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第15話 「遺言」

ユウ 「………」

正直焦っているのかもしれない。
朝の状況からは考えられない事態になっていた。

バル 「ユウ…これはどういうことだ?」

ユウ 「…ああ」

俺は街の慌て振りに驚いた。
奇跡の森だけならば、そんなに事件にもならなかったろう。
だが、街はことごとく荒らされていた。
そんな中、俺たちは中央広場に集まっていた。
集まった人間は、冒険探索部のメンバー全員と、ウィルさん、ルナさん、ノームにドリアード。
俺は皆に事情を話した。

バル 「成る程…厄介なことだな、大地の神とは」

ウィル 「…テラ・プルートね」

ウィルさんが珍しく難しい顔をしながら、その名を口にする。
ウィルさんがこういう顔をする時は大抵、嫌な事の前触れだ…。

ルナ 「カオスサイドの皇帝…何で、こんな街に?」

レイナ 「ユミリアさんでもわからないそうです…ただ」

ウィル 「ユウにわからないなら、誰にもわからないでしょうね…」

ウィルさんがそう呟くと、皆が瞬間ウィルさんを注目する。
そりゃそうだ、ユミリアさんと同じ事を言うんだから。

ユウ 「ウィルさん…?」

ウィル 「考えれば誰でもわかるでしょ? ユウはテラの息子なのよ…例え望まれなかった子にしてもね」

俺はその言葉を聞いて少し胸が痛くなる。
望まれなかった子。
そうだ、俺が生まれたために、母さんは追放された。
結果として、父さんもそういった恥辱を受けたのかもしれない。

ウィル 「結局、私たちに解決できることじゃないわ。ユウがやらないと」

ルナ 「でも、それじゃあ…」

ウィル 「別に手伝わないとは言ってないわよ…やれることはやるわ。仲間だもん」

ユウ 「いいんですよ、俺がやらなければならないのはわかってます」

バル 「どちらにしても、この状況は問題だ。すでに厳戒態勢が取られている。自警団も動いているそうだ」

ユウ 「はっきり言って相手は神様だ…だから戦闘に向いてない奴らは今回は外れてもらう」

俺のその言葉を聞いて、場が静まり返る。

ユウ 「戦闘で手伝ってもらうのは、ネイ、レイナ、バル、レイラ、ウィルさん、ルナさん、ノーム、ドリアード。以上」

ミル 「ちょ! 本気なの!? どうして…」

ピノ 「ダメですよミルさん! 僕らじゃ、足手まといです…」

ピノがミルを止める。
わかっているはずなんだ、今の状態がどういうことか。
死ぬかもしれない…。
それがわかるから、誰も反論しない。

ジェイク 「…情けないものだな、友人が死地に赴くのを止めることもできんとは」

ジョグ 「不吉なこと言うんやない! 生きて帰ってくるに決まっとるやろが!!」

ポール 「…人が神に挑むのは無謀やけどな」

ユウ 「大丈夫だ、俺は人の子じゃない…」

エイリィ 「…ユウ」

ユウ 「心配するな、まだ大丈夫だろ…大体、今年でやっと3rdだぜ?」
ユウ 「まだ卒業考えなきゃならねぇのに…」

ネイ 「そうだね、卒業かぁ…」

ネイは笑いながらも俯いた。
覚悟はしているのだ、卒業を迎えられるかどうかもわからないから。

ネイ 「………」

ネイはポケットからヘアバンドを取り出し、後ろ髪を束ねてお下げを作った。
あの時と同じ…俺と戦った時に見たあの姿に似ていた。
でも、顔つきが違う。あの時よりも数段大人になっているし、何よりも笑うようになった。

ユウ 「さて、まずはおっさんを探さないとな」

レイナ 「でも、見つかるかどうか…」

バル 「レイナに探知できないと言うのなら絶望かもしれん」

ネイ 「だけど、街がこうなってるって事はまだ…」

色々と考えが出るが、まとまらない。

ユウ 「何故、街を破壊するんだ?」

ふとそんな考えがよぎった。

ウィル 「ただの破壊衝動じゃないの? 珍しいことじゃないでしょ…ドグラティスの廉価版と思えば」

ルナ 「そうなのかなぁ…」

バル 「…ドグラティスに比べれば小物だ、戦闘に入れば何とかなろう」

ユウ 「だといいがな…」

どうも、呼ばれている気がする。
おっさんは俺を呼んでる。
俺をおびき寄せるために街を…?

ユウ 「俺はひとりで行動する、皆はそれぞれ適当に散ってくれ」

俺はそれだけを言うと、その場を走り去った。



………。



街はかなりの被害が出てる、パニックにはなってないが、不安がってる。

ユウ 「多分、おっさんは森にいる」

根拠はなかったが、確信があった。
俺を呼ぶ声がする。
それはおっさんであっておっさんじゃない。

ユウ 「……!!」

俺は奇跡の泉で立っていた。
間違いない…ここで俺を呼ぶ声がする。


ユウ 「………」

俺は心を静めて、念じる。
耳を澄ますのではなく、心を開く。

『マッテイタゾ』

ユウ 「…おっさん」

俺は泉の向こう側を見る。
すると人影があった。
見間違うはずのないその姿。

ガイア 「来たな…できそこない」

ユウ 「何…?」

声を発したそれは俺の知っているおっさんではない。
それが確証に変わった。

ガイア 「テラが随分とお荷物にしてるようだが…」

ユウ 「おっさんは父さんを知ってるのか?」

俺は極めて冷静に質問する。

ガイア 「…父さんね、あいつはお前のことを息子とは一度も言わないがな」

ユウ 「………」

ガイア 「まぁいい…お前はどの道ここで死ぬ」

ユウ 「勝てると、本気で思うのか?」

ガイア 「…それは、おまえ自身で知れ」

おっさんはそれ以上は何も言わず、俺に向かって突っ込んできた。
見たところは素手。
だが、その拳には魔力と気力の両方がこもっていた。十分に殺傷能力がある。
俺は迷うことなくオメガを抜いた。

ユウ 「シールド!!」

俺はシールドモードでおっさんの攻撃をまず見極める。

ガイア 「ふんっ!!」

おっさんは何も考えていないのか、楯の上から殴りつけてくる。
オメガの力は俺でもわかりきってない。だが、これを『破壊』することは実質不可能のはずだ。
だが、俺の体重では衝撃までは完全に防げない。
十分に足腰には負担がかかる。
だから俺はシールドの形状を変え、おっさんの攻撃を受け流す。

ガイア 「む!?」

おっさんの体が外に流れる。
俺はそれを見逃さない。

ユウ 「ソード!!」

俺はソードモードで上段に振り下ろす。
止める気は毛頭無い!!

ザシュッ!!

ガイア 「がっ!!」

何と、おっさんの体でオメガが止まる。
どうなっている!?

ガイア 「詰めが甘いぞ、できそこない!!」

ユウ 「!?」

俺は咄嗟に身を捻り、おっさんの蹴りをかわすが、腹部から切り裂かれたように傷ができ、血が流れる。

ユウ 「ちぃ!」

俺は距離を一気に詰め、攻撃を繰り出す。
その際に魔力を溜め、追撃の準備もする。

ユウ 「へあっ!!」

俺はもう一度全力で振り下ろす。
おっさんも避けようとはしない。

ユウ (二度も受けられるのか!?)

ドシュウッ!!

再び俺の剣はおっさんの肩で止まる。
何故切れない?
だが、俺は考えるよりも先に次の行動に移る。
ここまでは予測済みだ。

ユウ 「アステロイド・フレア!!」

俺は後先考えずに爆裂魔法を繰り出す。
おっさんは何かを覚悟している。
心で負けるわけにはいかない。

カッ! チュドッォォォォォォォン!!!

一瞬の閃光の後、爆炎がほとばしる。
普通なら一瞬で灰になる威力だ。

ユウ (どうだ!?)

この近距離なら普通致死量だ…。

ガッ!

ユウ 「ぐっ!!」

突然、爆炎の中から首を掴まれる。
俺はおっさんに掴み上げられる。

ガイア 「くくく…やっぱり甘いなできそこない」

ユウ (どうなってるんだ? 傷はあるし、血も出てる…火傷だって)

おっさんは片手で俺の首を絞める。
俺は必死に耐えるが、呼吸が辛い。

ガイア 「まだまだ経験不足だな、戦闘とはただ攻撃を当てればいいというものではない」

おっさんが余った手で俺を攻撃しようとする。
く、こうなったら…。
だが、俺が考えるより先に…。

ガイア 「!?」

突然、おっさんが俺を投げ捨てる。
俺はその際に泉に落ちた。

ガイア 「危ない危ない…ネイ、だったな?」

ネイ 「記憶が曖昧なの? もう何度も話したことはあるのに…」

ガイア 「ああ、その記憶はほとんど消したもんでね…」

ネイ 「やっぱり…意図的に記憶を操作して」

何となく予感はあった。
私もやっていることだから。
ユウはおろか、ユミリアさんとアリアさん以外誰にも言ってない。
私の記憶はとっくに戻ってる。
多分、発病したとほぼ同時に…。
ただ、勘のいいユウに気づかれないためには記憶を操作して、本当に忘れるしかなかった。
正確には消すと言うよりも眠らせると言う方が正しい。

ガイア 「成る程…どうやらできそこないとは違うようだな」

ネイ 「なめないことね…私は生憎ユウのように甘い戦いはしないわよ」

伊達に、生まれた頃から戦闘訓練を受けてないからね。

ガイア 「ふっ、だがお前には用は無い。俺はユウに用がある」

ネイ 「どういうこと…?」

ガイアはそのまま、背を向け立ち去ろうとする。

ガイア 「ユウの命は預ける…俺は他にもやることがある。できそこないに伝えておけ…最初に会ったあの場所、あの時間に俺はいると」

それだけを言って、ガイアは霧の中に消えた。
いつのまにか霧が立ち込めている。
そんな力も持ってるの?
私は、ユウを助けるために泉に沈む。


ユウ 「………」

見つけた!
私はユウを抱きとめると、すぐに地上に上がる。

ユウ 「ぐ…げほぉ!」

ユウは水を吐き出す。
窒息しかけていたのね。
でもそこで私は不思議なことに気づく。

ネイ (傷が…塞がってる?)

血も止まっているし、傷もかさぶたになっている。
こんなに早く再生する物なの?

ネイ (とりあえず、周りを消火しないと…)

見ると、ユウの魔法で周りの森が焼けてしまっている。
このままだと炎が広がる可能性もあるわね。
私は泉の水を魔法で回りにシャワー状に振り掛ける。
程よく、火は消え、それを確認した私はユウを抱え、ユミリアさんの元に向かうことにした。


………。
……。
…。


ユウ 「……」

ユミリア 「…どうやら、意外に強敵だったようね」

ネイ 「…はい」

保健室で、私はユミリアさんと会話をしていた。
ユウは、ユミリアさんの睡眠薬で眠らされている。

ユミリア 「…あなたの方は大丈夫なの?」

ネイ 「…見ての通りですけど?」

ユミリア 「そうじゃないわよ…記憶のこと。まだ、話してないの?」

ネイ 「…はい」

私は小さく、そう答えた。

ユミリア 「いつまで、騙しつづけるの?」

ユミリアさんは、少し神妙な顔で言った。
言いたいことはわかる、でも。

ネイ 「私が、死ぬまでです…」

ユミリア 「どうして…? ユウ君はあなたの全てを受け止めてくれるわ」

ネイ 「わかってます、だから…ダメなんです」

ユミリア 「え?」

ネイ 「ユウは優しすぎます。私の記憶が戻ったことを知ったら、それこそ命を捨ててでも私を守ろうとする」
ネイ 「私の、手も、体も…汚れています。ユウもそれを知っている」

ユミリア 「だからこそ、全てを打ち明けようとは思わないの?」

ネイ 「思いません。私は、ユウを愛してますから」

私は何も迷うことなくそう言い放った。
でも、ユミリアさんは悲しそうな顔をする。
昔、実際に戦った時は、お互い、こんな気を使う相手ではなかったのに。
私は今更ながら、ああ…変わったんだな。って思う。

ユミリア 「ユウ君はきっと、気づくわ…彼は、凄く鋭いから」
ユミリア 「もし気づかれてしまったら、彼はきっと悲しむわ。何で打ち明けてくれなかったのかって」

ネイ 「それは、違うと思いますよ…」

ユミリアさんはわからないと言った風に私を見る。

ネイ 「ユウも私も、お互いを信じてわかりあってるから、今の関係があるんです」
ネイ 「だから、もしばれてしまっても、ユウは私の考えを理解してくれるだけです」
ネイ 「ユウも私も…きっと、馬鹿ですから。好きな人のことは、何でもわかるんです…」
ネイ 「だから、私はユウが好きですし、ユウも私のことを好きでいてくれます」

ユミリア 「…そう、羨ましいわね。そこまで信じあえるなんて」

ユミリアさんの言葉を聞き、私は立ち上がると、保健室の窓を開け、そこからすでに夜がふけて真っ暗になった空を見上げた。
星が輝き、街を照らす。
私は闇の中の風を感じながら言葉を紡ぐ。

ネイ 「記憶が蘇った時、私は自然でいられました」
ネイ 「ユウたちと一緒に戦った記憶もちゃんと残ってましたし、登校してた記憶もあります」
ネイ 「過去を思い出したけど、今が幸せすぎたから…私は今を大切にすることにしました」
ネイ 「だから、ユウが気づかないのなら、私は死ぬまで、騙しつづけることになります」
ネイ 「でも、悪い意味で騙すんじゃないんです。良い意味で騙すんです」

ユミリア 「わかったわ、もう何も言わない…そこまで考えているのなら」
ユミリア 「もう帰りなさい、ユウ君は明日には回復するわ」

ネイ 「…はい」

私は窓を閉めると、剣を取って保健室を出た。


………。


ユミリア 「…今のが、本音よ」

ユウ 「そう、でしたね…」

俺は初めから眠ってはいなかった。
ユミリアさんの考えで、俺はネイの本音を聞くことになった。
知らなかった…。
ネイの記憶が蘇っていたなんて。
記憶が蘇ってなお、俺を好きでいてくれるなんて…。

ユウ 「…何で、あんなにまで俺を信じてくれるんだよ。俺はお前に答えられるほどいい男じゃないのに」

俺は声に出さず泣いた。
死を覚悟してまで、俺を気遣い、騙そうとするネイ。
確かに、俺は例え騙されていたとしても、ネイへの想いは膨らむだけだろう。
ネイが俺を想ってそう企むのも納得がいくし、理由もわかる。
だけど…悲しすぎる。
結果が、未来がわかっているだけに、悲しすぎる。

ユウ 「ネイは…助からないんですか?」

俺は無理とわかっていても、そう聞いた。

ユミリア 「歴史が無理と証明してるわ…。今までの記録に、生存者の名前はひとりもいない」
ユミリア 「ただ、わかっているのは100%の死…」

ユウ 「俺の力で、時を止めてしまえば…」

ユミリア 「馬鹿なことを言っちゃダメよ! 永続的に止めようと思うのなら、あなたの命を奪う結果になるわ! あなたは神ではないのよ?」

俺の言葉を聞いて、ユミリアさんは怒気を交えて反論する。

ユウ 「でも、神の血は混じってますよ」

俺は冗談混じりにそう言った。

ユミリア 「ダメよ…ネイはそれを望まないわ」

ユウ 「…わかってます、だから…悲しいんです」
ユウ 「助けられる道は無いとわかっていても、道を探してしまう」

ユミリア 「…運命は自分の力で変える物。だけど、ネイの運命は変えようが無いのよ」

ユウ 「…何故、ネイが死ななければならないんでしょうね」
ユウ 「戦いの記憶を思い出しても、幸せを望んだネイ。やっと、人並みに幸せが掴めたのに…」
ユウ 「これから、色んな時を過ごしたいのに…」
ユウ 「ネイは、いつ死んでもおかしくない状態なんだ…」

ユミリア 「ユウ君、今は眠りなさい…。そして、今日のことを忘れなさい」
ユミリア 「ネイはあなたが思っているよりも、強い娘よ」

ユウ 「はい…」

俺は言葉に甘えて眠ることにした。
今だけは、眠って全てを忘れたい。



………。
……。
…。



その夜、俺は夢を見た。
それは、とても大切なことを告げる夢。

ガイア (ユウ、最後にお前に言っておくことがある)

ユウ (おっさん? 一体、何の用だ…!?)

ガイア (いいか…お前も知っている通り、昔の俺はもう存在しない)

そこで俺は気づいた。
これはただの夢じゃない。
過去のおっさんが、俺に見せている夢だ。
夢にしては鮮明すぎるし、意識がしっかりしすぎている。

ガイア (理解したか? この夢は、俺がお前に残してやれる言葉を言うためだ)

ユウ (おっさん! 何でだよ!? 何で、あんなことに…)

ガイア (あれが、本当の俺なんだ。いいか、俺は大地の神)
ガイア (そして、俺はセントサイドに住む全ての人間を粛清するために来た存在なのだ)

ユウ (なっ!?)

ガイア (もう俺は、己の運命に逆らうことはできない…道を進むしかないんだ)

ユウ (おっさん…)

ガイア (おまえたちと一緒にいた半年間…本当に楽しかった、もう時間がなくなるな)

ユウ (待ってくれ! まだ俺はおっさんに…!)

ガイア (子供は大人の言うことを聞くものだ…お前はまだ子供なんだよ)

ユウ (!!)

俺は、言葉を失う。
全くその通りだ…。
状況がわかっているくせに、駄々をこねて、大人を困らせる。

ガイア (最後に言っておく、お前はこれからもっと辛いことに出会っていくだろう)
ガイア (だが、決してその状況に負けるな! 強い心を持て!!)
ガイア (お前なら、未来の運命を変え、新たな土台を生み出すことができる)

ユウ (おっさん…? 意味がわからないよ…?)

ガイア (今はいい…大人になればわかる。そして、父さんにガツンとやってやれ!! 今のあいつはちょっと根性が腐ってる)

ユウ (お、おっさん…)

俺は笑いを噴出しそうになる。
いや、おっさんはあの笑顔だった。
俺を安らかにさせてくれる、あの笑顔…。
だから、俺も笑った。
そして、去り行くおっさんの最後の背中に向かってこう言った。

ユウ (ああ! 俺に任せとけ!!)

おっさんは振り向かずに手を振った。
俺はおっさんの最後の背中を、ずっと見ていた。
涙が頬を伝っても声には出さなかった。

ユウ (俺にとっては、おっさんも父さんだったよ…)



………。
……。
…。



ユウ 「………」

ちゅん、ちゅん…


最初に見えたのは白い天井。
見間違うはずも無い、ここは保健室だ。

ユウ 「……」

俺は上半身だけを起こし、少しぼーっとする。

ユウ 「…おっさん」

誰にでもなく、そう呟いた。
夢の内容は完璧と思えるほど鮮明に残っている。
あれはおっさんが俺に残した遺言だ。
俺はそれを心に刻み、立ち上がる。
服は昨日のままだったので、俺は一旦寮に帰ることにする。

ユウ (ユミリアさんはいないのか…)

俺は机に置手紙を残し、保健室を出た。
すると、廊下でばったりとユミリアさんに出会う。
後ろにはアリアさんもいた。

ユウ 「あ…」

俺は言葉が出なかった。
別にやましいことは無いんだが。

ユミリア 「あら、もう大丈夫なの?」

手元を見ると、食料の入った袋を持っていた。
買い物の帰りだろう。
俺は時間を見忘れていたことに気づいた。

ユウ 「はい…これから寮に戻ろうと思います」

ユミリア 「そう、気をつけるのよ?」

ユウ 「はい」

俺はそれだけを言って、去ることにした。

ユウ 「それじゃあ、アリアさんもお大事に…」

アリアさんは妊娠中らしいからな…腹の膨れ具合から言ってもそろそろ辛い時期なんだろうな。

アリア 「ふふ、ありがとう…ミリアも喜んでるわ」

ユウ 「ミリア…?」

俺は意味不明に聞き返す。

アリア 「ええ、この娘の名前よ」

ユウ 「ああ、成る程…って、まだ男か女かもわからないでしょうに!」

俺は最もな言葉を返すが、アリアさんたちはごく当たり前かのように。

ユミリア 「アリアは自分の子供のことがわかるのよ、正確には邪眼の力ね」

俺はそれを聞いて、ああ成る程と思う。

ユウ (アリアさんってそう言えば邪眼族だったんだな)

俺は今更ながらに思い出す。
力を使った所を全く見たことが無いし、額のバンドをとった所も見たことが無い。
証人がユミリアさんだけだからなぁ…。

ユウ 「ま、まぁ、俺はこれで…」

これ以上時間をかけるのもなんなので、俺は切り上げることにする。

ユミリア 「ええ、じゃあね」

俺は一礼して、走り去った。


………。


街は相変わらずだった。
ここまで破壊して…。
セントサイドを粛清か。
考えれば無茶苦茶だぜ、こっち側の全人類抹殺だからな。
俺はおっさんの遺言を胸に、強く、強く、足で大地を踏みしめた…。

…To be continued



次回予告

レイナ:あれから特に何も起こらない日常が過ぎていった。
ガイアさんの言った通りなら、夏までは会うことはないという。
でも、残りのふたりの動きも気になる。
だけど、今は…そんな日々も良いかもしれないと思えた。
そんな気持ちの中、私たちはそれぞれの思いを馳せる。

次回 Eternal Fantasia 2nd Destiny

第16話 「最初で最後のValentine」


レイナ 「いいのよ、義理じゃなくても義理だから」



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