勇者と魔王〜嗚呼、魔王も辛いよ…〜
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第12話 『勇者達と魔王達と』
『港町ソレイユ』
シーラ 「遂に来た北側…」
シーラ 「それは…嬉しいようで悲しいようで…」
私は北側であるこの街の石畳の地面を感慨深く歩いていた。
本当の所、別にこの町の教会にいく必要なんてない…。
私には…私の信じる道がある。
それが…過ちの道だとうすうすわかっていても…。
シーラ 「…そこにいるのはどなたですか?」
私は背後に気配を感じて振り向きながらそう言った。
ムーン 「けけけ…中々いい反応じゃねぇか…」
シーラ 「失礼ですが、どちら様でしょうか?」
後ろにいたのは青い…いや、蒼いロープに身を包んだ男性と思われる人物がいた。
人間か魔族かはわからない。
顔は鳥の仮面を被っているためわからなかった。
ムーン 「けけ…随分と表情豊かになったじゃねぇか」
シーラ 「? あなた…一体?」
ムーン 「けけ、わからねぇか? おめぇにとってはそんな程度の存在かもな…え? 『ホムンクルス』?」
シーラ 「!? あなた…何者なんですか!?」
この人は私を知っている!?
そんな…一体何者だというの!?
ムーン 「けけ、仮面をはずしたらわかんのか? ええ?」
そう言うと、男は仮面をはずす。
そこにあった顔は…。
シーラ 「そ、そんな…あなたは!?」
ムーン 「覚えてくれていたのか? ホムンクルス?」
シーラ 「わ、忘れるわけが…忘れられるわけがない…」
ムーン 「へぇ、けけ…。嬉しいじゃねぇか」
ムーン 「思わず、ぶっ殺したくなるぜ…」
シーラ 「『エドワウ』さん…あなたどうして…」
ムーン 「どうして生きてるって? 陳腐なこと聞くんじゃねぇよホムンクルス」
ムーン 「死人がそのままの姿で現れるとしたら普通に考えてひとつしかねぇだろ?」
シーラ 「そんな…蘇ったと!?」
ムーン 「けけけ…50点」
ムーン 「まぁ、当たっているっちゃ当たっているが、完璧じゃねぇな」
シーラ 「どういうことですか?」
ムーン 「けけけ、殺すことしか興味がなかった奴が随分こだわるじゃねぇか?」
シーラ 「!!?」
私の精神がどんどん凍っていく。
私の意識がどんどん異常をきたしていく。
ムーン 「僧侶になって丸くなったのか?」
ムーン 「けけけ! んなわけねぇよな!?」
シーラ 「いや…イヤ…イヤァ…」
死んだ筈の男は私の精神を侵食していく…。
ムーン 「僧侶だって上辺だけ…その上辺で何人もの勇者を殺してきたんだからな!」
ムーン 「まぁ死んでも当然の偽者勇者達だったがなぁ…」
ムーン 「けけけ…きつかったぜ…あれはおめぇは容赦しねぇ女だったからな…」
ムーン 「いや、女というのは適切じゃねぇな…おめぇは所詮…『ホムンクルス』なんだからな!」
シーラ 「お願いします…それ以上、それ以上…言わないで…」
私は懇願する。
これ以上は私の精神が耐えられない…。
このままじゃ壊れちゃう…。
しかし、エドワウはあざ笑うかのように…。
ムーン 「ギャハハ! それも演技か!? おめぇは俺を見た瞬間…」
ムーン 「あの、リアウの森で…有無言わさず俺を『殺した』のによぉ!!?」
シーラ 「イヤァァッ!!!」
ムーン 「おめぇはただの殺人鬼なんだよ!」
ムーン 「どんななに変わろうとしたってその真実は変わらねぇ!」
涙が溢れる…。
声が枯れる。
死んでしまいそうな位頭が混濁していく。
アンダイン 「そこまでよ…」
シーラ 「…?」
突然、私の背中から誰かが現れる…。
上手く認識が出来ない…。
誰…?
ムーン 「あ〜? てめぇはたしか水の精霊のアンダイン?」
シーラ 「アン…ダイン…?」
頭が混乱してよく理解できていない。
たしか、水の精霊で…ウンディーネ様の妹君…。
今は…魔王軍…のアンダイン…。
シーラ 「アンダイン…様?」
アンダイン 「あなた、勇者『エドワウ』ね…でも、リアウの森で死んだはず…」
ムーン 「ああ、死んだよ…その『ホムンクルス』に殺されてな」
シーラ 「!?」
ムーン 「けけけ! いちいちビクビクするんじゃねぇよ! 人間じゃあるまいし!」
ムーン 「それに俺はもうエドワウじゃねぇんだよ…今はムーンって言う名前があるんだよ!」
アンダイン 「ムーン…月ね」
アンダイン 「あなたがパランスの仲間?」
ムーン 「あ? まぁ、そうなるかな? ギャハハ! まぁ、利用しつつ利用されつつって所かな!?」
アンダイン 「そう、じゃああなたはここで倒されるべき存在ね」
ムーン 「あ〜? おめぇの敵は勇者だろう? なんで、俺と対峙するんだ?」
ムーン 「それとも、やっぱり精霊族の性か? ギャハハ!」
アンダイン 「私は私のしたい事をするだけ…あなたが生理的にむかつくだけよ」
ムーン 「けけけ…まぁいい、ちったぁ楽しめそうな相手だな…」
シーラ 「あ…う、あ…」
アンダインとエドワウが対峙する。
まずい…裏通りの人通りの少ない所とはいえこんな所で戦えば町に被害が出る。
死人もでる…。
もう、誰にも死んで欲しくないのに…。
アンダイン 「月…タロットカードの18番目のカード…」
アンダイン 「不安、曖昧、迷いといった意味を持つ不吉の元となるカード」
アンダイン 「Lunaticは狂気を意味しながらLunaは月を意味する…」
アンダイン 「まさしく、あなたね…」
ムーン 「けけけ…上手くたとえるねぇ…まぁ、タロットカードをもじっているのは確かだろうなぁ〜」
アンダイン (死人を蘇らせて、こんな狂人に仕立て上げたのはどこのどいつかしら?)
アンダイン (少なくともこいつ…普通の神経をしているようには思えないわ…生前もこうだったのかしら?)
ムーン 「なーに考えてるか知らねぇが…そっちから来ねぇなら…こっちからいくぜ!!?」
アンダイン 「!?」
不意にエドワウは手に水の理力を集める。
アンダイン 「水魔法!?」
ムーン 「水の奔流よ…荒れる津波をも打ち抜く一撃となり、敵を貫け!」
アンダイン (こんな町中で、スクリーム!?)
エドワウは水の破壊魔法『スクリーム』(奔流)を使おうとしている。
これは精霊魔法の中でもかなりの強力さを誇る一撃必殺の呪文…!
ムーン 「スクリーム!」
アンダイン 「くぅぅっ!!?」
私は水の防御壁を張り、何とかそれを防ぐ。
ムーン 「ぎゃははっ! やるじゃねぇか! さすがに水の魔法じゃ水の精霊様は倒せないかっ!?」
アンダイン 「おちょくっているのかしら?」
ムーン 「ぎゃはは! こう見えても俺も水の加護を受けててな、生前は違ったんだがな」
ムーン 「まぁ、そう言うわけだから水が得意なわけよ!」
アンダイン (このダークブルームーンもどきが…)
しかし、並みじゃない力を持っているのは確かだった。
私や姉さんにも引けを取らない威力のスクリームだった。
どう考えても…人間の為せる技じゃない。
アンダイン 「あなた…人間をやめたわけね?」
ムーン 「けけけ…、じゃなきゃこんな力は使えねぇな〜」
アンダイン 「どこで手に入れたの?」
ムーン 「ヒャハハッ! 言うわけねぇだろうが!」
当然ながら肝心な所は教えてもらえない。
やれやれ…とんだ化け物がいたようね…。
水の力を使うとはいえ…厄介な相手ね。
シーラ 「ラクス…レス…ウィルス…」
ムーン 「あん?」
アンダイン 「シーラ?」
突然、シーラが何か呟きだす。
古エルフ語?
いや、もっと古い言葉…私たち精霊語でもない…。
まさか、神の言葉?
シーラ 「解けよ…『ネクロノミコン』」
アンダイン 「!?」
突然、シーラの手元が光ったかと思うと一冊の光を放つ書物を持っていた。
そして、シーラは…『ネクロノミコン』と言った。
アンダイン (神々の書物!? なぜシーラがそれを!?)
ムーン 「けけけ…ついに出しやがった終焉の番人の書物を…」
シーラ 「ラクス、ウェル、ヴァルス、サハータ…」
シーラは聞いたこともない単語を次々と紡いでいく。
呪文だろうか?
シーラ 「光よ…破壊の矢となりて敵を貫け!」
シーラ 「スペル・レイ!」
呪文を唱えるとネクロノミコンはより一層輝きを増す。
そして、シーラの足元には見たことのない白色光の魔方陣が浮きで。
シーラの正面に見たことのない文字の光で書かれた白色の魔方陣が渦巻き、収束するようにシーラの手元から白いレーザーが放たれる。
キュォォォォッ!
ムーン 「ケケッ!」
ズガァン!
アンダイン 「くっ!?」
爆発が起きる。
シーラはお構い無しに強力な魔法を放った。
なんてのことのない細いレーザー状の魔法に見えたが、その威力は当たった瞬間小さなクレーターを作るほど威力の集約された魔法だった。
直撃すれば私でも即死したかもしれない威力だった。
それをエドワウは直撃した。
やつは…?
ムーン 「けけけ…やるじゃねぇか『ホムンクルス』」
アンダイン 「耐えた? いや、かわしたのか!?」
エドワウは傷ひとつ負うことは無かった。
直撃なら服だけでもやられていたはず。
それが埃ひとつ被っていないと言うことは…回避したと言うこと。
ムーン 「けけけ! 今日はこの位だ! おめぇにはもっと苦しんでもらわねぇとなぁ!」
アンダイン 「逃げる気!?」
ムーン 「ヒャハハッ! あばよ!」
エドワウはそう言うとそのまま飛び去ってしまった。
いや跳び去ったね。
空飛んでるわけじゃないから。
アンダイン 「シーラ…あんた…」
シーラ 「詮索しないでください…お願いします…」
アンダイン 「……」
私は何も言わない。
シーラ…ネクロノミコン所持者にして契約者。
一体何者なのかしら?
しかし、彼女は何も語る様子はない。
ただ、暗い影を持って…。
…………。
エド 「あんだ? 一体なんか用か?」
チャリッツ 「……」
突然、俺の目の前に銀色の騎士の甲冑をイメージしたような仮面を被った者が現れた。
前進を銀色の布で覆って男か女か人族かどうかさえ判断できない。
エド 「誰だ? ずっと殺気を無理に抑えて…」
チャリッツ 「殺気は余計な感情だ…戦場において不要だ…」
エド 「?」
この声…どこか聞いたことがある。
しかし、こんな格好をして先らかに俺に殺意を持つ奴なんてしらない。
一体何者だ?
チャリッツ 「悪いが、死んでもらう…」
エド 「やっぱりか! 殺されるいわれはないと思うんだがな!」
俺は広場だが剣を構える。
周りには民間人もいて騒ぎ始めた。
たく、余計な奴はさっさと去ってくれ!
チャリッツ 「いくぞ…」
エド 「!? お前…どこでその構えを…」
相手は片刃刀を頭くらいの高さで横に構える。
こんな特殊な構え方する奴なんてそうそういない。
知っているには知っているが、しかし、あいつは…。
チャリッツ 「!」
エド 「早っ!?」
キィン!!
相手は上段から強烈な一撃を放ってくる。
俺は何とかそれを剣の柄で受け止めた。
エド 「つぇあ!!」
俺は剣を受け流すと下から振り上げる。
チャリッツ 「!」
相手はスウェーバックで俺の攻撃をかわす。
仮面を被ってるくせによく下からの攻撃に反応できたもんだ!
ピシィ!
チャリッツ 「?」
相手の仮面にひびが入る。
かすてったか。
ていうか、防御力の薄い仮面だな…。
ガラ…。
チャリッツ 「仮面が…外れたか」
エド 「!? な、んだと…?」
相手の仮面はそのまま真っ二つになり地面に落ちる。
しかし、その時俺が一番驚愕したのはそいつ顔だった…。
エド 「そんな…嘘だろ…? な、なんで…カミルが?」
そいつは俺の知っている奴だった。
そいつの名はカミル…かつての仲間…。
チャリッツ 「覚えていたか、臆病者でも…」
エド 「そ、そんな…生きていたいのかカミル…?」
チャリッツ 「死んだ…お前に裏切られたせいでな…」
チャリッツ 「だから今の俺はカミルじゃない、チャリッツだ…」
エド 「チャリッツ…」
チャリッツ 「覚えているだろう? あの日のこと…まだ戦争が始まる前…」
チャリッツ 「お前は恐怖に負けて戦場を逃げ出した、仲間は皆、ブラッドプリンに食われて死んだ」
チャリッツ 「あの時、敵を目の前にしてお前が逃げなければ俺は死ななかった…」
エド 「う、ああ…」
記憶の奥底から思い出したくない記憶が思い出される。
あの日…1年前のまだサタンが人間界に降臨する前の時代…。
チャリッツ 「何故、逃げた? エドワード?」
エド 「あ、ああ…」
カミルは迫ってくる。
俺を黄泉に誘うためにか…?
おれは…俺は…!
エド 「く、来るな…! お、俺は…死にたくない! 死にたくないんだ!」
チャリッツ 「おびえているのか? お前はいつだってそうだ、臆病者で、大切な所で臆病風を吹かして台無しにする」
チャリッツ 「あの時もそうだ…その性で多くの同胞が死んだ」
チャリッツ 「お前に生きる価値があるというのか?」
エド 「ああ…ああああ!」
カミルはなおも接近してくる。
いやだ…いやだ…いやだ!
こないでくれ!
シーザー 「戦場で恐怖にとり付かれた者に待っているのは…死、だけですぞ? 戦士エドワードよ」
エド 「あ、あんた…」
突然、後ろから現れたのはかつて戦った強敵。
ヒートリザードマンのシーザーだった。
なぜ…ここに?
シーザー 「貴殿が、パランスの助っ人か?」
チャリッツ 「だとしたら…どうする?」
シーザー 「サタン殿の命、貴殿を始末させてもらう」
チャリッツ 「…なるほど、魔王直属の騎士か…おもしろい」
シーザー 「我が名はシーザー…貴殿は?」
チャリッツ 「チャリッツ…」
シーザー 「チャリッツ殿か…いざ、尋常に…勝負!」
チャリッツ 「はぁ!」
ガキィン!
エド 「あ、ああ…」
カミルの剣とシーザーの剣がぶつかり合う。
互いに俺のレベルでは歯が立たないレベルだ…。
俺は…臆病者…?
チャリッツ 「ハァッ!!」
ガキィン!!
シーザー 「!?」
突然、シーザーは吹き飛ばされる。
シーザー 「くぅ、たいした力だ…やはり人外ですな…」
チャリッツ 「人であった頃とは違う…」
エド 「あう…」
シーザー 「エド殿…いつまでおびえている?」
シーザー 「貴殿は勇者一行だろう?」
シーザー 「それがこんなただの臆病者でいいのか? いや、いいはずがない…」
エド 「!?」
シーザー 「貴殿には戦う力がある、貴殿はそれがありながらただ臆病風を吹かすだけなのか?」
エド 「お、俺は…」
チャリッツ 「はぁっ!」
シーザー 「!? ムゥン!!」
ガキィン!
再び、シーザーとカミルの剣がぶつかり、火花が散る。
カミルの強さは化け物だ、シーザーさえも推されている。
俺は…逃げるのか?
いや、違う!
おれは…俺は!!
エド 「うおー!!」
チャリッツ 「!?」
ブォン!!
俺は剣を振るう。
カミルは咄嗟に回避した。
エド 「俺は逃げない! 臆病者じゃない! 俺は勇者一行の戦士だ!」
エド 「戦士は…どんなに強い奴が相手でも逃げない!!」
シーザー 「エドワード殿…」
エド 「ありがとうシーザーさん、あんた敵だけど尊敬できるよ…」
エド 「俺はもう逃げない! 過去とだって戦ってやる!」
シーザー 「ふ、よく言いましたな…」
エド 「こい! カミル…俺は負けない!」
チャリッツ 「…予定変更だ、俺は逃げさせてもらう…」
シーザー 「!? なんだと?」
チャリッツ 「俺にも用事がある…サラバだエド…」
エド 「!? カミル!」
カミルは最後に俺の愛称を言うと風のように去っていった。
あいつ…なんで…?
エド 「! そうだ! ほかのみんなは!?」
シーザー 「心配なさるな、それぞれ我が魔王軍の者が救援にいっている」
エド 「救援って…なんで!? あんたら魔王軍だろ!?」
シーザー 「今は一時停戦だ、両者にとっての敵が現れたのだ…」
エド 「それが…カミルか」
シーザー 「私はここでさらせて貰う、さらばだ、勇気を思い出した戦士エドワードよ…」
エド 「……」
なんだか、計り知れない所で事態は動いているらしい。
俺はどうすればいいんだろう。
かつての仲間は俺の死神となってしまった。
この戦争ただ単に勇者と魔王の戦いではすまなくなったということか?
…………。
アルル 「る〜らら〜るる〜っと」
マジック 「あなたが魔法使いアルルね…」
アルル 「ほえ? あんた誰? アルル知ってるの?」
マジック 「ええ、その道では有名だからね…」
アルル 「そうなんだ♪ う〜んアルルも有名人だね〜♪」
マジック 「ええ、それゆえ早死にする…」
アルル 「へ? なんで?」
マジック 「それは…私に殺されるからよ!」
アルル 「えっ!? て、ちょ!」
突然、目の前の女性(多分)から炎の魔力が集まる。
やば、エンチャントマジック(封印魔法)かける暇なんてない!
マジック 「火球の魔法、ファイヤーボール!」
ゴォゥッ!!
アルル 「やばっ! アクアシールド!」
ドカァン! ジュウウウウ…。
突然、問答無用で攻撃してきたので慌ててシールドを張って防御した。
やばい…敵だったのねぇ〜…。
アルル 「ちょっとなにするの!」
マジック 「悪いけど、命令でね…死んでもらうわ」
アルル 「命令…? まさか、魔王軍!?」
マジック 「生憎、私は魔王軍じゃないわ、とりあえずそこらへんは秘密よ」
マジック 「さぁ! いくわよ!」
ヒュッ!
アルル 「え? きゃあっ!?」
ビシィン!
突然、目にも留まらない速さで鞭が飛んでくる。
アルルは咄嗟に回避できたけど、これはまずい。
アルル (まずい! 魔力を溜めてる時間もないし、アルルじゃ接近戦はできない!)
アルル (せめて誰かの援護があれば!)
マジック 「トドメッ!!」
アルル 「クゥッ!」
マジックの鞭が再びアルルを襲う。
アルルは思わず目を塞いだ。
ガコンッ!
アルル 「…ガコン?」
なんか脱臼するような音が聞こえた。
アルルに痛みはない、じゃあ誰?
誰かが庇ったの?
マジック 「な!? も、モンスター!?」
スケルトン 「自分、馬鹿ダカラワカリマセーン」
アルル 「え? ええーッ!!?」
なんと突然現れたのはあの『霊海』で戦った最悪のスケルトンだった。
なんでここにいるの!!?
アルル 「いやー! スケルトンは嫌いー! 怖いのイヤー!」
マジック 「なぜ、魔王軍が? 邪魔するというの?」
スケルトン 「自分、馬鹿ダカラワカリマセーン」
マジック 「…敵なの? 味方なの?」
スケルトン 「自分、馬鹿ダカラワカリマセーン」
マジック 「……」
アルル 「……」
スケルトン 「自分、馬鹿ダカラワカリマセーン」
なんていうか…相変わらずそれしか言わないんだね…このスケルトン。
こっちとしてもどう判断したらいいかわからないだけに迷ってしまう。
ただ、アルルにいえることは…。
アルル (こんな味方いや〜)(泣)
マジック 「話にならないわね! さっさと砕け散りなさい! ファイヤーボール!」
ドカァン!
火球の魔法、ファイアーボール。
ファイアーボールは着弾すると大爆発を起こす。
マジック 「なに!?」
アルルはマジックが放つ前にファイアーボールをマジックに直撃させる。
アルル 「おねぇちゃん、…て言っていいのかわからないけど、隙だらけだよ…」
マジック 「ち…」
仲間としては最悪だけど、味方としては大変心強い相手が来てくれてよかったよ〜。
でも、まぁ、相手が炎をしか使わないのならアルルひとりでも何とかなるけど…。
アルル 「おねえちゃん、アルルに炎は効かないよ?」
アルル 「おねえちゃんじゃアルルに炎じゃ勝てないよ」
マジック 「何…?」
アルル 「試してみる?」
マジック 「上等ね! くらいなさい! ファイアーバースト!!」
アルル 「……」
おねえちゃん(?)は魔法を使うけど魔法は発生しない。
やっぱり、『炎』じゃ無理だったね。
マジック 「な、何故発動しない!? なぜ!?」
アルル 「ファイヤーボールみたいな溜めの短い奴だとアルル、エンチャントかける余裕なかったけど、さっきみたいのだったら余裕だよ」
マジック 「んなっ!? あ、あなたエンチャントマジックの特性くらい知っているでしょ!?」
アルル 「知ってるよ、アルル魔法使いだもん」
マジック 「!? まさか!?」
エンチャントマジックは相手の魔法をこちらの魔力で封じ込める魔法。
ただし、エンチャントマジックは相手より魔力レベルが高くないと効かない。
また、精霊魔法には効果ないけどね。
マジック 「まさか! あなたが私の魔力を上回ったって言うの!?」
アルル 「そうじゃなきゃ、なんで魔法がでないの?」
マジック 「そんな、私の魔力は賢者クラス以上の力を持っているのに!」
アルル 「甘いよ、アルル魔法使いだけど、大魔導師なんだから!」
マジック 「く! このぉ!」
ビュン!
アルル 「やばっ! 接近戦はお願い! ガイコツさん!」
スケルトン 「自分、馬鹿ダカラワカリマセーン!」
スケルトンは言っていることは同じだけど、しっかりあのおねえちゃんに飛び掛る。
スケルトン 「ラキキキ!」
マジック 「う! くぅ!?」
おねえちゃんはやっぱり魔法使い系らしく、接近戦はアルルと同じように苦手みたい。
そして、アルルはおねえちゃんがスケルトンに手間取っている間に魔力を溜める。
アルル 「いっくよー! ファイアーレーザー!」
マジック 「しまっ…!」
ギュオオオオッ! ドカァン!!
私は隙を見てファイアーレーザーを放つ。
スケルトンも対放射線状にいたけど気にしない。
だってあれも敵だし。
アルル 「消滅した?ちょっと残酷だけど悪く思わないでね」
アルルの放った先にはもはや何もなかった。
さすがに直撃食らったら消滅しちゃったか。
マジック 「ま、まだ死んでないわよ…」
アルル 「て、うそ!? あれ喰らって耐えたの!?」
マジック 「私はマジック…魔術師は炎を現す…」
マジック 「今回は私の負けね…」
アルル 「……」
マジック 「ひとつ聞いていい? あなたは何者なの?」
アルル 「アルルはただの魔法使いだよ」
マジック 「そう、ありがとう」
ゴォォォォォッ!
アルル 「!」
マジックていうおねえちゃんはそう言うと炎の渦に囲まれて消えてしまう。
逃げたみたい。
アルル 「スケルトンは…」
私はスケルトンの姿を探す。
骨ひとつ残らず燃え尽きたみたいだね。
ま、いいか、魔王軍だし。
アルル (それにしても一体何者だったんだろう? 魔王軍でもないなんて…)
アルルは頭悪いからよくわからない。
でも、なんかだ嫌な予感だけはした。
レオンは大丈夫かな…?
To be continued
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