勇者と魔王〜嗚呼、魔王も辛いよ…〜




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第11話 『第三の勢力』





アルル 「海は広いな〜おおきいな〜♪」

エド 「北側の大陸か」

レオン 「どんな所なんだろうな?」

俺たちは勇者一行は北側の大陸へ行くため大型の船に乗っていた。
船にはあまり客はいない。
当然か、魔王のいる北側の大陸へ行こうなんて思う奴は少ないわな。

レオン 「この中で北側出身者はいるのか?」

エド 「俺は南だ」

アルル 「私も南」

シーラ 「私は、北側です」

俺が北側の人がいるか聞くとシーラさんだけが手を上げた。
そうか、シーラさんは北側の人なんだ。

エド 「へ〜、シーラさんって北側の人だったんだ」

アルル 「北側の大陸ってどんな所なの?」

それは俺も気になるな。
なんたって北側未経験者の集団だ。
一体どんな所なんだろう。

シーラ 「そうですね、まず大きく違うところは住んでいる種族でしょうか?」

レオン 「種族?」

シーラ 「まず、北側には戦争が始まる以前よりずっとこの人間界に住む魔族がいます」

エド 「魔族…」

シーラ 「代表的なのは魔界貴族として有名な吸血鬼アシュターなどですね」
シーラ 「さらに、人族とは違う様々な種族が北側にはいます」
シーラ 「南側から見ればまさに神秘の大陸ですね」

レオン 「神秘ね…」

エド 「とりあえず人間はいるんですよね?」

シーラ 「もちろんですよ、ただ、北に行けば行くほど人は少なくなりますが」

アルル 「うう、まさにここからが本番って感じだね」

シーラ 「まずはバシュラウクの森ですね」

アルル 「バシュラウク?」

シーラ 「ええ、様々な種族が雑居する比較的安全な森ですよ」

エド 「また森か…」

シーラ 「北側の大陸は南側に比べて3,7倍の土地面積を持っています」
シーラ 「バシュラウクの森は世界一大きな森です、しばらくはまた森生活ですね」

レオン 「うへぇ…」

また森か…。
あれはあれで気が気じゃないんだがな。

エド 「でも、シーラさんがいてよかったよな」

アルル 「そうだね、いなかったら北側の予備知識なしで行く羽目になっていたもんね」

レオン 「まぁ、そういうわけだし案内よろしく」

シーラ 「はい、お姉さんにまっかせてください♪」

シーラさんはそう言って胸を叩いた。
その後俺たちは他愛もない会話をしながら北側の大陸を目指すのだった。



…………。
………。
……。



『同日:某時刻 魔王城』


シーザー 「王手」

サタン 「むぐ…」

セリア 「詰みね」

俺は今シーザーと将棋で対局していた。
さすがにシーザーはやりなれている。
俺では到底勝てないか。

サタン 「もう一番頼めるか」

シーザー 「いいですとも」

セリア 「サーちゃん弱いのに頑張るわね〜」

サタン 「……」

お前が強すぎるんだよ、と心の中でセリアに突っ込む。
段位認定者並に強いシーザーにほぼ初心者の俺が勝てるわけないだろうが。



…………。



サタン 「MM〜…」

シーザー 「……」

アレから30手ほど、また俺は手詰まりしていた。
飛車も取られたしどうすれば…。
やはり桂馬で金を…。

メビウス 「それじゃ、桂馬が飛車に取られて、その後そこの歩がやられてしまいますよ」

サタン 「む、たしかに…」

メビウス 「だからここに歩を置くと金は動けないでしょ?」

サタン 「あ、ほんとだ、よし」

俺はメビウスの助言をたよりに歩を置く。

アンダイン 「あんた馬鹿? ニ歩よ」

サタン 「へ?」

メビウス 「はい、この勝負シーザーさんの勝ち」

サタン 「あ〜mmmm」

セリア 「あはははははははははははっ!!」

セリアは俺の間抜けな姿を見て腹の底から大笑いする。

サタン 「図ったな!? メビウス!?」

メビウス 「あなたは良いご主人でしたがあなたの妹君がいけなかったのだよ」

サタン 「くっ、私とてヴァーベルモンド家の男だ!! 無駄死にはしない!!」

セリア 「あんたは負けたのよ、それも徹底的に」

サタン 「ぐぐ…」

再起不能(リタイア)…完膚なきまでに叩きのめされた気分だ。

サタン 「チェスなら負けないのに…」

セリア 「あら? 将棋とチェスはルールも似てやり方は同じような物よ」
セリア 「チェスでもシーザーさんに勝てないんじゃない?」

サタン 「やってみなきゃわからんだろうがっ!!」

セリア 「んじゃ、お手並み拝見といこうかしら?」




一方その頃、エントランスロビーの方では…。


ティナ 「ル〜ラ〜ルララ〜♪」

ルシファー 「やぁ、久し振りだねティナちゃん」

ティナ 「え? あ! ルシファーさん!」
ティナ 「お久しぶりです♪」

ルシファー 「君も人間界に来ていたのか」

ティナ 「はい、この度はこのお城でお世話になっています」

ルシファー 「それでエントランスの掃除か、よかったら手伝おうか?」

見た所ティナちゃんはほうきをを持ってエントランスを掃いていた。
さすがに魔王城だけあってかなり広い。
エントランスと言えどひとりで掃除するのは大変だろう。

ティナ 「いえいえ、お客様であるルシファーさんにお手伝いなんて頼めませんよ」
ティナ 「お兄ちゃんたちは談話室にいると思いますから行ってあげてください♪」

ルシファー 「そうか、じゃあそうさせてもらおうかな?」

私はティナちゃんに一礼してその場を後にする。



ティナ 「…さーて、お掃除お掃除♪」

私はほうきをもってその場を掃く。

? 「へ〜…あれがルシファーか」

ティナ 「? どなたですか?」

突然、聞いた事のない声が聞こえた。
気がつくと玄関の扉が開いており、そこから誰かが中を覗いていた。

ティナ 「えと、どちら様でしょうか?」

? 「ん、とりあえず魔王サタン様に謁見したいんだけど」

ティナ 「? お兄ちゃんにですか?」

見た所その人は人間の少年のようだった。
ただ、魔族でも薄気味悪くなるような漆黒のロープに体全体を覆っていた。
黒い人間の眼だけが姿を覗かせている。
身長は150センチくらい、私より大きいけどお兄ちゃんよりは小さい。
一体誰だろう?

ティナ 「失礼ですけど、お兄ちゃんのお知り合いですか?」

? 「ん? いや、会ったこともないよ」

ティナ 「はぁ…」

? 「で、会わせてもらえるの?」

ティナ 「…こっちです」

私は怪しみながらもその少年をお兄ちゃんのいる談話室に連れて行くのだった。



…………。



サタン 「だ〜〜〜〜っ!!? なんでじゃーーっ!!?」

シーザー 「この勝負セリア殿の勝ち」

アンダイン 「30戦0勝30敗…パーフェクトね」

セリア 「私は将棋で段位を持っているんですよ? チェスだってルールは似たような物、負けませんわ」

アレからしばらくセリアとチェスをしていた。
が、結果は無残にも30戦全敗…か、勝てる気がしない…。

アンダイン 「あんた実はチェスもやっていたんじゃない?」

セリア 「はい、チェスの世界チャンピオンに2勝3敗で負け越してしまいましたが」

サタン 「なぬっ!?」

シーザー 「それはまた…」

アンダイン 「サタン、あんたはめられたわね…」

サタン (なんつーやっちゃ…)

セリアめ…素人の振りして思いっきりプロじゃないか…。

ルシファー 「お邪魔するよ」

セリア 「あら、ルシファー様お久しぶりです」

ルシファー 「ご無沙汰しています、セリアさん」

サタン 「随分と顔を見せなかったな(第3話以来)…今までどうしていたんだ?」

ルシファー 「第三勢力の調査を行っていた」

アンダイン 「第三勢力?」

サタン 「どういうことだ?」

ルシファー 「最近、魔界で『アビス』に異常が発生している」

サタン 「アビスに!?」

セリア 「アビスってなんですの?」

サタン 「アビスとは魔界の中心点にある魔族でもまず立ち入らない謎の門なんだ」
サタン 「アビスの門の奥は異世界に繋がるといわれているがアビスに入って戻ってきた者はいない」

セリア 「…そんな物が」

サタン 「だが、それと第三勢力にはどんな関係が?」

ルシファー 「アビスの付近に最近頻繁に謎の集団が現れるようになったんだ」
ルシファー 「その者たちは魔法学院の開かずの第3図書室を荒らしたんだ」

サタン 「なんだと…?」

セリア 「また、知らない場所が出てきた…」

アンダイン 「その魔法学院てのは?」

サタン 「魔界にある、いわゆる専門学校だ」
サタン 「俺やルシファーはそこの卒業生で様々な戦闘訓練や教養を受けていた」

ルシファー 「それで開かずの第3図書室っていうのは学院が創立して2000余年最初からありながらずっと誰も中に立ち入ったことのない場所なんだ」
ルシファー 「中に何があるのか学院長や理事長さえも全く知らない」

サタン 「で、中はどうなっていたんだ?」

ルシファー 「中には蔵書の類は何一つ存在しなかった」
ルシファー 「いや、本棚なんてなかったんだ」

シーザー 「…それは奇妙ですな」

ルシファー 「しかも、進入方法は『鍵』を使って扉を開けて入ったんだ…」

サタン 「鍵が存在したのか!?」

魔法学院開かずの第3図書室…。
その場所は強力な魔法プロテクトのかかった強固な扉によって封印されているも同然だ。
鍵は学校には存在せず、ゆえに誰もその中を知ることは出来なかったのだ。
しかし、鍵が使われたということは、鍵を持っていた、そして使う場所を知っていたことになる。

サタン 「しかし、一体中には何があったんだろうか?」

ルシファー 「わからない…元から何もなかったのか、それとも盗まれたか」
ルシファー 「そこで私は魔法学院側の指令により調査を行っていた」
ルシファー 「もしかしたら、鍵は魔界ではなく人間界に存在したのではと睨んでいるんだがな…」

サタン 「こちら側に…?」

ルシファー 「とにかくそういうわけで私は人間界でも調査を行っていたんだ」

アンダイン 「ちょっと待ちなさい、あなたどうしてアビスに現れた集団と図書室を荒らした集団が一致するの?」

ルシファー 「…中々鋭いね」
ルシファー 「悪いがそれは教えられない…君たちが関わるべきではないからな」

アンダイン(どういうこと…荒らした集団の正体を知っているから教えられないの?)

サタン 「……」

気になるな…その荒らした集団。
アビスと関わる存在…もしやアビスから出てきた者か?
しかし、あそこから出てくる者など聞いた事がない。
それにいきなり第3図書室が荒らされたことも。

セリア 「じゃあ、こんなこと聞くけど…」
セリア 「何故、『第3勢力』なのですか?」
セリア 「第1勢力は恐らく魔王軍、第2は勇者、では第3は」

ルシファー 「……」

第3勢力…たしかにルシファーはそう言った。
一体どういうことか。
それは俺達にも関係あるのか?

ルシファー 「ビスラファスタやコルトラーダハは潰れた…」

セリア 「! それらは人間界北側の巨大都市ではないですか!?」

サタン 「報告には聞いている…一夜にして駐留していた魔族も全滅、人間も全滅したそうだな?」

セリア 「そ、そんな…」

ルシファー 「この戦争は大局を見れば人族と魔族の戦争だ」
ルシファー 「だが、その両方が襲われて全滅した」
ルシファー 「この世界の全ての者の敵かも知れない…それだけは教えておく」

ティナ 「あ、あの…よろしいでしょうか?」

シーザー 「ティナ殿?」

サタン 「どうした、ティナ?」

こんな話をしていると突然ティナが部屋に入ってくる。

ティナ 「あの、お兄ちゃんに会いたいっていうお客様が」

サタン 「俺に?」

? 「はい、俺です」

セリア 「きゃっ!? いつの間に…」

メビウス 「あ、ありゃりゃ?」

サタン 「……」

突然俺の目の前に顔を覗かせる黒ずくめの男がいた。
目しか見えないが人間か?

サタン 「一体、何用だ貴様?」

? 「失礼、俺は『パランス』、以後お見知りおきを」

そいつは顔を離すとそう自己紹介する。
何か、格好だけではなく中身まで怪しい奴だな…。

ルシファー (パランスだと? まさか節制(テンパランス)か?)

パランス 「え、此度ここへ参ったのには理由があります」
パランス 「勇者一行は北側の大陸に入られました」

セリア 「勇者達が?」

サタン 「それを伝えに来ただけか?」

俺にはそう思えない。
勇者達が北側に来るのは道理だ。
そんなことは伝えるまでもない。
ほかに目的があるはずだ…。

パランス 「…では、本題に入りましょうか」
パランス 「勇者討伐、この私めにお任せください」

シーザー 「なに?」

ティナ 「ええっ!?」

サタン 「…見ず知らずの貴様に任せろと言うのか?」

パランス 「そうです」
パランス 「もっとも、実際戦うのは私ではなく私の信頼すべき仲間ですがね」

サタン 「失せろ、貴様のような怪しげな輩に任せるほど愚かではない」

パランス 「…そうですか、残念ですね」
パランス 「では、こっちで勝手にやらせてもらいますかね」

サタン 「なに…?」

パランス 「どっちみち俺としても勇者一行に生きていてもらっては困るんですよね」
パランス 「だから、始末する。それだけです」
パランス 「あなた方の許可があればそれはそれでよりよかったのですが仕方ありませんね」

パランスはそのまま背を向けて扉の方へと歩く。

パランス 「それでは魔王様、アジュー」

ヒュッ!

アンダイン 「消えた?」

サタン 「……」

ティナ 「お、お兄ちゃん…」

シーザー 「サタン様…あの者は…」

サタン 「わかっている…俺の計画の邪魔はさせん」

俺は…お前のような奴に勇者を殺させはしない。
俺に姿を見せたこと…後悔するがいい、パランスよ。



…………。
………。
……。



『一方、勇者一行は…?』


レオン 「よっと、やっとついたな」

アルル 「なんだ、あんまり南と変わらないね…」

シーラ 「まぁ、北側の最南端ですからね…」

俺たちは今、北側の港町にいた。
町の名は『ソレイユ』、シャルルーの町とそんなに変わりはなかった。
船の上からは街の向こうに巨大で視界を覆いつくす『バシュラウク』の森があった。
明日にはバシュラウクの森に入り、ひたすら北を目指し、魔王城に向かわないといけない。

エド 「さってと、じゃあどうしようか?」

とりあえず、どうしようかとエドが声を出す。
さて、どうするべきか?

シーラ 「とりあえず今日はこの町で一泊することになりますし、自由としましょう」

アルル 「自由? 適当にしとけばいいの?」

シーラ 「ええ、さすがに町中までモンスターや魔王軍も攻めてこないでしょうし」

エド 「じゃ、適当に町を歩くか」

シーラ 「宿はあそこにしましょう」

シーラさんはそう言うととある三階建ての宿屋を指す。

レオン 「ん、わかった」

アルル 「それじゃ、また後でねー♪」

エド 「じゃ、ちょっと武器屋でも覗いてみるかな…?」

シーラ 「私は教会にでも行ってきましょう」

そう言ってみんなはそれぞれ思い思いに動き出すのだった。
俺はどうしようかな…?

レオン 「広場の方にでも行ってみるかな?」

俺はそう思うととりあえず町の中心部を目指す。
特にやることはないしな…適当にノンビリしていよう。



………。



パランス 「いやぁ〜、悪いね。わざわざ呼んじゃってさ」

?A 「ふん…」

?B 「けけけ…俺としてはもっと早く呼んでほしかったがな…」

?C 「で、呼んだ理由は?」

?D 「……」

今、自分の前には4人の男女がいた。
それぞれ、私の知っている戦闘のプロだ。

パランス 「いやぁ、早速で悪いですけど勇者退治といってもらいましょうか?」

?A 「勇者退治…なら、俺が勇者をやろう」

?C 「ちょっとフール! それはずるいんじゃない?」

フール 「なら、お前がやるか? マジック?」

?B 「けけけ…俺はあの僧侶をやらせてもらうぜ!」

?D 「ムーンが僧侶をやるのなら…俺は戦士だな…」

フール 「チャリッツは戦士と言っている…どうする勇者にするか?」

マジック 「…わかったわよ、私は魔法使いをやるわ」

パランス 「や、お決まりですか?」

ムーン 「けけけ…俺は初めから決定だけどな」

マジック 「…さっさと行くわ…」

フール 「…」

チャリッツ 「…ただ、勝利する…それだけだ」

そう言うと4人はそれぞれを始末しに向かう。
幸い勇者達はそれぞれバラバラに動いている。
彼らなら確実にやってくれるだろう。

パランス 「ふふふ…勝利は安定…」
パランス 「そして、俺は仲間を調和し、順調にことを進める…『節制』(テンパランス)」

冒険を好み、恐れを知らない…『愚者』(フール)。
始まりを意味し、積極的な『魔術師』(マジシャン)。
勝利を約束され、ただ前進するのみの『戦車』(チャリオッツ)。
不安を呼び、迷いを呼ぶ不吉な『月』(ムーン)。
ふふふ…さぁ、終焉(ジ・エンド)です。






To be continued



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