王様が名を呼ぶと、玉座からちょうど真横の突き当たり、俺たちから見て右側の扉から、ひとりの男性が現れた。
白い鎧と服に身を包み、ショートヘアーで、大人しそうな顔つきの男性だ。
歩き方もいかにもといった感じで、王族や貴族の類だと言うのは容易に想像できた。
シオンと呼ばれた青年は、王の前まで歩く。

王 「わかっておるな…?」

シオン 「はい…心得ております」

王 「では、聖剣エクスカリバーと共に、この方たちと同行せよ!」

シオン 「はっ!」

そう言って、王は鞘に収められた聖剣をシオンに手渡す。
シオンさんは片膝を床につき、それを両手で掲げるように受け取る。
作法って奴だな…俺には理解できん。

シャイン 「シオン王子…よろしく頼みます」

シオン 「ええ、こちらこそ…お役に立てるかはわかりませんが」

知り合いなのだろう、ふたりは握手を交わす。
シャインさんって、どこにでも知り合いがいそうだな…。

シャイン 「それから、今日はここに滞在するつもりなのですが…」

シオン 「では、城の部屋を用意いたしましょう」

軽くそう言ってくれる。
宿ではなく、城だとよ…。
すげぇ…初体験、城のベッドってか!? ちょっとエチィな…。

悠 「って言うか、本当にいいの?」

シオン 「もちろんです、食事もすぐに用意させます」

シオンさんは笑顔でそう言ってくれる。
さわやかだ…。

ネイ 「やった〜♪ 私もうお腹ぺこぺこ…」

悠 「お前、いつもそんなこと言ってない?」

ネイ 「そんなことないよ〜…いっぱい食べた後は言わないよ♪」

悠 「……」

そりゃそうだ…。
俺は苦笑しながら、シオンさんを見る。

シオン 「では、部屋に案内しましょう」



………。



こうして、俺たちは男性陣と女性陣で部屋をふたつに分け、それぞれ食事まで休むことにした。



悠 「……」

バル 「どうした悠?」

俺が落ち着かないのを気にしたのか、バルがそう言う。

悠 「いや…こんな立派な部屋に泊まっていいのかな?って…」

バル 「立派と言っても、客室だぞ?」

降 「バルバロイ君は冷静だね…」

悠 「確かにな、慣れてるのか?」

…結構慌てたりする姿も見たもんだが、こういう時冷静なのは凄い気がした。

バル 「俺は気にしないからな、そう言うお前はそんなのでよく王子相手にタメ口を聞けるな…」

悠 「そう言えば確かに…俺は苦手なだけだがな」

バル (それで済ませるのか…)

降 「あはは…」

何となく場が静まり返る。
ネタがなくなったな…沈黙って何となく嫌だ。
ネイの気持ちが凄くわかった気がした…。

シャイン 「……」

ガチャ…

扉が開く音、俺たちは同時に扉の方を見る。

シオン 「皆さん、食事ができましたのでどうぞ」

悠 「おっし、腹ペコだかんな〜…食うぞー!」

バル 「…途端に緊張感の無くなる奴だな。といっても今に始まったことじゃないか…」

降 「行きましょうシャインさん」

シャイン 「ああ…」

俺たちはシオンさんの案内の元、食堂に出向く。



………。



ネイ 「はぐはぐはぐ!」

悠 「んぐんぐんぐっ!」

バル 「……」(呆)

降 「あ、あはは…」

シャイン 「……」(汗)

悠 「あー! その肉は俺が狙ってたんだー!!」

ネイ 「早い者勝ちだよー!!」

悠 「ならこっちをいただきだー!!」

ネイ 「あっ、狙ってのにーーー!!」

俺たちは例によって争奪戦を繰り広げる。
なお、食卓には俺たちパーティとシオンさんがいるメンバーで囲むことになった。
例によって食堂も広い広い…かなりテーブルが長いし、メイドさんが料理運んで来るんだからもうお城!
料理の方は高級過ぎで少々味がわからないが、腹に溜まれば問題なかった。

シオン 「ははは、たくさんありますから、好きなだけ食べてください」

未知 「あの…王子」

シオン 「はい、何でしょう?」

未知 「このハーブティーは…?」

未知さんが興味ありげにそう聞く。

シオン 「ああ、フィロルというハーブです、城の庭で栽培しているんです」

未知 「そうなんですか…いい香りです」

シオン 「気に入ったのなら、わけてさしあげますが…?」

未知 「本当ですか? お願いします…」

シオン 「では、後でいくらか摘んできましょう」

そんな会話が交わされる。
へぇ〜、未知さんって葉っぱとかに興味あるんだ…。
とりあえず、俺たちは食事を終えて、それぞれ部屋に戻った。



………。
……。
…。



バル (…アルファか、まさかあれほどの強さだとはな)

悠 「ふ〜…おうバル、お前も早く入ってこいよ。いい湯だぜ」

俺は先に風呂に入った。
感想はもう『広い』…これだけ。
あれじゃあ、ゆっくり入るのも辛いな。

バル 「ああ…そうさせてもらう」

降 「悠君は早いですね…」

バル 「あいつは一番風呂が好きだからな、その上長風呂だ」

悠 「でも、ここで長風呂するのは辛いぞ…」

シャイン 「さて、私も行くかな…」

そう言ってシャインさんが腰を上げる。
バルと降さんも用意をして行くようだった。



………。



ネイ 「ふぅ〜…いい湯加減…♪」

私は湯船に浸かってそう言う。
今日一日の疲れがなくなるよ〜はぁ〜…。

未知 「本当ですね…気持ちいいです」

ネイ 「ねぇねぇ! 未知さんって、レイナみたいに胸大きいね?」

未知 「え、ええっ!?」

未知さんは驚く。
私は自分の胸を見て。

ネイ 「だって…私の胸、全然小さいから」

身長はレイナよりもあるのになぁ…。

未知 「…ネ、ネイちゃんも、きっと大きくなりますよ!」

ネイ 「ホント!?」

未知 「ええ…大丈夫ですよ」

私は期待に胸を膨らませる。
そうか〜、大きくなるのか〜。

ネイ (でも、大きくなり過ぎたらどうしよう?)

それはそれで嫌な気がした。
でも楽しみは楽しみだった。
大きくなったら悠も喜ぶかなぁ…?

ネイ 「えへへ…楽しみだなぁ〜♪」

未知 「ふふ…」



………。
……。
…。



悠 「…で、次はどこに行くんですか?」

俺は、全員が風呂から上がった時に、とりあえず次の目的地を聞いた。

シャイン 「…輝きの国、光鈴に向かう」

バル 「…光鈴。伝説の神、奇稲田(くしなだ)を崇める国か」

降 「奇稲田…?」

バルがそう言う。
俺は授業で聞いたのを思い出す。
そう言えばそんな神様を聞いたことある気がする。

悠 「…確か、ゼウスと同じ光の神だっけ?」

バル 「そうだ、確かに光鈴ならば、武具がある」
バル (と言っても、問題はあるがな…誰が使う?)

シャイン 「明日の朝、シオン王子を連れて、すぐに出発する。6時には起床だ」

悠 「了解」
バル 「うむ」
降 「はい」

シャイン 「よし、なら今日は早く寝ろ。未知とネイにはすでに伝えてあるからな」

手回しがいい…さすがだな。
俺は安心して眠ることにした。

悠 「そうさせてもらうか…今日は疲れた、血も流したしな」

バル 「生々しいことを言うな、黙って寝ろ」

バルがツッコンでくれる。
やっぱツッコミ役がいるのはいいことだ。

降 「では、お休みなさい」

シャイン 「ああ…」

俺たちは消灯して眠りにつく。
全員があっさり熟睡できたようだ。



………。
……。
…。



そしてすぐに朝は来た。
俺たちはシオンさんと共に王都を出る。

シオン 「では、参りましょう!」

シャイン 「よし、これより光鈴に向かう!」

悠 「徒歩で行ける所なんですか?」

俺はまずそう聞く、するとすぐにシオンさんが。

シオン 「いえ、馬車を用意してあります」

そう言って馬車を指差す。
昨日の馬だろうか? 見た感じはそんな感じがした。

ネイ 「すぐに着くの?」

降 「そうだね…地図からすると、明日ぐらいにはつけると思う」

未知 「では、行きましょう…」

バル 「ああ、いつ敵が現れるかもわからんからな」

俺たちは全員馬車に乗り込み、シオンさんが手綱を持って、馬車を走らせた。
昨日と同じように蹄の音と車輪の音が耳に残る。
また一日はこの調子か…。

悠 「……」

新たなる敵の出現。
新しい仲間。
新しい目的地。
そして、新たな運命…。

悠 (なんか、新しいことだらけだ…)

俺が様々な思いを抱いたまま、馬車は輝きの国光鈴へと向かう…。
これから先に何があるのかはわからない。
だが、俺たちの敗北は世界の死を意味する。
負けるわけには…いかない。



…To be continued




次回予告

悠:輝きの国、光鈴に着いた俺たち。
そこには、あまりにも予想ができなかった事実が告げられた。
さらに現れる強敵。
それはこれまでにない危機だった…。

次回 Eternal Fantasia

第23話 「奇稲田」

悠 「これも、運命なのか?」




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