勇者と魔王〜嗚呼、魔王も辛いよ…〜




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第2部 ゾディ・アック編


前編 『動き出す時代』




『それは…勇魔大戦が終了して1ヶ月余りが過ぎた時のこと…』



『4月某日 時刻10:44 魔王城』


サタン 「…いよいよ、魔王城ともお別れか…」

俺はもはや誰もいない魔王城のテラスにいた。
勇魔大戦の終了と同時に、われわれ魔王軍は解散、皆それぞれの生活へと戻った。
俺は魔王として死ぬことは出来なかったが、この勇魔大戦、あながち失敗に終わったとは思ってはいなかった。
とりあえず、一旦魔界の実家に帰って、身の整理をしたらもう一度人間界に戻ってこようと考えている。
魔王城は、もう魔王ではないので放棄ということになるな。
代々、使われ続けてきた魔王城…俺達の戦いでボロボロになってしまったが、後の仕事は次の世代の魔王の仕事だ。
すでに妹のティナはヴァルキリー様と共に、一足お先に魔界へと帰っていった。
ヴァルキリー様はしばらく仕事をサボりっぱなしで相方である魔神ジーニーに迷惑かけたと、連絡もくれず仕事に勤しんでいるようだ。
既に魔王城から全ての荷物は運び出され、最後に俺がここを出て行けば晴れて魔王城はその使命を終えることとなる。

サタン 「ありがとう…魔王城」

今まで、俺達を護ってくれた我が家、これからは本来住むべきである我が家へと帰る。

ペティ 「あ…あのぉ〜…サタン様ぁ〜…」

サタン 「…後の問題は…ペティか」

メビウスも一旦ティナとともに魔界へと帰り、もはや城に残っていたのは俺とペティのみ。
魔王軍のそれぞれが自分の道を歩み、袂を別った中、ペティのみが行き場を持たなかった。
元々、俺が道しるべだと言って、我が(元)魔王軍に着いたくらいだ。
結局何の意味かはさっぱり分からず、終戦を迎え、今でも俺と一緒に居る。

サタン (行き場がないっていうから、家に引き取ることになったとはいえ…)

結局ペティが何者なのかはさっぱりわからん。
以前行った健康診断ではペティは存在マナが異常に多く、DNA魔力素数が異常に少なかった。
種族的にも見た目はコウモリの羽などからピクシー種に似ているが、それとは違い分類不明のUNKNOWN種だということがわかる。
ただ、大別的に一番分類として近しいのは…。

サタン (神族…)

そう、ヴァルキリー様たち神族にペティは近いのだ。
だが、神族とも若干違い、神族よりかは人間に近い…中間神族といったところか?
どうにも、そういった怪しい事柄から、専門知識も豊富な俺が適任ということで預かっているのだ。

サタン 「…で、どうしたペティ?」

俺は何やら困った顔をしているペティに聞いてみる。
ペティはどういうわけか、言語回路を司る前頭葉に問題があるらしく、若干言葉を使うのがおかしい。
よく、口ごもり、まともに会話が出来ないのは口下手なのではなく、そういう障害のせいのようだった。

ペティ 「あの…そのぉ…セ…セリア様が…来た…んですけどぉ…そのぉ…」

サタン 「! セリアが?」

なんとペティはセリアがやってきたと言う。
セリアは国へと戻り、王女としてサーディアス王国で暮らしているはず、こんなところにわざわざ来たと?

ペティ 「で…でもぉ…そのぉ…」

サタン 「その…なんだ?」

ペティは何か問題があるのか、口ごもり言葉を捜していた。

ペティ 「い…いないんですぅ〜…ちょっと目を離したら…いなくなってぇ…」

サタン 「!? なんだとっ!? どういうことだっ!?」
サタン 「いや! そもそも、どうして今日魔王城を去るこの日にセリアが!?」

俺はセリアが消えたという言葉に焦り、ペティに問いただす。
だけど、ペティはそんな俺に怯えるようにして…。

ペティ 「そ…そんな…こと…言われ…まして…もぉ…その…はうぅぅ…」

? 「セリア王女は、あなたの見送りのため、わざわざ無理をして魔王城まで来たのですよ…」

サタン 「!? 誰だっ!」

突然、ただならぬ気配を感じた。
いつの間にか族が城に潜入したのか!?

サタン 「!? お前は…!?」

その声の主は、俺の真後ろにおり、その人物には見覚えがあった。
黄色い左目とピンクの右目のオッドアイ…。
ピンク色の美しく腰まで伸びた長い髪。
手に持たれた見たことのない書物。
そして、神官のような白い装束に身を包んだ、19〜20位の若い女。

だが、それ以上にその女の背中には…。

サタン 「貴様は勇者一行の僧侶シーラ!? セリアをどうする気だ!!」

俺は激しくシーラを威嚇し、気絶したセリアをその背中に背負っているシーラをにらみつけた。
だが、シーラは冷静に…。

? 「少し、間違えています、私はネウロ…ゾディ・アックの乙女のネウロ」

サタン 「ネウロ…いや、それよりゾディ・アックだとっ!?」

ネウロ 「白の巫女はゾディ・アックが頂きます」

サタン 「!! ふざけるなっ!!」

白の巫女…後々俺もルシファーから聞いていた。
セリアは過去に勇魔大戦の最中、俺の不注意でアビスに攫われた。
その力を目に付け、白の巫女の重要性のために。
そのために…それだけのために…また攫われるというのか!?

サタン 「貴様が誰でもかまわん! セリアを攫うというのなら容赦はせんぞっ!?」

俺はディアボロスを手に取り、構える。
シーラ(本人はネウロと言っているがどっちでもいい)はそれを見て、ややセリアを庇うように。

ネウロ 「取り返しますか?」

サタン 「当たり前だ! 今度こそ俺はセリアを守る!!」

ネウロ 「…いいでしょう、あなたは本来死ぬべき人物、私が殺してあげますよ」

そういうと、シーラのネクロノミコンが輝きだす。
物凄い力を感じる…これが、神器ネクロノミコンか!?

サタン 「俗物がっ! この力の前にひれ伏すがいい! 包め! ディアボロス!」

俺はディアボロスを掲げ、ディアボロスの特殊能力『魔導』を使う。
闇の加護を受けぬ物は、これにより能力が激減する!

ネウロ 「…それが、ディアボロスですか」

サタン 「たとえ、貴様は女でもセリアを攫うのなら容赦はせん!!」

俺はシーラに全力で切りかかる。
たとえ、魔導に包まれたとはいえ、相手はネクロノミコンの継承者! 手加減できん!

サタン 「はぁ!!」

ネウロ 「ふ…」

ブォン!!

俺はセリアを傷つけぬように注意しながら、シーラを真っ二つにしにかかった。
しかし、俺が剣を振った瞬間シーラは俺の目の前にはいなかった。

サタン 「!? 後ろだと!? ちぃぃ!」

ビュオン!!

俺は気配を後ろに感じ、シーラも見ずに剣を真横に薙いだ。
しかし、やはり当たらず、シーラはセリアを背負ったまま半歩後ろに下がっただけだった。

ネウロ 「当たりませんね」

サタン 「…く!? 馬鹿な…魔導の影響下でそれほどの能力が引き出せるはずがない!」
サタン 「貴様の勇魔大戦の時の実力から考えても、それほどの速度を出せるわけがないぞ!?」

シーラの動きは半減しているはずにも関わらず、俺のスピードを凌駕していた。
まさか…魔導が効いていない!?

ネウロ 「不思議そうですね、ですが私はちゃんと魔導の効果を受けていますよ、おかげでセリア王女が少し重いです」
ネウロ 「ですが、それでも私は負けません、私はゾディ・アックの威信を背負っています…この程度では臆しません」

サタン 「ちぃ! 戯言をぉ!!」

ガッ!!

俺はシーラに再三ディアボロスを振る。
だが、今度はシーラの左手に白刃取りをされてしまう。

サタン 「な…!?」

ネウロ 「この程度ですか、魔王も勇者もたかがしれていますね、デポデットを使う価値もない」

サタン 「嘘…だろ!? 俺の斬撃を左手の…それも人差し指と中指だけで受け止めただと!?」

しかもだ…俺は力を込めているにも関わらずディアボロスを動かすことは出来なかった。

サタン 「貴様…化物か…!?」

ネウロ 「…はぁ!」

ドッ! ドッカァァ!!

サタン 「!? ぐは…!?」

ペティ 「サ…サタン様ぁ!?」

俺は突然目には見えない力に吹き飛ばされ、魔王城の壁に叩きつけられる。
くそ…なぜ…?

ネウロ 「所詮勇魔大戦で使っていた力は全体の30%程度…あのヴァルキリー様でさえ、私の力を40%引き出せたに過ぎない…」
ネウロ 「ですが、今の私はゾディ・アックのネウロ…手加減する必要は無いのでしてね…力は全体の80%ほどでお相手しています」

サタン 「まだ…全力でないというのかぁ…?」

俺の体は全身激痛が走り、立って喋るのがやっとだった。
化物にも程がある…ゾディ・アックの怪物の話は聞いたことがある…なんでも、一夜にして3つもの巨大都市を嘆きの海に沈めたとか…。
その化物の力…どうやら俺は見誤っていたらしい。
俺なんかが…敵う相手じゃない…。
悔しいが…これが神族クラスの強さなのか…?

サタン (いや…ちがう…神族を越えている…ホムンクルスは…神族を越えたのか…?)

ヴァルキリー様は仮にも第3等級神…。
今のシーラは…主神クラスの力があるというのか…!?

ネウロ 「…白の巫女の輸送が私の任務です、そろそろ行かせてもらいましょうか…」

サタン 「…! く…セリアーッ!!」

シーラは体が宙へと浮き始める。
一気に逃げる気か…!?

サタン 「…逃がすかぁ!! たとえ地の果てまでも俺は追いかけるぞ!!」

俺は気力を振り絞り、シーラを追う。

ペティ 「あ、サ、サタン様ぁ〜!?」

後ろからぺティが叫ぶ、だが俺は振り返る余裕は無い。
全力で俺は逃走するシーラを追っていた。
辛うじて見失いはしない。
体の激痛が気になるが、俺はセリアを救いたい一心でそれを跳ね除けた。

ネウロ 「ふふ…」

サタン 「!?」

突然、シーラがこちらを確認するように振り返ると微笑した。
そして次の瞬間…。

ヒュンッ!!

サタン 「!? 馬鹿な…消えた…?」

突然シーラが俺の目の前から消えうせる。
以下に『魔導』の射程外とはいえ、俺の目をごまかせるはずは無い…。

サタン 「…? この音は…?」

俺は今どこかから変な音を聞き取った。
俺は目を瞑り、感覚を研ぎ澄ます。

ヴゥゥゥゥゥン…。

サタン 「? 地面から何か音が?」

地面に何があるのかはわからない。
だが、確かに何か聞こえた。
俺は試しに地面を割ってみる。

ドッカァァァ!! ガラガラァァッ!

地面を割ると、一気に地面が崩れ去る。
なんと地面は空洞だったのだ。

ヒュッ! シュタッ!

俺は空洞へと降りると、そこが異様な場所だと気づく。

サタン 「なんだ…? よく見ると金属の塀に囲まれた通路じゃないか…」

そう、地下には謎の施設があり、床も壁も天井もよくわからない金属で覆っていた。
魔王城から1キロ2キロ程度離れたここに、なぜこんな地下施設が…?
ちなみに、俺の割った場所の天井も金属だったようだが、俺の斬撃には耐えられなかったらしいな。

ヴゥゥゥゥゥゥン…。

サタン 「一体、この音はなんだ?」

この通路の奥から聞こえる謎の音。
何かが振動するような音とでも言えばいいのか?
マキナの起動音にも似ている気がする。

サタン 「…セリアは…シーラはここに逃げ込んだのか…?」

俺には断定できない。
だが、この場所でやつは消えた。
ということは、どこかにあった入り口からここへと逃げ込んだ可能性が高い。

サタン (…ここがゾディ・アックの施設とするとまさかこんな魔王城の近くにあったとはな)

俺は意を決して通路を進む。
音のする方へと進めば、きっと何かあると思った。
そして気の遠くなるような長い距離をまっすぐ進んだ先のことだった…。



…………。



ヴゥゥゥゥゥン…。

サタン 「…広いな」

俺は通路の先に一つの地下フロアに出た。
100人くらいは入れそうな広いドーム上のフロアだ。
そして、フロアの中央に不気味な音を立てる機械があった。
俺は警戒しながら機械に近づくと、それがなにかやばい物だとわかった。

サタン 「!? あれは…たしか黒の巫女!?」

俺は中央に鎮座する機械の中にサングラスのようなガラスに内包され、眠っているように動かないリリスとかいう女を発見する。
死んでいるのか眠っているのかはわからない。
だが、なぜこんなところに…しかも機械の中で!?

レオン 「…サタン…!」

サタン 「!? 勇者…レオンだと!?」

なんと、俺が来たルートとは別の通路からレオンが現れる。
どうやら、このフロアは入り口が複数あるようだった。

サタン 「レオン…なぜこんなところに?」

レオン 「とぼけるなっ!!」

サタン 「? なにをだ?」

なんだか、レオンの様子がおかしい。
まるで怒りに我を忘れているようで、俺をにらんでいる。

レオン 「なぜ、リリスちゃんを攫った! 貴様、この期に及んで何を企んでいるんだ!?」

サタン 「!? 俺が黒の巫女を攫っただと…? 一体何を勘違いしている?」

レオン 「あんたは…そんなことする男じゃないと信じていた…だが、俺がお人好しだったみたいだな…」
レオン 「リリスちゃんは俺が助ける! お前を倒してっ!!」

サタン (聞く耳持たずか…どうして俺が黒の巫女を攫った犯人になっているかは知らんが…)
サタン 「いいだろう…まずはお前との勝負の決着をつけてやろう!」

レオン 「うおおおおっ!!」

レオンは猪突猛進にゼウスを片手に切りかかってくる。

サタン 「はぁっ!!」

俺は迎え撃つようにディアボロスを振るった。

キィン!!

神器と神器がぶつかり合い、火花が散る。
衝撃に互い、体が後ろへと傾くが、次の攻撃へと互いすでに移っていた。

レオン 「輝きの理よ、光の手玉となりて敵を弾け、ライトボール!」

サタン 「ダークボール!!」

ズドォォォン!!

両者の魔法が近距離で相殺する。
衝撃で更に2メートルは吹き飛ばされた。

レオン 「ち…さすがだな」

サタン 「…貴様もな、さすが元勇者だ」

レオン (しかし…悪意は全く感じないな…どういうことだ? シーラさんはサタンがリリスちゃんを攫ったと言った…)
レオン (だが…とてもサタンがリリスちゃんを攫ったとは思えない…第一理由性が無い)
レオン (シーラさん…嘘をついたのか…?)

サタン (レオン…か、つくづく因縁だな、だが俺もセリアを救わんとならん、こいつに勝てないようではシーラには勝てん!)

レオン 「次の一撃で…貴様の真意を探る! いくぞ!!」

レオンは剣をやや上に構えると、白いオーラが見える。
光のマナが収束し、剣へと集まる。

サタン (シャイニングストラッシュか! ならば!)

俺も同様に闇のマナを集める。
やつが必殺の技を放つなら俺も放つまでだ!

? (ふふふ…争え、そして死に絶えろ、この世に貴様たち二人は危険すぎるのだ…互い喰らいあって自滅するがいい!)

サタン 「はぁぁっ!!」
レオン 「うおおおおっ!!」

俺たちはまるであの勇魔大戦の時の再現のごとく切りかかった。
しかし、互いの剣がぶつかり合う直前。

キラァン!!

サタン 「!?」
レオン 「なっ!?」

ズドォォォォンッ!!!!

突然、閃光が走った。
俺たちは予想外の攻撃に合い、爆発に飲まれた。




…………。
………。
……。




『1週間後…魔王城』


アンダイン 「みんな、よく集まってくれたわね」

シーザー 「…当然です」

エド 「つってもたった3人じゃねぇ…」

俺たちは今、魔王城にいる。
実は先週、ここで戦闘があったらしく、サタンが行方不明になったそうなのだ。
そして、その現場を目撃した、証人に会いに俺たちは来たわけだ…が。

ぺティ 「は…はうぅぅ…」

このぺティが、その肝心の現場を目撃した証人なんだが…。

エド (証言できるのか?)

いささか、疑問だ。
シーザーさんの話によると、言語中枢が壊れているらしくまともに喋るのも難儀だとか。

アンダイン 「ぺティ、先週ここで何があったのか…教えてくれる?」

ぺティ 「は…はいぃ…じ、じつはぁ…そのぉ…」

ぺティちゃんはとてもゆっくり、そして回りくどく話し始める。
俺たちはそれが仕方の無いことと理解しつつ、耳を傾けた。

ぺティ 「セリア…様が来てぇ…それを…ネウロって人が…えと…その…攫ってぇ…」

エド (…信じられねぇよな…普通は)

ネウロ…それはシーラさんのゾディ・アックでの名前だと聞いている。
つまりだ、シーラさんがセリア王女を攫ったと、この娘は言っているのだ。

ゾディ・アックははなから信じてはいない。
だが、シーラさんは信じれた。
命がけの旅をともに続け、勇魔大戦の終結のため、頑張った仲間だ…なのに。

エド (いきなり…セリア王女を攫った…なんてな)

だが、勇魔大戦の終結宣言がセリア王女の口からサーディアス王国で放たれたあの日から…シーラさんは忽然と俺たちの前から消えた。
確かに俺は北側でシーザーさんと一緒に剣術修行の旅に出ていたからみんなとは会えなかったが、それでもレオンやアルルとは連絡が取れた。
にもかかわらず、唯一シーラさんとだけは連絡が取れなかったのだ。

アンダイン 「それで…?」

ぺティ 「は…はいぃ…それでぇ…サタン様がぁ…そのネウロと戦ったけどぉ…そのぉ…まるでぇ…歯がたたなくってぇ…」

エド (信じられない話その2)

あの絶対無敵の魔王がシーラさんに負けた?
確かにシーラさんは超絶的な力を持ったお人だ。
だが、魔王に勝てない理由はその神器にある。
ディアボロスの特殊能力『魔導』は闇属性の者以外の能力を半減させるという能力らしい。
いかにシーラさんでも半減した能力で魔王に勝つなど考えられない。
だが、現実に俺たちは4人の行方不明者を知っている。

エド (サタンとセリア王女とリリスちゃんと…そして、レオン)

今どこにいるのか…さっぱりわからない。

ぺティ 「そ…そしてぇ…サタン様はぁ…逃げる…ネウロを…お、追いかけてぇ…行っちゃっいましたぁ〜…」

アンダイン 「…要約するとこうね…セリアはなぜかこの城に訪れていた」

シーザー 「だが、そこにシーラが現れ、セリア王女を誘拐」

エド 「んで、サタンを圧倒して、そのまま逃走、サタンはそれを追って行方不明」

とりあえず、簡単にだが意見がまとまる。

アンダイン 「にわかには信じられないよね…あのサタンが勝てないなんて…」

シーザー 「しかし、実際にセリア王女は行方不明…」

エド 「ま…十中八九、白の巫女の力を目当てにゾディ・アックが攫ったわけだ」

白の巫女の力は絶大だ。
あのアルティマを目当てに過去にアビスがセリア王女を攫った。
ゾディ・アックが攫ってもなんら不思議ではない。
その気になれば世界を破滅させることも可能な力だ。

エド 「とりあえず、次の証言を得るために、次の目的地に行きません?」

アンダイン 「そうね、ぺティ、来なさい」

ぺティ 「は…はいぃ…」

俺たちは早速次の証言を得るために、次の目的地に向かう。
次の目的地はリリスちゃんのいた、あの吸血鬼アシュターの館だ。
ここから半日歩けば着くくらい近いので今日中には着くだろう。



…………。



アシュター 「やぁ、よく来ましたね皆さん、早速お茶の用意でも…と言いたい所ですが…」

俺たちはアシュターさんの館に来て、びっくりだった。
アシュターさま自身は無傷、しかし…その…館が…。

アンダイン 「何があったら…館がこんなにぼろぼろに?」

そう、アシュターの館は本人とは裏腹に、今にも倒壊しそうなほど、外見からすでにボロボロだった。
穴だらけで雨が降ろうものなら大惨事…というほどやばい状態だった。
というわけで、中は危険なので俺たちは入り口でアシュター様の歓迎を受けていた。
メイドさんたちも外で全員待機しており、その平然とした様子には少し驚かされる。

アシュター 「私もリリスを護るのに全力でしてね…館がもたなかったんですよ」

エド 「そんな強敵だったんですか?」

アシュター 「いや、ただの戦闘員さ、ただ数は400あまり」

エド 「400〜!? それを一人で!?」

アシュター 「ええ、ですが…護りきれず…無念です」

なんとアシュターさまは一人で400人近くのゾディ・アック兵士を迎え撃ったそうだ。
しかし、数に圧倒され館はボロボロになるわ、リリスちゃんは攫われるわ踏んだり蹴ったりだったようだ。
もともと木造の建物だからな…戦闘には無理だな。

ギギギギ…。

アシュター 「?」

エド 「…あ」

館が軋みを上げる。
次の瞬間。

ズッドォォォン!!

見事に大黒柱の折れた館は縦に倒壊した。
木片が巻き上がり、ちょっとやばい。
だが、一番やばいのは領主のアシュターさんだ。

アシュター 「…リフォームするより、新築したほうがよさそうですね…」

意外と冷静だった。

アンダイン 「手ごろな家、紹介してあげましょうか?」

アシュター 「うれしい申し出ですが、ここに新しい屋敷を立てるまでで十分ですよ」

エド 「えと…とりあえず、魔王城に戻りましょうか?」

シーザー 「そうですな…これでは休むに休めません」

本当はアシュターさんの館で一泊する予定だったが、倒壊してしまったので仕方が無い。
俺たちはアシュターさんとメイドさんたちを連れて、魔王城へと向かった。



…………。



勇魔大戦が終わってからの一ヶ月あまり…。

それは、まさに世界が今、一番平和をかみ締めていた時期でもあった。
俺たち勇者一向も魔王軍もそれぞれの道を歩み始めたんだ。
レオンはトートス村へと帰った、家には家族もおり、平穏に農作業をしながら、時々剣術修行をしていると手紙が来た。
アルルも実家に帰ったそうだ、今は前シンの成来で出会ったコクマーさんと一緒にいるんだそうだ。
肝心のシーラさんはさっぱり、まるで行方知れず。
俺はというと、シーザーさんと一緒に真の剣豪を目指すべく共に修行の旅に出たわけだ。

魔王軍も、アンダインはどこに言ったかというとなんとウンディーネさんのいるウォンティーゴの隣町シャルルーに居たそうだ。
姉が心配なら一緒にいればいいだろうに素直じゃないもんだ。
ルーヴィスさんはルシファーさんに連れられて魔界に行っちまった、異端審問会ってところが用があるそうだが…。
スケルトンは…しらねぇな、もう昇天したのか?
ティナちゃんとメビウスってのは魔界の実家に帰ったそうだ。

まぁ、それぞれがそれぞれ、色々あるにせよ平穏に過ごしていた。
だけど、考えればわかることだ。

俺たちは魔王軍と戦い、戦争を終結した。
しかし、アビスも…ゾディ・アックも壊滅したわけじゃない。
勇魔大戦は終わったが…俺たちの戦いは終わったわけじゃなかったんだ。

エド (そして…ゾディ・アックが牙を剥いた…)

と・は・い・え。

ズズズ…。

アシュター 「…はぁ、お茶が美味しいですね、たまには緑茶もいいですな」

シーザー 「ええ、紅茶もよろしいですが、この緑茶独特の苦味もまた…」

エド (この緊急事態に…なんともまぁ…)

呑気な物である。
だが、今は晩飯の後、食後のお茶には誰もが和やかになるものだ。
かく言う俺も緑茶をずずっと啜っているのだが…。
シーザーさんの勧めで緑茶を飲み始めたが、すっかり虜になってしまったのだ…。

ズズ…。

もう一度、湯飲み茶碗に入った緑茶を啜る。
はぁ…和む。

エド 「とりあえず、整理するところ、二人の巫女はゾディ・アックに攫われたことだ」

シーザー 「そうですな、まぁ、目的は概ね理解できるような気もしますが…」

アンダイン 「でも、アビスの時とはちょっと違うわね…」

ゾディ・アックの目的。
元々、ゾディ・アックは人族以外を信用せず、迫害をする存在だ。
唯一絶対神とかを信望する宗教集団なわけだが、これがかなりの狂信者集団。
なんせ、人族以外は死すべしな考えの連中が集まっているわけだが、魔族のいる町なんか、平気でテロ行為を行うわけだ。
これで滅んだ町や村も少なくない。
まさに、国際テロ組織なわけだな。
さて、まぁ誰でもわかることなんだが、あの二人の巫女にはとある絶大な魔法がある。
まぁ…究極魔法『アルティマ』なわけだ。
こいつを用いれば、一つの街を消滅させるなんて造作も無い。
ここで、ゾディ・アックがこれまでやってきたことを当てはめれば答えが出る。

ゾディ・アックは必ず粛清に『アルティマ』を使う。
そして、『アルティマ』という凶器は、世界征服の道具となる。
まぁ、簡単だよな…アルティマに対抗するにはアルティマしかないのに、この世でそれを使えるたった二人の人物はすでにゾディ・アックの手の中。
誰も敵いはしない。
だけど、ちょっとおかしいんだよな…。

エド 「アビスはすぐに行動を開始した…だけどゾディ・アックは一週間経っても行動を開始しない…」

それは、一体なぜだろうか?
今回は以前の時のようにリリスちゃんのような対抗存在は無い。
何の気兼ねも無く行動を起こせるはずなのにな…?

アンダイン 「…考えられる事としたら、まだ完全にコントロールできてないんじゃない?」

エド 「それって?」

アンダイン 「アビスは幻術でセリアを操っていたわけでしょ? でも、あれは優秀は幻術使い」
アンダイン 「だから、ゾディ・アックにはそんな優秀な人材がいないからまだ操れていないんじゃないかしら?」

アシュター 「私はそうは思えません…少なくともシーラさんのような人物を配下に置くほどの組織がそんなこととは…」

ぺティ 「は…はぅぅ…よ…よくわかりませんけどぉ…どうなんですかぁ〜…?」

エド 「…わっかんねぇ、なんでか知らないけどゾディ・アックは沈黙を守っている」

アシュター 「まさか、ただ鑑賞するために攫ったとは思えませんしねぇ…」

シーザー 「…もしかして、今魔界にいるとかは?」

シーザーさんの一言に全員(ぺティ除く)は固まる。
忘れていたが…魔界はどうなっているんだ?
人間界より先に魔界の方が考えてみれば狙われそうなもんだった。

アンダイン 「だ…大丈夫でしょ、多分…魔界への行き方は私ですら知らないし」

エド 「そういえば、魔界と人間界の行き来ってどうするんだろう?」

ふと、思ったことだ。
魔王は魔界から来たわけだけど、そもそもどうやってきたのか。
来ることが可能なら行くことも可能のようだが、さっぱり謎だな。

アシュター 「こほん、では、この私が軽く説明しましょう」

そこで、立ち上がったのはアシュターさんだった。
アシュターさんは知っているのか。

アシュター 「人間界と魔界を行き来するには、とある場所でとある魔法を使うのです」
アシュター 「魔法…といっても、名前のある魔法ではなく、どちらかというと魔力の調整なのですがね…」
アシュター 「そして、場所とはいわゆるミステリースポットといわれる場所です」

ミステリースポット…人間界において、時々理解不能の怪現象が起きる地点のことだ。
空は天気なのに雨が降る場所とか、光で満ち溢れているのに、闇のマナが集まる場所とか。
果ては突然人がいなくなる神隠し地点とかだ。

アシュター 「その場所でとある魔法を使うと、魔界と人間界を繋ぐ門を開くことが出来ます」
アシュター 「これは、異端審問会の者しか知りえない、とても貴重な魔法です」
アシュター 「ですが、使い方がとても危険ゆえ、かなり魔法に熟達した人物でなければ危険です」
アシュター 「なにせ、魔界でも人間界でもない別の世界に飛ばされるかもしれないのですから」

アンダイン 「別の世界って…たとえばどんな?」

アシュター 「さぁ…そこまでは、しかしミステリースポット内での魔力の集中は危険です」
アシュター 「実はこの魔王城もミステリースポットなんですよ?」

エド 「そうなんすか?」

アシュター 「ええ…400年ほど前…勇魔大戦が起きました…」
アシュター 「しかし、この勇魔大戦はなんと、未完に終わったのです…」

エド 「あ、それ知っている…ある日突然、勇者と魔王が消えちまったってやつ」

アシュター 「ええ、おそらくこの魔王城で神隠しにあったと思われますが、どこへ行ったのかはさっぱり」
アシュター 「魔力の集中が門の波長に合えば開いてしまう…この世界はそれほど門との接点が多く、そして開きやすい世界といえますね」

エド 「でも…ここって最終的な戦闘場所なわけだし、ミステリースポットがあるって…やばくないですか?」

アンダイン 「確かにねぇ〜…不用意に魔力をためたら飛んじゃった…じゃ、洒落にならないわよ?」

アシュター 「ええ、ですが普通は波長が合うことなんてありません…無限を思わせるほどの波長の中から門を開く特定の波長を見つけなければならないのですから…」
アシュター 「分かっているものには簡単、分からない物には奇跡に等しいものなんですよ」

エド 「ちなみに、アシュターさんは開けるんすか?」

アシュター 「開けますよ、ただし魔界への行き方しか知りませんが」

シーザー 「波長が分かれば、魔界以外の世界へも行けるのですか?」

アシュター 「理論上は、魔界人間界含めて消えてしまった人間は大抵この別の世界に飛んだと思われます」
アシュター 「元々、この別の世界という概念は、名前はあるのに存在が無い物があったからです」
アシュター 「代表例でいえば、エドさんの使うエクスカリバーレプリカ」
アシュター 「これは今だ発見はされていないが、存在するという実証があるから生まれたのです」
アシュター 「他にも様々な神器がその名前だけが知られているのが現実ですね、草薙の剣なんて魔王と一緒に消えちゃったくらいですし」

草薙の剣…さっき言っていた未完の勇魔大戦において、魔王が使っていた闇の剣の神器だそうだ。
つまり、400年前までは確認されていた、だけど今は未確認…そんなものも多いようだ。

エド 「…まぁ、とりあえず明日は最後の証言をもらいに行くため、トートス村を訪れる、オーケー?」

アンダイン 「異議はないわよ、ただ…サタンはいないからね…転送円は使えないわよ?」

アシュター 「そうなのですか? 道理で歩いて私のところへ来たわけだ」

そう、せっかくこの魔王城には転送装置という極めて便利なものがあるにも関わらず、全く使えないでいるのだ。
これはとても技術的に高度なもので、これを管理できるのは魔王サタンと管理の仕方を教わったメビウスというモンスターくらいだそうだ。
残念ながら俺たちにそんな知識はない、見事に使えないのだ。

アシュター 「私が設定しますよ? それで解決ですよね?」

エド 「…て、できるんすか!?」

アシュター 「ええ、ここの転送装置の使い方は知っていますから」

なんと、いきなり問題解消らしい。
いや、ぶっちゃけありがたいけどね?
ちなみに転送円、並び転送装置とは、平たく言えばワープ装置だ。
転送円は地面に描く魔方陣の一種で、即席で使える転送魔法。
大して転送装置はそれを機械化したもので、転送円を描くのに対し、やや万人向け。
ただし、転送装置を作るには転送魔法を極めた者であり、なおかつ機械に精通する技術者出なければ作れない。
この魔王城にある転送装置はかなり前からあるようで、長年培われた知識と技術の末、人間界ならあらゆる場所に跳べるようになったのだ。
さらに転送装置の優れた点は跳んだ場所から元の場所へと帰る転送円が残りっぱなしになる点だ。
そう、つまり転送装置で転移地点を更新しない限り、いつでも転送装置へと帰ることが出来るのだ。
この魔王城に複数使用を想定して、3基の転送装置がある。
今は機能停止状態だが、勇魔大戦時はフル活用されたようだ。
おかげで、こちとら勇者一行は苦しめられたり助けられたりだったわけさ。
今度は俺が使う番だけどね。

シーザー 「…さて、食器を片付けて今日は眠りましょう」

アシュター 「私は明日のため、転送装置の設定を行っておきますよ」

そうして、俺たちは明日のためにそれぞれ行動を開始するのだった。



…………。



エド 「…これが転送装置か」

翌日、俺たちは朝一番に転送装置のある部屋に集合した。
この場にいるのは俺とシーザーさんにアンダイン、それとアシュターさんにぺティ。
アシュターさんの所のメイドさんは魔王城でお留守番だ。

アシュター 「いきなり、トートス村の領内に入ったら驚かれるでしょうから、近くの丘の上に設定しておきました」

アンダイン 「ありがとう、アシュターさん、それじゃ…行きますか」

エド 「しかし、ぺティちゃんまで連れて行って大丈夫か? 留守番の方がいいんじゃないか?」

ぺティ 「は…はぅぅ?」

アンダイン 「駄目よ、もしものことがあったらまずいわ…この娘の場合は私たちと一緒にいた方がいいわ」

エド 「…まぁ、いいけど」

はっきり言って、ぺティちゃんは色々と危険だ。
正直今の状況は不明瞭だし、いつ何があるかわからない。
そんな時戦闘能力皆無のぺティちゃんを守りながら戦えるかは疑問なのだ。
まぁ、アンダインが居た方がいいっていうなら、それでもいいけどさ。

シーザー 「では、行きましょう」

ぺティ 「あいいぃ〜…」

エド 「やれやれ…」

俺たちは転送装置を使って一気にトートス村へと跳ぶのだった。



…………。



エド 「…ここが、トートス村か?」

転送装置に乗ると一瞬だった。
ほんの一瞬、重力が感じられなくなると、瞬きした瞬間には俺たちは小高い丘の中腹に居た。
丘の上には屋根に付いた煙突が可愛らしくも思える、レンガ造りの小さな一軒家があった。
たしか、シャムさんの工房だよな…?
レオンが昔話していたから、合っているはず。

エド 「あの工房へ行きましょう」

シーザー 「知っているのですか?」

エド 「ええ、レオンの知り合いの工房です」

俺たちは丘を登り、工房を目指す。
窓からは中が見え、二人の女性が居た。
いや、正確には一人の女性と一体の女性型マキナだが。

コンコン!

シャム 「開いてるよ〜、入りたきゃ入りな」

俺は入り口の扉をノックするとなんともぶっきらぼうな返事が返ってきた。
俺は周りの顔を確認して。

エド 「お邪魔します」

シャム 「ようこそ…て、また人数多いね…しかもいろんな種族が混ざってらぁ…」

エド 「お久しぶりです、シャムさん」

シャム 「えと…? ああ、レオンとこの男の子か」

シャムさんは俺を忘れていたのか少し考えてから思い出す。
まぁ、一つ一緒に戦っただけだからなぁ…。

シャム 「後ろはさしずめ…旧魔王軍ってところかい?」

レミィ 「私のデータバンクによると、それぞれアンダイン・シーザー・アシュター・それと不明人物一名となっています」

不明人物とはぺティちゃんのことだな。
これはよく知っていると思うべきか?

アンダイン 「はじめまして、アンダインよ」

シャム 「こりゃご丁寧に、この工房の管理人のシャムだよ」

レミィ 「レミィです」

俺を除くみんながシャムさんに自己紹介をする。
そして、自己紹介が終わると。

シャム 「…で、こんな大人数で一体どうしたんだい?」

エド 「レオンが行方不明になったことについて聞きたいんですけど…」

シャム 「レオンが…? そうかい…あいつ、行方不明に…」

シャムさんは知らなかったのか不思議そうな顔をしていた。
どうやら、セリア王女と違って、リリスちゃんやレオンは行方不明になったことさえ知られていないのだな。
セリア王女はさすがに王女だけあって、行方不明になるとすぐさま世界中に知れ渡った。
そのかげで他にも3名ほど行方不明になっているんだけどなぁ〜…。

シャム 「…2週間前のことだよ」

シャムさんは静かにイスに座りながら語りだす。

シャム 「レオンはいつものようにウチに遊びに来ててね、そこに珍しい客が来たもんさ」
シャム 「勇者一向の僧侶シーラ、訪れたときはそりゃレオンは喜んださ、久しぶりってね」
シャム 「だけど、ある話をしたら一変さ、レオンは顔色を変えて、シーラと一緒にすぐさま外へ出て…それ以来行方知れずだねぇ…」

アシュター 「そのある話とは?」

シャム 「レミィ、覚えているさね?」

レミィ 「はい、シーラ氏はリリスという女性がサタンに攫われ、何かの実験に使われようとしていると言っておりました」

ぺティ 「は…はいぃ…? ま、魔王様がぁ…?」

アンダイン 「嘘っぱちね、でも、勇者は信じちゃったわけか」

エド 「俺たちは苦楽を共にした仲間だからな…ましてシーラさんは嘘をつかない人物だ…」

俺でも事情を知らなければ、あのシーラさんの言ったことだ信用しただろう。
まして、俺よりはるかにお人よしのレオンはそれこそ余計信用しただろう。
シーラさんが憶測で言うはずが無い、まして嘘なんて絶対に付くはずがないと。
それで…騙されて消えちまったと。
問題はなぜ、レオンもだ?
レオンは純血の人族のはずだぞ?
ゾディ・アックにとっては臣民に等しい存在、なのにどうして?

エド (謎だな…だが、ゾディ・アックに誘われて…行方不明なのは確かだ)

アンダイン 「勇者レオンはそのことについて、何も言わなかったわけ?」

シャム 「すぐに助けに行く…て言っただけさ、今頃どこにいるさねぇ?」

と、シャムさんは呑気に言う。
メガネの向こうには心配そうな表情が写っていたが、平常心を保っているようだった。

エド (俺のラーの鏡でもあいつの居場所は分からない…)

ラーの鏡は生命体を鏡面のマップに点で表示することが出来る。
だが、特定の人物を探すような能力は無く、結局見つけられないのだ。

シーザー 「これで、おおまか消えた4人の状況は分かりましたが…」

アシュター 「ゾディ・アックという名は出てきても解決の糸口は出てきませんねぇ…」

この4名の失踪事件全てにゾディ・アックは関わっている。
しかし、それだけで全く解決は出来ない。
せめて、向こうが何かアクションを起こしてくれれば…なぁ…。

しかし、思うだけ無駄だと考えていると…。

キィィィン…。

エド 「!?」

シャム 「な…なんだいこのハウリング音のようなのは?」

エド 「あ…頭に響くようですが…?」

突然、キィィィンと頭に音が響く。
俺だけではなく、その場に居た全員がその音を聞きとった。

ザザ…ザザザァ…。

シャム 「ノ…ノイズ…?」

レミィ 「…判明しました、皆さんに情報の魔力が強制送信されています」

アンダイン 「なに…どういうこと?」

レミィ 「発信元は不明…すぐに情報が提示されると思います」

そうこうしていると、突然頭に謎の声が聞こえ始める。
一体、誰からだ…?

? 『…ザザ…ザ…我々はゾディ・アック…』

エド 「!?」

ぺティ 「はううっ!?」

声はいきなり、ゾディ・アックだと名乗ってきた。

? 『我々は今、この人間界に住む全ての者に我々の声を届けている…』
? 『我々はこの人間界に、人族以外の者がいることを矛盾と思う集団である』
? 『そう、この世界は我々人族のものであって、その他の種族は魔界にでいればいいのである』
? 『まして、魔族などは勇魔大戦と称して、過去幾度と無く人間界へと侵略戦争を行ってきた』
? 『しかし、結果は諸君らも知ってのとおり、勇者によって征伐されている』
? 『当然の結果である、魔族がこの人間界で繁栄していいはずがない』

アシュター 「…ひどい言われようですね」

全くである。
だが、反論しても声は向こうには届かないんだろうな。

? 『しかし、皮肉にも勇魔大戦の性で、様々な種族がこの人間界に住むこととなった』
? 『人族を襲うモンスターに等しき有害な種族たちを我々はこの人間界から一匹残らず駆逐する…』
? 『手始めに、我々はメルディニア島を消滅させる』
? 『ここは魚人共の巣窟であり、我々に害をなす存在だ、そのような存在は駆逐されるべきなのだ』
? 『彼らは裁きの光によって、この世界から消えうせるだろう…』

アンダイン 「メルディニア島ってここからそう遠い島じゃないんじゃなかったっけ!?」

シャム 「トートス村から東に20キロ行ったところにある海岸の岸にある小さな島だよ!」
シャム 「そこの窓のほうが…!」

カッ!!

エド 「!?」

俺たちがシャムさんの指差す窓を見た瞬間だった。
一筋の光の柱が地平線の向こうで立ったのだ。

シャム 「…くにある…よ…?」

アシュター 「裁きの光とは…あれのことですか?」

何を使ったかは想像がつく。
だが、問題はそれが20キロ先のことでも視認できるほどの巨大な光の柱だということだ。
おそらくアルティマの光だろう。
だが、アルティマは球体状に放たれる魔法だったはず。
レーザー系の魔法ではないはずだが…?

シャム 「レミィ…さっきのはなんだったんだい?」

レミィ 「超高密度の魔力反応を感知しました、威力の計算をしてみたところ、衝撃は360メガトンジュールを計測」

シャム 「はぁ!? 360!? しかもメガトンって!?」

エド 「? あのぉ〜、いまいち分からない説明だったんですけど? メガトンって?」

シャム 「…簡単に言うとね100キロの物を動かせたらそれは100キロの衝撃ってことさ、ま正確には熱量のことだけどね」
シャム 「で、メガトンってのは1兆のことであれの破壊力は360兆キロの力で攻撃されたと思えばいいさね」

エド 「そ…そうっすか…」

さ、360兆キロって…。
単位がおかしいんですが?
シャムさんが驚いたのがよくわかりました。

シャム 「レベル8の火炎魔法でもせいぜい15トンの衝撃だよ?」

更に現実的なシャム先生の言葉が出てくる。
かなりやべぇな…。

レミィ 「ちなみにレーザーの直径は800メートルと威力に対して極めて細いです」
レミィ 「恐らく収束しているためあれほどの威力を持っているものと思われます」

シャム 「…収束、厄介そうだねぇ…」

エド 「間違いなくアルティマ…だけど」

見たことが無い。
もしかして、ゾディ・アックが二人の巫女を獲得しながら今まで動かなかったのはあれを開発していたからか?

エド 「ラー、、メルディニア島があった場所を映せるか?」

ラー 『可能だ、映そう』

ラーは可能らしく、メルディニア島を上空から映した。
みんなも俺の周りに集まり、ラーの鏡面を見る。

アンダイン 「何も無い…海ね」

メルディニア島のあったばしょは見事に消滅していた。
海しかみえねぇ…。

ラー 『上空になにかあるぞ…映すか?』

エド 「え? ああ…映してくれ」

ラーは何かが上空にあるという。
ラーはそれより上から、今度は映像を映す。

シーザー 「!? な…なんですかこれは!?」

鏡面に映ったものはまるで団子のような黒い謎の物体だった。

シャム 「マキナ? しかし…これどうやって飛んでいるんだい?」

それはところどころ突起付いた、奇妙な形の大福みたいやつだった。
パッと見でシャムさんはマキナというが…まぁ、生物には見えないがな。

? 『光の柱が見えたものも多いだろう…あれが裁きの光だ』

やがて、忘れていたがゾディ・アックの演説が始まる。

? 『次の目標は、ここまで事態をのさばらしたサーディアス王国』
? 『この世界の中心に栄えながら、ここまでやつらの繁栄を許したかの国には責任を取ってもらう』
? 『まずは、首都サーディアスを裁きの光で打ち砕かん』

ブゥゥゥ…ブン。

エド 「終わった…?」

レミィ 「正体不明物体、8時の方向へと動き出しました」

シャム 「あんだって?」

レミィ 「機動力計算…現状の速度を平均値とすると、5時間後に首都サーディアスへと到着します」

シャム 「空路だから直進して、さらに空気抵抗による速度のムラをなくした計算だから…てーも大体速度は時速35キロか…」

シャムさんは頭の中で何かの計算式を作り、あれの速度を割り出したようだ。
時速35キロ…結構早いな…。

シャム 「レミィ、あれのサイズは分かる?」

レミィ 「有効射程外のため、計測は難しいです、ラーからの視界による海抜の高さからの比較ならば推定8メートルの巨体です」

シーザー 「8メートル…」

シャム 「大型マキナだね…」

エド (8メートルの大福型の巨大マキナが空飛んで時速35キロ? 普通じゃねぇな…)

シャム 「…直進コースを選ぶんだったらあのマキナはここから南に3キロの地点の上空を通るね…」

エド 「…止めるべきだけど」

アンダイン 「どうやって止めるか…よねぇ?」

シャム 「ちなみに、相手は高度800メートル上空を飛んでいるよ、対人戦法は通用しないね?」

エド 「うわ…絶望的…」

俺たち空は飛べないからな…まさに誰も止められないわけだ。
800メートル上空じゃ弓矢も鉄砲も届かねぇしな…。

アシュター 「…このままじゃ接点へ行っても何もできませんねぇ…」

アンダイン 「この中で飛べるのは…」

ぺティ 「???」

エド 「いや、無理っしょ?」

シーザー 「…ですな」

アンダイン 「だよねぇ…」

俺たちは一斉にぺティちゃんを見るが、瞬時に駄目だと気づく。
ぺティちゃんにあんな巨大マキナどないせぇっての。

シャム 「だけど、あのZAMは間違いなくこのままじゃサーディアス王国ふっ飛ばしちまうしねぇ〜」

エド 「ええ…て、ZAMって?」

シャム 「や、ゾディ・アックのマキナだからターゲットのネームを考えたわけ、だからZodi・Ac・MacinaでZAM」

アンダイン 「…まぁ、分かりやすいような分かりにくいような…て、そんなばといっている場合じゃないでしょうが! あれどうするの!?」

少なくとも、全員が全員無関係な者たちが、大量に虐殺され行き場を失うことを静観はできないらしい。

レオン 「ああ〜…せめてレオンかサタンがいりゃな…」

言っちゃ駄目って分かっていても出てくる。
あいつらならきっとこんな無茶も突破するんだろうな…。
何せ奇跡を起こす人族のレオンと、不可能を可能とする魔族のサタンだ…俺らとは違うわ。

レミィ 「提案します、マスター」

シャム 「? あんだいレミィ?」

珍しく、報告と回答くらいしかしないレミィさんが意見を出す。
マキナなのにねぇ…レミィさんは特別製か。

レミィ 「第3種兵装の使用許可をお願いします」

シャム 「! …確かに高度800メートルどころか高度2000メートルだって狙えるけどね…」

シャムさんは珍しく冷や汗を流しながら考えていた。
第3種兵装って一体何なんだ?

シャム (マキナである限り原動力がある…たしかに『テラブレイク』には耐えられないだろうけどねぇ…)

エド (できれば、使いたくないって顔だな)

どれだけやばい兵装なのかは知らないが、シャムさんが顔を青くするほどだ。
もしかすると…とてつもなくやばい兵器なのか?
レミィさんのような現代のマキナ技術のはるか先を行ったマキナを作るほどだ。
兵器も100年先を行っていても不思議じゃないが…。

レミィ 「現状、少なくともあれの打倒を可能とするにはこれしかないと思われます」

シャム 「試験運用もしたことが無い兵装なんだけどねぇ…意見したからには賛成が出たんさね?」

レミィ 「反対1、条件付賛成2です」

シャム 「条件付きってのは?」

レミィ 「動体に対して試射したためしは無く、未知数のため、またあのマキナの材質および行動原理が不明な点の考慮です」

シャム (たしかに、ねぇ…ちょっと特殊な使い方だわ…でもまぁ、初めてレミィが意見したんだ…)
シャム 「おっし、やってやるさね!」

シャムさんは何を考えたかはさっぱりだが、最終的には微笑みを浮かべて、気合を入れる。
なんだかやる気になったようだ。

アンダイン 「で、どうするわけ?」

シャム 「あたしゃぁこれからレミィのフレーム換装に取り掛かるさね、あんたらは休むなり交差地点に向かうなりするさね!」

シャムさんはそう言うとせっせかとスパナやら何やらを用意し始めていた。

エド 「…どうする」

シーザー 「ここにいても邪魔になるだけでしょう…私は何も出来ずとも通過地点に行っておきます」

アンダイン 「私もそうするわ、この狭い工房に何人もいたら邪魔だろうし」

エド 「じゃ、俺も行くっすか」

そういうことなら、俺も出て行くべきだろう。
同じく何も出来ないが、せめて邪魔はしたくない。

アシュター 「私とぺティさんはここで待機しておくよ」

ぺティ 「?」

エド 「まぁ、いいっすけどなんでっすか?」

アシュター 「万が一ここが狙われたら事だからね、ノーマークだとは思うけど」

エド 「…たしかにそうっすね、わかりました、じゃ!」

俺たちはそう言って工房を出て行く。



…………。



アシュター 「……」

私は工房で、レミィさんの換装作業を見ていた。
それは実に興味深いもので、一見人間のように見えるレミィさんの肢体がはずされ、新しく用意された肢体を取り付けられたのだ。
ボルトを出したり、ドリルなんかも取り出したりして、手早くレミィさんの体が構築されていく。
唯一変わらないのは首によって繋がれた頭と体だけのようだ。

ぺティ 「は…はうぅぅ…? うう…?」

アシュター 「…? どうしましたぺティさん?」

なんだか、隣に座っていたぺティさんの顔色が優れない。
頭を抱えて、苦しんでいるように見える。

ぺティ 「呼んでる…何が…何を…誰が…誰を…私が…私を…?」

アシュター 「!? ぺティさん! どうしたんですかぺティさん!?」
ぺティ 「わた、わたたたたたたたたたたたたたたたた…ししししししいしししし…をををおををおおををををおおををを…」

突然、ぺティさんが痙攣したかのような声で言葉を紡ぐ。
まるで壊れてしまったかのような状態に、さすがにただならぬものを感じた。

ぺティ 「!? はぁ…はぁ…はぁ! は…はぅぅぅ〜…」

アシュター 「!…ぺティ…さん?」

ぺティ 「はぅぅ〜…頭…痛いですぅ〜…」

アシュター (今は普通…?)

ぺティさんは変わらず頭を抱えて苦しんでいる。
だが、何かが違う…さっきまでの苦しみと今の苦しみ。
まるで別の人格のようにさえ思えた。

アシュター (魔王サタンを道しるべだと称してサタンに着いた謎の少女…か)

一体それはなぜだったのだろうか?
そもそも、彼女は何者なのか?
説明によると、彼女は頭の病気で言語中枢がいかれていると聞かされた。
だが、もしかすると…それは誤りなのではないだろうか…?

アシュター (仮説に過ぎないが…さっきまでのぺティさんは別の人格だったと思える)

確証もなにもない。
ただ、違う人物と思えただけだ。
気のせいかもしれない…もしかしたら元々言語中枢がいかれるというのはああいうものなのかも…。

だけど…あの時、たしかに一瞬ぺティさんとは違う何かの気配をぺティさんから感じた…。
ほんの一瞬だったが…それはなんだったのか…?

シャム 「はぁ…はぁ…ちょっと…ソッチノ嬢ちゃんは大丈夫かい?」

アシュター 「え、ええ…少し気分が優れないようですが…今は大丈夫そうです」

シャムさんは大忙しの換装作業に息を切らしながらもこちらに目を向けてくれている。
なかなか、聡明で立派な女性のようだ。
なにより、頭が切れるのですね。
伊達に天才として知られてはいませんか。

シャム 「ふぅ…オーケー…動けるはずだよ、レミィ?」

レミィ 「…システム、起動」

レミィさんは上半身を起こして、目を見開く。
やがて、手術台のような台座をイスにして足を地面に下ろして、立ち上がると。

レミィ 「…各部正常…システムオールグリーン」

シャム 「重くないかい?」

レミィ 「…重量の上昇は致し方ありません、ですが重量過多ではありませんので問題ないかと」

シャム 「多分使うことは無いだろうけど、武装チェックも済ましときなよ」

レミィ 「了解」

ガシャンガシャン!

レミィさんはこれまでとは違い、大型化していた。
細身の女性をイメージさせていたレミィさんの体は全体的に太くなり、身長も若干あがったようだった。
そして物々しく装備された右手と左手に取り付けられた謎の装備、そして背中にリュックサックのごとく装備されたバックパック。
今まで、音を立てなかった足音が、まるで床が抜けるのではないかという音を立てて歩いていた。

ギィイィィ…。

レミィさんはそのまま、外へと出る。
私は外へ出たのを確認すると。

アシュター 「…今のレミィさんの体重は一体…?」

シャム 「女の子の体重を聞くとは野暮だねぇ?」

アシュター 「あ、す…すいません」

シャム 「225キロだよ、全備重量225キロ」

アシュター 「に…225ですか…」

それは私3人分以上ですね。
私は元々細身の方ですから身長178センチに対し65キロしかないですが…。
レミィさんは170そこらの身長で225…やはりマキナということですか。

シャム 「パーツ一つ一つ運ぶだけでも重くて仕方が無いさね…はぁ…腕が重いさ」

なるほど…息を切らすわけだ。
全備重量225キロのマキナを女手一つで組み立てるのだ、体力的にも辛いだろう。

キィィィン! ズドォォォン! ズダダダダダダッ!!

ぺティ 「は…はううぅぅっ!?」

突然、壁一枚向こうから爆弾でも落ちてきたかのような激しい爆裂音が鳴り響いた。
ぺティさんじゃなくて驚きましたよ…。

ギィィィ…。

レミィ 「各部装備正常、手ブレ修正も解消しました」

シャム 「早かったね…それじゃ…行くさね」
シャム 「そっちの嬢ちゃんはどうするさね? やばそうなら工房に居残っていてもいいさよ?」

ぺティ 「は…はうぅぅ〜…」

アシュター 「大丈夫ですか? 動けますか?」

ぺティ 「だい…じょう…ぶ…ですぅ〜…」

アシュター 「…一応、連れて行きましょう、よろしいですね?」

シャム 「あたしゃ、別に構わないけどねぇ…」

レミィ 「目標、ZAM現在4時の方向、時速44キロにて航行中」

シャム 「44キロ!? 速度上がっているじゃないのさ!?」
シャム 「まずいね…急ぐよ!」

レミィ 「了解」

アシュター 「走れ…ませんね、背負いましょう」

ぺティ 「すいませぇぇん…」

私はぺティさんを背負うと走り出した。



…………。



エド (…今まで、沈黙を守ってきたゾディ・アック)

俺はシャムさんが弾き出した、ZAMの通るルート下で今までのことを考えていた。
といっても、とりわけゾディ・アックのことなのだが。

エド (ゾディ・アックは勇魔大戦が始まるまではあの北側を中心に様々な地域で破壊活動を行ってきた)

人族以外の種族を決して許さない奴らは様々な種族が雑居する北側が目障りだったのだろう。
その結果、多くの都市や村が、ゾディ・アックのテロにあった。
消滅した所も少なくは無い。

エド (世直し…てぇたってやりすぎだ…)

ゾディ・アックの強行を許さないわけにはいかない。
それは勇者にも魔王軍にも関係の無い話だ。

ゴゴゴゴゴゴ…!

アンダイン 「…! あれは!」

シーザー 「ZAM…!?」

エド 「!? マジかよ…!? おい、まだシャムさんたち来てねぇぞ!?」

まだ距離は離れているが、遠くの空から、ラーの鏡面より見た、あの大福型マキナが飛来してくる。
最悪なことにシャムさんたちはまだいない。
シャムさんたちが遅れたのか…それともアレがこっちの予想よりも速かったのか!?

なんにせよ、いい事態とはいえねぇな…!

エド 「あの高度じゃ、何もできねぇ…本当に見るだけかよっ!?」

? 「情けないな…ただ、そこで見ているだけとは…」

シーザー 「!?」

アンダイン 「誰っ!?」

俺たちは真後ろから聞き覚えのある声を聞いて、振り返る。
すると、空から一対の黒い翼をはためかせて、一人の少女が降りてきた。

エド 「…黒羽ちゃんか!」

黒羽 「…久しぶりだな、勇者一向…いざ、尋常に勝負…と言いたいところだが…」
黒羽 「アレがどうにも出来ず困っているようだな…」

なんと、なんで南側にいるのかは分からないが、翼人種の黒羽ちゃんだった。
黒羽ちゃんは相も変わらずなようで、やや落ち着き払った様子でZAMを見た。

黒羽 「ゾディ・アックには個人的な恨みもある、今回は貴様らに手を貸してやる」

アンダイン 「ずいぶんとふてぶてしい、お嬢ちゃんね」

黒羽 「…ふん、そっちの二人は旧魔王軍か、個性的なメンツなことだ」

エド 「あのマキナを潰せるのか?」

黒羽 「さぁな、私はただ一刀振りぬくのみだ」

黒羽ちゃんはそう言って、腰に差す虎鉄を抜く。
相変わらずだな…。

ゴゴゴゴゴ…!

黒羽 「…我が太刀、我が実力…その身でためさせてもらう!」

黒羽ちゃんは翼をはためかせると、一気に空へと飛び上がる。

シーザー 「く…私も空に飛べたら…」

アンダイン 「私たちは鳥じゃないからね…」

エド (…頼むぜ、黒羽ちゃん…!)





黒羽 (思ったより、高い高度を飛んでいるな…あの形で飛ぶなど奇怪な)

私は上空を飛行する奇怪な大福機械に接近する。
あの大福はところどころ小さな翼は付いているものの、なぜ飛べるのかさっぱり分からん奇怪な形だった。
飛ぶ原理が我々翼で飛ぶ、鳥類とは違うということか?

黒羽 「! いくぞ、大福!!」

私は速度を上げ、一気に大福の上部にでる。
そのまま、私は虎鉄を両手で握り締め、急降下しながら、振り下ろす!

ガキィィィン!!

黒羽 「!? なんだ、この障壁は!?」

? 『? Nの障壁に異変が…?』
? 『…どうやら五月蝿いハエが飛び交っているようだな…』

黒羽 「ちぃ…! 一筋縄ではいかんか…大福の癖に!」

私は一旦距離を離し、大福の周りを飛び回る。
弱点があればいいが…。

? 『チョロチョロと…鬱陶しいハエめ…消えろ!』

ヒュンヒュンヒュン!!

黒羽 「!? な…なんだこれは…!?」

突然、大福から黒い棒状の飛行物体が3つ射出される。
粒あんというわけなのか…?

ピィン! ピィン!!

黒羽 「!? きゃあっ!?」

なんと、いきなり粒あんは私の周りを飛び回り、奇怪な光線を放ってくる。
私はなんとかそれを回避するが、これでこっちの手もふさがってしまう。

黒羽 「ちぃ! ただの大福ではないとはいえ、厄介な物を!」

黒羽 「つぇぇぇぇっ!!」

私は虎鉄を横に一薙ぎ、私の周りでチョロチョロする粒あんを一粒切り裂く。

ズガァァァン!!

粒あんは爆発を起こす。
粒あんの癖に爆発とは…火薬でも積んでいるのか?

黒羽 「もう一発!!」

ザッシュウ!! ズガァァン!!

私は更に一振り、もう一粒切り裂く。
やれやれ、まるでこれでは私は大福に群がるアリだな。

黒羽 (だが、アリにも牙はあるぞっ!!)

私は今度こそ、大福に攻撃を仕掛ける。
今度は斬るのではなく突き刺すように虎鉄を上から、振り下ろした。

ガガガガガガッ!!

? 『威力を一点に集中してきたか! 鬱陶しいわ雑魚め!』

ヒュンヒュンヒュンヒュン!

黒羽 「!? な…!?」

なんと大福から再び粒あんが射出される。
一挙7粒ほどでてきた。
やれやれ、このままでは粒あん大福はこしあんに早変わりだな。

黒羽 「ちぃっ! 止めきれんか…後1寸深くさせれば…!」

私は仕方なく再び、距離を離す。
今度は数が多すぎる。

黒羽 「くぅ…どうする…!?」

一粒一粒は大した耐久力も無い。
だが、数を出されると厄介だ。
それぞれが、それぞれ独特の動きをし、目で追うのは厄介だ。
法則性があるとすれば、常に一定の距離を保ちたがるという点くらいか。

ピィン!

黒羽 「うぐっ…!? しま…!?」

突然、後ろから粒あんのレーザーに翼を撃たれる。
左翼に激痛が走る。
翼の腱を撃たれた…!

黒羽 「く…無念っ!」

私は飛ぶことが出来ず、そのまま垂直に落下してしまう。
やられたな…翼を動かす腱の部分がやられては飛ぶことも出来ん…。





エド 「! 落ちてくる…!?」

俺は上空で戦う黒羽ちゃんが、突然落ちてくる様を見る。
あまりに高度が高すぎて、何が起こっているのか正直チンプンカンプンだが、黒羽ちゃんは勢いよくこちらに急降下しているようだった。

エド 「ち…間に合えぇ!!」

俺は脚の筋肉を収縮させ、それを爆ぜさせる。

エド 「瞬歩、応用版!」

瞬歩の要領で、俺は高く飛び上がる。
そして、俺は落ちてきた黒羽ちゃんをキャッチする。

ドッサァァァ!!

エド (く…! 腕に衝撃が…!)

俺は急降下してきた、黒羽ちゃんをなんとか空中でキャッチするが、衝撃で腕がどうにかなるかと思った。
だが、ここで離すわけにもいかず、根性で踏ん張って、そのまま地面へと着地する。

ズッサァァァ!!

エド 「痛ぅ…だ、大丈夫か黒羽ちゃん?」

黒羽 「す…すまんな…翼がやられた」

見ると、たしかに黒羽ちゃんの左翼に穴が開いており、そこから血が流れ出していた。

アンダイン 「ちょ、やられてんじゃないのよ!」

黒羽 「む、無念だ…まさか、あれほどとはな…」

シーザー 「く…、絶体絶命ですか!」

俺は黒羽ちゃんを地面に降ろすと、真上を見上げる。
真上には平然と空中を飛行する、ZAMの姿があった。

エド 「く…どうすれば…?」

まさに、絶望に身を打たれていたその時…。

シャム 「待たせたね! もう大丈夫だよ!」

エド 「! シャムさん!」

アンダイン 「急がないとやばいよ!? 大丈夫なの!?」

シャム 「任せな、レミィ準備だよ!?」

レミィ 「了解」

シャムさんの後ろから、前面へと出てくるレミィさん。
見ると、外観が大きく変わっていることに気づく。
まず、身長が上がっており、両腕両足が太くなっている。
更に背中になにやら大きなリュックサック状のなにかを背負っていた。

シャム 「コード承認、コード:C・H・O・P・O・E・S」

レミィ 「音声認証…クリア、コード…クリア、テラブレイクのセーフティを解除します」

シャム 「さて…単体に対して放つのははじめてさね…テラブレイク、目標ZAM!」

レミィ 「了解、射程距離算出…投射角度…クリア、遮蔽物…なし」

レミィさんははるか上空のZAMを見上げると、なにやら計算を始めている。
テラブレイク…?
なにやら、やばそうな名前の武器だが、一体どんな攻撃をするんだ?

シャム 「テラブレイク…発動・承・認!」

レミィ 「子機射出!!」

バシュウ!! バシュウ!!

レミィさんの背中のバックパックから白い煙を上げて、突起物がはるか上空にあるZAMへと射出される。
その数6機、はるか上空にあるZAM相手には正直何が起こったのかさっぱりわからないが…。

レミィ 「子機、全期、ZAMに取り付き成功、これよりテラブレイクを発動します」
レミィ 「テラブレイク発動まで、残り時間をカウント…300…299…298…」

レミィさんはなにやら、数を数え始めた。
正直俺にはテラブレイクがどんな攻撃なのか皆目検討が付かない。
ただ、上では何かが起こっているようだが…。

エド 「ラー、何が起こっているんだ? 見せてくれ」

ラー 『わかった』

俺はエドに上空で何が起こっているのか見せてもらう。
すると、レミィさんの背中のバックパックから射出された突起物は、なんとZAMの張る謎のフィールドに突き刺さり、なにやら電撃をバチバチ散らしていた。

エド 「こいつは…?」

ラー 『Nの障壁だ、だが…あの子機はそれに突き刺さっている…物理的には考えられないな』

やはり、以前勇魔大戦のとき戦ったマキナも装備していたNのフィールド。
馬鹿硬くて、結局レオンのフランツェによる貫通の特殊能力で突破したようなやつじゃねぇか…。
だけど、それに引っかかるって…バリヤーって、物理的にくっつけるものなのか?





? 『…なんだこれは? Nのフィールドに張り付いているだと?』
? 『ちぃ…打ち落とせ、ビットよ!』

ピィン! ピィンピィン!!





エド 「!? なんだ、この黒い棒は!?」

俺はラーから上空を見ていると、突然変な棒が空中を飛びまわり、子機をレーザーで攻撃し始めた。
しかし、驚いたことに子機はそれにびくともしていない…というか…吸収した?

レミィ 「敵、エネルギー攻撃を確認、子機エネルギーを吸収、残り時間を244から171に繰り上げます」

エド 「時間繰り上げ!? 一体どうなってんだ!? なにやっているわけ!?」

シャム 「あの子機はね、電撃や、炎、光学兵器をエネルギーに変換するシステムがあるんだよ」
シャム 「本来は地球のエネルギーを使って、広範囲に大して殲滅兵器を放つ兵器なんだけどね…」

アンダイン 「な…なんだかすごそうね…」

シャム 「ゴーレムやリビングデットのような無機物質系のモンスターでもなければ、あれが使う兵器は耐えられないよ…」
シャム 「テラブレイクの正体はマイクロ波、マキナといえど動力源に熱暴走が起きれば潰れるし、まして人が喰らえば…」

エド 「く…喰らえば?」

シャム 「ボンッ! って、いい音立てて、もれなく爆発してくれるだろうね、内蔵まで粉々、蒸発した血が飛び散って!」

エド 「うえぇぇ…想像しちまった…」

俺はつい、イメージを想像してしまう。
すると、何もかもがお前はもう死んでいる状態の光景が思い浮かんでしまった。
ま…マジでそんな兵器が?

黒羽 「…なんと、おぞましい兵器を…」

シャム 「あたしも使いたくはないさね…だけど、相手が相手さね…やるっきゃないよ!」

レミィ 「カウント残り、9…8…7…6…5…4…3…2…1」

やがて、レミィさんのカウントが終わろうとしていた。
はたして終わろうとしている先にあるのは…?

レミィ 「テラブレイク・発動!」

ズッパァァァァァン!!

突如、ZAMは大爆発を起こす。
ほんとにいきなりだ、前触れも無く、ZAMはその巨体の装甲を吹き飛ばした。





ズバァァン! ドカァァン!!

? 『馬鹿な!? 一体何が起こったのだ!?』
? 『こいつはNの障壁に守られているというのに!!』
? 『出力低下!? 高度を維持できないだとっ!?』





ヒュウウウウウッ!!

レミィ 「目標…高度急落下、高度700…600…500…」

エド 「う…うわっ!? すっげぇ速度でアレが落ちてくる!」

アンダイン 「あ…危ないわよっ!?」

ギュウウウウウウッ!! ブワァァァァッ!!

黒羽 「!? なんだっ!?」

俺たちはやばいと感じて、アリの子を散らすように、その場から離れたが、後10メートルほどで地表に激突!
って、瞬間に、ZAMは突然、落下を止めた。
だが、高度を上げられないのか、空中で静止したままだ。

? 『く…やってくれたな、貴様ら…まさか、ここまでやられるとはおもってはいなかったぞ…』

エド 「!? あ…あんだ?」

シーザー 「ZAMから…声が?」

シャム 「スピーカーで外部に音声を流しているようさね」

なんと、ZAMからはエコーのかかった、妙な声が響いた。
どうやら、中に乗っているのは男のようだな。
どうせ、ゾディ・アックの人間だろうけど。

? 『このアルティメイトは無敵のはず…だった、だがものの見事にほぼ、行動不能に陥らされたな…』

シャム 「当然さね! このシャム様にかかれば、あらゆるマキナ、目じゃないさね!」

? 『なるほど…あの天才マキナ技師シャムがいたとはな…道理でやられたはずだ』

黒羽 (この女、機械人形の整備士か、どうりで変な女だと思ったが…)

? 『だが、不運だな、このZAMを落とすには少し攻撃力が足らなかったようだ!』
? 『だが、今の状態ではサーディアス王国への制裁は不可能! だが貴様ら全員を屠るくらいは可能だぞ!!』

ヒュンヒュンヒュン!!

シーザー 「!? あれは!?」

突然、ZAMは体中から、変な棒を出す。
たしか、レーザー砲を放って、子機を攻撃していた奴!

黒羽 「気をつけろ! レーザー砲を放つ上、動きが素早いぞ!」

? 『ふははははっ! 貴様ら全員あの世行きだ! 死ねぇ!!』

ヒュンヒュン! ピィン!!

エド 「うおっ!? 守れラー!」

アンダイン 「ちぃっ!?」

シーザー 「くうっ!?」

シャム 「ちぃ…ビットかい! 味な武器をもっているじゃないのさ!」

ビットとかいう兵器は俺たちの周りをウロチョロと飛び回り、レーザーを放ってくる。
その数ざっと20機、厄介この上ない!

ぺティ 「う…うう…うううう…」

アシュター 「く…この数では…ん?」

エド (? ぺティちゃん…?)

なんだか、ぺティちゃんは頭を抱えてうずくまっている。
本当は助けに行きたいが、こっちはビットの集中砲火を受けて、ラーの絶対防御を解くに解けない状況だった。
他のみんなもそうで、動くに動けない。
まぁ、アシュターさんが守っているから大丈夫と思おう。





アシュター 「大丈夫ですか!? ぺティさん!?」

ぺティ 「ママママママナナナナナナナナ…ハハハハカカカカイイイ…」

アシュター 「!? ぺティさん!?」

ぺティ 「クル…コワス…ア…アハハハハハハ…ハカイスルモノ…ワタシ…ハカイスル…アハハハハハ…」
ぺティ 「マナ…コワス…アハハハハ…アハハハハハッ!!」

アシュター 「!? 違う…ぺティさんじゃない…!? アナタ、誰ですかっ!?」

ぺティ 「ワタシハ…『ハカイスルモノ』、『マナ』ヲ『クダク』モノ…」

アシュター 「破壊する者!? マナを砕く…!?」

私はぺティさんからただならぬ気配を感じていた。
この気配…魔族や人族の放つそれとは違う…。
神族の放つそれとも…!?

ぺティ 「アハハハハハハハ…!」

アシュター 「!? ぺティさん!?」

ぺティさんは狂ったかのように笑い、その不気味な翼をはためかせ、ゆっくりとZAMの前へと飛び立つ。

? 『? なんだ…こいつは?』

ぺティ 「メルト…ダウン」

カッ! チュドォォォォォォン!!!

ぺティさんが、右手をZAMに向けた直後、目を開けていられないほどの強い閃光が私の目を襲った。
直後すさまじい熱エネルギーが私を襲う。
熱い…なんてものじゃない!?

ぺティ 「アハ…アハハハハハハハッ! アハハハハハハハハハッ!!」

私は魔法の余波にダメージを受けていた。
目も開けられず、聞こえたのは爆発音の直後から聞こえる、狂ったかのような笑い声。
この世の物とは思えない、すさまじい爆発は敵のみならず私たちにまで被害を与える。
彼女は一体…何者なんだ…!?

ズッシャァァァァ!!





エド 「くぅ…すげぇ光だった…!? 皆!?」

俺は一瞬閃光が走り、目が開けられなかったが開いたとき見たのはボロボロのみんなだった。
俺はラーの絶対防御で潜り抜けたが、他の全員はさっきの魔法でやられたのか!?

ぺティ 「…あぐ…ああ…ああ…!?」

ヒュウウウ…!

アシュター 「く…ペ…ペティさん!」

ズッシャァァァ!!

ペティちゃんは突然ネジの切れた人形のように急落下する。
それを満身創痍のアシュターさんはなんとかキャッチした。

アシュター 「ぐぅ…!?」

ペティ 「……」

アンダイン 「な…なんだったのよ今のは?」

シーザー 「み…皆さん、大丈夫でしたか…?」

シャム 「あ…あたしゃ、レミィに助けられたよ…無傷」

レミィ 「今はこの装甲に感謝します、損傷軽微です」

黒羽 「く…なんとか…無事だ…」

全員が全員、火傷するほどではないにしろダメージを受けている。
見たところ炎系のダメージっぽいが、アンダインさんやシーザーさんがダメージを受けているなんて…。

エド 「…ペティちゃんがやったっていうのかよ…?」

みると、さっきまで五月蝿かったビットも全て潰れている。
衝撃波につぶされたみたいだ。
案外もろいな。

エド 「…さて」

俺は最後に、ついに地面に墜落した、行動不能のマキナ、ZAMを見る。
ZAMは煙を上げて、ピクリとも動かない。

バシュウウッ!!

? 「…ち、やられたな…」

突然、ZAMから一人の男が出てきた。
男は銀髪で、身長180センチ程度、黒いスーツを着ているが、いいガタイをしていた。

エド 「終わりだ、もうそのマキナは動かない」

? 「ああ、その通りだな…ここまでつぶされるなんて大誤算だ」
? 「まぁ、所詮、試作機か…」

エド 「レオンたちはどこにやった!?」

? 「レオン? さぁ、魔王と戦って死んだんじゃないか?」

アンダイン 「どういうこと!? サタンと戦ったって!?」

? 「言葉どおりさ、両方とも死んだんだろうぜ?」

シーザー 「くっ! 嘘を申すな! あのお方たちが死ぬわけがなかろう!」

黒羽 「そうだ! あの勇者が死ぬはずがない!」

? 「吼えるな吼えるな、泣こうが喚こうが、あいつらは帰ってこねぇよ」
? 「まぁ、こいつらはまだ生きているがな…?」

バシュウバシュウ!!

突然、ZAMに取り付けられたハッチが2つ開く。
その中にいたのは…。

セリア 「……」
リリス 「……」

エド 「リリスちゃん!?」

アンダイン 「セリア!」

シーザー 「セリア王女!?」

なんと、ハッチの中には眠りに付いた、二人の巫女がいた。

? 「こいつらは、この世を粛清するために必要な力だ、死なすわけにはいかない」

エド 「貴様ぁ!! 二人になにをした!?」

? 「ああん? 俺はしらねぇよ、俺は技術班じゃねぇし」
? 「俺が知っているのは、『アルティマバスター』を放つのに、こいつらのエネルギーを使っているってことだけだ」

シャム 「アルティマバスター!? なんだいそれは!?」

? 「メルディニア島を消滅させたろ? あの時だした光だよ」
? 「こいつは威力を調整するためのマキナ、こんなガキどもがあれほどの力を出すんだ…すげぇよなぁ?」

ジジジ…ジジジ…!

? 「! おっと…悠長に話していられるほど、このマキナも無事じゃねぇか」

レミィ 「目標、熱量の上昇を確認、爆発します…!」

エド 「はぁっ!?」

アンダイン 「ちょ…嘘っ!?」

? 「はははっ! 脱出脱出♪ 惜しかったなお前ら! この巫女どもは返せんな!」

カッ! ドカァァァァァァン!!

アシュター 「くっ!?」

黒羽 「きゃあっ!?」

ZAMはその場で大爆発を起こす。
俺たちは爆風で吹き飛ばされた。

エド 「つつ…くそぅ」

レミィ 「敵、消失…転送魔法の類で逃げた模様です」

シャム 「惜しいね…本当に、後一歩でせめて二人のお嬢ちゃんたちは取り返せたってのに…」

どうやら、爆発する瞬間、あいつは転送魔法で逃げたらしい。
セリア王女と…リリスちゃんを連れて…。

エド 「くそぅ…」

俺は大の字にその場で倒れた。
ここまで苦労して…あと一歩が届かないなんて…そんなのってねぇよな…。

だが、それが現実なのだと…俺は知った。
世の中、そんなに良いことばかりじゃない…だけど、ちょっと悪すぎやしないか?
そう、思う俺だった…。




To be continued





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