Valentine of Love…
今日は、不思議な感覚だった…。
いつもよりも鼓動が早い…。
緊張してるの?
………。
声 「あっ、舞〜っここにいた〜」
後から突然呼ばれる。
私は振り向き、その声の主を見る。
舞 「…佐祐理、遅い」
佐祐理 「あははーっ…ごめんね、時間かかっちゃって…」
佐祐理は少し息を切らしながら、そう答える。
佐祐理はクラスの色んな男子生徒にチョコレートを配ってたから、疲れているのだろう…。
佐祐理 「舞も、ちゃんと渡すんだよね?」
舞 「………」
私は何も言わずに昇降口から出始める。
佐祐理 「あっ、待ってよ…舞〜っ」
後から佐祐理の制止する声が聞こえた。
私は昇降口から外に出た所で、立ち止まった。
舞 「………」
…雪。
今日も降っている…。
きっと…寒がってる。
私は佐祐理が追いついてきたのを確認すると、早足で歩き始める。
佐祐理 「ねぇ、舞…もしかして、渡さないの?」
佐祐理がそう聞いてくるが、私は答えなかった。
親友の佐祐理でも、今日だけは…。
舞 「………」
佐祐理 「…もう、舞ったら…」
佐祐理は諦めながらも、少し不満そうな顔をしていた。
舞 「…今日もきっと寒いから」
佐祐理 「えっ…?」
佐祐理はわからないと言う風に首を傾げる。
私は急ぎ足で帰路に着く。
佐祐理の家の前で私は佐祐理と別れ、急ぎ足で家に帰る。
舞 「………」
家に帰っても誰もいない…。
お母さんは早くに死んでるし…。
お父さんも今はどこにいるのかすらもわからない。
結局…私ひとりだ。
でも…。
今は、佐祐理がいるから…寂しくもない。
私は制服から普段着に着替え、しばらく部屋でぼ〜っとした…。
………。
……。
…。
舞 「……?」
気がついたら、寝ていたようだ…。
私は時計を見た。
8時…。
舞 「…しまった」
思いっきり寝過ごしてしまった。
きっと…今頃、愚痴を言ってる。
私はコートを羽織って、『約束』の場所に向かった。
そこが、私の指定した場所。
『約束』した場所…。
私は急ぎ足でそこに向かう。
…夜の学校。
魔物がいた場所。
今は、もういない…。
今は…私と一緒だから。
私は自分を受け入れたから…。
私は通常とは別の昇降口から、校舎内に入り、2階に上がる。
そして…教室に人の気配を確認する。
私はゆっくりと、教室のの前まで歩み寄る。
中にはひとりの男子がいた…。
校庭側の隅の席に腰掛けていた。
私は教室に入り、その男子の席に近づく。
私が近くまで歩くと、その男子は私に気づき…。
男子 「…遅いぞ」
舞 「……寝過ごした」
男子 「…あのなぁ、まぁ…いいけど……」
その人は納得したのか、軽く笑って見せる。
そして、寒そうに体を抱える。
舞 「…寒そう」
男子 「…寒いんだよっ」
舞 「………」
その人は体を震わせながら、首だけを動かして、左側の窓から空を眺める。
男子 「…まだ雪が降ってる」
舞 「…うん」
私はその人の隣で一緒に空を見上げる。
えっと…何だったかな?
言いたいことがあったのに…。
そう…今日は大切な日だから。
私にとっては初めて…。
初めて…だから。
私は持っていた巾着袋から、包みを取り出し、その男子の机にそっと置く。
男子 「…? もしかして…これって…? あれだよな…?」
男子はさも、意外そうにそれを手に取ってまじまじと見つめる。
ぽかっ
私はその男子の頭を軽く小突く。
男子 「…じょ、冗談だって! いや、ホント!」
舞 「………」
私はその男子を軽く睨みつける。
男子 「い、いや…ホントに貰えるとは思わなかったから…」
舞 「…苦労した、佐祐理に作り方を教わってたから、何とかできたけど…」
男子 「そうか…嬉しいな、そうまでしてくれるなんて…」
舞 「…うん」
男子 「…まぁ、ホワイトデーには期待しといてくれ! 俺の手作りをプレゼントするからな?」
舞 「…期待してる」
私は私なりに笑って見せる。
上手く笑えたかはわからない…。
男子 「ああ…まかしとけっ」
彼は無意味に親指を立てて、笑顔でアピールする。
男子 「…さて、そろそろ帰ろう? いつまでもここにいても…」
舞 「…いや、もうちょっと…」
私はそう言って立ち上がった彼の胸に飛び込む。
男子 「ま、舞…」
彼は少し恥ずかしそうに、頬を赤らめながら、立ち尽くしていた。
舞 「…思い出の場所だから」
男子 「…ああ」
舞 「…約束、覚えてるの?」
男子 「当たり前だろ」
彼は得意そうにそう言ってのける。
だから私は、訊いてみる。
舞 「…もうどこにもいかない?」
男子 「ああ…いかない」
舞 「…うん」
彼はそう言って優しく私を抱きしめてくれる。
私も彼に体重を預ける。
しばらくそのままでいた。
そして、私たちは一緒に校舎を出る。
男子 「じゃあ、ここで…」
舞 「………」
私は頷いて、彼と別れる。
男子 「じゃあなっ」
舞 「………」
彼は背中を向けて歩き始める。
舞 「……」
忘れてた事があった。
だから、私は彼を呼び止める。
舞 「…祐一っ」
そう、彼の名前…。
私の一番大切な人の名前。
私をずっと守ってくれる人の名前。
祐一 「……?」
祐一は振り返る。
そして、私は祐一の側まで駆け寄り…。
舞 「………」
祐一 「…!?」
私はそっと、祐一の唇に自分の唇を重ねた。
祐一は顔を真っ赤にして、驚いていた。
私はゆっくり唇を離すと、2、3歩祐一から離れ…。
舞 「…嫌いじゃないから」
そう言う。
私はそれしか祐一には言わないから。
祐一のことは一番好きだから…。
そして、それを聞いた祐一は優しく微笑んで。
祐一 「…ああ」
そう答えてくれた…。
そして、私たちは雪の降るその場所で、寄り添っていた。
いつもは寒い雪も、今は暖かく思えた…。
私は幸せ?
うん…きっと。
祐一がいてくれるから…。
祐一が、ずっと一緒だから…。
佐祐理も一緒だから。
だから…。
何も寂しくない。
3人が一緒なら、どんな時でも、どこでも…。
きっと…幸せだから。
A Happy Valentine for Mai and Yuichi…