勇者と魔王〜嗚呼、魔王も辛いよ…〜




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第19話 『アルケミストサモナー』





『バシュラウクの森 最北端:森の出口付近』


ティナ 「お出かけ、お出かけ♪ ル〜ララ〜♪」

セリア 「息抜きとはいえ、私までここに来てよろしいのでしょうか?」

アンダイン 「気にしない気にしない」

ここはバシュラウクの森、北の出口付近。
ここに魔王軍女性陣は魔方陣を利用してやってきたのだった。
彼女たちの目的、それはこのバシュラウクの森最北端にある森のカフェ、『フィーター』に来ることだった。

アンダイン 「バシュラウクの森の中に存在するカフェ、『フィーター』、このカフェの目玉は森クルミのパフェ!」
アンダイン 「女の子なら一度は食べないと絶対損な美味よね♪」

セリア 「それは楽しみですわね♪」

ティナ 「私も楽しみです♪ でも、お兄ちゃんも連れてこればよかったんじゃ…」

アンダイン 「ああ、サタンはいいのよ、大体今日は私たち女性陣の言ってみればミニ旅行なんだから」
アンダイン 「さぁ、そんなことよりこのまま森を直進したらカフェに着くはずよ」
アンダイン 「今回は私の奢りなんだから、しっかり食べなさいよ?」

ティナ 「わぁ、でもいいんですか?」

アンダイン 「いいのいいの! まぁ、少ないながら給料入ったしね」

セリア 「魔王軍って給料あったのですか?」

アンダイン 「あんまり多くないけどね…」

セリア 「おや、建物? もしかしてあれではないですか?」

そうこうしていると一行の目の前には赤いレンガ屋根の建物が現れるのだった。
森のカフェ、『フィーター』である。

ティナ 「わぁ、ここなんですね!」

アンダイン 「グルメ雑誌によれば、ここのパフェの味は三ツ星よ♪」

セリア 「それは楽しみですわね」

アンダイン 「さってと、セリア財布先に渡しとくから中で席を確保しといてくれない?」

セリア 「? それは構いませんが何故でしょうか?」

アンダイン 「ちょっと野暮用よ、お願いね」

セリア 「…わかりましたわ、ティナちゃん、先にお店に入りましょうか?」

ティナ 「あ、はいです!」

アンダイン 「………」

私は財布をセリアに渡すとセリアとティナちゃんをお店に向かわせる。
二人がカフェの中に入るのを確認すると私は来た道の方を振り返る。

アンダイン 「さぁ、姿見せなさいよ、何者なの?」

私は鬱蒼と生い茂る森の向こうに潜む『何か』に挑発するように言う。

? 「ふーん、気づいていたんだ、さすがは魔王軍の精鋭だね」

森の奥から出てきたのは緑色の六角形の仮面をかぶり、白いロープに身を包んだ少年の声をした何かだった。

アンダイン 「アビスね…何者?」

? 「ふふ、俺はファント、察しのとおりアビスの者だよ、 法王のファント」

アンダイン 「ファント…それでその法王様が私に何のようなのかしら」

ファント 「さぁてね、気まぐれで命取りに来た、なんちゃって」

ファントはそう言うと無邪気に笑い出した。
あの時のムーンといい、このファントといいむかつくわね。

アンダイン 「この私があんたみたいな子供にやられると思うかしら?」

ファント 「良い自信だねぇ…じゃあ、試してみようか!?」

アンダイン 「!? カード!?」

ファントは一気に殺気を増すと、謎のカードを懐から出すのだった。
あれはまさか…!?

ファント 「カードよ、その身をわれ等に現したまえ!」

キィィン!!

突然、カードはまぶしく輝く、その光には魔力とは違うなにか不思議な力を感じた。

アンダイン 「こいつ!? まさか…!?」

ファント 「ヘルブレイズ!」

アンダイン 「!? ああああっ!?」

突然、私の体は紫色の炎に包まれてしまう。
その炎はあまりに熱く、水の精霊たるこの私の体を焼き焦がすかのようだった。
私はその謎の炎に耐え切れず、そのまま倒れてしまう。

ファント 「水の精霊アンダインとはいえ、所詮こんなものだな…あばよ」

アンダイン (あれは…アルケミ…スト…サモナー…)

私の意識はそこで終わった。



…………。



セリア 「遅いですわね…一体どうしたのでしょうか?」

あれから10分ほど。
カフェの店の中で待っていたがいくらなんでも時間がかかりすぎていると思い私たちは心配になって外に出るのだった。
そこで見つけたものは…。

ティナ 「ああっ!? あ、アンダインさんが!?」

セリア 「アンダインさん!?」

外に出ると無造作に倒れているアンダインさんを見つけた。
私たちは急いでアンダインさんの元に駆け寄る。

ティナ 「だ、大丈夫ですかアンダインさん!」

セリア 「まさか敵に襲われたの? く…しょうがありませんわね」

私は火傷に傷ついたアンダインさんに急いで回復魔法をかける。
しかし…。

セリア 「!? そんな!? 私のキュアが効かない!?」

私は回復魔法『キュア』をアンダインさんにかけるが、アンダインさんは火傷が治るどころか体力もまったく回復しなかった。

セリア (まさか…呪いか何か? なんにせよこのままではまずいですわ…急いでサタンに診せないと!)

私はそう思うとアンダインさんを何とか担ぐ。
女性としては体格の大きいアンダインさんを小柄な私が背負うことはとても辛かったがそうも言っていられる状態ではない。

ヴァルキリー 「! ちょ、あなたたちどうしたの!?」

セリア 「ヴァルキリー様?」

突然、真上からヴァルキリー様が降り立つ。
手には荷物を持っていたあたり、宅配途中だったのだろう。

ティナ 「ヴァ、ヴァルキリー様! た、大変なんですアンダインさんが!」

ヴァルキリー 「え? !! これはひどい! まずいわ急いで治療しないと!」

セリア 「ですが、私の回復魔法ではなぜか火傷を治すことも体力を回復させることもできないんです…」

ヴァルキリー 「この火傷は厄介ね…サタンちゃんじゃないと治せないわ」

セリア (サタンちゃん? いま、サーちゃんを、ちゃん付けで…て、私もですけど…て、そんなことより!)
セリア 「サーちゃんなら治せるのですかっ!?」

ヴァルキリー 「ええ、多分ね…とにかくこれはまずいわ、私が背負うわ! 転送印はどこ!?」

ティナ 「こ、こっちです!」



…………。



『魔王城』


セリア 「急患! 急患! サーちゃん! どこにいるのっ!?」

サタン 「なんだ、騒々しいな…どうした?」

昼下がり頃、エントランスに向かうとなにやらセリアが騒いでいた。
今日はアンダインが有給休暇をとったからセリアとティナをつれて出かけていたはずだが?

セリア 「あ! サーちゃん! 大変よ! アンダインさんが!」

ヴァルキリー 「サタンちゃん…この人、診てみて」

サタン 「ヴァルキリー様? !? アンダイン!?」

俺はヴァルキリー様が背負っていたアンダインを見るとその姿に驚愕する。
なんと、アンダインは火傷していたのだ。
本来水の精霊は火傷するはずがない、それがアンダインの怪我はまさしく火傷だった。
しかも、普通の火傷じゃない…紫色の火傷だと…?

ヴァルキリー 「おそらく、ヘルブレイズの傷跡よ…」

サタン 「ヘルブレイズ!?」

ティナ 「な、 何なんですかそのヘルブレイズって…?」

サタン 「地獄の業火…神族のみが扱えるとされている神の魔法だ…」
サタン 「地獄の炎はすべての者を焼き焦がす…」
サタン 「そしてその傷跡は容赦なくその者の命を焦がす…」

セリア 「サーちゃん、治せないの?」

サタン 「すぐには無理だ、ヘルブレイズの傷跡は魔法では治らない、僧侶ならリムーブカースで解呪をした後魔法で治せるが…」
サタン 「ここでは、まずヘルブレイズの呪いを解く解呪薬を作る必要がある…生成にどう早く見積もっても3時間だ」

ヘルブレイズとはとても厄介なものだ。
遅効性ですぐに死ぬことはないがじわじわと確実に命を削り取る。
おまけに魔法プロテクトのかかる呪いを一緒に敵に与えるため、これを食らうと通常は治すことは不可能。
先も言ったとおり、解呪を行うことのできる僧侶なら治すこともできるがここに僧侶はいない。

ヴァルキリー 「だめよ! アンダインさんはあと1時間と持たないわよ!?」

ティナ 「そんな! それじゃ!?」

サタン 「…無念だが、時間が足りないか…」

アンダインは手遅れだ。
しかし、ヘルブレイズだと?
アンダインは一体誰を相手にしたんだ?
少なくとも神の力を扱うなど…。

ヴァルキリー 「しょうがない…一か八かにかけるしかないわね…」

セリア 「ヴァルキリー様?」

サタン 「まさか、ヴァルキリー様、あれをする気ですか?」

ヴァルキリー 「ええ、あとは本人の生命力次第だけどね」

サタン 「危険です、あれはヴァルキリー様の命さえ脅かす…」

セリア 「今のところ話が見えないのですが…一体何をする気なのですか?」

サタン 「ヴァルキリー様のみが使える魔法だ…効果は凄まじいがヴァルキリー様自身の生命力を著しく消耗してしまう」

セリア 「そんな魔法が…」

ヴァルキリー 「もしもののときは看護お願いね? サタンちゃん、…『ヴァルキリー』!!」

ヴァルキリー様は俺に後を任せると魔法『ヴァルキリー』を発現させる。
ヴァルキリーを発現させると、ヴァルキリー様の体はスカーレッド色の光に包まれ、その光が帯となってアンダインを包む。

魔法『ヴァルキリー』…ヴァルキリー様の生命力を他者に与え、その者を一時的にヴァルキリー様と同じ『神体』へと変える。
神体となった者は生命力が活性化し、殺されても死なないほど、むしろ殺された状態から復活するくらいだ。
身体能力、魔力等も常人のそれをはるかに上回る状態になり、まさに鬼神のような状態になる魔法だ。
だが、その代価はヴァルキリー様の生命力の激減によって行われる。

ヴァルキリー 「う…」

サタン 「ヴァルキリー様!」

ヴァルキリー様は魔法を終えると精魂尽きたように倒れ掛かる。
俺はそれを咄嗟に受け止めるのだった。

サタン 「アンダインは…?」

俺はヴァルキリー様を受け止めたままアンダインの方を見る。

アンダイン 「う…」

セリア 「すごい…、みるみるうちにアンダインさんの火傷が治っていく…」

サタン 「これがヴァルキリーだ…」

アンダインはヴァルキリーの力により『神体』を得て、すぐさま火傷を治し始めた。
すでに体力も完全に戻りつつある、今のアンダインは神族の力を得ている。
その戦闘能力はざっと通常時の10倍といったところだろうか?
今だけなら俺よりはるかに強い力を持っている状態だろう。

アンダイン 「ここは…?」

ティナ 「目覚めた!」

サタン 「ここは魔王城だ、セリアたちに助けられたな」

アンダイン 「魔王城…」

サタン 「一体何があったんだ? お前ほどの者が瀕死の重傷を負うなど…」

アンダイン 「アルケミストサモナー(錬金召喚士)…」

サタン 「アルケミストサモナーだと…?」

セリア 「なんですの? そのアルなんとかというのは」

サタン 「アルケミストサモナー…錬金召喚士と呼ばれる者だ」
サタン 「俺も詳しいことは知らないがカードからカードに封印された力を引き出すことの出来る存在だそうだ」

ティナ 「カード…ですか?」

サタン 「アンダインは錬金召喚士にやられたのか?」

アンダイン 「相手はアビスだったわ、アビスの法王、ファント…やつはカードを扱った」
アンダイン 「カードが光ったかと思ったら紫色の炎に焼かれていたわ…」

サタン 「アビス…」

また、アビスか…。
まさか、アンダインが襲われるとは…。
しかし、アビスにはカードを扱える錬金召喚士までいるのか?

サタン 「アビスか…まぁ、とりあえず一命を取り留めて何よりだ、今日は城でゆっくり休んでいろ」

アンダイン 「ええ、そうさせてもらうわ…」

アンダインはそう言うと立ち上がり、自室へと向かった。
その足取りは軽く、すでに全快しているということがわかる。

サタン (アビスか…何者かは知らんが我々に牙を向く存在…無視はできんな…)

俺はそう思うと、ヴァルキリー様を背負ってエントランスを離れた。



…………。



『一方…勇者一行』


レオン 「もうすぐバシュラウクの森ともおさらばか」

アルル 「なんだか、そう思うと寂しいね…」

すでにバシュラウクの森に入って2週間あまり、俺たちはいよいよバシュラウクの森の出口に出ようとしていた。
これでしばらく森生活ともおさらばだな。
だが、その前に…。

シーラ 「この先にカフェ、『フィーター』があるはずです」
シーラ 「そこで一息つきましょう」

エド 「森の中にカフェがねぇ…」

アルル 「アルルもうお腹ぺこぺこ〜」

レオン 「もうちょっとだ、我慢しろよ」

俺たちはとりあえずそのフィーターというカフェを目指してた。
本日も晴天、森の中は穏やかだった。

エド 「ん? 建物? おっ、着いたみたいだぜ!」

レオン 「やっと休めるな…」

俺たちは木々の向こう側に一軒の建物を見つけた。
白い塗り壁に赤レンガの屋根…恐らくそこがカフェ、フィーターなのだろう。

アルル 「ん? でも、なんか騒がしくない?」

シーラ 「そういえば…人だかりも出来ているように見えますね」

レオン 「…?」

どうやら建物の前には多くに野次馬が集まっているようだった。
一体どうしたんだろうか?
俺たちは不思議に思いながらもその建物に近づく。
建物の付近は森が開けており、日当たりもいい…しかし。

ザワザワ、ザワザワ!

エド 「一体どうしたんだ?」

どうやら、野次馬たちはある一箇所を囲んでいるようだった。
そこに何があるのかは外野からではわからない。
ただ、野次馬たちの顔は少し暗いようにも感じた。

レオン 「一体、何があったんだろう…」

? 「なんでも、戦闘がここであったらしいよ」

シーラ 「戦闘…?」

レオン 「一体誰と誰が…?」

突然、俺たちの問いに答える者が現れる。

? 「さぁ、片方は女性だったらしいけど」

俺たちの問いに答えたのは18〜9位の人族の男性だった。
マントを着用しており、服装は一般的な旅人の服だ。
腰に巾着袋を着用しているのが妙に特徴的だった。

レオン 「そういえば、あなたは?」

? 「僕? 僕はキエン、世界中のグルメを食べる旅人かな?」
キエン 「まぁ、今回も今巷で有名なフィーターのグルメを食べるために着たんだけど、どうもそれどころじゃないみたいだね…」

アルル 「グルメ?」

シーラ 「美味しい物のこととでも思えばいいわよ、それにしても戦闘ですか…」

よりによってこんなところで戦闘か…。
世の中どんどん物騒になっていくな。

キエン 「まぁ、ほどなくして騒ぎも終わるだろうね」
キエン 「折角こんな辺境のカフェまで来たんだしちょっとそこで一休みしようかな」

キエンさんはそう言って少しカフェから離れる。

アルル 「アルルたちはどうする?」

エド 「進行上にあったとはいえ、わざわざ寄り道したしな…」

シーラ 「そうですね、少し待ちましょうか?」

レオン 「うん、そうだな」

俺たち勇者一行もとりあえず営業再開を待ってしばらく喧騒から離れるのだった。



…………。



エド 「てあっ!

レオン 「くっ!?」

ガキィン! キィン!

カフェフィーターから少し離れたところ、比較的開けた場所で俺たちは休憩していた。
だが、時間がかかりそうなので俺とエドは、模擬戦を行っていた。

レオン 「このぉっ!」

ガキィン!

エド 「ちぃ! だが、まだまだぁっ!!」

ブォン!

俺が本気で切りかかるとエドはそれを受け止め、全力で弾き飛ばしてくる。
エドってこんなに強かったか?
て、俺と違って剣一本で食ってきているもんな…剣術じゃ無理か。
昔、なんか有名な騎士団に所属していたとかしていなかったとかイマイチ過去が曖昧なんだよな、エドって。

エド 「うらっ! 下がお留守だぜ!?」

レオン 「おっと!」

エドはすぐさま下に切り返す。
俺はとっさに剣を下に構えてそれを受け止める。
そのまま、少し俺は距離を離す。
そろそろ、勇者と戦士の違いを見せないとな!

レオン 「いくぜ! 覚えたての新魔法!」
レオン 「輝きの理よ、光の手玉となりて敵を弾け! ライトボール!」

エド 「げっ!?」

ズパァン!!

俺はとりあえずやっと覚えたレベル1精霊魔法のライトボールをエドに放つ。
エドは咄嗟には反応できず直撃を受けて、すっ転んだ。

エド 「いって〜…、お前いつの間に普通の魔法を…」

レオン 「ホーリーノヴァは俺にはまだとても扱えないからな」

ホーリーノヴァはレベル8の魔法だ。
まだ俺の精霊魔法のレベルは1だ。
発動するだけましだが、ただのこけおどしだからな…。
ちなみに精霊魔法も通常魔法もそうだが、魔法レベルは属性ごとに違う。
アルルなどは総じて平均レベルで3以上を持っている。
俺は光しか扱えないから光のみがレベル1だ。

シーラ 「ふふ、これでレオンさんも少し精霊さんに認められましたかね?」

レオン 「ふぅ…やっと使えたよ」

シーラさんは優しく微笑んでくれる。
精霊魔法は精霊との契約によって魔法を扱えるようにするのだが、これがちっと厄介だ。
精霊は目には見えず、感じることしかできない。
おまけにそれぞれ個性があるから、扱い方が難しい。
ちなみに同じ精霊でもウンディーネさんやアンダインは神精霊と呼ばれる上級精霊で、ほとんど不老不死だ。
地球自身の意思が生んだ存在というわれているが実際のところよくわからない。
ただ、その個体数は極めて少なく神精霊と呼ばれる存在は現状おおよそ20人ほどといわれている。

エド 「ちっくしょう…やれれたぜ、まさかあそこで魔法が飛んでくるとはな…」

レオン 「俺は一応勇者だからな、魔法もちょっとは扱えるようにならないとな」

キエン 「…ふ〜ん、君たちって勇者一行だったんだ」

レオン 「! キエンさん!」

突然、どこからかキエンさんが現れる。
どうやら、覗いていたみたいだ。

キエン 「営業再開したよ、勇者一行、行かない?」

アルル 「あ、行く行くー!」

エド 「教えに来てくれたのか」

キエンさんはどうやら店の再開を教えにきてくれたみたいだった。
俺たちはそれを聞くととりあえず動く準備をする。

エド 「さってと、少し小腹が空いたというよりがっつり食いたい気分だが…」

アルル 「あ、それアルルも〜」

エドとアルルはのんきにそんなことを言い合う。
たしかに、小腹が空いたというよりはかなり腹が減っているが…しかし。

シーラ 「レオンさん?」

レオン 「…誰か見ている」

俺は気配を感じた。
殺気もある。
どうやら…敵らしいな。

エド 「はぁ…こんな時にかよ…」

キエン 「ん? 一体どうしたの?」

シーラ 「キエンさん、下がっていてください」

アルル 「レオンってすごいよね…その気配察知能力」

キエン 「まるでグ○ッグルの危険予知?」

レオン 「……」

エド (合っているちゃぁ合っているな…)

俺はとりあえず無視して視線の方に剣を向ける。
今度の敵は一体…?

ファント 「う〜ん…思いっきりばれてるし…」

レオン 「少年…?」

シーラ 「ファント!?」

エド 「シーラさん、知っているのか?」

出てきたのはなんと14、5歳の少年だった。
深緑のショートヘアーの髪が特徴で、身長は150センチそこそこ。
白いロープで全身を包んでいるため体格まではわからない。

ファント 「一部除いてお初目お目にかかります、法王のファントといいます」

レオン 「法王のファント!?」

エド 「まさかアビス!?」

キエン 「アビス? 法王?」

キエンさんだけはこっちと相手を交互に見て頭に?を浮かべていた。
たく、なんでこんなときに敵襲来るかな…。

シーラ 「今度は何の用ですか?」

ファント 「暇つぶしに殺しにきた、ってところかな?」

アルル 「な、なによこいつ! 暇つぶしに殺すって!」

エド 「ふざけた野郎だな…」

レオン 「……」

ファントは見た目こそ子供だが、その中身はまるで子供とは思えない。
その無邪気さはたしかに子供かもしれないが…。

レオン (凶悪だな…)

ファント 「はっはっは、まぁ、勇者一行はここで終焉だ、てね」
ファント 「悪いけど一発で終わらせる!」

ファントはそう言うと懐からなにやらカードを一枚取り出した。

レオン 「あれは!?」

キエン 「まずい!」

突然、キエンさんが反応する。
そして、それと同時に。

ファント 「ヘルブレイズ、開放!」

突然、ファントの持つカードが輝きだす。
一体何が…!?

キエン 「くっ! メイガスミラー、開放!」

ファント 「!?」

アルル 「こっちもカード!?」

なんと、突然キエンさんも懐からカードを取り出すと、カードが輝く。
すると、キエンさんのカードが大きな鏡に変化した。

エド 「なっ!?」

そして、ファントのカードからは紫色の炎が飛び出し、俺たちを襲う。
しかし…。

カァァッ!

ファント 「しまっ! サイレントフィールド、開放!」

鏡はファントの紫色の炎を跳ね返す。
瞬間ファントは二枚目のカードを取り出すとカードは再び輝く。

キィィィィン!

アルル 「ひっ!?」

突然、頭が割れるような耳鳴り。
どうやらファントのカードから出た音のようだった。
その音は跳ね返された炎を掻き消した。

ファント 「く…まさか…」

キエン 「……」

エド 「な、なんなんだ…この二人…?」

それはまるで俺たちの知らない世界だった。
カードから物が出たり魔法が出たりする。
一体あのカードどんな原理なんだ?

シーラ 「錬金召喚士(アルケミストサモナー)…」

キエン 「詳しいね…」

エド 「なんですか? そのアルなんとかって?」

シーラ 「アルケミストサモナー…カードに眠っている情報を引き出すことができるといわれる存在です」

レオン 「カードの情報?」

キエン 「このカードはまぁ、記憶媒体とでもいおうかね?」
キエン 「まぁ、俺はその情報を引き出せるってわけ」

アルル 「そんなことができるんだ…」

シーラ 「ただ、アルケミストサモナーは誰でもなれる存在ではないはず」
シーラ 「魔力ではなく精霊力でもなく謎の力を使うことでカードを開放できるらしいです」
シーラ 「その力は、普通の生命体は持っておらず、極一部の生命体が奇跡に等しい確立で持っているらしいです」

レオン 「生命体って…?」

キエン 「もしかしたらモンスターでもカードが扱えるかもしれないってこと」

エド 「モンスターもなのかよ…」

キエン 「もしも…だけどね」

ファント 「予想外だったよ…まさかアルケミストサモナーがほかにいるなんて…」

キエン 「カードを扱えし者はカードを扱えし者を呼ぶそうだよ…」

ファント 「ふん、そして負けたほうは全てを失う!」
ファント 「悪いが容赦はしない! 見せてやるよカードの神器!」

アルル 「カードの神器!?」

キエン 「!? まさか!」

ファント 「出ろ! タイラントドラゴン、開放!」

タイラント 「ガァァァァァッ!!」

ファントの取り出したカードはやはり同じように輝くとなんと巨大な黒色の竜が現れた。

アルル 「ど、ど、ど、ドラゴン!?」

エド 「でけぇ…な、なんだこりゃ…」

それは翼を持ったドラゴンでその体長は10メートル近くある。
黒い鱗をしており、とてつもない迫力をしている。

シーラ 「まさか…神竜タイラントを召喚するなんて…」

レオン 「タイラントって…?」

シーラ 「タイラントドラゴン、闇を司る竜でこの世界に存在する三神竜の一匹です」
シーラ 「神器タイラント…まさか、カードの神器とは…」

アルル 「し、神竜…そ、そんなの召喚するなんて…」

レオン 「く…」

最近絶望的な戦いばかりだったが今回は特別やばい…。
まさか神竜まででてくるなんて…。
よりによって神かよ…。

キエン 「タイラント…そこまで運命だとは思わなかった…」
キエン 「僕も見せよう…タイラントのついになるドラゴン、カイザードラゴン、解放!」

カイザー 「ゴォォォォッ!!」

アルル 「うひゃぁっ!? こっちも出たーっ!?」

レオン 「!」

なんとキエンさんも同じようなドラゴンを出す。
ただ、キエンさんの出したドラゴンは白…正確にはやや黄色っぽい白のドラゴンだった。
見た目はただの色違い。
それだけに強い威圧感がある。

ファント 「カイザー…そんな…お前も神竜の神器をもっているなんて…」

シーラ 「驚きました…まさか一度に2匹もの神竜を見れるなんて…」

キエン 「これが僕の神器カイザーだ」

ファント 「く…」

キエン 「どうする? このまま争えば君もただでは済まない、でも、もし退いてくれるのなら…」

ファント 「…たしかにここでカイザーと争うと危険だな…いいよ、ここは君に免じて退こう…」

キエン 「ありがとう」

ファント 「けどね! カードはカードを呼ぶ! いつか必ずそのカイザーは俺がいただくよ!」

タイラント 「ガァァァァァッ!」

バサ! バサササッ!!

ファントはタイラントに乗ると、タイラントはそのまま飛び去った。

エド 「逃げた…?」

キエン 「ふぅ、戻ってカイザー」

キエンさんがそういうとカイザードラゴンは光を放ってカードに戻る。
なんていうか…すごいな…アルケミストサモナーって。

キエン 「なんだかとんでもないことになっちゃったけど、とりあえずフィーターに行こうか?」

アルル 「え? あ、そ、そうだね…」

アルルもさすがにあまりのことキョトンとしていた。
正直ほんの数分の出来事だったがそれは俺たちの範疇をはるかに超えた出来事だった。
ただ…世界は広いな…そう思うしかない。



…………。
………。
……。



『同日:午後5時30分 バシュラウクの森、北出口付近』


キエン 「それじゃ、僕はこれから南下するから」

シーラ 「ええ、さようなら」

アルル 「またね〜♪」

俺たちはフィーターで例の森クルミのパフェというものを頂くと程なくして店を出て、キエンさんとは別れようとしていた。
キエンさんはこれから南側の大陸に向かうらしい。
俺たちは逆に魔王城を目指すため、更に北上していく。
いよいよ終わるバシュラウクの森。
これから俺たちには何が待っているのか…?

レオン (それは…出遭ってみるまでわからないか…)







To be continued



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