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第43話 「妹との決着、そして…」

………。


声が聞こえる。

? 「頼んだぞ…」
? 「未来の幸せのために…」

待て、お前は…!


………。


? 「バルバロイ!」

バル 「!?」

突然、誰かの声に起こされる。
俺は目を覚まし、目の前の顔を確認する。

バル 「ネイ…?」

ネイ 「良かった、目を覚ました…」

ネイは胸を撫で下ろし、小さく微笑む。

バル 「……」

ネイのこんな安心した顔は前にも何回か見たことがある。
あいつは決まって、安心すると、胸を撫で下ろして、小さく笑う。
記憶は失っても、癖は治らない物か…。
俺はそんなことを考えながら体を起こす。

ネイ 「体は大丈夫?」

ネイは笑いながらも、俺にそう尋ねる。

バル 「ああ、問題はない」

俺は普通にそう答える。
少しからだが重い感じもしなくはないが、いざと言う時にはしっかりと動くだろう。
そして、俺は今おかれている状態を確認する。

バル 「ネイ…ここはどこだ?」

見た感じ、どこかの城の中のように見える。
妙に古臭く、年代をかなり感じさせる城だ。
俺はベッドの上のようで、客室か何かだろうか?
中はそれでもかなり広く、前に見たディラール王国の客室の3倍は広い。
というよりも、ここまで広くする意味があるのか?
むしろ、広すぎて何もない空間がかなり目立つ。
そして、ネイが答えるよりも早く部屋に誰かが入ってくる。
入ってきたのは、もはや見慣れた黒のローブに身を包んだ黒髪でバンダナをつけた女性。

アリア 「ここはドラグーン城の客室よ」

アリアさんが代わりにそう答える。

バル 「ドラグーン城…?」

アリア 「ええ、オメガの時空魔法によって、部隊をバラバラにされたわ」

ネイ 「だから、ここにいるのは私とバルバロイと、アリアさんにロードさんだけなの」

ネイがそう説明を付け加える。

バル 「他の仲間たちはどうなってしまったんだ?」

アリア 「わからないわ…最悪の場合、時空間で消滅してしまったかもしれない」

バル 「……」
ネイ 「・………」

一瞬場が静寂する。

アリア 「まぁ、最悪の場合よ…恐らくは私たちのように無事だとは思うわ」

ネイ 「うん…」

ネイはそれでも不安そうだった。

バル 「ロード王は?」

アリア 「自室にいるわ…あなたも目覚めたことだし、集合しましょうか」

俺とネイはアリアさんに着いていき、ロード王の自室に向かった。


………。


ロード王の自室も客室と同じ位広かった。
ただ、中はさすがに整理されており、何もない空間が目立ったが、汚い感じはしない。

ロード 「来たか…」

俺たちが入ると、ロード王がベッドの上で体を起こして俺たちの方を向く。

バル 「ロード王? 体が優れないのですか?」

俺はロード王の体に異変を感じ、そう尋ねる。
すると、アリアさんが困った顔をして。

アリア 「ロードは…」

アリアさんが何かを言おうとした時、ロード王が遮る。

ロード 「いい、自分で言う…」

アリア 「……」

ロード 「今の俺は下半身が全く動かん」

バル 「何ですって!?」

ネイ 「……」

アリア 「エビル・プリズナーの副作用よ…。ロードは下半身不随になってしまったの」

バル 「副作用は、記憶だけではないのですか?」

アリア 「…むしろ、副作用は何が起こるかわからない」
アリア 「ゆえに、対処法もない…」

アリアさんは淡々とした口調でそう言った。

ネイ 「……」

バル 「それで、これから俺たちはどうすれば?」

ロード 「この国で、暴走している低級ドラゴンたちを止めて欲しい」

バル 「ドラゴンを?」

アリア 「薬を作ってあるわ…もっとも、眠らせるだけだけど」

ネイ 「じゃあ、その後は…?」

バル 「操っている術者を倒せと…?」

ロード 「そうだ…と言いたいが、術者がここにいるとは限らん」

アリア 「…もしどうにもならない場合は、ドラゴンを殺すことも必要になるわ」

ネイ 「そんな…」

バル 「……わかった、任せていただこう」

俺はそう言って、アリアさんから薬を貰い。部屋を出た。


ネイ 「バルバロイっ、本当に殺すの?」

ネイが俺を追いかけ、そう聞いてくる。

バル 「もしもの場合はな…」

ネイ 「……」

ネイは露骨に嫌そうな顔をする。

バル 「ネイ…これは戦争だ。悠の言葉じゃないが、非情になれないなら降りた方がいい」

俺は真剣な顔でそう言った。
すると、ネイも真剣な顔で。

ネイ 「でも…バルバロイは悠とは違うよ。悠よりも…冷めてる感じがする」
ネイ 「悠は、もっと暖かい感じがする。何が何でも救うんだ、っていう気持ちを持ってる」

バル 「…そうだな」

俺はそれから何も言わず、城を出た。

バル (冷めた…か。そうだろうさ…俺も所詮邪獣でしかない)

俺はそう思い、目の前の敵を見据える。
濃い緑がかかり、肩の上まで伸びるセミロングの髪。
以前に見た時と同じ、戦闘服を来た、見間違えるはずもない俺の妹。

バル 「アルファ…やはり来たか」

アルファ 「バルバロイ・ロフシェル…私の兄」

アルファの後方では、ドラゴンたちが暴れていた。

バル 「ネイ、ドラゴンたちは任せる…」

ネイ 「…うん」

ネイはそう答え、アルファの横をすぎる。
アルファもそれを止める気はないようだ。


ネイ 「薬を…」

薬は粉上で、私はそれを一握りし、ドラゴンの顔に振りかける。

ドラゴン 「!?」

ドシャアッ!

効き目は抜群で、すぐにドラゴンは眠ってしまった。
私はすぐに他のドラゴンたちも眠らせる。



バル 「……」

アルファ 「……」

俺たちは静かに対峙する。
一度しか顔を合わせていないに関わらず、俺はアルファの考えていることが読める気がした。
恐らくアルファもそうだろう。
ゆえに、下手に動くことができなかった。
この戦いは、恐らく長続きはしない。
一瞬の戸惑いが死に繋がる。

バル 「……」

アルファ 「……」


………。


そのまま数分が過ぎる。
互いに、その緊張の中で冷や汗が流れる。

バル (…このまま、お見合いをする気ではないだろう、アルファ!)

俺はそう考え、剣を中段に構え、突っ込む。
そして、アルファも同時に上段の構えで前に出る。

バル 「…!!」
アルファ 「…!!」

ガキィッ!!

互いの剣が交錯する。
パワーは俺の方が上なのか、アルファの方が若干体勢を立て直すのが遅い。
俺はその隙に、次の攻撃を加えようとする。

バル 「!?」

ヒュッ!

俺が剣を振り降ろそうとする矢先、アルファの剣が俺の頬を掠める。
スピードは向こう方が上か。
傷跡からちりちりと電気が走る。

アルファ 「……」

バル 「…!?」

ここで、アルファが突然微笑を浮かべる。

バル (何だ…?)

アルファ 「……」

アルファは更にスピードを上げ、俺に切りかかってくる。

がキィンッ! キィィッ!!

連続でアルファの剣が俺を襲う。
俺はひとつひとつ丁寧に防御する。

バル (たいしたスピードだ…だが!!)

俺はアルファの攻撃を上に受け流し、懐に入って横薙ぎにカウンターを放つ。

アルファ 「……」

ガキィィィッ!!

バル 「!? 馬鹿な…」

俺の斬撃はアルファの体を切り裂くことなく止まる。
アルファはなおも微笑を浮かべている。
何故だ? 何かバリアのようなものでもあるのか?

バル 「くっ!?」

ザシュッ!

その隙にアルファは俺の首を狙う。
俺は転がって間合いを離す。

バル 「エレメント・ガードか…」

聞いたことがある。
300年前の戦争時、俺たち邪獣はエレメント・ガードを持っていた。
が、俺はそれを『持たなかった』。
俺はそれを持つことよりも、破る方を選んだ…。

アルファ 「…ここまでよ!!」

アルファが、何も知らずに突っ込んでくる。
そう知らないだろうさ…生まれたばかりの奴には。
ゼイラムも、何も教えてはくれんだろう…。
なら、これ以上は苦しませはせん…。

バル 「…さらばだ」

アルファ 「!?」

俺はさっきと同じように、アルファの攻撃を受け流し、懐に入る。

アルファ 「無駄よ!」

バル 「受け取れ…これが俺の技だ! 雷光凄皇斬!!」

ズガアァァァァァンッ!!!

瞬間、稲光と共に俺の斬撃がアルファを吹き飛ばす。
アルファは糸の切れた人形のように地面に落ちた。

バル 「……」

(ネイ 「でも…バルバロイは悠とは違うよ。悠よりも…冷めてる感じがする」)
(ネイ 「悠は、もっと暖かい感じがする。何が何でも救うんだ、っていう気持ちを持ってる」)

バル 「そうだな…俺たちは、そのために戦うんだな…」

俺はアルファの元に向かう。

バル 「…生きているのか?」

俺の全力の技を受けてまだ、息があるとは…。
だが、服は焼け落ち肌も黒く焦げ付いていた。
雷撃をまともに喰らったのだから当然か。
俺は自分の上着をアルファの裸体が隠れるように被せ、抱えあげる。

バル (軽いな…女だから当然なのか?)

こうやって、女を抱きかかえるのは初めてで多少違和感があった。

バル 「……」

アルファは静かに眠っていた。
だが、生きているような感じはしなかった。
強力な雷撃を受けたものは、大抵生きていても二度と目を開けることはない…。
全身の神経が焼き切れ、五感を失う…。
アルファに関しては、ほぼ植物人間と言った所だろう…。
呼吸はあっても、生命力を一切感じなかった。

バル 「………」

俺はそれ以上何も考えず、アルファを城まで連れて行った。


………。
……。
…。


やがて、しばらくするとドラゴンたちは正気を取り戻し、事なきを得た様だった。

アリア 「恐らくは、電波ね…」

ネイ 「何それ? 電撃と違うの?」

バル 「似たような物だ…ただ、電撃と違い目には見えない。そして、相手の脳神経にそれを送り込むことによって、相手の筋肉組織等を支配してしまう…」

アリア 「強力な物になれば、脳を直接破壊することも可能よ」

ネイ 「怖…」

バル 「まぁ、余程の魔力差がない限りはそんなことは不可能だがな」

ネイ 「じゃあ、アルファが倒れたから、魔力が切れたんだ…」

アリア 「そういうことよ…」

バル 「………」

アルファ 「………」

静かな寝顔だった。
だが、生きながらに死んでいる…。
このまま二度と目を覚ますこともないのだろうか?

アリア 「あなたが、この娘のことを大切に思うのなら、側にいてあげなさい」

バル 「……」

アリア 「いつか…あなたの思いが届くかもしれないわ」

バル 「…はい」


………。


ロード 「そうか…俺はここを動くことはできん。ゆえに直接手を貸すことはできんが、協力はする」

アリア 「私も…ここに残るわ」

ネイ 「えっ、アリアさんも!?」

バル 「よせ、アリアさんの気持ちを察してやれ」

それを聞くと、ネイははっとなって、申し訳無さそうな顔をする。

ネイ 「うん、そうだね…」

アリア 「ごめんなさい…個人的な我がままで」

バル 「いえ、ユミリアさんには伝えておきます」

アリア 「ええ…」

バル 「行くぞ…ネイ」

俺はアルファを背中に背負い、後ろを向いてネイにそう言う。

ネイ 「あ、うん…」

そして、ネイもその後を着いて来る。



ネイ 「バルバロイ…ごめんね。酷いこと言って」

城を出た所でネイが突然謝る。

バル 「何のことだ?」

ネイ 「だから、バルバロイが冷たい人だなんて言っちゃって」

ネイは申し訳無さそうに下を俯く。

バル 「気にするな…そう見えても不思議じゃない」

ネイ 「でも…」

バル 「ふ…」

俺はネイの頭をくしゃっと撫で、小さく笑う。

バル 「お前は笑っていればいい」

ネイ 「うんっ、そうだよね…悠に笑われちゃう」

バル 「……ん?」

ネイ 「あっ、あれ見てっ、飛空挺じゃないかなっ?」

バル 「あ、ああ、そのようだな」

見ると、巨大な鉄の船がこちらに向かってくる。
間違いはないだろう。



悠 「ん、人がいるぜ!!」

レイナ 「あれは…バルバロイとネイだわっ」



ネイ 「あっ、悠が手を振ってるよ〜♪ おーーーいっ!」

ネイは無邪気に飛び跳ねる。

バル (アルファ…俺は、お前が目覚めるまで守りつづけてやる)

俺はアルファを背中に抱えながら、そう決心した。

バル (ユシルよ許せ…。今の俺はアルファを守らねばならん。約束は果たせんかもしれん)

俺がアルファの兄なら、俺はそれが使命なのだ…。
アルファのたった一人の身内。
それが、俺ならば…。


…To be continued



次回予告

ウィル:突然空間転移によって、バルザイルに飛ばされたあたしたち。
そこで、闇の邪獣シグマが大群を率いて闇の中で襲い掛かってくる。
そんな窮地に立たされてるって言うのに、シオン王子はファリア王女にぞっこん…。
こんなので、あたしたち大丈夫なの!?

次回 Eternal Fantasia

第44話 「シオン王子、愛の告白!?」

ウィル 「どうせ、あたしはひとり身よーーーっ!!」



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