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第2章 完結


第36話 「邪神軍、動く」

ユミリア 「………」

アリア 「…心配なの?」

私が机に向かってひとりで考え込んでいると、アリアがそう言い出す。

ユミリア 「…そうね」

私はため息をひとつついてそう言った。

アリア 「子供たちが、戦争を勝ち抜かなければならない…」
アリア 「その現実を受け止めなければならないのね」

ユミリア 「ええ…」


シェイド (襲…。おまえの死は無駄にはしない、必ず私たちは勝つ)
シェイド (だから…安心して見ていろ)

私は宿の屋上から夜空に向かってそう心に思った。



ディオ 「…邪神か。どんな奴かしらねぇが、俺が叩きのめしてやるぜ!」

ナル 「ディオ、これだけは約束して…」

ディオ 「?」

ナル 「必ず、生き抜くこと…決して、死んじゃだめよ?」

ディオ 「…わかってる、俺だって死にたくはねぇよ」

私たちは、帰りの船の中、そんなことを約束した。



セリス 「戦争、ね…」

ウィル 「今更だけど、とんでもないことになってるんだよね〜あたしたち?」

ルナ 「そうよ…世界の運命がかかってるんだから」

ウィル 「かっこいいじゃん…これで勝てたら、あたしたち一躍有名人! 英雄って奴よ!?」

あたしは大げさにポーズとかをとって、イメージを膨らませる。

フィリア 「気楽でいいな…そんな簡単じゃねぇだろ?」

ウィル 「いいの! あたしはプラス思考だから!」

セリス 「そうね…負けたときのことを考えるよりはいいわ」

ウィル 「そうそう!」



ウンディーネ 「…これからは、もう軽い気持ちではいられへんねやな」

シャール 「っていうか、今まで軽い気持ちだったんですか?」

ウンディーネ 「そういうわけやあらへんけど…もう笑って、皆と会うこともできひんのかな?って…」

烈 「大丈夫ですよ! 戦争に勝ったら、また皆で騒げばいいじゃないですか! 祝勝会ですよ!!」

デルタ 「祝勝会?」

デルタが、何のことかわからへんように聞いてくる。
実際わからへんねやろけど…。

シャール 「つまりは、皆で楽しく騒ぐ集会だ」

デルタ 「楽しく…? よくわからないけど、私も参加できるの?」

ウンディーネ 「もちろんや」

デルタ 「そう」

デルタは少し嬉しそうに顔を緩ませた。



レイナ 「…悠、大丈夫よね」

ノーム 「きっと大丈夫だよ…悠兄ちゃんがやられるとこなんて想像できねぇもん」

ドリアード 「でも、その分強い敵と戦っているかもしれないし…」

ノーム 「大丈夫だって! こっちだって四天王を倒したんだぜ?」

レイナ 「倒してはいないわ…ゼイラムが逃げただけよ」

ノーム 「同じだって! レイナ姉ちゃんの力にびびって逃げたんだから」

ドリアード 「…根拠はないですけど、大丈夫だと思いますよ?」

レイナ 「そうよね…私が信じなきゃ」

私は悠の無事を祈り、船の上から悠のいるであろう方を見た。



バル 「…もうすぐ着くな」

シャイン 「ああ」

シオン 「ユミリア王女に会うのは初めてなんですが…どんな方なのです?」

ネイ 「えっと…ぶっきらぼうで、結構いいかげんで…でも優しくて強い人かな?」

ネイは本当にそのままのことを伝える。

シオン 「…そうなんですか?」

シオン王子は少し、信じられないようにそう聞き返す。
どうやら、おかしな理想があったようだな…。

悠 「大方当たりですよ」



………。
……。
…。



そして、次の朝が来た。



ユミリア 「朝ね…」

アリア 「ユミリア、起きたの?」

アリアが私の部屋に入ってくる。
どうやら、起こしに来てくれたらしい。

ユミリア 「着替えてすぐ行くわ…」

アリア 「ええ…ゆっくりいらっしゃい」



悠 「どうやら、一番乗りかな?」

バル 「一番近いところなんだから当然だ」

シャイン 「うむ」

メンバーを確認すると、シャインさんは病院のドアを叩く。

アリア 「…来たわね、広間で待機しておいて」

シャイン 「わかりました」

シャインさんの指示の元、俺たちは広間に向かった。


悠 「ユミリアさんたちの方が早かったんだな…」

バル 「大体、今日で全員集まるとは限らんだろう?」

ネイ 「何で?」

シオン 「皆、それぞれ場所が違うのですから、今日で全員が集まれる保証はないんですよ、アクシデントがあればなおさらです」

ネイ 「そっか…敵に襲われてたりしたら、来れないもんね」

悠 「そういうこと…」

俺たちはその場でしばらく時間を潰した。


………。


レイナ 「悠!」

それから3時間ほど経って、突然レイナの声が聞こえた。

悠 「レイナ!」

俺は姿を確認すると、レイナに駆け寄る。

悠 「よかった…無事だったんだな」

レイナ 「悠こそ…」

ノーム 「俺たちも忘れないでくれよ…?」

悠 「わかってるよ…ノームにドリアード、それとシーナにクルス…?」

俺は言いながら、シーナとクルスの姿がないことに気づく。

バル 「シーナとクルスはどうしたんだ? ヴェルダンドに残ったのか?」

レイナ 「…シーナは、王女として国に残ったわ」

悠 「じゃあ、クルスは?」

ノーム 「……」

ドリアード 「……」

ネイ 「どうしたの?」

シオン 「…まさか」

レイナ 「クルスは、私とシーナを庇って、死んだの…」

悠 「……!?」

バル 「……」

シャイン 「クルスが…」

ネイ 「そんな…」

突然場が暗くなる。
気が重い…。

悠 「やめようぜ! 暗い顔するのは!」

俺は場の雰囲気に耐えかねて、そう言い放つ。

レイナ 「悠…」

悠 「これは戦争なんだ! いつか、誰かが死ぬことは予想できたはずだろ!?」

一同 「……」

悠 「だったら、俺たちはできることをするだけだ! いちいちくよくよしてたら、死んだ奴らはもっと苦しいだろうが!」

バル 「ふっ…たまには、いいことを言うな」

悠 「たまに、は余計だ」

ネイ 「そうだよねっ、泣いたって…死んだ人は生き返らないもの」

レイナ 「それより…そっちも未知さんと降さんは?」

俺は、姉さんたちとのいきさつを話し、姉さんと降さんが光鈴に残ったことを話した。


レイナ 「未知さんが…悠のお姉さんだったの?」

悠 「ああ…俺も最初は驚いたよ」

ノーム 「じゃあ、悠兄ちゃんは光鈴の偉い人なんじゃん!」

悠 「確かにそうだけど、俺は自覚ねえよ」

今まで普通の一般市民だと思ってたのに…。
大体、男の奇稲田は存在するはずがないらしいし…。

バル 「自分で言うことか…?」

悠 「いいんだよ、俺は俺だし…」

レイナ 「悠らしいわ…私もそうかな」

シオン 「お初お目にかかります、レイナ姫…」

そこで、シオン王子が突然そう挨拶する。

レイナ 「えっと…?」

レイナは突然でうろたえる。

シオン 「私は、ディラール王国の王子、シオンと申します」

レイナ 「あっ、私は…ヴェルダンド王国の第一王女、レイナです…」

なんかガチガチに緊張してる…。
そら無理もないわな…。
ちなみに、シオン王子は誰とでも初対面はあんな感じで超丁寧に挨拶する。

シオン 「噂は悠君から、重々聞いております…」

レイナ 「えっ? 何かおかしな噂でも?」

シオン 「いえ、悠君によると、とてもお美しく、そして優しく思いやりのある方だと…」

ちなみに、俺が言ったのは、可愛くて誰にでも優しい。だ。
異常脚色されてるな…。

レイナ 「ええ!? 悠がそんなことを…?」

シオン 「ええ…そして、噂通りのようで、感心しております…」

レイナが戸惑う様に俺を見る。

悠 (落ち着け落ち着け)

俺はジェスチャーでレイナにそう伝える。

レイナ (だってだって!)

レイナもジェスチャーで返してくる。

シオン 「ははは…面白い方ですね」

レイナ 「はっ!」

レイナは恥ずかしそうに、俯いてしまう。
そろそろ止めるか。

悠 「王子…レイナはあまり王女として見られてないから戸惑ってるんだよ」

レイナ 「そのフォローもどうかと思う…」

レイナが不満そうな視線を俺に送る。

シオン 「仲がいいのですね…」

バル 「この馬鹿ップルは…」

悠 「ちょっと待て! 誤解されるだろうが!!」

レイナ 「そうよ!!」

ノーム 「何を今更…?」

ドリアード 「?」

何だか、皆の反応がおかしい…。

悠 「おい…」

バル 「お前たちの気持ちなど、すでに皆知っているだろうが…」

悠 「………」
レイナ 「………」

瞬間、俺たちは何秒か沈黙する。

悠 「……は?」

つまり、俺とレイナが恋人同士だと?
いや、確かに俺はレイナが好きだし、両想いならばハッピー万歳なんだが…。


レイナ 「……?」

何…?
悠と私って…皆から見たらそういう関係なの?
確かに私は悠が好きだけど…。

一同 「………」

しばしの沈黙、だがすぐにその沈黙は打ち破られる。

ナル 「やっと帰ってこれたわね…」

ディオ 「ここがレギルかぁ…」

話し声と共に、ナルさんと見慣れない少年がこちらにやってきた。

悠 「ナルさん!」

ナル 「あら、悠君。それにレイナも…」

レイナ 「無事で何よりです…」

ナル 「無事、ね…」

ディオ 「こいつらが、例の…?」

悠 「こいつら、って…何だこのガキは?」

何か、前にもこんなこと誰かに言ったような…。
すると、案の定少年は突っかかってくる。

ディオ 「ガキで悪いかよ! これでも喧嘩なら大人相手でも負け知らずだぜ!?」

悠 「お〜お〜、威勢がいいな…」

ディオ 「てめぇ…なめんな!!」

少年は荷物を地面に落とし、俺に向かってくる。

悠 「お、やるか?」

俺も受けて立つことにする。
たまには運動しないとな…。
前回のオメガとの戦いの後遺症でしばらく動くこともできなかったからな。
リハビリにちょうどいいだろ。

ナル 「もう、しょうがないわね…」

レイナ 「悠!」

ディオ 「うらあぁっ!!」

ぱしっ!

俺は少年の右拳を左手で受け止める。
なかなか重いパンチを打つじゃねぇか…。
結構痛かったぞ。

悠 「うむ、見込みはあるな…」

ディオ 「んだ、と!?」

瞬間、少年は宙を舞う。
俺が少年の手を引いて、投げ飛ばしたのだ。

ドサッ!

ディオ 「だぁ!」

ナル 「あらあら…さすがねぇ」

レイナ 「もう…」

ディオ 「くっそ…このっ!」

ナル 「そこまでにしておいた方がいいわよ…怪我じゃすまなくなるから」

ナルさんがそう言うと、少年は拳を引く。

ディオ 「俺が負けるってのか?」

ナル 「無理よ、怪我しないうちに諦めなさい」

悠 「さすがナルさん、見る目ありますね」

ナル 「悠君もこんなことで体力使わないことね…後に響くわよ」

悠 「リハビリにはちょうどいいですよ」

俺は笑ってそう答える。

レイナ 「リハビリって…何かあったの?」

悠 「ああ、つい前まで戦闘不能だったんだよ俺」

ナル 「そんなに強い敵と戦ったの?」

バル 「強い、という以前に戦う術がない…」

ネイ 「…うん」

ナル 「どういうことなの?」

俺は新十騎士との戦いを説明する。

ナル 「そう、そっちは4人も来たのね…」

悠 「ナルさんの方は?」

ナル 「……ひとり来たわ」

ナルさんは突然厳しい目をしてそう言った。

レイナ 「……」

悠 「…ナルさん? さっきから気になっていたんですけど…」

俺が質問をする途中、ナルさんが遮る。

ナル 「死んだわ…ふたりとも」

悠 「え…?」

レイナ 「……」

突如その言葉が放たれた。
そして、俺たちは現実を認識する。

ナル 「兄さんと、ジンは…私のために死んだの」

ナルさんは何かをこらえるように、そう言った。

悠 「……」

俺は何も言えなかった。

レイナ 「…クルスだけじゃなく、サラマンダーさんやジンさんまで」

ナル 「…クルスも?」

レイナはゆっくり、そう頷いた。

ディオ 「…何だよ! 何暗くなってんだよ!?」

ナル 「ディオ…」

ディオ 「俺は絶対に仇を討つ! 泣いたって死んだやつは喜ばねぇ!!」

バル 「どこかの誰かさんと、同じようなことを言ってるな」

悠 「るせぇ…」

聞いてるとなかなか恥ずかしい台詞だ。

ナル 「そうね…あなたの言う通りだわ」

悠 「ところで…お前誰なの?」

俺は見慣れない少年を指差して、ずっと思っていた疑問を口にする。

ネイ 「そういえば、知らない男の子だよね…」

ディオ 「俺はディオ! ディオ・バルザイルだ!!」

ディオ、と名乗った少年は自分を親指で指差してそう名乗った。

シオン 「ディオ・バルザイル…? まさか、バルザイル王国の王子!?」

ここでシオン王子が説明に入る。


………。
……。
…。


一通りの説明会が終わると、やがて他のメンバーたちも続々と集まり、本当に今日だけで、全員が帰ってきた。
だが、その分、辛い結果も多かった…。
特に、ルナさんの反応には皆が驚いた。


ルナ 「嘘でしょ…どうして!?」

ウィル 「ちょ、ルナ落ち着いて!」

ルナ 「離してウィル!」

ウィル 「ナル姉さんに突っかかってどうするのよ!?」

フィリア 「落ち着けルナ!!」

ウィルさんとフィリア姫に抑えられて、ルナさんはようやく落ち着く。

ルナ 「嘘…嘘よ……」

ルナさんは膝を地面につき、四つんばいの状態になって地面を叩く。

ウィル 「ルナ…」

セリス 「ウィル、知ってたの?」

ウィル 「知ってたら…慰めの言葉も出てくるわよ」

ナル 「ルナ…ごめんなさい」

ルナ 「……」

ルナさんは首を横に振って、否定する。

ルナ 「私が、いけないんです…ナル姉さんが悪いわけじゃないのに」
ルナ 「…私が、ジンに気持ちを伝えていればよかったんです」
ルナ 「ふられてもいいから…そうすれば、今よりもっと楽だっただろうから…」

最後の方は涙に混じって聞き取りにくかった。
そんなに好きだったんだな…。

悠 (俺も…レイナが一度死んだ時はあんな感じだったのかな?)

俺は昔のことを思い出しつつ、今のルナさんを見る。

ウンディーネ 「やっぱ…戦争なんやな」

シェイド 「ああ…」

ウンディーネ 「シェイドは知っとったん? ルナのこと」

シェイド 「ああ、知っていた…ジンも、ルナのことが好きなのも知っていた」

ウンディーネ 「それ…ホンマ?」

シェイド 「ああ…ジンに口止めされていたがな」

ウンディーネ 「そうなんか…なら、教えたらな」

シェイド 「頼む…」

ウンディーネ 「アホッ、あんたが言いなや…。その方がルナも気が楽やで」

私はしばらく考えた後。

シェイド 「そうだな、すまない…」

そう答えてルナに近づいた。


シェイド 「ルナ…」

ルナ 「シェイド姉さん…うぅ」

私はルナを優しく抱きとめて、ジンの気持ちを伝えた。

ルナ 「…ジンの馬鹿」
ルナ 「どうして、言ってくれないのよ…私、待ってたのに」
ルナ 「遅いよ…もう」

悠 「……」

ルナさんはシェイドさんの胸で泣きつづけた。
そして、今日は一日、報告会と休憩で終わることになった。
皆はそれぞれ宿に向かい、俺は病院に泊まる。

ユミリア 「……」

アリア 「思ったよりも、代償は大きかったわね」

セリス 「はい…」

悠 「クルス、サラマンダーさん、ジンさん、そして襲さん」
悠 「よく考えたら、男ばっかり死んでますね」

ユミリア 「男は…いつだってそうよ」

ユミリアさんは、机に突っ伏しながら静かにそう言った。

ユミリア 「男は自分の好きな人のためなら、すぐに命を投げ捨てる」
ユミリア 「残される者のことも考えずに…」

アリア 「ユミリア…」

セリス 「先生…?」

悠 「何か、経験あるんですか?」

俺は何となくそう感じ取り、聞いてみた。

ユミリア 「…私はね、ユシルが好きだったのよ」

悠 「え…?」

ユミリア 「でも…ユシルはセイラしか見えてなかった」
ユミリア 「私が、もっと強ければ、ユシルをこっちに向けられたかもしれない」
ユミリア 「でも、私は弱いから…ユシルの死を、見届けることしかできなかった」



………。



ユシル 「……」

ユミリア 「ユシル!!」

ユシル 「…ユミリア」

ユミリア 「止めて! どうしてなの!?」

ユシル 「…約束なんだ、セイラとの」

ユシルはそう言って、時空魔法を発動させ始める。

ユミリア 「ユシル止めてぇ!!」

アリア 「駄目よユミリア! これは仕方のないことよ!!」

ゾルフ 「ユミリア! 未来のためなのだ!!」

アリアとゾルフが私を力づくで止める。
私はそれでも、ユシルに向かって歩を進めようとする。

キュア 「ユミリア…」

その時、キュアが私の前に立つ。

ユミリア 「どいて!!」

キュア 「諦めろ…もう遅い」

ユミリア 「!?」

見ると、ユシルの体から白き光が放たれ、空間が歪む。
吸い込まれそうな感覚が一瞬あった。
だが、すぐに光は消え、空間は元に戻る。
ユシルの体が消滅するのと共に。

ユミリア 「……くっ、うわああああぁぁぁぁぁっっ!!!」

私は叫んだ。
誰に届くでもなく。
私は、泣いた…。



………。



ユミリア 「その日からよ…私は自分が嫌になった」
ユミリア 「あのまま私も死ねばいいと思った…」
ユミリア 「でも、自殺しようとするたびにアリアが止めるの…」
ユミリア 「私には、死ぬことすら許されなかった…」

アリア 「……」

セリス 「…初めて聞きました」

悠 「…そうだったんですか」

俺はそれだけしか言えなかった。
ただ、今のユミリアさんは弱い、と思った。
いや、むしろ今のユミリアさんが本当のユミリアさんなのかもしれない。
普通の女の子と同じだよ…。
恋をして、恋に破れて、泣いて…。

ユミリア 「…悠君は、死んじゃ駄目よ」

悠 「え?」

ユミリア 「もう…同じ歴史を繰り返しちゃ駄目よ?」

悠 「…はい」

俺は決意を新たにそう答えた。



レイナ 「……」

私は星を見ていた。
空は雲もなく、星が綺麗に見渡せた。

ウンディーネ 「レイナ…真冬の夜にその格好やと風邪ひくで?」

パジャマ姿のウンディーネさんが、後ろからそう言ってくる。

レイナ 「大丈夫です…ヴェルダンドは、もっと寒かったですから」

ウンディーネ 「あははっ、それもそやな…こっちは逆に暑かったさかいな」

レイナ 「ウンディーネさんは相変わらずなんですね」

ウンディーネ 「うん? 何が…」

レイナ 「明るいってことです…私は駄目ですね、すぐに暗くなっちゃう」

ウンディーネ 「ウチかて、悲しないわけちゃうよ…?」

レイナ 「わかってます…だから、羨ましいんです」

ウンディーネ 「…レイナかて強いやろ、両親が死んだのに」

レイナ 「…でも、やっぱり弱いです」

ウンディーネ 「ええやんそれでも…その分、悠に甘えたらええ」

レイナ 「えっ!?」

ウンディーネ 「悠は、いつでもレイナを受け止めてくれるやろ…」

レイナ 「ウンディーネさん…」

ウンディーネ 「あははっ、柄にもないわ! 湯冷めするさかい、先に寝るわ」

レイナ 「私も、すぐに寝ます」

ウンディーネ 「わかったわ」

ウンディーネさんはそう言って、部屋に入っていった。

レイナ 「悠…」

私は、悠と一緒にまた帰ってこれることを星に願って、眠ることにした。



烈 「クルスに襲…まさか死んじまうとはなぁ」

バル 「よせ…後悔しても始まらん」

シャイン 「そうだ、死んだ人間のためにも、我々は負けられないからな」



シャール 「………」

俺は、宿のリビングで親父の形見のネックレスを眺めていた。

シオン 「シャール王子…」

シャール 「シオン王子か」

俺はネックレスを懐に納め、シオン王子と向き合う。

シオン 「シャール王子、いえ…今は国王ですか?」

シャール 「どっちも俺には合わないさ…俺は自由気ままに生きてきた」
シャール 「だが、親父が余命幾ばくもないと知ったとき、俺は王子ということを思い出した」
シャール 「今まで散々遊んできたからな…ツケが回ってきたんだろ」

実際、俺に本気で民は着いてきてくれるのか?

シオン 「大丈夫ですよ…あなたなら、きっとよい王になれます」

シャール 「根拠はあるのか?」

シオン 「目を見ればわかります…」

シャール 「目、ね…」

俺はそう呟いて空を見る。

デルタ 「…? シャール」

シャール 「デルタ…どうした? そんな格好じゃ風邪ひくぞ?」

デルタはパジャマ1枚を着ているだけで、上着は着ていなかった。

デルタ 「風邪…?」

シャール 「病気のことだ、調子が悪くなって、体が動かなくなるぞ…」

デルタ 「そう…わかったわ」

シャール 「わかったって…。わかってないだろ多分…ほら」

デルタ 「……?」

俺は自分の上着をデルタに着せてやる。

シャール 「これで、少しはましだろ」

デルタ 「…シャールが風邪をひくわよ」

シャール 「馬鹿は風邪ひかないんだよ」

シオン 「私はお邪魔ですね…」

シャール 「気にするな」

シオン 「いえ、私は先に休ませてもらいますよ」

そう言って、シオン王子は部屋に帰っていった。



フィリア 「ルナ、落ち着いたか?」

ウィル 「一応ね…まだ、辛そうだけど」

ルナはまだ部屋でうずくまっている。
吹っ切れてない状態だ。

シェイド 「今は、そっとしておくのがいい…。ひょっとしたら、ルナはもう戦えないかもしれないが」

ウィル 「その方がいいかもね…かえって」

フィリア 「俺は、賛成しないな…これで戦えなくなるようなら、あいつは一生負け犬だぜ?」

ウィル 「どっちにしても、ルナ自身のことよ…あたしはそこまでは面倒見きれないわ」

シェイド 「安心しろ、ルナは絶対に立ち直る」

フィリア 「だといいがな」

ウィル 「……」


ルナ 「……」

ドリアード 「ルナさん…大丈夫ですか?」

ルナ 「…ひとりにさせて」

ドリアード 「…辛い時は、いつでも私たちを頼ってくださいね。私たちは皆、家族同然なんですから」

ルナ 「……」



ディオ 「畜生…俺があんなに簡単に投げ飛ばされるなんて」

ノーム 「相手が悪いって」

ディオ 「くっそ〜、一発ぐらい殴らないと気がすまねぇぞ」

ノーム 「その間に何回倒されるだろうな…?」

ディオ 「………」



それぞれが様々な想いを抱き、不安と希望の最中、夜が明ける。



一同は、町の広場に集まり、ユミリアさんの言葉を待つ。

ユミリア 「集まったわね?」

アリア 「ええ…」

ゾルフ 「…よく、ここまでになったものだ」

この時のために、ゾルフさんも駆けつけてくれた。
まさに、前回の猛者が揃っているわけだ。

ユミリア 「…キュアは、やっぱり来れないの?」

ゾルフ 「うむ…独自に動いてはいるようじゃが」

アリア 「戦いに勝っていればいつかは会えるわよ」

ユミリア 「そうね…」

一同 「………」

しばしの沈黙。やがて、ユミリアさんが口を開いた。

ユミリア 「ついに、戦いのときがきたわ!」

一同 「……」

ユミリア 「邪神ドグラティスも復活を間近に迫っている中、恐らく敵の進行が予測できるわ」
ユミリア 「これから私たちは敵の本拠地であるゼルネーヴに上陸するわ」

シェイド 「しかし、どうやって…? 海からでは危険では?」

ユミリア 「普通の船ではね…」

ゾルフ 「船に関しては、ガストレイス王国直属の海戦隊がサポートする、ゆえに部隊を3つに分け、3つの船に乗ってもらう」

アリア 「そして、周りには海戦隊の船で守りを固めてもらうわ」
アリア 「守りはおよそ12隻。全方位にかけて守れる量ではあるけれど、恐らく全て沈むと思うわ」

レイナ 「それじゃあ、守りの人たちが…」

ユミリア 「甘いことを言ってるんじゃないわよ!!」

ユミリアさんがレイナを一喝する。

ユミリア 「これは戦争よ!? 人が死んで当たり前! だけど、私たちが負けたら全ての人が滅ぶわ!!」

レイナ 「……」

ゾルフ 「気持ちはわかる…じゃが、我々のために死を覚悟して戦ってくれるものの気持ちがわかるのなら、勝つことだけを考えよ」

レイナ 「…はい」

ユミリア 「次に3つの部隊を選出するわ! それぞれ、リーダーは私、アリア、そしてシェイドにお願いするわ!」

シェイド 「私が…ですか?」

ユミリア 「あなたたちの中じゃ最年長よ、実力もあるわ、適任と思ったのだけれど…自信がないの?」

シェイド 「いえ…光栄です」

ユミリア 「次にメンバーの選出!」
ユミリア 「私の部隊は、悠君、レイナ、フィリア、シオン、バルバロイ、ネイ!」

アリア 「こちらのメンバーはシャイン、ナル、ディオ、ノーム、ドリアード、ゾルフ」

シェイド 「では残りのメンバー、ウンディーネ、烈、ウィル、ルナ、セリス、シャール、デルタは私の部隊ですね」

ユミリア 「まず、港町のセイレーンまで向かうわよ、一時間後に町の北口に集合よ!!」

こうして、戦争への第一歩を俺たちは刻むことになった。
この先に、何があろうとも俺たちは負けられない…。
世界のために、なんてこと、俺は考えてない。
俺は守りたいもののために戦う…。
だから、戦える。
同じだよな…レイナ?



第2章 『伝説の武具を継ぐ者達』


…To be continued



次回予告

悠:セイレーンからついに俺たちは出発した。
敵は予想をはるかに越える数で俺たちを襲う。
かつてない危機、だが、俺たちは希望を捨てない。

次回 Eternal Fantasia

終章
明日のために…


第37話 「序曲『プレリュード』」

悠 「これが…戦争」



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