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水の街-Fate of aqua-



第1話 『何でも屋とレイジ』




とある異世界にあるひとつの街『アクアレイク』。

貿易都市としてさかえ、世界有数の人口と賑わいをもっている。

水タイプの国グランブルーに属しており、アクアレイクに住む大半のポケモンは水タイプ。

また、それ以外にも様々な種族がこの街には住んでいる。

主な収益は貿易、観光事業。

温帯の地域に属しており、おおよそ、6月から10月までが海開きの月、しかし11月を迎えると南から吹くエアリアルからくる冷たい風のせいでアクアレイクは極寒となる。

そして、現在、4月。
ある、大きな事件が終わって、事後処理に追われるアクアレイク…。


『アクアレイク中央区:クリアブルー』


ガツガツガツ!

エルフィス 「あらあら…そんなに慌てなくても…」

カイ 「…すごい食欲…」

レイジ 「んぐんぐ! 腹…んぐ! へって…さ! たまんないわけさ!」
レイジ 「ぷはぁ! ごちそっさん!」

俺の名はレイジ。
世界中を旅するラグラージ種の男だ。
俺は果てしないたびの末、この水の街アクアレイクにたどり着いた。
しかし、困ったことに残金はほとんどなく、飲まず食わずのまま早2週間。
行き倒れになったところ、このクリアブルーの女主人、ラプラス種のエルフィスさんに救われた。
和食と洋食どちらがいいかと聞かれたので俺は和食と答えたところ、炊き立ての銀シャリが出てきて、思わず喰らいついたわけだ。

レイジ 「こんな身分も証明できないような俺に恵みを与えてくれて本当に感謝している! ありがとう!」

俺は飯を食い終わって俺を助けてくれた2人に感謝の意を述べた。
実際、ここで助けてもらえなかったら俺はきっと死んでいただろう。
それくらい極限状態だった。
思わずドンブリメシ10杯は食ってしまった。

エルフィス 「レイジさんはどこか宛てはあるのですか?」

レイジ 「…いや、ない」
レイジ 「もとより、俺旅人ですから、これからまた別の街にでも向かいますよ」

カイ 「でも、さっきお金がないって…」

エルフィス 「ええ、ここは最南端ですから船に乗るか、道を戻るしかないですよ?」

レイジ 「む…」

船に乗るには金がいる。
泳ぐという手段がないこともないが無茶があるので却下だな。
道を逆に戻るということはまたあの荒野を抜けてアレクセラを目指すということ。
国道を通れば街も見つかるだろうから戻るとしたら道沿いだな…。
どちらにしても旅に金はいる。
幸いこの街は金の流通が激しい。
稼ごうと思えばそんなに難しくはないだろう。

レイジ 「ま、適当に働いて金を稼ぎますよ」

カイ 「適当…?」

レイジ 「あ、いや、仕事を適当にするってわけじゃなく適当に仕事を探すってことで…」

カイさんが俺の言葉に訝しげにしたので俺は慌てて訂正する。
そういや、カイさんって種族はなんなんだろう?
水タイプっぽいけど、見たことのない種族だよな?

レイジ 「カイさんって種族はなんなの? 見たところ水タイプっぽいけど」

カイ 「私は…」

エルフィス 「え、えと…! カイさんの種族は不明なの!」

レイジ 「不明?」

エルフィス 「そ、そう! 新種のポケモンで種族がわからないのよ、ね?」

カイ 「あ、は、はい…」

レイジ 「ふ〜ん…新種ね、まぁどうだっていいか」

エルフィス 「あ、そろそろ仕事の時間…急がないと」

レイジ 「ん? 仕事? そういえば仕事って何してんの?」

エルフィス 「何でも屋よ」

レイジ 「何でも屋…便利屋さんか」

カイ 「エルフィスさん、今日の仕事は呑気屋ですから、急がないと」

エルフィス 「そうね」

レイジ 「俺は家でますわ、鍵閉められないでしょ?」

エルフィス 「え? 別に家にいてもいいのよ?」

レイジ 「いいっすよ、仕事行ってらっしゃい」

俺は席を立つと玄関の扉を開けて外に出た。
4月のこの時期はまだそこまで暑くはない。
しかし、アクアレイクはこれからどんどん暑くなるんだな…。

エルフィス 「すいません」

カイ 「鍵はかけました、行きましょう」

エルフィス 「ええ、それでは」

レイジ 「うい」

エルフィスさんはカイさんに連れられて西部に行くようだ。
俺はというと…どうっすかな…とりあえず仕事見つけるか?
出来れば日雇いだが…。

レイジ 「あの、くそデカイ建物が町長宅か」

この前事件を起こしたって街、現在裁判待ちだけど、無罪は確定だそうだな。
住民登録をするなら行かないと行けないけど、長居するわけじゃない。
てっとり早く探すならハローワークだが。

? 「見つけた…マナフィ!」

レイジ 「はい?」

突然、後ろから声が聞こえた。
後ろを振り向くと150ないような小柄な子供のようなポケモンがいた。
頭から2本の長い触角が生えて、4月だというのにすでにハイレグの水着。
女の子というのはわかるが…あんだ?

レイジ 「君、俺のこと、言ってんの?」

謎の女の子 「あなた、マナフィ! ずっと探した!」

レイジ 「てか、マナフィって何? あと君誰?」

謎の女の子 「ここ、ダメ! こっち来て、マナフィ!」

レイジ 「もしかしてマナフィって名前か? て、おい…!」

謎の女の子は俺の腕を掴むと全速力で走り出す。
どこへ向かっているのかはわからないがエルフィスさんたちが向かった方角の逆ということは東側に向かっているはずだ。

レイジ 「だから、お前はなんなんだっつーの!」



…………。



『同日:某時刻:南東区 リブルレイク』


謎の女の子 「ここなら大丈夫、マナフィ」

レイジ 「はぁ…はぁ…街の最南東までつれてきやがって…なんなんだよ…」

俺は謎の女の子に連れられてリブルレイクという湖につれてこられた。
俺は息を切らしているに対してこの女の子は超余裕だ。
30分以上全速力だったぞ…?

レイジ 「おい…いい加減こっちの質問に答えてもらうぞ…まず、名前は?」

謎の女の子 「名前は『アクシス』、『マナフィ』のための存在」

レイジ 「それで、そのマナフィっていうのは?」

アクシス 「マナフィはマナフィ、でも、マナフィまだ目覚めてない、マナフィ目覚めるまで私、マナフィ守る」

アクシスという女の子は俺を真顔で見ながらそんな事を言う。

レイジ 「ちなみに、俺の名はレイジ、断じてマナフィなどと言う名前ではない」

アクシス 「違う、それは仮初、マナフィはマナフィ!」

レイジ 「お前…人をおちょくってんのか? いい加減にしろよ…俺はレイジ、ラグラージのレイジだ!」

アクシス 「ラグラージ…認識…因果…経験…求め…誓い…永遠…運命…空虚…輪廻…」

レイジ 「おい…?」

突然、アクシスはその場でぶつぶつと何かを呟きだす。
その様は少し不気味だった。

アクシス 「アナタはラグラージ…でもマナフィ…あなたはラグ…ラージ…レイジ…」

レイジ 「大丈夫か…おい?」

アクシス 「今は、あなたはレイジということにしておきます」

レイジ 「は?」

アクシス 「さよならレイジ、私はあなたの近くにいます」

レイジ 「あ、おい! 今はってどういう意味だよ! 今はって!」

アクシス 「その内…わかりますよ」

アクシスはそう言うと更に南東に向かい、鬱蒼と生い茂った森の中に突入してしまった。

レイジ 「なんなんだよ…あいつ」

わけのわからない少女だった。
人のことをマナフィとか言ったり、今はレイジとしておくとか。
もしかして人をおちょくっていたのか?
そういや、あいつも種族わからなかったな。
特徴といえば、頭から生えた2本の長い触角だったが…。

レイジ 「わけわからん…一旦中央区に帰るか」

俺はとりあえず、来た道を再び戻る事にした。
一体なんなんだろうか…あれは。



…………。



レイジ 「さて、大幅に時間を費やしてしまったが、再び中央区に来たな」

時刻は既に正午を過ぎようとしている。
さて、いい加減腹も減っているが文無しの俺は昼飯を取ることも出来ん。
困ったな…。

レイジ 「困った困った…ん?」

俺は本当に困っていると目の前にリヤカーを引く、エルフィスさんとカイさんを見つけた。
リヤカーには大きな機材が乗っており、二人で引くのは大変そうに見えた。

レイジ 「しゃーない、恩もあるし」

俺は無言でリヤカーに近づき、引くのを手伝うのだった。

エルフィス 「! あら? 誰ですか?」

カイ 「レイジさん?」

レイジ 「どこまで運ぶんだい?」

エルフィス 「あのレイジさん…一体何を?」

レイジ 「飯を恵んでくれたお礼、で、どこまで運ぶんだ?」

エルフィス 「あ…この先のライト美術館まで…」

レイジ 「おし、なら俺が引っ張るから、二人は休んでろ!」

俺はそう言うと前に周り、リヤカーを引っ張る。

エルフィス 「え、でも…」

レイジ 「いいからいいから! ただし、場所わからねぇから道案内よろしく!」

エルフィス 「…ありがとうございます、レイジさん」

カイ 「……!」

レイジ 「おっ? 休んでろって」

カイ 「大丈夫、見た目ほどやわじゃない」

カイさんは突然、俺の横からリヤカーを引き始める。
別に俺一人でも問題ないんだがな…。
好意として受け取っておこうか。



…………。



レイジ 「…到着っと!」

俺はエルフィスさんのナビを頼りにライト美術館というところに機材を運んできた。
見たところそこそこ大きい美術館だが、あまりよさそうには見えない。
もとより、美術品なんて興味のない俺には仕方がないか。

ライト 「あ、待ってたよー! いつもありがとう!」

エルフィス 「いえいえ、中まで運びますね」

ライト 「ああ、いいよいいよ! 後は自分でするから!」

エルフィス 「でも…」

レイジ 「向こうがやるってんだから、別に口出ししなくてもいいんじゃないか?」

エルフィス 「レイジさん…」

俺は軽く頭を掻きながらチラリとエルフィスさんの方を見た。

エルフィス 「わかりました、ではお願いしますね」

ライト 「うん! じゃ、ありがとう!」

エルフィス 「行きましょうか、カイさん、レイジさん」

カイ 「……」(コクリ)

レイジ 「ういっす!」



エルフィス 「…レイジさん、さっきはどうもありがとうございますね」

レイジ 「え? 俺なんかしました?」

エルフィス 「リアカー、ありがとうございます」

レイジ 「あ、ああ、いいよ、飯を恵んでくれたお礼だし」

エルフィスさんの真顔のお礼に俺は少し照れくさくなって顔を逸らした。
何照れてんだろうな…俺。

エルフィス 「カイさん…」

カイ 「…問題ないと思います」

レイジ 「? 何の話だ?」

突然、エルフィスさんとカイさんは謎の会話を始める。
主語もへったくれもない会話から内容を察するなんて無理に決まっているんだがな…。

エルフィス 「あの、レイジさん、お話があります」

レイジ 「話?」

エルフィス 「もし、よろしければ私たちの所で働いてはみませんか?」
エルフィス 「お仕事はあまり良い物ではないですが、食事と寝床は提供できます」

レイジ 「…しかしなぁ」

正直、何でも屋なんて善意の集団がやるボランティアにも等しいような仕事だろ?
正直、柄じゃない。

エルフィス 「あの、たしかに大した給料も提供できないのはわかっています」
エルフィス 「ですが、我々見ての通り、二人とも女手でして、男性の方の力が…」

レイジ 「……」

たしかに、力仕事はこの二人にはつらいよな…。
まぁ、俺も体力や力仕事には自信あるけど。

レイジ 「あんまり、頭使った仕事は得意じゃねえぜ?」
レイジ 「それでもいいってんなら、力になるぜ?」

エルフィス 「え? あ、はい! お願いします」

レイジ 「あ、ああ…ま、よろしく店長さん」

エルフィス 「あ、エルフィスでいいですよ?」

レイジ 「ん…、じゃ、エルフィスさん」

カイ 「よろしく、レイジ…」

レイジ 「ああ、よろしくカイさん」

カイ 「カイでいい、こっちもレイジと呼ばせて貰っているから」

レイジ 「ああ? そうか? じゃ、改めてよろしく頼むわカイ」

カイ 「……」

カイは無愛想にそっぽを向いていた。
俺の方は少し言い回しに戸惑っているのが現状だ。

レイジ (ふぅ…何でも屋…か)

確かに俺も旅の中色んな仕事をやってきた。
これはある意味何でも屋に等しいのかもしれない。
だが、そのほとんどが力仕事だった。
はっきり言って、様々な業種のあるこの世の中で何でも屋が成り立つとは思いがたい。
いくらなんでも仕事の幅が広すぎる。
仕事の現状はよく知らないが、おおよそ常連からの仕事が主だと予想できる。
まぁ、あんまり頭使うのは得意じゃねぇんだけどな…。

エルフィス 「じゃあ、家に帰りましょうか、今日の仕事は終わりです」

カイ 「はい」

レイジ (いいのかねぇ…これで?)

俺にはまだ完全に納得したわけではない。
寝床に食事までいただいて、更に給料まで貰えるならこれほどうれしいことはない。
だが、あまり長く滞在する気のなかったこの街。
このままではずるずるとこの街に滞在することになりそうだ。

レイジ (しゃーねぇよな、この人たちほっとく訳にもいかないし)

だが、このままでもいけないというのは事実だろう。
明日から、どうなるんだろうねぇ?
俺はそんなことを考えながら、帰路に着いた。

俺の…アクアレイクでの物語り。
不思議と惹きつけられたこの街と、不思議な縁の街の人々。
謎の少女アクシス。
この街はこれまでの俺の経験では考えられない特異な街だ。
そして、俺はこの街で…ひとつの運命を後に見ることになる。
だが、そんなことは今は関係のないこと。

ただ、今は今夜の晩飯は何か?
それだけが、気になることだった。








To be continued

















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