勇者と魔王〜嗚呼、魔王も辛いよ…〜




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第29話 『聖騎士』





『沈黙の森』


沈黙の森…沈黙の森はその名のとおり、とても静かな森である。
まるで生物がいないのではと思うほどのその静けさは、とある神への貢であった。

? 「メドゥーサおば様〜!」

ドカァ!

? 「あきゃ!?」

私はメドゥーサ様を見捕らえ、近づくとつい、本音を言ってしまう。
しかしすると、メドゥーサ様の綺麗な二の腕の拳骨を浴びる羽目になった。
うぅ…つい、禁句を言っちゃった…。

メドゥーサ 「せめてお姉さまといいな! だれがおば様だい!」

さて、このメドゥーサという女性は神、メドゥーサのことだ。
地方によって呼び方は違うがメドーサ、メドューサなど基本的に呼び方は似ている。
その姿はとても美しい姿で綺麗に整った大人の顔立ち、髪はとても長く腰まで伸びていた。
しかし、一度姿を豹変させると髪は全て毒蛇へと姿を変え、右手は青銅となり、背中から黄金の翼が生え、足は蛇の様になる。
そして、もっとも恐ろしいのはその時、彼女の瞳を見たものは魂まで石へと変えてしまう。

メドゥーサ 「リリス〜、あたしゃ神だよ? あんたらとは年齢の計り方は違うんだよ! これでもピッチピッチだよ!?」

リリス 「え〜? 私の方が受けがいいですよ〜♪」

メドゥーサ 「だまらっしゃいウシャシャイ!」

リリス (ウシャシャイ?)
リリス 「て、そうだそうだ! 勇者様勇者様! 勇者様がもうすぐ来るってセイレーン様が言ってましたよ?」

メドゥーサ 「なに? そうかい…ついにその時が着てしまったか…」

リリス 「ねぇ? 本当に神様が勇魔大戦に干渉するんですか…?」

メドゥーサ 「これは試練だよ…そして、『黒の巫女』を守ることになる…」

リリス 「私を…?」

『黒の巫女』。
かつて神魔大戦において、生きながら最終兵器といわれた存在。
黒の巫女とは禁断の魔法アルティマを解放できる存在で、10周期に一度、この世に『白の巫女』と呼ばれる者と遂になってこの世界に現れる。
巫女は血では継承されず、賢者たちと同様、運命の中不特定多数の中から2人だけ生まれる。
それは賢者同様判別は出来ず、また常に存在し続ける賢者と違い、10周期という曖昧な流れの中から排出されるため、実質発見されないことも多い。

しかし、巫女には少し不思議な特徴がある。
誰にも学ばないのに、物心付いた頃にはすでに魔法が使えるという特徴がある。
そう、このリリスは誰に学んだわけでもない、にもかかわらず闇の魔法を生まれた時から使いこなしてきた。

メドゥーサ 「さ、じゃあ勇者一行を迎える準備をしようか…リリス…離れてな!」

そう言ってメドゥーサ様は姿を豹変させていく。

メドゥーサ 「あたしの目ぇ…見るんじゃないよ…危険だからね」

リリス 「はい…」



…………。



『一方…勇者一行』


アルル 「…なんか、ヤだなぁ…森なのに静かなのって…」

レオン 「まぁ…沈黙の森ってくらいだからな…」

エド 「そんなに大きな森じゃない…昨日は足止めくらっちまったが、もう午前中には森は抜けるさ」

シーラ 「抜けた先に待っているのは…勇者の山ですね」

レオン (勇者の山)

勇者の山…由来は初代勇者、ノア・サーディアスがこの山の頂に上ったとき、魔王城が見えたとされることから由来される。
初代勇者が見て以来、これまで幾多もの勇者たちが、この勇者の山の頂を目指してきた。
そして、遂に俺達も…。

ガサ…!

レオン 「!? 前方に誰かいる!?」

エド 「敵か!?」

突然、草むらの中を動く足音が正面から聞こえた。
相手は恐らく一人…問題は…。

アルル 「ま…魔王軍!?」

シーラ 「わかりません…遠いようですし」

レオン 「注意はしておこう」

俺達は臨戦態勢になりながら、徐々に前へと進む。
やがて、うっすらとそのシルエットが見えてきたときには。

エド 「…? 髪の毛が動いている? それに翼に蛇の足?」
エド 「!? やばいあれはメドゥーサだ!! 見るなっ!!」

レオン 「え…? !? な…!? か…らだ…が!?」

ピキピキピキ…!

シーラ 「しま…ゴルゴン…三…し…まい…」

アルル 「からだが…い…石に…な…」

エド 「レオン! シーラさん! アルルーッ!!」
エド (くっ! なんてこった!? あれは間違いなく神族のメドゥーサだ!)

俺は咄嗟に目を瞑ったので難を逃れたが、仲間たちはみんな石化してしまった。
メドゥーサの瞳は魔眼であり、見たものを石にするという伝説は本物だったか!

メドゥーサ 「ふふふ…運がよかったねぇ…アンタだけ助かったわけだ」

突然、近くから女の声が聞こえる。
多分メドゥーサだ、まずい…このままではやられる!?

エド 「くそ! アンタ神族だろ!? なんで俺達の邪魔をするんだよ!?」

メドゥーサ 「こいつは試練だよ…セイレーンが言ってなかった?」

エド 「!? 試練…これのことかよ!?」

セイレーン様の言っていたことって…グルだったわけ!?

メドゥーサ 「ふふ…もう目を開けて大丈夫だよ」

エド 「! そ、そう言って俺も石に変える気か!?」

メドゥーサ 「やれやれ…用心深いね…じゃあ、用件だけ言ってあげるわ」
メドゥーサ 「この先にある勇者の山にね、石化を解く聖水があるわ…それをビンに入れて彼らにかければ元に戻るわ」
メドゥーサ 「ただし、一度勇者の山に入ってから出てきたら、容赦なくアンタを襲う…まぁ、勇者の山を上りながらあたしの攻略法でも考えな」
メドゥーサ 「もっとも…逃げ出したっていいんだけどねぇ…臆病風に吹かされて」

…それっきり、何も聞こえなくなる。
メドゥーサはいなくなったのか?

エド 「くそ…臆病風だと…!? 逃げるわけねぇだろうが…!」

俺は目を開け、周りを見渡す。

エド 「くそ…行ってやろうじゃねぇか…勇者の山に!」

嘘か真か、勇者の山に石化を解く、聖水があるそうだ。
取りにいかない訳にはいかないだろう。
俺だけじゃ勇者一行にならないからな。



…………。



エド 「で…来ちまったわけだが…でかいな…どこにあるんだ?」

リリス 「山の中腹」

エド 「は? !? 魔族!?」


リリス 「ちょ、ちょっと〜…構えないでよぉ〜」

なんと、気がついたら真後ろに魔族の女の子がいた。
魔族特有の金髪をセミロングでちょっと毛先に丸みをつけており、ちょっと変わった髪形だった。
顔は幼く、人間に直すと16歳くらいだろうか?
モチロン魔族だから、人間と同じ年齢換算は通用しないだろうが…。

リリス 「勇者の山の中腹にね、頂を目指す道とは別に、わき道にそれるルートがあるの」
リリス 「その先に聖水の湧く井戸があるから、そこから取ってくればいいわ」
リリス 「だけど、気をつけて勇者の山は別名試練の山…あなたには、起こって欲しくない何かが起きるわ」

エド 「? 起こって欲しくない何か?」

リリス 「過去を見せるの…感じ方は人それぞれだろうけど…」

エド 「どんな過去だって向き合ってやるさ…」

俺は気合を入れて、ロングソードを握りなおす。
いい加減使い古して、ボロボロのロングソードだ。
勇者の山を越えたらシーラさんに相談して、新調するか?
少なくとも、黒羽の虎鉄に比べて、あまりの攻撃力の違いに泣けてきたからな…。

エド 「よし! 行くか! あっと、そうだ…あんた一体何者なんだ?」

リリス 「単なる、お節介♪ 頑張ってね、勇者様♪」

エド 「え…? あ、いや…俺は勇者じゃないんだが…」

リリス 「え!? そうなの…? てっきり私、あなたが勇者かと…」

エド 「まぁ…悪い気分じゃないけどな…」
エド 「なりきり勇者エドワード、いざ出発!」

俺はちょっとかっこつけつつも、勇者の山を地道に登り始めるのだった。



…………。



『同日 同時刻 場所:?????』


チャリッツ 「……」

パランス 「おや? どうしましたチャリッツさん? いつになくしんみりしていますね?」

チャリッツ 「…そんなことは無い、それより仮面を被っているのにわかるのか?」

パランス 「雰囲気で察しますよ、それに私は節制、みなさんの状況を管理するものですからね?」

チャリッツ 「…少し、出かけてくる」

パランス 「そうですか? 今、『白の巫女』が判明しかけています、判明次第我々も動き出します、早めに帰ってきてくださいね?」

チャリッツ 「了解した…」



…………。



ビュオオオオオオ…!

エド 「…く!? 今のは吹き飛ばされそうだったぜ?」

俺は勇者の山を登って3時間。
結構な高さまで登ってきた、そろそろ中腹だろうか?

エド (改めて一人で戦うことの辛さがわかるな…)

俺は攻撃魔法も回復魔法も使えない。
それ故、単体で山を登っていると、度々襲い掛かってくるモンスターたちに存外苦労する。
特にきついのは、空を飛ぶ上、雷の魔法も使いこなすブリッツレイブン、そして馬鹿でかい上、炎の息吹を放つ火竜草。
一人では御しきれず、度々逃げることもあった。

エド 「…霧が出てきた?」

不思議なことに、突然俺は霧に包まれていた。
まずいな…このままじゃ足場を踏み外して山から転落しかねない。
なんとか、注意深く進むしかないか…。

エド 「…!? 霧が…晴れる…!?」

細心の注意を払いながら、ある程度進むと突然霧が嘘の様に晴れた。
しかし、その時俺の目の前にあったのは…。

エド 「う…そ…だ…ろ?」

俺の目の前に広がっていたのは城下町だった。
晴れた空、雲ひとつ無く快晴…だが、人っ子一人いない。

エド 「城塞都市ロドニア…?」

それは、俺も知っている街だった。
城塞都市ロドニア…だけど、ここは…?

エド 「!? あれは…!?」

俺は街の奥で、ある光景を目の当たりにした。



カミル 「住民の避難は終えました、隊長」

カミルだ…聖騎士団服に身を包み、聖剣を手に持つ若き天才。

隊長 「うむ、第12班は第3区画の捜査だ」

カミル 「了解」
エド 「了解」

そして、もうひとり、まだ聖騎士団に入団したばかりで、なれない服に戸惑いを覚える俺…。
これは…過去の俺…?

エド 「き、緊張するな…」

カミル 「大丈夫だって…お前も自分で考えているよりはやるやつだって!」

エド 「そ、そんなことねぇよ! カミルは若くして瞬歩もマスターし、様々な剣技を使いこなし、次期聖騎士団隊長候補といわれる存在」
エド 「かたや俺は、ギリギリで試験に合格した、落ちこぼれ聖騎士だよ…出世もまず見込めない」

カミル 「そっかなぁ? 俺はエドには才能あると思うぜ? ただ出世は間違いなく無理だな! あっはっは!」

エド 「わ…笑うなよ! 結構真剣に悩んでるんだぜ!? …どうせ運で聖騎士団なれた、出来損ないだ…あ〜あ、こんなことなら宿屋の主人にでもなるんだったなぁ…」

カミル 「お前って宿屋の跡取りだったっけ?」

エド 「いや、武器屋の!」

カミル 「じゃ、どだい無理じゃないか…」

エド 「そんなことは無いさ…まぁ、カミルは騎士の跡取り、腕も容姿も抜群…なにも心配することないもんなぁ…」

カミル 「そう、ひがむなって! 今回の仕事が終わったら、飯でも食おうぜ!?」

エド 「モチロン、カミルの驕りだろうな?」

カミル 「ちゃっかりしやがって…いいぜ!」



1年前…俺とカミルは城塞都市ロドニアで聖騎士団団員として初任務に付くこととなった。
後に沈黙の惨劇と呼ばれた事件…たった一人の団員の逃亡のせいで、部隊は全滅、聖騎士団の輝かしき実績を粉々に砕いた。



エド 「ブラッドプリンって…アレだよな? 生物を喰って巨大化するアメーバみたいなモンスター」

カミル 「そう、人工的に創られた魔物だな、最初は蟻んこのようなサイズだったが、ウィルスを食い、バクテリアを食い、ミジンコを喰い、そして鼠を食い…」
カミル 「放っておけば、どんどん巨大化する化け物だ…」

エド 「俺らの手に負えるのかよ?」

カミル 「物理的攻撃は通用しにくいからな」

エド 「俺、魔法なんてまだ学んでないぜ?」

カミル 「心配しなくても、お前は才能なんてない!」
カミル 「お前も知っているとは思うが、この手袋の甲には魔石をはめることができる」

エド 「ああ…渡されたのは光の魔石だったな…でも、どうやって使うんだ? そこまでは教えてもらってないぞ?」

カミル 「通常人間が使うのは精霊魔法、だけど俺達聖騎士は魔石を介することで魔族同様の魔法を使うんだ」

エド 「あの、詠唱無しでぶっぱなすアレだな」

カミル 「そう、ただし魔石は使い捨てだ、注意して使わないといけないな」

エド 「…て、だから使い方知らないっつうの!」

カミル 「あっはっは! 魔術の素養のある人物に詳しくは聞け! 俺も詳しくは知らないからな…」

エド 「一体どうする気なんだろうな?」

カミル 「この手袋には、他者に魔力を補充できるのは知っているよな?」

エド 「え? そうなのか?」

カミル 「ヲイ…本当になにも知らないのか?」

エド 「だから、色々聞いてるんだろうが…」

カミル 「はぁ…いいか? 右手の手袋に魔石をはめると右手からは攻撃の理力を引き出せる」
カミル 「逆に左手の手袋に魔石をはめると左手から防御の理力を引き出せる」
カミル 「ここまでは手袋に備えられた魔力増幅機能の一環だ」

エド 「ふむ…右は攻撃、左は防御」

カミル 「次に、手袋を介して魔石から魔力を他者へと譲る機能がある」
カミル 「結構便利な能力だから覚えとけよ? そんじゃ一応任務のおさらいもしとくか」

エド 「えっと、ブラッドプリンを発見したら、対象を広場へと誘導…」

カミル 「で、そこで隊長自ら、トドメ」

エド 「隊長…魔法で倒すんだよな?」

カミル 「…多分、さっき俺がいった魔力の移行で隊長に集めてぶっ放すんだろうな」

エド 「てか、問題はブラッドプリンだよな? どれ位のでかさなんだ?」

カミル 「目撃者の話では体長1メートル大くらいだそうだが…」

エド 「1メートル…」

カミル 「油断していると喰われるぜ?」

エド 「その前に逃げるっての、さて…」

聖騎士団員 「い…いたぞ!! ブラッドプリンだ!! 総員持ち場につけーっ!!」

エド 「!?」

カミル 「行くぞ、エド!」

エド 「わかっている!」

俺は手袋をはめ直し、右手に聖剣を持ってカミルと一緒に走り出した。
皆、続々広場へと集まっている。
そう、この時はまだ、誰も聖騎士団の作戦の失敗など考えもしなかった。
誰も、誰一人として死ぬことなんか考えていなかった。

ブラッドプリン 「……!」

聖騎士団員A 「た、隊長! き…来ました!!」

エド 「う…嘘だろ…!?」

カミル 「馬鹿な!? 報告とサイズが違いすぎるぞ!? 10メートル以上のデカブツではないか!?」

隊長 「く…! うろたえるな! フォーメーションをとれ! 私に魔力を集中させろ!」

その時出てきたブラッドプリンは誰もが驚愕した。
家々を飲み込み、我々に襲い掛かる。
一体どこに隠れていたんだというその巨体は、物凄いスピードで襲い掛かってきた。

エド 「魔力を集めろたって…どうやって…!?」

俺は後ろの高台にいる隊長の方を見た時のこと。

ドカァァァン!!

隊長 「!? そ…そんな馬鹿…な…!?」

カミル 「二体目だとぉ!?」

なんと、後ろから家々を破壊してもう一体同サイズのブラッドプリンが襲い掛かってきた。

聖騎士団員A 「ば…馬鹿な2匹いるなんて聞いてないぞ!?」

聖騎士団B 「ど、どうしますか隊長!?」

隊長 「ぬ…ぬぅう! 前方のブラッドプリンを速攻で倒す! その後後退だ! 最低でも数を減らすぞ!」

カミル 「ですが、それでは隊長の御身が!?」

隊長 「発言を慎めカミル! 全員目標前方のブラッドプリン!」

カミル 「くっ!!」

エド 「あ…ああ…あああ…!」

俺は恐怖していた。
挟み撃ちで襲い来る2匹のブラッドプリン。
どうしようもなく、感じて…俺は…最低のことをやっちまった…。

エド 「う…うわぁああああぁぁあぁぁぁあ!?」

カミル 「!? おい! エド! どこへ行くエドーッ!!」

隊長 「エドワード隊員!?」

聖騎士団員A 「た…たいちょ…うわぁぁぁぁっ!?」

聖騎士団B 「助け…うわぁっ!?」

隊長 「お…おのれぇぇぇ!!」

カミル 「エドー!! エドーッ!!!」

俺は仲間を捨てた。
臆病風に吹かされて、逃げたのだ。
結果部隊は全滅。
その日投入された聖騎士団員は俺を除いて全滅したのだ。
後に判明したことは俺達に偽情報を流し、南側に混乱を呼ぼうとした北側のテロリストがやったことが判明した。
だが、2匹もの巨大ブラッドプリンを放したテロリストは、見つかったときには惨殺されていた。
誰がやったのかは誰にもわからない、自害したのかもしれないし他殺かもしれない。
ただ、俺は敵前逃亡で本来ならば死刑ものだったが、幸か不幸か俺以外に生き残りはおらず、証拠もなかったため、死刑は免れた。
だが、俺は聖騎士団から抜けた…そして。



レオン 「俺の名はレオン、自覚はないけど勇者らしい、よろしくな!」



レオンたちと出会った。



エド 「…これかよ、嫌な過去って…たしかに嫌さ…」

最悪さ…気分はな…。

チャリッツ 「だが、受け入れなければ前には進めない…」

エド 「ああ…俺は聖騎士団のエドじゃない、勇者一行の戦士エドだ、前へと進まないとな…」

俺は山の中腹でカミルと対峙する。
何故、ここにカミルがいるのかは知らない。

エド 「以前は戸惑ったが、今度は容赦しないぜ?」

チャリッツ 「仲間を売った臆病者が…」

チャキ…。

俺達は構える。
俺は両手で縦に、切っ先を鼻の下の高さに。
カミルは横に。
頭の高さで両手で剣を垂直に傾けて。

ヒュウウウウ…。

冷たい風が流れる。
何の因果かアビスの一員となってカミルは蘇った。
いや、蘇ったっていうのが適切なのはわからないが。

エド 「いくぞっ!!」

俺はカミルに切りかかる。

チャリッツ 「!」

しかし、カミルは瞬歩で真横に出る。
そして斜めに俺の体を切断しにくる。

エド 「ちぃ!!」

しかし、俺も瞬歩でその場を離れ、更に切りかかった。

ガキィィィン!

交錯した。
俺の剣とカミルはぶつかり合い、火花を散らす。

チャリッツ 「やるな…瞬歩を体得したのか…」

エド 「それだけじゃない! 俺はずっとずっと努力してきた! お前を目指してな!」

俺にとってカミルは憧れであり、目標だった。
俺と同じ年齢でありながら、俺との実力の差は月とスッポン、何もかもが俺とは次元の違った存在。

エド 「…不思議な話だよな、俺達が初めて出会ったのって聖騎士団の入団試験の時だぜ?」

俺はそう言って、鍔迫り合いの中、カミルを力で押す。

チャリッツ 「お前がドジって、試験官の前で俺まで恥じかいた…!」

しかし、カミルも負けじと力で押し返してくる。

エド 「お前が大事に残していたパン、俺が食ったっけ!?」

俺は一旦距離を離し、相手に動く隙を与えさせずに切りかかる。

チャリッツ 「代わりに飯屋で昼飯奢らせた!!」

しかし、カミルは数ミリの見切りを見せ、俺の斬撃を回避してみせる。

エド 「そういや、その時お前に馬鹿みたいに喰われたっけか!?」

カミルは俺の動きが固まったところを狙って切りかかってきた。
俺はそれを強引に剣の腹で叩いて、カミルの斬撃の軌道を変える。

チャリッツ 「…よくもまぁ、ここまで強くなったものだ…俺とて過去とは違うものを…」

エド 「努力したからな…苦労したからな…それも死に物狂いでな! 何度と無く旅の中死にそうな目に! 死ぬほど強い敵と! 戦ってきた!」
エド 「だがよ…どうしてもお前のその芸術的な剣技は真似できないな」

チャリッツ 「だが、お前のような強引な戦い方も俺は真似できそうに無い」

言っていれば俺は力、カミルは技と速度か。

エド 「カミル…俺達は兄弟のように仲が良かった、喧嘩もよくした」

チャリッツ 「同じ女を愛したら、両方振られたこともあったな…」

エド 「トイレ掃除やらされていたら、気がついたらお前雲隠れだもんな…ありゃきつかった」

チャリッツ 「お前が道間違えた性で遠征先に行く前にお陀仏しかけたこともあったな…」

エド 「カミル…ここで決着着けるか? 俺としては道開けて欲しいんだがな…?」

チャリッツ 「…いけ、エド、俺もまだ決着の時とは思わない」
チャリッツ 「…メドゥーサの倒し方だが、奴はその強力な魔眼は自分にも通用する…それと、もうロングソードは無理だ」

エド 「…相変わらず世話好きだな…ありがとよ!」

俺は剣を納め、井戸を目指す。



…………。



エド 「祠…か?」

俺は山の中腹を歩いていると、やがて祠と思しき洞窟にたどり着いた。

エド 「…はいるしかないか」

俺は洞窟を進む。
しばらくは真っ暗だったが、やがて光が差し込む広い空洞にでた。

エド 「井戸…これか!」

俺は井戸を見つける、間違いなく聖水だろう。

エド 「だが…それ以上に気になるのは…」

祠の中に見覚えのある服と剣、そして見たことのない鏡の盾があった。

エド 「聖騎士団服…」

まず、一番目立ったのは白い生地に青いラインの入ったコートだった。
ご丁寧に同じ柄のズボンもある。

エド 「鎧より、軽い上防御力も高いけどな…」

俺が普段着ていると軽装の鎧と見比べる。
聖騎士団服は特殊な魔法の糸で紡がれており、並の鎧より防御、魔法防御共に高い。
だが、聖騎士団の者でもないのに、こいつを着るのはちょっとな…。

エド 「だけどこれ…俺の名前の刺繍入ってるじゃん…」

襟元にはエドワードと黄色い糸で刺繍がされていた。

エド 「…なんで俺のがここにあるんだよ…」

まさか、カミルがいた辺り、わざわざ取ってきたのか?
あの世話好きならありえる…。

エド 「てことは、間違いなくこいつも俺のだな…」

俺は一振りの剣を見る。
両刃の剣でロングソードとそう大差の無い普通の大きさの長剣。
こいつのはエクスカリバー・レプリカ。
通称聖剣とか、ELとか呼ばれる。
世界のどこかにあるという誰も見たことのない聖剣、エクスカリバーを想像して創られたというこの剣。
しかし、レプリカというやたらに安そうな名前のイメージとは裏腹に、サーディアス王国の技術の粋を集めて創られたこの剣はむしろすごい。
魔法金属を加工して創られ、強度、切れ味共に抜群、更に光の力が付加されておりアンデットに特効だ。
また、かなり軽いのが特徴で重さは1キロジャストという軽さ。
ただ、非売品で本来は聖騎士しか使えない。

エド 「元だが、使うしかないか」



…着替え中。



エド 「うわぁ…懐かしいな〜…昔これが仕事服だったっけ…」

俺は結局鎧を外して、聖騎士団服に腕を通した。
ボロボロのロングソードは名残惜しいが、聖剣にチェンジだ。

エド 「で…この鏡の盾は?」

カミルの話だとメドゥーサの魔眼は自分にも通用するそうだ。

エド (この鏡で魔眼を防ぐ、アンド跳ね返すってことだよな?)

俺はとりあえず鏡を手に持ってみた。

? 『汝…何者だ?』

エド 「え!? ええ!? だ、誰だ!?」

? 『我は目の前だ、今持っている』

エド 「は!? か…鏡!?」

? 『我は太陽神ラーぞ、汝我の新たなる継承者か?』

エド 「…その前に…あんた神器?」

ラー 『そうだ、我はラー、ラーの鏡』

エド (まいったね…実際神器を持つのは初めてだ)

ラー 『それで、汝が新たな継承者か?』

エド 「えと、それは多分違う…ん? でもお前の声が聞こえるんだから継承者なのか?」

ラー 『通常、素質の無い者は我に触れても我の声は届かん』

エド 「…てことは、継承者かもしれないのか?」
エド 「まぁ、それは置いといて」

ラー 『む…』

エド 「メドゥーサを倒すのに協力してくれ、仲間を助けたいんだ」

ラー 『仲間を?』

エド 「ああ、俺の大切な仲間だ」

ラー 『良かろう…汝、真剣に友を想うのなら我の力を貸そう』

エド 「サンキュ! ラー! いや、ラー様か?」

ラー 『どっちでもいい』

エド 「さて、水はビンに汲んでと…後はあの道を帰るだけだが…」

少々それが難だよな…。
時間かかるっつーの!

ラー 『契約者よ、我を見よ』

エド 「は? て…はぁ!?」

ラーは突然、自分を見ろという。
実際見てみると…。

エド 「ラ…ラーの鏡面に…地図が映っている…」

ラー 『我は世界のあらゆる物を写すことができる』

エド 「…それが、お前の能力?」

ラー 『否、我の能力は『絶対防御』、契約者を中心に半径最大5メートルまで球体上にカバーし、絶対防御壁を張る』

エド 「絶対防御って…なんか凄そうだな…『絶対防御』ねぇ」

そこまで言い切るんだから実際凄いんだろうな。

エド 「さて…お前の地図によると…このまま下るのが一番か」
エド 「ところで気になったんだが、この赤い点とか黄色い点とかってなんだ?」

ラーの鏡面に映し出された地図には俺を中心点に描かれているが、その周りに結構な数の点があったのだ。

ラー 『赤い点は飛行型モンスターをあらわしている、黄色い点は陸上のモンスターだ』

エド 「て、ことはお前を頼りに進めば敵と出会わない?」

ラー 『それは無理だろう、いくらなんでもどこかで敵は気付く、だが極力敵と出会わないルートを選択はできるだろう…それにもう来た』

エド 「へ?」

ブリッツレイブン 「カーッ!!」

エド 「げ!? ブリッツレイブンかよ!? 電撃が厄介だっつーの!」

ラー 『我を構えろ!』

エド 「!? こうか!?」

俺はラーをレイブンに構える。

ブリッツレイブン 「カーッ!!」

バチィィン!! ピキィン!!

エド 「おおっ!?」

ブリッツレイブンはおなじみ、電撃を放ってくるがラーはなんと電撃を跳ね返した。

ブリッツレイブン 「カーー!?」

エド 「おお! すげえ! 魔法を反射するのか!?」

ラー 『それだけではないぞ…』

ピカーッ!!

ブリッツレイブン 「カーッ!? カー! カー!」

エド 「おお!? 今度は鏡面から光線が出て、ブリッツレイブンが退散した!」
エド 「今のは相手の敵意を削いだりでもする技か?」

ラー 『否、太陽光線を放って目暗ましをするだけだ』

エド 「んな…目暗ましって…しょぼいな…」

ラー 『だが、真っ暗な洞窟などでは我はランプいらずになるぞ?』

エド 「多機能なのはいいが、なんだかしょぼいなぁ…」


そんなこんなで俺はラーの力をフルに駆使して勇者の山を下った。



…………。



メドゥーサ 「帰ってきたね…」

エド 「ああ…」

山を降りると、俺の目の前にはとても美しい女性がいた。
青いロープを纏い、少し鋭い顔をした女性…メドゥーサだ。

メドゥーサ 「さぁ! あたしにどうやって勝つのか見せてもらうよ!?」

メドゥーサ様は姿を豹変させていく、髪は毒蛇へと変わり。
右腕が青銅へとなり、そして黄金の翼が背中より生え、足は蛇の足になる。

エド 「護れ! ラー!!」

ピキィィン!!

俺はラーを構える。
ラーの絶対防御で俺はとりあえずメドゥーサ様の魔眼を封じた。

エド 「どうやら…あんたの魔眼もラーの絶対防御を越えることは出来ないみたいだな…」

メドゥーサ 「だけど、使っている間は動けない上、自分の攻撃も絶対防御に阻まれる…知っているよね?」

エド (試したからな…使っている間はあくまで動けない)

だけど、今回は命賭けて、試しただけだ。

エド 「アンタの魔眼…あんた自身にも効くそうだな!」

俺はラーで顔を覆い、鏡面をメドゥーサ様に向ける。

メドゥーサ 「しま…!?」

俺の予想ではメドゥーサ様は慌てて戦闘モードから通常モードへと変えて魔眼を閉じる!

エド 「うおおおっ!」

チャキン!!

メドゥーサ 「ナイス…頭脳プレー」

俺は一気に距離を詰め、メドゥーサ様の顔を見ないようにしながら聖剣を喉下につき立てた。

エド 「勝負あり…ですね?」

メドゥーサ 「負けたよ…そう、鏡をあたしに向ける…ソレ、正解」

エド 「運のいいことにお節介アドバイザーが2人もいたからな…気づかない方が不思議だよ」

メドゥーサ 「二人? 一人のはリリスのことだね? でももうひとりは…?」

エド 「…待ってろみんな! 今元に戻してやるからな!」

俺はそう言ってレオンたちの元へと向かう。
今は聖騎士団の服に身を包んでいるが、やっぱり俺は勇者一行の戦士エドだ!








To be continued



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