勇者と魔王〜嗚呼、魔王も辛いよ…〜




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第17話 『失われる魔力』





アルル 「えっさほっさ!」

レオン 「頑張れアルル!」

シーラ 「もうちょっとですよ! アルル!」

アルル 「もうー! みんな、待ってよー!」

エド 「頑張れ!」

さて、俺たち勇者一行は何をしているかと言うと、木登りをしていた。
このバシュラウクの森、木々しかない。
その中、なぜ木を登っているのか?
それも、30メートルはあろうかという超巨木だ。

アルル 「んーッ!!」

アルルは最後の一歩の所まで登る。
しかし、ちょっとやばそうだ。

アルル 「あ!」

レオン 「アルルッ!?」

アルルは手を滑らせてしまう。
俺は咄嗟に手をアルルに差し出した。
しかし、その手がアルルの手をつかむことはない。
なぜなら…。

エド 「よっと!」

エドがアルルの腕を掴んで持ち上げる。

アルル 「ありがと、エド〜♪」

エドはアルルを持ち上げると、アルルは手ごろな枝に足をかける。

エド 「怪我ないよな?」

アルル 「ないよ♪ よっと!」

アルルは極めて笑顔でそう言うと俺がかけていた枝に座る。
つまり、俺の隣だ。

エド 「…はぁ」

シーラ 「エドさん?」

エドは極めて深いため息をする。

アルル 「どったの? 元気なくして?」

エド 「なんでもない…」

とても、そうは思えないがエドはそういう。
まぁ、理由はわかるけどね。

レオン (エド、アルルに気があるからな〜)

しかし、当のアルルそのことに全く気づいていない。
そりゃエドもため息つくだろう…。

レオン (ま、恋に鈍いっていうのは残酷ってことか…)←本人がそうだと気づいていない。

アルル 「で、どうして木に登らないといけないの?」

エド 「そういえば、言い出したのはシーラさんだったよな?」

シーラ 「ふふ、あちらをご覧ください」

シーラさんはそう言うとバスガイドのごとく手を北の空に向ける。
北…すなわち俺たちの進む方角には…。

レオン 「な、なんだあれ…?」

エド 「でけぇ…」

アルル 「なにあの大木ーっ!? 圧倒的じゃん!?」

俺たちの進む方向…北側には天を突かんばかりの巨木が聳え立っていた。
全長100メートル以上…まるで、山のごとく聳え立つ巨木…。

シーラ 「『オールドウィロウ』…世界一大きいと謂われる神木です」

レオン 「オールドウィロウ…」

アルル 「あれ…? オールドウィロウ? お爺ちゃんに教えてもらったような…」
アルル 「でも、あれはたしかママの樹とか…ナナの樹だったかな〜?」

エド 「なんだそりゃ…」

シーラ 「ママの樹でもナナの樹でもなく『マナの樹』です」

レオン 「マナの樹?」

シーラ 「オールドウィロウの別名です」
シーラ 「その由縁はこの世界存在するマナの8分の1を保有しているためとためといわれています」

エド 「12.5パーセントも!? あの樹が!?」

シーラ 「ええ、ですがその由縁はそれだけではありません」
シーラ 「オールドウィロウは植物が水や大地、光で光合成するように空気や光、大地のマナを得て、それでこの森を豊かにしています」

アルル 「えっと…つまりどういうこと?」

シーラ 「簡単に言えばこの森はオールドウィロウのおかげで豊かということです」

アルル 「ん〜…」

エド 「オールドウィロウは重要だってことだよ」

アルル 「なんか、わかったよーなわからないよーな…」

レオン 「さて、そろそろ降りよう」

シーラ 「そうですね」

そう言って俺たちはそろそろ降りる準備をするのだった。

エド 「……なぁ」

レオン 「言わなくてもわかる…」

アルル 「あ、あはは…」

俺たちは下を見た瞬間絶句する。
アルルは空笑いするくらいだ。
なぜ、下を見たら絶句したのか…その理由は。

ヘルハウンド 「グルル…」

リカント 「シャーッ!」

ローパー 「キュルルルルル…」

エド 「一杯いるな…」

レオン 「80くらいか?」

この木の下には上を見上げる無数の野生のモンスターがいた。
どう考えても降りてくる俺たちを狙っているのだろう。

レオン 「シーラさん、このまま普通に降りたら敵陣の真っ只中ですよ?」

とりあえず我が勇者一行の僧侶兼軍師に意見を求める。
これは…かなり由々しき問題だぞ?

シーラ 「そうですね…普通に樹を降りていたのではひとたまりもないですね…」

エド 「そりゃそうだ…だけど、地表30メートル…」

レオン 「飛び降りたらマグロだな…」

シーラ 「私が風の精霊魔法で浮力を与えて衝撃を和らげますからアルルは魔法でモンスターを一掃してください」

アルル 「オッケー! わかったよ!」

シーラ 「その隙に正面突破と行きますからレオンさんとエドさんは障害を取り除いてください」

レオン 「わかりました!」

エド 「おう!」

とりあえず、作戦はこう。

敵は野生のモンスターが80くらい。
これをまとも相手をすることはできない。
となると逃げるが一番だが、当然木の上なので降りなければならない。
そこでアルルとシーラさんの出番だ。
普通に木から降りていたらジャンプしてきて襲われかねない。
その間こっちは何もできない。
そこで木から飛び降りるのだが高さは30メートル近く、普通なら飛び降り自殺だ。

なので、シーラさんの精霊魔法で地面への衝撃を和らげ、そして着地寸前でアルルの魔法で敵を蹴散らす。
そして、着地後すぐさま態勢を切り替え、北を目指して俺とエドが通行上のモンスターを蹴散らして一目散に逃げる。
成功率は…わかるわけない。

レオン 「じゃ…」

アルル 「いっくよーっ!!」

俺たちは一斉にその場から飛び降りる。

シーラ 「風の精霊よ、優しき力を荒ぶる風として、猛き吹け! バーストウインド!」

突然、下から強い風が吹き上げる。
本来は敵を吹っ飛ばす魔法だが、自分たちに使うことによって、落下スピードをコントロールすることも出来る。
以前ルーヴィスさんが使ったシルフィックバーストはこの魔法の発展系だな。

そして、それと同時にアルルも魔力をためて、強力な魔法を放つ準備をする。

アルル 「? あれ…?」

レオン 「? どうしたアルル…?」

突然、落下中、アルルはきょとんとした顔をする。

アルル 「魔法が…でない」

レオン 「…は」

全員 「…………」

一瞬、落下中時が止まる。
魔法が…でない?

レオン 「ナニィィッ!?」

エド 「くそったれ! 結局敵陣の真っ只中か!?」

アルルは魔法が出せないらしく。
敵連中が全員準備まんたんのまま俺たちは戦場に落下する。

リカントA 「ギャピッ!?」

とりあえず、真下にいた狼が人になったようなモンスター、リカントを踏み台に着地する。

レオン 「くそ! こうなったら!」
レオン 「我光の力となりて、彼の者に裁きの閃光放たん…! ホーリーノヴァ!」

カッ! チュドーン!!

一瞬、閃光が起きると大爆発が起こる。
しかし、見た目とは裏腹に威力はあまりない。
だが、目暗ましには十分だ。

エド 「どけどけー!」

レオン 「こなくそーっ!!」

ズドドドドドドド!



…………。
………。
……。



エド 「はぁはぁ…なんとか逃げ切ったな…」

シーラ 「全員…無事ですね?」

レオン 「なんとか…」

アルル 「みんな…ごめんなさい…」

エド 「気にするなよ、調子の悪いときもあるだろう」

俺たちはなんとかあの場をしのいだ。
いや、うかつに逃げ道のない場所に行くものじゃないな。

レオン 「それにしてもどうして魔法が出なかったんだろうな?」

エド 「集中ミスでもしたのか?」

アルル 「ん〜…いつも通りだったと思うだけど…」
アルル 「ただ、なんか魔力が無かったって言うか…」
アルル 「発動できるだけの魔力が残ってなかったんだよね」

エド 「残ってなかったって、MP切れか?」

レオン 「でも、今日はまだ一度も魔法使ってないよな?」

アルル 「うん…そのはずなんだけど…」

シーラ 「私たちは常に森の中を旅しています、魔力を寝ただけで完全回復させるには少し環境が悪いでしょう」
シーラ 「きっと日々の疲れも溜まっているんでしょう」

エド 「そうだな、正直俺もそろそろうんざりしているし」

レオン 「明々後日には町に着くんでしょ? だったらもう少し頑張ろう」

エド 「おう」
アルル 「うん!」

こうして俺たちは再び歩き出す。
オールドウィロウに着くということはようやくバシュラウクの森も中間地点を迎えようかということだ。
もう2週間ほどでこの森も抜けられる。
しかし…今回ちと厄介なことになってしまったようだった…。



…………。
………。
……。



『三日後…バシュラウクの森』


エド 「……」

レオン 「シーラさん、アルルの調子はどう?」

シーラ 「…どうとも、私は医者ではありませんから…」

アレから三日後…。
少し予定が遅れていた。
それは、今日の朝のことだった。

レオン 「まさか、アルルが風邪で倒れるなんて…」

そう、アルルは突然、熱を出して倒れてしまったのだ。

アルル 「みんな〜…ごめんなさい〜…」

エド 「アルル…まじで無茶するなよ」

アルル 「だいじょ〜ぶ〜…」

とは、言っているが誰が見ても大丈夫ではない。
シーラさんが診た結果ではアルルの体温は38.9℃。
典型的な風邪と思っていいだろう。
突然、魔力はなくなるわ風邪は引くはアルルは踏んだりけったりだな。

レオン 「どう考えても、アルルって風邪引かないってタイプなのにな」

アルル 「風邪引いたことないからよくわからないけど〜…頭がぼ〜っとして…力が沸かないよ〜…」

エド 「おまけにMP切れだもんな…」

シーラ 「……」

MP切れ…そう、風邪とは別にアルルはMPがここ最近まるでなかった。
風邪を引いているとはいえここ最近ずっと魔力が回復していない。
それどころか更に減っている感さえある。

シーラ 「もしかしたら…魔力枯渇しているのかもしれませんね…」

アルル 「そんな〜…ばかな〜…」

エド 「魔力枯渇って…なくなってから一度も使ってないんだぜ?」

レオン 「回復はあっても減るわけは…」

シーラ 「…とにかく、町に急ぎましょう」
シーラ 「私には判断しかねます」

エド 「しゃないな…ほれ、背中乗れ」

アルル 「うん…ありがと…」

レオン 「……」

風邪…か。
どうにも嫌な予感がするな。
もしかしたら、とんでもないことになっているのかもしれないな…。



……………。



『バシュラウクの森・中間地点 ジュピトの街の宿屋』


レオン 「……」

ガタン…ガタン…。

俺は両手に水のたっぷり入った桶を持ったまま木造の階段を登っていた。
街に着いたのはアレから半日経った午後10時頃。
アルルはもはや歩くこともままならずエド、俺、シーラさんのサイクルでアルルを背負って街に来た。
街はあまり大きいようではなく村という方がしっくり来る街だった。
宿屋に来る前、医者のところに寄ったのだが、その時俺たちはアルルがとんでもない自体だということを知るのだった。

コンコン。

レオン 「はいるぞ?」

俺はアルルの眠る部屋のドアを叩く。
すると、ドアが俺側に開いた。

シーラ 「ありがとうございます、レオンさん…」

中から出てきたのはシーラさんだった。
俺は桶を持ったまま部屋の中に入るのだった。

レオン」 「よっと」

俺は中に入ると桶を適当な場所に置いた。

レオン 「シーラさん、アルルの容態は?」

シーラ 「最悪…としかいいようがありません」

あの、いつでも笑顔を絶やさないシーラさんがこれでもかって位に暗い顔をする。
とうのアルルは顔を真っ赤にしてベットで眠っていた。

エド 「魔力枯渇か…」

魔力枯渇…それがアルルの病名。
正確には病気ではない、しかし今の状態は病気のようなものだ。

レオン 「なんで、アルルの魔力が戻らないんだ?」

魔力枯渇とは魔力を使いすぎたときに起きる症状で、高熱を起こしたり、意識不明になったりすることもある。
悪化すると最悪の場合廃人となる。
しかし、普通魔力が枯渇することは無く、また魔力は使わなければ時間が回復してくれるものだからまず起きることは無い。
ところが、なぜかアルルはその魔力が回復しないのだった。
いや、回復どころか逆にどんどん減っている。
これには医者もさじを投げ出してしまった。
どうしようもないのだ…。

シーラ 「呪いの類は感知できませんし…原因はまったくわかりません」

エド 「巧妙に隠してあったりしているんじゃないのか?」

シーラ 「それも考えられますが、そんな巧妙な呪いをアルルが受けたとは思えません」

レオン 「第一、僧侶であるシーラさんに気づかせないなんて、そっちの方が無茶だしな」

呪いではない、呪いならシーラさんをごまかすのは不可能。
第一シーラさんはその呪いを解呪する僧侶に与えられる魔法『リムーブカース』を使える。
呪い以外に何か、何か原因があるはずだ。

アルル 「あ、あれ…みんな…?」

シーラ 「アルル!?」

エド 「おい! アルル、お前まさか寝てたのか!?」

突然、今まで動かなかったと思ったらアルルが不思議そうに首を動かした。

アルル 「あれ…アルル…いつの間に寝てたの?」

レオン 「勘弁してくれよ…今眠ったらもう二度と目覚めないんじゃないかって不安になるじゃないか…」

アルル 「あ、ご、ごめんレオン…」

エド 「シーラさん、なんとかアルルを助ける方法は無いんですか…?」

シーラ 「…可能性は、ないわけではありません」

レオン 「え! それは!?」

シーラさんは神妙な面持ちで静かに言った。
可能性はあるのか!?

シーラ 「この先に…オールドウィロウの近くにエルフの村が存在します」
シーラ 「そこにある伝説の秘薬『エルフの飲み薬』ならアルルの魔力を完全に戻すことが出来るかもしれません」

エド 「よし! だったら今からでも!」

シーラ 「待ってください! 今から行っても恐らくもうアルルは持ちません」

レオン 「!? そんな、それじゃどうすれば!」

シーラ 「…直接、魔力をアルルに注ぎます」

アルル 「アルルに…シーラさんの?」

シーラ 「簡単に言いますと、アルルの症状は魔力が失われている状態です、つまり魔力がないと異常」
シーラ 「では、正常とはどういう状態でしょうか?」

レオン 「…魔力がある状態」

シーラ 「そうです、ここでどうするべきかというとまず、アルルに強制的に魔力の充填が必要です」

エド 「けど、そんなマジックアイテム俺たちは持ってないぜ?」

シーラ 「ですから、私の魔力を少しアルルに分け与えます」

レオン 「シーラさんの魔力を…できるの?」

シーラ 「はい、ただし、これはあくまで応急処置であり、わずかながらの延命手段でしかありません」
シーラ 「しかし、これを行わなければアルルは確実に廃人になるでしょう」

アルル 「そんな…アルルやだよ…」

レオン 「シーラさん…シーラさん自身は大丈夫なのか?」

ここで、魔力というものについて覚えておきたい。
魔力とはこの世界に住む生物全てが持つエネルギーである。
その魔力は種族のよって保有量が違うが、どんな生物でも自分の存在を維持できるだけの『維持魔力』と言うものを持っている。
人は魔族や精霊とは違い、保有魔力が極端に少なく、ほとんど維持魔力のラインギリギリのところで魔力を保有している。

コップで表せばわかりやすいだろうか?
コップというその存在が保有できる魔力の袋がある。
そのコップには赤いラインが囲むように引かれてあり、この赤いラインの下が『臨界魔力』。
そして、その赤いラインの上にあるのは生命維持には必要の無い余剰の魔力、『余裕魔力』。
人はこの赤いラインがコップの上ギリギリにあり、そのコップのほとんどを臨界魔力に使っているのだ。
逆に魔族などはこの赤いラインはコップの真ん中にあり余裕魔力が十分ある。
ただし、このコップはみんな同じ容量ではなく、さっき述べたようにそれぞれ保有魔力が違う。
数字で言えば、人間は10あり、臨界魔力は8だ。
魔族は100あり、臨界魔力は10。
魔族には余裕魔力が90あるのに対し、人間はわずか2しかないのだ。

シーラ 「大丈夫ですよ、私に支障が出ない程度に、ですから」

アルル 「…シーラさん、大丈夫?」

シーラ 「ふふ、大丈夫よ、アルルは悲しい顔は似合わないわ、ほら、笑って」

アルル 「う、うん…」

しかし、アルルに笑う余裕は無い。

シーラ 「アルル、汗かいているでしょ? 今体を拭いてあげるから体を起こして服を脱いでね?」

アルル 「う、うん」

レオン 「でようぜ、エド…」

エド 「…ああ」

俺たちはアルルとシーラさんを残して部屋を出た。
今回俺たちは二つの部屋を借りた。
元々部屋が小さく2人用だったので、男性組と女性組で分かれたのだ。


シーラ 「どう? 気持ちいい?」

アルル 「うん…冷たい…」

私はアルルの体を塗れたタオルで優しく拭いた。
アルルは汗をびっしょにかいており、体はとても熱かった。
ここまで事態が悪化するなんて…。

シーラ 「待ってて、今楽になるわ」

私はそう言って自分の余裕魔力を集め、それをアルルに分け与える。
さすがの私も臨界魔力を超えると危ない。
だから、わずかながらしかアルルには与えることが出来なかった。
それでも、アルルが普通に生活するには8時間は持つはず…。

アルル 「少し…楽になったよ」

シーラ 「でも、失った体力は回復しないわ」
シーラ 「明日朝起きたら元気一杯よ」

アルル 「うん…」

アルルは元気がないようでいつものような元気一杯の返事は返ってこない。
弱っているのが誰の目から見てもわかる。
そんなアルルに私は笑顔で努める。

アルル 「ねぇ、明日みんなでそのエルフの村に行くんだよね?」

シーラ 「ええ、そうよ」

アルル 「そこについたら、アルルもう大丈夫なんだよね? アルルもうみんなに迷惑かけなくて済むよね?」

シーラ 「ええ、そうよ…でも、明日私は一緒にはいられないわ」

アルル 「どうして? シーラさん?」

シーラ 「私はね、エルフの村には入られないの」
シーラ 「なぜなら私はとっても悪い人だから」

アルル 「え? シーラさん、悪い人じゃないよ、とってもいい人だよ」

シーラ 「ありがとうアルル…」
シーラ 「でもね、人は二つ顔をあわせ持つ時もあるの…」

アルル 「アルルは無いよ…シーラさんはあるの?」

シーラ 「ええ…勇者一行の僧侶のシーラと…ゾディ・アックのエージェントのネウロが…ね」

エルフの住民は私の正体を知っている。
私がどれだけ危険な存在か。
でも、レオン君たちに迷惑をかけたくない。
エルフの村に私が行けば必ずレオン君たちに迷惑をかける。
私は、レオン君たちに自分のもうひとつの顔を隠し続けなければいけない。
気づかないことが幸せというのなら、みんなが逝くまで隠し続ければいい。



…………。



エド 「レオン、寝たか?」

レオン 「いや、寝てない」

俺たちはベットで眠りに就こうとしているのだが、なかなか眠りにつけなかった。
アルルが心配で心配で、とても眠れそうにない。

レオン (シーラさんに任せれば絶対大丈夫に決まっている…なのに、なんでこんなに心配しているんだ?)

仲間を心配するのは当然だ。
特にリーダーならなおさら当然といえるだろう。
だが、仲間を信じるのも当然のはず。
不安の方が大きいのか?

エド 「…アルル」

レオン (エド…)

エドはアルルが好きだ。
好きなだけに本当に辛いのはエドなのかもしれない。
だが、今は俺たちにはどうすることも出来ない。
エドもそれはわかっているはず…しかし、それだけにそんな自分に焦燥しているんだろうな。

レオン 「シーラさんを信じてもう寝よう」
レオン 「俺たちが明日寝不足でまとも戦えなかったら余計アルルに心配かけるぜ?」

エド 「わかってる…」

エドはそう言ってそっぽを向いた。
エドだってわかっている…わかってはいるが納得が出来ないのだろう。
俺だって完全に納得は出来ていない。
こういう時、勇者ってのはなんにもできないものだな…。



…………。



『明朝:宿屋の外』


レオン 「…はぁ、あんまり寝てないな」

俺はまだ日が昇らない時刻に外に出ていた。
エドは眠れたのかな?
部屋を出るときはピクリとも動かなかったが。

シーラ 「あら? レオンさんおはようございます」

レオン 「あ、シーラさんおはよう」

突然、宿屋からシーラさんが出てきた。

レオン 「シーラさん! アルルの様子は!?」

俺はまずアルルの容態を聞いた。
昨日は放っておいたら今日を迎えられないとまで言っていた。
アルルの奴…大丈夫なんだろうか?

シーラ 「今は部屋でゆっくり眠っています、朝食前にもう一度魔力の最充填を行えば半日は持つでしょう」

レオン 「そう…ですか」

シーラ 「…心配ですか?」

レオン 「それはそうですよ、アルルは仲間なんだから…」

俺は誰一人欠けてほしいとは思わない。
できればこの4人全員が無事この勇魔大戦を生き延びてほしい。
そして、勝利の栄光をともに勝ち取りたい。

レオン 「シーラさん、アルルは本当に治るんですか?」

シーラ 「……」

俺はあえてこの言葉を使った。
昨日から俺は一抹の不安がどうしても拭いきれなかった。
もしかしたらエルフの飲み薬でさえも…その場しのぎに過ぎないのでは?

シーラ 「…ご察しの通りエルフの飲み薬は根本的な解決法にはなりません」

レオン 「……」

やはり…。
そもそもどうしてアルルの魔力がなくなるかは原因不明なんだ。
そうそう都合よく直すことなんかできないか。

レオン 「アルルはもう…」

シーラ 「ええ、もう戦えませんね…」

アルルはその人間では有することの出来ない魔力があるからこそ勇者一行の魔法使いとして重要な一端を担っていた。
しかし、魔法が使えなければアルルも普通の女の子となんら大差は無い。
はっきり言ってアルルはもう戦えない。

シーラ 「しかし、アルルは私たち付いてこなければならない」

そう、付いてこなければ待っているのは確実な死。
今のアルルはシーラさんという魔力の供給者無しでは生きられないのだ。
それはまるで、命を分け与えられているかのようだ。
他人への依存なしでは生きられない…アルルはそれに耐えられるだろうか?

シ−ラ「大丈夫ですよ、レオンさんアルルは必ず治ります」

レオン 「根拠はあるんですか?」

シーラ 「女の勘です♪」

レオン 「成る程…納得」

なんとも馬鹿らしいがそれがシーラさんの答えだった。
勘か…まぁ、たしかに希望をなくすよりましか。

レオン (アルル…耐えてくれよ?)

俺は祈るだけだった。
もし、救いの手をもつ神が存在するのならば、どうかアルルに御慈悲を…。



…………。



アルル 「あ、エド…」

エド 「アルル…! もう、大丈夫なのか?」

明朝、俺はレオンが部屋にいないことに気づき、起きて部屋の外に出ると、同じく部屋の外へと出るアルルと鉢合わせる。

アルル 「うん…シーラさんのお陰で大丈夫だよ…でも」

エド 「大丈夫だアルル! シーラさんに嘘は無い!」
エド 「アルルは絶対治るさ!」

アルル 「うん…そうだよね、ありがとエド」

エド 「気にするな、仲間だろ?」

アルル 「うん…」
アルル 「あ、アルルちょっと外の空気吸ってくるね! じゃあまた後で!」

アルルはそう言うとトテトテと足早に一階へと降りていく。
二回の通路には俺だけが残っていた。

エド 「はぁ、なさけねぇな…他人頼りなんてよ」

出来るのなら俺の力でアルルを助けてやりたい。
しかし、魔法の訓練もしていない俺にはアルルに魔力を分け与えてやることさえできない。
俺にはただ、アルルを励ますしかない。

エド 「死なせねぇ…死なせねぇよアルル」

絶対にアルルを救ってみせる。
絶対に…!



…………。
………。
……。



『明朝5時33分 宿屋前』


シーラ 「エルフの村はこの街を出て、北を目指せばたどり着けます」
シーラ 「私は訳あって一緒に行けませんが、皆さんよろしくお願いします」

レオン 「わかってるよ、シーラさん」

エド 「必ずエルフの飲み薬は手に入れるよ」

俺たちは宿の外でシーラさんと別れを告げる。
何でも、シーラさんは少し調べたいことがあるらしく、俺たちを一緒に行けないのだ。
俺たちには余り時間も無いので急いで向かわなければならない。
エルフの住む…森へと…。

アルル 「シーラさん…」

シーラ 「アルル…しばらくお別れね」

アルル 「うん…その…あの…」

シーラ 「大丈夫よアルル…」

アルル 「あ…」

シーラさんは言葉に詰まるアルルを優しく抱きしめた。
俺たちはそれを黙って見届ける。

シーラ 「あなたは死なないわ、私たちがいるもの…」

アルル 「う、うん…」

そう言ってシーラさんはアルルを離す。

アルル 「シーラさん、い、行ってきます!」

シーラ 「いってらっしゃい」

こうして、俺たちは土壇場の旅を続ける。
次の目的地はエルフの村…。
アルルの命の鍵は…そこにある。







To be continued



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