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POCKET MONSTER The Another Story




『信頼 〜兄妹の絆〜』




皆さん初めまして…Yukiです。

皆さんは、ポケットモンスター…略してポケモンの事を知っていますか?

世界中には様々なポケモンが存在し、まだ見ぬポケモンもきっといることでしょう…。

今回は、そんな中、とある竜の王国でのお話です…。





竜の王国 『ルイン』

カイリュー種である、国王ルーザーが治める、竜族だけの平和な王国。
ルーザーの人望と共に、王国は栄え、住民たちが幸せに暮らしている中、ここにふたりの兄妹がいた…。

そして…これから始まるのは、後に伝説となる、この優しき兄と妹の、確かな絆の物語…。





ザワザワ…

? 「ん? 何か騒がしいな」

蒼い空に白い雲。
活気の溢れる商店街の中、一際賑やかな場所があった。
俺は、買い物を済ませた後、何やら中央広場での喧騒を聞きつけてここにやってきた。
俺は一応時間を確認し、まだ大丈夫だと思うと、すぐにその騒ぎを確認しに行った。

? (まっ、少し位いいだろう)

俺が行くと、何やら住民たちが唸っているようだった。
ある物は首を振り、ある者は苦笑いを浮かべる。
そしてある者は、怯えたように地面を見ていた。
俺は、すぐ近くの男性に向かって何があったのか聞いてみた。

男 「うん? ああ…この騒ぎか、戦争だよ」

俺はその言葉を聞いて、はぁ?と思う。
この平和な王国に何でまた…?

男 「…ワーズの帝国 『ドゥラーム』さ。野郎、どうやら本気でこの国に攻め入るつもりだ」

ワーズ…。
確か、ボーマンダ種の帝王様の名前だ。

男 「見ろよ、あれを…」

男は、騒ぎの中心を親指で指差す。
俺は男の指した方向、つまり地面に転がっているものを見て愕然とする。

女A 「やぁねぇ…本当に戦争なのかしら?」
女B 「平和なのこの国に戦争なんて…」

男 「わかったか坊主? って、あら?」


………。


? 「はぁっ、はぁっ、はぁっ!!」

俺はすぐにその場から走り去った。
信じられなかった。
地面に転がっていた、『死体』を見るまでは。

? 「冗談じゃねぇ…!」

俺は王宮まで飛んだ。
俺の翼は、普通の竜とは違った。
羽ばたいて飛ぶのではなく、魔力で飛ぶ。
そのせいか、俺や妹は竜族としておかしな目で見られる。
だが、国王のルーザー様は俺たち兄妹に良くしてくれた。

? 「……」

俺は一気に加速し、そのまま王宮のバルコニーに着陸する。
そして、俺は走って、謁見の間に駆け込んだ。

兵士 「リライ殿!? 一体どうなされた…?」

俺は驚く兵士を無視して、一番奥の玉座に座っているルーザー様に向かって叫ぶ。

リライ 「ルーザー様! ワーズの帝国軍が攻め入ると言うのは本当なのですか!?」

俺がそう言うと、ルーザー様はしばし俯き、俺を睨みつける。
相変わらずのプレッシャーだ、これで衰えたって言うんだから化け物だぜ…。

ルーザー 「成る程、それで国中が騒いでおるようだな」

国王が横にいる側近のハクリュー種である、カルーンに向かってそう言う。

カルーン 「はい、兵の死体が転がっていました。恐らく帝国の手の者かと」

カルーンが直立不動のまま、冷静にそう告げる。
そして、ルーザー様は俺を見て。

ルーザー 「…リライよ、今回の事件はお前が心配することではない」

ルーザー様は静かにそう告げる。
その眼光からは、『関わるな』という言葉が見て取れた。
確かに戦争なんて関わるべきじゃない。
だが、それで済むのだろうか?
疑問は残った。

ルーザー 「…今は退がれ、妹も心配していよう?」

俺ははっとなり、軽く頭を掻いて背を向けた。

リライ 「ったく…ルーザー様も人の心配ばっかりしやがって」

俺はそれだけ言い残して、部屋を出た。

リライ 「まっ、よっぽどのことがない限りこの国が落ちるとも思えない…か」

俺はそう結論付けると、正門から王宮を出て、妹の待つ家に帰ろうと思った。
空はすでに夕日が傾き始め、そろそろいい時間だった。
だが、俺はこの時目を疑った。

リライ 「…何だと!?」

妹の待つ家が焼けていた。
遠くからだが、確かに火の手が上がり、煙が舞っている。
俺はすぐに飛んだ。
ここからなら数秒で着く。


………。


そして、俺が見た光景は…。

リライ 「アンス!!」

俺は妹の名を叫んだ。
家は焼け、煙が上がっている。
そして、その上空に俺は妹の姿を見た。

? 「…ほう」

アンスは気絶しているのか、ピクリとも動かなかった。
そして、その妹を右腕に抱え、静かな眼で俺を睨む男がいた。
見たこともない風格をしている。
少なくともこの国の者じゃないことは容易に思えた。
俺は怒気を込め、こう叫ぶ。

リライ 「貴様ぁ!! 俺の妹をどうするつもりだ!!」

男はその言葉を受け、微笑する。
そして、一言。

男 「ふっ、ワーズはこの娘を欲しているそうなんでな…これも仕事だ、悪く思うなよ」

そう言って、男は飛び去る。
俺はそれを追う。

リライ 「待ちやがれ!! 誰が納得するかーー!!」

俺はそう叫んで全速力で飛ぶ。
速度は俺の方が上! 追いつける!!
そして、俺が男の背中に触れようとした瞬間

ドガッ!!

リライ 「がはぁっ!」

突然上から頭に衝撃。
何が起こったのかわからなかった。
俺はそのまま地上の森に突っ込む。

ドガガガガァッ!!!

木の枝に何回も当たり、俺は地上に落ちる。
気絶しそうになったが、俺は痛む体を動かし、上空を見る。

リライ 「…くそっ」

すでに誰もいなかった。
あの一瞬で反転して、俺にカウンターを浴びせやがった…。
後はそのまま逃げたのだろう。
俺はその場で両膝を着き、怒りを込めて、地面に両拳を叩きつける。

リライ 「畜生!! 何で…何でアンスが!!」

俺の拳から血が滲む。
だが、痛みを感じるている程の余裕は俺の中にはなかった。
俺は肩を落とし、立ち上がる。
そして、歩いて家に戻った。


………。
……。
…。


リライ 「………」

完全に焼け落ちた家。
俺は帰る場所すら奪われた。


………。


あれから何時間が経っただろうか?
俺は放心したまま、焼け落ちた家をずっと見ていた。
すでに辺りは薄暗くなってきている。

? 「リライ殿…」

その時、ミニリュウ種の王宮兵が俺の名を呼ぶ。
俺はまるで死人のように兵士の顔をゆっくりと見る。

兵士 「リライ殿…やはりアンス殿は?」

リライ 「…さらわれた、ワーズの所へ」

俺は枯れた声でそう言う。
何も出来なかった自分に腹が立つ。
俺は痛む拳を更に握りこみ、血が滴り落ちる。

兵士 「リライ殿…お気持ちは察しますが。今は王宮に来てください」
兵士 「陛下がお呼びです」

リライ 「…ルーザー様が?」

俺は兵士の後を追って王宮に向かう。
何回かつまづきそうになった。
何故か、それが印象だった。


………。
……。
…。


兵士 「陛下…リライ殿をお連れしました!」

兵士がドアの向こうからそう叫ぶ。
そして、中から返事が返り、ドアが開く。
今日で二回目の謁見の間だ。
俺は、兵士の後ろに着いて、部屋に入った。

ルーザー 「…してやられたようだな」

リライ 「……」

俺は答えなかった。
ルーザー様は知っているのか、そのまま話を続けた。

ルーザー 「ワーズがアンスを連れ去った…理由はわからん、が」
ルーザー 「…すまなかった、謝って済む事ではないが、謝らせてほしい」

ルーザー様は玉座から立ち上がり、俺の前で頭を下げる。
そんな行動に、頑固でいかつい国王の表情が、心なしか暗く見えた。

リライ 「何で…アンスが」

俺は何とか言葉を紡ぐ。
ルーザー様は玉座から立ち。

ルーザー 「それは、本人に聞くしかあるまい」

リライ 「!?」

ルーザー様はいつもの鋭い眼光に戻っていた。
直接聞く。
それはつまり…。

ルーザー 「リライ…今回の戦い、お前たちを巻き込みたくはなかった」
ルーザー 「ワーズの狙いがアンスと読めなかったのは私の力不足だ」
ルーザー 「これでは…申し訳が立たぬな」

リライ 「…妹は取り返す」

俺は小さく、強くそう言った。
ルーザー様は俺の気持ちを察してか、こう告げる。

ルーザー 「行けリライ…帝国『ドゥラーム』へ。アンスも待っていよう」
ルーザー 「私はお前とは別行動、直接正面から帝国に攻め入る!」

リライ 「じゃあ、俺は…ひとりで?」

? 「ほっほっほ…ワシが一緒に行ってやる」

突然、横から老人の声が聞こえる。
いや、以前にも聞いたことがあるこの特徴的な笑い声は…。

ルーザー 「うむ、頼むグラン」

やはり…海を統べる竜王グラン。
まさか、ここで会えるなんて。

グラン 「リライ…今のそなたの力は完全なものではない」
グラン 「今のままでは確実に妹を救うことはできん」

リライ 「なら、どうすれば!?」

俺が強めに食って掛かると、グラン様は杖を俺の眼前に突き出して抑えるように促す。

グラン 「ワシについて来ればよい。後は…運命が決めよう」

運命…?
何だか微妙な言葉だった。
だが、俺にはそれしか選択肢がないようにも思えた。

ルーザー 「…私が正面から帝国の戦力を受け止める。つまり陽動だ」
ルーザー 「お前たちは、私がそうやって時間を稼いでいる間にアンスを救い出せ!」

グラン 「時間にして1週間…それぐらいは持とうな?」

ルーザー 「無論だ、ワーズごときの勢力に我らが遅れを取る訳はない!」
ルーザー 「…いずれは雌雄を決する日が来るとは思っていた」

国王は覚悟を決めていたのだろう。
強い眼光だ、俺はこの人のように強くなれるだろうか?
強くなる…今はそれだけを思った。

そして…俺はグラン様に連れられ、国を出ることになった。



………。
……。
…。



リライ 「………」

グラン 「どうした? もうへこたれたか?」

グラン様はまるで疲れていない様子でそう言う。
あれから3日、俺は今グラン様の案内で山を登っていた。
それも普通の山ではなく、確実に雲の上まで続くバカ高い山だった。

リライ 「な、何で飛んでいっちゃダメなんですか!?」

俺は必死に登りながらそう言う。
もはや山を登っているのか、崖を登っているのかわからなかった。

グラン 「簡単じゃよ、ワシが飛べんからじゃ」

リライ 「………」

何だか余計気力がなくなった。
俺は飛んでもいいんじゃないのか?

グラン 「まぁ、これも修行じゃ…でなければこの先に行く資格はない」

リライ 「一体…何があるんですか? この先には」

俺はとりあえず割と平坦な所まで着くと、一息つきながらそう尋ねた。
グラン様は髭を触りながらこう答える。

グラン 「…お前がアンスを救うために必要なものじゃ」

リライ 「必要…」

それが何なのかはわからなかったが、妹を救えるんだったらこの程度いくらでもやってやる気になった。


………。
……。
…。


それからさらに丸一日、俺は登り続けた。
夜が更け、そしてまた夜が明ける…。

リライ 「あ…」

山で二度目の朝を迎え、朝日に照らされたそれを俺は見た。

リライ 「こ…これは?」

グラン 「…うむ、よくここまで頑張ったの」

グラン様が称えてくれる。
それは見たこともないような宝石(?)だった。

グラン 「手に取るがいい…それはお前の一族にしか持つ資格はない」

リライ 「一族…?」

俺はグラン様の言葉に疑問を浮かべながらも、それを手に取った。

カァァァァ…ッ!

すると、それは蒼き光を生み出し、俺を包み込む。

リライ 「くっ…!?」

グラン 「心を乱すな!」

グラン様が一喝する。
俺は落ち着いて、もう一度集中する。
すると、光は次第に和らぎ、消えていった。

グラン 「ふむ…まだまだか」

リライ 「え…?」

グラン 「それは『心の雫』お前の一族に伝わる、凄まじい力を持った伝説の石じゃ」

リライ 「心の…雫」

俺は自分の両手に小さく煌くその雫をじっと眺める。
蒼と紅の混ざったような微妙な色だが、不思議と違和感がない。
まるで、ずっと昔から知っているような感覚さえあった。

グラン 「それはお前に大いなる力を与えてくれよう…じゃが、無論大きな代償が必要になる」

リライ 「代償って…?」

俺がそう聞き返すと、グラン様は首を横に振る。

グラン 「それはわからん…下手すれば命をも落とすと言われている」

リライ 「…げ」

俺はビビって雫を落としそうになる。
途端にこの雫がヤバそうな物に見えてきた。

グラン 「使うもの次第で、それは破壊の矢とも祝福の光ともなるのじゃ」
グラン 「ゆえに、ここに封印されてきた」

リライ 「封印って…こんな所だったら飛べばいくらでもこれるんじゃ?」

俺は当たり前のように言うが、グラン様はこう言う。

グラン 「勇気ある者にしか、道は開かぬ…」
グラン 「この頂は、世界で最も空に近い場所」
グラン 「大いなる神が見守る場所なのだ」
グラン 「ゆえに、この頂に近寄れるものは選ばれた者のみ」

リライ 「…大いなる神」

よくわからないが、凄いことなんだろう。

グラン 「選ばれていない者であれば、この頂には近寄ることもできんのじゃ」

リライ 「と、とにかくこれで助けに行けるんでしょ!?」

俺は慌てながらそう言う。

グラン 「慌てるな…まずは麓まで降りるぞい」

リライ 「俺が担いで飛びますから捕まってください!」

俺はそう言ってグラン様を背負う。

グラン 「すまんのぉ…」

俺は全速力で麓まで降りた。

グラン 「よし、後はこの砂漠を越えれば着く。

リライ 「それじゃ、このまま飛んでいきますよ?」

グラン 「うむ、気をつけるのじゃぞ?」

リライ 「はぁ…?」

俺はグラン様の言葉の意味がわからなかった。
だが、それはすぐにでも思い知らされることとなった。



………。



ここは…ルインより多少離れた国、帝国『ドゥラーム』。
ワーズの力により、創設されたこの国は、強大な武力を持って統治する帝国である。
コモルー種の側近ブロスを始めに指揮される、タツベイ軍団は見るものを脅えさせると言う…。
その戦力を持って、ついにルイン進行作戦が実行段階に入っていた。



アンス 「………」

私は気がついたらこの部屋にいた。
綺麗な部屋で、私のために用意してくれたらしい。
私は皇帝から提供された、ドレスを着せられていた。
とても綺麗なドレス…でも。

女性 「やはり、お気には召されませんか?」

とても奥ゆかしい、私以上に綺麗な水色のドレスを身に纏い、優しい瞳をした、チルタリス種の女性がそう言ってくる。
私は鏡を見ながら答える。

アンス 「…はい。このドレスのために…ワーズはいくらの血を啜ったのでしょうか?」

私は皮肉を込めたつもりで言った。
だが、意外にも女性はそれを肯定するかのように。

女性 「…あの方は、愛に飢えていらっしゃるのです」

私は女性の顔を見る。
女性は顔を俯け、悲しそうに、何かに耐えているように見えた。
だが、考える間もなく、兵士がドアをノックする。

ドンドンッ!!

兵士 「シェリル殿…ワーズ様がお呼びです! 早く妃様を…」

妃…私のことだろう。
兵士たちの間ではもう私はそうなると決まっているようだ。
私は…絶対認めない。
あんな富と権力に取り付かれた男の妻なんてまっぴら。

シェリル 「…すぐに行きます」

兵士 「早くなされよ…ワーズ様は気の短いお方だからな」

そう言って、兵士は駆け足でどこかへ言ってしまった。
シェリル…そう呼ばれた女性はこちらを向き。

シェリル 「…行きましょう」

アンス 「……」

私は今は言われた通りにした。
ここで逃げてもよかったけど…どうしてもこの女性の悲しい眼が引っかかった。


………。
……。
…。


兵士 「アンス様のご来訪でございます!!」

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!

大歓声の中、私は迎えられる。
私は紅い絨毯の上をシェリルさんと一緒に歩く。
シェリルさんは一歩退いたように歩いていた。
私が前じゃないとダメなんだろう。

絨毯の両脇数メートルの所は兵士たちで埋め尽くされている。
全員が甲冑や剣なんかに身を包んで、これじゃあ逃げように逃げ出せない。
私はひとまず諦めた。
そして、ずっと歩いた先に玉座に座ったワーズがいる。
思っていたよりかは美形で、普通に見たらそりゃ玉の輿だろうけどね…。
私は絶対に嫌。

ワーズ 「ご苦労シェリル…退がれ」

ワーズはそっけなくそう言う。
もうちょっと優しくしてやりなさいよ…。

シェリル 「…はい」

シェリルさんは悲しい眼のまま、部屋を出て行った。
私はその悲しそうな姿を最後まで見ていた。
だけど、ワーズが急に後ろを見ていた私の肩を掴んで強引に前を向かせる。

アンス 「……!」

ワーズ 「ふ…やはりお前は俺の妻になる必要がある」

ワーズは私の眼をじっくりと見てそう言う。
何を根拠にそんな馬鹿げたこと…。
ワーズは私の背中に左手を回して引き寄せようとする。
私はそれをさせまいと両手でワーズの体を押し返そうとする。

ワーズ 「強気だな…ますます好きになる、俺はお前のように強い女が好きだ」

アンス 「本当に強い女が側にいることもわからないボウヤの相手はご・め・ん・で・す!」

私は苦笑しながらそう言い放った。
だが、ワーズはまるで気にしない(無視した?)ような感じで、私を引き寄せようとする。

アンス 「本当のことを言いなさいよ…何が目的なの!?」

私は強くそう言った。
だが、ワーズは答えない。

アンス 「このぉ…いい加減離しなさいよ!!」

段々と腕に力が入らなくなってくる。
このままだと、あの胸の中にズドンじゃない。
そんなの絶対嫌よ!
私はこの際、手段を選ばず脱出を試みた。

アンス 「………」

ワーズ 「む!?」

私は精神の力で霧の球を作る。
そしてそれをワーズに放つ。

ズドォンッ!!

爆発を上げて、霧が部屋中に立ち込める。
私はこの隙に飛んで逃げる。

兵士A 「に、逃げたぞー!!」
兵士B 「追えー!!」


………。


アンス 「………」
アンス 「で、結局捕まったと」
アンス 「あ〜ん! 何でこうなるのよ〜!」

結局道に迷い、オタオタしていた所を兵士に捕まったのである。
って言うか、何でこの城こんなに複雑なのよ!
私は着替えさせられた部屋に監禁されていた。

アンス 「…な、何か嫌よ、この雰囲気〜」
アンス 「よくあるホラー映画みたい〜ってそれだけは絶対嫌!!」
アンス 「こんなか弱い美少女が、汚らわしい毒牙にかかるのはぜ〜ったい嫌!」

シェリル 「ふふふ…元気そうで安心しましたよ」

私が叫んでいると、シェリルさんが部屋に入ってきた。
私の行動を見てか、笑っていた。

アンス 「…またお目付け役? まぁごつい兵士なんかに着かれるよりかはよっぽどいいけど」

私はそう言ってすねた風にベッドの上に三角座りした。

シェリル 「…今は、ここにいた方がいいわ」

シェリルさんが静かにそう言う。

アンス 「どうして? 私はこんな所いつまでもいたくない…」

シェリル 「もうすぐ…ルーザーの軍がこの国を襲撃します」

私はそれを聞いて驚く。

アンス 「嘘っ、あのルーザー様が!?」

シェリルさんはこくりと頷く。

シェリル 「戦いになれば、私が外に逃がしてあげます」
シェリル 「ワーズ様は、確かに強い…強さだけならルーザーよりも上でしょう」
シェリル 「ですが、帝国は滅ぶ運命です」

アンス 「どうしてそんなことがわかるの?」

私がそう言うが、シェリルさんは続ける。

シェリル 「…あなたの兄がきっと助けてくれます、そしてあなたも…」

アンス 「私たち…が?」

アンスさんはまた小さく頷く。
私は、仕方無しにそのまま横になった。
そして、天井を見上げてこう思う。

アンス (兄さん…本当に来てくれるのかな?)





………。





リライ 「くそっ…やけに砂嵐がきついな!」

俺はグラン様を背負いながら、広大な砂漠を飛んでいた。
ひとりだったら正直右も左もわからないだろうな。

グラン 「うむぅ…確かにこの砂嵐はチト怪しいの」

グラン様がそう言って、何かを危惧し始める。
恐らく、それは予感だろう。
何となく、俺でもわかった。
『何か』がいる…。
そして、それは一瞬にして現実となった。

ドオオオオンッ!!!

爆音を上げて、地面が爆発する。
俺は急ブレーキをかけ、その場で止まる。
爆発は目の前で起き、大量の砂が俺たちに降りかかる。

リライ 「くっ!?」
グラン 「いかん!!」

ドンッ!

リライ 「!?」

危険を感じたグラン様が俺を横に突き飛ばす。
瞬間。

ドシュドシュッ!!

グラン 「ぐはぁっ!!」

ドサッ!と音を立て、グラン様が砂の上に倒れる。
俺はその場から1m程突き飛ばされ、バランスを崩していた。

リライ 「グラン様!!」

俺は駆けつけようとするが、その前に俺を囲むように、妙な姿の兵士が囲んでいた。
どうやら地面に潜んでいたようで、見た所ビブラーバ種のようだった。

リライ 「何だこいつら!?」

俺は両手に力を集め、兵士と戦う。

ドンッ! バァンッ!!

兵士A 「ぐはっ!」
兵士B 「うわぁっ!」

俺の念動力で兵士たちは次々と倒れる。
たいしたことはない…が、数が多いな。
見ると、グラン様はまだ生きているようで、立ち上がろうとしていた。


グラン 「不覚じゃわい…よもや、お主が出てくるとはの」

俺は兵士と戦いながら、グラン様の方を見る。
すると、砂嵐が突然止み、辺りが急に見やすくなる。

リライ 「あいつは…!?」

俺はグラン様の前に立つ男の姿を見て驚愕する。

男 「ほう…部下たちでは少し荷が思かったか?」

兵士 「……!」

兵士たちは、男の視線を見ると、全員が膝まづく。
どうやら、ただの男ではないらしい。

男 「だが、幸運だったぞ…よもやお前が小僧を庇うとはな」

グラン 「…やらせはせんよ、リライは」

グラン様は、杖を両手によろよろと立ち上がった。
そんな姿を見て男は微笑む。

男 「我々砂の竜はお前の扱う水や氷に極度に弱い…だが今のお前ではたいした力は扱えまい」

グラン 「……むぅ」

図星なのか、グラン様は少々苦い顔をする。
俺は、ここでグラン様の前に出て、こう言い放つ。

リライ 「よくもアンスを攫ってくれたなこの悪党!!」

兵士 「貴様…!!」

男 「よい…好きに言わせてやれ、これが最後の遠吠えだ」

男が手を翳し、兵士は落ち着く。
俺は続ける。

リライ 「生憎…俺は諦めが悪いんでね、妹を取り戻すまでは死ねねぇ!」

男 「よかろう…ならば俺が引導を渡してやろう、この砂竜フライゴンのラゴウがな!!」

男が言うのとほぼ同時だった。
途端に砂煙が舞い、俺の視界が封じられる。

リライ 「ラゴウだと…!? まさか」

俺はその名前でピンと来た。
砂漠に住む、砂の竜王…その力はルーザーやワーズに勝るとも劣らないと言われる。
砂漠に住んでいるせいか、食料や水が乏しく、傭兵としての生活を余儀なくされている民族。
そして、その傭兵を統べる者がこのラゴウ…。

リライ 「ワーズに金で雇われたってわけかよ!!」

俺は奴の気配がする方向に向かって念動力を使う。
だが、砂嵐の空間が捻れた程度で、相手はいなかった。

ラゴウ 「ふっ、どうした小僧!? 口だけだったか?」

ラゴウは嘲笑し、高速で砂嵐を巻き上げながら空中を浮遊する。
俺は目で追うことすら出来ていなかった。
スピードなら俺の方が上…だがこの砂嵐は危険を加速させる。
正直…動いていなくても体力が減っていく。

リライ 「くそったれ!」

俺は砂嵐をどうにかしようと、周りに向かって念動力を放つ。

ゴウンッ!!!

一瞬は砂嵐が止まる、だがすぐに元に戻ってしまう。

リライ 「無駄なあがきはよせ…俺の砂嵐はそう簡単には消せん」

ザシュッ!

リライ 「ぐあっ!」

背中を鉄の爪で切られる、どうやら隠していたようだな。
幸い翼には当たらなかったようだが、背中から血が滴っているのがわかった。
しかも砂嵐のせいで、傷がジンジン痛む…気が遠くなりかけていた。

リライ 「たった一撃で、畜生…何もできねぇのか!?」

俺は膝を付いて、悔しがった。
あの時も…一撃でやられてしまった。
悔しいが相手の強さが何枚も上手過ぎる。
傭兵として戦うことで糧を得てきた大将に、元々砂漠で勝てるとも思えないが、一矢報いることは出来ると思っていた。
だが、相手の土俵じゃそうもいかないようだ。

リライ (だが…このままじゃ終われねぇよな)

俺は全神経を研ぎ澄まして空間を読む。
砂嵐の中で視界は閉ざされてる。
だったら、俺の超能力で相手の動きを読む…もうこれしかない。

リライ 「………」

だが、相手は一向に攻めてこない。
俺は徐々に体力が奪われ、意識が何度か切れかけた。
もしかして…それを狙ってるのか?
だとしたら、俺が甘かった。
相手はこの状況下を知り尽くしてる。
俺の体力が砂嵐に耐えられなくなるのを待っている、ということか…。


グラン (いかん…このままでは、リライは…!)
グラン (情けない…! このジジイがここで動けぬとは!!)


ラゴウ (…そろそろか、最後は俺の手で終わらせてやろう。せめてもの慈悲だ)

リライ (…畜生……ここまでかよ)

俺は諦めを覚え始める。
だが、そんな中…奇跡は起こった。

ラゴウ 「…ここまでだ!!」

ラゴウがついに突っ込んできた。
俺はこの瞬間を待っていた。
まだ体は動く! 俺は全神経を集中し相手の攻撃を読む。

ラゴウ 「!?」

ラゴウは俺の目の前で一瞬躊躇する。
気づかれた!? だが遅い!!

リライ 「これでも…喰らえぇ!! ラスターパーーージッ!!」

俺はすべての力を込めたラスターパージをラゴウに向かって解き放つ。
ラゴウは倒せると言う確信を持って、俺に向かって来ている。
だから、よけられるはずはない!!

ラゴウ 「くっ!?」

グラン 「おおっ!!」

兵士 「ラゴウ様ー!!」


ギュアアアアアッ!!!

閃光と共に空間が激しく揺れる。
ラゴウの体を包み込む激しい光が、ラゴウを傷つける。

ラゴウ 「がはっ…!」

ドサッ!と音を立て、ラゴウがゆっくりと地に落ちる。
同時に砂嵐が止まり、視界が澄み渡ってくる。
だが、俺はそれを見送ることなく前のめりに地面に倒れた。


グラン 「リライ!!」

兵士 「ラゴウ様!!」

ワシはその場で叫ぶがリライは反応しない。
少なくとも気絶している。
まずい…ワシが動けぬ今、このままでは…!

ゴウッ!!

突然砂嵐が始まる。
まさか…!?

ラゴウ 「…く、油断したようだな。まさか捨て身の方法で俺を攻撃するとは」
ラゴウ 「だが…俺の方が一枚上手だったようだな」

俺は痛む全身を突き動かしてそう言う。
正直、危なかった。
今でも全身が強張っている。

ラゴウ (直撃していたら…立てなかっただろう)

俺はあの時、瞬時に相手の意図を読み取って相手の足元だけに軽い地震を起こした。
それで相手の足場が崩れ、的がやや外れたのだ。
当たったのは俺の右肩。
それでこれほどの威力なのだからな…体に直撃だったらと思うとぞっとする。
しかも、さっきの技…喰らった後に精神的な疲労を受ける。
次に同じ技が来たら間違いなくやられるな。

ラゴウ 「だが、最後に立っているのは俺だ、悪く思うなよ」

俺は倒れているリライの側に向かう。
一応…とどめを刺さねばならんのでな。

グラン 「くぅ…すまぬ、ルーザー…! どうやら力及ばなかったようだ」

ワシは砂嵐の中、体力を奪われ倒れた。
霞む視界の中で、ただラゴウが立っている姿を見るのが限界だった。


ラゴウ 「……」

リライ 「………」

リライはすでに虫の息に近い、グランももはや何も出来まい。
俺は状況をあえて確認すると、最後の一撃をリライに向けて構える。

ラゴウ 「…さらばだ」

ブォアッ!!

兵士 「うわっ!!」

突然、空気が固体化するようなプレッシャーに襲われる。
俺はただならぬ気配を感じ、周りを見渡す。

ラゴウ 「!? 何だ…一体何だと……?」

見ると、砂嵐が全くなくなる。
俺の出した砂嵐は余程のことがない限り消えない…それが何故?

ラゴウ 「……?」

グラン 「……」

すでにグランも気絶している。どうこうできるような状態ではなかったはずだ。

ラゴウ 「…これは?」

俺は砂漠の砂にひとつの影を見つける。
そして、その影の上空に佇む猛り、それを見て…俺は驚愕した。

ラゴウ 「な、何だと…!? あいつは…まさか」

そう、ひとりの男の姿をした者が宙にいた。
その姿は、他の竜族とは全く違う雰囲気を身に纏い。
全ての竜族の頂点に立つ者、いわば神。

ラゴウ 「どういうことだ…? 何故…こんな所に、天空の覇者・空牙が!?」

兵士 「あ、あわわ…く、空牙様が……」

兵はあまりの状況に困惑し、怯えきっていた。
それもそのはず…伝説と言われている、レックウザの空牙と対峙しているのだ…俺とて恐怖を感じざるをえん。

空牙 「…少しばかり、いたずらが過ぎているようだな。最近の地上は」

空牙は低く、重厚感のある声で、そう呟き静かに地上近くまで降りる。
ちょうど、俺の前方数メートルほどの位置で、宙に浮きながら静止する。

ラゴウ 「…何のつもりだ? 一体何故お前のような神が地上に?」

俺がそう尋ねると、空牙は俺を軽く睨みつけ。

空牙 「…我はあくまで空を統べる者、ティターンの統治する地上のことに関しては、あまり干渉したくはないのだがな」
空牙 「だが、こと竜族の争いに関して言えば、別だ」

空牙は両腕を組み、俺たちを再び睨みつける。
その眼光のみで兵士たちは恐れ、足をすくませる。

ラゴウ (く…俺が一歩も動けんとは)

対峙して初めてわかるそのプレッシャーに俺は動けなかった。
体力や知力の云々以前の問題だった…格が違いすぎる。
俺の体を幾つもの冷たい汗が流れ出た。

空牙 「何故、争う?」

ラゴウ 「?」

俺は意味がわからなかった。
空牙は、もう一度静かに尋ねる。

空牙 「何故、争う?」

ラゴウ 「言っている意味がわからんな」

空牙 「今は…同種で争っている時ではないのだ」
空牙 「無論、お前たちのように砂漠で生きるため、貧しい生活のために戦うことは悪いことではない」
空牙 「だが、その力は竜族同士で欲望や野心のために使うものではない」

ラゴウ 「神がわざわざ空から降りてきて説教か?」

俺はあくまで強気にそう振舞う。
空牙はまるで動じずに言葉を続ける。

空牙 「…今回の騒動、それはまだ前兆でしかない」

ラゴウ 「何…?」

空牙 「リライとアンス…このふたりは竜族の中でも特別なのだ」
空牙 「そのふたりだけは、今殺させるわけにはいかんのだ」

ラゴウ 「…つまり、あんたは俺の仕事の邪魔をしたいわけだ」

空牙は数秒目を瞑り、そして。

空牙 「!!」

ドンッ!!

ラゴウ 「がはぁっ!!」

目を見開いたと同時に俺は数メートル後ろに吹っ飛ぶ。
空牙はほとんど動いていない…ただ、気合を入れただけだ。
俺の体は完全に強張り、立つことすら出来なかった。

ラゴウ 「……!」

空牙 「去れ…、リライにこれ以上手出しはさせん」
空牙 「無論、立ち向かうならそれも良し…ただしその時は」
空牙 「容赦はせぬ…!」

その言葉を浴び、兵士たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。
俺は辛うじて、起き上がり、こう言い残す。

ラゴウ 「…神が何を考えているか知らないが、俺は砂漠で生きる傭兵だ…生きるためには何だってする…!」
ラゴウ 「食料と水の少ない砂漠で生きる民の苦しみなど…この気持ちなど神などにはわからんさ!!」

俺はそれだけを言って飛び去った。


………。


空牙 「……むんっ」

我は力をリライに分け与える。
すると、リライは目を開き、状況を確認する。


リライ 「…ここは、砂漠……ラゴウは?」

俺は状況がわからずに慌てる。
すると、眼の前に見たこともない人物がいて驚く。

リライ 「うわっ!? あんたいつの間に…? あんたが助けてくれたのか?」

空牙 「そうだリライ…我がお前を助けた、心の雫を持つ者よ」

男は数秒目を閉じてそう言うと、再び目を開く。

リライ (すげぇ…誰だか知らねぇが、対峙しているだけで只者じゃないってわかる)

砂漠の暑さの中で、俺は冷や汗を感じる。
この人のプレッシャーはそれ程の物だった。

リライ 「そうだ、グラン様は!?」

俺はちょっと離れた所で倒れているグラン様を見つけ、駆け寄る。

リライ 「グラン様しっかりしてください!!」

俺はグラン様の状態を抱え上げ、そう呼びかける。
だが、返事は返ってこない。

空牙 「…リライよ、心の雫を使え」

助けてくれた人がそう言う、そういえばこの人は一体…?
だが、俺はそんなことを気にしている程の余裕はない事に気づいた。

リライ 「心の雫…ってこれだよな?」

俺は懐からそれを取り出し、男に見せる。

空牙 「そうだ…お前の力と心を込めることで、それは反応する」

リライ 「力と…心?」

俺は雫を握り締め、力を込める。
すると、雫は蒼く光り始める。
俺は次に、グラン様を助けたいと心を込める。

カアアアアァァァァァァァァッ!

淡い光が激しい光に変わる。
やがて、その光はグラン様の体を包み込んだ。

グラン 「……む、むぅ」

光が止むと、グラン様の傷は完全に癒えていた。
凄い力だ…これが心の雫。

空牙 「それが雫の力だ…だがリライよ、その力を使いすぎるな」
空牙 「その力はお前の命を確実に削る…本来使う時はアンスも一緒でなければならん」
空牙 「その力を持って、今回の争いを鎮めて見せよ…それが雫を所有する者の使命だ」

それだけを言って、男は空に飛び去った。
とんでもないスピードで、一瞬で見えないほどの上空に姿を消した。
すると、晴れ渡っていた空気が、急に砂煙を上げ始める。
砂嵐がまた来たのだ。
だが、今度のは普通の砂嵐だった。

グラン 「どうなっている? 何故、ワシは…?」

リライ 「まぁ、何かわからないんだけどさ…変な人が助けてくれたんだ」

俺は適当に答える。
実際誰だか知らないし。

グラン 「変な人じゃと?」

リライ 「そうそう、まぁ正義のヒーローってとこじゃないの?」
リライ 「それより、急がねぇと…!」

俺は本来の任務を思い出す。
もうすぐ1週間…ルーザー様は戦闘に入ってる、遅れたら事だ。

グラン 「う、うむ…確かに、追っ手が来る前に急ごう!」

俺は再びグラン様を背中に背負い、猛スピードで飛んだ。

リライ (待ってろアンス!)



………。
……。
…。



ルーザー 「………」

私はワーズの城を眼前に睨み、戦況を見る。
現状、多少ながら我が軍が押されている。
兵士としての質は奴らの方が上か…。

カルーン 「ルーザー様…?」

私は槍を取り、カルーンにこう告げる。

ルーザー 「私が打って出る…お前は後方で兵たちに指揮を送れ」
ルーザー 「前衛の指揮は私がする!」

私はそう言って、翼をはためかせる。
そして、前衛の部隊を薙ぎ倒す。



………。



バンッ!!

勢い良く扉が開かれ、テラスに兵士が駆け込む。
俺は振り向かずに。

ワーズ 「何事だ…?」

兵士 「は、はい! ル、ルーザーの部隊が徐々に押し始めております!! ブロス様が前頭指揮を執っておられますが、相手はルーザー自らが前衛に…」

ワーズ 「成る程…自らが前方指揮を執って士気を高めるか」
ワーズ 「確かに、ルーザーが相手ではブロスには荷が重かろう…」

兵士 「ワーズ様…!? まさか、自ら…」

ワーズ 「決着を着ける時が来たようだな…!」

俺は剣を取り、テラスからそのまま飛び立つ。
そして、一直線にルーザーのいる方角に向かった。





アンス 「……? 何か騒がしいけど…」

シェリル 「始まったようですね」

突然部屋にシェリルさんが入ってくる。
扉が開いた瞬間、やたらとドタバタした音が聞こえた所を考えると、かなりの事態になっているようね。

シェリル 「アンスさん、行きましょう…時が来ました」

シェリルさんは私の前に手を差し出す。
私は、その手を取って立ち上がる。
服はすでに着替えていた。
私はシェリルさんに案内されて、秘密の通路を進む。
通常の道とは違い、地下を通った。
かなりの距離があり、数十分ほど経ったところで、久しぶりに外の空気を感じた。


ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!


凄まじい音が耳に入ってくる。
叫び声、断末魔、歓声、様々な音が嫌に聞こえた。

アンス 「シェリルさん…?」

私は、しばし耳を塞いだが、慣れて来た所で立ち止まったままのシェリルさんに呼びかける。

シェリル 「…私が同行できるのはここまでです」

私はシェリルさんの言葉にえ!?と返す。

アンス 「どうして…!? シェリルさんも一緒に」

私が言い終わる前にシェリルさんは首を横に振る。

シェリル 「いいのです…私は、それが望みですから」
シェリル 「最後まで、想いを通します…それが、約束ですから」

私は強い決意の目をしたシェリルさんを引き止められなかった。
わかっていたから、シェリルさんの気持ちを…。
約束…内容は知らないけど、きっと…シェリルさんにとって、一番大事なことなんだろう。
私は、笑いながら。

アンス 「ありがとう、シェリルさん。私、シェリルさんみたいな綺麗で優しい人に会えて本当に良かった!」

そう言って、私は駆けた。
私は、真っ直ぐに走る、そしてある程度走った所で、敵に気づかれないように飛んだ。





………。





兵士 「ブ、ブロス様! ダメです!! ルーザーは止められません!!」

傷ついた兵士がそう報告する。
我が部隊のほとんどがルーザーひとりにやられるというのか…!?


ワーズ 「ブロス…よく持ちこたえた、後は俺に任せてお前は兵力を削れ! ルーザーは俺が始末する」

俺はそう言ってルーザーの目前に向かって剣を抜く。
距離は一瞬にして縮まり、互いの目が獲物を捕らえる。



ガキィィィッ!!!



互いの剣と槍が交錯し、弾かれる。
そして、空中で停止しながら互いの顔を見る。

ルーザー 「来たかワーズ…」

懐かしい声、だが前に聞いた時はもっと若々しかったな。

ワーズ 「ふ…老いたなルーザー、だがその力はまだ健在なようだな!」

俺は剣を構えて威嚇する、だがそれにも怯まずにルーザーは俺を睨みつける。

ルーザー 「ワーズよ、今更理由など問わん…だが!」
ルーザー 「わが国民に手を出したことだけは絶対に許さん!!」

ワーズ 「ほざけ! 天空にふたりの覇者はいらん!!」

俺は全力を持ってルーザーと激突した。





………。





リライ 「間に合わなかったのか!?」

俺はついに帝国上空へとたどり着いたが、とんでもないことになっていた。
地上には双方の兵士の死体がわんさか…まさに地獄絵図だな。

グラン 「いや、まだ戦いは続いておる…あれを見ろ!」

グラン様が杖を向けた先には、とんでもない重圧の塊がふたつあった。
凄まじい速度で交錯し、風がうねる。
空気を切り裂くような音がここまで聞こえてきた。
今、ふたりの化物が戦っているのだ。

グラン 「どうしたリライ…臆したか?」

リライ 「いや、何かが近づいて…」

俺はその影を認識して、はっとなる。

アンス 「…兄さん!!」

リライ 「アンス!? どうしてここに…?」

俺は真っ直ぐに俺の胸に飛びこんでくる妹に押し倒されそうになる。
衝撃でグラン様が落ちかけたが、何とか俺は持ちこたえて見せる。

リライ 「馬鹿! 状況を考えろ!!」

俺がそう言うと、アンスは不満そうに。

アンス 「むぅ〜こんな可愛い妹が折角抱き着いてあげてるのに〜」

リライ 「グラン様が落ちるだろうが!!」

グラン 「ほっほっほ…元気そうでなによりじゃ」

アンス 「えへへ…でもよかったぁ、無事に会えて」

俺たちは、とりあえず地上に降りた。
グラン様を地上に降ろし、俺たちは再会を喜ぶ。

リライ 「とにかく無事で良かった…ワーズに何かされなかったろうな?」

俺はアンスの両肩を優しく掴んで、そう言った。

アンス 「当然、そんなことあるわけないじゃない」

アンスは簡単に言うだが、顔はそう言ってないように見えた。
実際には色々あったのだろう、内容は聞きたくもないが、無事なことは何よりだ。

リライ 「それよりも、ルーザー様とワーズの戦いを止めないと」

アンス 「…そうね」

アンスは俺の言葉が理解できているようだった。
このまま戦い続けちゃだめだ…そんな気がする。

グラン 「止めると言っても、止められるか…? お前に」

グラン様は、重い声でそう言った。
俺は正直目の前の光景を見ながら冷や汗を流す。
そんな俺の心境を察してか、グラン様が語りだす。

グラン 「…正直、ここまで戦いが激化するとは思っていなかった」
グラン 「このままでは、互いに治まりがつくまい」
グラン 「どちらかが倒れるまで、戦いは続く」

リライ 「何言ってるんですか!? だったら俺たちが止めるに決まってるでしょう!!」

アンス 「それしかないもんね…」

俺たちはそう主張した。
グラン様は、少し目を瞑り、考える。
そして静かに目を開けると、こう言う。

グラン 「死ぬでないぞ…ふたりとも?」

リライ 「当たり前でしょ、生きて皆で帰りましょう!」

アンス 「…まぁ、乗っちゃった船だしね」

俺たちはそう言って宙に浮く。
そして、最後にグラン様がこう叫ぶ。

グラン 「よいか! どうしようもなくなった時は心の雫を使え!」
グラン 「兄妹の力を、忘れるな!!」

俺はグラン様に向かい親指を立ててOKサインを出す。
そして、全速力で修羅場に向かった。



グラン 「…天空の神・空牙様、どうか…あの優しき兄妹を御守りください」





コオオオオオオオォォォッ!!

風を切り、俺たちは一直線に修羅場に向かう。
轟音が轟き、互いの血と血がぶつかり合う。
そこは、まさに死闘の場だった…。

ルーザー 「ぬうぅんっ!!」
ワーズ 「うおおおぉっ!!」

戦いは、時が経つに連れ、より激化する。
すでに地上の戦いも互いの7割以上の兵士が倒れ、次第に戦況が膠着し始めていた。

リライ 「覚悟はいいかアンス?」

俺は極めて冷静にそう聞く。
すると、アンスは無言で頷く。
冷や汗が体を伝ったが、気にしている暇はなかった。
俺たちはふたりの近くに辿り着くと、力いっぱいに叫ぶ。

リライ 「戦いを止めろーーーーーーーーーーーー!!!!」

俺の叫びにルーザー様とワーズはおろか、地上の兵士達まで注目する。
さっきまでとはうって変わり、しん…と静まり返った。
静寂の最中、空気の流れがしっかりと聞こえることが緊張感を増していた…。
俺は戦闘態勢のふたりを見て、冷や汗を流す。
普通じゃない、このプレッシャーを素で放てる竜族は、世界広しと言えどもこのふたり位だろう。
俺が言葉を出ししぶっていると、代わりに妹が口を開く。

アンス 「ふたりとも、もう止めて! これ以上の戦いに意味はないわ!!」

アンスの言葉を受け、ワーズが口の血を拭って嘲笑する。
そして、ボロボロになった剣をアンスに向け、こう言い放つ。

ワーズ 「意味だと…貴様らになくとも俺にはある!!」

アンス 「……」

アンスはまるでわかっていると言っているような目でワーズを強めに睨みつけた。

ワーズ 「ルーザーを殺すことで、俺の復讐はようやく終わる! 戦いの意味などそれで十分!」
ワーズ 「そして、俺はお前を妻にすることで、竜族の頂点として君臨する!」

ワーズはそう言って、剣を構える。
アンスは、哀れみの視線でワーズを見た。

アンス 「哀れね…本当に」

ワーズ 「何だと…!?」

意外にワーズはうろたえる。
まるで、痛いところ突かれたかのように。
アンスはそれがわかっていたかのように冷静に続ける。

アンス 「本当に、自分を見守ってくれている人すらわからない子供は、私は相手には出来ないわ」
アンス 「あなたが私に向けている感情は恋人としての愛情じゃない…」

ワーズ 「……!」

ワーズは剣を持った手を震わせて、怯む。
俺にはわからなかった…だがアンスは知っている。
城で何かを掴んだのか?
だが、俺が考える間もなく傷ついたルーザー様が口を開いた。

ルーザー 「ワーズよ、貴様が何を思って国を出たのかは知っている…」
ルーザー 「そして、何故アンスを求めるか、その理由もわかる」
ルーザー 「だが、それで私だけでなく、故国を恨むと言うのは筋違いと言う物であろう!?」

俺はその言葉を聞いて驚く。
ワーズの故国…?

リライ 「じゃあ、ワーズは…?」

俺が言う前にワーズが俯きながら口を開く。

ワーズ 「…そうだ。俺は元々ルインで産まれた者だ」
ワーズ 「…筋違いだと! 貴様に何がわかる!!」

瞬間、俺は生きた心地がしなかった。
ワーズから発せられる殺気は、俺達の動きを止めるに十分だった。

ワーズ 「全てを失った俺の気も知らず…ぬくぬくと国王の座に君臨しつづけた貴様に…何がわかる!!」

ワーズが高速で突っ込んでくる。
不意を突かれたルーザー様は動きが間に合わなかった。
いや、それを差し引いてもワーズが速すぎた。

ドシュウッ!!

ルーザー 「ぐうぅっ…!!」

一瞬にしてワーズの剣が国王の体を貫く。
力なくルーザー様は地上に落ちる。
地上にいた兵士は絶叫と歓喜の声を同時にあげた。

俺は自分の血の温度が上がったことがわかった。
拳を硬く握り締め、俺はワーズを睨みつける!!

リライ 「ワーズゥ……! テメェの勝手な都合で人の妹を攫い」
リライ 「あまつさえルーザー様にまで手ぇかけやがって…」
リライ 「もう我慢ならねぇ!! テメェは俺が根性叩き直す!!!」

俺は全力を持ってワーズに向かう。
ワーズは俺の動きを見て、剣を構える。
俺は持ち前の速度を持って、ワーズの回りを旋回し、背後に回ろうとする。
だが、ワーズは何ら臆することなく俺を狙って正確な攻撃をしてきた。

ザシュッ!

ワーズの剣が俺の左肩を切り裂く。

アンス 「兄さん!!」

リライ 「ちっ」

俺は舌打ちしながら、念動力を集中する。
それを両手に集め、俺はワーズに向けて解き放つ。

リライ 「ラスタァー・パァージッ!!!」

ワーズ 「むぅ!?」

ワーズは正面からそれを受ける。
俺の必殺技が炸裂し、閃光と共に、辺りが念動力の波動でたちこめる。
そして光が収まったところで、場はより緊張感が高まる。

リライ 「何ぃっ!?」

ワーズ 「…面白い」

ワーズは両手でガードしたポーズで笑っていた。
効いてないはずはない…だが、耐えやがった。
俺は正直、ビビッていた。
ラスターパージが直撃なら、いかにワーズでも耐えられない。
耐えられたとしても、かなりのダメージを負うはずだと思っていた。
だが…。

リライ (…マジかよ、あまり効いてなさそうじゃねぇか!)

俺は体に冷たい汗が流れ落ちるのを感じた。
そして、次の瞬間。

ドゴォッ!!

アンス 「兄さーん!!」

俺は猛スピードで横っ面を切り裂かれる。
何が起こったのか一瞬わからなかったが、ワーズの左手がぼんやりと輝いていることに気がついた。

ワーズ 「ククク…どうだ。俺の『爪』の味は?」

俺は意識が朦朧としていた。
たった一撃で、すでに戦闘不能っぽい…冗談じゃねぇ。

リライ (ルーザー様は…こんな化け物と互角にやってたのかよ。本当に化け物だな)
リライ (畜生…体が言うこときかねぇ……意識が…落ち、て…)

アンス (兄さん! しっかりして!!)

突然、頭の中に妹のけたたましい声が響く。
俺の意識はそれで引き戻された。
だが、体は思うようには動かない。

アンス (兄さん! 雫を…!!)

俺はその言葉を聞いて、はっとなる。
この際、何でアンスが雫のことを知っているのかは気にしなかった。
俺は静かに意識をアンスとシンクロさせる…。
やがて、体からの痛みは消え、俺の体が光に包まれる。

ワーズ 「何…っ!? こ、これは…?」

俺は意識を集中し、体全体で雫の力を受け止める。
そして、俺の後ろで、両手を祈るように組み、光に包まれる妹の姿があった。
俺たちは、ひとりではなく、二人で戦う。

リライ 「これで最後だっ! ワーズ!!」
アンス 「これで最後よっ! ワーズ!!」




すでに夕闇が立ち込める帝国上空に白き光が満ち溢れる。



『心の雫』

それは、選ばれし竜族のみが扱えし禁断の力。
強大過ぎる力ゆえに、使用者自身も命の危険にさらされるという。



空牙 「雫を使うか…」

我は大気圏のすぐ近くでただその『光』を見ていた。
雲すら届かぬこのオゾン層にさえ、雫の光は届く…。
我は考えた…。
果たして、リライに雫を託したのは正解であったのだろうか?
我の期待は、ただあの優しき兄妹を悲しませることになるのではないだろうか?
そんな考えが、頭から離れなかった。

空牙 「ふ…こんな話をガーヴやティターンにすれば笑い者となるな」

我は目を閉じて眠りにつく…。
後はあの優しき兄妹が終わらせてくれよう…。
我は一時の眠りに落ちていった…再び、目覚めるその時まで………。





リライ 「はああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」
アンス 「はああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

俺たちは全力でその力を解放する。
体がバラバラになりそうに痛む。
だが妹が絶えているのに俺が根を上げるわけには行かない!

ワーズ 「ぐううううぅぅぅっ!? こ、この力は…一体!? ち、力が…!!」

ワーズは俺たちの放った雫の力を正面から浴び、力を失っていく。
もう終わりだ…俺たちはワーズを殺す気はない。
だが、これ以上抵抗するのであれば…ワーズは。

リライ 「ワーズ、もうよせ!! あんたの負けだ!!」

俺はワーズの体を気遣ってそう叫ぶ。
だが、予想通りワーズは強がって見せる。

ワーズ 「…笑止! この程度で俺を…!! ぐはぁっ!」

ワーズは血を吐く。
だが落ちようともせず、大きな翼をはためかせ、あくまで立ち向かおうとする。
敵ながら、たいした奴だ…だが。

リライ 「どうしてその力、その心を正しいことに使わない!?」

アンス 「そうよ! あなたがそれだけの力を持っているのであれば、もっと幸せな国を自分の力で作れたはずよ!!」

ワーズ 「黙れ!! がはっ…俺は……負けられぬ、勝つのだ!!」
ワーズ 「貴様らにはわからんのだ! 全てを失った者の気持ちなど!!」

リライ 「!?」
アンス 「!?」



グラン 「ルーザー! 無事か!?」

ワシはどうにかルーザーの元まで走る。
幸い、致命傷ではなくルーザーは話すこともできたようだ。

ルーザー 「うむ、どうにかな…。しかし」
ルーザー 「悲しい男よな、ワーズ…」

ルーザーがそう呟く。
空で繰り広げられるあの光景を見て、ワシもそう思わざるを得なかった。



ワーズ 「があああ…っ!」

アンス 「もう止めて!! これ以上はあなたの命が…!!」

アンスは泣き叫んでそう言う。
だが、ワーズは耐える。
俺は尊敬した。
この男が、本当に正しい道を進んでいたら、どうなっていた?
多分、ルーザー様すら届かない地位にもいたかもしれない。
なのに、どうして…。
俺は、覚悟を決めた。

リライ 「…わかった、あんたは本当に立派な男だ、だから俺が最後の引導を渡してやる!」

アンス 「兄さん!?」

アンスが一瞬、集中を止める。
雫の力が全て俺に入ってくる。
俺は、それを全力でワーズに向ける。

リライ 「うおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!!」

ワーズ 「!?」

カッ!!!

一瞬の閃光。
誰もがその光景に目を眩ませた。
私は、涙を流すことしかできなかった。



………そして最後に、地面にはひとりの敗者が横たわり、勝者の姿は、そこには存在しなかった………



ワーズ 「……」

シェリル 「…ワーズ様」

シェリルさんが、膝枕でワーズを優しく包む。
シェリルさんの綺麗なドレスが血で染まっていく。
シェリルさんはそんな事も気にせずに、涙をこらえていた。
すでに戦いは終わり、結局ルイン軍、帝国軍共に戦意を喪失した形で幕を閉じた。
ワーズとシェリルさんを囲むように、両軍の兵士たちが立っていた。

ワーズ 「…ふ……あわ、れ…だろう? これ、が…復讐心にから、れ……戦いに、敗れ、た…男の…最後だ」

ワーズはちぎれちぎれにそう言葉を繋げる。
私は何も言えなかった、でもシェリルさんは微笑みながら。

シェリル 「いえ…立派でした。ただ…その力を、もっと別のことに使って欲しいと、私は願いました」

シェリルさんの瞳から、一滴の涙が零れる。
頬を伝って落ちたその涙が、ワーズの頬に落ちる。

ワーズ 「…そうか……そう…だな……」
ワーズ 「…何、故…気づかなかったの…か……」
ワーズ 「本当に…見てくれる、者……大切な…者……」
ワーズ 「ふ…ふ…ふ……やはり、俺は…間違って、いたのだな……」

シェリル 「…はい、そうかもしれません、ですが…」

ワーズ 「……?」

ワーズは虚空を見つめていた。
もう、視界も見えないのだろう。
私は声を殺して涙した。

シェリル 「…私は、ワーズ様をずっと…愛しておりました」
シェリル 「いつか…幸せな国を作って、平和に暮らせる日を…待ち続けようと、想い続けました」

シェリルさんは笑いながらそう言葉を繋げる。
涙が何度か零れ落ちる。
ワーズは悲しい顔をした、最初は涙だとわかっていなかったのだろう、気づいたから…悲しい顔をした。

ワーズ 「…母、さん……」

ワーズは子供のような微笑を残し、最後にそう言った。
霞む視界の中、シェリルさんの顔に触れようとしたワ−ズの手は、届かぬまま地に落ちた。

ドサッ!

そんなリアルな音が鳴り響く。
その後は音もなく、その場に集まる全ての者が沈黙に包まれた。
私は、涙を拭いてシェリルさんの元に歩み寄った。

アンス 「シェリルさん…ワーズは」

シェリルさんは笑った。
優しく微笑み、最後まで優しく、ワーズを包み込んだ。

シェリル 「もう、ここにはいません…きっと、母の所に…」

アンス 「どういうことですか?」

ルーザー 「私が説明しよう…」

突然ルーザー様が話に割りこむ。
全員が、ルーザー様に注目する。

ルーザー 「あれは…今から15年前」

アンス 「私が産まれてすぐ?」

ルーザー 「うむ、アンスがまだ生後一ヶ月程の時の出来事だ」

ルーザー様は静かに、悲しい顔をしながら語り出す。

ルーザー 「その頃、ルインはまだ小さな国で、他国との小競り合いが多かった」
ルーザー 「私は、その時まだ一兵士にしか過ぎなかった」
ルーザー 「ワーズは産まれた頃より、捨て子で身寄りがなく、国王と王妃によく懐いていた」
ルーザー 「特に王妃はワーズを我が子と同じように育てたものだ」
ルーザー 「シェリルも…幼いワーズと欠かさず傍にいたものだ」

シェリル 「…はい」

アンス 「じゃあ、シェリルさんはそんな昔からワーズのことを?」

シェリル 「……」

シェリルさんは答えなかった。
私は、少し気を悪くして、またルーザー様を見る。

ルーザー 「多少の問題はあったが、平和ではあった。だが、悲劇が起きてしまった」
ルーザー 「隣国の勢力が、全軍を持ってルインに押し寄せた」
ルーザー 「予想だにしなかった事態を前に、国王はふたりの子供を逃がし、戦いに出た」
ルーザー 「幼きワーズとシェリルは王妃様が預かった、私は王妃様の護衛だったが、経験の薄い私は誤って敵兵の罠にかかってしまったのだ」

アンス 「…そ、それで?」

私は恐る恐る聞いてみる。

ルーザー 「私とワーズ、シェリルを庇って王妃様は炎に焼かれることになった」

アンス 「……!」

私はあまりのことに口を塞ぐ。
あまりにリアルな想像をしてしまった。

ルーザー 「それからだった…ワーズが私を憎むようになったのは」
ルーザー 「思えば、当然だったのかもしれん…だが、ワーズはその憎しみをルインにぶつけ始めた」
ルーザー 「私が、討たれた国王の後釜に座ったことが余程気に入らなかったのだろう…ワーズは幼いながらも国を出た」

シェリル 「…あの時は、そうでした」
シェリル 「でも、今は少し違ったと思います…。ワーズ様はただ、誰かに愛して欲しかった」

シェリルさんが静かに、そう答える。

アンス 「そう…だったんですか」

一通りの話を聞き終え、私はそう答える。
意外ではあった、ふたりが同じように育って、同じように生きてきたということが。

グラン 「ワーズは王妃に…すなわち、お前たちの母に育てられた」
グラン 「つまり、ある意味お前たちの兄でもあるのじゃ…」

アンス 「え…!?」

私はこれまでにない位驚く。

グラン 「ワーズは…母を愛し過ぎたがためにその母の死を許せなかった」
グラン 「だから、力の足りなかった若きルーザーを逆恨みすることで、ワーズは力をつけた」

ルーザー 「そして、力をつけた今…私を倒して、昔に戻るつもりだったのかもしれん」
ルーザー 「悲しい男よ…誰よりも愛を信じ、愛を欲していた男だ」

アンス 「私をさらったのは…私がお母さんに似ているから?」

シェリル 「そうでしょう…私も、まるで生き写しのように見えました」

シェリルさんは、悲しい表情をしてワーズの頭を胸に引き寄せた。
目を瞑って、涙を流している。
シェリルさんは、ワーズが小さい頃から好きだった。
まだルインにいたころから、身寄りのないワーズと出会い、シェリルさんはずっと傍に居続けたのだ。

アンス 「……」

私は今までのことを振り返る、そして…今足りない物を考えた。

ルーザー 「リライのことは…」

アンス 「生きています」

私はルーザー様が言い終わる前にそう言う。
兄さんはあの光の後、姿がなかった。
雫の力で消えたとも思われているけど、多分別の場所にいる。
私は、思わず笑った。
あの馬鹿な兄だもの…きっと。

アンス (きっと…どこか知らない場所ではしゃいでるわ)



そして…この短い期間の戦争は、竜族の間で永遠に語り継がれる伝説となる。
だが、これは終わりではない…新たなる運命の、始まりなのだ。

そして、これらの期間に起こった、全ての事件が…全て一連の事件と関係していたことを、後に証明されることとなる……。





アンス 「じゃあ、行って来ます! お元気で!!」

あれから数日後、私は国を出ることにした。
戦争が終わり、帝国はシェリルさんを王妃として新たなスタートを切った。

グラン様も、故国に帰り、またのほほんと暮らしているのだろう。


私は支度を全て終え、城でルーザー様に別れを告げる。

ルーザー 「うむ、次に合う時は兄と一緒だな」

アンス 「ええ、もちろん!!」

強くそう言って、私は国を駆け抜けて行った。
飛んでいくこともできるけど、自分の足で走ったり歩いたりする方が楽しかった。
兄さんを探すための旅がこれから始まる。
それは、竜族の領域を越え、全く見知らぬ人たちと出会うことになるのだろう…。
私は、心を躍らせた…そして、いつか……。

アンス 「私だって、幸せに……ねっ♪」











☆ The End ☆











作者あとがき




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