勇者と魔王〜嗚呼、魔王も辛いよ…〜




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第3話 『堕天使』





セリア 「さぁ、今日も始まりました魔王サタンのお料理講座〜♪」
セリア 「本日作る料理は〜カップラーメン!」

サタン 「うるさい! だまれ!」

セリア 「では、作り方! まず、蓋を開け、中にお湯を注ぎます、そして蓋を閉じて待つこと3分!」
セリア 「カップラーメンの完成で〜す♪」

サタン 「いちいち説明するな!」

セリア 「てかさ、魔王ともあろうものがインスタント食品は問題あると思うのですが〜?」

サタン 「仕方ないだろうが、自炊できないんだから」

セリア 「召使とかいないの?」

サタン 「おらん」

セリア 「うぅ…魔王って言っても結構名ばかりなんだね」

サタン 「…」

セリア 「しかも、私までインスタントだし」

サタン 「…てか、いつも言っているが牢獄にいてろ、これじゃあ牢獄の意味ないだろ」

セリア 「料理は一緒に食べたほうが美味しいわよ?」

サタン 「俺は一人で食べるのが好きなんだ!」

セリア 「サーちゃん性格暗いよ?」

サタン 「魔王だからいいの!」

メビウス 「魔王様、ただいま帰りました〜」

サタン 「む、戻ったかメビウス」

セリア 「あら、お帰りメーちゃん♪」

メビウス 「魔王様、インスタントは寂しすぎますよ〜」

サタン 「お前まで言うか!」

セリア 「ところでその両手にある妖しげな物はなんですの?」

そう、メビウスは両手に白いある物持っていた。
ずばり、白骨である。
ちなみにここは台所。
俺の部屋の隣にある。
一応城の台所だからかなり広い。
調理室と言った方がしっくりくるな…。

サタン 「その白骨は錬金室に運んでくれ」

セリア 「は、白骨!?」

サタン (お、めずらしい…)

セリアは珍しく驚く。
こういうところ女の子らしいじゃないか。

セリア 「サーちゃん、白骨なんてどうする気…?」

サタン 「モンスターを創る材料にするんだ」

セリア 「え? モンスターってサーちゃんが創っていたの?」

サタン 「創る場合もある…」

メビウス 「サタン様は闇の錬金術師の異名を持つ練成者なんです」
メビウス 「ちなみに魔王格の魔族は皆こういった称号を持っているんですよ」

セリア 「へぇー、そうなんだ、それにしてもモンスターは創れても料理はインスタントねぇ〜…」

サタン 「嫌なら、食わなくてもいいぞ」

セリア 「あ、それはさすがに辛い…」

セリアもさすがに嫌とは言えない。
ふふ、今回は俺の勝ちだな。

メビウス 「そう言えば、勇者の件どうするんですか?」

サタン 「む、とりあえず、これから生成するモンスターを送るつもりだが、しばらく時間がかかるしな…」
サタン 「まぁ、今いる辺りはコボルトたちのエリアだし、しばらくは問題ないだろう」

俺はインスタントのカップラーメンを食いながら言った。

? 「コボルトじゃ、勇者は倒せないんじゃないかな?」

サタン 「!?」

セリア 「あら? あなたは…?」

突然、入り口から、明らかにこの場に似合わない、魔族の男が入ってくる。
そいつは俺と同じように黒い服を着て、腰まで伸びたブロンドのストレートヘアーをなびかせている。
背中には黒い翼と白い翼を持っていた。
目は細めで開いているのか閉じているのかわからない。
この男の名はルシファー。
俺と同じ魔族だ。
各位は俺とほぼ同レベル、魔王クラスの魔族だ。

ルシファー 「私の名前はルシファー、よろしくお嬢さん」

セリア 「あらあら、私はセリアと申します、ルシファーさん」

サタン 「ルシファー、何しに来た?」

ルシファー 「何、うまくやっているかって魔界から見に来たんだよ」

サタン 「必要ない! 帰れ!」

ルシファー 「親友相手に厳しいね、まぁ、君らしいが」

ルシファーは相変わらず笑い目でそう言う。

ルシファー 「その勇者、私が始末しようか?」

サタン 「!? お前は必要ない! 勇者はコボルトが相手をする!」

ルシファー 「だから、コボルトじゃ勇者の相手にならないって」
ルシファー 「君は運命を変えるんだろ? だったらここで私が相手をするよ」

サタン 「く…」

ルシファー 「それに…興味もあるしね…」

サタン 「興味だと…?」

ルシファー 「はは、それじゃさようなら、勇者一行のことは任せて」

サタン 「あ、待て!」

ルシファーはそう言って外に出て行く。

セリア 「彼は何者ですの?」

サタン 「奴の名はルシファー、俺と同じ魔族で『堕天使』の称号を持つ男だ!」

セリア 「堕天使…」

奴の実力は俺より『上』だ、勇者に勝てるはずがない!
勇者一行も…これでおしまいか…!

セリア 「よろしいのではなくて?」

サタン 「セリア…?」

セリア 「あなたを倒せる存在は勇者だけ…それならば倒されればそれでよろしいのでは?」

サタン 「…お前の…台詞ではないぞ」
サタン 「それでは、まるで…私の勝ちを願っているようだ」

セリア 「…別に私はあなたの勝利など願ってはおりませんわ。ただ、あなたから見た考えを述べただけです」
セリア 「私は、勇者があなたを倒すのを望んでおります」

そう言ってセリアはそっぽを向いて、ラーメンを食べる。
この女、喰えない事は既に十分承知していたが、想像以上に大物なのかもしれん…。

メビウス 「サタン様も食べないと…伸びますよ?」

セリア 「というより伸びてますわ」

サタン 「あ…」

気がついたら、ラーメンはすっかり伸びていた。
うぅ…侘しい。



…………。



『リアウの森:コボルトたちのエリア』


アルル 「えーい! アイストーネード!」

ヒュウウウ! ゴオオオオオ!!

コボルトA 「ギャアア!?」

コボルトB 「グゲェェ!?」

俺たちは今、リアウの森内でもコボルトのエリアにいた。
このエリアに入った途端いきなりコボルトに襲われた。
ゴブリンや他のモンスターたちの姿はおらず、ここは完璧にコボルトが支配しているようだった。

コボルトC 「ギャアス!」

シーラ 「コボルトは火の守護を受けたモンスター…でしたら!」
シーラ 「聖なる光よ、守りの気となりて、我らを包め、アースシールド!」

シーラさんのいつもどおりの援護によって俺たちは切りかかる。
地の属性ではコボルトの攻撃は3割ほどのダメージですむ、本来なら水のほうが効果的なのだがシーラさんが使えるのは光、地、風の魔法だけだった。

エド 「てぇい!」

レオン 「たあああ!」

コボルトD 「グギャァ!?」

コボルトA 「クッ!? 勇者一行カナリ強イゾ!?」

コボルトB 「コノママデハ全滅ダ!」

コボルトC 「ココハ一旦退クベキダ!」

コボルトD 「ウム! 逃ゲルゾ!」

何やらコボルトたちは話し合った後一目散に逃げ出した。
どうやらゴブリンよりは頭が回るようだ。

アルル 「どうする!? 追う!?」

レオン 「いや、追わなくていい! それよりみんな怪我はないか?」

シーラ 「私は問題ありません」

アルル 「アルルも当然ないよ」

エド 「大丈夫だ、一発も貰わなかったしな」

レオン 「そうか、じゃあこのまま森を進もう、いつコボルトたちが襲ってくるかわからないからな」

そう言って俺たちは森を進む。
ちなみにそろそろ大まかなことを言おう。
俺たちがいる大陸はソートクという大陸でこの世界にふたつある大陸のひとつ。
いわゆる南側と呼ばれている。
この大陸には王国があり、この大陸を支配するのがサーディアス王国。
幾代か前の勇者が助けた姫さまと結婚して起こした国だ。
首都は大陸の南西部にある。
俺たちのスタートはそこからだった。
んで。首都サーディアスから東に少し行った所にトートスの村がある。
そこが俺の住んでいた村だ。
で中央部にこの巨大な森、リアウの森がある。
リアウの森内はいくつかの村があり、さながらひとつの世界だ。
戦争が起こる前まではモンスター達も比較的大人しく、平和な森だったが今ではこの大陸で一番危険な場所だ。
で、ここより更に北に上ると、山にでるらしい。
ここから先は俺もよく知らない。
たしか、山を越えたら霊海っていうヤバイ場所に出たはず。
でも、ここは迂回できるはずだから行く事はないだろう。
そして、魔王城があるのがもうひとつの大陸、キザール、いわゆる北側と呼ばれる大陸だ。
俺も行った事はないが、古くから住む魔族もいる位、比較的魔族も住んでいる大陸らしい。
北側の大陸は南側に比べて3倍は陸地が多い。
本番は北側に入ってからと言っても過言ではないだろう。
ちなみに、今回魔王として現れたサタン、あれは魔界から来たらしい。
この世界を人間界とよび、それと表裏一体として存在するのが魔界らしい。
魔界がどんな所かは全くわかるわけもない。

レオン 「さぁ、頑張って行くぞ!」

エド 「おう!」
シーラ 「はい」
アルル 「おー!」



…………。



…2時間後。


レオン 「…気配を感じる」

エド 「気配…?」

シーラ 「私も魔力を感じます…」

アルル 「え? コボルト?」

俺たちは森の中を相変わらず歩いていると変な気配を感じた。
なんか、見ている感じだ。
間違いなく敵だが、何者だ?

レオン 「隠れてないで出てきてくれないか?」

俺は森の薄暗い茂みに向かってそう言う。

ルシファー 「へぇ、とりあえず気配の悟り方は知っているみたいだね、勇者」

アルル 「な、何? この人…背中に純白の羽が」

エド 「いや、左側の背中翼は黒だぞ…」

シーラ 「あなたは…?」

ルシファー 「私はルシファー、とりあえずあなたたちを倒しに来た」

レオン 「!?」

俺たちは瞬間身構える。
この男、かなり強い。
だが、まるで殺気がない…まるで清水だ。
どんな動きをしても揺れない清水…。
俺たちの勝てるレベルの相手じゃなさそうだぞ…?

ちなみにこのルシファーという奴、この前のサタンと同じように真っ黒な服を着ているところ間違いなく魔族だろう。
下はスカーフのようになっており、さらにその下に長ズボンをはいているようだ。
髪は金髪で腰くらいまで伸びている。
後ろの黒と白の翼がかなり不気味だな…。

ルシファー 「とりあえず、いきますよ! ハァ、レイ!」

ピィィィン!!

レオン 「!?」

アルル 「きゃあ!?」

シーラ 「これは…光の魔法!?」

突然ルシファーの指先から怪光線が飛び出す。
みんな咄嗟にかわすが当たったたらどうなったことか。

レオン 「くそ! たぁ!」

ルシファー 「ふ…」

キィン!

アルル 「ええっ!?」

レオン 「何!? どこから剣が!?」

ルシファーは持っていなかったはずなのにどこからか剣を取り出してレオンの斬撃を受け止めた。
しかも、その剣はやたらに大剣でどう見ても暗器にできる大きさじゃない。

ルシファー 「不思議そうですね、ならば少し教えた上げましょう」

キィン!

ルシファーはそう言って俺をはがす。
俺は2メートルほど体を吹っ飛ばされた。
見た目は細いのになんて力だ。

ルシファー 「私位の術者になると、別の空間に剣を置いておく事ができるんですよ」
ルシファー 「そして、この剣こそが私の剣、『ラグナロク』です」
ルシファー 「神器とも呼ばれし、破の大剣…このの力味わいますか!」

エド 「この距離から!?」

ルシファーは2メートルほど離れた所から剣を振る。
瞬間、俺たちの体には衝撃破が走った。

レオン 「ぐぅぅ…!」

ルシファー 「今のはこの剣のほんのちょっとの力です」
ルシファー 「本来なら大地を切り裂き、あなた方を消滅させるくらいの力は十分ありますね」

ルシファーはまたわざわざ説明してくれる。
殺気がないから恐怖がでない…かえって厄介だ。

レオン 「くそう…俺は、負けない!」

ルシファー 「来ますか、いいでしょう」

圧倒的に相手の方が実力は上だが、やらなければならない!
俺は全力でルシファーに剣を振る。

ガキィン!!

レオン 「な…!?」

ルシファー 「ふ…このラグナロク、触れただけでも衝撃を与える、並みの剣では鍔迫り合いもできない」

何と俺の剣は見事に真っ二つに折れてしまう。
相手は普通に受けただけなのに…!

ルシファー 「さぁ! その状態でどうしますか!」

そして、相手は容赦なくトドメを差しにかかる。

レオン 「くっ! うおおおお!」

ルシファー 「!?」

パシィ!!

俺は全力で拳をルシファーの顔面に振るう。
しかし、俺の拳は左手だけで止められてしまう。
だが、ルシファーは心底意外そうな顔をしていた。

ルシファー 「まさか、拳まで振るうとは、力の差はわかっているでしょうに…」

レオン 「わかってるさ! だが、言ったろ! 俺は負けないと!」

ルシファー 「!」

ルシファーは驚いたように1メートルほど後ろに飛んだ。
俺の気迫に押されたのか?

ルシファー 「愚かな…命を失うかもしれないと言うのに…」

シーラ 「何…? 急に気が萎んだ?」

エド 「様子が変だぞ?」

ルシファー 「あなたは死んでもいいというのですか?」

ルシファーはそう言って遠くから問いてくる。
俺は迷わず。

レオン 「死にたくはない、魔王を倒さないといけないからな!」

ルシファー (…そういうことですか)
ルシファー 「どうやら、あなたは間違いなく光の勇者のようですね」

レオン 「え? 光の勇者?」

ルシファー 「知らないですか、まぁ、魔王を倒せる素質を持っているということですよ」

アルル 「え? レオンが…?」

レオン 「……」

よくはわからないが、俺は魔王を倒せるらしい。
当然今は無理だろうけど、努力しだしではってことか?

ルシファー 「私の興味も別になりました、今日は助けて上げましょう」

アルル 「はぁ? どういう意味?」

ルシファー 「あなた方、私との戦いでボロボロだ」
ルシファー 「その隙を狙う者もいますよ」

ルシファーがそう言っていると。

コボルトA 「貰ッター!」

コボルトB 「今ナラ俺達デモ勝テル!」

エド 「くっ!? こんな時に!?」

シーラ 「まずい! 急いで守りの気を!」

まるで待ち構えていたかのようにコボルトたちが現れる。
これの事か!

バチィィン!!

コボルトA 「ギャアア!?」

突然闇の結界がコボルト達に進入を拒む。
考えるまでもなくルシファーの物だ。

ルシファー 「コボルト達よ、傷ついた今の勇者を狙うというのなら私が相手をしましょう」

コボルトA 「ナンダ、コイツ魔族ダゾ?」

コボルトB 「オイ! 俺タチハサタン様ノ命デ勇者ヲ狙ッテイル! 邪魔スルナ!」

ルシファー 「ふ、私はサタンの配下ではない、この者達を守っても問題などない」

エド 「魔王軍じゃなかったのか…」

シーラ 「やはり、この人は」

コボルトA 「ク! ウルセェ! 貴様ノ首、俺ガ貰ッテヤルゼ!」

アルル 「バカ…」

ルシファー 「ふ…」

ルシファーは当然コボルトを真っ二つにする。
コボルトが相手にできるわけないだろ。

コボルトB 「Aガヤラレタ! ヤバイゾ! 勇者ヨリハルカニ強イ!」

ルシファー 「もう一度言う、傷ついた今の勇者を狙うというのなら私が相手をしましょう!」

ルシファーは威厳を利かせてそう言う。
コボルト達はさすがに恐れおののいた様子だった。

コボルトB 「ニ、逃ゲロー!」

コボルト達は蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げ出した。

ルシファー 「聖なる光よ、治癒の力となりて傷つきし彼の者たちを癒せ、ヒール」

アルル 「え? 精霊魔法?」

ルシファーは突然呪文をつぶやくと、聖なる光が俺たちを包み俺たちの傷はあっという間に治ってしまう。

シーラ 「あなた様は魔族でありながら光の守護を…」

ルシファー 「いかにも、私の守護属性は光…仲間はみんな異端児というよ」

たしかに本来魔族は光は持ち得ない。
普通魔族は闇の守護属性を持つもの、ところがこの人はまるで正反対の守護属性を持っている。

エド 「それにしてもあんた、魔力を持っているだろうに何故精霊魔法を」

ルシファー 「癒すという意味では精霊魔法の方が優れておりますので、そちらも学んでいるのです」
ルシファー 「さて、私ももう行きましょう…あなた方の旅、興味を持ちましたからなるべく邪魔をしないように見させてもらいますよ」

シーラ 「それって、観察…」

ルシファー 「あ、そうそう、あなたの剣を折ったお詫びをしなければなりませんね」

レオン 「お詫び? いいよ、折れたものは仕方ないし」

ルシファー 「そうは参りません、これをあなたに差し上げます」

ルシファーはそう言って、また空間から一振りの剣を持ち出す。
今度は普通の剣だ、馬鹿でかくはない。

レオン 「この剣は?」

ルシファー 「今は『ただの聖剣』です」

レオン 「ただの聖剣?」

ルシファーは何ともなぞめいたことを言う。
どういう意味だ?

ルシファー 「その剣は私には相応しくない、あなたにあげますよ」

レオン 「え? ちょっと意味を…」

ルシファー 「意味は自分で考えてください、それでは」

ルシファーはそう言うと飛び去ってしまう。

シーラ 「ただの聖剣ですか」

アルル 「とりあえず強そうでいいじゃん」

エド 「剣士としてはなんとも知りたいことだな」

レオン 「……」

俺は剣を空中にかざす。
剣は太陽の光を反射して眩いばかりの白い光を俺に浴びせる。
この剣から特殊な力は感じない。
今は…『ただの聖剣』か。






『魔王城』


サタン 「ルシファーめ…昔からそうだ。奴の考えることはわからん」
サタン 「勇者を倒すかと思えば今度は助けた…」
サタン 「俺のシナリオに本来奴は必要ない」
サタン 「俺のシナリオを邪魔するのならば、親友といえど容赦せんぞ…ルシファー!」





To be continued




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