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第32話 「ドワーフの怒り」

ウィル 「ふぅ…もう結構歩いたよね?」

あれから3日ほど歩いているけど、いまだに森を抜けられなかった。

フィリア 「そろそろエルフの森を抜ける頃だな」

セリス 「地の洞窟までどれくらいかかるのです?」

フィリア 「そうだな…後1日ってとこか」

ウィル 「後1日もあるの〜?」

ルナ 「ぼやかないの…我慢しようよ」

あたしが文句を言えば、ルナが制する。
なんか、進歩ないなぁ…あたしって。
最近ふとそう思う。

フィリア 「はははっ、ウィルらしいよ…」

ウィル 「あたしらしいって…まだ、会って3日なのに」

フィリア 「お前みたいな女は1日見れば十分だよ」

フィリアは大笑いしながら、そう言い放った。
見ると、セリス姉とルナも笑っている。

ウィル 「…ふんだ」

セリス 「それよりも、森の出口が見えたわよ」

セリス姉は前を指差して出口を示した。

ウィル 「やっとかぁ…なにか、久しぶりにお日様見る感じ」

フィリア 「まぁ、ずっと森の中だったからな」

ウィル 「あんたって、よくあんな森の中で生活できるわね…」

フィリア 「う〜ん、生まれた時からだからな…慣れちまった」

ルナ 「ウィルは光の精霊だからね…」

ウィル 「あんたもじゃない…」

ルナ 「私は、どっちかと言うと夜の方が好きだから」

フィリア 「名前もそうだしな…」

ウィル 「そうね…ルナは光の精霊の影族だからね」

フィリア 「そんなのもあるのか…」

ウィル 「あるわよ…他にも、地の精霊なら影族は主に、木や森を司るわ」

ルナ 「ドリアードがそうだもんね」

ルナが途中で解説を入れる。

ウィル 「アルテミス様も別名、月の女神なのよ」

セリス 「あなた、ホントによく知ってるわね…」

ウィル 「これぐらいは精霊族なら常識でしょ…?」

フィリア 「へぇ…細かいんだな」

ウィル 「まぁ、他の種族よりはね」

セリス 「ところで、次の町は…?」

フィリア 「ああ、このまま街道沿いに進めば、大きい街に着くよ」

ウィル 「へぇ、どんなとこ?」

フィリア 「…う〜ん、よくはわからないんだけど、ちょっと危ないとこ」

ウィル 「…はぁ?」


………。
……。
…。


ウィル 「何やってんの?」

私は、奇妙な行動を取っているフィリアに向けてそう言い放つ。

フィリア 「いいか、この街では俺のことを名前で呼ぶなよ!? それから…エルフという言葉も使うな!」

ウィル 「な、何でよ?」

フィリア 「…説明は宿でするよ、頼むぜ」

そう言って、フィリアは大きなフードを頭から覆い、目だけを出していた。

ウィル 「???」

あたしたちはそのまま街の門に向かった。


門番 「止まれ!」

やや小柄…。
というか、約1メートルぐらい。
これでも大人なのだろうか? というサイズの門番が、私たちを止める。

門番 「入国者か? 身分証明はあるのか?」

ウィル 「そんなのいるの?」

ルナ 「大きな街だからね…」

セリス 「これではダメかしら…?」

門番 「ん…? …ふむ、通りなさい」

セリス姉は何やら、小さなカードを見せると、門番は通してくれた。

ウィル 「何見せたの?」

セリス 「医師免許」

ウィル 「ああ…成る程」

私たちは、そのまま宿に向かうことにした。

セリス 「4名で、部屋はひとつでお願いします」

受付 「かしこまりました…それでは、30番のお部屋をどうぞ」

鍵を受付から貰い、部屋へ…。


ウィル 「大きいね…大丈夫なの?」

セリス 「何が…?」

ウィル 「何がって…お金とか」

セリス 「その辺は大丈夫よ、ちゃんと計算してるから」

ウィル 「……」

ルナ 「気持ちはわかるけどね…」

前まで自給自足だったゆえに、この状況が酷くリッチに思えた。

フィリア 「ふぅ…これで一安心か」

ウィル 「そうそう…どういうことよ?」

フードを取って、髪を整えるフィリアに向かってあたしはそう言った。

フィリア 「…ドワーフだからだよ」

ウィル 「ドワーフぅ? 誰が…って!?」

フィリア 「わかったか?」

ルナ 「どういうこと?」

ウィル 「ほらあれよ! 忘れたの?」

ルナ 「あれって言われても…あっ!?」

セリス 「ちょ、ちょっとどういうこと?」

ウィル 「ほらっ、エルフとドワーフの喧嘩! 聞いたことないの?」

セリス 「喧嘩って…」

ウィル 「エルフとドワーフは大分昔からイザコザがあって…仲悪いのよ」

ルナ 「それで、エルフがこの街に入ろうものなら…」

セリス 「捕まると…」

フィリア 「死刑」

セリス 「………」

ウィル 「付け加えるなら、その仲間も…」

セリス 「冗談じゃないわよっ!」

セリス姉は大声を出して立ち上がる。

ウィル 「し・ず・か・に〜!」

あたしは口に指を当ててそう言った。

セリス 「(ちょ、ちょっと! これからどうするのよ?)」

フィリア 「今晩きりはここで泊まって、明日の朝、即出国」

ウィル 「ばれないわよね?」

フィリア 「さぁ…?」

ルナ 「不安…」

セリス 「…早いうちに寝ましょ」

ウィル 「そうだね…」

まだ、若干日が高いが、あたしたちは眠りに着くことにした。
こんな状態ではおちおち食事もとっていられない。


………。


ウィル 「うん…?」

気が付くと、夜。
そりゃあれだけ早く寝ればねぇ…。

ルナ 「何? もう朝?」

ウィル 「まだ、夜よ…」

セリス 「何よ…まだこんな時間?」

フィリア 「…中途半端だな」

時計を見ると、まだ深夜の3時。
しかし、眠気は恐ろしく、ない。

セリス 「こんな時間だとかえって怪しまれるわね…」

ウィル 「でも、ここにいるより安全だと思うけど? いざとなった逃げれば済むし」

フィリア 「俺もウィルに同感…」

ルナ 「私はどっちでも…」

セリス 「わかったわ…じゃあ荷物をまとめて出ましょう」


………。


こうして、どうにか無事に街を出ることができた。

ウィル 「あ〜あ、なんか休んだ気がしないなぁ」

フィリア 「同感だな…気が休まらないよ」

セリス 「とにかく進みましょう…今日の昼までには到着するでしょう」

一同 「お〜!」


………。


それから、特に何が起こるでもなく普通に地の洞窟までたどり着くことができた。

セリス 「…この先にタイタン様が」

ウィル 「早くいこっ、とにかく休めそう…」

ルナ 「そうかなぁ…?」

フィリア 「その時はその時だ」

ウィル 「そうそう!」

あたしたちは急ぎ足に、洞窟へと入っていった。
中は意外と広く、4人が横一列になって入ることができた。

セリス 「…扉ね」

ウィル 「開けるよ…」

ギィィィィッ…!

重く、軋みながら扉が開いたその先には。

ウィル 「空?」

フィリア 「みたいだな…」

セリス 「随分広いわね…」

正面に扉がもうひとつ見えたが、ここから200メートルはありそうだった。

そして、その正面の扉が中より開かれる。

男 「誰だ…?」

見ると、上半身裸の2メートルはあろう巨大な短髪の男が現れた。

セリス 「…タイタン様ですね?」

男 「む…我に何か用か?」

しかし、見るからに筋肉の化物といった感じ。
マッチョ人間って奴ね…。

セリス 「お願いがあって参りました」

タイタン 「ほう…して願いとは?」

セリス 「…聖杖マナを、継承させていただきたいと存じます」

タイタン 「何! マナを…あれはここ300年余り誰も継承することのかなわなかった武具だぞ?」

タイタン様は細い目をさらに細め、セリス姉を睨む。

セリス 「邪神が復活する日が近いのです…悠長なことは言っていられません」

タイタン 「むぅ…確かに」

タイタン様は両手を組み、目を瞑って考える。
その時間は3秒ほど。
そして…。

タイタン 「よかろう…しかし、試練を越えられるか?」

セリス 「やって見せますっ」

セリス姉は自信ありげに、そう答えた。

タイタン 「では、そなただけこちらに来られよ…他の者は、悪いがここで待っていてもらおう」

ウィル 「…ふぃ〜、とりあえず休める〜」

私はその場で大の字になって寝転んだ。

ルナ 「…どうなるのかな?」

フィリア 「さぁな…セリスさん次第だろ?」


セリス 「これが…マナ?」

私は目の前に飾られているマナを手に取る。

タイタン 「そうだ、試練を受けるがいい」

セリス 「試練とは…うっ!?」

突然マナから光がほとばしり、私を包み込んだ。


………。


女 「よく来ました…」

セリス 「はっ!?」

気がつくと私は、広い草原に立たされていた。
これが試練なのだろうか?」

女 「…あなたが、次の継承者になろうとするのですね?」

セリス 「は、はい…あなたは?」

見ると、目の前にはウェーブがかった茶色の長髪で白いワンピースに見を纏った、美しい女性がいた。

女 「私はマナ…今はあなたの心の中でこうやって話をしています」

セリス 「…心の中?」

マナ 「さぁ、試練を始めましょう…真の継承者になるべきものならば、簡単なはずです」

マナ様はそう言って、後ろを指差す。

セリス 「!?」

子供の上から大きな岩が!!
私はその場から急いで子供の所まで向かった。

セリス 「間に合って!」

ズザアァァッ!!

私は地を滑りながらも、子供を抱きかかえて、落石から助けた。

子供 「…第1の試練はクリア」

セリス 「えっ?」

見ると、腕の中の子供はいなかった。

セリス 「……?」

気が付くと、情景も変わっている。
何だか薄暗い…。

セリス 「…今度は何が?」

ザシュッ!

セリス 「あうっ!」

突然、背中に鋭い痛み。
まるで、刃物で切りつけられたような…。

セリス 「!?」

私は後ろを見る。
すると、子供らしき黒ずくめの人間が剣で私を狙っていた。

セリス 「何を…?」

子供 「……」

ザシュッ!

セリス 「ああっ!!」

今度は腹を切られる。
このままでは…。

子供 「……」

セリス 「!!」

私は子供を抱きとめた。

セリス 「…戦えない、子供相手には」
セリス 「だから、止めて! こんなことをして何になるの!?」

子供 「……」

セリス 「それとも、操られているの…? だったら」

子供は消えた。
まるで、何事もなかったかのように…。

セリス 「……」

そして、また情景が変わる。

セリス 「まだ…?」

ウィル 「セリス姉…何やってんの?」

セリス 「ウィル!? 何故あなたが?」

ウィル 「何言ってるのよ…マナを取りに来たんでしょ?」

セリス 「え? ええ…」

ウィル 「ほら、これよ…」

ウィルはその手に握られた杖を私に差し出す。

セリス 「…これが」

私がそれを受け取ろうとすると。

ズバアァッ!

セリス 「きゃあっ!!」

私の腕は切り裂かれた。

セリス 「ウィル…何を?」

ウィル 「気に入らないのよ…だから殺すの!!」

セリス 「何を言っているの!? 止めなさい!!」

ウィル 「あたしに命令しないで! そう言うところが気に入らないって言うのよ!!」

ズバァ!

セリス 「うっ…何故?」

ウィル 「だらしのない…もう終わり? 歯ごたえがないなぁ」

セリス 「…ウィル」

ウィル 「ふふふ…こんなのが継承者だなんて」

バキイィ!

ウィルはマナを粉々に粉砕した。
パラパラと音を立てて、杖は崩れ去る。

ウィル 「ほら見てよ! こんなにもろい…ふふふ、アハハハハッ!!」

ウィルは顔を上げ、高笑いする。

セリス 「…がぅ」

ウィル 「ん?」

セリス 「あなたは…ウィルじゃないわ!!」

ウィル 「とうとう、頭が壊れたの? その目は節穴?」

セリス 「その汚れた目…ウィルはもっと光に満ちた目をしていたわ!!」

ウィル 「とんだ、夢想家ね…」

セリス 「黙りなさい! ウィルを侮辱するような真似を!!」

ウィル 「無駄よ!!」

バキィ!

セリス 「あうっ!」

私は向かっていったが、あっさりとはじかれる。

セリス 「…待っててね、今…偽物を倒すから」

ウィル 「あたしが本物よ…」

セリス 「違う! あなたは断じてウィルではないわっー!!」

私は全身の魔力を振り絞って、その力を偽者に叩きつけた。

ウィル 「く!? ああっ!? ああああっ!!!」

セリス 「やった…?」



マナ 「……」

セリス 「マナ様…?」

マナ 「…よく打ち勝ちました」

セリス 「じゃあ、あれも…」

マナ 「あなたは…本当に家族を大事に思っているのですね」

セリス 「そんな…」

マナ 「あなたのその優しさ…必ず世界に役立つでしょう」

セリス 「マナ様…」

そして、マナ様から光が放たれ、私の視界には何も映らなくなった。

セリス 「!?」

………。


セリス 「!?」

タイタン 「…!?」

セリス 「…元に、戻った」

タイタン 「…見事だ」

セリス 「私がマナを…?」

タイタン 「そうだ、持っていくがいい」

セリス 「はいっ! ありがとうございます!!」

私は深々と頭を下げ、扉を開けた。

セリス 「みんな! やったわよ!!」
セリス 「!?」

男 「ククク…見つけた」

何と、目の前には3メートルはあろう岩に包まれた大男が立っていた。

セリス 「な…何?」

男 「…カカカカカッ! もろいもろいぞ…!!」
男 「ギャハハハハハッ!! もっと、遊ぼうぜ!!」

セリス 「ウィル!!」

見ると、奴の足元にはウィルが血みどろになって転がっていた。
角度から表情は見えない。
ルナと、フィリアはそこにはいなかった。

男 「ククク…お前がマナを? なら、死んでもらうぜぇぇぇ!?」

男はその巨体を宙に舞わせ、上から踏み潰そうとする。

セリス 「!?」

私はマナをかざし、守りをイメージする。

ピキィィンッ!

男 「ぐわっ!!」

ズズズウウウンッ

男は吹っ飛ばされて、背中から落下した。

男 「ググ…やるじゃねぇか。それがマナの力か?」

セリス 「あなたは何者なの!?」

男 「俺か…? 俺は邪神軍んっ!! 新十騎士、地のイオタ様だぁぁぁ!!」

男は大げさな動きと共にそう自己紹介した。

セリス 「邪神軍!?」

イオタ 「クックック…マナだろうがなんだろうが、地の属性では俺には勝てんんんっ!!」

イオタは拳を私に向かって突き出す。

セリス 「!!」

私は再びイメージする。

マナ (ダメよっ!!)

セリス 「!?」

ドガァッ!!

セリス 「かはっ…!!」

ドシャアッ!

私はシールドごと吹っ飛ばされ、地を転がる。

セリス 「な…何故?」

タイタン 「エレメント・ガード…」

イオタ 「ヒャアッハッハッハ!! 物知りだなぁ…おっさん」

セリス 「…一体?」

マナ (エレメント・ガードとは、使用者の心の壁により、同じ属性の力を無効化する力なのです…)
マナ (ゆえに、あなたが地の属性を持って生まれた限り、どうにも勝ち目はないのです)

セリス 「そ、そんな…」

イオタ 「ひゃーっははっは!! わかったかい? んじゃ、死んじまいな!!」

イオタが再び突っ込んでくる。

セリス 「くっ!!」

ドガァッ!!

イオタ 「!?」

セリス 「ウィル!!」

何と、横から血だらけのウィルがイオタにタックルをして攻撃をそらした。

イオタ 「ぐぅ…まだ動けるのかぁ!?」

セリス 「攻撃がダメならば…」

私は癒しをイメージし、ウィルに向けて放つ。

カアアァッ!

ウィル 「!? 傷が…?」

見る見るうちにウィルの傷は塞がった。

ウィル 「よっし! これで全快!!」

イオタ 「まだまだ楽しめそうだなぁ!!」

ガアァンッ!

イオタ 「なんだぁ!?」

イオタが後ろを振り返ると、フィリアとルナが立っていた。

フィリア 「こいつ…アルテミスが通じないのか!?」

ルナ 「ウィル! セリス姉さん!!」

セリス 「ふたりとも、無事だったのね!!」

ウィル 「このおっ!! ライト・バースト!!」

ズドオンッ!!

イオタ 「ぐぅ! はあああっ…!」

ウィル 「直撃のはずなのに…なんて固いのよっ!!」

セリス 「ダメだわ…このままじゃ」

イオタ 「ヒャッハァ!!」

セリス 「!!」

イオタは一直線に私に向かって突きを放つ。
避けきれない!!

ウィル 「このおっ!!」

ルナ 「ウィルーーー!!」

ドスウゥッ!!

セリス 「!! ウィル!!」

ウィル 「う…」

なんと、ウィルが私の盾になり、体を貫かれていた。

フィリア 「ウィルーーー!!

ルナ 「いやあぁっ!!」

イオタ 「ち…邪魔しやがったか。無駄なことを…」

ドサッ!

ウィルは私の腕に倒れ、目を開けなかった。

セリス 「…嘘っ!!」

イオタ 「今度こそてめぇだ!!」

セリス 「!! マナよ! この者の行いに裁きを!!」

カアアアアァッ!!

イオタ 「な、なんだぁ!?」

マナから放たれた光はイオタを包み込んだ。

イオタ 「ククク…エレメント・ガードは無敵だ!!」

セリス 「…ウィル」

イオタ 「どこを見ている!!」

ズドオォォッ!!

イオタ 「が…? はっ…!」

ズウウウウゥゥゥンッ!

大きな地響きをたて、イオタは胸に大きな穴を開けられ、その場に倒れた。

イオタ 「な、ぜ…?」

イオタはよくわからないままその姿を灰に変えた。

ルナ 「フィリア…」

フィリア 「…今度は、通ったな」

打ったフィリア自身、よくわかっていなかったようだ。

フィリア 「どういうことだ?」

アルテミス (セリスの心が、イオタの心の壁を破ったのだ)

フィリア 「それで、エレメント・ガードとか言う奴を消しちまったわけか…」

セリス 「…ウィル!!」

ルナ 「ウィルーーー!!」

フィリア 「あっ…!」

ウィル 「うるさいなぁ…体に穴開いてんだから、静かにしてよ」

セリス 「!!」

私はすぐにマナの力でウィルを助ける。

セリス 「間に合って!!」

ウィルは再び光に包まれ、傷は長い時間をかけて癒された。


………。


セリス 「あっ…」

ルナ 「セリス姉さん!?」

タイタン 「力を使いすぎたのだ…マナの力は偉大だが、使用者の消耗も激しい」

ウィル 「……」

フィリア 「息はしてるぜ…寝てるけど」

ルナ 「もう! 無茶するんだから…」

こうして、私たちは1日、タイタン様の家で休ませてもらった。
その夜…。

ウィル 「……」

あたしは月を見ていた。
特に意味はないけど。

セリス 「風邪ひくわよ? 今は冬なんだから…」

後ろからセリス姉が現れる。
そして、背中に小さな毛布をかけてくれた。

ウィル 「ありがと…」

セリス 「…それはこっちの台詞よ」

ウィル 「何が…?」

あたしはとぼけておく。

セリス 「…ふふ、あなたらしいわ」

ウィル 「…もう寝るよ」

セリス 「そうしなさい…」

あたしたちはたいして言葉を交わすわけでもなく、それだけで寝ることにした。



タイタン 「もう行くのか…」

セリス 「はい…邪神は待ってはくれませんから」

タイタン 「うむ…時が来れば、我も力を貸そう」

セリス 「お世話になりました…」

私たちは、そうして戻ることにした。

フィリア 「…とりあえず一安心か」

ウィル 「そうだね…」

ルナ 「もう、帰るんですよね?」

セリス 「そうね…って?」

ウィル 「な、何!?」

見ると、洞窟を抜けるとドワーフの大群に囲まれていた。

フィリア 「げ…!?」

ドワーフ1 「やっぱり、エルフがいたぞ!!」

ドワーフ2 「よくもぬけぬけと…!!」

フィリア 「ちょ…!?」

突然現れた、ドワーフたち…。
その瞳は、怒りに満ちていた。

ウィル 「冗談でしょ…?」

ドワーフ3 「エルフは生かして返すな!!」

セリス 「止めなさい!! 私たちが何をしたというの!?」

ドワーフ4 「エルフの仲間は我らの敵だー!!」

ルナ 「うう…そんな」

ウィル 「このぉ…まとめて!!」

声 「待て…」

後ろから声。
ということは…?

セリス 「タイタン様」

ドワーフたち 「タイタン様…」

タイタン 「このような時に争って何になる?」

ドワーフ1 「だが!」

タイタン 「…なぜ、エルフだからというだけで争う?」

ドワーフ2 「エルフは、先祖様に何をしたかはタイタン様も知っているでありましょう!?」

タイタン 「過去の話だ…なぜ、それにとらわれる必要がある?」
タイタン 「この少女を見よ…このような少女が、そなたらのために…世界のために戦っているのだぞ?」

ドワーフ3 「世界のため…?」

タイタン 「…聞くがよい。邪神が目覚めようとしているのだ」

ドワーフたち 「邪神…!?」

ドワーフたちは口々にざわめき始めた。

タイタン 「そなたらは、何が出来る? この少女のように戦う勇気はあるか?」

ドワーフ 「………」

タイタン 「こんな若者達が戦場に駆り出される…それは、そなたたちのような考えを持ったものがまだ多いからなのだ」

ドワーフ 「………」

タイタン 「そなたらに罪があるわけではない…。全ては過去のことなのだ」
タイタン 「だが、そなたたちがエルフを排除しようというのならば、この私が、そなたらを邪神軍と同じと見るぞ?」

ドワーフ1 「何を言われます!! 我々とて、邪神を戦いましょうぞ!!」

ドワーフ 「おおーーー!!」

ドワーフ2 「…確かに、子供が戦場に出て、俺たち大人が逃げおおせるなんて我慢ならん!」

タイタン 「そうだ…今は全ての種族同士が手を取り合うときなのだ!」

ドワーフ 「おおーーー!!」

ドワーフ1 「すまなかったな…エルフだからって、皆悪い奴とはかぎらねぇもんな」

フィリア 「いいよ…俺も母さんも、ドワーフと仲良くしたいって思ってたから…」

ドワーフ2 「なんと! 王女様か!?」

フィリア 「え? あ、ああ…」

ドワーフ3 「これは、失礼なことを!!」

フィリア 「いいよ! 俺はまだ子供だし…」

ドワーフ1 「ようし! 王女様たちをわしらが送るぞ!!」

そう言って、ドワーフは車を持ってきた。

ドワーフ1 「さぁ、皆さん乗ってくれ!!」

ウィル 「わぉ! やったー!!」

セリス 「いいのですか?」

ドワーフ1 「もちろんじゃ! 遠慮などするな!!」

こうして、私たちはドワーフの車に乗り、再びステア王国に向かうことになった。


………。
……。
…。


フィリア 「もう着いたのか…サンキュー! じっちゃん!!」

ドワーフ 「はっはっは! 構わんよ! 王女様も元気でな!!」

フィリア 「ああ! ありがとーーー!!」

ドワーフはこうして、自分の街に帰っていった。



フィリア 「ただいま!」

兵士 「フィ…フィリア様」

フィリア 「どうしたんだ?」

兵士 「……」

フィリア 「!?」

フィリアは、すぐに何かを感じ、走り出す。

セリス 「……」

ウィル 「いかないほうがいいよね…」

ルナ 「うん…」


フィリア 「母さん!!」

女 「フィリア様…!」

フィリア 「メーリ…母さんは?」

メーリ 「…つい一時間ほど前に、亡くなられました」

フィリア 「!!」

俺は立ち尽くしていた。
涙が出そうになった。
でも、泣かなかった。
泣いたら…怒られる。

フィリア 「母さんの遺体は…?」

メーリ 「こちらです…」

俺はメーリに連れられ、霊安室に入った。

フィリア 「………」

メーリ 「…王妃様は、亡くなれる前に、フィリア様に王妃の座を譲られました」

フィリア 「……」

わかっていた。
こうなることはわかっていた。
だから、王妃になることも覚悟していた。
もう、わがままは言っていられない。
俺が…この国の代表だから。

フィリア 「よしっ! これより、王妃から命を授ける! 俺はこれより、邪神軍と戦うために、仲間と共に行く!」
フィリア 「お前たちは、何としてもこの国を守りきれ!!」

メーリ 「は、はいっ!!」

フィリア 「ドワーフたちも、協力してくれるはずだ…共に戦え」

メーリ 「はっ!!」



フィリア 「行こうぜ!!」

ウィル 「もういいの?」

フィリア 「ああ…迷いはない!!」

ルナ 「うん…」

セリス 「さぁ、メルビスの町に戻るわよ!!」

こうして、様々なことが起こった…。
しかし、時は刻まれる…。
邪神もまた…刻一刻とその力を目覚め始めさせていた。



…To be continued



次回予告

シェイド:魔の島とも言われるゼルネーヴ大陸。
そして、アリア様の故国であるヘルミネス王国にたどり着く。
そこには、私の力となる神具が眠っている…。


次回 Eternal Fantasia
第33話 「闇を払う闇」


シェイド 「もうひとりの邪神…?」



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