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第2章 『涙より悲しき運命』


第14話 「例えこの体が朽ちようとも」

? (目覚めよ…)

ガイア (何だ…?)

唐突に声がする。
前に何度か見たことのある夢。
ユウたちと一緒の街に住むようになってから、頻繁に見る夢。

? (目覚めよ…時は来た)

ガイア (何のことだ?)

? (この、セントサイドに粛清を…)

ガイア (!?)

この時、俺の中で、何かが弾け飛び、鎖を断ち切った。

ガイア (どういうことだ!? 何故…この記憶は!?)

? 「これが現実だ…」

気が付くと、いつのまにか現実の光景が蘇る。
俺は目覚めたのか?
しかし、体が動かない、まるで別の…。

? 「まだ、意識が残っているのか…邪魔な」

ガイア (!? お前は何だ!? 何故俺の頭に声が響く!!)

俺が強く問い詰めると、そいつは笑った。

? 「はははははっ、何を言っている…俺はお前だぞ?」

ガイア (何…?)

? 「残念だが、時は来た…俺は目覚め、使命を果たす。もう、お前の役目は終わりだ」

ガイア 「なっ…!?」



………。
……。
…。



ガイア 「………」

悪くない状態だ…これならいつでも動ける。
俺は力をゆっくりと解放し、念じる。
問題ない…余計な『記憶』も消し去った。
俺は使命を遂行する…。



ユウ 「…!!」

何だ…今、何かよくないことが起きたような。
俺は起きると、大量の汗をかいていることに気づく。
俺は胸騒ぎがし、急いで奇跡の森に向かった。


………。


フィー 「はぁっ、はぁっ!!」

ユウ 「あれは…フィー!!」

俺は見慣れた妖精のフィーに声をかける。

フィー 「ユ、ユウ! ガイアさんが!!」

ユウ 「何…? おっさんがどうかしたのか!?」

嫌な予感が脳裏をよぎる。

フィー 「ガ、ガイアさんが突然…森にいた妖精達を」

ユウ 「何…? それで、どうなった!?」

フィーは突然泣きじゃくり、それから先を言おうとしない。
俺は理解した…。
仲間は殺されたのだ…おっさんに。
だが、本当におっさんなのか…?
俺はどうしても合点がいかなかった。
それは、いままでおっさんと一緒にいた半年が物語っている。

ユウ (おっさん…)

まるで、父親のように接してくれたおっさん。
いつも暖かく、話し合えたおっさん。
俺にとっては…おっさんは本当に。

フィー 「ユウ! ガイアさんを止めて!!」

俺はそこで正気に戻った。

ユウ 「フィー?」

フィー 「お願い…あれはガイアさんじゃない! でも、ガイアさんなの…」

今まで気づかなかったが、フィーは傷だらけだった。
よろよろと俺の目の前で、落ちていく。
俺は掌の上に抱きとめた。

ユウ 「フィー…お前、まさか…」

フィー 「私も…ガイアさんは大好きだったよ。だから、ユウが…」

ユウ 「フィー! 喋るな!!」

フィー 「いいの…もう助からないよ。辛いよね、死ぬ時がわかるって言うのは」

ユウ 「ばかっ! 諦めるな!! 絶対助かる!!」

フィー 「ユウ…聞いて」

俺は声を荒げながらも、フィーの言葉を聞いた。
わかっていたのだ…フィーが、もう助からないというのが。

フィー 「ユウ…これから話すことは、この街に住んでいた、妖精族皆の言葉だよ…」
フィー 「これから起こることは、大地の神様が起こすことなの…」
フィー 「でも、運命をただで受け入れないで…運命は、自分で切り開く物なの」
フィー 「ユウならできるよ…ううん、ユウにしかできない」
フィー 「だから、ガイアさんを止めて…例えどんな方法をとっても」

ユウ 「…わかった」

フィー 「ありがとう…私、ユウに出会えて、幸せだった…」
フィー 「最後に、こんな告白をする私を…許し、て……」

ユウ 「フィ、フィー…!」

俺はフィーを抱きしめた。
冷たくなっていく小さな体を、優しく包み込んだ。


………。


俺はフィーたちの住処に着き、絶句した。

ユウ 「嘘だろ…何で、こんな…」

その森の小さな妖精の村は、まさに地獄だった。
大地がまるで怒り狂ったかのように隆起した後がある。
その結果、妖精たちは無残にも全滅した。
岩でも降り注いだのか、死体や家の残骸には、岩や泥、土が散漫していた。

ユウ 「おっさん…」

俺の中で何かが切れた。
しかし、俺は不思議と冷静でいられた。
俺は激情を心の中に封じ、妖精たちを弔った。

そして、ひとつの結論を出した。


ユウ 「おっさん…俺が引導を渡してやるよ」


それは、絶対に許すことのできない激情だった。



ユウ 「どこだ!? どこにいる!!」

俺は森中を駆け抜けた。
が、おっさんの姿は見えず、むしろ荒らされまくった森の姿があるだけだった。

ユウ 「く…!」

俺が立ち尽くしていると、足音が聞こえた。
俺は音の方を向くと…そこには。

レイナ 「ユウ! やっぱりいたのね」

レイナだった、どうやら、森の異変を感じたらしい。

ユウ 「レイナか…ひとりなのか?」

レイナ 「う、うん…ネイは何だかユミリアさんに呼ばれてたみたいだけど」

ユウ 「そうか…」

俺は言葉が無かった。
それ以上に、怒りを抑えるのが辛かった。
例え戦争でも、ここまで怒りに震えたことは無い。
修行のおかげで、どんな状況でも心を乱すことが無かったからだ。
だが、今はそれが辛い…。

レイナ 「…ユウ」

ユウ 「フィーが死んだ」

レイナはその言葉を聞いて、絶句する。

レイナ 「え…?」

ユウ 「正確には殺された…それも、ガイアのおっさんにだ」

レイナ 「ど、どういうことなの!?」

俺はフィーの遺言と共に、事態を説明した。

レイナ 「…そんな、どうして?」

ユウ 「そんなことは知らない…ただ言えることは、今のおっさんは危険だということだ」
ユウ 「レイナ…おっさんのパルスを探知してくれないか? 俺はおっさんを『止める』」

あえてそう言ったが、本音は『殺す』つもりだった…それが結果として最良の『止める』方法だからだ。
レイナにそう言ったら多分、止めるだろうからな。
恐らく、今のおっさんは俺たちの知っているおっさんじゃない。
フィーの言葉。大地の起こすこと。
おっさんはその言葉に関係あるんだろう…。
そして、何よりも俺の中でおっさんを助けることはできないかもしれない。と、何かが告げていた。

レイナ 「ユウ…わかったわ。私も、覚悟を決める」

さすがレイナというべきか…。
経験上、俺の心境を悟ったのだろう。

レイナ 「森が…泣いてる。精霊たちが悲しんでる。ガイアさんがしたことなら、それは許せないことよ」

レイナもわかってる。本当はガイアさんがそんなことをする人ではないことを。



………。


ユウ 「どうだ?」

レイナ 「おかしいわ…まるで感じない、ううん。多分違う」

ユウ 「どういうことだ?」

レイナは集中を解くと、一息ついて俺に向きなおす。

レイナ 「ガイアさんのパルスが全く無いの…少なくとも今の私なら、都市全体を探知できるはずなのに」

ユウ 「何だって…?」

あのレイナが言うんだ、かなり間違いは無いだろう。

レイナ 「ここに残っている残留パルスから感じても、見つからないの。もしかしたら、意図的に消せるのかもしれない」

ユウ 「パルスをコントロールできるのか…信じられないな、邪神軍でさえ何人できたか」

レイナ 「私が知っている限りでは、四天王クラスよ」

俺たちはその場で立ち尽くした。
だが、俺は立ち止まるつもりは無い。
ネイに会うついでに、俺たちはユミリアさんの元に向かうことにした。



………。
……。
…。



ネイ 「…やっぱり、そうだったんですね」

ユミリア 「…気づいていたのね」

アリア 「……」

ネイ 「はい、だって、自分の体ですから」

私は笑顔で答えた。
ユミリアさんとアリアさんは悲しい顔をしている。
その時私は、確信した。


ネイ (ああ、もう私は…助からないんだ)


って。



ユウ 「ユミリア先生!!」

俺は学校の保健室に来た。
さすがに学校内ではできるだけ『先生』をつけることにしてる。

ガチャ

すると数秒してドアが開き、ユミリアさんが顔を見せた。
しかし、その顔はどこか悲しげに見えた。

ユウ 「ネイが、どうかしたんですか?」

俺がそう答えると、ユミリアさんは何か怯えたように。

ユミリア 「ユ、ユウ君…?」

俺は鈍感じゃない。
ユミリアさんは嘘が下手だ。
十分に俺に勘づかせる結果になった。

ユミリア 「…それが目的?」

ユウ 「半分は…」

ユミリア 「覚悟はできている?」

ユウ 「…もう、親友の死を看取った後ですから」

俺はさらりと言いのけた。
後ろでレイナは涙をこらえているのがわかった。
ユミリアさんはそんな俺の素振りを見て。

ユミリア 「入りなさい…そして、全てを受け入れなさい」

ユウ 「はい…」

俺が、中に入ると、中にはネイが椅子に座り、アリアさんが横に立っていた。
ユミリアさんは机の前の椅子に座ると、静かに語りだした。

ユミリア 「ユウ君…勘のいいあなただから気づいているかもしれないけど」

ユウ 「もう、長くないんでしょう…ネイは?」

俺がそう言ったことに1番驚いたのは他ならぬネイだった。

ネイ 「ユ、ユウ…どうして?」

ユウ 「俺が気づかないと思っていたのか? 俺は…戦争を潜り抜けて、色々と人の死に触れてきた」
ユウ 「俺にはわかるんだよ…人の死期が」
ユウ 「決していいことじゃない…人の死期がわかるのは嫌なもんだ。道ですれ違った人の死期でさえわかるんだ」
ユウ 「ああ、あの人は、もうすぐ死ぬんだ、って」

ユミリア 「なら、率直に言うわ。ネイはカオスサイドの人間だったのよ」

ユウ 「カオスサイド…俺の父さんと同じ」

ユミリア 「そう、そして、ネイはこのセントサイドに来たことによって奇病にかかった」

ユウ 「奇病?」

ユミリア 「未だに解明されてない不治の病よ…それもカオスサイドの人間だけがかかる、奇病」

俺は覚悟はしていたが、やはり絶句した。
まさか、そんな病気だとは。

ユミリア 「病名すらないわ…誰もこの病気の存在自体認めようとしないもの」

ユウ 「……」

俺は何も言わなかった。

ユミリア 「これはカオスサイドの人間が、セントサイドに来た時にかかる奇病よ」
ユミリア 「確率ははっきり言って、1兆分の1と言ったところね」
ユミリア 「一世紀の内、世界でひとりかかるかかからないかと言った確率よ」

ユウ 「じゃあ、ネイはその1兆の中の」

レイナ 「ひとり…」

今まで声すら出せなかったレイナがようやく声を紡ぐ。

ネイ 「うん、だから…私、もう後1年ぐらいなんだった」

ユミリア 「ちなみに、この病気はとてつもなく遅効性で、潜伏期間は15年よ」
ユミリア 「そして、発病したらおよそ1〜2年で死亡するわ」

ユウ 「発病したら死ぬまでの間、どうなるんですか?」

ユミリア 「何もないわ…。死ぬその日まで、何も起こらない」

ユウ 「え…?」

ユミリア 「恐怖でしょう? 死ぬとわかっていても、それを感じるだけで、体には現れない」
ユミリア 「時が来たら、ぷっつりと、糸の切れた人形のように逝くことになるわ」
ユミリア 「ただ、この病気は他の病気に無い恩恵があるの」

レイナ 「恩恵…?」

病気に恩恵だなんて…。

ユミリア 「それは、苦しむことなく死ねることよ…」

ユウ 「………」

成る程…。
確かに他の病気に無い恩恵だ。
苦しまないことに越したことは無い。

ユミリア 「発病してから死ぬまでの間は個体差があるからなんとも言えないわ」
ユミリア 「ネイはすでに発病している。ひょっとしたら明日、いえ、今日には死ぬかもしれない」
ユミリア 「…ううん、今まで生きていたことすら僥倖と言っていい」

ユウ 「過去に発病した人はどれくらいで?」

ユミリア 「…早くて発病したその日。遅くて3年後よ、その前後と見ていいでしょうね」

ユウ 「無茶苦茶だ…それじゃあ特定の仕様が無い」

ユミリア 「ただはっきり言えることは、発病した全ての者が、例外なく死んでいるという事だけよ」

途端に空気が重くなる。
ネイはそれでも笑っていた。

ユウ 「ネイ…」

俺は何も言えなかった、恋人が今日にも死ぬかもしれないと言うのに。

ネイ 「ユウ…私の側にいて」
ネイ 「ユウが側にいてくれるなら、私は幸せになれる」

ネイは俺の手を取り、優しくそう言った。

俺は断るはずも無く、ただ強く頷いた。

ユウ 「俺はお前の恋人だ! これからはずっと一緒だからな!!」

アリア 「……」

ユミリア 「アリア、あなたもそろそろじゃないの?」

アリア 「ええ、そうね…でも、今はそんな気分にはなれないわ」

レイナ 「アリアさんどうかしたんですかって…アリアさんそのお腹!」

レイナが突然叫ぶと、俺とネイはアリアさんの腹部を見た。
すると、何だか膨れていることに気づいた。
そうだ、結構前から思ってたんだが、やはり間違いじゃなかった。

ユウ 「アリアさん、おめでたですよね!?」

ネイ 「おめでた…?」

レイナ 「赤ちゃんができたってことよ!」

ネイ 「ええ! アリアさんの子供ですか!?」

ネイはこれまでに無い位はしゃぐ。
まるで、自分のことのように喜ぶ姿に、俺は涙しそうになった。

アリア 「ええ、でも…こんな状況で」

ネイ 「いいんです! 私が死んでも、この子はきっと生きます! それがわかります」

ネイは本当に嬉しそうに笑った。
釣られて俺も笑った。
レイナも笑った。
ユミリアさんも笑った。
そして、アリアさんも笑った。


………。


そして、俺はようやく事の重大さを思い出し、悔やみながらも事情を説明した。

ユミリア 「そう、ガイアが…やっぱりね」

アリア 「……」

ユウ 「やっぱりって…どういう」

ユミリアさんは鋭く俺を睨み、言葉を繋げる。

ユミリア 「あれは大地の三闘神のひとりガイアよ」

ユウ 「三闘神…?」

レイナ 「それは、あの月の女神アルテミスが光の神ゼウスのために生み出した…」

ユミリア 「よく知っているわね」

レイナ 「学園の書物で読みました…確か、グランド、アース、ガイアの3人でしたよね?」

ユミリア 「そうよ、でも今回のことはグランドは絡んでいないでしょうね」

ユウ 「何故わかるんです?」

ユミリア 「グランドはすでに死んだからよ…神と言えども不死身ではないわ」
ユミリア 「歴史がそれを証明しているの…もっとも、グランドは人として生き、死んだのよ」

ユウ 「何故人としてなんですか…?」

ユミリア 「…人に、恋をしたからよ」

俺はその言葉を聞いて、うろたえる。
神様が、人に恋をした…?

ユミリア 「別におかしいことではないわ、愛に国境はないもの」
ユミリア 「ちなみに、グランドは子孫を残し、その子供が作った国が…プルート帝国よ」

レイナ 「ええ!? じゃあ、グランド様の子供は…」

ユミリア 「そう…テラ・プルート。つまりユウ君の父親よ」

ユウ 「!!」

俺は驚きを隠せなかった。
俺の父親が帝王で、神の子…。

ユミリア 「恐らく、この事件の首謀者はテラね…」

ユウ 「!!」

予想はしていた。
何となく、そんな答えが来る。
ユミリアさんの口調がそう言っていた。

ユミリア 「でも、目的はわからないわ…。むしろユウ君にわからないことは私たちにもわからない」

ユウ 「わかりました…後は、自分でやります」

ネイ 「ユウ! 私も行く!!」

ユウ 「止めても無駄だろうな、好きにしろよ」

すると、ネイは嬉しそうに。

ネイ 「うんっ、私も手伝うからね!」

レイナ 「ふたりだけで背負い込まないで! 私だって立派な風の王女よ?」

ユウ 「俺の個人的な考えで戦おうってのに…揃いも揃って馬鹿が多いな」

俺たちは結束を固め、これから何が起ころうとも全てを受け入れる覚悟を決めた。



ユミリア 「…また戦いが始まるのね。涙より悲しい運命と共に」

アリア 「ユウ君は、例え体が朽ちようとも信念を貫くでしょうね」
アリア 「私の中に眠っているこの子も、いずれ…」

ユミリア 「名前は決めたの?」

アリア 「ええ…ミリアよ」

ユミリア 「ミリア、ね…その子が正しき道を歩めるように、道を正すのはユウ君たちなのかもしれない」

アリアはそれを聞くと、くすくすと笑い。

ユミリア 「何?」

アリア 「ううん、私にとっては、ユウ君たちの中に、あなたもいるのよ?」

ユミリア 「!? な、何言ってるのよ…私はもう引退よ」

アリア 「だから、あなたは嘘が下手なのよ…わかるの、あなたが親友や子供たちををほっとけないのを」

ユミリア 「………」(汗)

そう…戦いは始まる。
そして、私も覚悟を決めていた。
もし、ユウ君がためらうようなら、私が全てを終わらせる…。

…To be continued



次回予告

ネイ:突如始まった、悲劇。
涙を拭いている余裕は無い。
私たちは止まれない。
戦いは、もう始まっている…。

次回 Eternal Fantasia 2nd Destiny

第15話 「遺言」


ネイ 「それは、大切な事でした…」



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