勇者と魔王〜嗚呼、魔王も辛いよ…〜




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第25話 『冥の存在』





チュンチュン…。

レオン 「ん…?」

小鳥が囀る声。
朝か…。

レオン 「あれ?」

俺は自分のいる部屋に違和感を感じた。
見たことの無い部屋、やたら広い。

レオン 「ああ…俺たちシンにいるんだったな…」

生活習慣の違いにギャップを感じずにはいられない。
さっさと中央に戻らないとな。

レオン 「…? シーラさんは?」

よく見ると、この部屋には5人で眠っているのだが、シーラさんの姿だけ見当たらなかった。

レオン 「! あれは…?」

俺は部屋の窓(といっても、穴が四角く空けられているだけだが)から外を見た。
外は大きな家が多く、朝早いにもかかわらず人が多い。

レオン 「シーラさん?」

俺はそんな街中にシーラさんがいるのに気づいた。
そして、シーラさんの目の前に明らかにシンの人間じゃないとわかる人物。

レオン (ゾディ・アックか…?)

シーラさんは世界的国際テロ組織ゾディ・アックの構成員。
ここ最近は大人しくなっているようだが、以前のリーナ(マリス)さんの一件のように決して解散したわけじゃない。
一体、何を考えているのか?

レオン (シーラさんのことは信じている、だけどゾディ・アックそのものは許せるものではない)

シーラさんにとってゾディ・アックがどういうものかはわからない。
神の元、殺戮が許されるなんて、ふざけている。
そんなものは狂信だ。
しかし、ゾディ・アックは宗教組織…ゆえ、その結束力は並みじゃない。

レオン 「……」

俺はさすがに心配になって街にでることにする。
確証は無いが、シーラさんがゾディ・アックと会っているということはなにかあるのだろう。
俺は外に出ると一階に向かう。

ドタドタドタ…!



…ドタドタドタ!

レオン 「靴忘れた! 脱いでたんだった!」

俺は慌てて靴を取りに戻った。
靴を履くと改めて俺は一階に下りる。



コクマー 「お〜、勇者〜、ちょっと付き合え〜」

レオン 「は? て、臭っ! 酒臭い!」

俺は一階に降りると、物凄い酒の臭いがした。

コクマー 「気にすんな、まぁ、こいやこいや」

レオン 「いや、俺未成年ですし、シーラさんを追いかけないと…」

コクマー 「なんだ〜? 俺の酒が飲めないの〜ひっく!」

レオン (この臭いといい、この酔い具合といい、この人一体どれだけ飲んだんだ!?)

コクマー 「とりあえず、こっちこい!」

ドカァ!

レオン 「おぶっ!?」

コクマーさんは突然、右手に持たれた鉄扇で俺の頭を叩いてきた。
ご、強引…。

レオン 「俺…だから、酒…だめですって…」

コクマー 「やっと、相手してくれる奴きたな〜、さぁ、飲むぞ〜ひっく!」

ズ〜ルズ〜ル…。

俺はもはや引きずられるしかなかった。



…………。



シーラ 「以上、報告終わります」

男 「ご苦労、引き続き、勇者の監視及び護衛を任せる」

シーラ 「はい」

男 「ゾディ・アックはお前の働きを期待している、我々を失望させるなよ、ホムンクルス」

シーラ 「はい」

私は、不測の事態が起きたが、シンにいる、ゾディ・アックの諜報員にこれまでの行動の報告を行った。
とりあえず、我々は現状維持。
ゾディ・アックは大きな動きをするつもりは無いようだ。

シーラ (早く、勇者の山に向かわなければならない)
シーラ (だけど…聖歌の谷を通らないといけないのね…)

聖歌の谷、私にとってはある意味故郷とも呼べる場所。
もし、かなうならレオンさんたちには立ち寄ってもらいたかった場所。
だけど、今は少し会いたくないかもしれない…あの方には。



…………。



『同日 時刻08:30 儚館』


アルル 「みんな、おはよ〜」

エド 「おう」

シーラ 「おはようございます、アルルさん」

ダイナマイツ 「レオンさんの姿が見られませんな?」

アルル 「そういえば…?」

シーラ 「私、一度出かけましたけど、帰ってきたときにはいませんでしたよ?」

レオン 「や…やぁ…お、は…よ…」

エド 「レオ…んんっ!?」

アルル 「ど、どうしたのレオンー!?」

シーラ 「レオンさん顔真っ赤ですよ!?」

ダイナマイツ 「これは…アルコール?」

俺はふらふらになりながらなんとかコクマーさんの魔の手から逃れた。
あの人…酒強すぎだ…てか、俺酒弱〜…。

アルル 「あ〜、もしかしてコクマーに絡まれた?」

レオン 「……」(コクリ)

アルル 「やっぱりね〜…運無いよレオン…でも、よく逃げられたね」

レオン 「精霊魔法で…眠らせた…」

シーラ 「レベル2の光の精霊魔法、ライトスリープですね」

アルル 「よくまぁ、そんな土壇場で…」

レオン 「シーラさん…酔い治しの魔法ってないんですか〜?」

シーラ 「聞いたことないです…申し訳ありません…」

レオン (死ぬ…酔い死ぬ…気持ち悪い…)

シーラ 「どうしましょう?」

ダイナマイツ 「私が背負おう」

エド 「とりあえず、勇者の山目指そうか?」

アルル 「う、うん…」

俺はダイナマイツさんに背負われて再び一階に降りる。
俺は2度と酒が飲めない気がする…。



コクマー 「おう、もう出るのか?」

レオン (滅茶苦茶元気!? なぜに!?)

コクマーさんはまるで何事もなかったかのようにカウンターに立っていた。
化け物か…?

コクマー 「おう、勇者、大丈夫か?」

シーラ 「レオンさんは、酔ってまして…」

コクマー 「お前…滅茶苦茶酒に弱いな…まぁ、仕方ない、これをやる」

アルル 「これは?」

コクマーさんはなにかを差し出してきた。
アルルが受け取ったがそれは丸薬のようだった。

コクマー 「酔い止め薬だ、即効性があるが完全には治してくれないから、定期的に飲んどけ」

レオン 「ありがと…ござい…ます…」

俺はそれをなんとか受け取って強引に飲み込んだ。

レオン 「すこし…楽になった気がします」

コクマー (いくら即効性っていっても、腹の中で溶けるまで効果ないからそんなすぐに効果が出るはず無いんだけど?)

アルル (ブラセボってやつ?)

レオン 「ダイナマイツさん、もう大丈夫ですから」

ダイナマイツ 「あ、ああ…」

俺はダイナマイツさんに下ろしてもらう。

コクマー 「勇者一行、これからさらに西に向かうんだろ?」

レオン 「ええ」

コクマー 「気をつけな、特に次の街『レイス』にはね」

レオン 「レイス…?」

コクマー 「昔から曰くつきの街だったけどね…最近、神隠しがあの街で流行っているのさ」

ダイナマイツ 「なんと、神隠し?」

コクマー 「まぁ、正確には人間様がやっているだろから人隠しって、行ったところか」
コクマー 「とにかく、あの街は危ない、無用な危険を避けたいなら近寄るな」

レオン 「気に留めておきます」

俺は異様な感じを受け取りながら、この宿屋を出る。
今、危険性は感じないが…不気味さを感じずにはいられない。

レオン 「ねぇ、シーラさん、レイスっていう街はどんな街なんですか?」

シーラ 「レイスは中央と西の国境付近にある街です」
シーラ 「過去に何度も国境戦が行われ、その度にレイスは西側領、中央側領と移ってきました」
シーラ 「そのため、レイスは西側と中央の文化が混ざり合った都市です」
シーラ 「いくつもの戦争の舞台にされたゆえ、いろいろな曰くはあって当然ですが…」

ダイナマイツ 「ちなみに、現在は西側、つまりシン国の領土ということになっていますな」

アルル 「なにか、問題起こされても困るよね〜迂回するの?」

シーラ 「しかし、隣町といえど歩きでは4日はかかります」

エド 「4日…おおよそみんな疲労しているよな…」

これまで俺たちは長旅の中、何回も野宿をしてきた。
しかし、野宿はパーティの疲労を完全にとってはくれない。
必ず誰かが寝ずの番をして、異常があったら起こさないといけない。
体力だけではなく、精神面や魔力の回復も鈍る。
安心できる空間がどうしても旅の中では必要になるのだ。
そう言う意味ではもし次の街レイスを飛ばすとそのまま勇者の山、そして北側の帝国領土とほとんど宿に泊まる機会はなくなってしまう。

レオン 「…ついてから決めよう」

ダイナマイツ 「そうですな…今から話し合うのは早合点ですな」

エド 「ど〜も、やな予感するけどな」

アルル 「同感」

俺たちは多少不安を持ちながら、次の街レイスに向かう。
果たしてそこで待つのは一体何なんだろうか?

レオン (そういえば、あの『デコイ』はなんだったんだ?)

この西側に来ていらい、魔王軍のモンスターと遭遇することはまるでなくなった。
あの、デコイは魔王軍の配下ではない…では、一体なんだったんだろうか?
もしかしたら、何か意味があって俺たちはこの西側に召還されてしまったのか?

答えはわからない…でも、こっちに来たことは意味のあること。
それはたしかだと思えた。



…………。
………。
……。



シーラ 「着きましたね…レイスに」

レオン 「あれが…」

俺たちは小高い丘の上からレイスの街を眺めていた。
レイスの街は西側だというのに瓦屋根ではなく、レンガだった。
どちらかというと中央の方の様式。
街はかなり大きいようで、教会などもある。
とても、不吉な噂の立ちそうな街には見えない。

レオン 「みんな、これからどうする?」

もちろん、これからというのは迂回するかあの街で休むかだ。

アルル 「休みたいけど、神隠しはやだな〜」

エド 「俺もアルルと同じだな…休みたいがな…」

ダイナマイツ 「私は迂回しても問題ないですが、皆さんやはり疲労は目に見えています」

シーラ 「多少危険でも、あの街に一泊するべきかと皆さんの状況を見ると思います」

レオン 「…わかった、今回はシーラさんに従って休もう」
レオン 「噂はあくまで噂だ、神隠しにあうなんてそう高い確率じゃないだろう?」

アルル 「う…わかったよ」

エド 「ま…割りきりゃなんとかなるか…」

俺たちは不安ではあるが、自分たちの身を案じレイスに一泊することにする。
しかし、俺はレイスの街に入ったとき、驚愕せざるをえない。



…………。



エド 「…ど、どういうことだ?」

ダイナマイツ 「誰も…いませんな?」

レオン 「気配が無い…」

レイスの街に入って、5分。
俺たちはことの深刻さに驚愕した。
この街には現在誰もいない。
つまり、無人の街なのである。
外部から見た限りこの街の規模は2000人規模の街だと思ったんだが…。

アルル 「…街の人、全員神隠しにあったってこと?」

シーラ 「わかりません…」

エド 「単に隠れているだけかもしれないぞ?」

レオン 「街の住民全員か?」

ダイナマイツ 「むしろ避難した…というところでしょう…」

シーラ 「しかし、それならなにか勧告くらいありそうなものですが…」

答えがまとまらない。
とどのつまり原因不明ということだ。
正直俺にもさっぱりだ。
一体、街の住民はどこへ行ったというのか?

アルル 「! 宿屋は発見したけど…」

アルルは2階建ての宿屋を発見する。
しかし、無人の今…営業しているとは思えないんだが?

ギィィィ…。

エド 「開いたな?」

エドは宿屋のドアの取っ手を取ると、ドアは簡単に木造特有の軋みを上げて、開く。
中は当然、真っ先にカウンターが見える。
しかし、カウンターには誰も立ってはいない。

シーラ 「……」

リンリーン!

シーラさんは呼び鈴を鳴らすが、しばらく待っても従業員がやってくる様子は無い。

エド 「レオン?」

俺は無言で首を振る。
間違いなく、人はいない。
気配が全くない。

アルル 「どうする? 勝手に部屋借りる?」

エド 「でもまだ昼だぞ?」

ダイナマイツ 「しかし、長居するのは危険…昼間に寝て、夜には出立するべきでは?」

レオン 「俺もダイナマイツさんに同感」

シーラ 「そうですね…誰もいませんし、今のうちに眠って夜に出ましょう」

エド 「…本当に休めるのか?」

ここまで疑心暗鬼になったのは初めてだ。
神隠し…これほど怖い言葉はそうそうないな。
誰にも知られず、謎の失踪をし、決して発見することはできない。
だけど、昔聞いたことがある。
神隠しから帰ってきたものは今度は咎隠しにあうって…。
その咎隠しというのがどういうものなのかは知らない。
だけど、ろくなことではなさそうだ。

エド 「2階の部屋、使っても大丈夫そうだぜ」

シーラ 「4人部屋ですね」

レオン 「例によって、男性組みと女性組みですね」

俺たちは男性組みが階段から手前、女性組みがその隣の奥に眠ることになった。
今日はなるべく早く眠って出来る限り疲労の回復に努めよう…。



…………。



ギギ…ギギィ…ギギィ…。

何かの足音。
とても小さく、人のそれとは違うように思える。
眠りについて2時間。
何かが近づいている。
エドは気付いているか?

ヒュ…ドサッ…。

レオン (!)

なにかが、俺ベットに乗る。
俺はまだ、息を潜めている。
一体…?

? 「!」

レオン 「はぁ!」

直後、殺気が俺に襲い掛かる。
俺は布団を引き剥がしてそれを跳ね除けた。

エド 「一体なんだ!?」

レオン 「誰だ!?」

俺はフランツェを片手に吹っ飛ばして、今は床で倒れている布団の下の何かに問いかけた。
しかし、まるで死んだふりをしているかのようにそれは微動だにしない。
俺はエドとダイナマイツさんにアイコンタクトをかわし、俺はフランツェで布団を引き剥がした。

ダイナマイツ 「? 人形?」

布団の下にいたのは体長30センチくらいの洋風の人形だった。
ただ、手にはカミソリの刃が握られている…。

ドタドタドタドタ!

シーラ 「一体、何事です!?」

アルル 「どったの!?」

騒ぎを聞きつけて、シーラさんたちも来る。
俺は無言で、その人形を指した。

シーラ 「これは…?」

レオン 「いきなり、寝ているところを襲われました」

エド 「カミソリとはえげつない、人形だな…おい」

シーラ 「チャッキー人形がなぜ?」

アルル 「チャッキー? って、呪いの人形でしょ?」

レオン 「呪いの人形だったのか?」

エド 「しかし…呪いってことは…」

なんとなく、みんなの意見がまとまった気がする。
もう、呪いとかでた時点で、間違いなくここは呪われている。
それがどういう理由でかはわからない。

シーラ 「太陽は…そんな!? 沈んでいる!?」

レオン 「!? 嘘だろっ!?」

俺たちがこの街に着いた時はまだ太陽は真上にあり、昼間だった。
にもかかわらず、たった2,3時間寝ただけで、日が沈むはずが無い。
だが、ことはそれより深刻だった。

アルル 「ぞ、ゾンビ…どこから〜…?」

窓から地面を見ると、どこから現われたのか無数のゾンビが現われていた。

ゾンビA 「あ〜…」
ゾンビB 「う〜…」

アルル 「!? きゃ、きゃーっ!!」

突然、部屋の入り口からゾンビ2体が現われる。

レオン 「はぁっ!」
エド 「ふん!」

俺とエドは瞬時にゾンビを切り倒し、部屋の外に出る。

エド 「シーラさんどうするよ!? 久しぶりに絶望的な気がするんだが!?」

シーラ 「教会に行きましょう! あそこなら冥の者は寄れないはず!」

レオン 「はい!」

俺たちは荷物を持つと、宿屋を出て、ゾンビをなぎ倒し(やばくなったらダイナマイツさんのダブルラリアットが炸裂)、教会を眼前と捕らえた。

ガチャ、ガチャガチャ!

レオン 「嘘だろ!? 教会の門が開かない!?」

エド 「て、後ろからゾンビも迫っているのに!?」

シーラ 「く、リムーブカース!」

シーラさんは解呪魔法を門に使う。

ガチャ! ガチャ!

レオン 「駄目だ!? やっぱり開かない!」

シーラ 「そんな!?」

門はやはり、かたくなに拒んでくる。
あせりが冷静な判断をできなくする。
後ろからはゾンビの大群が襲いかかろうとしているのに!

? 「それは呪いじゃないよ」

シーラ 「え!? 誰ですか!?」

レオン 「どこから!?」

? 「そんなことはどうだっていい、それは強力な呪いで潰すんだ、やれるだろう?」

レオン 「呪いって…冥の魔法なんて使えるわけ…」

シーラ 「…解けよ、ネクロノミコン」

アルル 「て、おおっ!?」

シーラさんは突然神器ネクロノミコンを生み出す。
マリス(リーナ)さん以来、久しぶりに見た、その書物は怪しく光り輝いていた。

シーラ 「スペルレイ!」

パリィン!

シーラさんの手元に白い光の魔方陣が収束し、細いレーザーとなって手元から放たれる。
スペルレイはガラスを割ったような音を上げて、門を貫いた。

ギィィ…。

アルル 「あ、開いた!?」

エド 「まさかその魔法って!?」

シーラ 「皆さんの考え通り、スペルレイは呪いを込めた魔法です」
シーラ 「スペルレイはあらゆる魔法防御を貫く、呪いが込められており、くらった者には苦痛と恐怖の呪いをかけるのです…」

エド 「げ…おっかな…」

ダイナマイツ 「とても、僧侶の使う魔法とは思えませんな…」

シーラ 「……」

シーラさんは使った後、いつも暗い顔をする。
使いたくは無い…というか、ネクロノミコンそのもの封印したいといった顔だった。

レオン 「行こう! 教会なら安全なんだろう!?」

俺はシーラさんを引っ張りつつ、全速力で教会に駆け込む。



レオン 「はぁ…はぁ!」

アルル 「これで、なんとか…」

俺たちは教会にたどり着き、一息つく。
たく…冗談じゃないな。

シーラ 「さぁ…出てきてください、私たちに助言をくれた人よ」

デコイ 「『人』…ジャナインダケドネ、残念ナガラ…」

エド 「!? お前は!?」

ダイナマイツ 「あの時、私を西側に飛ばした!?」

突然、空中からデコイが降りてきた。
以前と変わらない姿、一体、こいつはなんなんだろうか?

デコイ 「構エナイデヨ、敵ジャナイカラサ」

エド 「信用できるか!」

シーラ 「いえ、事実でしょう、それよりこの事態を教えてくれませんか?」
シーラ 「恐らく、ここに来るようあなたが仕組んだのでしょう?」

デコイ 「話ガワカルネ、ソノ通リ!」

シーラ 「恐らく、あなたがどうしようもない事態だから、我々を呼んだのでしょう…用件は何ですか?」

デコイ 「イヤ〜…恐レイッタネ、ソコマデ見抜イテイタトハ…」
デコイ 「コレカラ言ウコトハ簡単、コノ現象ハトアルねくろまんさーガ起コシテイル」

レオン 「ネクロマンサー?」

エド 「死霊使いだよ…冥の力を極めている…成る程な…」

ネクロマンサー…そんな奴が街をあんなにしたっていうのか…。

デコイ 「ソノねくろまんさーノ力ハ強大デ、トテモ太刀打チ出来ナイ…」
デコイ 「ソコデ、光ノ力ヲ持ツ、勇者トソノ一行ヲ呼ンダノサ!」

ダイナマイツ 「しかし、それだと私は…?」

デコイ 「アンタハ単純ニ強イカラ!」

ダイナマイツ 「……」

レオン (たしかに、ダイナマイツさんは馬鹿強いわなぁ〜…)

しかし、ネクロマンサーか…一体どこにいるのか?
この街にいるとしても、そう簡単に見つかるものじゃ…。

シーラ 「レオンさん、ネクロマンサーはあくまで職業です、扱うのは恐らく人間」
シーラ 「この街にいるのは恐らくほとんどがゾンビやゴーストといったところでしょう」
シーラ 「わかりませんか? 私たち以外の人の気配?」

レオン 「気配…」

俺は意識を研ぎ澄ます。
しかし、いくら俺の気配察知能力が優れているとはいえ…街全体は…。

レオン 「!? 教会のドアの前だ! みんな!」

アルル 「てぇ! 先手必勝! ファイアーボール!」

ゴォウ! ズドォン!

レオン 「! 動いた! 噴水の方に向かっている!」

エド 「おし! 追うぞ!」

ダイナマイツ 「悪党は許すべからず!」

俺たちは急いでネクロマンサーの気配を追う。


シーラ 「……」

デコイ 「追ワナイノカイ?」

シーラ 「あなた…何者ですか?」

私は追わずに教会にいた。
このデコイが気になる。

デコイ 「タダノシガナイでこいサ」

シーラ「いいえ、違います、あなたはもっと大きな存在のはず…あなたは…」

デコイ 「しーら、コレカラ戦イハヨリ厳シクナル…ねくろのみこんヲ隠スナ…」

シーラ 「!? それはどういう!?」

デコイ 「ねくろのみこんノ力ハ必ズ、必要ニナル」
デコイ 「強大過ギル力ダガ…扱エルノハしーら一人…」

シーラ 「しかし…私にはネクロノミコンの声が聞こえません…昔は聞こえたのに、今はネクロノミコンの声が…」

神器にはふたつの特徴がある。
ひとつは特殊な能力。
フランツェの貫通や、ラグナロクの衝撃のような。
ネクロノミコンの能力は誕生と終焉。
全ての始まりを創り、そして全ての終焉を見届ける。

そして、もうひとつの特徴が人格。
神器には精神が眠り、所持者はその声を聞くことができる。

デコイ 「聞コウトシナサイ…アナタハ聞コエルハズ…」

シーラ 「え?」

デコイ 「サァ! 早クねくろまんさーヲ追ワナイト!」



…………。



レオン 「左! アルル!」

アルル 「ファイヤートーネード!」

ゴォォォォォ!!

ネクロマンサー 「!?」

俺たちはネクロマンサーを追い詰めていた。
ネクロマンサーは漆黒のロープに身を包み、その正体はほとんどわからない。
かなり軽快に動き、老人とかじゃなさそうだった。

エド 「邪魔だー!」

ダイナマイツ 「ぬぅぅっ!!」

エドとダイナマイツさんは周りのゾンビを倒していく。
俺はネクロマンサーを睨みつけ、フランツェを構える。

ネクロマンサー 「やるな…勇者よ」

レオン 「何者だ、お前は!? なぜこんなことをする!?」

ネクロマンサー 「ふ、私はジャグマオン」
ジャグマオン 「私はここで実験を行っていた…死者の世界と交信し、その力を手にするな!」

レオン 「死者の世界と交信だと?」

ジャグマオン 「不可能だと思うか? 現に私はこれほど多くのゾンビを扱っているのだぞ?」

アルル 「死者の魂をもてあそぶなんて…!」

デコイ 「下劣以外ナンデモナイネ」

ジャグマオン 「! デコイ?」

デコイ 「コレ以上、禁忌ヲ犯スノナラ、冥府ヘ送ルヨ?」

ジャグマオン 「ふん! 人形風情が! くらえ、ヘルファイヤー!」

レオン 「!?」

突然、黒い炎がジャグマオンの手から放たれ、デコイに引火する。

ジャグマオン 「はーはっは! 全て焼き張れってくれる!」

デコイ 「ヤレヤレ…オイタガ過ギルネ…」

ジャグマオン 「なにっ!?」

レオン 「え?」

シーラ 「これは!?」

デコイはたしかに焼け落ちる。
しかし、その下からは一人の女性が姿を現した…。

ジャグマオン 「貴様…一体!?」

デコイ? 「ディース、一般的にはプルートとして知られているかね?」

ディースと名乗る女性。
青緑色の長い髪が腰まで伸びていて、鋭い目は青色に輝いていた。
まるでナイトのような格好だが、材質不明の謎の黒い鎧に身を包み、下は長めのスカート。
身長は170ほどあるようだった。

シーラ 「プルート…? まさか! あの冥府の神!?」

ディース 「あんたが、外界からいじくり過ぎたせいで、私がでしゃばらないといけなくなっちまったんだよね…」
ディース 「神に喧嘩売ったこと、後悔させてやるよ」

ジャグマオン 「ディース…馬鹿な…冥府の神が姿を現すなど…」

ディース 「ヘルファイヤー…それが人間限界だろうさ、なら神の魔法をみせてやるよ」
ディース 「ヘル…ブレイズ!」

ゴォォォォォッ!!

ジャグマオン 「ひ、ヒヤァァァァァァッ!?」

ジャグマオンは紫色の炎の渦に包まれてしまう。

ディース 「すぐには死なないさ、苦しみながら死にな」

ジャグマオン 「そ、そんな馬鹿な…馬鹿なぁ…」

ジャグマオンは全身大火傷を負っていた。
だが、殺すには至っていない。
これは即死するよりある意味残酷に見えた。
全身重度の火傷を負い、それで留められるなんて…。

ジャグマオン 「わ、私は…私は…チギャッ!?」

グチャリ!

肉が潰される生々しい音。
シーラさんだ。
シーラさんがジャグマオンにトドメを差したのだ。

シーラ 「見苦しいです、そのまま、カイーナにでも逝ってください」

ディース 「やれやれ…こっちは後片付けが大変だよ」
ディース 「これだけ、死霊をよぶなんてねぇ…全部連れ帰らないといけないってのに」

シーラ 「死者たちよ…どうか、天へ召されてください…」

ディース 「…手伝いは無用だよ?」

シーラ 「いえ、ここにずっといるのは可哀相に思えただけです」

ディース 「…シーラ、ネクロノミコンはあんたを求めている…必ず、必要になるよ」

シーラ 「……」

レオン 「…太陽が戻ってきた…?」

やがて、太陽は戻ってくる。
しかし、時間は過ぎており、すでに夕刻。
ディース様は死霊を全て送り返す頃にはすでに夜になっていた。

ディース 「やれやれ、じゃ私は冥府に帰るよ?」

レオン 「ええ、どうもすいませんでした」

ディース 「はは、謝ることはないよ、あんたの性じゃない」
ディース 「それより、これからの旅、頑張るんだよ」

レオン 「はい!」

ディース 「じゃあね」

ディース様は最後にそう言って、光に包まれて消えていった。
その様は神々しくも見える。

レオン 「俺たちも行こうか?」

アルル 「うん!」
エド 「おう!」
シーラ 「はい」

ダイナマイツ 「すまないが、勇者一行、私は一旦中央に戻ろうと思う」
ダイナマイツ 「申し訳ないが、ここでお別れだ」

レオン 「そうですか」

アルル 「おじちゃんがいなくなると…寂しいね…」

ダイナマイツ 「はっはっは! またいつか助けに行く! 約束するぞ!」

レオン 「ええ、またいつか!」

ダイナマイツ 「うむ! 勇者一行に御武運を!」

ダイナマイツさんは中央ゴルガ荒野の方面に向かう。
俺たちは山岳地帯に入り、聖歌の谷へと入ることとなる。
俺たちの旅は…まだまだ続く!








To be continued



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