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Legend Kanon


「魔物を討つ者」

少女 「………」

私はひとりである場所に立っていた。
お母さんの思い出の場所…。
お母さんが守ろうとした場所…。

お母さんとお父さんが通っていた高等学校…。

私はまだ中学生一年生だから、ここに居たら怒られるけど、今は夜だから多分気づかれない。

少女 「………」

私は旧校舎でひたすら待ち続ける…。
私はある『モノ』を待っている…。
魔物と呼ばれるモノを…。

お父さんが言っていた…。
この学校の旧校舎には魔物が居たって…。
でも、もう居なくなったって…。
でも、私はそうは思わなかった。
だって、私にはそれがわかるから…。
私には魔物探知機がある。
魔物が近くに居ると、私の『心』が反応する。

初めて探知したのは、3日前の夜…2014年1月22日に、この学校の前を通った時だった。
私は何だろう?とその学校に入ると、そこには魔物が居た。
小さかったけど、その姿は人の『それ』ではなかった…。
魔物は、私を見るとすぐに逃げ出してしまった。

それから、何度かここに来るけど、魔物には会えなかった。
でも、何となくわかる。
魔物はまだ居る。


少女 「……今日は来ないのかな?」

もう22時だった…。
そろそろ帰らないと。

舞 「………」

仕方なく、私は誰にも気づかれないように学校を出る。


ひとりでの帰り道。
でも寂しいとは思わない…。



………。
……。
…。



父 「舞…どこに行ってた?」

家に帰ると、玄関でお父さんが待ってた。
気づかれてたんだ…。
私は何も言わずに靴を脱いで、家に上がる。

父 「舞っ、ちゃんと答えろ!」

お父さんがきつくそう言う。
私はしょうがないので本当のことを言う。

舞 「…学校」

父 「学校…? こんな遅くにそれも私服でか?」

舞 「………」

私はこくりと頷く。
嘘はついてない。

父 「全く…誰に似たんだか。まさか魔物を退治しに行ったとでも言う気か?」

舞 「………」

私はまたこくりと頷く。

父 「…はぁ。全く…魔物なんて居るわけないだろう?」

お父さんは深くため息をついて、そう答える。

舞 「…魔物は居る。私にはわかる」

父 「…まぁ、信じないわけじゃないが、それならなおさらだ。お前ひとりで何ができる?」

舞 「…お母さんができたもの。私もできる…」

父 「…確かに母さんはお前と同じ位の頃から魔物と戦っていた。だが、それは母さんが強いからだ。お前は母さんよりも強いと思うか?」

舞 「………」

そんなのわからない。
だって、私はお母さんを知らないから。
お母さんは、私を産んですぐに死んじゃった。
お父さんは病気で死んだって言ってた。
でも、私はそう思えなかった。

きっと、魔物に殺されたんだ。
だから、学校に魔物が現れたんだ。
お母さんを殺した奴らなんだ…。

お母さんが強いなら、私だって戦えるはず。

父 「…はぁ、気の強い所は本当にあいつ似だな。頼むから危険な真似だけはするなよ? 俺には…もうお前しか残っていないんだからな…」

お父さんは凄く悲しそうな目をして、奥の部屋に入っていった。

舞 「………」

私が産まれる前は、お父さんは3人で暮らしていたらしい。
お父さんと、お母さん。
そして、ふたりの親友だったた人がいたらしい。
でも、お父さんを残して、ふたりとも死んでしまった。

だから、私はお父さんひとりに育てられた。
でも、たまに名雪お姉ちゃんが遊びに来てくれたりした。
最初に会った時、おばさんって言ったら、怒られちゃった…。
他にも秋子おばさんや、あゆお姉ちゃん、真琴お姉ちゃんとも遊んだことがある。
学校では友達がいないけど、お父さんの親戚や友達とは、良くしてもらった。

私は、自分の部屋に戻って、とりあえずお風呂に入った。
そして、部屋に戻ると、布団を用意してもう寝ることにする。
お父さんは、まだ寝ないそうだ…。


父 「…あいつも、やっぱこうなるのかな…?」
父 「舞…。俺たちの娘も、同じ道を歩ませていいのか?」
父 「お前だったら…どうするんだ?」
父 「…くそっ、俺がしっかりしてさえいれば…お前や、佐祐理さんを死なせることはなかったのにな…」



ちゅんちゅん…。

雀が泣く音。
私はその音に起こされて、起きる。

今日は日曜日だから学校は休み。
私は部活もやってないから、今日は家でお休み。
私はパジャマのまま、食卓に現れる。

すると、お父さんは居なくて、代わりに秋子さんが来ていた。

秋子 「あら、舞ちゃん…おはよう」

舞 「…おはようございます。お父さんは、仕事ですか?」

秋子 「みたいね、昨日連絡があって、今日は帰って来れないそうよ」

舞 「…そうですか」

秋子 「舞ちゃんは、トーストでいいの?」

舞 「…はい」

秋子さんは凄く美人で、お父さんの叔母さんに当たる人。
見た目は凄く若いけど、本当はもう50歳以上らしい…。
正確な歳はお父さんも知らないって言ってた。

私は椅子に座ると、秋子さんが淹れてくれたコーヒーを飲む。

秋子 「私も今日は仕事だから、お昼からは名雪たちが来ると思うわ」

舞 「はい」

秋子 「舞ちゃん…辛かったら、いつでも私たちを頼っていいのよ? 祐一さんはあの性格だから、人を頼ろうとしないけど…」

舞 「…わかってます」

私はそう答えて、トーストを手にとる。

秋子 「あら…バターがないわね。舞ちゃん、ジャムでいい?」

舞 「…はい」

私がそう言うと、秋子さんが、ジャムを持ってきてくれた。

舞 「……?」

私はそのジャムを見て不思議に思った。
色が…いつもと違う。
オレンジのようにも見えるけど…。

秋子 「私の特製なのよ」

舞 「………」

秋子さんの作った物なら、大丈夫よね…。
私はそう思って、ジャムをトーストにつけて頬張る。

舞 「………」

秋子 「…どう?」

舞 「………」

形容しがたい味だった。

秋子 「……?」

とりあえず勇気を出して訊いてみる。

舞 「…これ、何ですか?」

秋子 「ジャムよ」

予想通りの答え。
でも、ジャムの味じゃなかった。

舞 「……ごちそうさま」

秋子 「あら、もういいの?」

舞 「起きたばかりで、お腹空いてないですから…」

秋子 「そう…でも、食べたくなったらいつでも言ってね?」

舞 「…はい」


私は食事を終えると、部屋に戻って普段着に着替える。
昼までは、部屋でぼーっとしていた。
そして、12時を過ぎたぐらいになると…。

声 「おかあさ〜ん、ごめんなさ〜い」

どこか間延びした口調。
きっと、名雪さんだ。

私は、リビングに歩いた。

名雪 「あっ、舞ちゃんおはよう〜」

舞 「おはようございます」

あゆ 「うぐぅ〜、名雪さん早いよ〜っ」

そして、あゆさんが息を切らしながら部屋に入ってきた。

名雪 「伊達に元陸上部じゃないよ〜」

あゆ 「うぐぅ…」

舞 「………」

秋子 「真琴は来てないの?」

名雪 「うん…真琴は今日は仕事だから」

秋子 「そう…ごめんなさいね、ふたりとも折角の休日なのに…」

あゆ 「ボクは構わないよ、舞ちゃんと遊ぶの大好きだから」

名雪 「わたしもだよ〜」

秋子 「そう…それじゃあ、私は仕事があるから、舞ちゃん、何かあったら、ふたりのおばさんに言うのよ?」

名雪 「わたしまだ若いよ〜」

あゆ 「…うぐぅ〜、ボクもまだ33だもん」

ふたりは拗ねた様に反論する。

秋子 「うふふ、そうね…じゃあ本当のおばさんは退散するわね」

秋子さんは笑顔でそう言って家を出ていった。

舞 「………」

名雪 「えっと…それじゃ何しようか?」

あゆ 「お昼ご飯は食べたの?」

舞 「………」

私はふるふると首を横に振る。

名雪 「それじゃ、何か食べたい物ある? 何でも作るよ?」

舞 「……牛丼」

私の大好物。
お母さんも、お父さんも、その親友の佐祐理さんも大好きな牛丼。
私も大好き。

名雪 「わかったよ、腕によりをかけて作るよ〜」

あゆ 「それじゃ、できるまでボクと游ぼっ」

舞 「………」

私はこくりと頷く。

あゆ 「う〜ん、何しようか?」

舞 「…あの」

あゆ 「うん…何?」

舞 「…私のお母さんがどんな人かわかります?」

お父さんからは何となく聞かされていたけど…。

あゆ 「う〜ん、ちょっと無口な人だった…」

舞 「………」

あゆ 「でも、凄く優しい人だったよ…。祐一君が好きになったのも頷けるぐらいに…」

舞 「…そうですか」

お父さんと同じような答えだった。
お母さん…。

写真でしかわからないお母さん。

産まれて一度も話した事のないお母さん。

私は、色々とお母さんに近づこうと努力した。
髪型をお母さんと同じようにしてみたり…剣術の稽古をしたり。
お父さんは、そんな私を見ていつも苦笑いを浮かべていた。

あゆ 「舞ちゃん…本当にお母さんそっくりだよね〜」

舞 「…そうですか?」

あゆ 「うんっ、髪型も一緒だし、リボンも一緒」

舞 「でも…リボンはちょっと大きいです」

私の使ってる紫のリボンはお母さんが高校の頃に使っていた物だから、今の私にはまだ大きかった。

あゆ 「大丈夫だよっ、舞ちゃんもお母さんみたいに大きくなると思うよ」

舞 「……はい」

私はそれからあゆさんと一緒にトランプなどをして時間を潰した。
そして、名雪さんが作ってくれた牛丼を皆で食べた。
…とても、美味しかった。


やがて、夜が来る。
名雪さんは明日仕事だから家に帰るらしい。
あゆさんは今日は泊っていくそうだ。

私とあゆさんは、名雪さんが作っていってくれた夕食を食べると、また色々とお話をしながら過ごした。
そして時計の針が20時を回る。

舞 「………」

あゆ 「どうしたの? 舞ちゃん…」

舞 「ちょっと、出かけてきます…」

あゆ 「えっ…? 出かけるってどこに?」

舞 「…学校」

あゆ 「部活か何か?」

舞 「…そんな所です」

あゆ 「そう…それじゃ、気をつけてね? 変な男の人に着いて行っちゃダメだよ?」

舞 「…はい」

私は剣を持って学校に向かう。
剣は布で包んで外からはわからないようにする。
見つかったら捕まるかもしれないから…。
これは、真剣だから。


舞 「……!!」

学校に着くと、私は奇妙な感覚に襲われる。
魔物の気配だ。
私は剣の布を取って、校舎内に入る。

そこは今までとは似ても似つかないぐらいに殺気だった場所だった。
私は少しながらも恐怖を覚えた。
でも、お母さんは戦っていた。
だから、私も戦う!
お母さんの敵を…っ!

舞 「!?」

魔物は廊下にいた。
1匹だけ。
この前に見たのと同じ…小さな奴。
私は剣を振りかぶって、魔物に切りかかる。

魔物 「……!!」

魔物は私の剣をジャンプでかわして、私の背後に着地する。

舞 「……!?」

私は咄嗟に前に転がって魔物の攻撃をよける。

魔物 「…グググ」

魔物は殺気だっていた。
前とは違う…。
逃げる気はない。

舞 「………」

私は剣を構えて魔物に立ち向かう。

ザシュッ

横に薙ぎ払った私の剣が魔物の横腹を掠める。
魔物は怯んで、後に下がる。
私は逃がさない。
私はさらに上から振り下ろす。

ザシィィィッ!

剣は魔物の頭から腹まで食いこむ。

魔物 「ギャアアアアッ!!」

魔物は断末魔を上げてその姿は消滅した。

舞 「……はぁ…はぁ」

倒せた。
これぐらいなら簡単…。
でも、複数来たら…?
私は余計な事は考えなかった。
気配はまだある。
私は探知機を働かせながら、気配のある方に向かう。

舞 「……!!」

その途中、さっきと同じような小さな魔物がたくさん現れた。
けど私は負けなかった。
傷は負ったけど、皆やっつけた。

後は…大きなひとつの反応だけ。
私はその方に向かった。

舞 「…ここ?」

教室だった。
鍵は開いていたので、私は中に入る。
そこで、私は奇妙な感覚に襲われた。

舞 「……何? 麦…畑?」

何故かそんな光景が脳裏をよぎった。
そんな光景は知らない。
でも…ここは?

姿が見えた。
少女の姿。
私よりも年下に見える…でも

舞 (この娘…私に似てる?)

まるで、昔の自分を見ているようだった。
そして、その娘は傷を負っている。

私は、この娘が魔物だとわかった。
この娘が…お母さんを?

でも…。

魔物 「…舞」

舞 「……?」

魔物は私の名前を呼んだ。
でもどうして? 私はこの娘とは初めて会うのに。

魔物 「…舞の子供なんだね?」

舞 「………」

私は理解した。
魔物が言った『舞』とは、私じゃなく、お母さんの事を指したのだ。

私の名前はお父さんがつけてくれた。
相沢 舞。
お母さんと同じ名前。
私は構わなかった。
お父さんが、私のためにつけてくれた名前だから。

魔物 「…私を討ちに来たの?」

舞 「………」

私は頷けなかった。
この娘は…違う。
この娘は…お母さんを知っている。

魔物 「…そう、お母さんの事が知りたいのね」

舞 「えっ…?」

魔物 「あなたのお母さんである『舞』は、私の分身…。ううん…私と同じ」
魔物 「昔、舞は、私を受け入れる事ができなかったの」
魔物 「でも、あなたのお父さん、『相沢 祐一』が、私と舞を助けてくれた」
魔物 「だけど、舞の戦いは終わらなかった…本当の魔物がいたから」

舞 「本当の…?」

私は理解できなかった。
本当のって、どういうこと…?

魔物 「あなたが今まで倒した敵。それが本当の魔物…あなたのお母さんを殺した種族」
魔物 「その種族は異世界からの住人」
魔物 「この世界を新たな住処にしようと企む者たち…」

舞 「その種族に…お母さんが」

魔物 「それだけじゃない…倉田 佐祐理も同じ…」

舞 「佐祐理さんが…?」

お父さんは病気だって言ってたのに…。
でも、お父さんは私を心配してそう教えたのだろう。
私がお母さんたちと同じ運命にならないために。

魔物 「舞…。あなたは魔物を討つ者…。あなたの力はやがて世界を救う剣となる」
魔物 「だから、この世界を…」

話しがとても大きくなっていた。
本当の魔物…。
お母さんや佐祐理さんを殺した張本人。
私にはそいつらを倒す力がある。

舞 「……わかった」

魔物 「ありがとう…」

舞 「…私は、魔物を討つ者の子だから」

魔物 「あなたに…母の力を……」

魔物の体が光ったかと思うと、景色は元に戻り、魔物は目の前からいなくなった。
でも、気配はある…。
私の中に。

舞 「…これが、お母さんの力」

お母さんは私の中にいる…。
もう何も怖くない。
お母さんが一緒に居てくれるから。

私は…新たな戦いの予感を感じながら、魔物の気配がなくなった学校を後にした。


本当の戦いはこれから始まる…。

…To be continued

私の魔物を討つ者としての戦いが…。

Fin

あとがき



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