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第16話 「最初で最後のValentine」

ユウ 「………」

不思議と、目覚めは自然だった。
何となく、悪夢を見そうな…そんな勘があったからだ。

ユウ 「逆に、こっちが悪夢だったりしてな…」

俺はふとそんなことを呟いた。
夢であってほしい、何故これが現実なのだろう?
俺はそんな気持ちを胸に、着替えを済ました。

ユウ 「…今日は2/14」

世間では、ヴァレンタインと呼ばれている日だな。
俺には全く縁のない日だ。
今まで一度も貰ったことはないし、欲しいと思ったこともない。

ユウ 「でも、今年は…」

俺にとって、最初で最後かもしれないんだな。
ふとそんなことが脳裏に浮かぶ。
俺はそれ以上は何も考えず、鞄を取って寮を出た。


………。
……。
…。


いつものように奇跡の森を抜けていく。
いつもなら、フィーとたわいもない会話をして、学校に向かっていた。
でも、それももうない…。

ユウ (フィーは、もう…)

俺は、何故この道を通るのだろう? そんな疑問が浮かんだ。
そして、可笑しかった。
自分が、そう言うことに慣れてしまっているのに。

ユウ (ひょっとしたら、涙もその内枯れてしまうんじゃないか?)

セントサイドの粛清…。
俺がそれを止めたとして…その内今度は俺がカオスサイドを粛清しようとするかもしれない。
結局、俺は…。

? 「ユウは、絶対にそんなことはないよ」

俺は歩を止めて、後ろを見る。

ユウ 「レイナ…」

レイナ 「ユウは、きっと大丈夫。私は、信じてるから」

俺は何も答えなかった。
自分に自信がないわけじゃない。
だが、そうならない保証はどこにもなかった。
俺は何も答えず、ただ学園に向かった。
レイナも、何も聞かなかった。


………。


女性徒A 「ねぇ、今日は誰に上げるの?」

女性徒B 「そりゃあ、もちろん!」

そんな声が、あちらこちらから聞こえてくる。
俺はいい加減うんざりして、教室から出た。
今日の授業は全て終わり、皆帰宅する時間だ。

ユウ 「ったく、どいつもこいつも…」

ガイ 「全くだな、そんなに嬉しいかね?」

ユウ 「何だ、お前だったらもっと騒ぐと思ったぞ?」

ガイ 「俺は貰えないからね、気持ちはわからんよ」

ユウ 「それは僻みか?」

ガイ 「当たり前だろ、この幸せ者!」

ガイはそう言って俺の肩を叩き、走り去っていく。

ユウ 「はぁ…?」

俺は意味不明にと、振り返ると…。

ネイ 「………」

ユウ 「………」

俺は一瞬固まる。

ネイ 「どうしたの?」

いつものネイ…だな。
俺は全てを知っている、ネイは知らないんだろうな。
だからこそ、俺はいつものように振舞えなかった。

ネイ 「まるで、全部知ってるって言う顔だね」

ユウ 「!?」

俺は図星を刺されて、ネイの顔を見る。

ユウ 「お前…」

ネイ 「…ユウは嘘が下手よね、何かあると必要以上に冷静になるから、逆にわかりやすい」

ユウ 「………」

俺は何も言えなかった。
そして、何も聞こうとはしなかった。

ネイ 「誰かが寝てるかどうかなんて、呼吸を聞けばすぐにわかるわよ」

ユウ 「………」

俺は無言のまま歩き続ける。

ネイ 「…ユウ、一応…受け取ってくれるんでしょ?」

ユウ 「はぁ…? 何を、って…!」

俺は突然口に何かをねじ込まれる。
何かではないな、噂(?)のチョコだ。

ユウ 「甘い…」

ネイ 「当たり前でしょ…チョコなんだから、初めて作ったんだから」
ネイ 「これでも、非常食とか戦時食はよく作ったんだけどね」

ユウ 「…今時の女の子がそんなことを口にするか?」

ネイ 「いいの!、私はそう言う時代に生まれたんだから」

ネイはあっさりとそう答える。

ユウ 「やっぱり、全然違うな」

ネイ 「え…?」

ユウ 「今までのネイと…根は一緒だろうけどな」

ネイ 「…私のこと、嫌いになる?」

ユウ 「馬鹿っ」

ネイ 「きゃっ」

俺はネイを抱き寄せて、そのまま歩きだす。
可愛い声を上げる奴だ…。

ネイ 「ちょ、ちょっと…恥ずかしいわよ」

ユウ 「何言ってんだ? 前はお前からくっついてきたのに」

ネイ 「い、今は違うでしょう? もう…」

ユウ 「本当を言うと、ずっとこうしていたい…」
ユウ 「戦いなんか忘れて、時なんか止めてしまって…」

ネイ 「らしくないね、そんなに…怖い?」

ユウ 「………」

俺は何も答えなかった。
怖くない、そう言えば嘘になる。

ネイ 「今日、誰もチョコ上げなかった…何故だかわかるでしょ?」
ネイ 「皆、私のこと知ってるからよ」

ユウ 「なっ…?」

俺は驚いてネイを見る、だがネイは笑いながらこう言った。

ネイ 「私が話したの…全部」
ネイ 「それに、今日は私にとって、最初で最後の日だから…」

ユウ 「…ネイ」

ネイ 「ユウ…お願いがあるの」

ネイは俺に体を預けたまま、そう言う。

ユウ 「何だ?」

ネイ 「…私だって、何かを残したい」
ネイ 「死ぬとわかっているなら、未来に何かを残したい」
ネイ 「かつて、ユシルがユウに残したように…」
ネイ 「私も…」

ユウ 「な、何を言ってるんだ!?」

ネイ 「違うの…そうじゃない! 私だって…女よ」

ユウ 「意味が全然わからない」

ネイ 「アリアさんが、子供を身ごもって、私凄く羨ましかった」
ネイ 「未来に、残すものがあるんだって」

俺はその瞬間察した。
ネイは…。
だが、俺には決断できるものだろうか?
ネイは求めている…。
俺は…ネイの願いに答えられる『力』を持っている。

ネイ 「お願い…ユウ、私に…残させて、せめて…あなたとの子を」

ユウ 「………」

俺は迷いに迷った。
ネイのことを愛しているのは紛れもない事実。
病気を知らない頃は、いつしかこういうこともあるのかもという予感はあった。
だが、こんなにも早くそれが…。
しかも、チャンスは一度きりか…俺の力も何度も使えるものじゃないし、それ以上にネイに負担がかかる可能性がある。
できるだろうか? 失敗したらネイは死ぬ。
俺に…。

ネイ 「大丈夫…ユウを信じてるから」

俺は、その言葉で決断した。
信じてくれるのなら、俺は答えなければならない。
俺はネイを連れて、保健室に向かった。

ユウ 「ユミリアさんに協力してもらおう、いいよな?」

ネイ 「…うん、その方が安心できるよね」


………。


俺たちは保健室に着き、ユミリアさんに事情を説明した。

ユミリア 「…あなたたちも無茶なことを考えるわね」

ユウ 「………」

ユミリア 「はぁ、若いわね〜…まぁいいけど、保健室は施錠しておくから好きにしなさい、でもやるなら夜中にしなさい」
ユミリア 「日の昇る内は声がね…」

ユウ 「恥ずかしいことを、言わないで下さい! こっちまで恥ずかしくなります!!」

ユミリア 「あははっ、今から恥ずかしいことをする人間の言葉じゃないわね〜」
ユミリア 「でも、本当にやるの? 確かに検査の結果、今日はネイの危険日で受胎する確率は高い…」
ユミリア 「でもあなたは、それを確実にする力があるものね…」

ユウ 「………」

ユミリア 「わかったわ、好きにしなさい…でもチャンスは一度きりよ、それにネイの体が1番危険な状態にあること」
ユミリア 「あなた達がやろうとすることは、あなたたちの寿命を縮めることになるのよ?」

ユウ 「わかってます…でも、長く生きるより」

ネイ 「未来に子を残せることの方が、幸せなんです」

俺たちは手を取り合い、そう言った。
ユミリアさんは納得して部屋を出た。



ユミリア 「はぁ…全く、若いっていいわね」

アリア 「ユミリア…どうしたの?」

私が保健室の前に立っていると、アリアが話し掛けてくる。

ユミリア 「あなたより先に、子供を生む娘がいるのよ」

アリア 「…生徒が?」

ユミリア 「そ」

アリア 「…若いわね」

アリアは苦笑しながらそう言う。

ユミリア 「そう思うでしょ?」

アリア 「でも、どうして保健室だけに結界を張っているの?」

ユミリア 「それは、声が漏れたら…」

私はそこまで言って、止めた。
先に事情を説明しないと、誤解されるわ。


………。


アリア 「そう、そういうことなの」

ユミリア 「全く、無謀が好きよね」

アリア 「あの子なら、無謀じゃないわ…」

ユミリア 「……う〜ん」

アリア 「結界を張っているんでしょ? なら…っ」

突然、アリアが苦しみだす。

ユミリア 「ア、アリアっ!?」

アリア 「…ああ! ううっ!」

ユミリア 「嘘…なんてタイミング悪いのよ!」

私は、保健室の鍵を開け、乱入する。

ユウ 「ど、どうしたんですか!?」

ネイ 「……?」

ユミリア 「ごめん! ベッド先に使うわ!!」

私はアリアを担ぎ、ベッドに乗せた。

ネイ 「ア、アリアさん…」

ユウ 「ま、まさか…」

ユミリア 「そのまさかよ、ネイも経験する気ならよく見ておきなさい」

私は滅菌服に着替え、ユウとネイにも渡す。

ユウ 「って、俺手伝えませんよ?」

ユミリア 「道具出し位ならできるでしょ!」

私はそう言って、道具を並べる。
ネイは、驚いた顔でアリアさんの症状を見ていた。


………。
……。
…。


そして、日は暮れ…月が出始める頃、ひとつの命が誕生した。

アリア 「……はぁ、はぁ」

ユミリア 「ふぅ…おめでとさん、立派な女の子よ」

ユウ 「おめでとうございます!」
ネイ 「おめでとうございます!」

アリア 「…あ、ありがとう」

ユミリア 「ほら、あなたの子よ…立派に邪眼もついてるわね」

ユウ 「うわ…本当だ、目が額に」

俺は驚きながらそれを見た。

ネイ 「生まれた頃から、邪眼は開いているんですか?」

ユミリア 「そうよ、生まれてすぐは、力を制御できないから、邪眼は剥き出しの状態なの」

アリア 「ミリア…よかった」

アリアさんは、ミリアと名づけた子供を抱きながら笑った。

ユウ 「…これが、子供か」

ユミリア 「あなたたちも、今日経験するんでしょ? 私は徹夜かしら…」

ユウ 「あ、いや…その、まぁ」

ネイ 「私の時もお願いします♪」

ネイはわざと明るくそう言った。

ユミリア 「はぁ、わかったわよ! 好きにしなさい、もう」
ユミリア 「アリア、悪いけど動ける?」

アリア 「え、ええ…何とか」

ユミリア 「そう、じゃあちょっと病院まで行きましょうか…ここだとあれなんで」

アリア 「わかったわ」

ユミリア 「よっし、それじゃあ、お・た・の・し・み♪」

私はミリアを抱き上げると、嫌味混じりにそう言い残した。


ユウ 「………」
ネイ 「………」



………。
……。
…。



ユミリア 「まぁ、しばらくは安静にしなさい」

アリア 「もう、ここまで歩かせておいてよく言うわ」

ユミリア 「ふふ、まぁミリアと一緒なら大丈夫でしょ」

アリア 「そうね、あの子たちも今ごろ…」

ユミリア 「もう、私の苦労も考えてよ…明日も授業あるのに」

アリア 「ふふ、でもそれを見捨てないのが、あなたらしいわ」

ユミリア 「はぁ、お人好しよね…私も」

私はそう言って、保健室に戻る事にした。
時間を見計らって行くことにする。

………。

ユミリア 「あれから一時間ね…そろそろかしら」
ユミリア 「まさか、まだやってるなんて、そんなオチないでしょうね」
ユミリア 「いくらなんでも、これ以上は18禁に引っかかるわよ」

私は一応、決断して保健室に向かった。


………。


ユミリア 「………」

静かね…ってそれは私が結界張ってるからでしょうが!!
ひとり突っ込みしながら、私は恐る恐るドアに手をかける。

ユミリア (な、何か覗きみたいで嫌ねぇ…)

心のどこかにある、覗きたいという欲望を抑えながら私はドアから手を離した。

ユミリア 「よく考えたら、私の結界なんだから魔法で見たらいいんじゃない!」

そう言う結論に到達した。
何だか私、悪い魔女みたい。

ユミリア (っても、水晶球なんてあるわけないし…)

私はそこまで考えて、再び止まる。

ユミリア 「結局覗くのね…」

私は半分諦めながら、トイレに向かった。

ユミリア 「ここなら鏡があるし、大丈夫ね」

私は鏡に魔法をかけ、結界内の状況を探る。

………。

ユミリア 「何よ、もう終わってるんじゃない…」

心のどこかに残念と言う感情を押さえつけながら、私は保健室に向かった。


ユミリア 「さてと、もうユウ君も魔法に入るところでしょうね」

私はドアを開け、中に入る。

ガララッ!

ユミリア 「Good Evening! 楽しんだかしら?」

ユウ 「ユミリアさん、いきなりですね…」

ネイ 「………」(赤面)

ユミリア 「…何回くらいしたの?」

ユウ 「そう言うことは聞かないで下さい!!」

ユミリア 「あははっ、もう本当に若いわね〜」

ユウ 「それよりも…今から俺は魔法をかけます」

ユミリア 「そうね、先に着替えなさい」

ユウ 「あ、そうか…」

俺は滅菌服を着て、ネイを見る。

ネイ 「………」

ネイは俺を信じきっていた。
失敗するわけにはいかない。
俺は心の中でネイの胎内に宿る生命に照準を合わせる。
そして、魔力を解き放つ。



!!!



俺は力を使い、ネイの胎内のみ、時を加速させる。
ネイの病気まで加速させぬように、自分を信じながら。
しばらくすると、ネイの腹は、アリアさんと同じ位に、確実に大きくなった。
俺はすぐに力を止める。
俺が倒れたら元も子もない。
だが、反動は思いの他大きかった。
頭がくらっとし、しばらくその場に膝をついた。

ユミリア 「ネイ、大丈夫!?」

ネイ 「あああ! ううあっ!!」

ユミリア 「ちょっと、やりすぎたみたいね…これは腕がなるわ!!」



………。
……。
…。



ネイ 「………」

ユウ 「ネイ…?」

ネイ 「…大丈夫、まだ…生きてるよ」

ユウ 「よかった…」

ネイ 「私たちの子供は…?」

ユミリア 「ここよ…ほうら、男の子ね」

ネイ 「…これが、私たちの…」

ユウ 「………」

ネイはそのまま、子供を抱いて眠ってしまった。
苦しかったんだろう、俺が加減を間違えなければ。

ユミリア 「ユウ君、ちょっと」

ユミリアさんが俺を手招きする。
俺は滅菌服を脱ぎ、椅子に座る。

ユミリア 「ひとつだけ言っておくわ。あの子、これからどうするの?」

ユウ 「どうするって、そりゃあ俺たちで」

ユミリア 「学校に連れてくるのは問題あるわね、大学じゃないんだから」

俺は顔が引きつる、確かに場所は問題ある。

ユウ 「う…この際学校辞めてでも!」

ユミリア 「私が面倒見てあげるわよ」

俺は一瞬固まる。

ユウ 「ほ、本当ですか!?」

俺はこれまでに無い感謝の意をこめてそう言う。

ユミリア 「その代わり、ちゃんと毎日見に来るのよ?」
ユミリア 「親の顔見て、他人と思われたくないでしょ?」

ユウ 「そ、そりゃあ…」

怖いことを言われる…。

ユミリア 「学校生活は後一年あるんだから」
ユミリア 「それまで学校では私の養子と言うことにしておくわ、それでいい?」

ユウ 「は、はい!」

確かに突然ネイの子供って言うのは物理的におかしいからな。

ユミリア 「で、名前はどうするの?」

ユウ 「は? 名前…?」

俺は素っ頓狂な声をあげる。

ユミリア 「子供の名前よ…」

ユウ 「か、考えてなかった…」

ユミリア 「今決めなさい…その方がいいわよ」

ユウ 「でも、ネイの意見も…」

ユミリア 「ネイはもう寝てるわよ」

ユウ 「………」

俺は考える、まさか、こんな難関があるとは。

ユミリア 「決めにくいなら、家族の名前貰うとか」

俺はそこでしばし考え検索する。

ユウ 「じゃあ、ユシルはどうでしょう?」

ユミリア 「はぁ…何でそうなるのよ?」

ユウ 「あ、いや…俺にとっては力を貰ったある意味親なんで、そのまま貰ったんですけど」

っていうか、それがぱっと思い浮かんだ。

ユミリア 「ふふ、まぁいいわ…あなたがそう言うならネイも納得するでしょう」
ユミリア 「でも、大変よ…子供を育てるのは楽じゃないわ」
ユミリア 「一年も経てば、成長する。あなたが卒業する頃はこの子はどうなるのか」

ユウ 「わかってます、覚悟はできてます」

ユミリア 「全く、とんだヴァレンタインね」

ユウ 「でも、俺たちにとっては、最初で最後ですから」

ユミリア 「あなたは違うでしょう?」

ユウ 「いえ、だから『俺とネイ』なんです」

ユミリア 「ああ、成る程…」


………。


俺は寮に戻る事にした。
ネイはしばらく動けないだろうから病院に移されるそうだ。
ユシルも病院に一緒に預けられることになった。
病院にはアリアさんも一緒だから、問題はないだろう。
俺は、これからのことを考えながら、夜の街を歩いた。

…To be continued



次回予告

ユウ:再びやってきた花見。
春の桜舞散る中で、俺たちは一体何をするのか…?
ふと、去年の悪夢が蘇る。

次回 Eternal Fantasia 2nd Destiny

第17話 「狂乱、再び」


ユウ 「だぁ〜! 結局こういうオチかぁー!!」



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