勇者と魔王〜嗚呼、魔王も辛いよ…〜




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第31話 『ダイナマイツ、宿命の戦い!!』





レオン 「…遂に来たな…」

シーラ 「ええ、北側の大陸でも勇者の山より北部を支配する帝国…軍事国家ホットアーク帝国」

ホットアーク帝国、北側の大陸北部領土一帯を支配下に置く、軍事国家。
北側にある5つの国家の中で最も広い領土を持ち、多くの城塞都市を持つ帝国である。
反サーディアス感情が強く、勇者はあまり歓迎されないと聞く。
そして…ホットアーク帝国の北の端に…魔王城はある。

アルル 「ようやく来たね〜」

シーラ 「エドさん…ここからはこれを着てください」

エド 「え? ローブかい? でもなんで?」

リリス 「何も知らないの? ホットアーク帝国は特に反サーディアス感情が強いのよ?」
リリス 「もしもサーディアス王国の聖騎士なんかがノコノコとこようものなら…」

アルル 「こようものなら…?」

リリス 「たこ殴りにあって、つるし首…その後公開処刑は確実よ!」

エド 「うげ…」

シーラ 「…加えて、我々が勇者一行ということもバレ、我々も処刑されるでしょう…」

レオン 「マジかよ…勇者ってだけで殺されるのか…?」

リリス 「それだけ、反南側感情がここは強いのよ…」
リリス 「戦争当初、サーディアス王国が魔王軍に大敗を喫したのは知っているでしょ?」

エド 「ああ…セリア王女が攫われた1ヶ月目、サーディアス王国は10万の軍勢を率いて魔王城へと攻め入った…」

アルル 「10万!? それで負けたの!?」

エド 「そう、生きて帰ってこれたのは僅か419名のみ」

アルル 「たった419名!?」

リリス 「明らかに軍勢では有利なサーディアス王国」
リリス 「だけど、サーディアス王国と北側の大陸諸国との間には深刻な経済摩擦があったわ」
リリス 「いくら北側は南側の3.7倍の国土を持つとはいえ、それを5つの国で分割しているわ」
リリス 「故に国力に置いてサーディアス王国に負け、北側の諸国は足元を見られていたわ」
リリス 「それが、今日の反サーディアス運動へと繋がっているの…」

シーラ 「それが、戦争の勃発で、感情が激化」
シーラ 「サーディアス王国は10万の大軍勢を連れるも、補給線はなく、兵糧は勇者の山を抜ける前に尽きていたとされます」
シーラ 「そして、魔王城へと到達する頃には10万いた軍勢は僅か3万」
シーラ 「残り7万は飢え死に、もしくは敵前逃亡したと思われます」
シーラ 「しかし、残り3万も長い旅路の疲労と空腹、そしてホットアーク帝国の度重なる奇襲、夜襲など襲撃を受け、その大群はいとも簡単に全滅」
シーラ 「サーディアス王国は魔王軍と戦う前に、到達することなくそのほとんどが全滅しました」
シーラ 「そして、残り1万となった軍勢も補給線もなく、退路も断たれ、そのほとんどが死んだのです」

アルル 「そんな…」

リリス 「ひとえに、サーディアス王国が北側諸国との国交を怠ったツケよ…」
リリス 「サーディアス王国が、真剣に北側諸国との連携を取っていればあんなことにはならなかったわ…」
リリス 「北側の人間に対してサーディアス王国と魔王軍を天秤にかければ全ての人間は魔王軍を支持するわ」
リリス 「それほど、北側の大陸は反サーディアス感情が強いの、特にホットアーク帝国は危険よ!」
リリス 「サーディアス王国、南側、それらに関わること全て喋っちゃダメよ!?」

アルル 「サ、サー! イエッサー!」

レオン 「ああ…さすがに死にたくないからな…」

リリス 「まだ南部の多種族国家カルティエイスや中央部のガリダイン国は勇者に対して友好的だったけど…ホットアークにとっては勇者は敵同然だからね…」

アルル 「でも…同じ人族なんだよね? ホットアークの人たちも」

リリス 「ええ、でも同じ人族だからって仲が良いとは限らない…魔族だってそう、私の様に魔王軍ではなく勇者を支持する魔族も多いわ」

シーラ 「ちなみに…リリスさんもやはりサーディアスは…?」

リリス 「当然嫌いよ! 私たちは今日生きることに必死なのに…サーディアス王国はそこで足元を見てきた!」
リリス 「どれほど不当な貿易をやらされても、国力に劣る私たちは苦渋を舐めるしかなかった!」
リリス 「サーディアス王国は横暴で傲慢なのよ! 自分たちこそが人間界の支配者だと思い込んでる!」
リリス 「だから、私はサーディアス王国の兵士たちが全滅してざまあみろって思っているわ!」

エド 「…直に言われると結構きついな…」

レオン 「ああ…でも、これが北側の当然の感情だからな…」

リリス 「あ! でも勇者様たちは好きだよ? サーディアス王国が嫌いなだけで、そこに住む民まで同じと思っているわけじゃないから!」

レオン 「わかっているよリリスちゃん」

リリス 「でも…この国の民は何度も言うけど、そんな理屈通用しないから…南側の人間だってだけで理由なく殴られ、場合によっては殺されるわ」
リリス 「幸い私が魔族だから、みんな怪しまれることはないと思うけど…」

レオン 「そうだな、リリスちゃんが一緒なら俺達はリリスちゃんのおかげで安全なんだな…」

シーラ 「でも、エドさんは本当に気をつけてくださいね? 聖騎士団も魔王城遠征には参加していました…その格好は危険ですから…」

エド 「十分承知しております…俺も死にたくないっすから…」

エドは本当に顔を真っ青にしながらそう言った。
聖騎士の服を着たエドは万が一見られたら処刑ものだもんな…俺達まで。

リリス 「さぁ! それより早く次の村に行きましょうよ! こんな所で立ち話もなんだし!」

シーラ 「そうですね…行きましょう?」

レオン 「ああ…」

こうして、俺達は最初の村、カリミアへと赴くのだった。



…………。



『同日 時刻:12:40 カリミアの村』


レオン 「ここがカリミアの村か…結構普通だな」

リリス 「こっから先には村はないから、北部では珍しいけどね」
リリス 「ちなみにこの先にあるのは城塞都市フェルミア、そして同じく城塞都市ビスラファスタ、そして最後にライラックの街よ…その先に魔王城があるわ」

エド 「あと三つか…」

アルル 「とりあえず、お昼ご飯〜、アルルお腹減った〜…」

シーラ 「そうですね…どこかで昼食を取りましょうか」

俺達は満場一致でどこか手ごろな飯屋を探す。

レオン 「えーと…」

俺達がそれぞれ手ごろな店を探していると…。

ワァァァァァァ!!

エド 「! あんだぁ!?」

アルル 「む、向こうから大歓声が聞こえるよ!?」

シーラ 「い、行ってみましょう!」

俺達は何が起きたのかと慌てて大歓声のした方へと、見に行く。



大男 「うおおおおおっ!!」

ダイナマイツ 「ソバァァァッットォォォ!!!」

ドッカァァァァァ!!!
ズササササァァァ!!

レオン 「あ…あれは!?」

なんと、歓声の先にはあの、『ミスター・ダイナマイツ』さんがいた。
なにやら2メートル近くの大巨漢をソバット一発で10メートル程ふっとばし、村人の大歓声を浴びていた。

男A 「いいぞぉ!!」
男B 「さすが北側の誇り! 最強だ!! 勇者なんて目じゃねぇぜ!!」
子供A 「かっこいいー!!」

ダイナマイツ 「はっはっは! 血気盛んですな! だが、このミスター・ダイナマイツ、年老いても負けはせぬ!!」

アルル 「ダ…ダイナマイツさん?」

村人も村人だ…堂々と村の中央で、ケンカを見て、それを止めるどころか応援とは…。

リリス 「ホットアークってこう言う国なの…ケンカなんて日常茶飯事…みんな血気盛んでケンカっ早いから注意してよ…?」

エド 「そうだな…」

さて、盛大なケンカも終わり、村人たちは満足そうにそれぞれの家へと帰っていく。
俺達は呆然としていると…。

ダイナマイツ 「ん? おお! 奇遇ですな勇…」

アルル 「ストーップ!! ダイナマイツさんストーップ!!」

ダイナマイツ 「ん? どうしました…勇…」

エド 「だからストーップ!! ダイナマイツさん、それ以上はストーップ!!」

ダイナマイツ 「?」

ダイナマイツさんは俺達を発見すると、何気なく『勇者一行』と言おうとする。
俺達面識あるもんだから、向こうも知っている。
さっきの村人見てもあんな血気盛んな人たち敵に回したら確実に命ないっての!

シーラ 「(ダイナマイツさん…ここでは勇者という言葉は絶対に使わないでください…)」

シーラさんは近づき、小声でダイナマイツさんにそう言う。

ダイナマイツ 「…なるほど、わかりました、それで一行はどうしたのですか?」

レオン 「い、いや…とりあえず村についたんで、手ごろな飯屋はないかと探していたんですよ」

ダイナマイツ 「おお、それなら向こうに良い店がありますぞ」

アルル 「本当!?」

ダイナマイツ 「モチロンですとも! 一緒に参りましょうか、勇…」

レオン 「だからストーップ!!」

ダイナマイツ 「も、申し訳ありませんつい癖で…では行きましょう、一行」

俺達はダイナマイツさんの何気ない一言で命がないと思うと、気が気じゃないままダイナマイツさんの言う飯屋に向かうのだった。



レオン 「ソバ屋ですか…」

ダイナマイツ 「皆さん、北部のソバを食べたことは?」

アルル 「アルルはないよ」

リリス 「あたしもない」

ダイナマイツ 「? そう言えば…あなたは見ない顔ですな」

リリス 「あ、リリスっていいます! あの有名なダイナマイツさんに会えるなんて感激です!」

アルル 「? もしかしてダイナマイツさんって有名人なの?」

リリス 「ええ!? ダイナマイツさんを知らないの!? 北側の大陸の英雄だよ!?」
リリス 「数多もの格闘技大会で優勝を掻っ攫い、決闘すること3000回! しかし負けしらず!」
リリス 「そしてダイナマイツさんは己の身一つで、武具を一切装備せず、20メートルをゆうに越すマスタードラゴンの至竜を一人で屠ったことで生ける伝説となった!」
リリス 「ダイナマイツさんは正に絶対無敵の格闘士なのよ!?」

エド 「強い強いとは思っていたが…マスタードラゴンを一人でかよ…」

ダイナマイツ 「それはまだ、私が若い頃ですよ…」
ダイナマイツ 「今はマスタードラゴンなどとてもとても…」

? 「フ…俺はそうは思わんがな…」

エド 「!?」

ダイナマイツ 「!? な…お前は!」

突然、リリスが熱くダイナマイツさんの事を語っていると突然、物凄い覇気を放つ男が現われる。

ダイナマイツ 「お前はボラス!!」

ボラス 「ふふふ…久しぶりだなジャスよ」

ボラスと呼ばれた男はダイナマイツさんよりは僅かに背は低いもののそれでも200センチを越える巨体で、肉つきは決してダイナマイツさんには退けをとっていなかった。
小麦色の肌は血色がよく、ダイナマイツさんと比べ若干若々しく見えた。
両腕両足に金色のリングをつけており、白い髪の毛が腰の上辺りまで伸びていた。
ダイナマイツさん同様パンツ一枚なのが気になるが、こっちは腰にスカーフも巻いている。(だからどうしたと言わんばかりだが)
ちなみに髪の毛は長いくて邪魔なら切ればいいだろうに、首の辺りで銀の鎖で結んでいた。
ぶっちゃけ、どっちも服着てください…。(困)
人族っぽいけど…?

リリス 「ボラス…! まさかあのボラス!?」

エド 「知っているのかリリス!?」

リリス 「うむ…聞いたことがある!」
リリス 「かつて20年前ダイナマイツさんの前に現われ、壮絶なバトルの末、敗北した…幻の巨神族!」
リリス 「その名は…ボラス!」

レオン 「巨神族!? って…三神族のひとつだろ!?」

ちなみに三神族というのはそれぞれ、神霊族、巨神族、竜神族のことをいう。
どれも世界に100と満たないほど数が少なく、またとてつもなく強大な力をもつとされる。
俺達の知るところではウンディーネ様とアンダインが神霊族だ。

アルル 「でもでも! 巨神族ってもっと大きな巨人なんでしょ!?」

シーラ 「ええ…バシュラウクの森で戦ったダークマスター、アレくらいのサイズのはずです」

ダイナマイツ 「いや…この男は強さを極めるため…自らの体に封印を施し、サイズを10分の1に押さえているのです…」

エド 「10分の1…てことは元の身長は20メートル!?」

ボラス 「ふふふ…元気そうだなジャスよ…」

ダイナマイツ 「一体なんの用ですか?」

ボラス 「ふっ! 知れたこと! 格闘士が格闘士の前に現われる時は、戦いの合図!」
ボラス 「俺はお前に…たかが人族のお前に負けたあの20年前からひたすら己を鍛え続けた! そして再戦にきたのだ!」

ダイナマイツ 「…私は誰が相手であろうと負けるわけにはいかない…その勝負いくらでも受けて立とう!」
ダイナマイツ 「だが、守るべき物のない貴様に私は倒すことは出来ん!」

ボラス 「ほざけ! もはや種族の差などないという事は認めよう! だが俺はひたすら修練をしてきた!」
ボラス 「毎日欠かさず、ただ、貴様を倒すためにな!」

ダイナマイツ 「お前のその押さえ切れん気を見れば、それは一目瞭然だ…だが、私とて数え切れない死線を潜り抜けてきた!!」

なんだか、妙な展開になってきた…。
ソバ屋の前でやたらに熱くなっている巨漢の二人。
正直…付いていけないんですけど?

ボラス 「では…まず一勝負といくか…」

ダイナマイツ 「応!!」

レオン 「ちょ…こんな所でケンカする気…!?」

ダイナマイツ 「オバサン! ソバ、特大盛りで!!」
ボラス 「オバサン! ソバ、特大盛りで!!」

シーラ 「は…?」



…………。



ケンカを始めるかと思いきや、いきなり席をはさんでダイナマイツさんとボラスさんが対峙する。

オバサン 「はいよ! アンタたち見るからに喰いそうだからね! 超特大盛りだよ!?」

アルル 「て…いくらなんでも盛りすぎだよ!? ザルから溢れているじゃん!?」

オバサン 「あっはっは! なんせ20人まえ使ったからね! たーんと喰いな!!」

ソバ屋が出した、ソバはザルソバで麺ツユに漬けて食べる物だ。
俺達は普通に一人前なんだが、ダイナマイツさんとボラスさんにはその20倍の20人前盛られた。
いや…あまりにデカ盛りすぎて何と言えばいいか言葉が見つからない…。

ボラス 「ふ…この量…貴様には多すぎるんじゃないか?」

ダイナマイツ 「ふ…甘く見ないで貰おう、ソバは大好物なのだ、100人前は軽い」

ボラス 「ふ…俺は200人前は軽いな」

シーラ 「え…えと、みなさん、それではお手を合わせて…」

ダイナマイツ 「頂きます!!」
ボラス 「頂きます!!」

ガツガツガツガツ!!

エド 「あの…せめて麺つゆに漬けて食べたら…て、ああ…」

アルル 「うわ…すごい喰いっぷり…」

レオン 「見ている分には呆れて物も言えないが…」

この二人ってなんなの…?
いきなり大食い大会始めちゃったし…。

ボラス 「ガツガツガツ!! ふふふ…箸が遅れているんじゃないか…ジャス?」

ダイナマイツ 「馬鹿言え…私は貴様と違ってペース配分という物を心得ている…馬鹿の一つ覚えみたいに早く喰えばいいというものではない…」

ボラス 「ふ! やせ我慢しおって! ガツガツガツ!!」

レオン (箸が進んでないって言ったってダイナマイツさん俺達より遥かに早食いだがな…)

ボラスさんは一気にガツガツとソバを胃にかき込んでいく。
対して、ダイナマイツさんは一定のペースでソバを食べていく。

ボラス 「ふ…ごちそうさま! 俺の方が結局早かったな!」

ダイナマイツ 「…おばさん! おかわりだ!」

オバサン 「あいよ!!」

ボラス 「な…!?」

ダイナマイツ 「戦いは量だよ…私は貴様の倍は食うぞ?」

ボラス 「ふ…面白い、俺もちょうど小腹が空いていた、おばさん! こっちもおかわりだ!!」

オバサン 「あいよ! ちょっと待ってくんな!」

エド 「ウソだろ…まだ食うのかよ…?」

なんと二人とも、完食したあと、さらにおかわりを始めた。

オバサン 「あいよ! 二人とも更に20人前! 食えるかい〜?」

ダイナマイツ 「物足りないくらいですよ…」

ボラス 「ふふ…その強がりもいつまで続くかな…?」

なんとオバサンもオバサンでまたもや20人前持ってくる。
これで計40人前…喰えたらバケモノだな…。

ボラス 「ガツガツガツガツ!!」
ダイナマイツ 「ガツガツガツ!!」

二人はまたもや猛スピードでソバをかき込み始めた。
俺達は当然ながらすでに完食しており、今は梅昆布茶を啜っていた。
正直、この二人の食いっぷりをみていると梅昆布茶の味がわからなくなってくる…。

ボラス (迅ぇ…! 『2杯目』になってからどんどんスピードが昇ってやがる…!)
ボラス (けど、まだついていけねぇ速さじゃねぇ、俺ももう少し速くできる)

レオン (ボラスさんが遅くなってきた…?)

ダイナマイツ 「…どうした、随分と食が鈍くなってきたぞ…ボラス」

ボラス 「そうか? 俺にはまだあんたの箸は止まって見えるぐれーだけどな」

ダイナマイツ 「……」

二人はそう言い合いながら食を進めていく。
どっちも本当によく食うな…。

ボラス 「!? ごほっ…はっ…けほ…」

シーラ 「ボラスさんが止まった!?」

ダイナマイツ 「限界だな、ボラス」

ボラス 「なん…だと?」
ボラス (! 箸が…動かねぇ…!)

ダイナマイツ 「…貴様はどうやら『2杯目』になって私の速度が昇ったと感じているようだが、それは違う」
ダイナマイツ 「私は胃の事を考慮に入れ常に一定のペースで食べ続けた、速力は変わらぬ」

ボラス 「…落ちてたのは…俺のスピードの方だって…言いてぇのか…」

ダイナマイツ 「貴様はよく戦った…だが、貴様がいくら食べようとも胃はそれを受け付けないのだ」
ダイナマイツ 「此処が貴様の限界…終わりだ、ボラス」

ダイナマイツさんはそう言って悠然とペースを上げる。
対してボラスさんの箸は動かない。
勝負…あったか?

ボラス (動け、動けよ! 動け動け動け!! 動け!!!)
ボラス (何の為にここまで来たんだ!!)
ボラス (勝つためだ!! 生き残るだけじゃ意味が無ぇ! 戦うだけじゃ意味が無ぇ!! 勝たなきゃ何も変えられねぇんだ…!!)
ボラス (勝つんだ…俺は…勝ちてぇ!)

…ガツガツガツ!

エド 「う…動いた! ボラスさんの箸が動いた!!」

ダイナマイツ 「…莫迦な…何者だ…貴様…」

ボラス 「”何者だ”…? はっ」
ボラス 「名前なんか無ぇよ」

後半は何やら意味不明になりながら二人とも急加速で最後を食べてしまう。
そして…。

アルル (てか…何故に○リーチ?)

ボラス 「完食!」
ダイナマイツ 「完食!」

リリス 「ど…同時…もしかして…このまま…?」

二人はなんと同時に完食してしまった。
二人ともバケモノだ…まさか40人前完食してしまうとは…。

ダイナマイツ 「オバサン、更なるおかわりを…」
ボラス 「ふ…こっちも…」

オバサン 「すまないねぇ! もう麺がなくなっちまったよ! 二人ともよく食うねぇ!!」

ここで、店がギブアップ…二人合わせて80人前、本当によく食ったものだ。

ダイナマイツ 「…引き分けか…」

ボラス 「…へ、甘いな…俺はソバ40人前に+…お茶を12杯飲んだ! 貴様は11杯! ちゃんと数えたぞ!?」

ダイナマイツ 「む…?」

ボラス 「ソバは同じ40人前でも、俺は貴様より1杯お茶の量を多く飲んでいる!」
ボラス 「この勝負俺の勝ちだ!!」

レオン (なんつー子供みたいなことを…)

いい歳した二人が何しているんでしょうね…?

ダイナマイツ 「ふ…いいだろう、所詮はただの大食い、格闘士には関係のないスキルだ…」

シーラ (の割には本気で張り合っていたようですが?)

ダイナマイツ 「決着はやはり格闘でけりをつけるべきだろう?」

ボラス 「当然だ!!」

エド 「ちょっとおいおい…、飯食ってすぐ戦う気かよ?」

ダイナマイツ 「そうだな…では、決闘するにはちょうどいい場所がある、食後の運動がてらそこまでどちらが速いか勝負しようではないか?」

ボラス 「望むところだ!」

リリス (冗談でしょ? あれだけ食った後に今度は競走? 普通じゃないわ…)



…………。



ダイナマイツ 「場所はあの木のあるところだ」

ボラス 「ここからざっと400メートルといったところか」

ダイナマイツ 「ふ…レオン殿、もしよろしければ…」

レオン 「わ、わかりました…それでは位置について…」

ダイナマイツ 「!」
ボラス 「!」

二人は真横に並び、クラウチングスタートをする。

レオン 「よーい…ドン!!」

ダイナマイツ 「!!」
ボラス 「!!」

ギュオオッ!!

レオン 「……」

エド 「あの二人って一体…」

アルル 「も〜…ついていけないよねぇ…」



…………。



ボラス 「はぁ…はぁ…はぁ…!」

ダイナマイツ 「ふ…ふふ…! どうやらこの勝負は私の勝ちのようだな」
ダイナマイツ 「私の400メートル自己記録は42秒69、今回は会心だったであろう…41秒切ったかな?」

ボラス 「く…! 俺は貴様より食ったんだ…こんな腹持ちで走れるわけがないだろう…!」

ダイナマイツ 「ふ…甘いな、戦士とはいかなる条件下でも常にベストでなければいけない…貴様はそれを怠ったのだ!」

ボラス 「…く、よかろう、この勝負素直に貴様に勝ちを譲ろう…もとより足が速ければ格闘士として強いとは言わないからな…!」
ボラス 「…さぁ! 最後はこいつで決めようじゃないか! 戦闘の基本は格闘だ、武器に頼ってはいけない!」

ダイナマイツ 「ふ…どこからでもかかってくるがいい!!」



レオン 「はぁ…はぁ…! もう始めている!」

俺達は全速力ダッシュでダイナマイツさんたちの元に向かったが、食後だというのにもう始めているようだった。
まだ、直接戦闘には入っていないがすでに両者構えを取っている。
ダイナマイツさんは拳を頭くらいの高さに置き、右自然体の構えでボラスさんを迎え撃つ。
対して、ボラスさんは拳を肩の高さに置き、左手を若干前に突き出した構えを取っていた。

アルル 「緊迫の瞬間だね…」

リリス 「ミスター・ダイナマイツ、身長212センチ体重123キロ! 対するボラスは身長200センチ、体重100キロ!」

エド 「ボラスさんの方が一回り小さいな…」

レオン 「だが、ボラスさんは巨神族…その力はダイナマイツさんと退けは取らないだろう」

まさにこの一番、どちらに軍配が上がるのか…。

レオン (どっちにしろ、色んな意味で超人的な人たちだよ…)

ボラス 「!! いくぞぉっ!!」

ダイナマイツ 「!!」

ボラスさんは期を見て、物凄いスピードでダイナマイツさんに突っこむ。

ボラス 「とりゃああ!! ふぅぅん!!」

バキィィ!! ビシィィ!!

ボラスさんは右、左と拳で凄まじいラッシュをするがダイナマイツさんは的確にそれを両腕でアームブロックする。

ボラス 「ドォォォォ!!」

ダイナマイツ 「むぅっ!?」

ドッカァァァ!! ズサササササァァァァ!!

ボラスさんはラッシュの最後に全体重を乗せたすさまじい前蹴りを腹部に放った。
ダイナマイツさんはそれをクロスアームブロックで防ぐが、地を滑って4メートル程吹き飛ばされた。

ボラス 「老いたな…ジャス以前のお前ならば、この程度の攻めには怯むことはなかったろう」

ダイナマイツ 「…ふっふふ。20年経っても変わらぬ、その若さと逞しさ嬉しくもあり、同時に恐ろしくもある」
ダイナマイツ 「だが!! 私の背中に、守るべきものが、背負うべきものがある内は、このミスター・ダイナマイツ!」
ダイナマイツ 「死しても退かぬ!!」

ボラス 「それでこそジャス!! そうでなくては倒し甲斐がない!!」

ダイナマイツ 「来るがいいボラス!! 勇気無き者に、この私は倒せんぞ!?」

ボラス 「でぇぇぇりゃぁぁぁ!!」

ダイナマイツ 「はぁぁぁ!!」

ビッシィィィィィ!!

両者の渾身の右拳がぶつかり合う。
あまりの威力に衝撃波が周囲に飛び交ったが、二人とも拳をつけたまま一歩も決して退かなかった。

ボラス 「…!」

ガシィィ!!

エド 「手を掴んだ…! 膠着状態だ!」

二人は決して後ろには退かず、拳をつかみ合って、押し合う形となった。

ボラス 「!! ふぅん!!」

ボラスさんはダイナマイツさんを腕ごと持ち上げ、振り回し始める。

ダイナマイツ 「甘い!!」

しかし、ダイナマイツさん、空中で素早く手を離して。
いきなり両足で挟むように飛び付き、ボラスさんの股下に自分の体をもぐりこませるように前方回転しながら自分の両足首をボラスさんの両肩の後ろに引っ掛け。
ボラスさんの両膝裏を自分の両手で掴んで、ボラスさんを前方に回転させて、ボラスさんの両肩をマットにつけてフォールする。

エド 「これは飛びつき前方回転エビ固め!?」

レオン (また…豪快な技…!)

ボラス 「ぐ…ぐぅ…!?」

ダイナマイツ 「相変わらず、組技は苦手のようだな!?」

ダイナマイツさんはボラスさんの体を締め上げ、苦しめると、離して立ち上がり。

エド 「まさか! 出るのか!? 出るのかーっ!?」

ダイナマイツ 「スターダストォォ!! ボディープレーーーッスゥゥ!!」

ダイナマイツさんは木に登ると、底からムーンサルトを決めながら、ボディプレスを敢行する。

ボラス 「くっ! なめるなぁ!!」

ズッシィィィン!!

しかし、ボラスは瞬時に身をかわし、ダイナマイツさんのボディプレスを回避する。

ダイナマイツ 「やるな…ボラス、我がのホールドからもう脱出したか…」

ボラス 「ふ…俺はお前に勝つためにひたすら自分を鍛え続けてきた!! 貴様のホールド技の恐ろしさは嫌と言うほど20年前に味あわされたわ!!」

そう言って、ボラスさんは殴りかかる。
しかし、ダイナマイツさんはソレを読んでか、すでにアームロックの姿勢に入っていた。
ボラスさんの右ストレートを取ると。

レオン 「極まるぞ!!」

ダイナマイツさんが力を入れればボラスさんの腕は折れる!
しかし、恐ろしいことにボラスさんは…。

ボラス 「!! うおおおっ!!」

ダイナマイツ 「!?」

ボラスさんは左腕をダイナマイツさんの股の下に入れると、そのまま100キロ以上あるダイナマイツさんを一瞬で持ち上げ…。

ボラス 「うおおおっ!!」

物凄いスピードと角度で、ダイナマイツさん…落とした。

ズッシィィィン!!

ダイナマイツ 「がはっ…!」

レオン 「や…やった…」

リリス 「そ…そんな…ダイナマイツさんが…負けた…?」

ダイナマイツさんは頭から落とされ、喀血し倒れる。
これは…誰が見てももう立てないだろう…。

ボラス 「ふ…ふふふ…ふはははは!! 遂に!! 遂に俺は勝った! あのジャスに…あの…!?」

ダイナマイツ 「ぬ…ぬぅぅぅ…!!」

エド 「馬鹿な!? 最低でも確実に脳震盪を起こしたはずなのに立ち上がるなんて!?」

なんと、みんながダメだと思ったその時、ダイナマイツさんは起き上がったのだ。
不死身の超人…ダイナマイツさん…。

ダイナマイツ 「…言ったはずだ! 私は…負けないと!!」

ボラス 「ふ…ふふ…恐ろしいな…あれを受けて立ち上がるか…だが!!」

ふらふらのダイナマイツさん、そのダメージの大きさは見て分かる。
そして、それを見てボラスさんは容赦なく殴りかかる。

ダイナマイツ 「う…うおおおおおおおおっ!!!」

ガッ!!

ボラス 「なに…!?」

ダイナマイツさんはボラスさんの拳をスルリとすり抜けると、瞬時にボラスさんの背面を取る。
そして腰を掴み…。

ダイナマイツ 「私は…勝つ!!」

ボラス 「う…うおおおっ!?」

ダイナマイツ 「ジャーマン…スーーープレックッスゥゥゥ!!!」

ずっしぃぃぃぃん!!

エド 「決まったーっ!! 綺麗なアーチを描いて放たれる人間橋!! ジャーマンスープレックス!!」

ボラス 「ぐ…ぐはぁ…! く…やるな…投げるのではなく…落としてきたか!!」

ダイナマイツ 「ふ…ふふ…! 殺す気で放ったというのに…! なお立つか!!」

しかし、両者まだ倒れない。

レオン (何故だ…? もうすでに二人とも体力は限界のはず…なのに何故立ち上がれる…?)

一体、二人を支えるものはなんなのか?
負けたくないから…?
それだけとは…思えない。

ダイナマイツ 「もはや…互い体力は限界…次の一撃で終幕としよう…!」

ボラス 「…望みどおりに!!」

互いの体から、今まで以上の闘気(オーラ)が放たれる。

レオン 「で…出る…! ダイナマイツさん必殺の…あの技が!」

ボラス 「我が拳は鉄をも砕く! この俺に…砕けぬ物はない!!」

ボラスさんは闘気を拳に集中させ、それを持ってダイナマイツさんに殴りかかる。

ダイナマイツ 「我が魂の一撃…その名も…ダブルゥ…ラリアットォォォ!!!」

ギュオオオオオッ!!! ゴオオオオオオッ!!!

闘気がダイナマイツさんの体から一気に放出される。
そして放たれるダブルラリアットは闘気の嵐を生み、全てを飲み込んでしまう。
ボラスさんの闘気も例外ではなく飲み込み…。

ボラス 「う…うおおおおっ!?」

ボラスさんの巨体が跳ね上がった。
ボラスさんはダンプに弾かれた子供のように4〜5メートルは跳ね上げられ、成す術なく地面へと叩き付けられる。

ボラス (ああ…この技…あの時、放ったフィニッシュ技…)
ボラス (ふ…ふふ…またもや…この技に破れるというのか…)

ズッシャァァァァァ!!!

物凄い砂煙を上げてボラスさんが倒れる。
勝負は…ついたのか?

ダイナマイツ 「さすがはボラスよ…我が永遠のライバル…その強さこの胸に永遠と刻もう」

ボラス 「ふ…冗談を言え」

ダイナマイツ 「! …ボラス」

ボラスさんは大の字に倒れたまま喋り始めた。
あれだけのダメージを受けて、まだ意識が残っているのか…?

ボラス 「貴様と俺の戦いはまだ、始まったばかりよ…ふふ…ふはははははははっ!」

ダイナマイツ 「ボラス…」

ボラス 「今回は俺の負けだ…だが、次はこうはいかんぞ!?」

ダイナマイツ 「! ああ、だが俺も更に強くなろう! 貴様が強くなる限り、私もまた強くなるのだ!!」

ボラス 「ふ…ふふふ…」

ダイナマイツ 「ふはは・ ふはははははははははっ!」

ふたりはそうして大いに笑っていた。

レオン (なんだかんだで…まるで親友みたいなふたりだな…)

ふと思う、些細なことで争いあって、真剣に戦いあえて、そして終われば笑いあえる。
ダイナマイツさんとボラスさん…少し羨ましい関係に思えた。



…………。



アルル 「そう言えば、ボラスさん、どうしてダイナマイツさんのことをジャスって呼ぶの?」

ボラス 「ん? それはその男の名前がジャス=ティスというからだ」

アルル 「え!? ミスター・ダイナマイツって本名じゃなかったの!?」

ダイナマイツ 「はっはっは! これは国王様から授けられたセカンドネームなのだが、こっちの名前の方が世間に知れ渡ってしまってな…」
ダイナマイツ 「本当はジャス=ティスというのが正しいのだが、すっかりミスター・ダイナマイツで通っている!」

ボラス 「おかげで、貴様を探すのには苦労した…ジャスと言っても、誰も知らないのだからな…」

ダイナマイツ 「20年前はまだ、私はジャスだったからな、お前との決闘の後からだ!」

レオン 「へぇ…」

エド 「てことは、俺達ジャスさんって言った方がいいのか?」

ダイナマイツ 「なーに、どうせ今となっては私のことをジャスと言うのはこの漢くらいだ! 今まで通りでいい!」

ボラス 「ふ…では、俺はもう行く」

ダイナマイツ 「なんだ? もう行ってしまうのか?」

ボラス 「貴様に勝つには、貴様の倍以上のトレーニングをしなければならない…そのためには時間が惜しい! 去らばだ!」

ダイナマイツ 「…うむ!」

そう言って、ボラスさんはすでに日も傾いているというのに走って村を出て行ってしまった。

シーラ 「私たちは、今日はこの村で一泊しましょうか?」

アルル 「さんせー! ふっかふかの布団で眠りたいもん!」

俺達はそういう事で村で一泊することになった。
今回はやたらと熱かったが…次はそんなことはないだろう…多分。








To be continued



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