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第31話 「おてんば王女」

レギル大陸を出立してから早2日…。
まだ船の上。

ウィル 「………」

ルナ 「ちょっと〜…」

ゆさゆさ…

ウィル 「あん♪ 変なとこ触っちゃやだぁ♪」

バチィ!

ルナ 「どんな夢見てるのよ!?」

私は平手でウィルの頬を張った。

ウィル 「いったぁ〜…何? 何なの?」

ルナ 「朝よ…起きなさいっ」

ウィル 「う〜ん…折角いい夢見てたのに。現実がいっそ夢であれ…」

ルナ 「諦めなさいよ…」

ウィル 「うう…気が重い」

ルナ 「早くしないと、どうなっても知らないわよ?」

ウィル 「わかってるわよぉ…あたしだって死にたくないもん」

ウィル 「はぁ…」
ルナ 「はぁ…」

ふたり同時にため息をつく。
そう…。
私たちはもはや籠の鳥だった。

セリス 「遅いわよっ、3分の遅刻!」

ウィル 「……」

ルナ 「……」

セリス 「全く…いい加減朝ぐらい自分で起きれるようになりなさい」
セリス 「ウィル…あなた、大学行くんでしょ? そんなことでいけるほど甘い所じゃないわよ?」

なんで、戦争で世界がどうこう言っている時に、大学受験の話になるのよ…。

ウィル 「別に…大学くらい楽勝よ」

セリス 「それが甘いってい・う・の!!」

セリス姉はこっちのことなどお構いなしに自分の意見を推し進める。
昔っから、この人のペースには着いていけない…。
これならシェイドの方が32倍は胃が楽だわ…。

ウィル (ああ…セリス姉が医大に行った時の喜びは、もうないのね)

セリス 「聞・い・て・る・の!?」

セリス姉がさらに顔を近づけてそう怒鳴る。

ウィル 「もう…聞いてるわよっ、いちいち怒鳴らないでよ…」

セリス 「はぁ…私は心配よ? シェイドをあれだけ悩ませておいて、大学行こうだなんて…社会に出たらどうなることかっ」

ウィル 「シェイドは別に関係ないぢゃん…」

セリス 「大体、シェイドって呼び捨てはダメだって何回も言ったでしょ!?」
セリス 「ちゃんと年上の人相手には敬語を使いなさい!!」

ウィル 「嫌」

あたしは即刻断る。
今更敬語なんて使う気にならない。

セリス 「もう…本当に社会人になれるのかしら?」

ルナ 「それよりも、早く食事を終わらせてよ…片付けられないじゃない」

ウィル 「文句ならセリス姉に言ってよ…」

セリス 「ルナは素直なのに…何でウィルは」

ウィル 「……」

そう言えば、ルナって昔っからなんか要領よかったのよねぇ…。
何でもかんでも、流されてるんだから…。
あたしは食事を終えると、荷物を整理する。

ウィル 「あ〜あ…何でこんなことになったんだろう」

これだったら、ひとりで逃げた方がよかったかも…。

セリス 「荷物は整理したの?」

ウィル 「終わったわよ!」

セリス 「だったら、早く来なさい! もう着いたわよ?」

ウィル 「あ…わかったわよぉ」

あたしは荷物を肩に担ぐと、船室から外に出る。

ウィル 「…ここがグレイヴ」

そこは割と普通の大地で、レギルとさほど大差がない。
それとも港だからだろうか?
街には妖精族が多く、耳が尖っている…。
見るのは初めてだけど、あれがエルフね。

セリス 「さぁ、行くわよっ」

ウィル 「はいはい…」

セリス 「返事は一回!」

ウィル 「………」

ルナ 「(ちょっと〜ウィル…いい加減にしたほうがいいよ?)」

ウィル 「(何がよっ?)」

ルナ 「(あんまり怒らせない方がいいわよ…?)」

ウィル 「(知らない)」

ルナ 「もう…」

セリス 「何してるの!?」

ウィル 「いちいち怒鳴らないでって言ってるでしょう!!」

セリス 「だったら、行動で示しなさい!!」

ウィル 「うるさいわねぇ…いい加減にしてよ!!」

ルナ 「ちょっと、ウィル!?」

あたしはルナの止めるのも聞かずに反論する。

ウィル 「あたしは、セリス姉にそこまでとやかく言われるほど子供じゃないのよ!!」

セリス 「何ですって? 社会のことも知らずによくもそんなことが言えるわね!」

ウィル 「そんなものは出てからわかる物でしょ!? あたしとルナはふたりで旅をして、生きてきたんだから!!」

セリス 「その考え方が甘いのよ!! いい? 私は社会に出て様々なことを経験したわ…」
セリス 「その経験から言っているの! あなたの考え方じゃ生きていけないわ!!」

ウィル 「やる前から決め付けないでよ!! あたしはセリス姉とは違うのよ!!」

セリス 「ウィル…」

ウィル 「これ以上は付き合ってられないわ!! あたしは自分の力で邪神と戦うわ!!」
ウィル 「こんな時に、社会だの何だの言ってるセリス姉に戦争で何が出来るのよ!!」

ルナ 「ウィル! どうするのよ?」

ウィル 「来たくなかったら、勝手にすれば!!」
ウィル 「あんたも、いい加減人に流されるの止めなさいよ!!」

ルナ 「……!」

あたしはそれだけ言って、その場から走り去った。


セリス 「ウィル…」

ルナ 「こんな時に…何やってるのよ」

セリス 「行くわよ…まずは、ステア王国に向かわないと」

ルナ 「ウィルをこのままにしておくんですか!?」

セリス 「…私が言った所で聞かないでしょ?」

ルナ 「当たり前じゃないですか!!」

セリス 「……!!」

ルナ 「セリス姉さんに何がわかるんです?」

私は唐突にそう言った…。

ルナ 「シェイド姉さんは、いつも私たちに気を配ってくれて…私も、ウィルも大好きなんですよ」
ルナ 「でも、ウィルは素直じゃないから…好きな人には迷惑をかけてしまう」
ルナ 「それがわかってるから、シェイド姉さんも私たちを認めてくれてます」
ルナ 「でも、セリス姉さんは小さい時の私たちしか知らないじゃないですかっ」
ルナ 「それなのに、そんな知った風なことばっかり言えば、ウィルでなくても怒ります!」

セリス 「わかったわ…なら好きにしなさい」
セリス 「私はひとりでも行くから…」

セリス姉さんはそう言って、歩いていった。

ルナ 「……」

私はしばらく考えた後、ウィルを探すことにした。


………。
……。
…。


ウィル 「はぁ…」

これで何回目のため息だろう?
いい加減同じ景色は見飽きたわよ。

ウィル 「何で、いきなりジャングルなのよーーー!!」

かれこれ2時間は迷っている。
目印をつけておいたのに、同じ場所を回りつづけてる。
よく考えたら、あたしは方向音痴だった。
いつもはルナがいるから、迷わなかったのに…。

ウィル 「はぁ…お腹空いた〜」

ドサッ

そう思うと、突然空からリンゴが降ってきた。

ウィル 「何? 何で何で?」

あたしはそのリンゴを手に取って見てみる。
正真正銘のリンゴだ…。

声 「何してるんだ? 食わないのか?」

突然上から声。
私は上を見上げてみる。
すると、真上の木の枝に座っているエルフがいることに気が付いた。
釣り目で、金髪の腰まで伸びるストレートロングヘアー。
スタイルは私よりも上…上から、88、59、85と見た!
なかなかグラマーね…。
服装は森の妖精らしく、緑の半袖シャツに白のズボンを履いていた。
背中には弓矢を背負っている。

ウィル 「何? あんたがくれたの?」

女 「そうだよ…腹減ってるんだろ?」

見た目とは裏腹に男口調…。
気が強そうね。

ウィル 「まぁ、とりあえず貰える物は貰っておくのがあたしのポリシーよ」

あたしはそう言って、リンゴにかじりつく。

ウィル 「すっぱー…」

女 「はははははっ! 何だ、初めて食うのか?」

ウィル 「そうよ…今日始めてこの土地に来たんだから」

女 「何だ…よっと! 旅行者か?」

少女は4メートルはある高さの枝から飛び降り私の目の前に着地する。

ウィル 「まぁ…そんなとこ」

女 「何だ…わけありか」

ウィル 「よくわかったわね」

女 「俺も同じだからだよ…」

ウィル 「何? 上司がむかつくとか…そんなとこ?」

女 「お前がそうなのか?」

ウィル 「うるさいわね…そんなとこよ」

女 「はははっ、面白い奴だな本当に」

ウィル 「で? あんたはどうなのよ…」

女 「俺は、抜け出してきたの…。勉強なんてする気にならないね」

ウィル 「ふぅん…何? 学生?」

女 「違うよ…俺は学校なんていってない」

ウィル 「なんだ…じゃあ独学?」

女 「いや、家庭教師がいる」

ウィル 「へぇ…あたしは家庭教師って、何か嫌〜…だってあたしの方が頭いい場合の方が多いもん」

女 「何? お前って、頭いいわけ? 悪そうに見えるのに…」

ウィル 「しっつれいねぇ…これでも、高校1年の時に高校で習う全ての項目をマスターして、中退してるんだから」

女 「…マジかよ、天才って奴か?」

ウィル 「まぁね…あたしの相棒で、同じ成績の奴がひとりいるけどね」

女 「羨ましいねぇ…」

ウィル 「そう? その分退屈だったわよ」

女 「ところで、お前の名前は?」

ウィル 「…ウィル・オ・ウィスプ・セレーヌ・アイリドンム・ソルファウス・スラン・ダイヤ」

女 「…ごめんもう一回」

ウィル 「ウィルでいいわよ」

誰に言ってもこれは同じ結果が返ってくるんだから。

女 「ウィルかぁ…長い名前だけど何で?」

ウィル 「そういう家の元に生まれたのよ…色んなところの名前をもらってるから、いつのまにかこんな名前になったの」

女 「そいつは大変だな…」

ウィル 「そういう、あんたは何者なの?」

女 「おっと、悪い悪い…俺はフィリア。フィリア・ステアってんだ」

ウィル 「フィリア・ステア…?」

あたしはその名前に疑問を感じる。
どっかで聞いたような…?

フィリア 「…無理に考えるなよ」

ウィル 「あーーーーー! 思い出したーーー!!」

あたしが突然叫ぶと、フィリアは驚いたように目を丸くした。

ウィル 「ステア王国の王女の名前じゃない!! 何で何で?」

フィリア 「…最初に言ったろうが、抜け出したんだよ」

ウィル 「あっそうか」

あたしはそう思い出して、ぽんと手を打つ。

フィリア 「お前って、切り替え早い奴だな…」

ウィル 「当然よ、マイペースが売りなんだからっ」

世の中にはそれが通用しない人間がいるから困りものだわ。

フィリア 「あ〜あ…城にいたって、退屈だし…やることねぇよ」

ウィル 「……」

戦争のことを言うべきなのかな?
言ったら、どう反応するだろうか?

フィリア 「なぁ、ウィルってさ、彼氏とかいるのか?」

フィリアはさも楽しそうにそういう話題を振ってきた。

ウィル 「べ〜つに〜…いい男なんてそうそういないわよ」

フィリア 「ふうん…じゃ、何でこんな所にいるんだ?」

ウィル 「…迷ったのよ」

フィリア 「迷ったって…どうやって?」

ウィル 「知ってたら、こんな所でうろついてないわよ!!」

フィリア 「だって…ここから真っ直ぐ行ったらステア王国だぜ?」

フィリアは後ろを指差すと、そう言った。
あたしはどこまで方向音痴なのよ…

フィリア 「で、どうする?」

ウィル 「何が?」

フィリア 「もし、王国に用があるなら案内するけど?」

ウィル 「う〜ん…別に用はないんだけど」

そうこうして考えていると、何やら妙な音が聞こえる。

ウィル 「……?」

フィリア 「ん? 何か聞こえた?」

? 「……ル〜」

ウィル 「ル?」

あたしはフィリアと顔を合わせる。
聞こえてたらしい。

? 「ウィル〜…どこ〜…?」

聞き覚えのある声。
もう何度となく聞いた声。

ウィル 「ルナ!?」

ルナ 「あう〜っ、ウィル〜…!」

ルナは半べそをかきながら、こちらに歩み寄ってくる。

ウィル 「何やってのよ?」

ルナ 「だってだって〜…熊は出るし、蛇は出るし〜…道に迷うし…」

ウィル 「………」

フィリア 「何? お前ら漫才コンビ?」

ウィル 「違うわよっ!」

いつか誰かに言われる気はしてたけど…。

ルナ 「うう〜、よかったぁ〜」

ウィル 「何よ…セリス姉のとこに行ったんじゃなかったの?」

ルナ 「…だって、ウィルが心配だもん」

ウィル 「あのね…」

フィリア 「なんだ、もしかして相棒ってその娘?」

ウィル 「…そうよ」

本当に腐れ縁。
何でこんなにまで一緒なのか疑問に成る程。

ルナ 「この人は?」

ウィル 「フィリア・ステア…王女様よ。城を抜け出して勉強をサボってるの」

フィリア 「そういうこと…」

ルナ 「ええ〜? それじゃあ城は大変なんじゃ…」

フィリア 「いつものことだから、今更慌てないよ…」

ウィル 「うん、やっぱ話すわ」

あたしは決心して、話すことにした。

フィリア 「はぁ? 何を?」


………。


フィリア 「そういう冗談がはやりなのか?」

ウィル 「信じる信じないは自由だけど…」

フィリア 「邪神が復活〜?」

ルナ 「…本当ですよ」

フィリア 「いまいち信用できないなぁ…」

ウィル 「どうでもいいわよそんなことは。あたしたちは戦争するんだから…信じられなければ、戦争がおこるまで普通に遊んでればいいじゃん」

フィリア 「う〜ん…でも、何で俺に?」

ウィル 「…あんたバカ? 王女でしょ…星弓アルテミスを知らないとは言わせないわよ?」

ステア 「それはわかるけど…」

ウィル 「だ〜か〜ら〜!! あんたの力がほしいわけ!!」

ルナ 「ウィル…頼むときぐらい、穏やかにいこうよ」

フィリア 「だって、あれは俺の物じゃないし…」

ウィル 「関係ないわよ、どうせいつかはもらう物なんだから、勝手に持って来ればいいじゃない」

フィリア 「それもそうだな…」

ウィル 「どう? 城で勉強するよりも断然面白いと思うけど?」

フィリア 「よしっ、乗ったぜ!!」

ウィル 「決まりっ」

あたしたちはがしっと手を合わせて、商談を成立する。



ウィル 「…どう?」

フィリア 「大丈夫だ、誰もいない」

あたしは合図を確認すると、部屋に入る。
あたしたちはすでに、城に潜入して(フィリアの名目で入れてもらって)いた。
そして、アルテミスが保管されている、フィリアの母親の部屋に入っていた。

ルナ 「いいのかな…?」

ウィル 「この際、気にしたら負けよ」

フィリア 「あった…これだ」

フィリアは見た目からして立派な装飾のついた弓を持つ。

フィリア 「…これが、アルテミスかぁ」

フィリアは試しに矢を入れずに弦を引いてみる。

声 (あなたは…?)

フィリア (!? な、何だ?)

声 (…誰だ? 新たな継承者か?)

フィリア (え? 俺のこと?)

声 (他に誰がいる?)

フィリア (えっと、じゃあそうだ)

声 (その前に問おう…そなたは何のために我が力を使う?)

フィリア (邪神と戦うためだ!)

俺は正直にそういう。

声 (…確かに、邪神の力をわずかだが感じる。復活はそう遅くはあるまい)

フィリア (だったら…力を貸してくれ)

声 (だが…)

とその時。

あなたたち! 何をしているの!?

ウィル 「やばっ!」

見つかってしまった。
しかし、逃げ場が…。

フィリア 「か、母さん…」

王妃 「フィリア…? あなた、私の部屋で何を…」

フィリア 「…う」

フィリアは申し訳なさそうにその場で俯く。

王妃 「それは、アルテミス…フィリア、あなたまさか!」

フィリア 「……」

王妃 「あなたには使いこなせる物ではないのよ?」

フィリア 「そんなことはない、俺は使える! 俺がこの国を守らなきゃ…」

王妃 「何を…?」

声 「何事ですっ、王妃様!?」

もうひとつの声、聞きたくない声。

王妃 「セリス殿…」

ルナ (まずいよ…)

ウィル (どうしましょ…)

対応策が思いつかない。
まさに絶体絶命…。
こうなったら、セリス姉を張り倒してでも、この場を脱出しないと。

ウィル 「……」

フィリア 「………」

さすがに、悪いことをしたと実感した。
思いつきとはいえ、これじゃあフィリアがかわいそうすぎた。

セリス 「ウィル、ルナまで…あなたたち一体?」

ウィル 「それはこっちの台詞だよ…なんで、セリス姉がこんな所にいるのさ」

セリス 「私は、聖杖マナを継承するために地の洞窟の場所を聞きに来たのよ」

ウィル 「マナ…? あれって、確か今は存在が確認されてないんじゃないの?」

セリス 「いいえ、地の洞窟にあるわ…」
セリス 「地の守護者、タイタン様が守っておられるのよ」

ウィル 「…ふうん」

セリス 「何か言いたそうね…」

ウィル 「いいたいことなんて、いくらでもあるわよ…」

王妃 「…フィリア、弓を置きなさい…あなたはまだ、それを使う時では…うっ、ゲホッ、ゲホッ!!」

王妃様は、突然咳き込みだし、その場で膝を突く。

セリス 「王妃様!」

フィリア 「母さん!!」

フィリアは弓を放り出し、王妃の下に駆け寄る。

フィリア 「!? …血。どうして…母さん?」

王妃 「…私はもう長くはないのよ」

セリス 「!?」

ウィル 「…パオリ菌」

王妃 「何故、それを…?」

ウィル 「聞いたことあるもの…結構前だけど、この大陸で発生した細菌」
ウィル 「天然物で、伝染能力はないから、生まれつき持っていたりしない限りは発病しないはずだけど…」

セリス 「……」

ウィル 「セリス姉…気づかなかったなんていわないよね? 医師免許持ってるんでしょ?」

セリス 「……」

セリス姉がうろたえてる…。
初めて見る弱さだ。

フィリア 「それで、どうなるんだよ母さんは!?」

フィリアは、目に涙を浮かべてあたしにそう強く聞いてくる。

ウィル 「…さっき言ってたでしょ? もう長くないって…」

フィリア 「あ…」

フィリアは掴んでいたあたしの服から手を離す。

王妃 「…もって後、数日の命」

フィリア 「そんなに早く…」

王妃 「隠すつもりはなかったのだけれど…」

フィリア 「どうして!? 俺に言えばいいじゃないか!!」

ウィル 「フィリア! 王妃様の気持ちわかってあげなよ…」

フィリア 「え…?」

ウィル 「王妃様は、フィリアのことが好きだから…だから言わなかったんだよ」
ウィル 「心配をかけさせたくない…。それに、フィリアは頭がよくないからわからない」

フィリア 「う…」

ウィル 「さすがに、後数日という所まで隠すとは思わなかったけどね」

王妃 「ごめんなさい…もっと早く言うべきだったけど、あなたは私のことをあまり好きでないと思ったから」

フィリア 「どうして…そんなこと」

王妃 「いつも、城を抜け出すじゃない…勉強が嫌だって」

フィリア 「…母さんのことは大好きだよ」

王妃 「ありがとう…」

ウィル 「フィリア…ごめんね、やっぱ…あたしが悪いよね」

フィリア 「そんなことはない! 俺も…同罪だから」

ルナ 「でも、けしかけたのは私たちだし…」

セリス 「……」

王妃 「ふふふ…」

その光景を見て、王妃は静かに笑った。

王妃 「…とっても仲がいいのね。フィリアに…こんな素敵なお友達がいたなんて」

フィリア 「母さん…」

王妃 「今なら、確信したわ…あなたは、人を守れる心を持っている…。アルテミスは、あなたに託しましょう」

フィリア 「…母さん」

俺はは放り出したアルテミスを、抱きかかえる。

アルテミス (……迷いはない)

フィリア (…今度こそ、力を貸してくれ)

アルテミスから光が溢れ、その光がフィリアの体に吸い込まれていく。

ウィル 「……」

フィリア 「……」

ルナ 「……」

セリス 「……」

フィリア 「…行こう、ウィル」

ウィル 「いいの? 後戻りは出来ないよ?」

フィリア 「…当たり前だろ? 戦争なんだから」

ウィル 「ん…そうだね」

ルナ 「…でも、どうするの?」

ウィル 「そうだね…特に目的もないし、マナでも取りにいこうか?」

セリス 「え…?」

ウィル 「セリス姉、それが目的なんでしょ?」

セリス 「そうだけど…なぜ、あなたが?」

ウィル 「別に…セリス姉、これであたしのこと認めると思うし」

セリス 「……」

ルナ 「……」

セリス 「そうね、私よりもあなたの方が人の心を理解しているものね…」

ウィル 「……」

ルナ 「ウィルは照れてるんですよ」

セリス 「えっ?」

ルナ 「ウィルは、セリス姉さんが普通の人間だっていうことがわかって、認めたんですよ」

ウィル 「だって…医者のくせに歴史的有名な細菌病のことも知らないなんて」

セリス 「…そうね、まだまだだわ」

セリス姉はわずかに笑って。

セリス 「改めて、お願いするわ…。私に力を貸して」

ウィル 「…しょうがないなぁ、その代わりもういちいち私生活に口出しするの止めてよ?」

セリス 「…わかったわ」

ウィル 「なら、問題ないわ」

ルナ 「もう、素直じゃないんだから」

フィリア 「決まったか? なら行こうぜ!」


あたたちは新たな結束を固め、聖杖マナの眠る地の洞窟に向かうことにした。

王妃 「…邪神戦争がもうすぐ始まるのですね」

専属医 「ですが、きっと彼女たちならば…」

王妃 「ええ…この世界を、良き方向に導いてくれます…」
王妃 「例え、その未来を見ることが出来なくても…それを感じることができたのは死ぬ前で本当によかった」

専属医 「王妃様…」

王妃 「…きっと、フィリアの顔を二度と見ることはできないでしょう」

専属医 「…はい」

フィリア 「…私が死んだら、その時点でフィリアを王妃としなさい」

専属医 「はっ」

フィリア (フィリア…。あなたはあなたの進みたい道を歩きなさい)



…To be continued



次回予告

セリス:私たちは聖杖マナを得るため地の洞窟にたどり着いた。
地の守護者タイタン様の下、私はひとつの試練を受ける。
そして、マナが手に入ると思った時…。


次回 Eternal Fantasia
第32話 「ドワーフの怒り」


セリス 「冗談じゃないわよっ!」



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