ポケットモンスター パール編




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おまけ





『負けたくない』

『意地がある』

『だけど、どうしようもないことだってある』

『諦めたくない』

『でも…』

『やっぱりどうしようもない』


−ヒカリの心境−





ジュン 「はぁ…たく、興ざめだぜ…で、ヒカリちゃんはこれからどうするわけ?」

ヒカリ 「……」

ジュン 「や〜ん…シカト? 色んな意味でショック〜」

コウキ 「ヒカリちゃん?」

ヒカリ (あの女〜…ぜーったい、ギャフンて言わせてやる!)







第13話 『中途半端』




『某日 時刻18:50 ヨスガシティ ポケモンセンター』


ジュン 「ま、俺はとりあえずトバリシティに行って、ジムを攻略するわ」

ポケモンコンテストを終えて、僕たちはポケモンセンターで夕食をとっていた。
ジュン君はここのジム戦は諦めて先に、トバリのジムへ行くらしい。
ヒカリちゃんはどう考えているんだろうか?

ジュン 「にしても、ポケモンのタマゴか、一体何のタマゴなんだ?」

コウキ 「さぁ?」

僕は両手で大きなタマゴを抱えていた。
確かな脈動は感じるが孵化するのは、まだ少しかかりそうだ。

ジュン 「お前にはもったいない、俺に譲れ!」

コウキ 「ええ!? そんな、強引な!」

ジュン 「昔から言うだろう…お前の物は俺の物…俺の物も俺の物!」

コウキ 「それじゃ、いじめだよ!?」

ヒカリ 「……」

ジュン 「…や〜ん、なんだろうね、このツッコミ不在感…」

コウキ 「…ヒカリちゃん?」

ヒカリちゃんはいつもなら的確にジュン君の横暴に突っ込むのに、今日は両手を握ったまま、肘をテーブルにつけて顔を手で埋めていた。
まるで○ルフの司令…異様な目つきの目が、遠くを見定めている。

ジュン 「あ、いらないなら、この海老天も〜っらい!」

ジュン君はそう言って、ヒカリちゃんが頼んだ天そばの海老をひょいっと奪い、口に入れた。
ちなみにジュン君は力うどん、僕は塩ラーメン。

ヒカリ 「……」

ジュン 「う〜ん、まるで目に入っていない…これが本当のアウトオブガンチュー?」

コウキ 「もしかして、寝てるのかな?」

ジュン 「目、開けたままか?」

コウキ 「う〜ん…」

どうも、ヒカリちゃんの様子がおかしい。
ここまでジュン君の悪ふざけに反応しないというのも異常を感じる。
一体、何を考えているんだろうか?

ジュン 「医者呼んだほうがいいかな?」

コウキ 「う〜ん…」

ヒカリ 「よし…! やっぱりこれよ!」

コウキ 「!?」
ジュン 「おおっ!? て、なに、一体?」

ヒカリ 「ん? あれ? 二人ともどうしたの?」

ヒカリちゃんは突然、声を上げて、僕たちはさすがに驚く。
しかし、向こうも気付かずか僕たちの反応を見てちょっと驚いている。

コウキ 「やっぱりこれって…一体どうしたの?」

ヒカリ 「ああ、コウキ君! 明日あたし、コンテストに出場するわ!」

コウキ 「え、ええー!?」

ジュン 「コンテストって…でも、普通コンテストって盛装するよな? 社交ダンスみたいに」

ヒカリ 「気に入らないのよ…あんなに馬鹿にされてスルーできるほどあたしは穏やかじゃないわよ!」

ジュン (渡る世間は鬼ばかり…的なことがあったのか?)

コウキ 「? ?? ???」

全然、よくわからない。
一体、何が起きているの?
ヒカリちゃんったら、机から立ち上がり握りこぶしまでつくるし!

ジュン 「でもさ、本当の話、服どうするの?」
ジュン 「今日のような飛び入りのコンテストはともかく、普通のコンテストだったら着飾るものだぜ?」

ヒカリ 「そうね…それはもんだ…いぃ!?」

コウキ 「ん!? な、なに、どうしたの!?」

ヒカリ 「あたしの海老がない!? どこ行ったの!?」

ジュン 「〜♪」

コウキ 「……」

僕は流し目でジュン君を見た。
ジュン君は必死に目を逸らして、口笛を吹いていた。
やっぱり、気付いてなかったんだ…。

ヒカリ 「さてはあなたね、ジュン!」

ジュン 「いきなり俺の性かよ!?」

ヒカリ 「あなた以外、考えられないでしょうが!」

コウキ (正解…)

ジュン 「ちーくーしょー!」



…………。
………。
……。



ジュン 「じゃ、俺はもう次の街目指すから」

コウキ 「うん、ばいばい」

ジュン 「ヒカリちゃんは? 見送りなし?」

コウキ 「うん…ちょっと電話している」

明くる日の朝、ジュン君は朝早くに準備を終え、朝8時には次の街に出発しようとしていた。
ヒカリちゃんは自宅へと電話をかけているようだった。
なので、ジュン君の見送りは僕一人。

ジュン 「なぁ…コウキ、もし世界が終焉するって知ったら、そしてそれが自分たちの生きている間に起きると知ったら、どう思う?」

コウキ 「世界が終焉する? そんな事言われても…始まりを知らない僕には終わりというものもわからないよ…」

ジュン 「そうか、そういやお前記憶喪失だったな」
ジュン 「悪いな、変なこと聞いちまって…忘れてくれ」

コウキ 「うん?」

ジュン 「じゃ、俺は行くわ、またな!」

コウキ 「あ、うん!」

僕はジュン君を見送ると、今度はポケモンセンターに行くのだった。




ヒカリ 「うん、じゃあお願いねお母さん、うん」

コウキ 「ヒカリちゃん?」

ヒカリちゃんはポケモンセンターに設置してあるテレビ電話で会話していた。
これはポケモンや道具を預けたりもするボックスも兼ねている。
どうやら、ヒカリちゃんはコンテストで着る服を送ってもらったみたいだった。

ヒカリ 「じゃあね、うん、バイバイ」

ガチャン。

ヒカリ 「お待たせ、コウキ君!」

コウキ 「準備は大丈夫なの?」

ヒカリ 「うん! 今度は観客席で応援しててよ?」

コウキ 「うん」

ヒカリちゃんのコンテスト…。
何を思ったのかは知らないけど、これまでコンテストに全く興味のなかったはずのヒカリちゃんは突然、コンテストに出ると言った。
その理由は定かでは無いけど、なにかあったんだろう。
まぁ、最近では有名なコーディネーターはある種、トップアイドルのようなものらしく、女の子とかはほとんどコーディネーター志望らしい。
ところが、ヒカリちゃんは、ナナカマド研という特異な環境で育ったせいか興味まるでなし。
それどころか、コーディネーター転向の話をすると。

(ヒカリ 「やーよ、そんなチャラチャラしたの! 大体リボン集めたって何の役にも立たないじゃない」)

と、言い切ったほど。

コウキ (ヒカリちゃんって根っからトレーナー属性なんだよね)

それでも、そんなヒカリちゃんを本気にさせたなにかがきっとあったに違いない。
僕としてはコーディネーターの方が望ましいんだけど…。
コンテストは通常のバトルと違って、ポケモンを傷つける戦いをしなくてもいい。
そういう意味ではこっちの方が向いている気もするけど…。

コウキ (ヤミカラスやフカマルは無理だよね…)

あの2匹の性格を考えると、コンテストなんてもっての他な気がする。
だからといってブイさんに頼りっきりというのも問題。
僕にはコンテストの才能は欠片もないんだよねぇ…。

そう言う意味では、ヒカリちゃんの方がコンテスト向きかもしれない。
ヒカリちゃんはポケモンの特性や、性質、技の特徴などナナカマド博士譲りの抜群の知識がある。
それをたくみに生かした、演技は凄い。
ただ、コンテストバトルはまだまだトレーナー思考のやり方みたいだけど…。

ヒカリ 「えーと、今日行われるヨスガのコンテストはノーマルコンテストがひとつ…て、ことはこれか」
ヒカリ 「出場資格は特になし、制限はコンテストリボン2つ以下」
ヒカリ 「なお、コンテスト出場者はかならずコンテストパスの配布を受けてください」
ヒカリ 「て、これは昨日の飛び入りのあれで貰ったから問題なしと」
ヒカリ 「使用ポケモンは1匹、見た目、演技、コンテストバトル一貫してか…」
ヒカリ 「アクセサリーは昨日の参加賞で少し貰ったけどね…」

ヒカリちゃんはどうやらコンテストでの戦略を練っているらしい。
実際にコンテストというのがどういうものなのか知らないけど、ヒカリちゃんも頑張ればきっと出来るよね?

ヒカリ 「…おっし、とりあえずエントリーに行きますか!」

そう言ってヒカリちゃんは再び、コンテスト会場を目指す。
昨日のとは違い、今度は本当のリボンをかけたコンテスト。
出場者も昨日よりずっと多いだろうし、素人だけじゃない。
苦戦するだろうけど、頑張ってヒカリちゃん!



…………。



ヒカリ 「コンテスト、出場します!」

受付 「はい、コンテストは10:00から始まります、それまでにコンテスト会場に入ってください」
受付 「選手控え室は、あちらの通路になっています」
受付 「これが、エントリーナンバーです」

ヒカリ 「どうも」

あたしはコンテスト会場の受付で、コンテストの出場申し込みを済ます。
エントリーナンバーの書かれた札は4番となっており、少し不吉だった。

ヒカリ 「時間潰すのも面倒だし、控え室で待機しとこっと!」

あたしはそう思うと、控え室に向かった。
控え室は他の出場者と共有で何人かは同じ部屋になる。
あたしの控え室は第一控え室、1〜6番の参加者の控え室みたい。
あたしは張り紙を見つけて、それに従い、控え室に入った。

ヒカリ 「まぁ、さすがに誰もいないわね」

ガチャリと控え室のステンレスのドアノブを空けると中にはまだ誰もいなかった。
本来ならまだ、リハーサルをやっている頃だもんね。
ちなみに中には出場者の着替えする個室もあった。
着替えるだけだからかなり狭いけど、先に着替えとくかな?

ヒカリ 「お母さんから送ってもらったドレス…ていうかワンピース」

ピンク色の可愛いワンピースだった。
昔はまだ着ていたこともあったけど、もうずっと着てなかったなぁ…。

普段のあたしは動きやすく、シンオウ地方を歩き回れる格好だった。
女の子だし、やっぱり身だしなみには注意していたけど、まだコウキ君が現れる前なら、ブラシなんか……持たなかったよね。
あたしは鏡の前に座ると、ブラシで髪を解かした。
切ろうかとも思ったけど、なんだかんだで伸ばした自分の長い髪の毛。
ゆっくり、丹念に解かして少し鏡を覗き込む。
別に普段とは変わらない…やっぱり、可愛いとはちょっと違うかな…。

ヒカリ 「…着るのと着れるのはやっぱり違うか…駄目だね…あたし、すっかり可愛くなくなった」

思えば、女らしいことより、ポケモンだった。
いっつもポケモン。フィールドワークに出かけて、泥だらけになってもポケモンを探していた。
ナナカマド博士も帰ってきて、ようやく気兼ねなくシンオウ中を歩きまわれると思った。
でも、女らしさ…全部捨てちゃったんだなぁ…。
普通、野山を駆け回ったり、怪しい館に気兼ねなく入ったり、光も入らない洞窟に忍び込んだり、恐ろしいポケモンにも平気で立ち向かったり…。

ヒカリ 「はぁ…全然、女の子してないわ、むしろ男の子」
ヒカリ 「コウキ君と出会って少し、気にしはじめたけど手遅れよね…」

今更ながら後悔しているんだ…あたし。
なんでかなぁ〜、トレーナーになることが当たり前だと思ってた。
コーディネーターなんて、全く考えてもいなかったよね…むしろ馬鹿にしてた。
バッジと違って、リボンはなんの恩恵も無い、華やかなことなんて興味ない。
宝石なんかより、海に潜ってタマンタを探して、泥の中歩いてグレッグルを見つけて、木を登ってケムッソを見つける。
そっちの方があたしには断然楽しかった。
だけど、これじゃやっぱり年頃の女の子は…だめなんだよね。
結果的、女の子の友達なんてひとりもいなかった。
ぶっちゃけ、コウキ君の方が女性的だし。
これも、産まれの不幸なのかな〜?

ヒカリ 「やっぱり、あたしはあたしらしく…か!」

あたしはある決意をする。
これはある意味コーディネーター…いやコンテストに対する挑戦かもしれない。
そして、自分への戒めなのかもしれない…。
これで勝てたら…あたしはあたしとして生きる。
でも、負けたら…女の子を目指そう。



……………。



司会 「さー! 今日も始まったヨスガシティ、ポケモンコンテスト!」
司会 「司会は、おなじみナナコが行うよー!」
ナナコ 「そして、今回の気になる審査員!」
ナナコ 「まずは、ポケモンコンテスト管理委員会、シンオウ支部・支部長のジンさん!」

ジン 「シンオウ地方のコンテストの聖地、ヨスガシティ…ノーマルコンテストとはいえレベルの高い演技に期待します!」

ナナコ 「続いて、ポケモン大好きクラブ、シンオウ支部、会長のスキダさん!」

スキダ 「可愛いポケモン、カッコいい演技、みなさん頑張ってください!」

ナナコ 「そして、最後はヨスガの伝説的審査員、ミミィさん!」

ミミィ 「皆さん、私はこれから出てくるコーディネーターとそのポケモンたちに期待し、そして楽しみにしています!」
ミミィ 「皆さんも一緒に楽しみましょう!」

ワァァァァァァ!

コウキ 「昨日の時と全然違うな…」

すごく盛況だ。
観客席から見ると、ステージが思ったより小さく見える。
それだけ、このヨスガのスタジアムは大きいということなんだろう。
僕はポケモンのタマゴを抱えながらステージに注目した。

観客A 「あれ? あの人、昨日のブイゼル使いよね?」

観客B 「本当だ、なんだ、出場してないのか?」

コウキ 「? ??」

どうにも、なぜか僕が周りから注目されている。
さすがに弱った。
すごいの僕じゃなくてブイさんですから…。

ナナコ 「さー! それじゃ早速見た目審査開始!」
ナナコ 「みんなはどの子が一番いいかな!?」

僕たちの時とは違い、今度は参加者全員がポケモンを連れてステージに上がる。
総勢で16名いるみたいだった。
多分、16名が出場枠だったんだろう。
僕はヒカリちゃんを探した。
そして、ヒカリちゃんはあまりに簡単に見つけることが出来た。

観客A 「ねぇ…あの子、一人だけ浮きすぎてない?」

観客B 「ああ…コーディネーターっていうより、トレーナーって格好だよな?」

観客A 「あれで恥ずかしく無いのかな〜?」

観客B 「女の子だよな?」

コウキ (ヒカリちゃん…ドレスは?)

ヒカリちゃんは一人だけ、普段の姿で現われた。
たしかに今日ドレスを受け取っていたはずなのに…どうして?

ジン (一人浮いた格好…しかし、目に迷いがあるどころかその目は生気に満ち溢れている…昨日の飛び入りにもいたが、なかなか度胸があるな)

スキダ (浮いているゆえ真っ先に目が行きますねぇ…それにしてもフワンテ、いいですねぇ…)

ミミィ (あの人…ふふふ、コンテストは無理に盛装する必要なんて、ないですからね)



……………。



ナナコ 「さー! こっちの審査も終了だ!」
ナナコ 「早速だけど、見た目審査の結果発表! 2次審査に上がれるのは8名だけ!」
ナナコ 「早速、その8名の顔写真がオーロラビジョンに表示されるよ!」
ナナコ 「順番は一番評価の高かった人からだ!」



ヒカリ (伸るか反るか…)

あたしは、控え室で結果を待っていた。
外では大きなオーロラビジョンに次々と表示される。
どうせ、だめもとだけど…せめて昨日のあいつに一泡吹かせたい!

シャンシャンシャンシャン!

次々と顔が映されていく。
そして、最後の一人…。

シャン!

ヒカリ 「! 残った! あたし…残った!」

女性 「へぇ…てっきり脱落かとおもったのに」

ヒカリ 「…生憎ね」

あたしの前に、一人の女が現われる。
女の癖にタキシードを着て、まるで宝塚のように決めた茶色の髪の女。
昨日の…!

女性 「ふふ、睨まない睨まない…ふふ」

あたしはくしくもあの女と同じ控え室になってしまった。
あの女は、エントリーナンバー1、アタシより早くエントリーしていた。
名前はまだ、わからない、でも次の演技からトレーナーの名前がコールされる。
…それで、わかる。

係員 「ヒカリ選手、演技です、ステージに上がってください!」

ヒカリ 「…はい!」

女性 「ふふ、期待しているわよ」

ヒカリ 「皮肉かしら?」

あたしたちは牽制しあいながら、あたしは控え室を後にした。



ナナコ 「さぁ! 最初に現われたのはヒカリ選手! それでは演技どうぞ!」

ヒカリ 「フワンテ、ゴー!」

フワンテ 「フワ〜♪」

まだまだ、子供のフワンテ。
その体長は計測した結果、25センチ。
今回のテーマはギャップ! いくわよ!

ヒカリ 「フワンテ、『10まんボルト』!」

フワンテ 「フーワー!!」

バチチチチィ!!

ナナコ 「おーっと! ちっちゃな体からいきなり大量の電気! 見た目で判断してはいけないという教訓か!?」

ワァァァァァ!

ヒカリ (まずはフワンテは実は凄いと印象付けた! 次は!)
ヒカリ 「フワンテ、『ちいさくなる』!」

フワンテ 「フワ〜ワ〜」

ここで今度は『小さくなる』フワンテ。
萎んだようにも見えるからちょっと汗…。
だけど、もういっちょコンボいくよ!?

ヒカリ 「フワンテ、『かぜおこし』!」

フワンテ 「フワ〜!」

ヒカリ 「いまよ、えい!」

フワンテが風を起こすと同時に、あたしは花びらを大量に投げる。
当然、軽い花びらはフワンテの『かぜおこし』の風に乗って宙を舞う。

ヒカリ 「フワンテ、『サイコキネシス』!」

フワンテ 「フーワワー!」

そして、今度はその宙を舞った花びらをすべて『サイコキネシス』で受け止める、フワンテ。
さぁ、フィニッシュ!

ヒカリ 「フワンテ、もう一度『10まんボルト』よ!」

フワンテ 「フーワー!」

バチチィ! ジュゥゥ…。

『10まんボルト』は空中で静止した花びらを伝って、全ての花びらを黒焦げにした。
これで、おしまい。

ナナコ 「素晴らしい演技でした! 小さな体からは予想も出来ぬ大きな力!」
ナナコ 「その反面、子供らしさを活かした可愛い技! しかし、最後は子供だって馬鹿にできないと言わんばかりの力強い演技でした!」

ワァァァァァァ!

ヒカリ 「おっけ♪ 戻ってフワンテ」

フワンテ 「フ〜ワワ〜♪」

あたしはフワンテを戻すと、ステージを降りる。
すれ違いざま、次のコーディネーターにちょっと注目してしまう。

ヒカリ 「ちっちゃいわね…英才教育かしら?」

あたしのよこを通り過ぎた次のコーディネーターはとても小さな子供だった。
子供だけど、しっかりしたドレスを着ているのはやっぱりあたしのやっていることが場違いなんだって気付かされる。
身長120もなさそうだし、今年トレーナー(コーディネーター)になった子かな?
ちなみに女の子…て、男の子がドレスってのはまずいか…。

ナナコ 「さぁ! 続いてミタマ選手の演技!」

ヒカリ 「ミタマ…ねぇ」

なんとなく、今ので覚えた〜って感じ?
気になる子ね…いかにもって感じで。



…………。



ナナコ 「さぁ、最後は見た目審査1位、一部では有名な男装コーディネーター、リン選手!」

ヒカリ 「リン…それが彼女の名前…」

あの女…リンは相当場数を踏んでいるのか、余裕を感じる足取りでステージに上がる。
あたしは控え室からその演技を凝視していた。
一体、どんなポケモン…どんな演技をするの?

リン 「ふふ…」

ヒカリ 「!?」

リンの顔が控え室から見る映像のカメラを向く。
まるで必死に見ているあたしをあざ笑うかのような視線。
むかつくどころか…少し恐ろしい。

リン 「エルレイド、ステージ・オン!」

ヒカリ (あれ、昨日のあたしのセリフ!?)

偶然かもしれない、でも些細なことに過敏になっていることに気付く。
行動なんて、気にしちゃ駄目、相手の演技に注目するのよあたし!

リン 「エルレイド、『サイコカッター』」

エルレイド 「エル…レイレイレイ!」

ヒュンヒュンヒュン!

エルレイドは地面を切り裂く『サイコカッター』を素早く三発放つ。

リン 「エルレイド、『テレポート』、そして『つじぎり』!」

エルレイド 「エル! レイード!!」

エルレイドはなんと、瞬時に『テレポート』で『サイコカッター』の飛ぶ方へと飛び、瞬時に飛んできた三発を全て叩ききる。
そのスピードは凄まじく、一回の振りにしか見えなかったけど、一度に3つの『サイコカッター』をすべて打ち落とした。
恐らく、超スピードで3発うったんだと思う。
そうとしか、考えられない。

リン 「ふふ、これだけで十分よね」

ワァァァァァァ!

ナナコ 「リン選手、すごい! さすが前回のグランドフェスティバル準優勝の腕前!」
ナナコ 「演技時間は大変短かったですが、それゆえに中身は集約されています!」

ヒカリ 「準優勝!? そんなに…すごいの?」

でも、優勝じゃないんだ。
あれより上がいるのね…。
一泡吹かせるっていったけど…こりゃ、相手が悪すぎるわね。
だけど、こっちは諦める気は無い。
絶対、認めさせてやるんだから!



……………。



ナナコ 『おっまたせー! いよいよ、3次審査へと進む4名が決まったよ!』
ナナコ 『演技審査で評価を得た4人、ごめんなさいだけどそれ以下のみんなはここで脱落だ!』

ヒカリ 「信じるのよ…自分を」

あたしは、控え室で結果を待っていた。
やっぱり、不安…あたしってこんなに度胸なかったっけ?

リン 「ふふ、不安なの?」

ヒカリ 「リン…なんのようなわけ?」

リン 「君を笑いにきた、そういえば君の気は済むの?」

ヒカリ 「!」

どんだけすごいやつなのかは知った。
だけど、この性格は気に入らない。
なによ…人を小馬鹿にして!

ナナコ 『一位は大半の予想通り、リン選手!』

リン 「ふふ」

ヒカリ 「ちょー余裕、むかつくけど、仕方ないわね…」

リン 「あなた流の褒め言葉かしら?」
リン 「ふふ、あなた、多分残るわよ?」

ヒカリ 「え…?」

リン 「3位ってところかしら? 2位は多分、あのミタマ選手ってとこね」

ナナコ 『続いて2位は初出場のミタマ選手、その次に並ぶのはヒカリ選手だよー!』

ヒカリ 「! ほ、本当だ…本当にリンの言ったとおりに…」

リン 「ふふ、不思議? あなた…才能はあるわ…活かし方を全然理解していないけど」

ヒカリ 「活かし方?」

リン 「次のコンテストバトルで知りなさい、ふふ」

ヒカリ 「……」

活かし方…。
コンテストでの活かし方。
リンはあたしに才能ありと言う。
だけど、それを全然活かせてないと。
コンテストバトル…か。



…………。



ナナコ 「さー、残り4名となったけどついに最後の3次審査、コンテストバトルよー!」

ワァァァァァァ!

ナナコ 「早速、トーナメント表も完成! まず第1回戦はリン選手対ヒカリ選手!」

ヒカリ 「いきなり!?」

リン 「ふふ…」

なんと、最初の相手はいきなりリンらしい。
よりにもよって、実績ある相手に当たるなんてなぁ〜…。

リン 「期待しているわよ?」

ヒカリ 「…ふん!」

無駄にリンから確かな信頼を感じる。
こいつ…やっぱりむかつく。

ヒカリ 「リンって何歳なの?」

リン 「16だけど?」

ヒカリ 「ふ〜ん、やっぱりあたしと同じだったんだ」

リン 「あら、そうだったの? てっきりまだ中学生くらいかと…」

ヒカリ 「余計なお世話よ!」

そうか、あたしって子供に見えるんだ。
やっぱり女らしくした方がいいのかな…。
いつまでもこれじゃ、男も寄り付かないし。

リン 「その格好も、度胸あるしね」

ヒカリ 「あなたのタキシードも十分だと思うわよ?」

リン 「ふふ、胸は隠せないけどね…」

ヒカリ 「本当にむかつくな〜…」

リンはそう言って胸を強調する。
タキシードが引き締まっているので、ちょっと抑え目だけど、多分Cカップあるわね。

リン 「でも、あなたじゃタキシードは似合わなさそうね」

ヒカリ 「性格が男性的だからって男装が似合うとは限らないっての!」

リン 「そうね、ごめんなさい、見た目だけならドレスの方が似合うわね」
リン 「胸もCはあるようだし?」

ヒカリ 「え?」

リンはあたしの胸を見てCという。
あれ? あたしたしかBだったはず。

ヒカリ (大きくなった?)

ちょっと、恥ずかしくなる。

リン 「さて、それじゃいくかしらね…」

ヒカリ 「……」

あたしたちはステージに向かう。
通常のバトルなら、勝てるかもしれないけどこれはコンテスト、恐らく勝てはしない。
でも、やるだけはやってみよう。



…………。



ナナコ 「さぁ、最初のカード、リン選手VSヒカリ選手のコンテストバトルスタートです!」

観客 「リン様、ファイトー!」
観客 「リン様、頑張ってー!」
観客 「リン様ー!!」

スタジアムがリン様コールで包まれる。
そうよね…リンくらいならこれくらいあって当然よね。
てか、あたし…よく考えたら当たり前の様にリンって呼び捨てにしているわね。
いつか、後ろから刺されそうで怖い。

ナナコ 「さぁ、リン様コールの中、ちょっとヒカリ選手やりにくいかもしれないけど、ガンバ!」
ナナコ 「それじゃ、コンテストバトル、スタート!」

ヒカリ 「でてきて、フワンテ!」

リン 「エルレイド、ステージ・オン!」

フワンテ 「フワ〜」

エルレイド 「エルレイ!」

ヒカリ 「なんか、そのポケモンの出し方、むかつくな…」
ヒカリ 「もういいや! フワンテ、『さいみんじゅつ』!」

フワンテ 「フ〜ワワ〜!」

フォンフォンフォン!

フワンテから『さいみんじゅつ』がエルレイドに放たれる。
決まったらいくらリンだって!

ナナコ 「エルレイド、横に避けて」

エルレイド 「エル!」

エルレイドはフワンテを中心に左方向に走って、『さいみんじゅつ』を逃れる。
やっぱ、いきなりは無理か。

ヒカリ 「だったら、フワンテ、『10まんボルト』!」

フワンテ 「フワー!」

バチィン!

リン 「ふふ、エルレイド、ジャンプ」

エルレイド 「レーイ!」

フワンテはエルレイドに『10まんボルト』を放つ。
しかし、エルレイドはそれを鮮やかにムーンサルトを決めながら回避する。

ヒカリ 「鮮やかに…?」

リン 「ふふ、エルレイド、『つじぎり』」

エルレイド 「レーイ!」

ザシュウ!

フワンテ 「フワー!?」

ヒカリ 「……あ! フワンテ!?」

ビーーーーー!!!

ナナコ 「フワンテ、バトル・オフ! 決勝進出はリン選手だー!」

ヒカリ 「あ…」

あっという間だった。
エルレイドの鮮やかな動き…一瞬、心奪われた。
そして、力強い攻撃……完敗だ。

リン 「…投石は投げかけたわよ、後はあなた次第」

ヒカリ 「……もどって、フワンテ」

リンはさっさとエルレイドをボールに戻してあたしの横を通り過ぎた。
あたしと交差した瞬間、彼女は言った。
後はあたし次第と。

ヒカリ 「そうか…わかった……リンが全然活かせてないといった理由」
ヒカリ 「あたし…いつも通りバトルしてた…」

コンテストバトルってわかっていたつもりだったけど、実際にはただ、攻撃しているだけじゃん…。
リンはエルレイドの攻撃モーションも、そして回避動作も美しく、そして鮮やかに決めていた。
はは…そりゃ、全然駄目ね…ブイさんにも簡単に流されちゃうわ。



…………。



リン 「エルレイド、『インファイト』!」

エルレイド 「エル!」

ドスドスドスドスドス!

リーシャン 「シャンー!?」

ミタマ 「リーシャン!?」

ビーーーーー!!

ナナコ 「リーシャン、ステージ・オフ! よって今回のコンテスト優勝者はリン選手だー!!」

ワァァァァァァ!

ヒカリ 「予想通り…ていうかなんていうか、やっぱりリンが優勝か」

あたしは、一人黄昏ていた。
やっぱり、駄目ねあたし…中途半端。

ヒカリ 「負けは負けよね…」

あたしもそろそろ女の子らしく、ならないと駄目かな…。
コウキ君もいまだに友達扱いで、ぜんぜん女の子としてみてくれないし。
まぁ、あれは天然だから仕方ないのかな?

ヒカリ 「ふぅ…これからどうしよう?」

あたしは今日のコンテストも終わり、表彰式もすっとばして、会場の外にいた。
結局、あたしはダメダメなんだよね…。
なれるとしたら結局はポケモン研究者か…はぁ。

リン 「ふふ、どうしたの、ため息?」

ヒカリ 「! リン? もう終わったの?」

リン 「ええ、私は次のコンテストの場へ向かうわ」
リン 「あなたはどうするの?」

ヒカリ 「あたし…あたしは…」

わからない。
目的は元々、シンオウ地方のポケモンの調査だったし…。

リン 「ふふ、まぁいいわ、じゃあ最悪次はグランドフェスティバルででも会いましょう」

ヒカリ 「!? リン!?」

リン 「それとも、ここでやめるの?」
リン 「ふふ、本当にあなたは中途半端ね」

ヒカリ 「! だれが! やってやるわよ! グランドフェスティバルでは絶対…絶対勝つんだから!」

リン 「ふふ、あなた、才能あるんだから、頑張りなさい…じゃあね」

リンはそう言ってその場を去る。
…なんだかんだで、リンはあたしを信頼しているのがわかる。
やっぱ、答えを出すの早すぎる気がするわ。
期間延長!
とりあえず、これからあたしは意地でもグランドフェスティバルに出てやる!
そして、リンを絶対に越えるんだから!

コウキ 「ご苦労さま、ヒカリちゃん」

ヒカリ 「あ、コウキ君」
ヒカリ 「うん…応援ありがとね」

コウキ 「はは、それじゃ僕たちも次の街だね?」

ヒカリ 「そうだね…うん! 次はズイタウン! 行くわよコウキ君!」

コウキ 「あ、待ってよヒカリちゃん! ヒカリちゃーん!」

あたしはすぐにズイタウンを目指すため、駆ける。
コウキ君は慌てて追いかけてくるけど、全速力ならあたしの方が速いみたい。
て、それはタマゴを持っているせいか。

ヒカリ (まずはなんとかリボンをゲットしないとね!)

あたしたちの冒険は、まだまだ続く!





ポケットモンスターパール編 第13話 「中途半端」 完







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