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FC学園



第12話 『夢の初まり』




3月です。
ついにリンクにとって2回目の3月がやってきました。
もし、目的を達成できなければリンクは死ぬ……。
そしてそのリンクの目的は達成できるのか。





チュンチュン……チチチ。

リンク 「……」

朝、まだ少し薄暗い中小鳥たちのさえずり声が聞こえてきた。
3年生が卒業してもうすぐ私たちも春休みに入ろうという時期。

リンク 「何時?」

私はゆっくりと起き上がり時計を見た。
5時とあった。

リンク 「はぁ……まぁいいか」

私は制服に着替えると女子寮を出た。



…………。



フィー 「おはよー……ってあれ? リンク?」

リンク 「おはよう、フィー」

女子寮の側にある森を抜ける途中フィーに挨拶する。

フィー 「今日は早いわねぇ」

リンク 「気分的なものよ」

私はそう言って学校へと向う。
森を抜けるとそこにはすぐに学園のある街にたどり着く。

リンク 「……」

まだ学校は開いてないし……少し歩くか。
私はそう思うと早朝の街を散歩し始めた。



…………。



まだ肌寒い3月の朝。
日が昇れば逆に少し暑くなる。
それゆえにあまり厚着できない。
はぁ……と空気を吐けば凍らない程度の空気。
朝はまだ早いがすでに街には僅かに人々が活動を始めている。

シルク 「うう〜ん……っくぁっ! ふぅ……いい天気ねぇ」

リンク 「あ、シルクさん。おはようございます」

シルク 「ん? ああ、リンクちゃんおはよう。早いのねぇ……まだ学校閉まってるでしょ?」

リンク 「シルクさんこそ早いですよ、こんな時間から何しているんですか?」

シルク 「ん? ウチは宿屋も兼ねてるからね。まぁ朝の仕込みよ」

そう言ってシルクさんは背伸びをしてとある店の中に入っていった。
私はチラリと看板に目をやると、呑気屋とあった。
シルクさんって仕事が好きなんだなとわかる。

リンク 「そろそろ開くかな……」

私は一度学園に向うことにした。
学園は10分ほど歩いた所にある。
学園の正門は開いており中に入ることは出来た。

ユミリア 「教室開いてないわよ〜」

突然上からユミリアさんの声が聞こえてきた。
2階の窓を覗くとユミリアさんの姿が見えた。

ユミリア 「おはようリンクちゃん」

リンク 「おはようございます」

ユミリア 「……保健室くる? お茶くらい出すわよ?」

リンク 「……わかりました」

私は保健室へと向う。




ユミリア 「――私ねぇ、来期からもう一度高等部に戻ることになったのよね」

ユミリアさんはそう言いながらコーヒーメーカーからコーヒーをカップに移す。

ユミリア 「はい」

リンク 「どうも」

私はユミリアさんからカップを受け取り、少し口を付けた。

ユミリア 「どう……検査の結果今日明日辺りがラストよ?」

リンク 「……」

ユミリアさんが深刻そうな顔でそう聞いてきた。
私は何も答えることが出来ず俯いてしまう。

リンク (私の心臓部が正常に機能しなければ私は死ぬ)

これはユミリアさんが正確に導き出した結果だった。
同じ死からの復活でも私のそれはレイナさんやルーヴィスさんのそれとは決定的に違う。
レイナさんの場合はそもそも肉体的な損傷は少なく肉体に残留する電気信号として補完されていた記憶を元に魂を与え復活を果たした。
一見非科学的ではあるが、根本的なことを考えると合理的ではある。
問題であった肉体の保存も泉の恩恵により、その状態は腐ることもなくホルマリンにつけられてような状態……いや、むしろこれこそが奇跡である。
ルーヴィスさんの場合はこちらはレイナさんとは真逆であり、それは生命活動とは呼べるものではない。
どちらかと言えばアンデットに近い分類であり、魂及び記憶はあるものの肉体は正常な反応を持っていない。
新陳代謝が無い以上、それを生命と言うのはやや不自然な所があるからだ。

私の場合はその過程において明確にわかるわけではないが、根幹を持っているのはこの心臓の代わりに植え込まれた何かだ。
ユミリアさんの口から時空圧縮炉と名付けられたが、それが私自身に何の恩恵を与えているのかは詳細が知れない。
ユミリアさんも言い切ってはいないから確定ではないが、結果から言ってこの時空圧縮炉が放つ時の力を利用することで私は生きているとされている。
しかし私は時の力による流れが無ければ生きてはいけない。

これは前者二人の特長に対して違う部分を生み出していた。
それはすなわち、魂の存在の否定である。
前者二人とも生命体として活動する上で魂の存在を絶対としているのに対し、私の体はこれを逆に否定している。
生命体としての意味を電気信号と熱量、蛋白質の活動で片付けている。
そしてその過程を行うために利用しているのが時間の流れ。
生命を復活させるというよりはひとつの決められた動画フィルムの中から好きなシーンを再生しているような感覚だろうか?
しかし皮肉にも、時の力を利用して生きている私の体はこれが損傷を起こすと生きてはいけない。
そういった意味では私の体は非常に繊細だと言えた。

リンク (ユミリアさんの仮定によれば、記憶が鍵を握っているという)

少しだけ歯車の狂わされた私の体は徐々に崩壊の一途を辿っている。
そしてそのタイムリミットは今日から明日と予想された。
仮定がただしければ記憶を取り戻せば助かるかもしれない。

リンク (私の体に何の影響も見られない反面、記憶に関してもほとんど戻る気配もない)

もっともネイさんやディードさんだって何の前触れも無く死んだんだ……私だってその類の可能性はある。
楽に死ねるかどうかは知らないが、当面のところ死ぬ気は無い。
生を私は欲求する。
しかし……記憶が戻ることが本当に生に繋がるのだろうか?
まして私の記憶に残るあの言葉の答えもまだ見つかっているわけではない。

『……よ。……をなさい、さもなければあなたは死にます』

まだ記憶を取り戻すこととは判明したわけじゃない。
もし違っていれば……もし体の異変が関係のないことだとしたら。

リンク (取り越し苦労で私は死ぬ)

なんて嫌な気分だろう。
取り越し苦労で死ぬというのは最悪だ。
というか私ったらすっかり後ろ向き思考のネガティブ路線全開ね……。

ユミリア 「ま、気を落とさずにね? こればっかりは昔を知らない私たちにはなんにもしてあげられないけど……」

リンク 「別にいいですよ……ユミリアさんには散々お世話になりましたし」

ユミリアさんのおかげで私はいくつも有益な情報を得たと思う。
なによりユミリアさんは私の体のことを秘密にしてくれている。
正直、皆に心配して欲しくはない。
こればっかりは他の人にどうにかできる問題でもないし無用な心配はかけたくない。
それに……。

リンク (記憶が戻ることがいいこととも限らない)

これはガイアさんに言われたことだけど、私の記憶は戻らない方がいいのかもしれないって言っていた。
今、皮肉にも戻らなければ死ぬといわれているのが妙に歯がゆい。

リンク (死ぬのは怖い……でも記憶が戻ることが本当に良いとは限らない)

ジレンマだ。
死にたくないことと、生きることの罪。
まだ、それが罪になるとはわからず、そしてその罪が救済を呼ぶとは限らない。

ハルカ 「ふあ……眠ぅ」

リンク 「あ……ハルカ先輩おはようございます」

ハルカ 「ん? ああ……リンクちゃん、おはよう。なんだか久しぶりねぇ」

リンク 「そうですね、こうやって話すのは生徒会選挙以来ですね」

ハルカ 「ああ……あんな、どうでもいいのあったわねぇ」

保健室から校舎に向かう途中、私はハルカさんと会う。
ハルカさんはまだ朝早いのに学校に来ており、その顔は少し眠そうだった。

ハルカ 「リンクちゃん、こんな朝早くからどうしたの?」

リンク 「ユミリア先生に用があったんです」

ハルカ 「先生に? どこか悪いの?」

リンク 「……いえ、それよりハルカさんは?」

ハルカ 「私は放送部に用よ……呼び出されてね」

リンク 「早朝からお疲れ様です」

ハルカ 「全くね……どうせ、ユウキのことだしロクな用じゃないでしょうし」

リンク 「……」

ユウキさん……私が何故か恐れる人物。
その理由は私には何故かわからない。
私とユウキさんにはなんの関係もない……そのはずなのにどうして?

リンク (もしかしたらユウキさんは私に何か関係があるの?)

逆に考えればユウキさんは私に関係あるから私が本能的に恐れるとしか思えない。
でも……その考えはすぐにバカバカしく思えた。

リンク (イレギュラーの私と違ってユウキさんはちゃんと世界に属した存在……それがどうしてイレギュラーと関係あるっていうの?)

いくらユウキさんがキメナやザンジーク、さらに空間を司る特級神具白夜の持ち主とは言え私と接点があるわけがない。
さぁ、それより今は私の記憶だ。
一体どうすれば戻るのだろうか?



……それから、私は学園中を歩き回りながら、何か変わったことはないか探した。
だが、生憎そんなもの見つかるはずもない。
時間は無情にも流れ、授業は始まる。

――いつもどおりの光景、いつも通り授業を受けて、いつも通り放課後を迎えるだけ。



…………。



リンク 「いないいないばぁ!」

ユシル 「キャキャ♪」
ミリア 「♪」

放課後、私は保健室にやってきていた。
そこにはすでに先客がおりユウさんとネイさんがいたのだ。
私は少し気を休めると共にユシルちゃんたちと遊んでいた。

リンク 「しかし学生のうちに出産するなんて思い切ったことしますよね」

ユウ 「は、はは……ま、まぁこの機会しかなかったしな……」

リンク (大地の三闘神事件は起きてはいない……けれどユウさんはネイさんの病気を知ったのね……)

だから、ネイさんの気持ちを知ってユシルちゃんを産んだ。
一緒にいるネイさんも幸せそうであり、ユシルちゃんたちの健やかさが少し羨ましい。

リンク 「あの、ネイさん……失礼とは存じますがお一つお聞きしたいことがあります」

ネイ 「え? えと……なに? 突然かしこまっちゃって?」

私はある意味では同じ運命のもとにいるネイさんに聞きたかった。

リンク 「いつ死ぬか分からないその体、ネイさんは死が怖くないですか?」

ネイ 「! そう……ね。確かに恐い、できる事なら年老いておばあちゃんになるまでユウと一緒にいたい……でも、そんなことできないのはわかっている」

やはり言うのは辛いのかネイさんも辛そうに語ってくれる。
その間、気持ちを理解してくれたのかユミリアさんもユウさんも静かに黙っていてくれた。

ネイ 「でもね……私は幸せだと思うよ?」

リンク 「え?」

ネイ 「知らなければ知らないまま楽に死ねたかもしれないけれど、知らなければ私はユウとは結ばれなかったと思う」
ネイ 「私の記憶には戦いの記憶……ユシルやユウとの戦いの記憶しかなかった……戦いの記憶の中には私は決して償い切れないほど多くの人を殺した記憶がある」
ネイ 「そんな私がその記憶を全て失い、優しいユウやレイナと出会ったもの……ある意味では贅沢過ぎる話でしょ?」
ネイ 「だからきっと私は記憶を思い出したの、私の手によって理不尽に殺された多くの人への償い……なんて言うほど私は善人じゃないけど、私の死は享受されるべきだと思うから」

ユミリア 「ネイ……」

ネイ 「でもね、本音を言えば本当に恐いんだよ? 実は嘘でした♪ な〜んてユミリアさんに言ってもらえればどれほど心が救われるか……でも、ユミリアさんって嘘がド下手だからねぇ……きっと嘘でも言えないだろうね」

ユウ 「ネイ……俺はまだ、まだ諦めたわけじゃないぞ」

ネイ 「ユウ?」

ユウ 「ネイが助かる道はネイが生きている限り俺は探す」

ネイ 「ありがとうユウ……ふふ、ね、リンクちゃん? 私って今幸せものでしょ? こんなに幸せだったことは私の人生には無かったわ……私に殺された人たちはきっと妬むでしょうけどね」

リンク 「……ありがとうございます、ネイさんってやっぱり強いですね……尊敬します」

ネイ 「あ、あはは♪ やっぱり照れるなぁ〜後輩にそんなこと言われると……」

私は予想以上に大きな答えを得れた気がした。
ネイさんはもしかしたら記憶が戻らなかった方が幸せだったのかもしれない。
私は逆に記憶を取り戻さなければ死んでしまう、これは不幸だ。
でも、ネイさんは敢えて不幸になるかもしれない記憶を取り戻した。
それは、記憶を失うということは偽りの幸せだから。

リンク (幸せ……か、私の幸せって記憶を取り戻すことなのかなぁ?)

少しだけ、私の気が楽になる。
まだ、時間は残っている。

リンク 「それじゃあ、もう行きます」

ユミリア 「ええ、後半日って所かもしれないけど……最後まで諦めないで」

リンク 「……はい」

私はそう言って保健室を出て行く。


ネイ 「ユミリアさん、半日って?」

ユミリア 「……なんでも、ないわ」





『同日 時刻17:00 部室棟』


リンク 「いない……かな?」

私は保健室を出ると急いで元冒険探索部の部室へとやってきた。
理由はユウキさんに会うためだ。
私は今までユウキさんを恐れていた。
でも、恐れていては前に進めない。
確かにあの人は恐いけれど、あの人が一番頼りにもなるはずだから。

リンク 「……すいません」

私はドアをノックして部屋に入ると複数の部員がいた。

ハルカ 「あれ? リンクちゃん? どうしたのかしら?」

リンク 「あ、その、ユウキ先生はいますか?」

ハルカ 「あいつならいないわよ、待ってたら来るとは思うけど、今は職員室じゃないかしら。用があるの?」

リンク 「あ、いえ……そうですか、ありがとうございました」

私はユウキさんがいないとわかるとおじゃましましたと、部室を出て行く。
ユウキさんがいないとなると私も時間がない、できるだけやれることはやりたかった。

リンク 「……一応智樹君たちにも挨拶を――ッ!?」

突然頭がクラッとする。
意識が遠のき、体の反応が鈍る。
まさか……タイムリミット!?

リンク 「まだ……わたし……は」

私は必死に抗った。
しかし神はそれを嘲笑うように私の体を束縛する。
私は為す術無くリノリウムの床に倒れた。



『同日 時刻23:45 屋上』


リンク 「――……う?」

ユウキ 「よ、目覚めたか」

ふと、目が覚めた。
まだ生きている……?
それが、最初に感じたことだった。
ふと気がつくと目の前にはユウキさんがいた。

ユウキ 「部室前で倒れているから焦ったぜ、まぁでも、ある意味じゃ仕方が無いのかもな」

目が覚めて周囲を見渡すとそこが屋上だということがわかった。
どうしてユウキさんは私を屋上へ運んだのかはわからない。
でも、そんなことより私はユウキさんに用事がある。

ユウキ 「全てを知りたいって顔だな」

ユウキさんは私の顔を見ると、まるで心を見透かしたかのようにうっすらと笑った。
やはり、この人は何かがおかしい。

リンク 「……私は助からないんですね」

ユウキ 「はて? なんのことかな?」

リンク 「……何となくですけど、ユウキさんのことわかりました」

私はネイさんの話を聞きながら同時にユウキさんのことを考えていた。
ユウキさんから常に感じる違和感、恐怖心。
その正体が掴めず、ずっと苦手意識を持っていた。
でも、私の答えの正しいのなら私がユウキさんを恐れるのは必ず道理がある。

リンク 「もう少し待ってください。私は私の幸せのために最期にしておきたいことがあります」

ユウキ 「……はぁ、保健室」

リンク 「ありがとうございます」

私の考えていることが全て正解とは限らない。
でも、考えうる限りではユウキさんの存在は出来すぎている。
あまりにも、私のストーリーに関わりすぎている。

でも、今は先にやりたいことがある。
単なる自己満足ではあるけど、その幸せが重要なんだとネイさんに教えられた。
だから私は自己満足を達成する。

私は保健室を駆けた。
すでに時間は深夜のようで、月と星が輝く時間だがまったく走る音も気にせず保健室へと向かった。
リノリウムの床がカツンカツンと音をたてる。
まるでそれは私の寿命を数える呪文のようだった。

リンク 「はぁ……はぁ……失礼します」

私は息を整えること無く保健室へと入った。
中へ入ると驚いた様子のユミリアさんとネイさん、そして二人の赤子がいた。

ユミリア 「ど、どうしたのリンクちゃん?」

リンク 「すいませんユミリアさん、少し時間いただきます」

私はそう言うとネイさんの元へと向かう。
ネイさんは丸椅子に座りベットで眠るユシルちゃんの横でゆっくりしていた。
一体どうしたのだと私が来たことに驚いていたが、私の様子に何かを感じて殊の外真剣に私を見た。

ネイ 「覚悟の目だね……一体どうしたの?」

リンク 「ネイさん、私はあなたを救います」

私のその言葉を聞くとネイさんもユミリアさんも盛大に驚く。
私にはその力がある。
問題はその力を使いこなせるかという現実だけど、今の私に不可能なんて言葉はない。

ネイ 「救うって……私の病気を治せるの!?」

リンク 「私ならば……」

私は自分の意識を集中する。
次元圧縮炉を使いこなすイメージをもち、それを両手両足に放出するようにイメージする。

カァァァァ。

私の手から光が溢れる。

ネイ 「この光……ユウの時の力に……!?」

私の体から放たれた光はネイさんの体を包んだ。
ネイさんが光に包まれると、その後は一瞬で光は消え失せる。

ユミリア 「時の力? リンク! 記憶を取り戻したの!?」

さすがその目で見てきた人たちか、私の力の正体を見事に言い当てる。

リンク 「残念ですけど、記憶はまだ……」

ネイ 「記憶って……リンクちゃん、どういうこと?」

私はもう覚悟を決めている。
だからこそ、ネイさんに話そう。

リンク 「今から言う事はユミリアさん意外には言っていません……」

私は静かに私の今の状態、そしてこれから起きる現実をネイさんに話した。

ネイ 「――……つまり、リンクちゃんの命はもう」

リンク 「はい……だからこそ、私の全てを可能にする力で、ネイさんの病気を停止させました」

私はネイさんの病気に無限の時間を与えた。
それこそがネイさんの病気を永久に停止させる。
根本から治すこともできるけれど、それはある問題を起こすから、永久に停止させる手段を取った。

ユミリア 「リンクちゃん……」

ユミリアさんは何かを言いたげだった。
だけど私はユミリアさんに微笑かける。

リンク 「ユミリアさん、ありがとうございます」

私は事を終えると二人に背を向けた。

ユミリア 「あ、リンクちゃん……どこへいくの?」

リンク 「待たせている人がいますから」

私は待たせている人がいる。
だから私はその人の元に向かう。
本当はもっといろんな人に会いたいけれど、そんな時間はないから。


『同日 時刻24:00 屋上』


ユウキ 「……『ついに』来たか」

リンク 「はい、結局私には何を成せばいいのかはわかりませんでした、『名無し』さん」

屋上にたどり着くとユウキさんが柵に凭れかかって背中を向けていた。
私が来ると、気配を察知してか、言葉を放った。
私は……ついに確信をつく。
するとどうだろう……突然、目の前が一変した。
一陣の風が吹くと、白と黒のコントラストだけが存在する世界。

ユウキ? 「お見事、よく気づいたものだね」

気がつくと、真っ黒な影の樹の前に色合いの存在しない真っ黒な影の存在が立っている。
そう、そいつはずっと私の側にいた。

リンク 「私が学園に入学した時からずっと見ていましたよね? いえ、監視でしょうか?」

? 「……」

私はずっとユウキさんに疑問をいだいていた。
何故、私は一人のキャラクターに過ぎないユウキさんにどうして恐怖しないといけないのか。
理由は簡単だった。
相手は私の記憶と命を奪う相手、そして奪った相手。
だからこそ、恐怖した。

? 「君に課したのは一年間、運命の調和を乱さないこと、もしこれを乱せばあなたを殺します」

リンク 「……なるほど、案外そんなことだったんっですか……だったら」

私はガイアさんを助けた。
ネイさんの病気を止めた。
死ぬ理由としては揃いすぎているわね。

? 「ひとつ聞きたい、あなたの命はまもなく停止する……なのになぜそれほど達観としているのですか?」

その影には表情が存在しない。
だからどんな顔で聞いているのかは全くわからない。
まぁ、私は素直に答えるだけだけど。

リンク 「私はすでに死んでいる身だとユミリアさんから聞きました、だから死なんて易いもの……だなんてとてもとても言えませんけどね」
リンク 「例え死人でも、私の心は人間なんだから死ぬのは恐いです……でも、後悔はしていません」

? 「後悔?」

リンク 「私はガイアさんにもネイさんにも死んで欲しくはない、私は人間だから、理不尽な運命には例え調和を乱しても抗います」

私はにっこりと笑いそう言った。
私はこの一年間、楽しかった。
終わるは惜しいけど、やっぱりどの世界にも属さない私はいるべきではないのかもしれない。

? 「なるほど……よくわかりました」

私は静かに目を瞑った。

リンク (できることなら……私も先輩になってみたかったなぁ……)

たった一年、それはとても長かったような短かったような出来事。
二年目を迎えられないのは……残念かな。

? 「……では、さようなら」

リンク 「……はい、ありがとうございました」

私の体が消えていく。
私の存在が、終りを……告……る……。





? 「ありがとう……か」

リンクの存在は消えました。
これは因果応報だから……。
でも……。

(リンク 「私はガイアさんにもネイさんにも死んで欲しくはない、私は人間だから、理不尽な運命には例え調和を乱しても抗います」)

その言葉が影の男にこだました。

? 「人間……か」

影の男は微笑した。
その表情は存在しない、しかし確かに笑ったのだ。

? 「私も案外、人間的なのかもしれないな……いいでしょう」

真っ白な世界に存在する影、風も存在しないのに靡く大きな樹の枝。
それはあらゆる世界の運命を司る世界樹。
それはひっそりと確かに存在する。
そしてそれには、決して触れる無かれ。
触れれば、影にされてしまうから。

影は……光の中では存在出来ないから。




ユミリア 「はーい、皆初めましてー! 去年までは専門部にいたけど、また高等部に戻ってきたユミリアよ! 二年生諸君、よろしくね♪」

ユミリアさんの挨拶はとても個性的だった。
元が童顔なだけにそんな挨拶をされたら、世の男どもは歓喜。
早速教室内でも歓声が上がっている。

ユミリア 「はい、それじゃ新学期そうそうだけど、転校生を紹介するわよ! 入ってきて!」

私はユミリアさんに呼ばれて教室にはいった。

カッカッカとユミリアさんが私の名前を黒板に書いた。
私の名前は……。

リンク 「リンクです、皆さんこれからの学園生活よろしくお願いします」

ユミリア 「はーい! それじゃ仲良くするのよ!?」

反応はまちまち、まぁ私は美少女っていうわけじゃないし、反応もそれほどよろしくはない。
ユミリアさんとは違うからね。

リンク 「ユミリアさん、お久しぶりです」

ユミリア 「ほえ? どこかで会ったことあったっけ?」

ユミリアさんは不思議そうに首を傾げた。
私はフフと微笑む。

リンク (どうして私はここにいるのだろう……あの人は何を考えているんだろう)

……まぁ、どうでもいいか。




――それは夢のようなもの、夢は壊れやすいけど、無限に広がる世界。



…END




キャラクター紹介


キャラクター名:リンク

登場作品:FC学園

性別:女性

身長:155センチ

体重:45キロ

学年:高等部一年生

能力:力5 素早さ4 賢さ5 根性5 感性5(10段階)

いわずもがな本作の主人公。
本来の目的は世界のどこかに存在する全世界の運命を司る樹(正確には樹の姿をしたシステム)を乗っとることだった。
だが、謎の影の手によって記憶を失い、ある刑をかせられた。
その刑が、FC学園での一年間の生活で運命を曲げないということだった。
だが、そのことを知らないリンクはガイアを救い、ネイをも救い、この世から消えた。
だが、二年目の新学期の日、どういうわけかリンクは再びFC学園へと姿を表す。
しかし彼女を知っている者はいないようだ。
能力は学力も体力も平凡で、お世辞に美人でもない。
非常に優しい性格をしており、自己犠牲を厭わない。









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