勇者と魔王〜嗚呼、魔王も辛いよ…〜




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第35話 『最後の試練』





サタン 「…みんな」

アンダイン 「! サタン…あんた」

サタン 「…みんな、すまなかった迷惑かけて」

メビウス 「いえいえ! サタン様が復帰されてなによりです!」

サタン 「復帰…か、正直まだ彼女が消えたことで、どこか抜けているがな…」

ティナ 「お兄ちゃん…」

サタン 「だが、いい加減勇者も来るんだ…落ち込んでもいられない」
サタン 「それで、首尾は?」

メビウス 「え? あ…はい、現在勇者たちは旧城塞都市ビスラファスタで一泊をとったようです」

サタン 「ビスラファスタか…もう、そこまで来たというのか…」

メビウス 「恐らく後1週間ほどで、この城まで到達するかと…」

サタン 「そうか…俺もずっと現場にいなかったからな…見せてもらえるか?」

メビウス 「え…!? あ…いや…その!」

ルーヴィス 「いや、見ても面白い物ではないぞ?」

サタン 「それはそうだろうが、我々は常に勇者一行の動きをモニターしてきたんだ、たまには確認もするさ…」

ルーヴィス 「……」

サタン 「? どうしたんだ、お前ら?」

ティナ 「え…えとね、お兄ちゃん! 今ね、なんだか勇者一行が見れないみたいなの!」

サタン 「なんだと? 故障か?」

メビウス 「え、ええ! そ、そうですそうです! こ、故障しちゃって現在位置は分かるんですけど、モニターできないんですよ!」

サタン 「だったら、俺が修理する、こう見えても魔法機械の修理は慣れている」

…ふと、思ってしまう。
いつもなら、ここでセリアが[へぇ、以外にそんな特技があったんですね』…と、声を出していただろうな。
だが、今セリアはいない…。

メビウス 「あ〜…で、でもでも修理はしているんですよ? そ、その…あと2日もあれば直りますから…サタン様には〜…」

サタン 「だったら、手伝おう、あそこにあるモニター機器は非常に高価なんだ」

なんせ、たとえ世界の果てまで行っても、対象を監視できる超すごいモニター機器だからな。
原理自体は簡単だが、機器が馬鹿でかすぎて、魔王城の大部屋をモニター室にしてしまっているくらいだ。

サタン 「…とにかく、ここで話していてもしかたがない、モニター室へ行くぞ!」

俺はそう言ってモニター室へと向かう。

メビウス 「あ…待ってくださいよ!」

ルーヴィス 「…ちぃ」


アンダイン 「適当な嘘ついちゃったわねぇ…」

ペティ 「は…はうう…良い事だけど…良い事だけどぉ…」

ティナ 「お兄ちゃん…飛び出しちゃだめだよ…?」



…………。



ガチャ。

サタン 「ん…? モニターできているじゃないか」

俺はモニター室の扉を開くと、勇者を映す、ディスプレイを見る。
ディスプレイは全く問題がない。

サタン 「ん…あれは?」

メビウス (お願い、神様〜!)
ルーヴィス (いざとなったら、後ろから張り倒して記憶を消える事を祈るか?)

サタン 「勇者と…この女は…?」

メビウス 「あ…あああ…」

サタン 「…誰だ?」

ルーヴィス 「はぁ?」

後ろから、ルーヴィスの素っ頓狂な声が聞こえた。

サタン 「…この勇者と一緒にいる魔族の女は誰だ?」

俺はモニターを見ると、廃墟の片隅で勇者と謎の少女が映っていた。
モニターしているといっても明確には勇者だから、勇者の周りの物しか見れないんだよな。
普段は4人一緒にいることが多いから、気にしなかったが、今回は他の3人は別の場所にいるようだ?

メビウス 「え? ああ…その人はリリスという魔族の少女ですね、現在勇者一行がアシュター様の館まで護衛している人物です」

サタン 「アシュターの館まで? 物々しいな…何者だ?」

メビウス 「えと…こちらに回ったデータによりますと、黒の巫女という存在だそうです」

サタン 「黒の巫女? だとしたら我々の管轄外だな…異端審問会の仕事だ…」
サタン 「しかし、黒の巫女とは…勇者もアシュターもやぶ蛇だな…」

黒の巫女…今だその姿を確認できずにいる白の巫女と対になる存在。
この世にふたつある『アルティマ』の使用可能者。
ふたつの巫女は10周期に一度、不特定多数の中から2人だけが…選ばれる。
それゆえにその存在は所詮伝説の物と考える者も多い。
具体的にどういう存在かも解明されておらず、謎が本当に多い。

サタン (アルティマの特徴は産まれた時から魔力を扱うというが…)

黒の巫女はそれがたまたま、異端審問会の足元で判明したから、保護されたと聞く。
白の巫女は今だにその姿を確認されていない。
一説ではふたつ揃えば世界が消せるとされる…その力は片方だけでも、人知を遥かに超すだろうな。

サタン (そう言えば…セリアの奴…人間の割に高度な光魔法を扱えたな…まさか…な?)

ふと、セリアの事を思い浮かべてしまう。
条件だけなら、揃っているだけに…少し疑ってしまう。
だが、あの女にそんな大それた魔法が扱えるなどとても信じられん。

サタン 「…まぁ、この黒の巫女もそうか」

メビウス 「あの…あまり覗きはどうかと思いますし…それに、勇者…」

サタン 「ん? おおっ!?」

俺はモニターを見て慌てる。
勇者と黒の巫女が…。

ルーヴィス 「ほ、ほら! さっさと出て行け!」

サタン 「わ、わかっているわい!!」

俺とルーヴィスは慌てて、モニター室を出て行く。
メビウスは元々モニター係なんで、居残るが。



…………。



さて、そんな頃の勇者一行…果たしてサタンは何故驚いたのか…?
では、少し時間を遡って…。



俺達は晴れて、星空が姿を見せる夜、少し皆と離れていた。
理由は、リリスちゃんに誘われたんだが…。

レオン 「星空が綺麗だね…」

リリス 「はい、本当に…」

俺は空を見上げて言う。
夜は星空が、絨毯の様に敷き詰められるのだ。
特に北側は空気が澄んでいるのか、より綺麗に思える。

リリス 「ねぇ、レオンさん」

レオン 「ん?」

俺はふとしたリリスちゃんの言葉に、内心はかなりドキドキと反応している。
今日のムーンとセリア王女との戦闘終了後…リリスちゃんがあんな宣言出したからな。
俺は当然、慌ててそれを撤回したが…皆の目は…どこか俺を避けている気がする。
いや、たしかに俺はリリスちゃんのこと好きだよ? だけど、いきなり恋人宣言ってのはないんじゃない?
俺、そこまで節操なくないぞ?

リリス 「人間界が夜の時、魔界は朝なの知ってました?」

レオン 「いや…知らないな、てか、初めて聞いた」

魔界…魔族たちの故郷と呼ばれ、この人間界の対となる存在。

リリス 「私、生まれは魔界だけど、育ちは人間界なんです」
リリス 「生まれてすぐに、黒の巫女と判明し、その後すぐ人間界に住むメドゥーサ様の元で育ちました」
リリス 「だから、魔界のことってほとんど知らないんですよねぇ〜、魔界と人間界の時間の違いも聞いた話なんですよ〜」

レオン 「魔界には行ったことはないの?」

噂では、魔界へ行く特殊な次元を跳躍する門が存在するらしいが…。
まぁ、現に魔王サタンがこの世界に来たんだから、あるんだろうな…?

リリス 「そう、それなんですよ!」

レオン 「は…はぁ?」

リリス 「私も一度は魔界に行きたいなと思うんですけど、普通の女の子とは違うわけで、そんな自由与えてもらえないんですよ!?」
リリス 「確かに、私は黒のアルティマを継承する黒の巫女ですけど、その前に今をときめく女の子! ちょっと信じられないですよねー!?」

リリスちゃんは空に怒をぶつけるように、そう言う。
ううむ、たしかにあれだけ危険な魔法を扱うんだ、そうおいおいと野放しには出来ない物か。
でも、それじゃリリスちゃんだって、フラストレーションが溜まるわけか。
俺がリリスちゃんくらいの頃ったら、トートス村を出たこともないがな…魔族の少女って行動力豊かだな〜…。

リリス 「だから、ある意味今が一番辛いかもしれないけど、一番楽しいんですよね〜」

レオン 「え? 辛いのに楽しい?」

リリス 「勇者一行と一緒に歩いて、走って、戦って…て、これは私何もしてないけど」
リリス 「あぶない所も、苦しい局面もあったけど、移りゆく景色を眺めながら、歩く…今までの人生では考えられませんでしたねぇ〜…」

レオン 「箱入り娘か」

リリス 「? なんですかそれ?」

レオン 「リリスちゃんみたいな娘のこと」

リリス 「はぁ…?」

レオン 「…で、リリスちゃんは俺達と旅ができてよかった…と?」

リリス 「え? ええ、まぁでも…」
リリス 「やっぱり一番の理由は勇者様と、レオンさんと出会えたことかな…?」

そう言ってリリスちゃんはエヘヘと笑みを浮かべる。
言う方も言われる方も恥ずかしい言葉だな…。

レオン 「…さぁ、そろそろ戻ろうか? 今日はリリスちゃんの顔立てて俺達二人っきりにしてくれたけど」

リリス 「あ、待ってレオンさん!」

レオン 「?」

リリス 「レオンさん、目を瞑ってください」

レオン 「え? 目を?」

リリス 「はい」

レオン 「……」

俺はリリスちゃんに従い、目を瞑る。
だけど、これに何の意味が?

リリス 「…ん」

レオン 「…!」

リリスちゃんは俺の目を閉じさせたところ、いきなり唇に何か暖かい物が触れる感覚があった。
これって…!?

レオン 「リ、リリスちゃん!?」

俺は目を開けると、目の前にリリスちゃんの顔があった。
俺は慌てて、後ろに下がる。

リリス 「ふふふ…行きましょう、レオンさん!」

リリスちゃんは唇を右手の指先で押さえ、左手が俺の右手を取った。

レオン 「ねぇ? リリスちゃんがやったのって…ちょ…ねぇ!?」

リリス 「ほら! みなさん心配しますよ!?」

リリスちゃんは俺の問いには、全く答える気がないらしく、ただ俺の手を引っ張った。

レオン (おいおい…不意打ちだぜ…完璧に)

俺は仕方なくあれを不問とし、リリスちゃんと一緒にみんなの下へと帰った。



…………。



アルル 「あ、レオンが帰ってきたよ!?」

シーラ 「レオンさん、セリア王女が…」

レオン 「あ…」

セリア 「…勇者、並び黒の巫女様、この度は、私セリア・ロゥ・サーディアス、謹んで感謝の意を申し上げます…」

レオン 「あ…いえ、その頭をお上げください、セリア王女」

セリア王女は礼儀作法にのっとり、このような御前で頭を下げる。
さすがに俺もどうしたらいいか、わからずとりあえず頭を上げてもらう。

セリア 「事の経緯は既にお聞きしました」
セリア 「この度は私がご迷惑をお掛けしたようで…」

シーラ 「いえ、我々としては当然のことをしたまでで…」

セリア 「いえ、あなたたちは自らの危険を顧みず、私を助けてくださいました、これは中々できることではございません」

レオン 「まぁ、今日はもう遅いです、多少場所は悪いですが、お眠りください、寝ずの番は我々がしますので…」

セリア 「ありがとうございます、その好意はありがたく、お受けいたします」

俺達は、とりあえずそれっきりで眠りに付くことにする。
しかし、ここでセリア王女と共にいるのは何かと問題がある。
それは、明日の朝一番に話し合うとしよう。



…………。



そして…朝。

レオン 「…さて、セリア王女」

セリア 「はい」

レオン 「我々は今、魔王城を目指しています…その理由はわかりますよね?」

セリア 「この私の救出ですね?」

レオン 「はい、ですがここに来て我々は予期せぬ事態からセリア王女を救い出しました」
レオン 「ですが、同時に我々は魔王の討伐任務も下されています」
レオン 「失礼と存じますが、ご同伴願えますか?」

セリア 「謹んでお受けいたしますわ、それに私もサーディアス王国の代表として、見届けねばなりません」

シーラ 「…では、我々はこれより、魔王城を目指します」
シーラ 「その道中にて、アシュター様の館へと立ち寄ります」

エド 「まぁ、気楽にしていてください、モンスターが襲ってくれば我々が守りますので」

セリア 「ええ、期待していますわ」

アルル 「んじゃ、出発しんこー!」

俺達は朝、準備を整え、魔王城を目指す。
その途中にある吸血鬼アシュターの館までリリスちゃんを護衛するのが俺達の仕事のひとつ。
それが終われば、いよいよ魔王城突入だ。
アシュター様の館から魔王城までに街もなく、実質アシュター様の館が、最後の補給となるだろう。

レオン (ついに…勇魔大戦も終わりなんだよな…)

なんとも、長いようで…また、短いようで…。
だが、果たして俺は魔王に勝てるのか?

レオン (いや、勝つんだ…!)

疑問形にするな…確定するんだ!
そう、俺は決意を固め、歩を進める。
そして、1日…2日、3日と過ぎていき、明日の夕方にはアシュターの館へとたどり着くであろうという日の夜。


セリア 「…そうですか、勇者様もずいぶんと苦労なさったのですね」

レオン 「ええ、ですがここにいる皆のおかげで、ここまでこれました」

俺達は皆にとって最後の夜かと思うと、焚き火を囲んで、ついつい長話をしてしまう。
その中、セリア王女が俺達の旅の話を聞きたいと言ってきたので順に話して言っていた。

リリス 「私も初めて聞いたけど、結構壮絶なところあったんだねぇ…」

エド 「まぁ、当然だよな」

アルル 「うんうん、何度死ぬかと思ったか」

シーラ 「ですが、私たちは決して諦めずに戦いました、それが勝利へと導いたのでしょう」

セリア 「勇者様、こんな話を知っていますか?」

レオン 「?」

セリア 「勇者は戦士のように力も速度もない、そして魔法使いのような魔力もなければ、僧侶のような知識もない…」

エド 「……」
アルル 「……」
シーラ 「……」

セリア王女は突然、何かのウンチクを始めた。
俺は周りを見て、考えてみる。
確かに、エドほどの剣技や体術を俺は持ち合わせていない。
魔法にかんしても、アルルなんかの足元にも及ばないな。
知識はいつもシーラさん任せ、俺の知識なんてそれこそちっぽけな物。

セリア 「では…勇者にはなにがあるか…?」

レオン 「それは…?」

セリア 「勇気です、決して諦めない心、そして皆を労わる優しさ、どんなに強い敵にも挫けない心…勇者に必要なのは勇気」
セリア 「勇者様、忘れないでください、最後に勝つ者は、勇気あるものです」
セリア 「今のあなたの勇気、それを決して忘れないでください…」

レオン 「…はい!」

勇気…か。
俺の勇気…ちっぽけな俺の…。
だけど、それが魔王を倒す…か。

リリス 「あの〜、全然関係ないことになるけど〜」

セリア 「? なんでしょうか?」

リリス 「セリア王女って、好きな男性はいるんですか?」

なんと、リリスちゃん、本当に全く関係ない話を始める。
この娘本当に、恋バナが好きだな…。
そんなことを聞かれて、セリア王女も少し困ったように…。

セリア 「ほ、本当に当然ですわね…そうですねぇ…とりあえず内緒です」

リリス 「ああ〜、やっぱりそうか〜」

セリア 「そう言う、リリスさんは勇者様が好きなんですよね?」

リリス 「はい! 絶対シーラさんやアルルさんには負けないんだから!」

シーラ 「……」
アルル 「アルルだって負けないよー!?」

レオン 「おいおい、人をダシにして恋バナはやめてくれ…」

エド 「そして、全く話に出てこない、俺にも惨めになるから止めてくれ…」

リリス 「え〜? なんならここで告白合戦やっちゃってもいいんだよ?」

レオン 「マジで勘弁してくれ…」

リリス 「…だって、私…明日でレオンさんとお別れだもん…」

レオン 「あ…まぁ…順調にいけば」

そう…だな。
アシュター様の館にたどり着けば、リリスちゃんとは離れる。
それはとても寂しいことだ…。

セリア 「ひとつお聞きしてよろしいですか、レオンさん?」

レオン 「あ、はい? なんでしょうか?」

セリア 「正直にお答えください、レオンさんは誰が好きなのですか?」

レオン 「…ええ!?」

エド (うお…これは答えざるをえんぞ? どうするレオン?)

レオン 「しょ…正直に…でございますか?」

セリア 「はい、心の思うままに…」

レオン 「それは…その…」
レオン (ええい、こうなってはしかたがない…!)
レオン 「自分は…正直わかりません」

セリア 「わからない…とは?」

レオン 「今まで、人を好きになったことはございません」
レオン 「ですが、リリスちゃんの側にいると、少し胸が高鳴る気がします…」
レオン 「ですから、自分はリリスちゃんが好きなのかもしれません…」

セリア 「そうですか…レオンさん」
セリア 「人を好きになるというのは、ある種、とても不思議なことです」
セリア 「それはとても曖昧で、確信には遠く、そして不可思議、時に憎い相手が時にいとおしくなる事もあります」
セリア 「レオンさんのその気持ちが、本当に好きかは分かりかねますが、ふたりは…案外お似合いですよ♪」

レオン 「え!? えと…?」

リリス 「え、エヘヘ〜♪ レオンさん、私たちお似合いですって!」

レオン 「う…ああ、なんか…恥ずかしいな」

いざ、言われると本当に恥ずかしい。

リリス 「だけど、セリア王女、やっぱり好きな人いるんですね!? てか、恋人!?」

セリア 「恋人はいませんよ、好きな人がいるかは秘密ですが」

アルル 「う〜、でもやっぱり気になるよ〜」

シーラ 「二人とも、セリア王女がお困りです、それくらいにしましょう」

二人はシーラさんに咎められて、しぶしぶその話を切る。
その後は、他愛のない話をした後、眠りについた。
そして…。



…………。



『同日 時刻18:25 アシュターの館前』


アルル 「…おっきな館…」

夕刻、俺達はやっとアシュター様の館に到着した。
館はアルルの言うとおり、とても大きくお城の様にさえ思える。
そして館は岬にあり、近くは海だった。
俺は館の大きな、扉の前に立ち、扉を叩くと…。

ギィィィ…。

大きな音を立てて、扉が開く。
中からはメイド服の女性が出てきた。

女性 「どちら様でございましょうか?」

レオン 「あ、我々魔王城を目指し、旅をする勇者一行です」
レオン 「この度は黒の巫女の護衛を兼ねて、この館までやってきました、アシュター様にご面会したいのですが?」

女性 「勇者一行…? …お話には聞いております、ご主人様よりお通しするよう仰せつかっておりますので、どうぞお入りください」

レオン 「え…あ、はい」

女性はそう言って、中へと進める。
俺はことの手際に少し、驚きながらも中へと入った。

アルル 「どうなっているの〜?」

シーラ 「アシュター様は、この世のコウモリ全てを支配化に置くとまで、言われています…私たちの情報もコウモリたちを通して恐らく…」

エド 「なんにせよ、やっとだな…」

リリス 「……」

俺達は女性の案内で中を進んでいく。
その途中、チラリと後ろを向くと、寂しそうなリリスちゃんの顔があった。

女性 「どうぞ、この部屋にお入りください」

ギィィィ…。

女性が扉を開けると、扉は内側、部屋の中の方へと動き、中には椅子に座る一人の男性の姿があった。

アシュター 「ようこそ、勇者一行、私がこの館の当主、アシュターです」

レオン 「あ、アシュター様、俺は…」

椅子に座る男性は、身長が170センチくらい、金髪で髪は腰まで伸びる長髪。
やや細めで、笑い目だがその眼光は鋭く、喋ると見える吸血鬼の牙が少し恐怖に思える。
見た目はまだ20代くらいにみえ、とても若々しく、声も張りがあった。
蝙蝠のようなマントも特徴的だ。

アシュター 「知っておりますよ、レオンさん、そして初めましてリリスさん、セリア王女」

リリス 「あ、あの…この度は突然のことで、申し訳ありません」

アシュター 「いえいえ、あなたのことはコウモリから聞きました、この館は自分の家と思ってくれてかまいません」

リリス 「あ、ありがとうございます!」

アシュター 「ふふふ、皆さんも長旅でお疲れでしょう、すぐにご夕食の準備を致しますので…」
アシュター 「今晩、お休みする部屋も用意します、そこのあなた、案内お願いします」

女性 「分かりました、ご主人様」

アシュター様は俺達を案内してくれた、女性にさらに仕事を依頼する。
どうやら、何も気にせずとも、俺達を止めてくれるようだ。

アシュター 「ああ、リリスちゃんとセリア王女は残ってくれますか?」

セリア 「私もですか?」

アシュター 「ええ、お願いします」

セリア 「…わかりました、従いましょう…勇者様たちは先に」

レオン 「わかりました」

俺達は、二人を残して女性に従い、今日寝る部屋へと案内される。



…………。



セリア 「それで、一体どういうご用件で?」

アシュター 「セリア王女、あなたは魔王を愛していますね?」

リリス 「ええ!? せ、セリア王女!?」

セリア 「! 何が言いたいのです?」

アシュター 「ふふ、突然のご無礼、申し訳ございません」
アシュター 「お節介かと思いましたが、魔王城へと直通の魔方陣をご用意しました、勇者一行には適当に言いつくろいますのでお先に魔王城へ」

セリア 「! 魔王城へ…?」

アシュター 「魔王軍も心配しています、何よりサタンはあなたのことを本当に心から心配しておいでですよ?」

セリア 「…サーちゃんが…アシュター様、それはどこに…?」

アシュター 「この部屋の裏ですよ」

セリア 「…アシュター様、感謝いたしますわ」

アシュター 「いえいえ、どうかお気になさらず」

セリア王女はそう言って、部屋の裏に用意しているという、部屋に向かう。
私は正直、驚いてしかたがない。
きっとセリア王女は誰か好きな人がいるとは思っていたけど、それがまさか魔王とは…。

リリス (き…危険なラブロマンスね…)

セリア 「あ、アシュター様は、ひとつお聞きしますが、魔王とは面識があるので?」

アシュター 「ええ、友人ですよ」

セリア 「そうですか…それでは」

セリア王女はそれで部屋を出て行く。
残ったのは私とアシュター様だけだ。

アシュター 「さて、ここでリリスちゃんだけに残ってもらいましたが…」

リリス 「な、なんでしょうか?」

アシュター 「リリスちゃんにひとつ、お芝居をしてもらいたいんです」

リリス 「え? お芝居?」

アシュター 「ええ、最後の『試練』のお芝居です」



…………。



アルル 「ガツガツ…! ンググ!」

アシュター 「ハハハ…少し落ち着いて」

シーラ 「アルル…お行儀が悪いですよ」

夕食時、俺達は大きな食堂で、長いテーブルを囲い、夜のディナーを頂いていた。
アルルはディナーが並べられるや否や、すごい勢いで食べていた。
ディナーは今まで野宿生活が長かった反動もあり、とても豪華な物だった。

レオン 「ご夕食まで用意してもらって、申し訳ございません」

アシュター 「いえいえ、お風呂も大浴場がございます、あとでお入りください」

アルル 「あ! お風呂はアルルが一番ね!」

エド 「はいはい」

リリス 「……」

レオン 「…? どうしたのリリスちゃん、食欲がないね?」

リリス 「え!? あ、な、何でもないですよ〜あはは〜」

レオン 「?」

リリスちゃんはなんだか、ぎこちない笑顔を浮かべた。
一体どうしたんだろうか?
もしかして、今日で俺達との旅が終わるのが寂しいのかな?

リリス (試練のお手伝い…か、簡単だけど…アシュター様って…)

こうして、夕食も楽しく過ごすと、俺達は部屋でくつろぐことになった。
部屋は男部屋と女部屋に分かれており、俺はエドと一緒にベットに座っていた。



レオン 「…いよいよ、魔王城も目の前だな」

エド 「ああ…その前にこんな夢のような場所で眠れるとは救いだぜ」

レオン 「そうだな…最近街についても潰れてた、潰れたの連続でまともに休めなかったからな…」

エド 「こういう時にめいいっぱい休んどこうぜ?」

レオン 「ああ…だけど、一つ気になるんだが…セリア王女」

セリア王女は夕飯には顔を出さなかった。
長旅の性で眠ってしまっていたそうだが…。
なんとなく、気になってしかたがない。

エド 「おいおい、相手は王女様だぜ? 俺達の旅になれない奴がついてきたら疲れてしかたがないだろう?」
エド 「だいたい、こんなフカフカのベットがあったら俺だってすぐ眠っちまうよ」

レオン 「それもそうか…」

確かに、エドの言うとおりだ。
セリア王女だって、疲れているだろうからな。

コンコン!

レオン 「ん? あ、はーい」

俺は扉を叩かれて、すぐに部屋を出る。

女性 「勇者様、エドワード様、夜分申し訳ございませんが、アシュター様がお呼びです…どうか私についてきてください」

レオン 「え? あ、はい」

エド 「…一体なんだよ?」

女性 「…どうぞ、こちらです」

俺達は、女性に従いついていく。
途中シーラさんと、アルルにも合流し、あるひとつの大きな部屋に着いた。

女性 「この部屋にお入りください」

レオン 「みんな…」

シーラ 「なにか嫌な予感がします…気をつけて」

レオン 「うん…」

ギィィィ…。

俺は意を決して扉を開く。
すると中には…。

アシュター 「ようこそ、勇者一行!」

リリス 「れ、レオンさん! 助けて!」

レオン 「! リリスちゃん!? これはどういうことですか!?」

中に入ると、中は何もなく、アシュター様とリリスちゃんがいた。
だけど、リリスちゃんは檻の中に閉じ込められており、俺に助けを求めていた。

アシュター 「見ての通りです、勇者レオンよ、彼女を助け出したいのなら、この私と一騎打ちをしてもらいたい!」

エド 「なんだと!?」

アシュター 「これは試練ですよ…最後の試練…それは勇者レオン、あなたへの試練で終わります!」

レオン 「!」

試練…セイレーン様が言っていた。
アルルはバシュラウクの森で試練を終え、そしてシーラさんもセイレーン様との戦いで試練を越えた。
エドも、たった一人でメドゥーサ様を倒し、試練を越えたんだ。
そして…俺の番がきたのか…。

アシュター 「本気で戦ってください、さもなければリリスさんは殺します」

レオン 「…俺が勝てば、リリスちゃんを助けてくれるんですね?」

アシュター 「保障します、ただし、勇者一行、レオンさん以外は手出し無用です」

シーラ 「…く」
アルル 「そんな…いい人だと思ったのに」
エド 「く…そんなに甘くねぇか」

レオン 「みんな…手出しは無用だ、任せてくれ」

シーラ 「気をつけてください、アシュター様は過去に2代前の勇魔大戦で勇者と共に魔王を倒したほどの猛者です…」

レオン 「! 俺達の大先輩ってことか…そりゃ強そうだ」

アシュター様から異様なほどのプレッシャーを感じる。
この人の強さは普通じゃ無さそうだ。
少なくとも俺が感じるプレッシャーはリアウの森でサタンと遭遇した時と同等だ。
神と対峙するよりもプレッシャーを感じるなんて…。

レオン (下手すれば…セイレーン様やメドゥーサ様よりも強い!?)

リリス 「レ、レオンさん〜…」

レオン 「待っててくれ、リリスちゃん! 必ず助けるから!」

俺はリリスちゃんを励まし、フランツェを抜く。

アシュター 「ふふふ、行きますよ」

アシュター様も、片手剣のようで、フランツェより一回り大きな剣を使っていた。
見たこともない剣で、まるで神器に見える。

レオン (神器…か、神器だとすれば何かしら特殊能力があるはず…)
レオン 「くそ! いくぞーっ!!」

アシュター 「はぁ!!」

ガキィィン!!

俺はアシュター様に切りかかる。
アシュター様は剣を両手で持ち、剣と剣がぶつかり合う。

レオン 「くぅっ!?」

弾き返された、剣力はアシュター様の方が上か!?

アシュター 「ダークブリッド!」

ビュンビュンビュン!

離れた瞬間、アシュター様の手から、無数の闇の玉が出てくる。
俺は瞬時に魔法を唱え。

レオン 「光の理よ、闇を貫く閃光となれ、ライトアロー!」

ヒョオゥ! ズッガァァァン!!

レオン 「くぅっ!?」

ライトアローとダークブリットがぶつかり合い、爆発を起こす。
俺はそれに少し怯みながらも、次の行動に移っていた。

レオン 「くっ! 貫け、フランツェ!」

俺は剣を構え、アシュター様に切りかかる。

アシュター 「…ふ!」

アシュター様は剣で防ごうとする。
だが、フランツェの特殊能力『貫通』の前にそんな行為は無意味だ!

ガキィィン!!

アシュター 「ひとつ、対処法がありますよ! それは私が剣を持たない!」

レオン 「な…!?」

アシュター様は一瞬、俺が剣を叩く瞬間、手を完璧に離した。
確かに俺は貫通の特殊能力を使った、だが、剣の持ち手がいなかったら貫通した先に攻撃は届かない!?

アシュター 「はぁ!」

レオン 「!? ぐほぉ!?」

俺はアシュター様に腹部をけられ、吹っ飛ぶ。

レオン 「く…くそう」

俺は腹部を押さえながら、立ち上がり剣を構えた。

アシュター 「能力に頼ってはいけませんよ」

レオン 「が…学習しましたよ…それにしても、一瞬とはいえ剣から手を離すなんて…」

俺ならとても怖くて出来ないな。
もし、剣がそのまま弾かれようものなら、いきなり丸腰だった。
だけど、アシュター様はそれをまるで気兼ねくやってきた…。
レオン (嫌な予感はビンゴだ…! この人…セイレーン様より強い!)

肉体的な強さで言えば、セイレーン様の方が強いだろう。
だけど、アシュター様は戦闘のプロだ…俺の戦術があっさりと覆された。
こういうのを…戦闘の天才っていうのか?

レオン 「く…絶体絶命だな…だが!」

俺はまたもやアシュター様に突っ込む。
同じ手は通用しない!
今度は…!

レオン 「閃きたる光よ、破壊の力となりて彼の者を爆ろ! シャイニングボム!」

カッ! ドカァァァァン!

アシュター 「むぅっ!?」

レオン 「てぇりゃああっ!!」

俺は魔法を放ち、アシュター様の動きを止める。
そしてすぐさま、切りかかるが、ここでもう一つ。

レオン 「片手持ちだぁ! てぇい!!」

アシュター 「むっ!?」

ガキィィン!!

俺は左手でフランツェを持ち、横薙ぎに剣を振る。
アシュター様は剣の腹でそれを受け止めた、だがここまでは予想通り内!

レオン 「蹴られたら蹴り返す!!」

ドカァァ!!

アシュター 「ぐっ!?」

アシュター様の顔が歪む。
俺の奇襲攻撃が決まった!
決定打にはならないが、一発入れて見せたぜ!

アシュター 「ふ…ふふ、やりますね…最後の一撃、戸惑いましたよ」

レオン 「……」

アシュター 「ですが、フォローがなってない、あれじゃ決定打にならない」

そう、決定打にはならない。
それが、時に致命傷になることさえある。
そして、今が正にその時な気がした。
アシュター様のプレッシャーが増したからだ。

アシュター 「さて、そろそろ本気を出しましょうか」

レオン (ちっくしょう…やっぱり手加減してたか! こちとら全力だってのに!)

アシュター 「本来はあまり使いたくはないのですが、特別にあなたには見せてあげますよ…この能力!」
アシュター 「ルキフグス、威圧しろ!!」

アシュター様が剣を掲げると、突然プレッシャーが固体化したような気がした。
突然、俺の視界がぶれる、そしてまるで体が動かなくなる。

レオン (な…なんだよこれ…アシュター様を直視できない!? こ…この恐怖…こ…殺される…?)

気がつくと足が震えていた。
まるで…まるで蛇に睨まれたカエルの気分だった。

シーラ 「う…うう…この波動は…?」

エド 「くそ…俺達までプレッシャーでうごけねぇ…」

アルル 「ふ…ふぇぇぇ…怖いよ〜…誰か助けてぇ…」

リリス 「れ…レオンさん…」

アシュター 「ふふふ、この剣の名はルキフグス、その特殊能力は威圧」
アシュター 「領域支配系の能力で、私以外のすべての者に強烈なプレッシャー恐怖感を与えます」
アシュター 「領域支配系の能力は強力ですが、あまりに無差別に敵味方かまわず効果発揮してしまうのであまり使いたくはなかったのですが…」
アシュター 「私に一撃を入れたのは実に700年ぶり…あなたに敬意を払い、使いました」

レオン 「あ…ありがた迷惑ですね…」

俺は声を出すことでさえ苦しかった。
なんとか、アシュター様を視界に捕らえるが、まるで揺れていて平衡感覚がない。
アシュター様がこれほど、恐ろしいとは…。
恐怖感だけで、相手を殺せるのか…。

アシュター 「ふふ…はぁ!」

レオン 「う…うわぁ!?」

ガキィィン!!

俺は慌てて防御するが、ガードが甘く、剣の上から吹き飛ばされる。
俺は地面に倒れてしまった。

レオン (だ…だめだ…勝てない…殺される…?)
レオン 「死ぬ…死んでしまう…いやだ…いやだ…死ぬのは嫌だ…」

だけど、体が動かない。
動かないと死んじゃうのに…怖くて。

リリス 「れ…レオンさん…! ま、負けないで…! 自分を…信じて! 勇者とは…なんなの!?」

レオン 「!? リ…リリス…ちゃん?」

リリスちゃんは俺達よりより恐怖を感じているはずなのに、俺を励ましてくれる。
勇者とは…?

(セリア 「勇気です、決して諦めない心、そして皆を労わる優しさ、どんなに強い敵にも挫けない心…勇者に必要なのは勇気」)

レオン (勇気…! そうだ…俺は…何を…やっているんだ…)
レオン (立て…立つんだ俺! 立てよ! 俺ッ!!)
レオン 「う…うおおおっ!!」

俺は立ち上がり、フランツェを両手で構える。

レオン 「しょ、正直…俺は何をやってもアシュター様に勝てる気がしない」
レオン 「実際、アシュター様の強さは俺の何倍も凄いんだろう…だけど、俺は諦めない!」
レオン 「何故なら俺は…勇者だからだぁぁぁぁっ!!」

俺は剣を振りかざし、アシュター様に小細工なしで、突っ込む。

レオン 「俺には勇気しかない!! 俺の勇気は…あなたのプレッシャーには屈さない!!」

俺が剣を振り下ろそうとしたその時…。

カァァァァァァァァァァァ!!

シーラ 「!? フランツェが今までにない輝きを…!?」

突然、フランツェが輝きだす。
この感覚…アンダインと戦ったときと同じ!?

? 『我が求めるのは勇気…汝の勇気、ついに我へと届いた!』
? 『我はゼウス、光にして全能の神ゼウス! 我を振るえ! そして唱えろ!! 我はすべてを常へと帰す!』

レオン 「帰せ、ゼウス!! そして喰らえー!!」

カァァァァァ!!

アシュター 「!? く…これは!?」

ガッキィィィン!!

物凄い光と共に俺はルキフグスを叩き、弾いた。

シーラ 「? プレッシャーが消えた?」

アシュター 「…ふ、ふふふ、お見事です」

レオン 「フランツェが…更に変わった…これが、俺の神器の本当の姿、そして名はゼウス」

俺は今までフランツェだったものを見る。
ゼウスは大きさこそフランツェの時と変わらないが、その姿は最初の時…ただの聖剣だった頃に戻っていた。
これが、ルシファーさんのくれた、俺の神器…だったのか。

アシュター 「…お見事です、レオンさん…」
アシュター 「私の負けです、そしてよく応えてくれましたね…」

レオン 「セリア王女の教えがなければ…そしてリリスちゃんの応援がなければ負けていました」

アシュター 「ふふふ…それがゼウスですか、ルシファーから聞いてはいましたが」

レオン 「! ルシファーさんを知っているんですか!?」

アシュター 「ええ、知り合いですから」
アシュター 「それより、その神器のことを説明しましょう」
アシュター 「その神器の名はゼウス、特殊能力は回帰と貫通」
アシュター 「貫通とはフランツェの時に解放された能力で、問題は回帰の能力の方ですね」
アシュター 「簡単に言うと、すべての神器や魔法、アイテムの効果を元に戻します」

レオン 「それが…回帰の能力?」

アシュター 「有は無から生み出されます、ですがその過程で有は再び無へと戻る…そう、回帰とは無へと戻る方法です」
アシュター 「そして、それは魔王サタンの神器への唯一の対抗手段です」

レオン 「魔王への?」

アシュター 「魔王の神器、ディアボロスは私のルキフグス同様、領域支配系の能力」
アシュター 「その効果は、闇属性を守護に持つ者以外、すべての者の能力を激減してしまう」

レオン 「能力の激減って…」

アシュター 「恐ろしいですよ、100キロの錘を持ち上げられたとして、それが50キロしか持ち上げられなくなる…」
アシュター 「ですが、その回帰の能力はそんな効果さえ、無へと戻してしまう、あらゆる神器のアンチとなる能力なのです」

レオン 「ゼウス…すべてを無へと戻す神器…」
レオン 「そうだ! リリスちゃん!?」

リリス 「え、えへへ♪ おめでとうレオンさん!」

レオン 「!? リリスちゃん!?」

リリスちゃんは檻に閉じ込められていたはずなのに俺の目の前にいた。

リリス 「私ね、アシュター様に頼まれて芝居していたの」

レオン 「芝居?」

リリス 「どんなに、レオンさんが危なくなっても、絶対に勇者の勝利を信じて、そして励ましてあげてと」
リリス 「そんなの頼まれないでも、って思ったけど難しいね、念を押して言った意味が分かったよ…」

そうか…ルキフグスの威圧…あれ、声さえまともに出せなくなるもんな。
それなのに、リリスちゃんは俺のために…。

リリス 「…ありがとう、レオンさん」

レオン 「俺の方こそ、リリスちゃんのおかげで勝てたよ…ありがとう」

アシュター 「レオンさん、自分の勇気を忘れないでください、最後に勝つ者は…」

レオン 「勇気あるもの…ですね?」

アシュター 「その通りです」

エド 「…やったな、レオン!」

シーラ 「お見事です、レオンさん」

アルル 「さっすが、レオン! これでみんな試練を越えたね!?」

気がつくと、仲間が俺を囲んでいた。
そうだな、俺もなんとか試練を越えたのか…。
試練を受けるということ…これだけ恐ろしいことだなんて初めて知った。
だけど、俺は強くなった。
今なら、魔王にもきっと、対抗できる!

アシュター 「さて、それではお風呂にで入って、お眠りください、疲れたでしょう?」

俺達はアシュター様の、言葉に甘えて、その日は風呂にはいって眠りに付くのだった。
旅の疲れもあっただろう…その日はぐっすりと眠ることが出来た。



…………。



アンダイン 「!? セリア!?」
セリア 「…ただいま帰りましたわ」

アンダイン 「ちょ…サ、サタン!」

サタン 「!? セリア…」

セリア 「サーちゃん…」

それは突然だった。
突然、正門を通ってセリアが帰ってきたのだ。
俺達は、突然のことに戸惑いを隠せなかった。

セリア 「全く…酷いですわ、ずっと待っていたのに迎えに来てくれないなんて…」

サタン 「あ…あれは…」

セリア 「サーちゃん、ただいま…あんまり迎えに来てくれないから、こっちからきちゃった…」

セリアは涙を目に浮かべ、そう言う。
俺はそれを見て…。

サタン 「おかえり、セリア…ごめんな、ずっとセリアに不安をかけて…」

セリア 「ううん、サーちゃん、会いたかった…うぅ…」

アンダイン 「ちょ…みんなー! セリアが帰ってきたわよーっ!?」

シーザー 「セリアさま?」

ペティ 「セ、セリアさま〜!」

メビウス 「お帰りなさいセリアさま!」

スケルトン 「自分馬鹿ダカラワリマセ〜ン」

ルーヴィス 「お帰り、セリア」

ティナ 「セリアさま、お怪我はありませんか!?」

ヴァルキリー 「いやぁ、良かった良かった! 無事で何より!」

セリア 「皆さん…」

サタン 「皆! 今日は宴だ! セリアが帰ってきたんだ! 豪勢にいくぞ!」

ルーヴィス 「ふ、料理は任せろ、今日は特別に7つ星レストランに負けない料理を振舞ってやる」

ヴァルキリー 「お酒も無礼講よね?」

ティナ 「セリアさまは主役です! さぁ、こっちこっち!」

セリア 「ふふふ…待ってくださいな、ティナちゃん♪」

サタン 「よかった…本当によかった…」
サタン (これで、心置きなく俺は勇者と戦える…!)
サタン 「いつでも来い、勇者よ…勝つのは俺だ!」








To be continued



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