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第2話 「エイプリルフール」

ユウ 「ふあ…」

レイナ 「あまり寝てないの?」

俺が大きな欠伸をすると、レイナが心配そうに尋ねてくる。

ユウ 「まぁ、昨日の今日だからな…」
俺は昨日の惨劇(?)を思い出す。

レイナ 「………」

レイナは顔を青くして俯く。

ユウ 「い、いや…責めてるわけじゃないぞ?」

俺はちゃんとフォローしておく。
まぁ、原因と言えば原因だが…。

レイナ 「うう…」

ユウ 「と、とりあえず行こうぜ」

俺はレイナの手を取って、歩き出す。
俺たちふたりは今から朝飯を食いに食堂へ行く所だ。
レイナが作ってくれると言っていたが、俺はあえて拒否した。
さすがにレイナに甘えすぎるのもまずいからな…。

レイナ 「あ、うん…」

レイナは今度は顔を赤くしながら歩き始める。


………。
……。
…。


学生寮から森を東に迂回して街の中心部に向かうこと約10数分。
そこに街で最も大きい食堂がある。
木造で大きな看板が目立つその名も『月光亭』。
もちろん戦争時も利用したことがある。
俺は中に人が少ないのを確認すると入っていく。
レイナも後を着いてきた。

ちり〜んっ

戸を開けると、鈴の音が鳴り響く。

店員 「…いらっしいませ」

すると、店員の威勢のいい声が…。

ユウ 「ん? 威勢のいい…?」

俺はふとカウンターの店員を見てみる。

ユウ 「あ…」

レイナ 「どうしたの、ユウ?」

レイナもカウンターをおもむろに見る。
すると、そこにはいつもの気さくなおじさんではなく、大人しそうな(むしろ無口)な女の子になっていた。

エイリィ 「冗談はいいわよ…」

レイナ 「エイリィ、ここで働いているの?」

エイリィ 「確か…レイナ・ヴェルダンド。だったわね?」

エイリィは表情も変えずにそう聞き返す。

ユウ 「エイリィはここの店長の娘なんだよ」

レイナ 「えっ? ここの店長は確か人族…」

そこまで言ってレイナははっと気づく。

ユウ 「そ、ハーフだよ、エイリィは」

エイリィ 「…注文は?」

ユウ 「あっ、すまん…俺はビーフカレー」

エイリィ 「わかったわ…いつものね」

レイナ 「私は…ライスとサラダを」

エイリィ 「わかったわ…待ってて」

注文を聞くとエイリィは厨房に入っていく。
今日はエイリィだけか?
俺がそんな風に考えていると、鈴の音が響く。


ネイ 「は〜、お腹すいたよ…」

バル 「お前は朝はいつもそうなのか?」

ネイ 「うん、早く食べないと平べったくなっちゃうよ…」

バルとネイだ…奇遇だな。
俺はカウンターからネイたちに話し掛ける。

ユウ 「よお、奇遇だな…」

バル 「ユウにレイナか。確かにな」

ネイ 「あっ、ユウ〜♪」

ネイは俺の方に駆け寄って俺の隣に座る。

ユウ 「よっ、元気か?」

俺は簡単な世間話をする。

ネイ 「うんっ、私はそれだけが取り柄だよ〜♪」

レイナ 「……あ、来たわよ」

レイナがそう言うと、厨房からエイリィがカレーとサラダ&ライスを持ってきた。
俺はそれを確認すると、側にある冷水機から水をコップに4人分注ぐ。

エイリィ 「お待ちどうさま…」

ユウ 「おう、サンキュ!」

俺はスプーンを手にとって食べ始める。

エイリィ 「バルバロイたちは?」

バル 「俺はトーストでいい」

ネイ 「えっとあたしは…いつもので〜♪」

バル 「いつもの?」

エイリィ 「わかった…」

エイリィは特に表情も変えずにまた厨房に入っていく。


………。


俺とレイナとバルの3人が食い終わる頃、その『いつもの』はやってきた。
そして、その場に客全員の目がこちらに向く。

エイリィ 「お待ちどうさま…」

ネイ 「わ〜い♪ じゃあいただきまーす!」

色とりどりの食材を尽くして盛り付けられた『それ』はまさに圧巻だった。
高さにして50cmはある…。
皿のサイズの時点で直径1mはある…。
大型ピザ並みの皿だ…。

ユウ 「…エイリィ、これは何だ?」

エイリィ 「…『いつもの』よ」

ユウ 「いや、メニューの名前なんだが…」

エイリィ 「だから、『いつもの』…」

ユウ 「………」

成る程…それで通用するのな。
よく考えたらネイ以外でこんなもん頼むとも思えん…。
実際メニューリストにも載ってない…。
まさに幻のメニューだ。
そして、その『いつもの』はもののわずか10分で平らげられた…。

ユウ 「相変わらずのようだな…1ヶ月たっても変わらんか」

ネイ 「う〜ん、だってお腹がすくもん」

ネイは水を1L程飲むと、そう答える。

ユウ 「太るぞ…」

ネイ 「…う、いいもん! すぐに痩せるから…」

ユウ 「まぁ、確かに太ってはいないが」

俺は勘定を済ませると、店を出る。

エイリィ 「毎度ありがとうございます…」



ユウ 「さ〜て、これからどうすっかな?」

俺は青い空を見上げてそう呟く。
今日も快晴だな。

ネイ 「……」

気が付くと、ネイが俺の腕に抱きついている。
なんか、こんな光景以前あったような…。

ユウ 「っていうか…何で抱きついてるんだ?」

ネイ 「何となく…」

ユウ 「すばらしく歩きにくいんだが…」

俺がそう言うと、ネイはしぶしぶと抱きつく場所を変える。

ユウ 「いや、だから抱きつくなといっとるんだ!」

ネイ 「うう…ユウは私のこと嫌いなの?」

どこでも聞くような台詞を言うなって…。

ユウ 「何て言って欲しい…?」

俺はあえて聞いてみる。

ネイ 「俺はネイのことが大好きだよー!って…」(ぽっ)

ユウ 「いいから離れろ…歩きにくいから」

ネイ 「うう…意地悪〜」

ネイは負けじとさらにきつく俺の背中に抱きつく。

ユウ 「ぐふっ! 待て!! 首首首!!!」

ネイは俺の首を支点にぶら下がる。
当然俺は呼吸ができなくなる。

ネイ 「う〜…」

ネイはしぶしぶ抱きつく場所を変える。

ユウ 「…もういい、好きにしろ」

俺は諦めて、ネイの好きにさせてやる。
すると、ネイは嬉しそうに俺の腕に抱きつく。

ユウ (む、胸が…ネイってこんなにスタイル良かったのか?)

よく考えて見てみると、ネイは身長も伸びて俺(現在167cm)よりも高い…。
こうして抱きつかれてると、俺の方が小さいから、ネイは体を少し屈めるように抱きついている。
俺に気を使ってるのか…。

ネイ 「………」

ユウ 「……」

俺たちはしばらく無言で歩いていた。



レイナ 「……」

バル 「……?」

何やらレイナから妙な『気』を感じる。

バル 「…レイナ、どうした?」

レイナ 「え? 別に…」

どう考えても別にと言うことはない気が…。

レイナ 「はぁ…」

深くため息。

バル 「…言いたいことがあるなら聞いてやるぞ?」

レイナ 「…いい」

冷たく言われる。

バル 「そ、そうか…」

く、空気が重い。
ユウは気づいてないのか!?



ユウ 「…ん?」

ネイ 「どうしたの?」

ユウ 「いや、何か視線が痛い気が…?」

俺は周りを見渡してみる。
すると、明らかに奇異の目で見られている。

ユウ 「………」

ネイ 「……♪」


声 「あーー! ユウ発見!!」

突然前から声がする。

ミル 「わぁ、ふたりともおにあいだよ〜♪」

ネイ 「えへへ…そんなぁ」

ユウ 「…あのな、冷やかすな」



レイナ 「………」

バル (誰かこの空気を止めてくれ…)

ガイ 「おお、バルじゃねぇか…こんなとこで彼女とデートか?」

バル 「そう見えるか…!?」

ガイ 「…俺が悪かった」

ガイはその場の空気を読み取ってそう答える。


ユウ 「いや、だから…」

ミル 「もう〜隠さなくてもいいって!」

ネイ 「……♪」


レイナ 「………」

ガイ 「(修羅場って奴か?)」

バル 「(…多分な)」


………。
……。
…。


俺たちはしばらく街を歩いていた。

ミル 「羨ましいなぁ…私も恋人が欲しいよ」

ユウ 「だから、俺とネイは恋人じゃねぇっての」

俺はもう何度この台詞を言ったことか。

ミル 「ネイはそう言ってないみたいだけど…?」

ユウ 「あん?」

ネイ 「……」(しゅん)

ユウ 「あのなぁ…ネイも冗談だろ?」

俺がそう聞くとネイは静かに手を離す。

ユウ 「お…?」

ネイ 「(…やっぱり、そうなのかな)」

ミル 「……鈍感」

ユウ 「はぁ? 何か言ったか?」

ミル 「何でもない…私もう行くね」

そう言うと、ミルは足早に去っていった。

ユウ 「………」

ネイ 「私ももう行くね…学校で勉強しなきゃならないから」

ユウ 「あ、ああ…」

ネイは若干俯きながら去っていった。

ユウ (何か、寂しげだったな…俺、悪いことしたかな)

レイナ 「………」

ガイ 「(どうやら、嵐は去ったようだな)」

バル 「(ああ…)」


レイナ 「…私も行くわ、まだ単位が残ってるから」

ユウ 「ああ、わかったよ」

そう言うと、レイナは空を飛ぶ。

ユウ 「……」

バル 「どうした?」

ユウ 「いや、そういえばレイナは空が飛べたなって…」

ガイ 「そりゃ飛翼族だからな」

ユウ 「…いたのかガイ」

ガイ 「………」

バル 「さて、俺は寮に戻る。アルファが心配だからな」

ユウ 「やっぱ、まだ目を覚まさないのか?」

バル 「…ああ」

バルはそう言って去っていく。

ユウ 「……」

ガイ 「…なぁユウ?」

俺たちふたりになった所でガイが話し掛けてくる。

ユウ 「何だ?」

ガイ 「お前は結局どっちが好きなんだ?」

ユウ 「はぁ? 何が…?」

ガイ 「ネイとレイナだよ…どっちが好きなんだ?」

突然そんなことを聞かれる。

ユウ 「…う〜ん、どうなんだろ?」

正直、そう言われるとどう答えればいいかわからない。
以前は確かにレイナのことが好きだったが、今は実の所そうでもない…。
むしろネイとは一緒にいて楽しいし、気も楽だ。
レイナは何でもできるだけに、頼りがいがある…。
俺としてはどっちかって言うと、頼るより頼られたい。
ということは…。

ユウ 「ネイ…かなぁ?」

俺は勢いその場で答えてしまう。

ガイ 「ほう、てっきりレイナって答えると思ったが…」

ガイは意外そうにそう言った。

ユウ 「いや、何となくだから…あまり気にしたこともないし」

ガイ 「ふーん。でもさ、お前は恋人とか欲しいとか思わねえの?」

ユウ 「さぁ…? つい先月まで戦争やってたからな…思わないな」

ガイ 「馬鹿やろう! 戦場で育まれる愛!! ロマンだとは思わんのか!?」

ガイは握り拳を作って何やら力説する。

ユウ 「確かにロマンかもしれんが、現実はそう甘くないぜ…?」
ユウ 「むしろ、生き残るために自分のことを考えるので精一杯だ」

ガイ 「はぁ〜、まぁ何となく予想できた答えだが…お前って冷めてるよなぁ」

ユウ 「そうか? 戦争を体験するとこうもなると思うぜ…」

ガイ 「…お前、変わったよな」

ガイは何やら遠い目で空を見上げながらそう言う。

ガイ 「俺たちと一緒に馬鹿やってた頃は、もっと明るかったのにな」
ガイ 「今は、何か暗い感じで、むしろ塞ぎ込んでる感じがするぜ?」

ユウ 「…かもな。戦争を体験すりゃわかるよ」
ユウ 「人やら化物やらを殺していく内に、自分の心まで殺す必要があるのさ…」

俺はそう言って、どこへともなく歩き出す。
何だか、その場にいるのが辛くなってきた。

ガイ 「おい、待てよ! ちょっと気分転換でもしねえか?」

ユウ 「あん? まさかあれか…?」

ガイ 「まさか…今はナンパする気力はねえよ」

ユウ 「じゃあ何なんだ?」

ガイ 「探検さ…ほら、ガイアの南に洞窟があるの知ってるだろ?」

ガイア南の洞窟。
確か数百年前からできてて、入り口はほとんど塞がっていて、現在は探索する場所もない状態のはずだが…。

ユウ 「行っても無駄じゃないのか?」

俺がそう言うと、ガイは何やら不適に笑って。

ガイ 「そ〜れ〜が〜な〜…どうも前にあった地震のせいで中には入れるらしいぜ?」

ユウ 「マジかよ…? しかしそれなら行く価値はあるな」

ガイ 「だろ? 行ってみようぜ!」

ユウ 「でも大丈夫か? 装備ぐらいはきちんとした方がいいんじゃないか?」

ガイ 「まぁ、何とかなるだろ…いざとなったら勇者様がいることだしな!」

ユウ 「あのなぁ…俺でも数に囲まれたら助けられんぞ?」

ガイ 「まぁ確かにな…別にいいじゃん。そんな危険はないそうだぜ?」

ユウ 「誰からそんな情報聞いたんだ?」

ガイ 「ジェイクだよ」

ユウ 「そうか…一応本人に聞いておかないか?」

ガイ 「そうだな、そうするか!」

俺たちはそう決めると、ジェイクの住んでるガイアの武器屋に向かった。
ガイアの中心部の北側にその場所はある。

ユウ 「ジェイクいるかな?」

ガイ 「今日はずっと店番やってるはずだぜ?」

ガイはそう言うと、扉を開けて中に入っていく。
俺もその後に続く。

カランカラン!

店の呼び鐘が鳴り響く。
するとカウンター越しに座っている、ジェイクが俺たちの方を見る。

ジェイク 「いらっしゃ…ってお前らか。何か用か? 買い物に来たわけでもないだろう…」

ガイ 「おう! あれだよ…この間聞いた、洞窟の話!」

ジェイク 「ああ、あれか…で?」

ユウ 「中は安全なのか?」

俺はガイが言うよりも先にそう聞いた。

ジェイク 「ふむ、大体はな…」

ユウ 「大体?」

ジェイク 「直接探索隊が派遣されたわけじゃないからな…奥には危険な場所があるかもしれん」

ユウ 「そうか…やっぱやばいかもな」

ガイ 「まぁ、とりあえず行ってみようぜ?」

ユウ 「……」

俺はしばらく考える。

ジェイク 「お前らふたりで行くのか?」

ガイ 「ああ、そのつもりだけどな」

ジェイク 「俺も連れて行け」

ユウ&ガイ 「はぁ?」

俺たちは同時にそう言う。

ジェイク 「何だそのリアクションは…?」

ユウ 「いや…お前がこういうことに首を突っ込むとは意外でな」

そう、ジェイクはかなりの真面目君で基本的にこういった無茶なことには絶対に首を突っ込まない性格だ。

ジェイク 「少し興味があってな…資料が欲しいんだよ」

ユウ 「資料?」

ジェイク 「ああ、あの洞窟の奥には火山があるんだよ」

ガイ 「火山!? 噴火とかしないだろうな…?」

ジェイク 「そんな危険があるなら行くわけないだろうが」

ユウ 「確かに。で、その火山の資料が欲しいと」

ジェイク 「そう言うことだ」

ガイ 「でも何のために?」

ジェイク 「仕事の一環さ…。死火山の付近には特殊な鉱物ができてるからな」

ユウ 「成る程…んじゃ、行ってみますか!」

ガイ&ジェイク 「おう!」

俺たちはジェイクの家から武器を借りて、南の洞窟に向かった。


………。
……。
…。


歩くこと30分。
その洞窟は姿を現した。
巨大な岩山の中にその入り口はある。
以前はこの入り口の先は数mで行き止まりだった。

ユウ 「中はどう変わったんだろうな?」

ジェイク 「さぁな、とりあえずは奥まで入ることができる」

ガイ 「おっしゃー! 突撃だー!!」

ガイは一足先に洞窟内に足を踏み入れる。

ユウ 「行くか…」

ジェイク 「ああ」

俺たちは後に続く。


………。


俺たちは明かりをつけて中に進んでいく。

ガイ 「おっ?」

ユウ 「どうした?」

ガイが何かに気づいたようにその場で止まる。

ガイ 「行き止まりか?」

ジェイク 「足元を見てみろ」

俺たちは言われて足元を見る。
すると、なんと坂ができていた。
どうも、下に降りるらしい。
俺たちは慎重に降りていく。
そんなに急ではなく、滑り落ちることはない。


………。


やがて、一番下まで辿り着くと一筋の光が見えた。

ユウ 「何だ…? どこからか光が差し込んでるのか?」

光の方まで進むと、俺たちは驚愕する。

ガイ 「すげえ…」

ジェイク 「これがここの死火山か」

光は天井に穴が空いているため差し込んでいた。
そのため、明かりがなくても十分に回りが確認できた。
死火山は今俺たちがいる場所からさらに掘り下げた所にある。

ガイ 「行ってみようぜ!」

ガイは坂を駆け下りて麓まで向かう。
俺とジェイクも着いて行った。


ガイ 「はぁ…こんな山があったとはなぁ」

ユウ 「だけど、意外と小さいな」

その山は割と小ぶりで、高さは10m弱といったところ。
天井はさらに高く、この洞窟自体かなり広い空洞になっている。

ジェイク 「…成る程、これがここの鉱物か」

ジェイクはすでに研究対象を見つけたみたいで、色々と調べている。

ガイ 「ユウ、頂上まで行ってみないか?」

俺たちは頷きあうと、山を上っていく。
さすがに山自体は急な斜面なので、若干てこずった。
だが、数分で山の頂上に着いた。

ガイ 「お…? 火口に何か見えるぜ?」

ユウ 「ん…?」

上からの明りでどうにか火口の中が見える。
すると、確かに何か岩の棺桶のような物が見える。

ガイ 「調べてみるか…?」

ユウ 「ああ、俺が行こう。ロープ持っててくれ」

俺は命綱を腰に巻くと、ガイに委ねる。

ガイ 「気をつけろよ…」

ユウ 「大丈夫だろ…」

俺は一気に火口の底に着地する。

ユウ 「……」

岩の棺桶か…。
俺は蓋らしき物に手をかける。

ズズズ…

ユウ 「開くのか…?」

俺はかすかな手ごたえを感じ、蓋を開けようとする。

ユウ 「ぎぎぎ…!!」

が、ビクともしない。

ユウ 「ちっ、仕方ねぇな…」

俺は諦めようかと思うと、突然頭に声が聞こえる。

ヴェイル (ユウよ…これは封印の棺桶だ)

ユウ 「!? ヴェイルさん…?」

俺はふと背中にしょっていたオメガを手に取る。

ヴェイル (気を込めろ…そして心で開けるのだ)

ユウ 「…心で?」

それ以降声は途切れた。

ユウ 「………」

ガイ 「おーい! 何かあったか?」

ユウ 「………」

俺は目を閉じ、蓋に手をかけ、静かに願った。

ゴゴゴゴ…!

ガイ 「あっ!!」

すると、簡単に棺桶は開いた。
そして、その中には…。

ユウ 「女の子…?」

見ると、長い髪をして、全く服を着てない女の子が横たわっていた。

ユウ 「……このままはまずい!」

俺はたまたま持っていた大きな布で彼女の体を包み込み、背中に担ぐ。

ユウ 「ガイーーー! 引っ張ってくれ!!」

ガイ 「よしきたっ!!」

俺はガイにロープを引っ張ってもらい、頂上に戻る。

ガイ 「って!? その娘は!?」

ユウ 「いや、あの棺桶の中にいたんだ…」

ガイ 「死体じゃないのか…?」

ユウ 「だったら体温がねえだろうが…」

ガイ 「…いいのかな?」

ユウ 「迷うことはねえだろう! こんなとこでずっと封印されてたんだぞ!?」

ガイ 「何でそんなこと知ってんだ…?」

ユウ 「…まぁ、ちょっとな!」

俺は半ば無理やり納得させ、ジェイクのいる所まで戻る。

ジェイク 「こっちは終わった…そっちは」

ジェイクはこっちを見て少なからず驚く。

ユウ 「説明は後だ! 早く連れて帰るぞ!!」

ジェイク 「いつから人攫いが趣味になった!!」

ユウ 「ドアホゥ!! 人助けだ!!」

俺はジェイクを無視してさっさと入り口まで戻る。


………。
……。
…。


そして、30分後。テラ・フォースの医療室。


ユウ 「ユミリアさん! いますかっ!?」

俺は駆け込んで、そう叫ぶ。

ユミリア 「こらこら…騒がしいわよ。何? 重症患者でも出たの?」

ユミリアさんは椅子から立ち上がってこちらに向かってくる。

ユミリア 「あら、その後ろの娘は?」

ユウ 「それが…」

俺は事情を事細かに説明する。

ユミリア 「……」

ユミリアさんは突然、呼び鈴を鳴らす。

ユウ 「ユミリアさん?」

ユミリア 「ちょっと待ってなさい」

俺は言われた通り、しばらく待つ。
すると、アリアさんがやってきた。

アリア 「何事?」

ユミリア 「この娘を見て…!」

アリア 「!? この娘は…まさか!!」

ユミリア 「やっぱりそうなの?」

アリア 「ええ、間違いないわ…一体どこで!?」

ユミリア 「南の死火山の火口よ」

アリア 「レギルにいるとは聞いていたけど…まさか死火山に」

ユミリア 「と言っても300年前は普通に活動していたわ…むしろ生きていたことに敬服するわ」

アリア 「良かった…」

ユウ 「あのー…話が見えないんですけど」

俺はふたりに聞いてみる。

ユミリア 「お手柄ね…悠君」

アリア 「それにしても凄いタイミングね…」

ユミリア 「確かに…まさにエイプリルフールよ」

アリア 「ええ、本人は信じないかもね」

ユウ 「いや、だからわかる説明を…」

ガイ 「お〜い…やっと追いついたぜ」

ジェイク 「どういうことか説明しろ!!」

突然ガイとジェイクが押し寄せてくる。

ユミリア 「まぁ、いいわ。とりあえず、こっちに来なさい」

そう言って、ユミリアさんは奥の部屋に向かう。
確かこの先は重症患者を収容するような隔離室…。

ユミリア 「……」

ガララ…

ユミリアさんは静かに戸を開け、俺たちはその中に入っていく。

声 「何だ、ぞろぞろと客か?」

ユミリア 「まぁ、ちょっとしたエイプリルフールよ」

ユウ 「…あ」

ガイ&ジェイク 「?」

俺はそのベッドに横たわっている人物を見て驚愕する。

ユウ 「ロードさん!?」
ガイ 「誰だそれ?」

ジェイク 「…馬鹿かお前はっ!? こ、この人はかの魔竜王ロード・ドラグーンだ!!」

ガイ 「はい…?」

それを聞いてガイは硬直する。

ロード 「ユウ君、だったか…? 久しぶりだな」

ユウ 「ロードさん…お久しぶりです」

アリア 「ロード…この娘を」

アリアさんは俺が連れ帰った少女を、ロードさんの前に差し出す。

ロード 「!? まさか…レイラ!?」

ユウ 「レイラって…確か、ロードさんの妹って言う」

ロード 「………」

ロード様は静かにレイラさんを抱きしめる。
そして、その時を待っていたかのように少女は目を覚ました。

レイラ 「……ここは?」

ロード 「…レイラ!」

ロードさんはレイラさんに呼びかける。

レイラ 「……?」

ロード 「俺がわからないのか…? 俺だ! ロードだ!!」

レイラ 「…兄上?」

ロード 「思い出したか…!」

レイラ 「兄上…! どうしてここに!? 私は…!?」

レイラさんは立ち上がると、ロードさんの顔をしっかりと見る。
そして、その瞬間レイラさんを包んでいた布がしっかり剥がれる。

ユウ 「!?」

ガイ 「ブッ!」

ジェイク 「……」

ユミリア 「はいはい…サービスタイムは終わりよ」

アリア 「レイラ…これを着なさい」


………。


やがて、レイラさんの着替えが終わると、俺たちはまた部屋に入る。

ガイ 「いやぁ…生きてて良かった」

ジェイク 「あのな…」

ユウ 「はぁ…」

ロード 「…3人とも、本当にありがとう。このロード・ドラグーン、心から礼を言う」

ロードさんはそのままで俺たちに頭を下げる。

ユウ 「そんな、止めてくださいよ…たまたまだし」

アリア 「いいえ、あなたたちは本当に凄いことをしたのよ。ロードが300年かけて見つからなかった者を見つけたのだから」

ユミリア 「そういうこと…」

レイラ 「兄上…こんなに痩せてしまって」

レイラさんは心配そうにロードさんの体を見る。

ロード 「…俺はもう長くはない。レイラ、これを受け取れ」

ロードさんは何やら布に包んだ棒を取り出し、レイラさんに渡す。

レイラ 「これは…?」

レイラさんはその布を取り、それを見る。

ユウ 「それは…」

レイラ 「ゲイボルグ…! 兄上!?」

ロード 「…今はここでアリアの世話になれ。今では、お前の義理の姉だからな」

レイラ 「え…?」

アリア 「レイラ…あなたの兄の最後の言葉を聞いてあげて」

レイラ 「…兄上」

レイラさんは涙を我慢して、ロードさんの言葉に耳を傾ける。

ロード 「レイラ…竜族の歴史はお前が継げ」
ロード 「お前にしかできないことだ。最後のカイザードラゴンであるお前にしか」

レイラ 「…はいっ、兄上」

レイラさんはしっかりとそう答えた。

ロード 「…いい答えだ」

ロードさんは満足げにベッドに力なく横たわる。

ロード 「アリア…レイラを、頼む」

アリア 「ええ…わかったわ」

ロード 「ユウ君…レイラとどうか仲良くしてやってくれ」

ユウ 「は、はいっ!」

ロード 「…ふぅ。俺はもう疲れたよ…ユミリア、後は頼む…」

ユミリア 「ええ、眠りなさい…ゆっくり」

ロード 「ありがとう………」


一同 「………」


やがて、しばしの沈黙が訪れる。
俺は静かに黙祷を捧げた。


………。


ユミリア 「…ロード」

アリア 「…ごめんなさい、ユミリア」

ユミリア 「いいわよ…私の胸でいいんだったら泣きなさい」

アリア 「うう…ああっ!」

初めて見るアリアさんの弱い部分。
俺まで涙が出そうになる。

ガイ&ジェイク 「………」

ガイとジェイクも同じようだ。

レイラ 「……兄上」


………。
……。
…。


今日はこのまま解散ということになった。
ロードさんの葬儀は、後に行われるらしい。

ユウ 「……」

ガイ 「…何か、とんでもなかったな」

ジェイク 「ああ、とてつもないことの証人になった」

ガイ 「何か、疲れたよ…俺はこれで帰るな」

ジェイク 「俺も帰る、またな」

ユウ 「ああ…じゃあな」


レイラ 「………」

ユウ 「……」

レイラ 「………」

ユウ 「…どうかしたんですか?」

気が付くと、レイラさんが俺の方を見ている。

レイラ 「…どこに帰ればいいのか」

ユウ 「あ…そうか」

とりあえず学生寮だな。
あそこなら、問題ないだろ。

レイナ 「あれ? ユウじゃない?」

ネイ 「あっ、ホントだー!」

突然レイナとネイが俺の方に駆け寄ってくる。

ユウ 「よう、今終わったのか?」

レイナ 「うん、どうにか単位も修得できたわ」

ネイ 「私も終わったよ〜♪」

ユウ 「そうか、じゃあこれで晴れて一緒の学校だな!」

レイナ 「ええっ」

ネイ 「ところで、その娘は?」

ネイはレイラさんに気づいて尋ねてくる。

ユウ 「ああ、この人はレイラ・ドラグーン。ロードさんの妹さんだよ」

レイナ 「レイラ様!? 見つかったの?」

ユウ 「ああ、偶然発見してな」

ネイ 「へえ〜」

レイラ 「……」

ユウ 「そう言えば、自己紹介がまだだったな」
ユウ 「俺はユウ・プルート」

レイナ 「レイナ・ヴェルダンドです」

ネイ 「ネイ・エルクだよっ」

俺たちはそれぞれ自己紹介をする。

レイラ 「…よろしく」

ユウ 「そういえば、レイラさんって…」

レイラ 「レイラでいい…敬語は嫌いだから」

ユウ 「あ、そうかい? じゃあレイラは何歳なんだ?」

レイラ 「317歳」

ユウ 「…やっぱそうなのか?」

レイナ 「そうよね…ロードさんがそうだったんだから」

ネイ 「すっごい年上だよ〜!」

レイラ 「…嘘よ。本当は多分17歳」

ユウ 「へ?」

レイナ 「……?」

ネイ 「……」

一瞬わけがわからなくなる。


………。


そう、俺は家に帰ってからその意味を理解する。
4月1日。
『エイプリルフール』

ユウ 「あれが…レイラ流のボケなのか?」



…To be continued



次回予告

レイナ:いよいよ始まった学校生活。
新しく知り合ったレイラも含め、新しいクラスが発表される。
そして、いきなりの突発イベントに、私たちは驚愕する。

次回 Eternal Fantasia 2nd Destiny
第3話 「第二次美少女コンテスト」


レイナ 「嘘…」



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