勇者と魔王〜嗚呼、魔王も辛いよ…〜




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第26話 『分岐路』





ルーヴィス 「……」

北側のとある遺跡。
相当古く、いつの時代からあるのかさえ明確ではない。
老朽化は激しく、いたるところの石柱は折れ、天井は抜け落ちているところも多い。
俺はそんな古代遺跡の奥へと進んでいく。

ガラ…。

ルーヴィス 「あった…これだ」

俺は遺跡の奥である目当ての物を見つける。
ヒエログリフの欠片。
神々の時代を記した、断片だ。
俺は遺跡でヒエログリフを発見する。
神魔大戦の時代を知るにはこれしかないからな。

? 「誰ですか?」

ルーヴィス 「!?」

突然、後ろから声をかけられる。

ルーヴィス 「お前は?」

後ろにいたのは俺より身長の低い仮面とロープで全身を隠した謎の人物だった。
見た目からは種族が全くわからない。
わかるとすれば声か…男の声だった。

? 「…デス?」

ルーヴィス 「? お前は誰だと聞いている」

? 「失礼、私はパランス」

ルーヴィス 「パランス?」

聞いたことがある名だな。
たしか、アビスの構成員の中にその名があった。
とすると、こいつがアビス?

パランス 「あなたこそ誰なのです?」

ルーヴィス 「ルーヴィス、ヒエログリフを探す、トレジャーハンターだ」

パランス 「ヒエログリフ? そんな物を探してどうするのです、デス」

ルーヴィス 「誰と間違えているのかは知らないが、俺はルーヴィス、そして価値は作るものだ」

パランス 「…まぁ、いいでしょう」

ルーヴィス 「…あんた、ここのことには詳しいのか?」

パランス 「ええ、あなたよりは」

ルーヴィス 「だったら、このヒエログリフを他に見かけなかったか?」

俺は手っ取り早く、こいつに聞いてみる。
こいつからは悪意は感じない。
むしろ、なにか懐かしいものさえ感じるようだった。

パランス 「いえ、恐らくそれが最後ですよ」

ルーヴィス 「最後?」

パランス 「他の人がみんな持っていったんですよ」

ルーヴィス 「…そうか」

それは仕方がないのかもしれない。
これほど古い遺跡だ、探しに来るのは俺だけじゃないだろう。

ルーヴィス 「邪魔した…もう帰る」

パランス 「ええ…」

俺はそう言って、遺跡を去ろうとする。
だが、一歩踏みとどまって俺は振り返り。

ルーヴィス 「あんた、どこかで会ったことはあるか?」

パランス 「あなたこそ、私を知っているのでは?」

ルーヴィス 「……」

俺はパランスを睨みつける。
向こうは仮面を被っているので表情はわからない。

ルーヴィス 「…さようなら」

俺はそう言って、遺跡を去るのだった。

ルーヴィス (何故だ? 何故あの男が気になる?)

俺の記憶にないなにか。
なにかが俺にささやきかけているようだった。



…………。



『その頃、魔王城に向かう、ルシファー』


ルシファー 「なんということだ…やはりアビスの構成メンバーは全て…」
ルシファー 「サタンにも知らせなければ…私の調べではあの男は…」

私は全速力で魔王城に向かっていた。
あれから私はアビスを調べ続けた。
そんな中あることに気付く。
これは、サタンにも知らせる必要があった。



……………。



サタン 「今日もいい天気〜」

俺は魔王城のテラスから外の景色を眺めた。
快晴、快晴♪

サタン 「メビウス!」

メビウス 「なんでしょうか、サタン様?」

俺は使い魔のメビウスを呼ぶ。

サタン 「勇者一行の動向は?」

メビウス 「西側で再確認、現在聖歌の谷に向かっています」

サタン 「聖歌の谷…セイレーン様のいる場所か」

メビウス 「あの方は平和主義者ですからね、ご助力はお借りできないでしょうね」

サタン 「仕方あるまい、争いを好まぬお方だ」

メビウス 「だれか刺客を…ん?」

サタン 「どうした…ん?」

突然、メビウスがテラスの向こうの空を見る。
俺も振り返って見てみるが、何かがこっちに近づいてきていた。
て、ありゃ…。

バサバサッ!

ルシファー 「サタン!」

サタン 「ルシファー! どうした、そんなに急いで」

なんと、テラスから入ってきたのは親友のルシファーだった。
なにやらいつもと違い、随分焦っているように思えた。

ルシファー 「大変だ、サタン…アビスについて、わかったことがある」

サタン 「アビスについてだと?」

なんと、ルシファーはアビスについてわかったことがあると言う。
しかし、それ自体は信じるが、どうしてこんなに急いでいたのか?

ルシファー 「まず、これまで確認されていたのはフール、マジック、チャリッツ、ムーン、パランス、ファント」

サタン 「ああ、恐らくタロットカードと同じ数いるのだろうな」

ルシファー 「そして、このうち身元が判明しているのはチャリッツの元聖騎士団カミルとムーンの元勇者エドワウ」

サタン 「……」

ルシファー 「調べていくうち、更にわかったんだが、マジックは元魔女のアル」
ルシファー 「ファントは元錬金術師見習いのトライアと判明した」

サタン 「…その共通点、まさか!」

俺はルシファーが教えた名前から共通点を見出す。

サタン 「全て死人の名前ではないのか!?」

ルシファー 「そう、全て死んでいる、それも全て死に方が普通じゃない」
ルシファー 「カミルは任務中ブラッドプリンに襲われ死亡、エドワウは僧侶シーラ、いやネウロによって惨殺」
ルシファー 「アルは魔法の暴走で死亡、トライアは錬金術の失敗で跡形も残らなかった」

サタン 「しかし、一体どういうことだ、あれが死人とはとても思えない…まるで生きているようだったぞ?」

ルシファー 「それは僕もわかっている…だから仮説を立てた、あれは心臓は動いていないんだと」
ルシファー 「ゾンビと一緒だよ、ただ、なにかが違う…」

サタン 「ゾンビと一緒?」

脈がない…でも、体温はある?

サタン (!? これって…!?)

俺は自分の身内の中に該当者を発見する。
まさか…ルシファーが急いだのは!?

ルシファー 「さて、ここからが本題だ」
ルシファー 「君のところにルーヴィスという人族がいるはずだ」

サタン 「あ、ああ…」

ルシファー 「おかしいんだよ…ルーヴィスという人物は4年前に『死んでいる』んだよ」

サタン 「馬鹿な!? あれほどの人物が!?」

ルシファー 「事実さ、4年前、ルーヴィスがシーザーと出会った後、盗賊に殺されている」
ルシファー 「目撃者は殺した盗賊だけでね、この情報を手に入れるのは苦労したよ」

サタン 「…では、今いるルーヴィスは何者なのだ!?」

ルシファー 「もう、わかっているだろう…あれはルーヴィスだが死人だ」
ルシファー 「君なら、彼の体のことは知っているんじゃないのかい?」

サタン 「!」

知っている…ルーヴィスに脈がないことは。
だが、体温は平熱どおりあるのだ。
第一、物も食べるし、怪我もする…あれのどこがゾンビだという!?

ルシファー 「彼は恐らくアビスの一員だ」
ルシファー 「この世には死人を不完全に蘇らせて、何かをしでかそうとしている者がいるんだ!」
ルシファー 「彼はこちらが身柄を確保するよ、サタン!」

サタン 「ま、待ってくれ!」

ルシファーは俺を押しのけ、中に入ろうとする。
俺はそれを止める。

ルシファー 「サタン、もしルーヴィスがアビスの構成員だったら君が危険だ」
ルシファー 「アンダインが襲われたように、君はアビスから狙われる立場なんだ」
ルシファー 「理解してくれ、あれはイレギュラーなんだ!」

サタン 「違う! ルーヴィスは我が魔王軍の一員だ!」
サタン 「たとえ、『監査官』でもルーヴィスは渡せん!」

ルシファー 「サタン…わかった…だったら私は!」

サタン 「!?」

ルシファー 「ラグナロク!」

ブォン!

サタン 「くっ!?」

ルシファーは空間からラグナロクを引き抜いて、俺に振るってくる。
俺はルシファーの行動に気付いて、素早くルシファーの斬撃を回避する。

ルシファー 「力ずくでもルーヴィスは連れて行くよ!」

サタン 「させるかぁ!!」

俺は愛剣のディアボロスがない。
だが、ここで退くわけにはいかない!

サタン 「ダークブリッド!」

俺は闇の弾を散弾銃のようにルシファーに放つ。
しかし、ルシファーはそれをラグナロクの一薙ぎで消滅させた。

サタン 「てぇ!」

ルシファー 「くっ!?」

俺はルシファーの腹部を蹴りつける。
ルシファーは吹き飛ばされ魔王城の壁にたたきつけられた。

ドカァ!

アンダイン 「な、何事!?」

シーザー 「敵襲ですか!?」

異常な音に魔王城にいる者たちがここに集まりだす。
その中にはルーヴィスも…。

ルシファー 「く…? ルーヴィス…」

ルーヴィス 「これは…どういうことだ?」

サタン 「ルーヴィス…」

ルシファー 「丁度いい、よく聞きなさいルーヴィス」

サタン 「! 待てルシファー!」

俺はルシファーを止めようとする。
しかし。

ルシファー 「あなたはアビスです」

ルーヴィス 「!?」

アンダイン 「ど、どういうことよ!」

シーザー 「馬鹿な…ルーヴィス殿が?」

サタン 「くっ!」

ルーヴィスは心底驚いたような顔をする。
まだ、確定もしていないのに確信を着いたようなことを!

サタン 「でたらめを言うな、ルシファー!!」

ルシファー 「でたらめなものか! 事実彼は4年前に死んでいるのだぞ!!」

シーザー 「4年前に…死んで?」

ルーヴィス 「!!」
ルーヴィス 「デス…そうか、そういうことか」

サタン 「ル、ルーヴィス…?」

ルーヴィス 「俺は…デス、そう言うことか…知っているはずだ、あの男をパランスを…」
ルーヴィス 「は…はは…ははははははっ!」

ルーヴィスは一人その場で高笑いする。
何かがルーヴィスを納得させたようだが…。

ルーヴィス 「そういうことか、俺がヒエログリフを探すようになったのは4年前…」
ルーヴィス 「俺は失った何かを取り戻すためヒエログリフを探していたのか…」

ルシファー 「あなたが、アビスということは認めるのですか?」

ルーヴィス 「パランスは俺がデスだといった…恐らくそう言うことだろう、自分の体がどういう事態なのかは知っている」
ルーヴィス 「おかしいとは思ったさ…だが、まさか自分がアビスだとはな…ははは」

ルーヴィスはあまりのことに頭がおかしくなったのかひたすら笑っている。
デスだと…ルーヴィスは13番目?

ルーヴィス 「正直、アビスとしての記憶は皆無だ…だが、パランスに何か感じたのも事実、恐らく間違いないだろうな」

ルシファー 「ルーヴィス、あなたは我々異端審問会が身柄を拘束します」

ルーヴィス 「拘束…か」

ルシファー 「悪くは思わないでください、アビスである以上は仕方のないことなのです」

ルーヴィス 「ふ…あははは…!」

サタン 「ルーヴィス?」

ルーヴィス 「やってみるか!? 監査官! 俺はただでは掴まらんぞ!?」

ルシファー 「勝てると思いか!」

ルーヴィスは不適な笑みを浮かべて槍を構える。
ルシファーはラグナロクをもってルーヴィスに切りかかる。

ルシファー 「たぁ!」

キィン!

ルーヴィス 「はぁっ!」

しかし、ルーヴィスはルシファーを力で押し返す。

ルシファー 「ちぃ…光の精霊よ、破壊の矢となりて…」

ルーヴィス 「ふん!」

ヴォン!

ルシファーは精霊魔法を唱え、魔法を放とうとする。
しかし、ルーヴィスは槍をその場で一振りすると…。

ルシファー 「!? マナが…光の精霊力がなくなった!?」

ルーヴィス 「俺はデス、その能力は全ての物に死を与える!」
ルーヴィス 「この辺りのマナは死んだ! もう魔法は使えない…」

ルシファー 「それが、アビスとしての能力ということですか…」

ルーヴィス 「悪いな…ルシファーさん、俺はまだ自分を見つけてはいない」
ルーヴィス 「俺は自分を見つけるまで、掴まるわけにはいかないんだ、アビスにも!」
ルーヴィス 「俺は誰にも縛られない、俺は魔王軍のルーヴィスだ!」

ルシファー 「……」

サタン 「ルシファー、もう去ってくれ」
サタン 「ルーヴィスは俺が必ず責任を持つ」

ルシファー 「この場は不利です、だから退きます」
ルシファー 「ですがその力は必ず不幸を呼ぶ…」

ルシファーはそう言って、ラグナロクを収め、テラスに向かった。
そして、羽を広げてルシファーは飛び去ってしまう。

サタン 「ルーヴィス…」

俺はルーヴィスの方と向く。

ルーヴィス 「すまない、サタン…俺はアビスとしての自分も人間としての自分も見つけられていない」
ルーヴィス 「怪しいと思うのも無理はないと思う…だが…」

サタン 「ルーヴィス!」

ルーヴィス 「!?」

サタン 「…勝負だ」

ルーヴィス 「…勝負?」

サタン 「今日こそ、お前に将棋で勝つ! さぁ談話室行くぞ!」

ルーヴィス 「お、おい!?」

俺はルーヴィスを引っ張って談話室に連れて行く。

サタン 「ルーヴィス、俺はお前を敵だとは思ってはいない」
サタン 「お前にその気があるのなら、この魔王城で働け!」

ルーヴィス 「! ああ…そうさせてもらう」



…………。



『一方、勇者一向』


アルル 「あれが、聖歌の谷…」

レオン 「……」

俺たちは聖歌の谷を目前にしていた。
俺は空を見上げる。
空は晴れている…悲しい位に。

レオン (なんでだろう…なにか、悲しいことが起きている気がする…)









To be continued



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