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第20話 「闇の花嫁」

ユウ 「……!!」

俺は走っていた。
授業が終わり、俺は真っ先に保健室へ向かう。

ユウ 「………」

俺は保健室の前で立ち止まる。
中に入るのを一瞬躊躇った。

ユウ 「今更…何思ってんだ」

俺は自分に言い聞かせ、ドアを叩く。

ドンドン。

ユミリア 「どうぞ」

中からユミリアさんの声が聞こえ、俺は中に入る。


ユウ 「…ユミリアさん」

ユミリア 「来たわね」

ユミリアさんはいつもより真剣な顔つきで俺を見る。
今回はユミリアさんが俺を呼び出してのことで、他の人間が保健室にいることはない。

ユウ 「…ネイの、ことですよね?」

俺はなるべく冷静を装ってそう尋ねる。

ユミリア 「………」

ユミリアさんはゆっくりと頷く。
俺はそのことから状況を理解できた。

ユウ 「いつ…なんですか?」

俺がそう訊くと、ユミリアさんは少し沈黙し、やがて視線を俺から外し。

ユミリア 「持って、今月の24日までよ…」

そう、俺に告げた…。



………。



ユウ 「……」

俺はひとりで帰路についていた。
ネイがもうすぐ死ぬ…。
その現実を突きつけられ、わかっていたはずなのに恐怖を感じる。
後たった1週間で、12月24日。
その日が、ネイの死ぬ日…。

ユウ 「…ダメだ! 俺がこんな気持ちでどうする!!」

俺は自分を奮い立たせ、強く気持ちを持った。
俺が強くならなければ、ネイは幸せになれない。
俺は自分にできることをするしかなかった。
そして、ネイに一番幸せになって欲しいと思った。



『翌日』


ユウ 「レイナ、昼休み中悪いが、ちょっと屋上までいいか?」

レイナ 「え? 別にいいけど、どうしたの?」

俺は翌日の昼休み、レイナを屋上に呼び出した。
そして、レイナに手伝ってもらうためだ。


レイナ 「一体、どうしたの? 私に用があるんでしょ?」

ユウ 「すまん、折り入って頼みがある」

レイナ 「うん…何?」

俺はネイの死を含め、これから俺がやろうと思っていることをレイナに伝える。



………。



レイナ 「そう…わかったわ、私にできることなら!」

ユウ 「頼む…俺、他の皆にも頼むから」

レイナ 「私からも伝えておくわ…」

ユウ 「頼む、それから…」

俺が釘を刺そうとすると。

レイナ 「大丈夫、ネイにはばれないように、ね?」

レイナは笑顔でそう言った。



………。
……。
…。



こうして、俺は他の仲間たちにも誘いをかけた結果、皆、快く承諾してくれた。



ユミリア 「…喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか」

アリア 「そうね…でも、せめて最後の時は、幸せでいて欲しい」

私たちは保健室でふたり、そう呟いていた。
私の中では、ただ悔しさだけが残っていた。
医者として、これほど苦痛なことはない。
自分が診た患者が、ただ死んでいくのを見るのは…。

ユミリア 「よっしっ、くよくよしてられないわ! 私も動かなきゃ」

アリア 「その方が、あなたらしいわ」

ユミリア 「そうそう、アリア…あなたも手伝ってよ?」

アリア 「もちろんよ」

私たちも、独断でユウ君に協力することにした。



………。



美鈴 「未知様っ、ユウ様からお手紙が届いていますっ」

自分の部屋で、くつろいでいた所、突然美鈴さんが何やら嬉しそうに手紙を持ってくる。

未知 「ユウから…そう言えば、久しぶりねぇ」

私は美鈴から手紙を受け取ると、中を見る。

未知 「まぁ…そうなの」

美鈴 「あの…一体何が?」

未知 「これは大変だわ…すぐに支度をしないと。美鈴さん、降さんと栞さんに集まるように知らせてくださいっ」

美鈴 「え、あ…はいっ!」

美鈴さんがそれを聞いて、小走りに伝えに行く。

未知 「…ふふ、ユウったら」



………。



シオン 「何、私たちに手紙?」

突然、王室に手紙を届けてくれた兵士が。

兵士 「はい、ユミリア様からの物です!」

シオン 「おお、ユミリア様から…」

私は手紙を開けると、中を読む。

シオン 「何と…! これはいけない、君、すぐにフィリアさんにもこれを!」

兵士 「あ、はいっ!」

兵士は手紙を受け取ると、フィリアさんの元に向かった。
あれから、フィリアさんは国に帰ったが、今はたまたまディラール王国に泊まっていた。
私は未だに、フィリアさんを呼び捨てにすることができない状態で、今まで敬遠されていたが、最近ようやく前に進めそうだった。



………。



サリサ 「シーナ様、レイナ様から、手紙ですよ」

シーナ 「え、姉さんから!? わぁ…久し振りぃ。もう1年以上音沙汰ないもんね〜元気してるかなぁ」

私は自分の部屋で政治の勉強をしていた所、サリサさんが手紙を持ってきた。
私は期待を胸に手紙を読む。

シーナ 「…ふんふん……ええっ!? ユウさんがぁ!! これは大変、ま、間に合うのかなぁ!? サリサさんっ!」

サリサ 「は、はいっ!?」

私は慌ててサリサさんにこう告げる。

シーナ 「急いで、ガイアまで向かうわ!! 氷牙さんにも伝えて!! もちろん、サリサも来るのよ!?」

サリサ 「わ、わかりました!」

サリサさんは大急ぎで、出発の用意をする。

シーナ 「もう…何でこう急な事考えるのかなぁ?」



………。



ナル 「…ふぅ、あらかた終わったかな?」

私は工房内で機械修理の仕事をしていた。
そんな中、突然シャインが現れ、こう告げた。

シャイン 「ナル! たった今、バルバロイから手紙が届いたんだが…」

ナル 「バルバロイから? 珍しいわね…一体何?」

私は仕事が一息ついたことを確認すると、近くにあった椅子に腰掛ける。

シャイン 「うむ、どうも…何か人を集めているようだな。至急ガイアに来てくれと書いてあった」

ナル 「ガイアに? 何があるのかしら…」

私はコーヒーを啜りながら、それを考える。

シャイン 「行けばわかるだろう」

ナル 「そうね、たまには顔見せに行こうかっ」



………。



郵便屋 「お手紙ですよ、先生〜」

セリス 「あら、ありがとう…いつもすみません」

私は手紙を受け取ると、差出人を確認する。

セリス 「あら、ユミリア先生から…?」

私は、その内容をゆっくりと眺める。

セリス 「…急な内容ね、病院を閉めるのも危ない気がするし」

そんなこと言ってたら、戦争の時はどうなるんだろうとも思えるが。

看護婦 「先生、言ってきてください」

悩んでいる所、看護婦のララがそう呼びかける。

セリス 「ララ…でもね」

ララ 「大丈夫ですよ、入院患者もいませんし、簡単な治療なら私でもできます」

セリス 「でも…」

ララ 「信用してください、私でもできますからっ」

セリス 「そう、じゃあ…行って来るわ」

ララ 「はいっ」



………。



兵士 「ディオ様! ディオ様宛に手紙が届いております!!」

俺は王室でごろごろしてた所、突然兵士がやってきて、俺は手紙を受け取る。

ディオ 「誰からだろ…? おっ、ノームからじゃねぇか! あれから何年ぶりだぁ?」

俺は懐かしみを感じながらも手紙を読み始める。

ディオ 「………何ぃ!? 今から来いだぁ!? マジかよ…しゃあねぇな。おい、今からガイアに向かうぞ!!」

兵士 「は、はいっ! 今からですか!?」

ディオ 「ったりめぇだ!! 24日までに着かせろ! いいな!?」

兵士 「は、はいっ!!」



………。



子供A 「陛下〜、遊ぼ〜」

シャール 「よしよし…そうだなぁ」

俺は国の孤児院で、子供たちの面倒を見ていた。
爺さんが死んでからは、俺とデルタがずっと見ているのだ。

デルタ 「シャール…」

俺が子供の相手をしていると、デルタが何やら手紙を持ってくる。

シャール 「ん、誰からだ…おお、ルナさんからじゃないか」

俺は手紙を受け取り誰からかを確認すると、中身を見る。

シャール 「……成る程」

デルタ 「?」

俺はひとり納得すると、手紙を仕舞って立ち上がる。

シャール 「デルタ、今から出かけるぞ」

デルタ 「…どこへ?」

シャール 「魔法都市ガイアまでだ」

デルタ 「……?」

デルタはよくわかっていないようだったが、俺は急いで支度するように進めた。



………。



シェイド 「………」

私たちはどこかの陸を歩いていた。
あれから、海を渡ってここカオスサイドにいる。

ウンディーネ 「何や、こっちは空気が悪いなぁ」

烈 「そうっすね、確かに暗い感じがしますもんね」

ウンディーネと烈は周りを見渡しながらそんなことを言っていた。
ここカオスサイドは、巨大なひとつの大陸なのだ。
その大陸全てが、プルート帝国と呼ばれるひとつの国に支配されている。
そして、その皇帝こそが、あのユウの父である、テラ・プルートなのだ。

シェイド 「……ん?」

ウンディーネ 「どないしたんや?」

突然、ディアボロスが私に語りかけてくる。
私は心に耳を澄ます。

ディアボロス (シェイドよ…何やらそなたと話したい者がいるようだ)

シェイド (話したい者…? それは一体)

ディアボロス (今から繋げるぞ…)

すると、今度は何やら懐かしい声が聞こえてくる。

ウィル (やっほ〜! シェイド元気?)

シェイド (ウィ、ウィル…!?)

何故、いきなりウィルが…?

ウィル (遠隔魔法の実験も兼ねて試してみたのよ、大成功ね)

ウィルは笑いながら、そんなことを言った。

シェイド (…用がないなら終わるぞ?)

ウィル (わぁ! ちょっと待ってよ! ビッグニュースがあるんだから!!)

シェイド (…? なんだそれは)

私は少しいらつきを覚えながらも、そう訊く。


烈 「何か、さっきからシェイドさん、自分の世界に入ってますよ?」

ウンディーネ 「まぁ、何かあるんやろ?」


シェイド (なっ! 正気か!?)

ウィル (当たり前でしょ…24日までに来てよ?)

それだけを言うと、そこからはウィルの声は聞こえなくなった。

シェイド 「あの馬鹿…突然すぎるぞ」

ウンディーネ 「ど、どないしてん…」

私はため息をつきながらも、状況を説明することにした。



………。



ユウ 「…これで、ほとんど大丈夫だよな」

俺は自分の部屋で、計画を練っていた。
人数は十分、後は…。

ユウ 「どうにかなるのかなぁ…? とりあえず聞いてみるか」

俺は必要なものを集めるために、それから転々と走り回った。



………。
……。
…。



そして、運命の時は来た。



………。



ネイ 「………」

ユウ 「ネイ…」

ネイ 「怖くないと言えば、嘘になるよね…今日で、ユウと離れ離れになる…それも、永遠に」

ユウ 「馬鹿! んなくらいこと言うな!! 今日は、俺がお前を絶対に幸せにしてやるからな!!」

俺はネイの言葉を押しのけ、そう言い放つと、ネイの手を引いて歩き出した。

ネイ 「ユウ、一体どこに?」

ユウ 「…あそこだ」

俺は立ち止まり、目の前を指差す。

ネイ 「あれって…?」

そう、そこは教会である。
見ると、周りに花束やらで装飾してあった。

ネイ 「ちょっ、ユウ…これって?」

レイナ 「ネイ、こっちへ…」

そこで、レイナがネイの手を引き、教会の横にある部屋に入っていく。

ネイ 「え、え?」


ユウ 「さて、俺も行かないとな」

俺はまた別の部屋に向かう。



………。



ユウ 「………」

俺は服を着替え、式の始まりを待つことにする。

ユウ 「………」

ネイはもう着替えたのだろうか?
そんなことを考えながら、ただ今日だけのことを考えていた。

トントン

部屋のドアをノックする音。
俺が返事をすると、中に入ってくる人物が。

バル 「ユウ、そろそろだ」

ユウ 「そうか、ネイの方は?」

バル 「もう少しで終わる、先に出ておけ」

俺はバルに先導され、歩き始める。

ユウ 「…この服って、窮屈だなぁ」

バル 「お前らしい答えかただな、だが言い出したのはお前だぞ?」

ユウ 「まぁ、お約束みたいなもんだな」

俺たちはそんなくだらない会話を交わしながら廊下を歩いた。
すると、また別の男が現れる。

シャール 「よお、今着いたぞ…」

そこにはシャール王がいた、横にはデルタ王妃もいる。
見た感じではそんなに変わってもいないようだったが、王になってから風格があがったと言うべきか、顔つきが違った。

ユウ 「シャール王! 久し振りですね」

俺がそう言って近づくと、シャール王は笑いながら。

シャール 「はっはっは、お前がなぁ…てっきりレイナとくっつくんだと思ってたのになぁ」

シャール王は思い出すようにそう言った。

ユウ 「レイナのことは…あの時はそうですけど」

シャール 「まぁ、人の心なんて時間でいくらでも変わるもんだ、お前に罪はないさ」
シャール 「強いて言うなら、お前のハート射止められなかったレイナの責任だな」

ユウ 「そ、そういうものですか?」

シャール 「そう言うものさ、恋なんて物はな…」
シャール 「じゃあ、俺たちは先に行ってるからな、ビシッと決めろよ!?」

デルタ 「それじゃあ」

ふたりは俺にそう挨拶して去っていった。
俺は気を取り直して、廊下を進む。



………。



ユウ 「……」

やがて、廊下が終わるとドアを開け、俺は外に出た。
そして、何やら叫び声が聞こえたかと思うと。

ドムッ!

ユウ 「ぐはぁっ!」

ウンディーネ 「ユウーーーーーーー!!! 会いたかったでぇ!!!」

どこか懐かしいこの展開は…。
と、俺が考える前に、ウンディーネさんは引っぺがされた。

シェイド 「全く、お前も少しは大人になれ…本当に23か?」

ウンディーネ 「当たり前や!」

烈 「…羨ましい」

ユウ 「っていうか、変わってませんね、おふたりとも」

シェイド 「…変わりたいぐらいだよ、こっちは」

ウンディーネ 「ウチはいつも通りやで! でも…」

ユウ 「?」

ウンディーネさんが突然俯く。

ウンディーネ 「よよよ…ウチは悲しいでぇ〜何故にユウが……」

シェイド 「…まだ諦めてなかったのか?」

ウンディーネ 「当たり前や! ユウみたいなええ男はもうおらん!!」

烈 「がーん」

その言葉を聞いて烈さんががっくりと膝を落とす。
見ててかわいそうな光景だ…ウンディーネさん、わかってて言ってるんだろうか?
…この人ならやりそうだ。
何故かそんな確信があった。

シェイド 「まぁ、これが結果だ…素直に祝福してやれ」

ウンディーネ 「よよよ…」

シェイドさんがウンディーネさんを引っ張って先に教会に入ってしまった。
後から烈さんも入っていく。


ユウ 「………」

バル 「む、来たようだな」

ユウ 「え…?」


すると、途端に大歓声の中、ネイが現れた。
周りにはレイナ、ルーシィ、エイリィの3人に囲まれ、こちらに歩いてきた。

ルーシィ 「ほら、どきなさい!」

エイリィ 「通行の邪魔はしないで」

レイナ 「ユウ、こっちよ!」

俺はそこに向かって歩いた。
人の波を越えて、俺はネイの前にたどり着く。

ネイ 「ユ、ユウ…これってもしかして」

ユウ 「ん? 今更何言ってるんだ…行くぞ」

俺は手を差し伸べ、ネイを誘う。

ネイ 「……う、うん」

そして、ネイが手を握ってくれた。
そして、俺たちは肩を並べ、教会に向かって歩き出す。そこには赤い絨毯が敷いてあった。


ジョグ 「うお〜! ネイちゃん、ワイはいつまでも〜!!」

ポール 「…ほらほら、邪魔するなや」

ピノ 「お幸せに…」

ミル 「よく似合ってるよふたりとも!!」

俺は手を振って答える、ネイは恥ずかしいのか俯いていた。


シーナ 「ユウさ〜ん!! おめでとう!!」

サリサ 「とっても綺麗ですよ、ネイさん」

氷牙 「………」

別の通路にはシーナちゃんたちが来ていた。
俺は手を振り答えるが、やはりネイは俯いたままだった。


ネイ 「………」

ユウ 「ネイ…」

俺はネイを呼び、握る手に力を込める。

ネイ 「!」

ネイはびくっとなり、顔を上げ、俺を見る。
そして、俺は笑い。

ユウ 「さぁ、行こう…俺たちの結婚式だ!!」

そう言って教会の中に入った。



♪〜…♪♪

俺たちが中に入ると、途端に場が静まり返り、オルガンの演奏が聞こえる。
弾いているのはルーシィだ。

ユウ (さすがに上手いもんだな、結局俺は答えることができなかったが)

俺たちはゆっくりと歩く。
見ると、シオン王子やフィリア王女、ディオたちまでいる。
よくよく考えればそうそうたるメンバーだ、全国の王族のほとんどがここに集結したことになる。

未知 「………」

そして、左側、一番前列の席に姉さんがいた。
降さん、栞さん、美鈴さんも一緒だ。
その周りにはナルさん、シャインさん、セリスさん。
シャール王にデルタ王妃。
逆側の席にはユミリアさん、アリアさん、レイラ、ジェイク、ガイ。
シェイドさん、ウンディーネさん、烈さんもいた。
外にいた面々も中に入って席に座っていく。


………。


やがて、俺たちは神父(?)の前に立った。
が、その人(?)を見て、俺は驚く。

ユウ (何で、こんな人が…!?)

セラフィム 「では、これよりユウ・プルートとネイ・エルクの結婚式を始めます」

神父じゃなくて、本気で神族じゃねぇか!
だが、そんなツッコミを入れることができるほど今の状況は普通ではない。
俺はすぐに気持ちを切り替えた。

セラフィム 「汝、ユウ・プルートは何時いかなる時も、妻を愛し続け、守ることを誓いますか?」

ユウ 「誓います」

セラフィム 「では、汝ネイ・エルク。あなたは何時いかなる時も、夫を愛し続け、信じることを誓いますか?」

ネイ 「…誓います」

少し戸惑ったようだが、迷いは無い様に思えた。

セラフィム 「では、誓いの口付けを…」

ユウ 「……」

俺はゆっくりとネイを引き寄せる。

ネイ 「……」

ネイは頬を赤らめ、俺を見つめる。
俺は心臓が爆発しそうだった。
自分で仕組んだことだが、ネイは俺を受け入れてくれている。
あまりにも上手く行き過ぎて怖い。
そう…怖かった。

ネイ 「……」

ネイは俺のそんな心境を察してか、目を瞑る。
そうだ…。
一番怖いのはネイなんだ。
俺は自分も目を瞑り、ネイの唇に、そっと…自分の唇を重ねた。
震えていた。
ネイも…俺も。
そして、たった数秒の口付けが終わり、俺たちは前を向く。

セラフィム 「では、光の神ゼウスの代理として、我、光の守護者セラフィムが、ここに新たな夫婦の誕生を祝します…」

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!

まさにその場にいた全員が、これでもかと言う位に拍手喝采してくれる。
俺はネイの肩を寄せ、手をぎゅっと握り締める。

ネイ 「ユウ…」

ネイは涙を目に溜めて俺の顔を見る。

ユウ 「行こう…これが俺たちの始まりだ」

ネイは笑顔を見せ、頷こうとした。



『だが…時は残酷に運命を刻みつづけた』



ドサッ!

ネイはその場で無造作に倒れる。
俺はネイの背中を左腕で支えるが、ネイの体には力が無かった。

ユウ 「………!!」

俺は叫び声を上げるかと思ったが、我慢した。
わかりきっていたんだ、こうなることくらい。
だから、俺はあえて笑った。

ユウ 「ネイ…どうしたんだ? 疲れたのか?」

俺はネイの頬を撫で、優しく語りかけた。

ネイ 「ユウ……私、何だか…眠くなって、ごめんね…こんな、時…に」

ユウ 「いいよ…ゆっくり休むといい、俺がずっと側にいるから…俺が、ずっと…」

ネイ 「うん…ありがとう……でも、やっぱり…ユウは嘘が下手だね」

ネイは、俺の心境を察しているのか、そう言った。
だが、俺は冷静を保った…つもりだった。


ネイ 「だって…ユウの目から、涙が…零れてるもの……」

そして、ネイの目からも、涙が零れ落ちた…。

ユウ 「ば、馬鹿…そんなこというな。俺は…」

俺が言葉を必死に紡ぐが、ネイが制する。

ネイ 「いいの…私はこれで終わりだから」

ユウ 「なっ!」

ネイ 「聞いて! 私の最後のお願い……私のことは忘れて」

ユウ 「…何を!?」

俺は反論しようとしたが、ネイの表情と、常態を見て思いとどまった。

ネイ 「私は、ここで死ぬの…自分の体だからよくわかってる。怖くないといえば嘘だけど…寂しいといえば、嘘だけど……」
ネイ 「でも…私は、ユウの足かせだけにはなりたくないっ…」

ネイは今にも消え去りそうな声で、そう言葉を紡いだ。
俺の目から更に涙は溢れ、もうネイの顔も見れなくなった。

ネイ 「だから、ユウ…新しい一歩を踏み出してね……」

ネイの呼吸が弱くなる、そして…。



ネイ 「最後に………」





『私は…幸せでした』





それが…俺の最愛の妻の、最初で…最後の言葉だった。

ユウ 「……ぅ…くっ! ああ………!!」

俺は叫びたい気持ちを一身に我慢した。
俺が弱くてどうする!と、俺は自分に言い聞かせた。

レイナ 「ユウ…いいのよ? 我慢しなくていいの…今泣いたって、きっとネイは笑ってくれるから」

レイナが俺の肩にそっと手を置き、そう呟く。



次の瞬間、俺は、想いのたけ全てを、叫んだ…。







ユウ 「………」

式は終わり、すでに日は暮れ、今は誰も人のいない教会の前で、俺はひとり佇んだ。
片付けも終わり、いつもの教会と何ら変わらなかった。

ユウ 「結局…一度も通ることの無かった、ヴァージンロードか……」

俺はブーケを持っていた。
花嫁のブーケを受け取った者は、次に結婚できる。
そんなジンクス、一体誰が作ったんだろうな…。
俺はそんなことを考えながら、誰もいない、さっきまでヴァージンロードだった場所に向かって、ブーケを放った。
そして、それが落ちるのも確認せず、俺はその場を後にした。



バサッ…

レイナ 「花婿のブーケ、か…」

私は地に落ちて、花びらを散らしたブーケをそっと拾った。

レイナ 「誰にも受け取られなかったブーケ…私が拾っても、いいのかな?」

こんな状態じゃ、ジンクスのかけらも無いけど。
私はそのブーケを拾い、ただ抱きしめた…。
そして、私は心の中で祈った。
ユウが、せめて前を向いて、歩けるように…。

…To be continued



次回予告

レイナ:最愛の妻の死。
悲しみをまた刻み付けたユウの前に、最後の戦いが。
これが、ユウにとって最後の悲しみとなるのか?
それとも…。

次回 Eternal Fantasia

Second Destiny
『大地の守護神』
完結


最終話 「父という名の愚者」

レイナ 「どうか…ユウに力を」




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