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第24話 「魔導銃ヘパイストス」




シャイン 「着いたか…」

私たちは光鈴を離れ、オメガとの戦闘を終えた後、再びディラール王国に戻っていた。
戦闘不能となった悠をまずここに預けなければならない。
バルバロイが、死んだように眠ったままの悠を背負い、ネイと一緒に医務室に向かった。
その間、私とシオン王子は謁見の間にたどり着いた。



………。



シオン 「父上…光鈴からただいま戻りました」

シオン王子は膝をつき、頭を下げてそう言う。
私たちも同じように膝を着いて頭を下げた。

王 「うむ、よくぞ無事に帰ってきた。して…長老は何と?」

シオン 「奇稲田の末裔を育てるため、今しばらく時間はかかるそうです」

王 「そうか…だが、助力はいただけたのだな?」

シオン 「はい」

シオン王子の会話を聞き終え、今度は私から進言する。

シャイン 「陛下…これからのことなのですが」

王 「何かな? シャイン殿…」

シャイン 「光の塔へ入らせていただきたいのです」

王 「光の塔…? セラフィム様に会いにか?」

シャイン 「はい…ヘパイストスを取りに行こうと思います」

伝説の武具のひとつ、魔導銃ヘパイストス。
鍛治の神とも言われる、ヘパイストスが自らの力を封じ込め作り出したと言われる名銃。
しかしながら、人間に使えたという記録は残っておらず、歴史上存在しないとまで言われている銃でもある。
実際にはどうなのかは分からないが、少なくとも使えないものではないはずだ。
試さなければならない。

王 「なんと…あの銃をか」

シャイン 「はい…どうかご許可を」

王 「…止める理由はない、好きにするがよい」
王 「しかし、使える者がいるとはとても思えぬ…」
王 「人が歩んだ歴史の中で、あれを使えた物はいないのだ」

シャイン 「確かに、ですが人に使えぬ物を神が残したとは思えないのです」

王 「……」

シオン 「では父上、我々はこれより光の塔に向かいます」

王 「うむ、健闘を祈るぞ」

シオン 「はっ」

私たちはこうして、謁見の間を出た。
次に、悠たちがいる医務室に向かう。



………。
……。
…。



シオン 「……」
シャイン 「……」

コンコン…

私たちは黙って医務室のドアをノックする。
すると、ゆっくりドアが開き、中からネイが顔を出す。

ネイ 「…あ、今悠が目覚めた所だから」

シャイン 「そうか…」

私とシオン王子は中に入る。
医務室独特の消毒液の匂いが鼻につく。
さすがに城の医務室だけあって、環境が違った。

シオン 「悠さん、体の方は…?」

悠 「ああ、そこまで問題じゃないっすよ…体だけは丈夫なんで」

悠がそう言って強がる。
だが、そんなに簡単な症状ではないはずだ。
時の力は、直接寿命を縮めるほどの物だ、あの戦闘の後ではロクに体も動くまい。
シオン王子も、さすがに感じ取っているのか、表情は少々硬かった。

シャイン 「とりあえず、今後の予定を伝える」



………。



悠 「…なるほど、んで光の塔ってどこに?」

バル 「ここから、北に5日程歩けば着くだろう…馬車は使えないから徒歩で行く必要がある」

バルバロイが言うように、光の塔は馬車を使っては行けないような場所にある。
小さな森を抜け、その先にやや広めの遺跡がある。
その先にあるのだ、迂回すれば余計に時間がかかるので歩いた方が早い。
位置的には港町カービルの更に北西、レギル大陸の最北端に当たる。

悠 「往復10日か…後何日ある?」

バル 「出発して3日でディラール、そこから1日で光鈴。更に戻って1日」

悠 「まだ5日か、帰りは馬車が使えるからまた3日だから…」

バル 「ああ、期間的にはかなり余裕だ」

確かに、元々大陸内だけでの移動だけに、期間はかなり余裕を持っている。
1ヶ月と言う期間内で考えれば、あまりにも時間が余り過ぎている。

シャイン 「だが、それも考え様だろう、余った時間で伝説の武具を使いこなせるように訓練する必要もあるだろうからな」

ネイ 「でも、シオンさんはもう使いこなせるんでしょ? そんなに訓練する必要とかあるのかな?」

シオン 「いえ、私にはまだ『使える』だけですから…使いこなすとなると、また勝手が違うんですよ」

ネイ 「そうなの? う〜ん」

ネイは唸りながら考えてはいるようだ。
だが、答えが出ることは無いだろう。

悠 「で、結局そのヘパイストスってどんな武具なんですか? いや、銃ってのはわかりますけど…神様が作るような銃ってのも想像できなくて」

バル 「使えた者がいないと歴史に証明されているからな…人間で知っている奴はいないのかもしれん」

悠 「そうなのか…でも、銃自体はちゃんと存在してるんだろ?」

シャイン 「ああ、光の塔でセラフィム様の加護の元、管理されているはずだ」
シャイン 「もっとも、実際に見たことのある人間ですらいるかどうか知らないがな…ゆえに現存していないとも言われている」

ネイ 「何だか…曖昧。本当に役に立つのかなぁ」

ネイの言い分もわからなくはない。
悠もイマイチ信じきれないと言った表情だ。
バルバロイとシオン王子は実際に見てみないとわからない…そんな感じだろうな。

シャイン 「とりあえず、明朝出発する。悠はここで待機していてくれ」

私はとりあえず話を切るためにそう言う。
悠はそれを聞いて頷く。

悠 「まぁ、こんな調子じゃ戦うことも出来ないしな…大人しくしてますよ」

シオン 「では、私もここに残ります」

シャイン 「…王子?」

シオン王子がそう告げ、全員が注目する。

シオン 「悠さんを狙って敵が現れる可能性もあります、彼は私たちにとって重要な存在、ですから万が一のことも考えて、私がここで守ります」

バル 「そうだな…悠がいなくては俺たちに勝ち目はない」

ネイ 「また十騎士とかが来たら、兵士さんたちじゃ止められなさそうだもんね」

ネイはわざわざ言わなくてもいい事をさらりと言う。
だが、シオン王子は気にすることもなく。

シオン 「確かに…正直この国の戦力だけでは辛いと思います」
シオン 「ですから、せめてエクスカリバーを使える私が残れば、十騎士も容易に攻めては来ぬでしょう」

シャイン 「わかりました、頼みます」

私はそう言う。
万が一のことを考えれば、危険は避けるに越したことは無い。
我々には、万が一でもあってはまずいからな。

シオン 「ええ、お任せください。そちらもご健闘をお祈りします」

シャイン 「ええ、では我々は一旦部屋に戻ります」

シオン 「そうですか、今日はゆっくり休んでください」
シオン 「ここは私が看ておきます」

ネイ 「ねぇ、シオンさん。私もここに居ていい?」

ネイがそう言う、シオン王子は特に嫌がることも無く。

シオン 「ええ、もちろんです…悠さんが心配なのですね」

ネイ 「うんっ、ありがと」

バル 「なら、俺は戻る。ネイも、適度な所で休んでおけ。明日は早いからな?」

ネイ 「あ、何時に出発するの?」

シャイン 「そうだな、明朝7時にはここを出よう。城門前で待ち合わせだ」

ネイ 「は〜い、それじゃお休みなさい〜」

悠 「まだ、寝るには早いぞ? 昼の11時だからな」

ネイ 「あ、そうだね♪」

呆れ顔の悠に対して屈託無く笑うネイ。
微笑ましい光景だが、いつまでも見ているわけにも行かない。

シャイン 「では、後は頼みます王子」

バル 「…失礼します」

私とバルバロイが部屋を出る。
そして、1度息を吐きなおす。

シャイン 「ふぅ…」

バル 「シャインさん…」

バルが私を呼ぶ。
私は首だけを横に向ける。

シャイン 「…どうした?」

バル 「ネイのこと、シャインさんはどこまで知っているのですか?」

唐突な質問だった。
だが、特に私はわかる所があるわけではない、私は考える事もなく答える。

シャイン 「質問の意図は読めんが、少なくともお前ほど知っているとは思わんよ」

私はそう言って歩き出す。
バルは無言で着いて来た。
それから部屋までは、特に会話はなかった。



………。
……。
…。



悠 「…はぁ〜」

ネイ 「どうしたの?」

俺は大きなため息を着いてベッドに倒れる。
と言っても、上半身を寝かせただけだが。
ネイが不思議そうに俺を見ているのがどうにも可笑しかった。

悠 「別に、どうもしないんだけどな…」

ネイ 「ふ〜ん…」

ネイは特に気にした風も無かった。
こいつも何気にマイペースだよな…。

シオン 「悠さん、食事の方はどうします?」

悠 「え? まぁ、まだ大丈夫だけど…」

ネイ 「私は少し空いた…」

シオン 「あはは…それじゃあネイさんの分だけでも持ってきましょうか。もうお昼を周っているので」

ネイ 「わ〜い♪」

シオンさんは部屋を出て行ってしまう。
強制的に俺とネイのふたりっきりになるわけで…。

ネイ 「まっだかな〜?」

悠 「……」

ダメだ…萌えねぇ(ヲイ!)
どうにもこのノリが相手では恋人対象外な気がしてならない。
何も喋らずに、何もしてなかったら確実に美人さんなんだが…。
何で記憶喪失でこうなっちまったのか?
それとも…元々こう言う性格だったんだろうか?
操られたのが解けてこうなったんだから…元の性格?
しかし、考えても答えなんて出るはずは無い。
俺はもう一度大きなため息をつき、少し目を瞑る。



………。



悠 「……」

ネイ 「♪〜♪」

眠れねぇ…別にネイに興奮してるんじゃねぇぞ!?
単に寝過ぎなだけだなこりゃ…。
夜までは暇を持て余しそうだ。
ネイと会話をしても俺がつまらんからな…。
いや待てよ…?
俺はふとした事を思いつく…そうか、時間潰すくらいなら方法は…。

悠 「おい、ネイ…」

ネイ 「ん、何?」

悠 「しりとりをするぞ!」

俺は上半身を起こし、意気揚揚と挑む!
これならばネイとでも気軽に遊べるだろう。
こう見えて、俺はこういうお手軽ゲームは好きな方だ。

ネイ 「何それ? 美味しいの?」

悠 「コゥドダァホォゥ!!(訳:このド阿呆!!) しりとりも知らんのかーーー!?」

ネイ 「し、知らないよ…」

とりあえず俺は冷静になって、ネイに簡単に説明することにした。





………説明中………





ネイ 「あ、成る程…わかったよ!」

悠 「よし、じゃあ始めるぞ!」

俺は10分ほど説明した所で、ようやくスタートすることにした。
ここまでの間にシオンさんが帰ってこないのは少し疑問だが、この際気にしなかった。

悠 「よし、ネイから先に言わせてやろう、好きな言葉を言うがいい…」

ネイ 「え〜っと、え〜っと…」

悠 「さっさとしろ…」

俺がせかすと、ネイはようやく考えついたのか言葉を放つ。

ネイ 「『食べ物』!」

悠 「…らしいと言えばらしいが」

ネイ 「ダメなの?」

悠 「いや、まぁ…いいけどさ、できればもっと具体的な名前がほしいなぁ」

ネイ 「う〜ん、すぐに思いつかないよ…」

悠 「はいはい…じゃあ『飲み物』」

お返しとばかりに反撃する。
しりとりの必勝法はひとつの文字を集中して答えさせることだ! ← 初心者相手に大人気ない奴

ネイ 「の〜の〜の〜…」

悠 「もうギブアップか?」

俺がそう言うと、ネイは首を振って。

ネイ 「『海苔巻』!(のりまき)」

悠 「…また食べ物か、じゃあ『機械』」

ネイ 「えっと、えっと…『烏賊素麺』(いかそうめん)」

悠 「『ん』がついとるだろうが!! 麺類は止めとけ!!」

ネイ 「あ、そうか! えっとじゃあ『イクラ丼』!!」

悠 「それも『ん』だっつーの!! 丼系も止めろ!!」

俺が突っ込む度にうろたえてネイが考える。
こいつ…面白過ぎ。

ネイ 「うう…い〜い〜……」
ネイ 「あった! 『石焼き芋』(いしやきいも)!!」

悠 「結局食べ物か…『桃』」

ネイ 「も〜も〜も〜…『紅葉饅頭』!(もみじまんじゅう)」

悠 「『う』か…『馬』」

ネイ 「『鮪』…(マグロ)」

悠 「今度は魚か…『ロケットランチャー』」

そろそろネタが変化し始めてきた、我ながら濃いな…タイラントも倒せそうだ。

ネイ 「…それって最後何?」

悠 「ああ…そうだった、小さい『や』とかそう言うのはそのままだ。だから次は『や』だ」

ネイ 「えっと、じゃあ『焼き蕎麦』(やきそば)」

悠 「『バルバロッサ』…」

ネイ 「『刺身』」

悠 「『ミサイル』」

ネイ 「る…? る〜る〜…」

ネイは悩む。
『る』って結構少ないんだよなぁ…。

ネイ 「うう、『る』で始まる食べ物が見つからない…」

悠 「食べ物にこだわるなちゅうの!! 別に何でもいいじゃん」

俺がそう言うと、ネイはようやく食べ物以外を考える。

ネイ 「えっと…じゃあ『ルキフグス』」

どこぞの悪魔様ですか?

悠 「『スペースバズーカ』」

ネイ 「『カーズ』」

呪いか? それとも吸血鬼か?

悠 「ず…かぁ〜…えっと…『ズバットアタック』」

ネイ 「…う〜ん、じゃあ『クラッカーヴォレイ』」

どうも調子が出ねぇな〜。

悠 「『インフィニティーシリンダー』」

ネイ 「伸ばし棒は…?」

悠 「無視で、だから『だ』」

ネイ 「えっと…『ダイブミサイル』」

スカルバリアじゃ倒しづらいんだよな…。

悠 「『ルーレット』」

たまにはまともに…。

ネイ 「ん〜『トールハンマー』」

フォルセティがあれば楽勝♪ どこぞの馬鹿な神様はアイラ様とラクチェ様が切り裂いたらしいが…。

悠 「『MAT』(マット)」

ネイ 「また『と』〜? う〜『トンベリ』」

36363…。

悠 「む〜『六道輪廻』(りくどうりんね)」

ネイ 「『ネーブルミサイル』…」

また微妙な武装だなオイ…。

悠 「『ルーンアクス』」

ネイ 「…『スプラッシャー』」

分子分解も最初の方は使える技なんだがな…。

悠 「『ヤクトドーガ』

ネイ 「が…『ガーディアンフォース』」

ガールフレンドでも可。

悠 「『水龍』」

ネイ 「『ウーマロ』〜」

AIじゃなけりゃ…後、装備も変えられたら。

悠 「『ロックバスター』」

ネイ 「ん〜…『対強化兵用隠蔽装置』(たいきょうかへいよういんぺいそうち)」

あんまり使わないカードなんだよな…。

悠 「なら『チャージキック』」

ネイ 「まだ続くの…? 『空間翔転移』(くうかんしょうてんい)」

悠 「たりめーだ、『因果応報』(いんがおうほう)」

ネイ 「う〜ん…もう辛くなってきたよ〜『ウコムの矛』(ほこ)」

微妙に雷撃衝が威力不足なんだよな…でもサルーインの動きを止められるので、やっぱ便利だ。

悠 「『コークスクリューブロー』」

ネイ 「『ロードオブナイトメア』!」

魔王の中の魔王…別名、金色の魔王。

悠 「『アレキサンダー』」

ネイ 「うう…えっと…『断空光牙剣』?」

マップ兵器のアレは強かった…第4次の頃は何故なかったのか。

悠 「…もう止めるか」

ネイ 「…うん」

よくもまぁ、ここまでくだらなく続けた物だ。
さすがに疲れて俺は再び倒れる。

ネイ 「はぁ…お腹空いた」

悠 「俺もちょっと減ってきたな…どうしよう」

ガチャ…

その時、ドアが開き、ようやくシオンさんが帰ってきた。

シオン 「どうもお待たせしました! やっとできましたよ…」

悠 「へ…?」

ネイ 「わぁ〜…」

見ると、シオンさんの後ろからメイドさんが料理を運んでくる。
それも馬鹿でかいトレーに乗せて…明らかにパーティサイズだろ!?
恐らく、目視で10人前は軽くあろう量が乗っていた。

シオン 「さぁ、どうぞ召し上がってください!」

いや、そう地震満々に言われても…食えるのかこんなに?
俺は隣を見て愚問だと気付く…。

悠 「…俺も貰うか」

ネイ 「うん、一緒に食べよ!」

こうして、俺たちは食事を摂り始めた。
正直、昼飯としてはボリュームがありすぎた。
ネイが残さずに食べたことは言うまでも無い…。



………。
……。
…。



悠 「…いつまでいるの?」

ネイ 「ん? 明日までだけど?」

いや…だけどってね。

悠 「明日早いんじゃないのか?」

ネイ 「うん、だからそろそろ寝るよ」

悠 「そうか…って、もしかしなくてもここで寝る気か!?」

俺は力いっぱいツッコム。
ネイは至って簡単に頷く。

ネイ 「どうして? 何か問題あるの?」

悠 「あるわぁ!! 問題が起きてからじゃ遅いんだぞ!?」

って、俺が襲うとは思わんが。
体裁的にもまずいので却下する。

ネイ 「何で〜? 私がいると邪魔なの?」

悠 「邪魔っつーか、眠れそうに無い」

理性を抑えるので精一杯になりそうだ。
まぁ、萌える要素が無い内は大丈夫だとは思うが。
シオンさんもすでに部屋に戻っているようだし、ここは俺とネイのふたりだけだ。
時間はすでに深夜に回ろうと言う時間なので、いい加減やばい。

ネイ 「う〜…ちゃんと静かに寝るよ、だからいいでしょ?」

悠 「何言ってんだよ、ちゃんと部屋があるだろ?」

ネイ 「でも…部屋はひとりだもん」

悠 「あ…」

そうだった。
未知さ…じゃなかった、姉さんがいないからネイはひとりになるのか。

ネイ 「…私、ひとりは嫌。寂しいもの…」

悠 「子供じゃないんだから…我慢しろよ」

普通は子供かもしれませんが…一応。

ネイ 「やだ、ここで寝る」

悠 「布団が無いぞ?」

ネイ 「う…いいもん、床で寝るから」

そう言ってネイは床に横になる。

悠 「こら、行儀が悪いだろ! 部屋に戻れ!」

俺が強くそう言うと、ネイはかなり嫌そうな表情をする。
正直、ドキッとしましたはい…。

ネイ 「…わかったよ、戻る」

ガチャ……パタン……

力なくドアを開け、力なく閉じる。
あの馬鹿…なんつー後味の悪い去り方しやがるんだ。
まぁ、考えてももう遅いので俺はとっとと眠ることにした。
明日になればまた笑ってるだろ…多分。





………………。





ドンドンッ!!

シオン 「悠さん、起きてますか!?」

突然、けたたましい音で目を覚まされる。
俺はがばっと起き上がる。
が、体が重い。上半身を起こした所でかなり動きづらかった。

悠 (ち…まだ辛いか?)

俺はそこで変な物に気付く。
俺の首元に肌色の物が二本巻きついていた。

悠 「…何だこれ? って…」

俺は左下に視線を合わせる。
すると同時に。

バンッ!

シオン 「朝早く失礼します! 悠さん、起きてます、か…?」



………。



一瞬時が止まったろう。
正直俺も何でこうなったのかわからない。
何でネイが俺の布団で寝てるんだ!?

ネイ 「す〜…す〜…」

静かに寝息を立てている。
俺は首にまとわりついているネイの腕を引き剥がす。

悠 「…ふぅ、今日もいい天気だな」

って、違う!

悠 「…で、どうしたんすかシオンさん?」

俺は極めて冷静に答える。
シオンさんは明らかに戸惑って答える。

シオン 「あ〜…えっと、そのです、ね…」

悠 「はい?」

シオン 「…ネイさんが部屋に見当たらなかったので、探していたんですが…」
シオン 「もしかしなくてもここにいましたね…」

そう結論付けられる。
いや、もしかしなくてもって…。

悠 「今何時ですか?」

シオン 「7時10分です」

悠 「遅刻だろうが! さっさと起きろ!!」

俺はネイに往復ビンタをかまして無理矢理起こす。
すると、4往復くらいした所でネイが起きる。

ネイ 「ふぁい? 何かほっぺが痛いよ〜?」

悠 「いつまで寝てんだ! 今から光の塔に行くんだろうが!!」

ネイ 「あ、そうでした〜…ふぁぁ」

ネイはそう言って、目を擦る。
こいつ、寝起き悪かったっけ?
いつも俺の方が起きるのが遅いせいか、気にはならなかったんだが。

ネイ 「…う〜」

シオン 「ネ、ネイさん!!」

悠 「ォンデュラホゥ!!(訳:こんのド阿呆!!) ここで着替えるなー!!」

こともあろうに、寝巻きをここで脱ごうとしやがった。
畜生…いいスタイルの割には結構貧乳だったな。
あんだけ食ってるのに、エネルギーはどこに行っているんだ?
とりあえず、シオンさんがネイを連れて部屋をけたたましく出て行った。

悠 「…はぁ」

今日もいい天気だ。
俺はもう一眠りすることにした。
いっそ今朝の記憶が消えてますように…と願いを込めて。



………。



シャイン 「…やっと来たか」

ネイ 「ごめ〜ん…遅れました」

私は結局30分遅れて来ることになった。
朝早いのは辛いよ…。

バル 「まぁいいだろう、これからは遅れるなよ?」

ネイ 「は〜い」

私は欠伸をこらえてそう言う。
これから5日も歩くのか〜…辛そう。

バル 「じゃあ、行きましょう」

シャイン 「ああ」

こうして、私たちは光の塔に向かって出発した。
それからの5日間、はっきり言って退屈でした…。
食べ物はあまり食べられないし、言葉もあまり無いし。
はぁ…残った方がよかったなぁ。





………………。





それでも、無事にたどり着くことができ、私たちは光の塔の前に立っていた。
森を抜けるのに1日、道を歩いて3日、そして遺跡に着いて1日。
色々と辛い旅だったけど、ようやく着いたね。

ネイ 「やっと、到着…長かった〜」

シャイン 「……」

バル 「門番がいますね」

バルバロイが言う通り、兵士の格好をした人が立っていた。
ディラールの時の兵士さんたちと同じ格好をしてる。
私たちは門番の前まで歩き、中に入れてもらうことにした。



………。



門番 「では、許可証をお見せください」

シャイン 「…はい」

門番 「確かに…では扉を開けます」

門番は鍵を差しこみ、重い扉を開け放った。
直径3メートルはある、大きな扉が外側に開いていく。
私たちは開いた扉を潜って中に入っていく。
遺跡みたいに埃っぽいのかと思ったら、綺麗に手入れされているようだった。
入り口は装飾とかなく、普通の石造りだった。
私はしばらく周りを見渡す。

門番 「最上階は7階です…お気をつけて」

ネイ 「え? 気をつけてって…何かあるの?」

私がそう言うと、門番さんが不思議そうな顔をする。

門番 「…知らないのですか?」

シャイン 「…行けばわかる」

ネイ 「ほえ?」

バル 「……」

シャインさんがそう言って先に進んでいく。
バルバロイも後に続いた。
私はその後に続く。
内部は大体半径10メートル程度の丸い部屋になっている。
1階には階段以外何も無く、螺旋状に連なる階段を私たちは昇っていった。

シャイン 「……」

バル 「……」

ネイ 「…何があるんだろう?」

私たちは何事もなく2階に上がる。
すると、1階と同じようなフロアになっていた。
しかし、今度は部屋の真ん中に誰かが立っていた。

ネイ 「あっ、誰かいる…」

男みたいだった。
一見すると、白い拳法着のようなやや薄着に身を包み、手入れのしてなさそうなバラバラの長さに伸びる短髪。
体は割とごつめ、力は強そうだった。

男 「よく来た、挑戦者よ…」

ネイ 「?」

低い声で喋る。
腕を組みながら、私たちを見据える。
挑戦者…って?

シャイン 「あなたが最初のガーディアンですか?」

男 「いかにも。私は光の守護者セラフィム様に仕える『力』のガーディアン。さぁ、挑戦者よ…誰が戦う?」

ネイ 「何? どういうこと…?」

バル 「つまり…戦って勝てばいいということだ」

バルバロイはそう言って、ガーディアンの前に立ちはだかる。
身長はバルバロイの方がかなり高かった。
相手は体の割には身長はそんなに高くなかったからだ、多分160位。
成る程…それは簡単。
でも、力って言うくらいだから相当自信があるんだろうなぁ。
でもバルバロイも相当力は強いから問題なさそうだけど。

ガーディアン 「お前が相手か…」

バル 「そうだ、始めるぞ」

バルバロイは余裕交じりにそう言う。
実際余裕があるんだろうけど。
油断するような人じゃないから大丈夫よね。

ガーディアン 「良かろう…行くぞ!」

ガーディアンはかけ声共に、真っ直ぐ突っ込んでくる。
突進は早い。
一瞬でバルバロイの懐を取った。

ブンッ!

バルバロイの顔面を狙った、ガーディアンの右フックは空を切る。
結構危なかったと思う。
バルバロイはスウェーでギリギリ避けた感じだ。
バルバロイの表情がにわかに変わる。

バル 「格闘戦か…いいだろう!」

バルバロイは剣を捨てて、素手で挑む。
それは余裕を見せすぎでしょうに…。

ガーディアン 「ふん!!」

バシィ!

ガーディアン 「!?」

バルバロイはガーディアンの上段蹴りを左手1本で受け止める。
瞬間、相手の軸足に右ローキックを放つ。

ガシィ!

ガーディアン 「ぐっ!」

ガーディアンは軸足が崩れ、バランスを崩す。
バルバロイはそこに、右裏拳を顔面に叩き込んだ。

バキィ!

ガーディアン 「ぐふあ!」

バル 「どうした、そこまでか?」

ガーディアン 「ぐぅ…やるではないか!」
ガーディアン 「しかし、まだ終わりではないぞ!!」

瞬間、妙な違和感を感じる。
ガーディアンが両手を前にかざした所でバルバロイの表情が明らかに曇る。
何をしたんだろう?

ガーディアン 「さぁ、お前の『力』を見せてもらうぞ!!」

バルバロイ 「…!」

明らかにバルバロイの動きが鈍い。
どうしたのかな?

ガーディアン 「はぁ!!」

ドガァッ!

バルバロイ 「…ちぃ!」

まともに顔面に右正拳突きを貰う。
バルバロイはよろめくがすぐに体制を立て直す。

ガーディアン 「どうした? この程度で根を上げたか?」

相手はいたって余裕の表情。
バルバロイはまるで立っているのさえ辛いような感じだった。
何で何で?

シャイン 「…重力操作か」

ネイ 「ほえ?」

ガーディアン 「ほう、察しがいいな」

ガーディアンがシャインさんに向かってそう言うと、シャインさんは説明してくれる。

シャイン 「これが『力』の試練の実態だ」
シャイン 「重力が倍加する中、あのガーディアンを倒さねばならない」
シャイン 「剣捨てたのは好都合だったな、持っていればより動きが悪くなるだろうからな」

ネイ 「じゃあ、あいつの方は何で同じように動くの?」

ガーディアン 「私は重力の影響を受けることは無い」
ガーディアン 「あくまで、挑戦者にのみ与えられる試練だからな」

ネイ 「…普通にやったら勝てないからって、ずっる〜」

ガーディアン 「や、やかましい! これも試練だ!!」

バルバロイ 「そう言うことだ…こちらもそろそろ本気を出そう」

そう言うと、バルバロイはガードを下げて余裕の笑みを見せる。
そして、軽快にステップを刻む。
ドッシリ構えていたさっきまでのスタイルとは一変だ。

ガーディアン 「ほう、ならば見せてもらうぞ!!」

バルバロイ 「来い、お前のスローな動きはとうに見切った」

ガーディアン 「ハアアッ!!」

ビュッ!

ガーディアンの右正拳は空を切る。
まるで流れるようにバルバロイはサイドステップで左にかわした。
避け方に無駄が無い。しかも、すでに相手の背後に回っている。
絶好のチャンス!

バルバロイ 「ふんっ!」

ドカァッ!

鈍い音がしてガーディアンの右足が崩れる。
またもやローキック。
ただでさえ前に逆の足を痛めさせてたから、効果はてき面。
ガーディアンは明らかに表情を歪ませる。
あのローは効くわ…上から下に叩き降ろしてるもんね。

ガーディアン 「くそっ!」

バッ!

ガーディアンは振り向いて左フックを放つが、バルバロイはそれを両手で絡め取る。

ネイ 「よっし、アームロック!!」

バルバロイ 「タップするなら今の内だが…? むろん続けるなら骨の2〜3本は覚悟してもらおうか…」

ガーディアン 「むう…見事だ……負けを認めよう」

相手はあっさりと降参する。
これ以上やっても無駄だとわかったんだろう。
結局重力の影響は何だったんだろう? あんまり関係なかったな。

ガーディアン 「先に進むがいい…次の試練が待っておる」

私たちは同じように次の階に進む。
また例によって螺旋階段が続いているのだ。

ネイ 「あれ? 何もない…」

シャイン 「休憩所のようなものだろう…」

3階も今までと同じようなフロア。
でもここには誰もいなかった。
私は気になることを聞いておくことにした。

ネイ 「ねぇ、まだ戦うの?」

シャイン 「後2回戦闘がある」

バル 「思ったよりもたいしたことはなかったがな…」

シャイン 「確かにな…だが、楽にいけるに越したことはない」

余裕の宣言。
実際そうなのだろう、この先もそうだと楽なんだけどなぁ。
とりあえず、私たちはさっさと上に上がる。
すると、今度は女の人がいた。
下のガーディアンと同じような服に今度は長髪。
ウェーブがかった髪が特徴的だったけど、正直ちょっとオバン臭い。

女 「よく来た…私は『速』のガーディアン。挑戦者は誰だ?」

ネイ 「じゃ、私がやるよ!」

バル 「大丈夫か?」

バルバロイが心配そうにそう言う。
私は笑顔でVサインをする。

ネイ 「もちろん! 任せといて!!」

ガーディアン 「では行くぞ?」

ネイ 「どうぞ〜」

ガーディアン 「ふん!」

ネイ 「きゃっ!?」

ブォンッ!!

ガーディアンは高速で私の懐に飛び込む。
私は油断してバックステップが遅れた。

ドグッ!

腹部に右掌打を叩き込まれた。
少し呼吸困難になる。
ガーディアンはすかさずバックステップで距離を取る。
ヒットアンドアウェイかぁ…。

ネイ 「けほっ、いった〜…不意打ちは卑怯だよ〜」

ガーディアン 「ちゃんと『行くぞ』と行っただろうが!!」

ネイ 「ああ、そう言えばそんな気がする…」

私はあっけらかんとそう言う。
相手は何だか疲れた表情だった。
さすがに私はちょっと真面目になる。

ネイ 「あははっ、ごめんごめん! じゃあ今度はこっちから行くね!」

ガーディアン 「よかろう、来るがいい」

ガーディアンは遠くから余裕のサインを送る。
距離は10メートルほどあったが、あんなに余裕見せてていいのかな?
それでも相手に情かけるのもあれなので、私はそこから動くことにした。

ネイ 「ほいっ!」

ヒュォンッ!

ガーディアン 「消えた!?」

バル (早い…! あれほどのスピードを持っていたか?)

シャイン (これが最強の邪獣と言われたネイ・エルクの力か…記憶を無くしても力の使い方は忘れていないらしい)

ちょんちょん…

ガーディアン 「はぁ…?」

ビュンッ!

ガーディアン 「!?」

ネイ 「にははっ」

私は一瞬で相手の背後に回り、相手の背中をつついて振り向かせた。
そして、その瞬間に寸止めで右パンチを眼前に止めてみせる。
驚いた顔が面白かった。

ガーディアン 「い、いつの間に…何てスピード!?」

ネイ 「別に大したことじゃないよ? カラクリがあるだけだから」

ガーディアン 「何を訳の分からないことを…はぁ!」

パシッ

ガーディアン 「何?」

私はガーディアンの右拳を受け止める。

ネイ 「パンチが軽いよ♪ 不意打ちするなら最初みたいにやらないと☆」

ガーディアン 「だから、最初は不意打ちじゃない!!」

またも突っ込まれる。
そう言えばそんな気がする。
ちょっと忘れっぽいな私…気をつけよ。

ガーディアン 「馬鹿にしおって…これでも笑っていられるか!?」

グググググ…!

ネイ 「およよ…?」

私は体が重くなるのを実感する。
っていうか、これって…。

ガーディアン 「どうだ、動くのも辛いだろう?」

ネイ 「下と同じ手口じゃん…ネタが無かったの?」

ガーディアン 「やかましい! これも試練よ!! つぇいっ!!」

スカッ!

ガーディアン 「!! 残像!?」

ドガァッ!

私は瞬間、相手の真上から後頭部を踏み抜く。
やや鈍い音と共に、ガーディアンは床に倒れる。
ちょっと、やりすぎたかな…?

ネイ 「まぁ、別にいいよね…」

バル 「…あれだけの速度をよく出せた物だな」
バル 「残像を残すほどのスピードを重力が倍加した中でやるとは」

バルバロイは感心したように私を見る。
私は笑って。

ネイ 「えー簡単だよ〜? 前もってイリュージョン置いてただけだから」
ネイ 「最初のあれも、光の反射を利用して闇魔法を使うの。そしたら周りの視覚から消えるんだよ」
ネイ 「後は横から大きく回りこむように後ろまで移動…闇魔法かじってたら誰でも出来るよ?」

バル 「……」

シャイン 「……」

ネイ 「ん? どうしたの?」

シャイン 「…行くか」

バル 「…ええ」

ネイ 「うんっ、さっさと行こ行こ♪」

バル (スピードの試練なのになぁ…)

シャイン (嘘をつくなら最後までか…まぁ気にしないでおこう)



………。



そして、5階。
変わり映えのしない塔だった。

ネイ 「また何もないね…」

シャイン 「後ひとりだからな」

ネイ 「楽勝楽勝♪」

バル 「油断して一発食らったろうが…」

ネイ 「う…いいじゃない、倒したんだから」

バル 「相手が武器を持っていたら、即死だったぞ?」

ネイ 「…そりゃそうだけど」
ネイ 「殺気を持ってない相手とは本気になれないもん…」

バル 「…まぁ間違っちゃいないがな」

シャイン 「先を急ぐぞ」

私たちはすぐに先へと進む。
するとまた例によって男が立っている。
これが最後のガーディアンだろう。
服装は一緒、背格好は一番身長が高く、170弱はある。
体はひょろっちく、いかにもおつむで勝負のタイプみたいだった。

男 「私は『知』のガーディアン…挑戦者は?」

シャイン 「私だ…」

シャインさんが前に出る。
正直、知力でシャインが劣るとは誰も思わないだろうな…。
何であんなに知識あるんだろう?
どうやって覚えるのか必勝法を教えてもらおうかな?

バル 「知のガーディアンか…どんな奴なんだ?」

ネイ 「やっぱり、魔法使いなのかな?」

シャインさんは無言で相手を見据える。
ガーディアンは余裕の表情で両手をやや上にかざす。

シャイン 「……」

ガーディアン 「では始めますよ…」

ガーディアンがそう言うと、突然シャインさんの体勢が下に沈む。
例によって重力だろう。
全員共通なのね…。

シャイン 「…また同じ仕込みか」

ガーディアン 「私の魔力は、セラフィム様より直接授かりし物…全力でかかってこられよ」
ガーディアン 「気を抜けば命を落としても可笑しくは無いですよ?」

笑顔でそう言う。
どうもちょっと強そう。
魔法だって言うのはわかるけど、体力面が低いシャインさんにはちょっと辛そうだった。

シャイン 「なるほど…この重力は魔力によるものか」
シャイン 「重力魔法は通常『地』の属性を持つ物だが…」
シャイン 「ふむ、これも仕掛けと言うことか」

ガーディアン 「中々頭の回転は速いようですね、ですがそんな暇はありませんよ?」
ガーディアン 「むんっ…」

ガーディアンが力を込めると、両手から光を放つ。
一瞬の閃光の後、光の玉が5〜6個ほど生み出され、シャインさんに向かう。
大きさはソフトボールくらい。
でも動きは速い。
不特定な起動でシャインさんの周りを浮遊している。

シャイン 「く…」

予想以上にこの重力は強いようだった。
ただでさえ、体力の少ないシャインさんはその場から動くことさえ出来ないようだった。

シャイン 「…!」

ピッ!

何と、光の玉はシャインさんの近くで止まったと思ったら、光線を放った。
細いレーザーのようだけど、全ての玉が攻撃をバラバラに仕掛けてくる。

シャイン (遠隔操作…いや自動攻撃か)

ピピピッ!

他の玉も次々と光線を放つ。
ダメージは少なくてもかわせなければいつかは…。

ネイ 「ちょっと、やばいのかな?」

バル 「…カラクリか」

ネイ 「カラクリ…? ああ、そっか『知』って言ってたもんね」

バル 「体が満足に動かない状態でどうやって…戦うのか、見物だな」

ネイ 「本当に大丈夫かな…?」

見てると危なっかしく見える。
それとも余裕かな?
シャインさんのローブと服が穴だらけになっていく。
熱線だから、ジワジワ効いてきそう…。

ガーディアン 「…どうしました? 攻撃することもできませんか?」

ガーディアンはそう言って笑う。
シャインさんは重力で右膝を床に着く。
雲行きは思わしくない。

シャイン 「…成る程、よくわかった」

そう言った瞬間、シャインさんは魔法で光の盾を作り出し、自分の体全てを覆う。
そして、その盾は光線を全て跳ね返した。

ピピピピッ!

ガーディアン 「うおっ!」

シャイン 「…その程度の魔力では、私には効かん」

シャインさんは銃を構え、引き金を引く。

ドオオォォンッ!!

ガーディアン 「…ふふふ」

シャイン 「…!?」

何と無傷だった。
いや、当たってない。
多分、何か膜のような物で遮った?

シャイン 「……」

ガーディアン 「忘れましたか? これは『知』の試練」
ガーディアン 「頭を使わなければ抜けられませんよ?」

バル 「……」

ネイ 「…わかる?」

バル 「…さぁな」

でもわかっていそうな顔だった。
正直私は分からない。
実際に戦ってみればわかるのかもしれないけど…。
シャインさんならすぐにでも気付くと思ったんだけどなぁ…。

シャイン 「……」

ダァンッ! ダァンッ! チュインッチュインッチュインッ!!!

ガーディアン 「…弾の無駄遣いでは?」

シャインさんは弾を壁に当て、跳弾で背後からガーディアンを狙うが、やっぱり効かない。
全身が覆われているのか、死角はないようだった。

ガーディアン 「…そろそろ終わりにしますか」

ガーディアンがそう言って右手を真上に掲げる。

シャイン 「!!」

ドガァッ!!

シャインさんはその場から横に転がって難を逃れる。
上から光の剣が落ちてきたのだ。
直撃していたら死んでいたかもしれない。

ネイ 「うっわ…やばいよやばいよ〜」

バル 「うろたえるな…もう終わる」

ネイ 「え?」

バルバロイがそう言った後、シャインさんを見ると。

シャイン 「……」

ガーディアン 「次は外しませんよ、いい加減に終わりにします」

シャイン 「ああ、終わりにしよう…」

ギュアアアアアアアアッ!! ズババババババァァンッ!!!!

ネイ 「!?」

ガーディアン 「!!」

爆音、直後ガーディアンは霧で霞むように消え去ってしまった。

シャイン 「……」

ぱんぱん…!

シャインさんは服に着いた埃を払い、銃を右腰のホルスターに収める。
終わったの?

バル 「…なるほどな、やはりそうだったか」

ネイ 「え? 何どうなったの?」

シャイン 「…ホログラフィだ、さっきお前も似たようなことをしたろう?」

ネイ 「…ああ、イリュージョンの」

ようやくわかった。
どうも、あのガーディアンは実態じゃなかったようだ。
でもどうして天井を打ち抜いたら消えてしまったんだろう?
天井には大穴が開いており、空からの日光が差し込んできていた。

バル 「上に昇ればわかる…」

シャイン 「…そういうことだ」

ネイ 「ふ〜ん」

私たちは最上階へと上がった。
ようやく終わりである。
楽だったのか辛かったのか微妙な所だった。



………。



声 「よく来ました…」

シャイン 「む…?」

最上階に着くと、突然、開いた空から淡い光が差し込み…光の中から翼の生えた美しい女性が現れる。
綺麗と言う形容は的確だと思った。
まさに天使のような姿…それとも神様?
女性は奥の祭壇に降り立つ。
祭壇にはひとつの銃が壁にかけられていた。
あれが、ヘパイストスだろう…。
祭壇は小さい物で、そんなに見た目は凄くない。
それ以外は他のフロアと変わらないようだった。

バル 「……」

ネイ 「……」

シャイン 「…セラフィムさまですね?」

シャインさんがそう言って女性の前にまで行く。
真ん中の辺りは魔法弾で打ち抜かれているので横に迂回して行った。

セラフィム 「その通りです…試練を越える者よ」

ネイ 「そういえば、最後のあれは結局なんだったの?」

バル 「シャインさん、説明をしてやってください…聞くまでうるさそうですから」

ちょっと刺があるよそれ…う〜。
シャインさんは仕方なさそうに。

シャイン 「あのガーディアンはセラフィム様が作ったホログラフィだ」
シャイン 「魔力の結晶で形作らせていた。魔力は本人のものだから当然強い」
シャイン 「どこから攻撃を当てても魔力で遮られる」
シャイン 「だが、壁を撃った時にわかった。壁の僅かな隙間から光が仕込んだ時にガーディアンの姿がほんの少し揺らいだ」
シャイン 「だから、この時俺は感づいた。あれは実態を持っていないと」
シャイン 「ならば、誰が? 当然上にいる物しかいない…セラフィム様本人にしかな」

そう言い終えて、一息つく。
私は腕を組んでほ〜ほ〜と唸った。
あれだけでわかっちゃうんだ…。

セラフィム 「訂正の余地はありませんね…見事です」

シャイン 「お褒めに預かり光栄です…それよりもセラフィム様」

セラフィム 「ええ、わかっています。あなたが…使用者ですか?」

シャイン 「はい…」

セラフィム様は確認するようにそう聞く。
ヘパイストスの使用者…つまりはシャインさんだと確認したわけだ。

セラフィム 「そうですか…しかし、使えるとは限りませんよ?」

ネイ 「今までひとりもいなかったんだもんね…大丈夫かな?」

セラフィム 「この銃に選ばれるかどうかは、あなた次第です…」

セラフィム様はそう言って、シャインさんにヘパイストスを渡してくれる。
シャインさんはそれを握り締める。



………。



シャイン 「これが…ヘパイストス」

私はヘパイストスを持ち、心で語りかける…。
あくまでイメージだが、思いの他間違ってはいないようだった。
いとも簡単に答えが返る。

ヘパイストス (お前さんが、次の主か…? お前さんは何を望む?)

ヘパイストスに封じられた神の力が語りかけるのか、それとも本人の意思なのか?
私は正直に答える。
ありのままの答えを。

シャイン (…大事な者を守るための力を)
シャイン (平和な未来を、守るための力を…)

ヘパイストス (…お前さんの心は素直で、純粋じゃな。よかろう! 力を貸してやる、存分に使うがよいわ!!)

すると、突然激しい光が私の体を包み、その後ヘパイストスに光が吸収されていった。
後は何事も無かったかのように光は止む。
そして、私は自分の中に溢れる力を感じる。

セラフィム 「おめでとう。これで、その銃はあなたの力ですよ…」
セラフィム 「これから、邪神の脅威と戦うため、その力が自ずと必要になりましょう」
セラフィム 「健闘を祈ります…私たち守護者も影ながらあなたたちを支えましょう」

シャイン 「…ありがとうございます」

私は左腰に差した新しいホルスターにヘパイストスを収め、塔から降りた。
後は戻るだけだ。



………。



ネイ 「でも、割と楽勝だったね♪」
ネイ 「誰も使えないとか言ってた割には、シャインさんが簡単に選ばれちゃうし」

バル 「確かにな…少々物足りなくさえ感じる」

シャイン 「楽にいけるに越したことはない…プラスに考えることだな」

ネイ 「そうだね! それが一番!!」

こうして、私たちは再び、ディラール王国を目指した。
また5日…歩いて戻らなければならない。
途中、食料が底をついてやや危険な状態なったのは誰にも語られなかったことである…。





………………。





そして、そこからやや遠く離れた国『光鈴』
ここでも、試練に挑むひとりの若者がいた…。



長老 「よいな降?」

降 「はい…この洞窟の中から草薙を取ってくればいいのですね?」

長老 「うむ…何のことはない、それだけじゃ」

降 「では、行って参ります!」

僕はそう言って洞窟の中に入る。
どうも地下に降りて行く洞窟のようだった。
光鈴から南に下った1時間位の距離にある洞窟だった。
入り口が下からせり上がるように構えており、地下にかなり深く続いているのが想像できた。



………。



降 「…結構暗いな」

中は一応明かりがあるにはあった。
人の手が入っている証拠だが、中は結構広いため、少ない灯りで薄暗かった。

カチッ…

降 「うん…?」

今何かを踏んだような…。
僕は足元を確認しようとするが、瞬間嫌な予感がする。

ズドド!!

降 「うわっ! な、何…?」

見ると、足元から槍が突き出ていた。
微妙に当たらなかったらしく、難を逃れたという所だろう。
しかし、これで先行きは一気に不安になる。

降 「こ、これって…罠だよね?」

もしかしなくてもそうだろう。
何のことはありありだった…これは命に関わる。
でも逃げるわけにも行かず、僕は覚悟を決めた!


………。



降 「…慎重に、慎重に」

僕はかなり慎重に、前に進んだ。
だが…。

カチリ…

降 「……」(汗)

注意してもわからないものはわからないようだ。

ゴゴゴゴゴ…!!

地響き…僕は瞬間走り出していた。

ドガァァンッ!!!

降 「う、うわあああああっ!!」

横の壁が突然崩れ、大岩が転がってきた。
しかも前に進んだ道は途端に狭くなっており、横には逃げられない。

降 「ちょっ…冗談じゃないですよー!!」



………。
……。
…。



降 「はぁ…はぁ…はぁ…」

どうにか逃げのびた…ギリギリの所で脇道があって助かった。
ベタだけど、これも試練って事なんだろうな〜…。

降 「まさか、これからもこんなのばかりなんじゃ…?」

ぞっとしながらそう考える。
そして、少し歩いて前を見ると、何と剣が岩に鞘ごと刺さっていた」

降 「あっ…」

僕は剣の元まで歩むと、そこで止まる。
もしかしてこれで終わり?
かなり疑問は残ったが、他に道もなさそうだった。
ということは…必然と終わりなわけで。

降 「……」

僕はすぐに剣を抜く。
だが、それがいけなかった。
これ位予想できただろうに…。

ゴゴゴ…!

降 「ど、どうしよう…!」

また地響き、すると、今度は天井から岩が降ってくる。

降 「う、うわっ!!」

大きさはそこまで大きくないが、頭部に喰らったらもれなく即死だろう。
とりあえず、試し切りも兼ねて僕は剣で岩を切ろうとする。
伝説の剣なんだから、岩ぐらい簡単に…。

パキィィンッ!

降 「へ…?」

ズッドオオオオオンッ!!

降 「………」

後ろにこけて、間一髪、岩はかわせた。
でも今度こそ死んだかと思った。

降 「こ、これは偽者!?」

あまりにもあっさり折れたし…
完璧偽者だろう…。
あからさまに置いてあるとは思ったけど…。

降 「もう、何も信じられなくなってきたな…」

僕はげんなりして先に進むことにした。
さっきの衝撃で新しい道が現れていたのだ。



………。
……。
…。



それから…落とし穴、水攻め、感電、火あぶり、と、地獄のような罠ばかり待っていた。
作者の都合で省かせてもらいますが、もう二度と体験したくありません!

降 「それでも生きてる僕って運がいいのかな…?」

もう、何回死んだと思ったかな…?
悪運が強いのかもしれないが、その分何度も怖い目を見るのは御免こうむりたい。
そして、僕はまた1本の剣の前に立っていた。

降 「もう、何が来ても驚かないし…」

僕は剣に手をかける。
瞬間、僕は一瞬自分の耳、いや頭を疑った。

草薙 (汝…草薙の血を引くものか?)

降 (!?)

頭に直接言葉が響く。
かなり大きな声で反響し、頭痛を感じるほどだった。
僕はその場で少しよろめくが、声は続く。

草薙 (答えよ…)

降 (…それは、あなた自身でわかることじゃないんですか?)

僕はあえてそう言った。
少なくともこんな体験ができるのは自分だからだと何となく思った。
自分に草薙の血が流れているのならば、それ位はするだろう。

草薙 (ふっ…見かけに寄らず骨のある主のようだな、久し振りだ…)

降 (…見かけですか)

骨ねぇ…あるんだろうか?
自信はイマイチないが、ここまで来たらもう何も怖くは無い。

草薙 (いい気だ…奇稲田を護る為、今一度暴れるとしよう!)

パアァァァッ…

降 「!?」

突然、光が僕の体を包み、その光が草薙に吸収されていく。
その瞬間、体が羽のように軽くなった気がする。
そして同時に、大きな力を感じる。
今までの自分とは打って変わった力だ。
自分の中で何かが変革していくことに気付く。
本当の自分を取り戻す…? そんな感覚だった。

降 「……」

『俺』は頭を少し抱える。
いきなりの情報量に頭痛がする。
だが、ようやく取り戻せた。
幼少の頃より封じ込められていたままの、『草薙』としての自分をようやく取り戻せた。
俺は剣を岩に刺さった鞘に1度収め、今度は鞘ごと岩から抜いた。

ゴゴゴゴゴ…!

降 「……」

再び地鳴り。
すると、正面の岩が横にスライドし、道が続いている。

降 「……」

俺は先に進んでいく。
すると、大きな壁が立ちはだかっていた。

降 「…行くぞ神剣、俺にその力を見せてみろ!!」

草薙 (よかろう、ならば我を振るえ!)

降 「おおおっ!!」

俺は左腰に差していた草薙の柄を手に取り、それを居合で振り切った。

パアアァァンッ!

一瞬の閃光と共に、光は消えていく。
俺はすぐに剣を鞘に収める。

ゴゴゴゴゴゴ…!!

目の前の壁は一刀両断…切り口から光が溢れ、目の前の壁は崩れ去った。
これが神剣・草薙の威力か。

降 「……」

長老 「ほう…取ってきたか」

降 「…ああ」

俺がそう言うと、長老はしかめた顔をする。
理由はわかっている、俺は遮って言葉を続ける。

長老 「お主…」

降 「長い間封じられていた…草薙の力によってようやく戻った」

長老 「ならば、語ることはあるまい。その力、再び奇稲田のために振るってくれ」

降 「…無論だ、そのために『草薙』は存在するのだからな」

長老は言って背を向ける。
俺は長老の後を着いて行く。
景色が懐かしく見える。
理由はわからなかった。



………。
……。
…。



未知 「降さん…無事でしたか」

俺が屋敷へと戻ると、ひとりの女が玄関まで迎えに来る。
奇稲田の姫である未知だ。

降 「ああ、問題はない」

未知 「…降さん?」

未知は俺に確実な疑問を持ったようだ。
当然だろう、だが長老が話を進める。

長老 「未知よ…儀式は終わったのか?」

栞 「はい、たった今終わらせました」

美鈴 「無事に継承を終えましたよ〜」

後からやってきた八咫と八尺瓊がそう言う。
これで現代の3衛士が揃ったことになる。
奇稲田の姫を守る衛士が。
ちなみに儀式とは、別名、血の儀式とも言われる。
屋敷の遥か地下に眠る、ある『モノ』の血を飲むことによって、初めて奇稲田の姫と見なされる。
それが何なのかは俺には語られていない。
どうもおぞましい気配はするがな…。

長老 「そうか…無事に終わって何よりじゃ」

未知 「あの…これで、助けに行ってもいいのですか?」

未知がそう言う。
実際すぐにでも行きたいのだろう、だが長老は止める。

長老 「ならぬと言うたじゃろう…奇稲田の者はここに留まる義務がある」

未知 「でも…」

長老 「時がくれば、助けには行かせよう。それまではここに留まるのじゃ…民も、お前の帰還を嬉しく思うとる」
長老 「今は、耐えておくれ…」

長老はそう言って未知の手を取る。
正直、これでいいのかとは思う。
たったひとりの女を、神と崇めて縛る…俺にはそう思えた。

未知 (…悠、きっと、きっと…助けに行くから)

降 「……」

だが、心配は無かった。
未知はそんなに弱くは無い。
自分の意志をしっかりと持つ女だ。
俺がそれを守ればいい、いつでも俺は…未知を守ってみせる。



…To be continued




次回予告

ウンディーネ:伝説の武具、海衣・ネプチューンを取る為に、ガストレイス王国に向かったウチら。
せやけど、ネプチューンはなんと盗賊団によって奪われてしもたらしい…。
ウチらはネプチューンを取り戻すため、3人で盗賊団のアジトに進入する…。

次回 Eternal Fantasia

第25話 「奪われたネプチューン」

ウンディーネ 「久々に、ウチの出番やーーー!!」




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