勇者と魔王〜嗚呼、魔王も辛いよ…〜




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第36話 『決戦前夜』





レオン 「……」

パチパチ…パチパチ…!

魔王城への突入前日。
俺達は最後のベースキャンプを行っていた。

レオン (ついに…やってきたんだよな…)

勇魔大戦勃発から10ヶ月あまり…ようやく、戦争終結へとこぎつけようとしている…。

レオン (セリア王女は…魔王城へと帰った…)

それはアシュター様の館を出る時のことだった。
アシュター様本人の口から、セリア王女は魔王城へと帰ったことが伝えられた。

エド (聖騎士団にギリギリで入団して、初任務で敵前逃亡…挙句の果てに辞職して、サーディアス王国主催の武道大会に出たら、レオンに誘われたんだよな…)
エド (世の中なにが起きるか本当にわからないな…だけど、この戦いも明日終わるのかな…?)

アルル (両親を赤ん坊の頃失ったアルルはリアウの森に住むじっちゃんに育てられた)
アルル (魔法使いとして育てられ、いずれ来る勇魔大戦に備えた…そしてアルルはレオン達と出会った)
アルル (今までみんなと笑ったり泣いたり、共にしてきたけど…これで最後なのかなぁ? もう一緒に笑ったりはできないのかなぁ?)

シーラ (私はゾディ・アックが人工的に生み出したホムンクルス…ゾディ・アックのために生き、ゾディ・アックのために死ぬ…)
シーラ (だけど、それでいいのだろうか…? 私はこの仲間たちが何よりも大切です…絶対に失いたくない…)
シーラ (許してください、我がゾディ・アックの神よ…私は明日…ゾディ・アックとしてではなく…勇者一行の僧侶として戦います…)
シーラ (どうか、この罰当たりな女を、今一時だけ、お許しください…)



…………。



『同日 同時刻 魔王城』


メビウス 「そこ、バリケードお願いします!」

ルーヴィス 「いよいよ、明日決戦か…」

シーザー 「1年近くの長い戦いでした…」

アンダイン 「ほら、そこ手を休めない! 今は人手が足りないんだから!」

スケルトン 「自分、馬鹿ダカラワリマセーン」

アンダイン 「ほら、スケルトンだってちゃんと働いているのよ!?」

私たちは、今明日くる勇者へと備えをしていた。
ここにいる戦力はそう多いとは言えない。
だけど、ようはサタンが勇者レオンに勝てばいい、それ以外はどうなってもかまわない。
できるだけ、勇者一行の力を削ぐ必要がある。

アンダイン (後は…サタン次第だけどねぇ?)



セリア 「あ…サーちゃん」

サタン 「…! セリア…」

俺は準備に追われ、魔王城を走り回っているとバタリとセリアに遭遇してしまう。

セリア 「いよいよ…明日なのね?」

サタン 「ああ、セリアはいつもの部屋に居ていてくれ…明日ここが戦場になる…」

セリア 「…怖いわ、サーちゃん」

サタン 「セリアが気にすることじゃない、お前は助けられる側だ」

セリア 「ううん、サーちゃんが死に急ぐ気がして…」

サタン 「…俺だって死にたくはないさ、勝ってこの勇魔大戦を終わらせてやる…」
サタン 「何回も同じ展開じゃマンネリだ、たまには魔王が勝ってもいいんじゃないか?」

セリア 「…サーちゃん、がんばって」

サタン 「! ふ…囚われの姫がいうセリフじゃないな…だが、その言葉万の兵力より心強い…」
サタン 「ありがとう、セリア…」

セリア 「…うん」

俺はそう言って、セリアを部屋へと戻す。
セリアは終始不安そうだった。

セリア 「それじゃ…準備、頑張って…」

サタン 「ああ…あ! セリア!」

セリア 「なんですの?」

サタン 「もし、勇魔大戦が終わったら、俺とデートしてくれ!」
サタン 「もう一度、あの噴水へ行こう!」

セリア 「! ええ…よろこんで」

俺は最後の最後に、言っちまう。
ちょっとタイミング間違えたかと思ったが、俺にはもうこのタイミングしか思いつかなかった。
それを聞いたセリアは笑顔で…答えてくれた。
俺は笑って、セリアの部屋の扉を閉じた。

ティナ 「…お兄ちゃん」
ペティ 「サタン様ぁ〜…」

サタン 「! お前ら、ヴァルキリー様と一緒に安全な場所に行ったはずじゃ?」

俺は明日、ここが戦場になるということで、非戦闘員のティナとペティには退去命令を出していた。
ヴァルキリー様も何だかんだでずっとここに居たが、ティナとペティを安全な場所へ送ったら、職務復帰してもらう手筈だったはずだ。

ヴァルキリー 「ごめんね、サタンちゃん」

サタン 「! ヴァルキリー様、どういうことですか?」

ティナ 「ごめんなさい、お兄ちゃん! だけど、私たちだけ安全な所にはいけない!」

ペティ 「力には…なれませんけどぉ…最後まで、見届けさせてくださいぃ〜…」

サタン 「ダメだ! 危険すぎる!」

ヴァルキリー 「この娘たちは私が責任もって守るわ、だから居させてあげて…この娘たちは安全な所に居る方が不安なのよ…」

サタン 「ヴァルキリー様…く! 勝手にしてくれ!」

ルシファー 「…全く、荒れているねぇ」

サタン 「! ルシファー!? 今がどういう事態かわかっているのか!? 監査官が何の用だ!?」

突然、ルシファーまで現われる。
今日は今までで一番賑やかだな。

ルシファー 「なぁに、親友を援護に着ただけだよ」
ルシファー 「それに、護衛任務も兼ねているからね…」

サタン 「護衛? 誰のだ?」

ルシファー 「ふふ、さぁね」

ルシファーは意味の分からない俺をあざ笑うようにとぼけて見せた。
ルシファーの表情から、それが誰かは読める様子はない。

サタン 「…まぁいい、勝手にしていてくれ、ただし! 邪魔するなよ?」

ルシファー 「大丈夫だよ、ふふふ」

俺はルシファーに釘を打って、エントランスへと戻る。

サタン (勝負だ…勇者…!)



…………。



『同日 某時刻 リアウの森:ゴールの村』


ホブゴブリン 「……」

俺は空を見上げていた。
半年前、勇者がここにやってきた。
俺、村の子供たち人質にとられ、勇者一行と戦った。
でも、勇者一行のおかげで、子供たち助けられた。

ホブゴブリン (勇者一行…俺、この恩絶対忘れない…)
ホブゴブリン (勇者一行…頑張れ)



…………。



『同日 某時刻 港町ウォンティーゴ』


ウンディーネ 「…今日はやけに水のマナが騒いでいるわね…」

私は今日も一日の仕事を終え、夜の賑わいを見せるウォンテーゴの港で海を見ていた。
アンダインとの一件以来、険悪だった人族と魚人族の仲は、また元に戻り、かつてのように共存する生活が当たり前になった。
ひとえ、勇者一行の力も大きい。

ウンディーネ 「アンダイン…あなたはやっぱり魔王軍として戦っているの?」
ウンディーネ 「私は…神霊族、水の精霊のウンディーネ…私は精霊として勇者一行の勝利を祈ります…」

水のマナの様子を見ると、恐らく明日には勇魔大戦の決着が付くのでしょう。
魔王は強い…あれほどの強さを誇った魔王はそう多くはない…。
だけど、レオン君なら…きっと勝てるわ。

私は両手を頭の前で組、少し顔を下に傾けて、祈りを捧げた。

ウンディーネ (どうか、勇者一行に水のご加護を…)



マー 「勇者一行…今頃どうしているのかマー?」

マーフォークの男 「さぁなマー! それより今日も騒ぐマー!」

人族の男 「おおよ! 俺達海の男は毎日お祭り! 小さいこと気にするなー!」

マー 「マ、マ〜…」

自分は少し、今日に限って勇者一行が気になった。
自分は戦争は嫌いマ〜…だから、この街の仲直りを手伝ってくれた、ウンディーネ様と勇者様たちには感謝感激マー。

マー (勇者一行様、どうか旅のご無事を…)



…………。



『同日 某時刻 バシュラウクの森:ダークエルフの村』


アルク 「ハク、またオールドウィロウの木が成長していたね」

ハク 「キィ〜!」

私は白竜のハクの背中にブラシをかけながら、今日のことを話していた。
賢者様さえ巻き込んでしまった、あの時の事件…あれ以来私とハクは毎日オールドウィロウの様子を見ていた。
嵐の日は頑張って、苗を護り、雨が降らなくて干からびそうな時は、水を撒いた。
賢者様が、自らの命を賭して護ってくれた大事なオールドウィロウの苗、私たちエルフはそれを守らないといけない。

アルク 「賢者様、大丈夫かな?」

ハク 「キィ?」

私はブラシをかけながら、勇者一行の魔法使いとして頑張る賢者様を気にする。
賢者様にかかったら、どんな魔法使いも敵わないと思うけど…。

ガル 「恐らく、明日には勇者一行も魔王サタンと対峙することになるだろう…」

アルク 「長老様?」

私がハクにブラシをかけていると、小屋の中に長老が入ってきた。
長老は明日には決戦があるという。

ガル 「ハク…アルク、勇者一行のために祈りを捧げるのじゃ…村の衆皆が念をこめれば、きっと届く」

アルク 「祈り…」
アルク (賢者様…負けないで)

ハク 「キィ…」

私は祈りを込める。
賢者様は無敵…大丈夫、絶対に…。



…………。



『同日 某時刻 バシュラウクの森:カフェ フィーター』


従業員 「お待たせいたしました! 森クルミのパフェです!」

キエン 「いっただっきまーす♪」

僕は久しぶりに、フィーターへとやってきた。
頼むのはこの店の看板メニュー、森クルミのパフェ。
銀のスプーンで掬い、口に運ぶ。

キエン 「うう〜ん、やっぱりここのパフェは最高だね♪」

僕も世界中のグルメを食べ歩いてきたけど、やっぱりここのパフェが一番美味しい♪
ちょっと辺境な地にあるのがネックだけど、それがグルメのやる気を倍増させるね!

キエン 「最後に来たのは…そうだ、勇者一行と一緒に食べた時だったっけ…」

僕はデッキケースから、カードを一枚取り出す。
僕の神器、カイザードラゴンだ。
カードの具現者は同じ者を引き寄せるという伝説がある。
それは本当だったのか、僕はタイラントの所有者と出会ってしまった。
アレ以来あっていないけど、きっとまた対峙することになるのだろう。
彼も言っていたしね。

キエン 「勇者一行はグルメ食べてるかなぁ?」
キエン 「美味しい物は心に栄養を与えるからね♪」

僕はそう言ってまた、パクリとパフェを食べる。
ほんのり甘いのが格別だねぇ♪

キエン (勇者一行、美味しいもの食べて頑張ってね♪)



…………。



『同日 某時刻 東部:コーシール高原』


ヒュオオオオオ…!

コーシール高原は、標高1200メートルもの高い位置に存在する。
それゆえにとても気温は低く、そして空気は薄い。
この地に住む魔物はとても凶暴で、また隔離された環境が独自の生態系を育んだ。

マリス 「リーナ…私たちはここで運命の転機を迎えたな…」

リーナ 『ええ…ゾディ・アックにはめられて、私はここで死んだわ…』

マリス 「それもこれも、全部ネウロの性だ!」

私は自身の体を共有するリーナと語りあう。
思えば、私たちも若かった。
あの時、報酬の金額に目がくらまなければ、今の様に体を共有する必要はなかったのに。

リーナ 『ごめんなさいね…マリス』

マリス 「いい、気にしないでリーナ」

私たちは、マリスという人格とリーナという人格が同居した二重人格。
だけど、リーナはネウロのブラッドバレッドを喰らい、その体はボロボロでとても、生きられる体ではなかった。
だから、私はゾディ・アックの生体サンプルになるも、リーナの命を助ける方法を選んだ。
私の体をベースに、リーナの体と魂を融合させたのだ。
だから、メインは私でリーナはいつも影となっている。
人族としての生体部品が使われているから、リーナが前にでると、体もひとぞくのそれに変わるが、すべてが変わっているわけじゃない。
たとえリーナの状態でもその体の7割はやはり私の体なのだ。
私の体に頼らないといけないほど、ネウロの魔法のダメージでリーナの体は壊れていたのだ。

リーナ 『でも、シーラは変わったわ…勇者一行と旅をしたことはきっと彼女をいい方向へと運んでくれた』

マリス 「だが、私は個人はネウロを信用していない…やつは根っからのゾディ・アックだ」
マリス 「ゾディ・アックである以上危険性は高すぎる」

リーナ 『でも、シーラの言葉に嘘はなかったわ』

マリス 「所詮ペルソナの仮面かもしれんぞ?」

リーナ 『なんにせよ、この勇魔大戦に彼女の力は必要不可欠だわ』
リーナ 『マリスも祈ってあげて…シーラを』

マリス 「ち…お人好しめ…」

リーナはトコトンお人よしだった。
あの女はなんの気兼ねもなく、自分を殺したのだぞ?
それだけじゃない、奴が手がけたテロは数知れないんだ…。

マリス (くそ…ネウロ、リーナ感謝しろよ? この私がお前の勝利を祈願してやっているんだからな…!)

リーナ (シーラ、そして勇者一行…どうか、無事で)



…………。



『同日 某時刻 トートス村:シャムの工房』


シャム 「ほい! 完成だよレミィ!」

レミィ 「はい、マスター」

あたしはレミィの新兵装を開発し、レミィに装着させた。

シャム 「そいつが、第4種兵装、以前のP−36との戦闘での反省点を踏まえて、開発された兵装だよ?」

レミィ 「右腕にバンカー、左腕にはアンカーが装備されているようですが?」

シャム 「一応、これまで兵装のおさらいをしておくさね」
シャム 「まず、第一種兵装、いわゆる試験タイプ」
シャム 「こいつは、ターミネイトレーザーとレーザーブレードを装備した、最もスタンダードなタイプだね」

こいつは一番レミィにとっても取り扱いが楽さね、故にP−36戦はこいつで行っちまったがそれが運のつき…。
火力が足りなかったわけだ。

シャム 「んで、あたしの趣味で開発したのが第2種兵装、まぁ、一撃粉砕型だね」

こいつは第4種兵装と同じく、パイルバンカーを装備しているタイプなんだけど、第4種のに比べて大分大型だ。
長さ1.4メートル、杭の太さは厚さ50ミリ、杭の射出時には相手に10トン近い衝撃を与えるさね。
た・だ・し、使っちまうとレミィの右腕がその衝撃に耐えられず、潰れちまうさね。
よって、最強武器ながらファイナルアタック的、問題武器なわけさね。

シャム 「んで、次に出来たのが軍部の要請で考えた物の、危なすぎて知らん振りしちまった悪夢の第3種兵装…」

こいつはマヂでヤヴァイ。
まず両腕、両足を第3種兵装用にフレーム換装を行わなければならないさね。
そして右腕には第一種兵装でも使用しているターミネイトレーザー兼レーザーバルカンの兵装チェンジを出来るハイブリットランチャー。
レーザーバルカンは秒間700発ぶっ放し、10メートル先の戦車だって穴あけちまう。
そして右腕がより出力を強化し、大型化したものの絶大な威力を誇るH・Lブレード。
Lブレードの2倍近い出力で繰り出されるレーザーブレードは刀身にして2倍、更に威力も上がっている。
上手く使えば光波も放つことができ、単に接近戦用の武器には収まらない差ね。
そして、バックパックに装備されているのが…対戦術兵器『テラブレイク』。
バックパックから6機のユニットを射出。
おおよそ5キロ先に円を描くようにして、地面に突き刺さる。
この間はこのユニットが避雷針代わりになり、マキナの弱点である電撃を吸収してしまう。
さらに恐ろしいことに、大地から吸収する地殻エネルギーを吸収、チャージし約4分30秒後に円の中にいるすべての生物にマイクロウェーブ兵器で殲滅する。
マイクロウェーブを受けた生物は、細胞が振動を起こし、細胞が膨張…最後はボン! っと爆発してはいオシマイって兵器さね。
生物である限りこれから逃れることは出来ず、草木さえも破壊してしまう最悪の戦術兵器さね。
さらにユニット電撃を受けるとその威力分だけエネルギーチャージされてよりテラブレイク発動を早めるだけさね。

シャム 「まぁ…こいつはあたしの使用許可とパスワードの入力がなければ、プロテクトに引っかかって使用できないさけどね」

それでも、各部強化外骨格から出される身体能力は普通じゃないさし、まさしく最強の兵装さね。

シャム 「んで、今回開発したのがこの第4種兵装さね!」

第4種兵装は第2種兵装で使用していたパイルバンカーの杭を小型化、杭の長さも1メートル、太さも37ミリに下がり威力を落としたさね。
そうしないとレミィの腕が負荷に耐えられない、だけどそこで考えたのがこの左手のアンカー。
アンカーユニットを敵に向かって射出し、敵にアンカーを食い込ませるさね。
このアンカーはバリアーなどにも食い込むから、この前のP−36戦への問題点解消も大丈夫さね。
そして、10トンの重さにも耐えうる、超強力ワイヤーを1トンの重さも引っ張るモーターで撒き戻し、敵を接近させる、ないしはこっちが猛スピードで引っ張られる。
その速度を利用して、バンカーを敵にぶち込むさね。
これで、レミィへの負荷を減らすと同時に威力の結果的上昇も出来たさね。
ただ、この兵装だとターミネイトレーザーもレーザーブレードも装備できないから、凡用性にかけるさね…。

シャム 「さて、んじゃ、大仕事も終わったし寝るさね」

レミィ 「……」

シャム 「? レミィどうしたさね」

レミィは自分の腕を見ながらボーとしていた。

レミィ 「マスター、レオンさんは無事でしょうか?」

シャム 「んん? そうさねぇ…きっと無事でやっているよ」
シャム 「あいつはこの村が生んだ勇者だからねぇ…それより、レミィ、心配なのかい?」

レミィ 「肯定が1、条件付き肯定が2で心配だと出ています」

シャム 「はっはっはっはっは! レミィが人の心配さぁか! いいねぇ…いい傾向だよ」
シャム 「だったら、祈るさね、レオンの無事をおね」

レミィ 「祈り…祈祷…人間の感情を満足にさせる行為、ですが私はマキナです意味がありません」
レミィ 「それよりも、レオンさんへの援護の方が効果的です」

シャム 「じゃあ言うさね、ここから魔王城まで行って、今からレオンたちの助けになれる思うさね?」

レミィ 「…100%不可能と断定」

シャム 「だろうねぇ…遠すぎるさね、だから祈るさね…」

レミィ 「…了解しました、祈りを捧げます…」

シャム (レオン…レミィはあんたのおかげで心を学んだよ…感謝するさね、そして頑張れ)



…………。



『同日 某時刻 東部:成来 儚館』


コクマー 「…はぁ、今日も店じまいっと…」

俺は閉店時間なんでもう、店じまいをする。
宿屋っつっても、24時間開いているわけじゃない。
時間が来たら、来客御免だ。

コクマー 「占いによると、明日が戦争終結…か」

この東の国、シンでは占いはとても頻繁に行われている。
ちょっと魔術の知識があるものならだれでも占いが出来るくらいだ。
当然、俺も占いはできる。
てか、結構好きだ。
ただし、俺のごくつぶしの親父は占いは全く信じないタイプだ。
宿屋が占いできてなんになるときやがった。
おまけに、占いを信じるとは女々しい奴だの一言。
俺は女だっつーの!

コクマー 「はぁ…自分に突っ込み…馬鹿らしい…」
コクマー 「アルルのやつ…大丈夫かな?」

ふと、心配になる。
一応まぁ、同門だしな。
修行時代は結局俺は属性的な相性もあり、アルルには一回も勝てなかった。
いくら氷魔法をぶっぱなしてもアルルの炎には敵わなかったからな…。
だが、アルルは全く接近戦はできない。
そこらへんは勇者一行なんだし、仲間がカバーしていると思うけど。

コクマー 「久しぶりに師匠のところに行ってみるかな…」

だが、あのごくつぶしの親父が絶対認めるわけがない。
だから、行くのなら黙って行くしかない。
しかし、そう上手くいくかね?
昔修行に行った時には、親父を酔い潰して行っちまったが、同じ手が通用するか?

コクマー 「ま、今俺に出来ることは店の管理と、アルルの戦勝祈願だけだな…」

というわけ、頑張れアルル…。



…………。



『同日 某時刻 レイスの街』


レイスの街は神隠し騒動も収まり、また活気を取り戻していた。

ディース 「たく…だけど、まだ死霊が残っているらしいねぇ…たくあの馬鹿ハーデスめ…このあたしに命令しようとはいい度胸だ…」
ディース 「いつか、ギャフンと言わせてやる!」

というわけで、あたしは夜を狙って、レイスの街を徘徊していた。
街はとても賑やかで、夜店も多く開いている。
全く、人間ってのはすごいねぇ…よくやってるよ…。

ディース 「…と、あいつぁ…」

あたしはちっちゃ動物の幽霊を見つけた。
ハーデスの話じゃ死霊は聖職者13人も殺した、かなりやばい奴らしい。
それが、この街に引っ越してきたから、以前担当だったろ、難癖つけられ退治しにくる羽目になっちまったよ。
人の業は人で拭えばいいだろうに…まぁ、人で対応できないから派遣されちまったのか…。

ディース 「ちょっと、そこのワンちゃん、ここらにとびきりヤバイ死霊が居るらしいんだけど知らない?」

犬の幽霊 「ワン? ワンワン!」

ディース 「おっと、案内してくれるのかい? ありがたいねぇ」

ワンちゃんの幽霊はあたしをそいつのいる場所まで連れて言ってくれるらしい。
そして、突いた先は…。

ディース 「…教会…かい」

犬の幽霊 「ワンワン!」

なんで、死霊が教会にいるかね?
まぁ、逢ってみるか。

ギィィィィ…。

とりあえず、扉を開く。
すると…。

死霊 『ぐかか…? 聖職者じゃないな…?』

ディース 「あらま…あんたが巷を騒がす死霊様かい?」

あたしの見つけた死霊は体長10メートルほど、ご丁寧に今聖職者様を食っているところだったようだ。

ディース 「はぁ…一応勧告するよ? さっさと冥府へと来な! 死人なら死人の居場所ってのがあるよ!?」

死霊 『くかかか! 俺はこれまで聖職者を14人も殺し、力を蓄えたのだぞ!? 貴様を15人目の犠牲者にしてやる!』

ディース 「あっそう…!」

ドスッ!!

あたしは一振りの剣をかざし、そいつで死霊を突き刺した。

死霊 『くか? かかか! 馬鹿め、幽霊に物理的な攻撃など通用…!』

ディース 「馬鹿はあんた…自分の体を見な?」

死霊 「くか? かっかかか!? か…体が剣に食われてるぅぅっ!?」

ディース 「コイツの名は『ソウルイーター』、その名の通りあんたらゴーストに特効の剣さ…きついだろ? 魂が喰われる様子は?」

死霊 『ば…馬鹿なぁぁ…14人もの聖職者を殺したこの俺が女一人にぃぃぃ…!?』

ディース 「ひとつ間違えているよ、あたしは人じゃない、死神さ」

死霊はそのままソウルイーターに美味しく頂かれた。
ま、神の敵じゃなかったね。

ディース 「この分なら、ジャグマオンの方がよっぽど強敵だったよ…」
ディース 「そういや…勇者一行どうしてるかね?」

ま、神に勇魔大戦なんて関係ないけどね。

ディース 「ワンちゃん、あたしと一緒にくるかい? アンタなら天国へ行けるよ?」

犬の幽霊 「ワン! ワンワン!」

ディース 「よし、こんな所で自縛霊になる必要なんて無いわ、ハーデスには私が言いくるめてやるよ」

私はワンちゃんの幽霊を抱えると、冥界への扉を開く。
そこで死者はハーデスの審判を受け、地獄へ行くか天国へ行くかが決められる。
あいつは…ハーデスは一応冥府を統べる、冥王だからね。

ディース (とりあえず、面倒だから死人送るんじゃないよ、勇者一行?)



…………。



『同日 某時刻 聖歌の谷』


ラァァァ…ラァァァ…♪

セイレーン 「ラァァァァァ…♪」

私はハーピーたちと共にこの谷を駆け巡る聖歌を歌う。

セイレーン (シーラ、私たちは毎日欠かさず雨の日も風の日も、歌っています…)
セイレーン (そして、お祈りしていますよ…あなたの無事を…シーラ、自分の心を信じなさい…)

ラァァァァ…ラァァァァ…♪

セイレーン 「ラァァァァ…♪」

私たちの歌が、聖歌の谷にこだまつる。
優しい奏が、聖歌の谷に響く。
どうか、今日もこの世界が平和でありますように…。



…………。



『同日 某時刻 沈黙の森』


メドゥーサ 「そうかい…無事リリスはアシュターの館にたどり着いたわけか」

私はアシュターのところからやってきたコウモリの使いに報告を受ける。
どうやら、勇者一行は無事任務を終えたみたいだね。
後は、魔王との決戦か。

メドゥーサ (エド…あんたは大丈夫かい? あんたを信じてあんたに試練を下した…その結果強くなれただろう?)
メドゥーサ (だけど、過信しちゃだめだよ? あんたはあくまで戦士…その本分を忘れちゃだめだ)
メドゥーサ 「あんたは、このあたしに勝ったんだ…負けんじゃないわよ?」



…………。



『同日 某時刻 ゴルガ荒野』


黒羽 「ち…! はぁぁ!」

ザシュウウッ!!

人族の男 「ぐぼぉっ!?」

ドサァァ!!

黒羽 「貴様らゾディ・アックだな…数に頼っても所詮は烏合の衆か…」

私は虎鉄を両手で構え、私を囲む20人あまり人族の集団を威嚇する。
ここ最近、ずっと見られていることに気付いたが、いい加減こっちから手を下すことにした。
所詮、数に頼る集団…一人一人の実力などたかが知れているな。

男A 「く! おのれぇ!」

黒羽 「はぁ!!」

男A 「がっ!?」

私は手早く、襲ってきた男を切り裂く。

黒羽 「どうした? それが本気なのか?」

男B 「て、撤退だ! 撤退!」

黒羽 「ふん…軟弱者めが…」

男たちは蜘蛛の子を散らすように退散していった。
私は血を拭い、虎鉄を鞘に収める。

黒羽 (私は弱くはないか…だが強くもない)

勇者一行と旅をしていた時はなんと自分は小さきものかと思ったが、世の中には私より小さい者も多いのだな…。
だが、あの程度に満足するわけにはいかん。
なにせ、まだ自分の神器すら扱えぬのだからな…。

黒羽 「…勇者よ、負けるなよ? お前が負けたら私はそいつより弱いことになる」

そいつは癪だ。
魔王だろうが邪神だろうが負けてもらっては困る。



…………。



『某日 某時刻 竜の住む山』


ダイナマイツ 「でぇぇぇりゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」

ズッドォォォォォン!!

ドラゴン 「ギャアアアアアッ!?」

ズシィィィィン!!

私はとある山でドラゴンと戦っていた。
私が戦っていたのはエルダードラゴンという種でその体長は50メートルにも及ぶ。

ダイナマイツ 「これだけの大物! これならば奴にも負けんだろう!」

そう、私はこの時とある男と一緒にいた。
その男は今は別の場所に居るが、きっと大物ドラゴンを倒していることだろう。
そう、その男とは…。

ボラス 「ふ…甘いな、ジャスよ…このヴォルカニックドラゴンを見よ!」

ズッシィィィィン!!

ボラスはこれまた超大物のドラゴンを仕留めていた。
ちゃんとみねうちで殺してはいないようだが、所々竜鱗をも砕く、打撃痕があった。
どうやら、派手にやったようだな。

ボラス 「ふはは! このドラゴンのサイズ! 僅かではあるが貴様の仕留めた獲物より大きいわ!」

ダイナマイツ 「なんの! たとえ小さくともエルダードラゴン! ヴァオルカニックドラゴンより手ごわいぞ!?」

ボラス 「むぅ…まぁいい、互いこれ程の大物を仕留めたことはないだろう…引き分けとしておこう」

ダイナマイツ 「うむ…そうだな」
ダイナマイツ (そういえば、勇者一行はもう魔王城だろうか?)

私はふと、度々共に行動した勇者一行を思い出す。
私と違った若さを持った彼ら、苦労も多いだろうがきっとなんとかしているだろう。

ダイナマイツ (祈るというのは野暮というものでしょうな…!)

私はボラスと共にしとめた2体のドラゴンを見る。
お互い、まだまだ限界がないな!



…………。



『同日 某時刻 アシュターの館』


アシュター 「さて、いよいよ最終楽章もフィナーレといったところですか」

遥か昔、誰も覚えていないほど昔、とある青年が剣を取った。
魔王は世界を闇に包み、人々に恐怖を与えた。
青年は勇者となり、魔王を倒した。
後に人はそれを『勇魔大戦』と云う。

アシュター (かつて私も勇魔大戦を戦いました…辛い戦いでした)

700年前のことです…今よりふたつ前の勇魔大戦。
私は自らの清算の為、勇者と共に戦いました。
その時の魔王の名は、ドラキュラ=リヒカイト。
私の父でした。
父は少し間違った勇魔大戦を起こしました。
勇魔大戦は混沌を調和へと変える方法。
ですが、父は調和を生むことを考えていなかった。
ただ、狂気の欲望が父を支配しました。
だから、私は誤った勇魔大戦を起こし、魔王と化した父を討ちました。

アシュター (勇者よ…どうかその勇気を忘れずに…)



リリス 「レオンさん…」

私は館の照らすから星空を眺めていた。
アシュター様の話だと、明日には魔王との戦いが始まるという。
魔王はとても強い…アシュター様でも勝てるかは難しいという。

リリス (負けないで…レオンさん!)

私には祈ることしか出来ない。
私は非力だ、こんなことしかできないなんて…。

リリス 「だけど、ひとつだけ最高のおまじないをかけます」

私の知っている一番、強力な魔法の言葉…。

リリス (レオンさん…『絶対』大丈夫! だから、負けないで!)

絶対の魔法。
メドゥーサ様が言っていた。
絶対と言う言葉は、最高の魔法だって。
だから私は祈ります。
レオンさん、絶対勝って!



…………。



『同日 某時刻 魔王城前』


レオン 「…明日、決戦だ…!」








To be continued



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