勇者と魔王〜嗚呼、魔王も辛いよ…〜




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第3部 神魔大戦編

シーラ編 『神魔』






『勇魔歴3202年3月某日 時刻02:42 場所:不明』


兵士 「侵入者だーーッ!」

パランス 「……?」

兵士 「あ、パランス様! 賊が! 賊がこの深淵の世界に!」

パランス 「ふーん、賊がここまで来るなんて物好きだねぇ」
パランス 「さっさと追い払いなよ」

兵士 「そ、それがや、やたら強くて……!」

パランス 「?」

? 「……初めまして」

パランス 「……! へぇ……誰かと思えば……初めまして、『シーラ』さん」

シーラ 「……」

私はとある目的でこの魔界のアビスゲートを通って深淵へとやってきた。
アビスゲートの中は最初は魔界のような平野だったが、途中から青い4メートル大のブロックで構成されたエリアに出た。
私はそこでパランスという仮面とローブで身を覆った将校と思しき人物と出会う。

パランス 「あんたのことだ、洒落や酔狂でここまで来たわけがないでしょ? 何が目的?」

シーラ 「最近、あなた方の活動が最活発してきたので『あの方』が目覚めたのかと思いましてね」

パランス 「だったら? 何一人でここを叩き潰しに来たわけ?」

シーラ 「まさか、まだその時ではないでしょう……そちらの主も無用な戦いは望んでいないはず」

パランス 「そうだねぇ……たしかに君と戦いたくは無い」
パランス 「でもねぇ? ここから先には君をお通ししたくないんだよねぇ?」

シーラ 「……」

私はパランスの反応を見て、とある剣を取り出す。

パランス 「!? それは……」

シーラ 「あなたたちにとってはある意味何よりも重要でしょう?」

パランス 「本物……か?」

パランスの声色が変わる。
私が出した剣はアビスにとってそれだけ重要な物だった。

パランス 「解せない……我々がそれを取り返すために異端審問会の本部を襲撃した時は既に無かった……いつ貴様は手に入れたんだ?」
パランス 「いや、それだけじゃない……貴様はいつも我々の一歩先を行ってきた……貴様、何者だ?」

シーラ 「……いいでしょう。そろそろあの人を紹介しましょう」

? 「やれやれ……やっと俺は出れるわけ?」

パランス 「!?」

突然、私の影から一人の人物が姿を現した。
パランスはそれを見て驚いていたようだった。

パランス 「……そうか、オーディンの袂、失われた血を継ぐ者……貴様は『ロキ』!」

ロキ 「ひゃっはは♪ 初めまして♪」

勇魔大戦が終了した直後、ロキさんは突然私の前に姿を現しました。
私はロキさんと組むことによって、あらゆる物事の一歩先を進むことが出来た。
そう、ひとえにトリックスターとさえ言われる、この人の力によって。

シーラ 「ここまで大判振る舞いしたんです、どうでしょう?」

パランス 「……しかし」

『いいだろう……パランス、通せ』

パランス 「! は……」

突然パランスの後ろから声が聞こえた。
パランスは後ろに敬礼して、振り返る。

パランス 「良かったな……あの方は寛大だ……だが、粗相があれば許さないよ?」

シーラ 「心得ております」

パランスはそう言って前を歩き始める。
私とロキさんはその後ろを黙って付いてくるのだった。




…………。




青いブロックのエリアを抜けて30分ほど、複雑な迷路のような世界を通って私達は文字通り深淵へとたどり着く。

シーラ (ここは?)

私達はとある不思議な場所にやってきた。
目の前には何人か容姿のわからないアビスの者がおり、そして中央にカーテンの掛かった奥に誰かがいた。

? 『よく来たシーラよ』

シーラ 「初めまして」

ロキ 「どーも」

私はアビスの主に対して最大の敬礼を持って応える。

主 『ワールドよ、彼女から剣を』

ワールド 「はい」

主に呼ばれてワールドという男が動き出す。
ワールドの仮面は真っ白で全く特色がない仮面だった。
いや、それどころか空気穴さえなく、さらに白いローブで全身を覆っている。
180センチ程度、男性のようね。

シーラ 「……こちらです」

私は丁重にそれをワールドに渡した。
ワールドはそれを大切そうに持つと、それをカーテンの先の主に献上する。

主 『……たしかに、紛れも無くこれは七支刀だな』

七支刀は人にとっては武器とは言えない。
七支刀には刃が無く、またまるで木のように枝分かれした7本の枝が生える。
祭儀刀と考えられるが、これがこの主にとっては大変重要な物となる。

主 『大変感謝するぞシーラよ、だが何故これを?』

マジック 「たしかに、アンタ勇者たちの仲間でしょ? なのにどうして私たちに加担するのかしら?」

シーラ 「私はもうレオンさんたちの味方ではありません……まして仲間などおこがましい」

? 「嘘だな……」

シーラ 「?」

突然まだ知らないアビスの者が私の言っていることを嘘だと言う。
星のマークの入った仮面……安直だが恐らく。

ロキ 「失礼だけどあんた誰? 推察する所……」

? 「スタアだ」

シーラ (星ですか)

スタア 「アンタがどう思おうと勝手だが、アンタの本心はあいつらの仲間だ」

シーラ 「……なぜそう言いきれるのでしょうか?」

スタア 「絆は……そう簡単に切れるもんじゃない」

シーラ 「……」

私はそれ以上は何も言わず黙る。
なぜスタアはここまで人を信頼できるのか……そこにこの人物の生前へのヒントがある気がした。

ロキ 「さってと、主さんよ、七支刀が手に入ってもまだアンタは動かない気かな?」

フール 「……貴様、口を慎め」

ロキ 「はっ! 悪いね……俺ぁ性分なんだよこれが」

主 『構わんよ……君への答えだがまだ動く気は無い』

ロキ 「ふーん、随分慎重だねぇ」
ロキ 「だけど、時間をかければかけるほどアンタの首を絞めていると思うんだが?」

主 「……ふ」

シーラ (笑った?)

カーテン越しで表情は掴めないが確実にあの人は笑っていた。

主 『簡単すぎるゲームは面白みはないと思わないか?』

ロキ 「へ、そりゃ言えてる」

主 『それが答えさ』

ロキ (け、大うそつきが……まぁいいさ)
ロキ 「なるほどね、それじゃ俺らの用事はこれで終わりだ」

シーラ 「……」

どうやらロキさんの情報収集は終わったらしい。
長居は無用ですか……。

シーラ 「それでは、私達はこれで……」

主 『その前に君たちにひとつ尋ねておこう』

ロキ 「あん?」

主 『我々に君たちの力を貸してくれないか?』

なんとアビスの主は私たちを懐柔してこようとする。
だがそれを聞いてロキさんはニヤリと笑うと。

ロキ 「は! お断りだ! 人に姿も見せないような恥ずかしがり屋さんに仕える気はないね」

フール 「……貴様!」

シーラ 「……残念ですが、私もです」

主 『そうか……不躾なことを言って大変申し訳ない』

シーラ 「いえ」

主 『パランス、送ってあげなさい』

パランス 「……わかりました」

ロキさんの挑発的な態度はアビスの人達を苛立たせたがパランスは自分の心を抑えてか、私たちを先導する。
当のロキさんはさも楽しそうな顔をしている、この人根っからいじめっ子属性なだけにこうやって人の感性逆撫でするのは大得意とする。
だが戦術の鬼才であり、神魔大戦においてこの人の『裏切り』さえなければ神魔大戦は神側が勝利したとも言われるほどの影響力を持つ神だった。

パランス 「こっちだよ」

シーラ 「どうも」

ロキ 「言っとくけど迷わそうとしても無駄だぜぇ? 俺もう道覚えたから♪」

シーラ (相変わらず凄い記憶力)

しかし、それさえもいやらしく言うこの人がすごい。
ていうか言う必要ないと思うけど……。

パランス 「……ふん」

私達は来た道を辿り、出口付近までやってくる。
しかし、すぐそこに出口が見えた頃。

ファント 「ちょっと止まってくれない?」

パランス 「!? ファント……一体どうしたんだい!?」

突然殺気立つファントさんが現れる。
まるでここは通さないと言わんばかりに私たちの道を塞いだ。

ファント 「パランス……邪魔するなら君も消すよ?」

パランス 「ファント……君は」

ファント 「……気に入らないな……全く気に入らない!」
ファント 「人の家に足を入れてそれだけの不始末! お前ら死んじゃえ!」

ファントはそう言うとカードを取り出し、そのカードの力を具現化する。

パランス 「『イビルブラスト』!」

カードは魔力となり、強大な熱戦砲となり私たちを襲った。

ロキ 「オイ……」

シーラ 「離れて」

私はロキさんにそう言うとデポテッドを張って、攻撃を防ぐ。

ズガァァァァァン!!!

爆発が起きて、土煙が起きる。

パランス 「よせファント! 君の敵う相手じゃない!」

ファント 「うるさいうるさいうるさい!」

シーラ 「子供じゃないんだから癇癪上げないでください……そこをどいてくれませんか? あまりことを大きくしたくないんですが?」

ファント 「ふ、ふん! ここを通りたければ僕を倒すんだな! これならどうだ! 『ヘルブレイズ』!」

シーラ 「無駄なことを」

私はデポテッドでファントの放った地獄の火炎を防ぐ。
ファントの攻撃は私には通用しないのに。

シーラ 「……しょうがありません、攻撃に移ります」

私はできれば無血で事を終わらせたかったが、止むをえず攻撃に出る。

ファント 「ふ、ふん! たしかに貴様は強いさ! だけどそれはネクロノミコンあってのこと! さぁ!」

私が『スペルレイ』の準備を始めると突然ファントがあるカードを取り出す。
カードが光り出すと突然私の手元のネクロノミコンが消え去る。

ロキ 「! ほう……」

ファント 「はーはっは! ハンドのカードの効果により貴様の持ち物を奪わせてもらった! これで貴様は――なっ!?」

私の手元にはネクロノミコンはない。
だが、私はすでにスペルレイを発射する準備を完了していた。

シーラ 「閃光の一撃、『スペルレイ』!」

魔方陣が私の掌で展開すると、ある手のレーザーとなってファント襲う。

ファント 「馬鹿な!? ネクロノミコンはこっちにあるのになぜ……な、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

ズガァァァァァン!!!

ファントに当たることにより大爆発を起こす。
私は起きた砂煙により汚れた法衣の埃を払った。

シーラ 「……運が良かったですね」

私はそう言って着弾点から10メートルほど横に離れた位置に居る『二人』に言った。

ワールド 「……世話を焼かせるなファント」

ファント 「はぁ……はぁ……ワ、ワールド?」

どう考えてもクリーンヒットしたはずだが、ファントはダメージを受けていない。
いや、それよりいつの間にそれほど離れた位置に移動したのか?
ワールドはファントを抱えたまま移動したようだが、その気配すら感じなかった。

ファント 「お、お前なんでネクロノミコンがないのにそれが使えるんだ!? しかも……全く威力も衰えず!」

シーラ 「もう……必要ないんですよ……もう」

私がそう言うとネクロノミコンはボロボロになり砂へと変わった。

ファント 「な!?」

ワールド 「やはりすでにヒトを止めていたか」

シーラ 「……行きましょうロキさん」

ロキ 「ああ」

私はファントさんたちに一瞥してアビスゲートを出る。



? 「てらす……これでよかったの?」

主 『マナか……』

マナ 「優しい……ううん……あなたは優しすぎる……そんなあなたがどうして業を背負わないといけないの?」

主 『必要だからだ』

マナ 「……」

主 『シーラ君はやはりヒトではなくなっていたな』

マナ 「誰かさんとそっくりね、誰も頼んでいないのに勝手に業を背負い込む」

主 『それは私か?』

マナ 「さぁ?」



…………。



ロキ 「……やっぱ俺には魔界は性に合わんわ」

アビスゲートを抜けるとロキさんはいきなりそう言って落ち込む。

シーラ 「何言っているんですか、いつも裏で暗躍しているくせに」

ロキ 「それはそれ、これはこれ」

ロキさんはすぐに立ち直るとそう言って手を左から右へと動かす。
まぁ確かに魔界は人間界と比べるとどうも陰気臭い。
人間界には月が無いように、魔界には太陽が無い。
そのため年中魔界は夜のように位。
また精霊たちも基本的にはエレメントにおいて陰属性を司るのもその要因だろう。
気温も比較的温暖な人間界に比べ、魔界は年間通して冬のようだ。
しかし魔界は人間界に比べ科学的に進歩しており、街などへ行けば街灯、電灯など電気を利用した技術がかなり目立つ。
そしてこの魔界は優れた組織形態があり、国のような民族意識はまったく無い。
そのため異端審問会のような組織が存在し、常に魔界と人間界のバランスは調整される。

シーラ 「幸い今は夜なのでまだ明るいほうでしょうに」

不思議な話しだが魔界には太陽がない性で夜の方が明るい。
その理由は夜ならば月が出るので、その光でまだ明るいのだ。
とはいえ、人間界の朝に比べると相当暗いのは言うまでも無い。

ロキ 「一番近い街はどこだ?」

シーラ 「一番近いのはアリラトの街ですね」

ロキ 「じゃそこ行って飯でも喰うか」

シーラ 「あまり異端審問会の目に付くような行動はしたくないですが……」

なんだかんだで私は異端審問会に目を付けられている。
指名手配犯だということは人間界でも魔界でも変わらない。
元々私はロキさんに言われて、基本的には闇で行動してきた。
本当はレオンさんたちを助けたかった。
みんなのために戦いたかった。
だけど、ロキさんに言われて私はみんなのためにあえて悪になった。




『1年前……勇魔大戦が終了してすぐのことだった』


ゾディ・アック将校 「任務ご苦労だったネウロよ」

シーラ 「……いいえ、では失礼します」

私は勇魔大戦が終了すると共にゾディ・アックへと帰った。
これからどうしようかとも考えたが、結局私はゾディ・アックの消耗品に過ぎない。
レオンさんたちならこんな私も受け入れてくれるだろう……でも、それはレオンさんたちに余計な迷惑をかける。
結局私はゾディ・アックで生きることしか出来ない。

シーラ 「……はぁ」

私はゾディ・アックの施設内にある私室に帰るとベットに座って帽子を外した。
考えてみれば私は一年以上法衣を身に纏っていたのね。

シーラ (馬鹿馬鹿しい……何が聖職者か……私はただの殺人鬼に過ぎないと言うのに)

ロキ 「失礼、あんたがネウロかい?」

シーラ 「!?」

突然、私の影から一人の男性が現れる。
170センチ大の褐色の男性で、赤い瞳と銀髪が特徴的な男。
いや……ヒトじゃない?

ロキ 「それともシーラかい?」

シーラ 「あ、あなたは……?」

ロキ 「おっと先に言うべきだったな……俺はロキだ」

シーラ 「ロキ!? あのヴァン神族の!?」

ロキ 「おっと、そういう詮索はよしてくれ」
ロキ 「あんたの元に俺が現れたのは他でもない……アンタ、俺と手を組まないか?」

シーラ 「? ど、どういうことですか?」

ロキ……さんはいきなり手を組まないかと交渉してきた。
いきなりのことで私には訳が分らない。

ロキ 「ゾディ・アックはアビスの傀儡だ」

シーラ 「!? それは……!?」

ロキ 「アビスはヒトも精霊もモンスターにとっても天敵となる存在だ」
ロキ 「このままでは神魔大戦により勇者や魔王も死んでしまうだろう」

シーラ 「神魔大戦!? 神魔大戦が再び起こると!?」

ロキ 「確証はねぇな、俺は未来を読めるわけじゃないし」
ロキ 「だが起きる確率はある……なぁシーラ、俺と手を組んでみないか?」

シーラ 「……あなたと組めば神魔大戦は防げますか?」

ロキ 「素直に言えよ、レオンは助けられるかって」

シーラ 「……な!?」

私は顔を真っ赤にしてしまう。
まるで私の全てを見透かしたかのようにロキさんはあざ笑う。

シーラ 「〜〜〜〜〜……レオンさんは救えますか?」

私は顔を真っ赤にしたままそっぽを向いてそう言った。

ロキ 「かっかっか♪ 愉快だねぇ……ああ、救えるよ、救える」

シーラ 「……分りました、あなたに協力しましょう」

ロキ 「オーケー、じゃあ最初の話しだが――」



…………。



シーラ (……あの時ロキさんの言葉を受けていなかったら、今とはずっと違う未来を進んでいたでしょうね)

ひょっとしたら私はレオンさんを殺していたかもしれない。

ロキ 「ねーちゃん! レイコーたのむわ!」

シーラ 「……ロキさん、今時レイコーはないかと」

ロキ 「反応できるシーラもグッドだぜ?」

私たちはアリラトの街へたどり着くと小さなファミレスにやってきた。
ロキさんはウェイトレスにアイスコーヒーを注文する。

シーラ 「次は一体なにをするんですか?」

ロキさんの指示は的確だった。
ゾディ・アック紛争においては私はロキさんの指示でゾディ・アックに従う振りをしてレオンさんとサタンさんを助けた。
さらにあえてセリア現女王とリリスさんを攫わせ、ゾディ・アックにアルティマバスターを開発させた。
これによりアルティマのエネルギー変換運用が可能と言うことが実証され、それがセリア女王やシャムさんの目に留まった。

11月テロはさすがのロキさんにも予測不能の事態だったけど、ことなく終わりちゃっかり利用していたみたい。

ロキ 「そうだねぇ……やることは終わったし暫くのんびりしてりゃいいだろ」

シーラ 「のんびり……ですか?」

ロキさんはトレイに乗ってやってきたアイスコーヒーにミルクと砂糖を足して混ぜ、それを飲みながらコクリと頷く。

ロキ 「後は擬似神魔大戦が起きるまで待つさ」

シーラ 「擬似神魔大戦……」

ロキさんが言うにはこうだ。
かつて神魔大戦は世界の存亡をかけて、うつろう者とうつろわざる者の戦いだったと。
多少立場や状況は異なるが、世界の存亡をかけて戦うという意味では今回の戦いはまさに神魔大戦だという。

シーラ 「そもそもアビスはなぜ、世界を混沌に導こうとするのですか?」

ロキ 「それがわかったら神魔大戦の真相だってわかるぜ」

シーラ 「……」

ロキさんはきっと答えを知っている。
だけど、これは私にも教えてくれないってことだろう。
神魔大戦は本当に謎が多いが、神魔大戦が起こった理由は創造神が私たちの存在を気に入らなかったためという説がある。
創造神は私たちを創ったけど私たちの存在が神とって失敗作だったため全部無くそうとした。
でもヒトはそれに反抗し、神魔大戦が起きたという。
正直それが本当かどうかもわからないけど、たしかにその大戦はあったのだ。

だけど神魔大戦は、多くの神が参戦した。
その理由はこれではどうにもつかない気がした。
なぜ他の神々も神魔大戦に参加したのか?

一説によれば神々の勢力争いだったとも言われている。
事実ヴァン神族とアース神族はトール神族は神魔大戦の途中で仲違いを起こしているくらいだ。

シーラ 「アビスの主は何者だったんでしょうね?」

ロキ 「さぁな……だが、ただの殺戮狂じゃないのは確かなようだ」

シーラ 「……」

ロキさんは絶対にアビスの主も知っている。
いや、ロキさんは恐らくこの勇魔大戦から続くアビスの事の成り行き、そして何を考えているのか全て知っているに違いない。
出なければ、アビスが異端審問会がずっと厳重に保管していた七支刀をアビスが襲撃するより早くに強奪したことや、アビスの主が目覚めたなどと言う言葉を使ったなど分るわけが無い。

シーラ (ロキさんがただのイタズラ好きの悪神なのか、それとも世界を憂いた善神なのか……)

ロキさんの行動は的確だが、いつもロキさんは自分本位に行動しているだけな気もする。
たとえみんなのためとはいえ、時にはレオンさんたちを苦しめる行動だって私達は選んできた。
ひとえに子供っぽいと言えばそれまでなのだが、どうにもロキさんはわからない。

シーラ 「七支刀は一体なんなんですか?」

ロキ 「単なる儀式刀だろ? ほらよくあるじゃん、士気高揚とかに使うの」

シーラ 「それだけのために、あれほど目の色を変えると?」

ロキ 「あいつらにとっては重要なんじゃね?」

シーラ 「〜〜〜〜〜」

ロキさんは絶対知っている。
でも、確信に関しては絶対喋らない気だ。
あくまで事の成り行きを楽しむ気ね。

ロキ 「お前さんがコチラ側に来てたんなら話してやっても良かったけどな」

シーラ 「なんの話をですか?」

ロキ 「俺の自慢話」

シーラ 「〜〜〜〜」

こうやって今もこの人は私をはぐらかして楽しんでいる。
決していい趣味とは思えないわね。

ロキ 「でも、俺が言ったとはいえ、お前はよくやった……ヒトもやめたしな」

そう、私はすでに人間ではない。
元々ホムンクルスを人間と呼んでもよかったのか謎だけど、私はそれさえやめたのだ。
私はシーラと名乗っているけど、明確にはすでにネクロノミコンと呼べる存在と化している。
数時間前ネクロノミコンが奪われたにも関わらずスペルレイを放てたのにはそんな理由があったのだ。
だが、ヒトをやめるのはそんなに簡単な事ではない。
体は神体と化し、時間で死ぬことは許されず時の輪廻からさえ外される。
ヒトとの袂を完璧に別ってしまったのだ。
これが、もう私はレオンさんたちの仲間とは呼べないといった理由だ。
今でこそ私は神の体にヒトの人格を持っているが、時が過ぎればやがてヒトの人格もなくなってしまうのだろう。

ロキ 「すげぇよなぁ、ホムンクルスとはいえ、ヒトの幸せだってあったのにそれを捨てるなんて……俺には絶対真似できないわ」

ロキさんの言葉の上手さはほとんど言霊使いの域に達している。
口八丁の時もあれば、それが真実を突き刺す時もある。
それゆえに、ロキさんの一言一言が本当なのかはわからない。

シーラ 「親殺しのあなたですものね、真似できなくて当然です」

ロキ 「い、痛いこと言うねぇ……」

ロキさんは胸を押さえて、苦笑いしながらそう言う。
ヴァルキリー様といい、ロキさんといいどうしてヴァン神族の方はこうもユーモラスな方が多いのかしら?
ちなみにロキさんが親殺しというのは、神魔大戦まで遡るのですが、彼は自分の父であるオーディンを諜殺した疑いがあるためだ。
直接手を下したのはフレキとゲリというフェンリルの神獣らしいが、それを裏で操ったのがロキというのだ。
とはいえ、親を殺した理由がさっぱりわからない。

というのも、この人ロキさんは悲しいほど出世欲や征服欲などがない。
親が死んだことにより、ヴァン神族を従える主神になれたのに、この人はそれが嫌で逃げ出したほどだ。
現在誰も追うものはいないが、ヴァルキリー様たちヴァン関係の神々と出会うことはロキさんは毛嫌いしている。
当の本人はムカついたから殺した……なんて現代っ子のようなこと言っているが、少なくとも私はロキさんを知っているつもりだ。
この人は、衝動で動く人じゃない。
恐らく、本当のことが言えない理由があって殺したんでしょう。

ロキ 「あっはっは、まぁ人生楽しく生きようや」

シーラ 「ロキさんには悩みはないんですか?」

ロキ 「ある!」

シーラ 「!?」

ロキさんは突然真面目な顔をしてあるという。
私が言った何気ない言葉に反応したロキさんにはオーラがあった。

シーラ 「そ、それは一体……」

ロキ 「死○星見るまでは死ねるかーー!」

シーラ (ええっ!? それが悩みーっ!?)(注:勇魔の世界に北斗七星はありません)

ロキさんの言葉は私のシリアスな予想を軽く覆すものだった。
また、ロキさんに遊ばれた……次の瞬間そう思ったのは言うまでも無かった。

ロキ 「後はうーん……大福怖いことかなぁ?」

シーラ 「ロキさん、頭ひっぱたいていいですか?」

ロキ 「やん☆ 俺Mじゃないし〜☆」

ロキさんのイカレた頭を一度ぶん殴っておこうかと思ったけどロキさんは軽くいなしてくる。
ちゃっかりテーブルの下でグーに握っていた私の拳は不発弾と化した。

シーラ 「大体大福怖いは落語でしょうが……そんなに食べたいんですか?」

ロキ 「んにゃ、全然」

シーラ 「〜〜〜〜」

もう嫌、天才なのかも知れないけれどこの人絶対変人だ。
どうしてあの作者の天才は変人が多いの!?(ユ○キとか成○とか)

ロキ 「あれ? 怒ってる?」

シーラ 「怒ってはいません……」

ロキ 「今は?」

シーラ 「分っているのなら悪ふざけはやめてください」

私は確かにまだ怒ってはいなかった。
ロキさんは相手の嫌なことを平気でやってのける人だ。
味方の時は余計なことしないか不安だし、敵の時はどんどんこっちを起こらせる最悪な人。
実際には全部計算されているんだろうけど、本当に少し自重して欲しい。

ロキ 「心外だな、俺は何一つふざけた覚えは無いぞ?」

シーラ 「なおさら悪いでしょうが」

自覚なかったのですか……。
いや、これは演技なのかもしれない。
もうこの人の言葉と戦うにはア○ギ並の心理戦が要求されているのかもしれない。

ロキ 「……さて、そろそろ店でようか?」

シーラ 「……はい」

ロキさんはアイスコーヒーを飲み終えると私達は代金を清算して、店をでるのだった。

シーラ 「これからどうします?」

ロキ 「陰気臭いから長いしたくねぇんだが、まぁ事始まるまでは魔界に待機だしなぁ」
ロキ 「まぁ他の皆は修行編パワーアップ編みたいだけど、その点俺らはその必要ないからなぁ」

シーラ 「サラリと変なこと言わないでください」

ロキ 「かっかっか、元々勇魔はギャグ重視たい! 第四話を見ろ! 第四話を! こんなもんまだマシだ!」

シーラ 「〜〜〜〜〜」

ロキ 「でも……ま、笑っていられるのは後一ヶ月って所さ……」

シーラ 「……」

突然ロキさんが天に浮かぶ月を仰いでそう呟く。

ロキ 「事が始まれば、こうやってふざける暇もなくなる……」

シーラ 「そう……ですね」

たしかに、今は本当に短い平和な時なんだ。
後一ヶ月もすればあの神魔大戦の再来さえ起こるという。
それこそ、勇魔大戦やゾディ・アック紛争どころの被害じゃない。
私はそのために来るべき戦いに備えてきた。
普段休む事の無かった私たちには、たしかに今は唯一ゆっくりできる時なのかもしれない。

シーラ (気が付けば神にすがることさえ許されない……そんな罪深き私たち……)
シーラ (でも……それでも私達は辛い顔をするわけにはいかない……私たちの望みのために……)




To be continued






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