勇者と魔王〜嗚呼、魔王も辛いよ…〜




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第3部 神魔大戦編

レオン編 『剣聖』






『勇魔暦3401年 12月13日 トートス村付近 シャムの工房』


シャム 「強くなりたい……ってアンタがぁ?」

レオン 「ええ」

シャム 「アンタねぇ……世の中アンタより強い奴探す方が難しいんだよ? これ以上強くなって何するんだい?」

レオン 「……だけど、現実に俺より強い奴はいるんだ……そしてそれが何時敵で現れるかわからない……そうなった時俺は……」

シャム 「あ〜はいはい、アンタらしいよ、その真面目さはねぇ」

レオン 「今度負けたらその時は二度目があるとは限らないんだ! 俺は強くならないといけない!」

シャム 「だけどねぇ……う〜ん」

時は勇魔暦3401年末、もうすぐ新年を迎えようという時期だった。
つい先週あった、あの異世界からの来訪者たちとの戦いにより、俺は自分がまだまだ未熟だと言うことを知った。
俺は強くならないといけない……だけど、どうすれば強くなれるのか……それがわからなかった。

黒羽 「強くなるには修行あるのみだな」

レオン 「修行たって方法がわからないし……」

これまで俺はエドやアルル、シーラさんたちと切磋琢磨して強くなってきた。
ところが勇魔大戦も終わり、平和ボケ+練習相手の不足で強くなれる要素なぞ全く無い状態だった。

シャム 「修行ってぇなら、これ使ってみるかい?」

シャムさんはそう言うと部屋の奥から一刀の剣を持ってきた。

レオン 「これは?」

シャム 「とある知人が創った面白い剣でねぇ……使いこなすのは中々難しい品さ」

俺はそれを握ってマジマジと見てみる。
変わった装飾の施された不思議な剣だ。

レオン 「? なんで剣の刃が蛇腹に?」

なんと、剣の刃が継ぎ接ぎだらけの蛇腹になっているのだった。

シャム 「ふふ、今からプロテクトを外すよ、そしたらさぁビックリ!」

シャムさんはそう言って剣の装飾のひとつの紫色の宝石を取り外す。

ジャラァ……!

レオン 「!? け、剣が鞭に!?」

黒羽 「刃の鞭か?」

なんと、いきなり剣が鞭へと変化した。

シャム 「レオン、魔力を込めてみな」

レオン 「魔力を?」

俺は言われるがまま、剣に魔力を込めてみる。

ジャキン!

すると剣は再び刃を固め、剣に戻る。

シャム 「友人が武器職人やっててね、そいつの作品のひとつ、剣と鞭の二つの性質を持つ武器、その名も剣魔」

黒羽 「剣魔……」

俺は試しに魔力を込めたり、込めなかったりと感触を確かめてみる。
込めれば剣になり、抜けば鞭になる……面白い性質に感じた。

シャム 「レオン、ゼウス貸しなよ。そいつは貸してやるからさ」

レオン 「ゼウスをですか?」

シャム 「そう。たまには別の剣で修行しなよ、特にそいつは……修行になるよ?」

レオン 「……わかりました、ゼウスを貸します」

俺はゼウスをシャムさんに渡す。
変わりに剣魔を受け取るのだった。

シャム 「ふんふ〜ん♪ これでまた神器の研究始められる〜♪」
シャム 「あ、それと剣魔だけどねぇ、魔力を込めなければ剣にならないイコール剣で戦うには込め続けなければならない」
シャム 「また、鞭で戦うのなら極限まで魔力を抜かなければ意味が無い、イコール中途半端が一番悪い、だよ?」
シャム 「まぁ、頑張って剣魔の性能を100%扱えるようになってみな」

シャムさんはそう言うと上機嫌にゼウスを持ってラボの方へと向かっていった。

レオン 「剣魔か……」

俺は黒羽ちゃんと一緒に外に出ると試し振りを開始するのだった。

ブォン! ヒュウッ! ガシャン!

剣を一振り二振り、そして鞭に変化させ再び一振り。

レオン 「はぁ……はぁ……? おかしいな……まだ3分も振ってないのに、もう息切れ?」

黒羽 「なるほど、確かにその剣は修行になりそうだな……少し貸してみろレオン」

レオン 「? ああ……」

俺は言われるがまま、黒羽ちゃんに剣魔を渡す。
何故かわからないが剣魔はやたらと疲れるようだ。

黒羽 「フン! ハッ!」

黒羽ちゃんが剣魔を試し振りし始める。
それを5分ほど繰り返し、そこでようやく一息つく。

黒羽 「……ふむ」

レオン 「? なんで黒羽ちゃんが息切れ起こさなくて俺が息切れするんだよ?」

まさか、いくらなんでも黒羽ちゃんより体力が無いなんてないと思うぞ?
それとも、俺の平和ボケはそこまで深刻なのか?

黒羽 「当たり前だ。この剣は常に魔力をコントロールしなければならない」
黒羽 「人族であるお前では魔力の合有量は極めて少ない。こんな剣を振るい続ければあっという間にエネルギー切れを起こすに決まっている」

レオン 「? なんで魔力切れで体力がなくなるんだ?」

黒羽 「維持魔力と保有魔力については知っているな?」

レオン 「ああ、それなら」

維持魔力と保有魔力とは、その存在をこの世界に在らせるには最低限の魔力が必要と言うもので、その維持のために必要なのが維持魔力、あとの無駄な余裕分が保有魔力と言う。
人間は魔力が極端に少ない種族だからこの保有魔力が極めて少ないだけで、魔力そのものは持っている。

黒羽 「魔力は言い方を変えれば、その存在の生命エネルギーだ、体力と魔力を同時に扱うと体力の消耗が激しいのは当然だ」

そうか……魔力を扱うと言うことは、逆の言い方をすれば生命エネルギーを扱うようなものということか。
黒羽ちゃんは魔力の保有量が俺より遥かに多い、当然それだけ余裕ができる。

黒羽 「私が持っていてもそこまでの修行成果は得られないだろうが、お前が持てば十分な修行になるだろう」

そう言って黒羽ちゃんは俺に剣魔を投げ返してくる。
俺はそれを受け取り、剣を見つめた。

黒羽 「せいぜい体力をつけるのだな」

レオン 「………」

この剣が長く扱えるようになれば、それだけ魔法戦においても長時間戦えることになるだろう。
加えてこれだけ複雑な武器だ、まともに扱えるようになればそれだけ技術力も上がる。
だけど……?

レオン (魔力はそう簡単に上がるものじゃないぜ?)



…………それから、1週間ほどがすぎた。
俺の戦闘維持時間は一向に延びることはなく、途方に暮れながらもただ無心で剣を振るうのみだった。

ガシャンッ!!

レオン 「はぁ……はぁ……!」

クラウン 『全然、長く戦えませんねぇ』

レオン (全くだ)

クラウンは姿は見えないが、俺を頑張って応援してくれる。
具現化すれば、姿を見ることは可能だが、普段からする必要ないのでその姿や声は契約者の俺にしか聞こえない。

黒羽 「……いくら技術力が上昇しても、これではな……」

そう、たしかに1週間扱い続けることで、剣魔の特殊なギミックを使いこなすことはできていた。
問題はそれがたった3分ほどしか扱えないと言うことだ。
剣魔はソードモードとウィップモードの切り替えや維持に魔力をどうしても必要としてしまうため魔力の消耗が激しいのだ。

シャム 「おーい、あんたらやーい!」

クラウン 『あ、シャムさんですよー! ご主人様ーっ!』

レオン 「?」

黒羽 「なんだ、どうしたんだ?」

シャム 「ちょっとあんたらに頼みたいことがあるんさよ」

レオン 「頼み……ですか?」

シャム 「隣町にさね、ルゥカっていう武器職人がいるんさよ、そいつの家にお使いに行ってくれさね」

レオン 「お使い……ですか」

黒羽 「そんな物、あの機械人形に任せればよかろう」

シャム 「レミィは今、整備点検中で出られんさよ。それにレオンが苦戦しているみたいだしねぇ……行っといて損はしないよ?」

レオン 「? なんで?」

シャム 「剣魔を作った本人だからねぇ、黒羽ちゃんと一緒に行っておいで」
シャム 「ていうか行ってくれ」

黒羽 「ふむ……仕方あるまい」

俺たちはそう言われて、止む無くシャムさんのお使いに出ることになる。

シャム 「ああ、それとルゥカなんだけどね……あいつ少々人間嫌いなところがあってね……黒羽ちゃんがいれば大丈夫だと思うさから、まぁよろしく」

レオン 「はぁ……」

黒羽 「行くぞ、レオン」

俺たちは一旦特訓を止め、そのルゥカさんというところの元に行くのだった。



…………。



ルゥカさんという人がいるのはトートス村から西に3時間ほど歩いた所にある隣町、フルストの街の郊外に住んでいるらしい。
ルゥカさんはこの剣魔を作った武器職人らしく、シャムさんは俺にとって会えば有益になると言う。
しかしルゥカさんは人間嫌いの節があるらしく、どうも俺ひとりだと会ってくれそうにない。
と言うわけで黒羽ちゃんも一緒に行くことになるのだった。
でも、なんで黒羽ちゃんがいればOKなわけ?



黒羽 「――あの家ではないか?」

レオン 「かな?」

俺たちは予定通りおよそ三時間で隣町のフルストに到着する。
その離れに存在する、一軒の家屋。
歩み寄り、確認を取ろうとすると。

ギィィ。

サタン 「……色々と参考になりました。ありがとうございます」

女性 「いえいえ、こちらこそ」

なんと、突然あのサタンが現れた。

レオン 「な……なんでサタンがっ!?」

サタン 「ん? レオンか、どうしてお前が……て、ああ……なるほど剣術修行か。熱心なことだ」

サタンは真後ろの俺に気づくか、何故か一人納得していた。
なんで、剣術修行になるんだ?

女性 「あら? あなたたちは?」

サタン 「! あ、それでは」

女性 「ええ、ごきげんよう」

サタンはそう言ってその場を去る。
続いて残されたのは俺と黒羽ちゃん、そしてこの家の女性だった。

レオン 「えと、あなたがルゥカさんですか?」

女性 「ええ、そうですが?」

どうやら、この女性がルゥカさんというらしい。
ルゥカさんは典型的な南系人族だった。
黒い目、そして黒い髪は腰の下まで伸びていた。
服装は、武器職人というよりは、どこにでもいる主婦のような格好だった。

レオン 「えと、シャムさんからお使いを頼まれたのですが――」

ルゥカ 「あら? そちらの方は――ッ!?」

黒羽 「?」

ルゥカ 「は、話は家の中でしましょう。どうぞこちらへ」

レオン 「あ、じゃあお邪魔します」

ルゥカさんは黒羽ちゃんを見ると異様な反応を示し、家の中へと勧める。
この人が人間嫌いだというのは、あの黒羽ちゃんに対する異様な反応は一体?



ルゥカ 「――なるほど、シャムさんからのお使いですか」

レオン 「ええ」

ルゥカ 「それでしたら、こちらに」

俺たちはルゥカさんに案内され、家のリビングにいた。
とはいえ、リビングは兼工房のようで、リビングというにはやや異様だった。
ルゥカさんは俺の話を聞くと、立ち上がり机からひとつの箱を持って来た。

ルゥカ 「これですね」

黒羽 「これはなんだ?」

ルゥカ 「空の魔石ですよ」

レオン 「空の?」

魔石とは、マナの篭った魔石で、長い年月をかけて自然石にその土地のマナが溜まり完成する。
空の魔石とは一度魔石となった石から、マナが抜けて空っぽになった状態の石のことだ。
一度でも魔石と化した石はすでに普通の石ではない。
空の魔石にはある特徴があり、それはあらゆるものを吸収するという特徴を持つ。

ルゥカ 「ところで、あなたの持っている剣は?」

レオン 「ああ、剣魔ですか……ルゥカさんの作った剣なんですよね?」

ルゥカ 「ええ、懐かしいわね……昔シャムさんに上げた私の作品のひとつよ」
ルゥカ 「どう、人族のあなたにはその剣は大変でしょ?」

レオン 「そうですね……正直10分扱うことさえできません」

ルゥカ 「でしょうね。それは私の創った作品の中でも最高傑作だけど、その剣の真の力を引き出せる者はいないわ」
ルゥカ 「今から帰ると夜になってしまいますね、今日は一晩泊まっていってくださいレオンさん、黒羽さん」

レオン 「そうしようか、黒羽ちゃん」

黒羽 「ふむ、そうだな」

ルゥカ 「あの……レオンさん、後で少しお話したいのですがよろしいですか?」

レオン 「え? ええ……」

その後、俺たちはルゥカさんの家に泊まらせてもらい、夕飯を奢ってもらうことになる。
そして、黒羽ちゃんがお風呂に入っている時だった。

ルゥカ 「レオンさん……」

レオン 「ルゥカさん?」

ルゥカ 「どうして、どうしてあなたと黒羽さんが一緒に?」

レオン 「俺と黒羽ちゃんが一緒にいる理由って……ああ」

どうして、そんなことを聞いたのか最初はわからなかったがすぐにその理由がわかる。
この南側において、汚点ともいうべき事象が過去にあった。
翼人種の乱獲だ。
アレのせいで、翼人種はほとんどが死に絶え、この南側にいるというのはさも不思議なことだ。
だからだろう。

レオン 「友達みたいなものですよ」

ルゥカ 「友達……ですか?」

レオン 「たぶん、ですけどね」

ルゥカ 「ふふ、いい人みたいですね」

ルゥカさんはそう言って微笑む。

レオン 「そういえば、どうしてサタンがあなたを訪ねたのですか?」

ルゥカ 「え? あ……ええ」
ルゥカ 「私の話を聞きにきたんですよ」

レオン 「話?」

ルゥカ 「私は、ひとつの仮説を持っています」
ルゥカ 「この世界を構成するとされる基本元素、すなわち火水土風氷雷光闇金の9元素」
ルゥカ 「ですが、私は考えました……どう考えてもこの9つの元素だけでは、世界は作れないと」
ルゥカ 「そこで、私はある仮説を立てたのです。この世界を現すためには後ひとつ必要な物がある……それすなわち時の属性」

レオン 「時?」

ルゥカ 「時は流れます。過去から未来へと」
ルゥカ 「この流れが無ければ、世界は成り立たない……そのはずなんです」
ルゥカ 「あの魔族の青年は、私の仮説に興味を持ち訪れてくれました」

レオン 「なるほど……でも、なんでサタンの奴、そんな仮説に?」

ルゥカ 「さぁ? ただ彼も時の属性の存在に可能性を持っていたようですが」

レオン 「ふむ………」

なんでサタンが時の属性に興味を持ったのかは知らないがどうでもいいか。

黒羽 「おーい、上がったぞ」

そこへ黒羽ちゃんが風呂から上がってくる。

ルゥカ 「あ、レオンさんお先にどうぞ」

レオン 「あ、それじゃ遠慮なく」

俺はそう言って風呂に入りに行くのだった。



……次の日。


ルゥカ 「――申し訳ありませんが、お昼までここにいてくれませんか?」

それは唐突だった。
ルゥカさんは午前中、家を空けないといけないらしく、その間俺たちは留守を任されるのだった。
俺たちは一泊させてもらった恩もあるので、お昼まで留守番をすることになるのだった。


そして……それは丁度そろそろ太陽が真上にかかろうとしている時間帯のことだった。

男性 「た、大変だぁ!」

レオン 「え?」

それはまたもや唐突だった。
俺と黒羽ちゃんは家の外で、剣の素振りを行っていると突然誰とも知らない男が走ってやってくる。

男性 「マジカー山にモンスターが現れた! ル、ルゥカさんは!?」

レオン 「え、ルゥカさんなら今、出かけてますけど……」

男性 「え!? た、大変だぁ……!?」

黒羽 「モンスター?」

レオン 「…だったら、それは俺たちがやるべきか」

黒羽 「ふむ、そうだな……行くぞ!」

レオン 「おう!」

俺たちはそう言って急いで、マジカー山に向かうのだった。



男性 「あ……ちょ、ちょっと!?」

ルゥカ 「あらぁ? 一体どうしたのですか?」

私は用事を終えて家に帰ってきますと、なにやら慌てた様子の男性がいました。

男性 「あ! ルゥカさん! 大変なんだ! マジカー山にモ、モンスターが!」

ルゥカ 「まぁ」

それは、大変ですねぇ……。



…………。



マジカー山。
フルストの街から南に1キロほどのところにある小さな山である。
普段はたいしたモンスターが現れることは無いのだが……。


『同日 時刻13:15 マジカー山』


ビュゥゥゥゥ……。

黒羽 「風が強いな……」

レオン 「たしかに……」

俺はマジカー山を登ったことはなかったが、ここは思ったより風が強かった。
山自体はそんなに大きい物でもないし、険しい山というわけでもない。

モンスターは見当たらない……本当にモンスターなんているのか?

クラウン 『ご主人様ぁ……上のアレなんですかぁ?』

レオン 「上?」

俺はクラウンに言われて上を見る。
すると、上に大きな鳥型モンスターがいた。
何か、子供を咥えて……。

レオン 「て、子供!?」

黒羽 「あれは!? ちっ!!」

黒羽ちゃんは虎鉄を構えて空に飛び上がる。

黒羽 「はぁっ!!」

ガスッ!!

モンスター 「グワッ!?」

黒羽ちゃんが刀の裏で鳥を叩く。
相変わらず鳥型モンスターには甘いな……。
そして、鳥型モンスターは叩かれると口に咥えていた子供を落とす。
黒羽ちゃんはそれをすかさず助けると、降りてきた。

レオン 「黒羽ちゃん! 大丈夫か!?」

黒羽 「私は大丈夫だが……この子」

レオン 「?」

黒羽ちゃんが抱きかかえていた子供。
ここらでは珍しい修道士のような服装に、白い髪の毛。
気絶しているのか目を瞑っているが、10歳そこらの小さな少女。
そして背中に白い翼。

レオン 「ん? 翼?」

翼……翼……黒羽ちゃんと同じ翼……。

レオン 「て、ええええええええっ!?」

俺は大いに驚く。
な、なんでこんな所に翼人種が!?

少女 「ん……んん?」

黒羽 「気がついたか……大丈夫か?」

少女 「ここは……?」

レオン 「大丈夫?」

少女 「!? ひ、人族!?」

少女は俺を見ると怯えたように、黒羽ちゃんにしがみ付く。

黒羽 「あ……おい」

レオン 「助けたのに、怯えられるのって切ないな〜……」

少女 「え? 助けた……?」

レオン 「ま、助けたのは黒羽ちゃんだけどね。俺はレオン、君は?」

少女 「ホ、ホーリィ」

レオン 「ホーリィちゃんか」

黒羽 「私は黒羽だ。怪我は無いか?」

ホーリィ 「あ、は、はい」

ホーリィちゃんはそう言うと黒羽ちゃんから降りる。
背中から生える純白の羽をパタパタと羽ばたかせ、埃を落としていた。

レオン 「ホーリィちゃん、この山にモンスターが現れたらしいんだけど知ってるかい?」

黒羽 「さっきの小物では町があれほど大騒ぎもしまい……知らないか?」

ホーリィ 「そ、それでしたら多分……」

ホーリィちゃんは心辺りがあるようだった。
ただ、不安そうな顔。
そして危険を感じさせる空気。

ホーリィ 「この山の頂上の洞窟……そこに奴が」

黒羽 「奴?」

ホーリィ 「あいつは同じ翼を持つ者のくせに私たち翼人族を襲うんですっ!」
ホーリィ 「奴の名はグラメンテ! 大鷲(オオワシ)の鳥人です!」

レオン 「グラメンテ……鳥人種か」

翼人と鳥人。
ルーツは同じなのだそうだが、その見た目は決定的に違う。
翼人族は黒羽ちゃんたちのように人間ベースに鳥の力を得たような種族だ。
大して鳥人は鳥ベースに人間の力を得たような種族。
簡単に言えば、見た目は鳥なのだが、二本足で立ち、両手両足が人間のように長い。
見た目は人のそれとは全く異なる種だ。

黒羽 「翼人を襲うとは、同じ翼を持つ者とは考えたくも無いな」

レオン 「行こう黒羽ちゃん! 放ってはおけないだろ?」

黒羽 「うむ……そのような外道生かしてはおけん」

俺たちは頷きあい、山を駆け上がる。
その鳥人、グラメンテのいる洞窟へと。



………。



頂上へと走ること10数分。
ようやく頂上へ着くと、頂上には大きな空洞があった。
その奥には……。

グラメンテ 「うほほ♪ わざわざ翼人種がみずから来るとはのぅ!」

レオン 「アンタがグラメンテか!?」

空洞の一番奥に鎮座する鳥人。
大鷲の姿をしているが、一番驚いたのはその巨体だった。
10メートル近くある大きな種族だ。
巨人族じゃあるまいし、どうなっているんだ?

グラメンテ 「いかにも、ワシはグラメンテだ」

黒羽 「なぜ、同じ翼の民が翼人種を狙う!?」

グラメンテ 「うほほ♪ ワシもそれがただの翼人なら気にもとめん」
グラメンテ 「だが、相手が世にも珍しい純白の羽を持つ、白鷺(はくろ)の民とあってはな!」

グラメンテはそう言ってホーリィちゃんを睨みつける。
するとホーリィちゃんはビクッして黒羽ちゃんの後ろに隠れた。

黒羽 「白鷺の民? それがなんだと言うのだ?」

グラメンテ 「ほほ、なんだ烏(カラス)の癖に知らんのか?」
グラメンテ 「白鷺はこの世界で最も高い魔力を持つ種族だ」
グラメンテ 「かつてはその高い魔力を用いて神との交信を行い、神鳥として崇められていた」
グラメンテ 「だが、白鷺のその美しい見た目は人の目に当然のように留まり、過去に翼人族の乱獲が行われた」
グラメンテ 「その際、白鷺の民はその種族的性格から一切の抵抗を見せず、ただ滅びの道を歩んだのだ」
グラメンテ 「ただでさえ、数の少なかった白鷺の民、それが生きていたとあれば欲して当然だ!」
グラメンテ 「人魚の胆と並んで我々の魔力を何倍にも膨れあげる幻の一品なのだからな!」

レオン 「鳥が鳥を捕食するのか!」

グラメンテ 「強き者が弱き者を喰らう! これが自然摂理の理だ!」
グラメンテ 「だが、珍しいものだ。白鷺の民とは別の意味で乱獲された烏の民と出会えようとはな」
グラメンテ 「貴様ら烏は白鷺とは比べ物にならんが、高い魔力を有している」
グラメンテ 「まぁかつてはその高い魔力で、白鷺の民の守護を務めた種族だ。当然と言えば当然だがな」

黒羽 「私たち烏の民が……白鷺の民を?」

グラメンテ 「さぁ、おしゃべりは終わりだ! 再び訪れた白鷺の民を喰らうチャンス! 逃してなる物か!」

レオン 「!」

俺と黒羽ちゃんは瞬時に臨戦態勢を整える。
相手はデカブツだ、リーチが違う。慎重にいかないとな。

黒羽 「私は上から行く!」

レオン 「オーケー!!」

グラメンテ 「うほほ♪ なんだ刀などもって、気でも狂っているのか!?」

黒羽 「やぁや我こそはシンの国の侍、黒羽! 我は刀に生きる者也ッ!!!」

黒羽ちゃんはそう言って虎鉄を両手でもち、グラメンテの顔面に切りかかる。

ガキィン!!

黒羽 「!?」

しかし、グラメンテは片手(片翼?)でそれをいとも容易く受け止めてしまう。

グラメンテ 「うほほ、鷹の民ならいざしらず、貴様のような非力な存在が我々大鷲の民に力技で勝てると?」

黒羽 「くっ!?」

黒羽ちゃんは一旦距離をとって、もう一度攻撃を仕掛けようとする。
しかし、グラメンテもさすがにその隙は与えてくれない。
その巨体で黒羽ちゃんを文字通り鷲づかみにしてしまう。

グラメンテ 「うほほ♪ つ〜かまえた♪」

黒羽 「ぐううううううっ!?」

レオン 「黒羽ちゃんっ!!」

俺はグラメンテに走りこむ。

グラメンテ 「邪魔はさせぬわ! 人間!」

グラメンテは片手を振るうと、突然突風が吹き、俺は空洞の壁に叩きつけられてしまう。

レオン 「く……くそ……!」

俺は朦朧とする意識をなんとか留め、グラメンテを睨みつける。

クラウン 『ご、ご主人様大丈夫ですかっ!?』

レオン (なんとかな……こんなデカブツと戦うのなんて、ダークマスター以来だ……やっぱり厄介だな)

もっとも、ダークマスターに比べれば遥かにそのサイズもパワーも小物だ。
とはいえ、デカブツと戦うのはなんとも厄介だ。
実力差以上にカバーしないといけない物がある。

レオン (魔法で一気に行くか? いや……それじゃ黒羽ちゃんが盾にされる恐れがある……)

レオン 「くそぅ……やられっぱなしでたまるかーっ!!」

俺は立ち上がり、再びグラメンテに走りかかる。

グラメンテ 「うほほ♪ 無駄無駄♪」

レオン 「シャイニングボムッ!!」

カッ! ドォン!!

グラメンテ 「うほっ!?」

俺はレベル4魔法、シャイニングボムをグラメンテの顔面に放つ。
グラメンテの巨体には大したダメージにはならないが、閃光がグラメンテの視界を奪い、怯ませる。
俺はその隙に一気に距離を詰めて、飛び上がりグラメンテの腕に切りかかった。
まずは黒羽ちゃんを!

ジャラ……!

レオン 「!?」

俺が剣を振るったときだった、剣はグラメンテの腕を切り裂くどころか、ウィップモードに入り、切ることができなかった。

レオン (しまった!? 相手を切るだけの十分な魔力がっ!?)

ソードモードを維持するには剣魔は魔力を込め続けなければならない。
この特殊なギミックのせいで肝心なシーンで俺はミスを犯してしまう。

ガシィ!!

レオン 「ぐあああっ!?」

グラメンテ 「ほほほ♪ 驚かせおって、なんだこのへんてこな武器は?」

俺はグラメンテに隙を与えてしまい、黒羽ちゃんと同様鷲づかみにされてしまう。
その際剣魔はグラメンテの手に渡ってしまった。

グラメンテ 「うほほ、変わった武器だが、役に立たなければゴミだな、ポイッと」

グラメンテはゴミを捨てるように入り口の方に剣魔を投げ捨ててしまう。

グラメンテ 「うほほ♪ さて、どうしてくれようか……」

? 「剣魔の使い道……どうやらよくわかっていないようですね」

グラメンテ 「!? 誰だ!?」

俺は入り口の方を見る。
地面に落ちた剣魔を拾う女性。
その人は……。

レオン 「ルゥカさん……!?」

なんとあのルゥカさんだった。
なんでルゥカさんがこんな所に!?

ルゥカ 「レオンさん、この剣魔はとても繊細です。ゆえに些細なミスが致命的となります」
ルゥカ 「この剣は私の最高傑作です……本当はどれ程の武器なのか……見せてあげますよ」

ルゥカさんはそう言うと剣魔を右手に持ち、ソードモードに変える。

黒羽 (!? なんだ!? ルゥカの気が変わった!?)

レオン (この覇気、一体なんなんだ!?)

突然、剣魔を持ったルゥカさんからとてつもない覇気を感じる。
本能で分ったことは、この人が強いということだった。

グラメンテ 「うほほ、小ざかしいは人間風情が!」

グラメンテはそう言って俺を弾き飛ばした時のように腕を振るおうとしていた。
だが、次の瞬間には……。

ザシュウッ!!

グラメンテ 「うほっ!? うっほーーーっ!?!?」

一瞬の出来事だった、一瞬で間合いをゼロにしたルゥカさんはグラメンテの腕を切り裂く。

レオン 「瞬歩!?」

なんとルゥカさんは瞬歩を使ったのだ。
しかし、これほどの長い距離を一瞬で0にしてしまうなど聞いたことがない!

グラメンテ 「わ、ワシの腕が……き、貴様一体何者だ!?」

ルゥカ 「今はしがないただの武器職人……ですが、かつてはこう呼ばれていました『剣聖』と」

グラメンテ 「剣聖!? まさか……あの伝説の剣聖かっ!?」

レオン 「剣聖……聞いたことがある」

10年くらい前だ。
南側の人間にして、人間界最強との呼び声も強い人物がいた。
その剣はあらゆる物を切り裂き、時に空気さえも切り裂いたという。
その神業的技量と力、そして白衣に身を包んだ姿から世間ではこう言われることとなった……剣聖と。
だが、剣聖はちょうど10年前を境に、姿を消した。
それがルゥカさんだって!?

ルゥカ 「あなたは運がいい、剣聖の剣を味わえるのですからね」

ルゥカさんはそう言うと、瞬歩を用いて、高速移動を繰り返し、グラメンテの身体を切り刻んでいく。

グラメンテ 「ぐああああああっ!?」

ルゥカ 「そのふたりを放しなさい。そしてこの山から去るのです……そうすれば命まではとりません」

グラメンテ 「う……うほほ。慈悲深いな剣聖……だが!」

ガラァッ!!

グラメンテが地面に何かをした瞬間だった。
突然、地面が崩れ、底の見えない空洞が地面の下から現れた。

グラメンテ 「うほほ! 貴様のその足も地面があってこそのもの! 蹴る物が無ければ瞬歩は使えまい!」

ルゥカさんはそのまま奈落の底へと落ちてしまう。
それを見て高らかに笑うグラメンテ。
しかし、次の瞬間グラメンテの顔は青ざめる。

ボン! ボン! ボン!

グラメンテ 「!? な……何の音だ!? ま、まさか!?」

全く聞いたことの無い音……いや、空気を叩くような音だった。
次の瞬間……それはまさに驚愕の姿だった。

ルゥカ 「瞬歩も極めれば、空気さえ蹴れます」
ルゥカ 「私の瞬歩に地面は要りません」

なんとルゥカさんは空気を蹴って、空中を浮いていた。
さすがにこれにはグラメンテじゃなくても開いた口が塞がらない。
そんなのありかよ………それが第一印象だった。

ルゥカ 「はっ!」

ルゥカさんは瞬時に剣魔をウィップモードに変えて、天井の出っ張りに剣魔を引っ掛けた。

ルゥカ 「とはいえ、さすがに空を飛ぶのは体力の衰えた私では30秒といったところが限界ですか」

グラメンテ 「こ、これが剣聖の実力か……だが! 地の利はワシにある!!」

ルゥカ 「はぁっ!!」

グラメンテが突風をルゥカさんに放つが、ルゥカさんは振り子の原理を利用して、大きくジャンプして回避する。
そのまま、ウィップモードを維持したまま鞭をグラメンテに振るう。
だが、距離が遠い、さすがに4メートルは離れて……。

ザシュウッ!!

剣魔の切っ先がグラメンテの肩を貫く。

レオン 「て!? 剣魔が伸びた!?」

ルゥカ 「魔力を抜く時は、極限まで。そうすれば剣魔はこれほどのリーチを誇ります」

などとさり気なく言ってくれるが、剣魔の見た目からは想像も着かないほどの超射程だった。
一体何メートル伸びるんだ!?

グラメンテ 「ぐううっ!? うおおおおおっ!!」

グラメンテは気合で剣魔を肩から抜いて、ルゥカさんを吹き飛ばした。
しかし、ルゥカさんは天井に逆さまになって張り付き、ダメージはない。

ルゥカ 「さて……ではそろそろ終わりにさせていただきます」
ルゥカ 「あなたには剣聖である私だけが可能としうる最高の剣技を見せてあげましょう」
ルゥカ 「空気を蹴れる瞬歩があるからこそ可能としうるこの剣技!」

ルゥカさんは10メートル以上離れた位置から剣魔をソードモードに戻し、なにやら居合いの形で構えた。
次の瞬間、明らかに遠すぎる位置から、ルゥカさんは剣を素振りする。

グラメンテ 「一体なにを……?」

ルゥカ 「過去、この剣技を体得した者は私だけ、運がいいですよ……私の『飛ぶ斬撃』を受けれるなんて」

グラメンテ 「うほっ!?」

ブシャアアアアアアアッ!!!!

グラメンテの胴体が横に一閃。
真っ二つになり、血を大量に噴出した。

グラメンテ 「そんなばかなぁっ!!???」

グラメンテは為す術無く真っ二つにされ絶命した。
まさか……斬撃が飛ぶなんて……ありえるのか?

ルゥカ 「大丈夫ですか、お二人とも?」

レオン 「え……ええ」

黒羽 「まさか、貴様がこれほどの実力者だったとは……」

ルゥカ 「隠しているつもりは無かったんですけどね」

シャムさんのお使いで訪れたルゥカさん。
そのルゥカさんの剣技、そして体術は神掛かっていた。
そしてそれは……俺の転機であった。




To be continued






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