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水の街-Fate of aqua-



第3話 『5月ある日』




『5月某日 時刻11:38 アクアレイク北東区:酒場『吾妻』』


レイジ 「…でな、西区の海岸沿いにあるんだがな、白い壁に赤い屋根が可愛い一戸建てがあるんだよ!」
レイジ 「値段も意外と手頃だし…どうだ?」

俺は今日、仕事が休みなので1ヶ月近く調べた結果、一番いいんじゃないかという一軒屋を探し、それを氷翠ちゃんと羽鵺鵜君に紹介していた。
とりあえず、吾妻は夕方から営業だからこうやって午前中を狙ってきたわけだ。

氷翠 「どう思う?」

羽鵺鵜 「いいと思うよ…だけど」

レイジ 「やっぱり資金面に不安が?」
レイジ 「それとも、やっぱ立地条件か? お世辞に人の集まるエリアじゃないからな…」

羽鵺鵜 「いえ…そうではなく」

レイジ 「違うのか?」

氷翠 「あの…資金面はもう十分大丈夫なんです、私たち共働きですしあまりお金使いませんから」
氷翠 「それにレイジさんがわざわざ探して着てくれた所、悪いところのはずがありません」

羽鵺鵜 「だけど、この吾妻での仕事もありますし、そうすぐには…」

レイジ 「あ…そうか…そうだよな、いきなり二人も人員減ったらリフ姉も困るからなぁ…しまった」

リフ姉のことをすっかり忘れていた。
モチロンリフ姉の性格を考えたらこんな話聞いたら、気にせず行けって言うに決まっている。
しかし、ここの午後の込み合いは結構きつい。
ただでさえ氷翠と羽鵺鵜しか従業員がいないのに、消えたら仕事ができないもんな。

レイジ 「…悪い、こんな急な話持ちかけて」

氷翠 「あ…いいえ! むしろ嬉しいです、私たちのこと、こんなに気にかけてくれているなんて!」

レイジ 「そりゃ応援したくもなるさ、若いしな…夢は掴んでもらいたい」

羽鵺鵜 「あと従業員がせめて2人追加されれば考えてみたい思いますが…」

リフ 「二人…追加すればいいのかい?」

氷翠 「!? リフさん!」

レイジ 「リフ姉!?」

なんと、今まで受注を受けて出かけていたハズのリフ姉が帰ってくる。
モロ、聞かれてた!?

リフ 「行きなよ、氷翠、羽鵺鵜…あんたたちの気持ちも嬉しいさ…」
リフ 「でもね…大切な従業員たちが巣立ちする様は…もっと嬉しいもんだよぉ…グス」
リフ 「おかしいねぇ? 涙なんてとっくの昔に枯らしちまったはずなんだけどねぇ…」

羽鵺鵜 「リフさん…」

リフ 「あんたたちは若いんだい! 好きなことをし! 店開きたいってずっと前から言ってたじゃないのさ!? 応援するよ!」

氷翠 「ですが、そんなことしたらリフさんは…」

リフ 「なぁに、しばらく店閉じて従業員探すさ! 元々あんたたちは酒場で働くってガラじゃないしさ! あっはっは!」
リフ 「あんたたち忘れたかい? ここは黒字だよ? 一週間や2週間店閉じたって問題ないさ!」

氷翠 「リフさん…わかりました、ありがとうございます!」

羽鵺鵜 「ありがとうございます!」

リフ 「うんうん、いいんだよ…可愛いあんたたちの巣立ちだ、喜んで見送るよ…」

レイジ 「へ…粋だねぇ、リフ姉は」

リフ 「何言ってんだい! ほらアンタも新婚さんに案内してあげなよ!」

氷翠 「新婚さんって…私たちはまだ…!?」

リフ 「いつかは…するんだろう…?」

羽鵺鵜 「…え…ええと…はい」

羽鵺鵜は真っ赤になりながらそう言った。
うんうん、若い若い。
まぁそれ故に苦労もありそうだな。

レイジ 「おっし! 二人とも今から行ってみるか?」

リフ 「二人とも、今日はもういいよ、行っておいで」

氷翠 「…はい!」

俺達はそうして、俺の見つけた店へと案内するのだった。

リフ 「あ、そうそうレイジ!」

レイジ 「はい?」

リフ 「後で仕事出しとくよ…」

レイジ 「? ああ…?」

仕事…?
クリアブルーにか?
一体なんだろうか?
まぁ、それはともかく案内だ、案内!



…………。



『同日 某時刻 アクアレイク西区』


ザザァ…ススゥ…。

氷翠 「波の音が聞こえる…」

羽鵺鵜 「すごい、海が近い…」

アクアレイクの一番西の道路、ウエストアチア通りの一角。
店は説明の通り白い壁に白い塀、屋根は赤い三角屋根、テラスもあり、中庭からは海も見える。
店を開くための家ではないので、改装が必要だが、きっと良い店になると思う。

レイジ 「じゃ、中に入ってみるか?」

羽鵺鵜 「はい」

俺は二人を連れて中へと入る。

氷翠 「あ、外から見るより中は広いね」

羽鵺鵜 「厨房も意外と大きいな…これなら位置替えをするだけで大分やれそうだ」

氷翠 「とりあえず、壁の仕切りを取り外して、テーブルをいくつか置けるようにして…あとレジも作る必要があるね?」

羽鵺鵜 「一度リフォームする必要はあるな」

氷翠 「中庭も使いたいよね、雨の日は使えないから屋根も増設しようか?」

羽鵺鵜 「そうだね、でも日差しが浴びれるようにした方がいいとも思うから屋根は開閉式かな?」

氷翠 「後はインテリア…やっぱり花壇がいいな、中庭に綺麗な花を飾るべきだよね」

羽鵺鵜 「中にも必要だな、ぬいぐるみとかも置いてみる?」

氷翠 「あ、いいね♪ 可愛いくていいと思う!」

レイジ (やれやれ、もう頭の中ではお店が出来ているようだな)

二人は俺の姿にもまるで気付かず、どういう店にしようか話し合っていた。
この二人なら絶対やっていけると思うな。

そして、たっぷり2時間ほど論議した後、俺達はその空き家を出るのだった。

レイジ 「どうだった?」

氷翠 「ええ、とってもいいところだと思います!」

羽鵺鵜 「早速購入してリフォームを開始したいと思います」

レイジ 「資金の方は余裕あるのか?」

氷翠 「合わせてどれくらいあったっけ?」

羽鵺鵜 「資本金で合わせて500万あるから、大丈夫だと思うけど」

レイジ 「…それだけあるんなら余裕だな、おっしゃ、店が完成したら呼んでくれよ!」

氷翠 「はい! ありがとうございます、レイジさん!」

羽鵺鵜 「ありがとうございます」

レイジ 「いいっていいって! 頑張れよ!」

俺はそう言って二人と別れる。
二人の顔は実に生き生きしていた。
これは想像以上の名店ができるかもしれない。

レイジ (若い夫婦の開く海辺のレストラン…考えただけで楽しみなもんだ)

後は味と集客だがな。
集客に関してはこっちに任せてもらおう、クリアブルーの情報力をもってすれば、必ず噂を広めてみせる。
評判がよければきっと別の街からもお客が来ることになるだろう。
吾妻に比べると店の規模は2階を含めても半分以下だが、まぁあの二人にはアレくらいの店がいいだろうし。
なにより話題性を呼べそうだ。

レイジ (まぁ、果報は寝てまてですかね?)

俺は満足気味にクリアブルーへと帰る。
完成の暁にはエルフィスさんたちも連れて行ってみたいものだ。



…………。



『同日 時刻20:11 アクアレイク中央区:クリアブルー』


エルフィス 「…そう言えば、リフさんから直々にあなたへと仕事の依頼が来ているわよ?」

レイジ 「え? リフ姉から?」

晩飯も食べ終え、ゆっくりしているところエルフィスさんが思い出し、そう言う。
そういえば、今朝仕事を出すって言っていたな。

エルフィス 「例によってお店で話すって」

レイジ 「わかりました、明日行ってきますわ」

しかし、リフ姉の出す仕事って一体?
リフ姉はいつも内容は現地でってスタイルだから判別できないんだよな…。
少なくとも氷翠ちゃんと羽鵺鵜君は巣立ちさせちまったし、店開ける状態じゃないしな…。

カイ 「…お風呂沸いたよ」

レイジ 「ん? そうか、じゃあ早いが入るかね…」

カイ 「……」

レイジ 「そうだ、カイ」

カイ 「? なに?」

レイジ 「その内、レストランに連れてってやるよ、海辺のちょっと洒落たレストランにな」

カイ 「?」

エルフィス 「?」

俺はそれだけ言って、風呂場へと向かった。
今日はさっさと寝ますかねぇ。



…………。



『翌日 時刻9:15 アクアレイク北西区:吾妻』


レイジ 「…で、仕事ってなんすか?」

リフ 「ズバリこれ!」

俺は朝早くに吾妻に訪ねた。
リフ姉は仕事の内容を聞くと、一枚のチラシを差し出した。

レイジ 「…こいつぁ」

『求ム! 求人!』

求人ポスターだ。
仕事内容:ウェイトレス業務、雑務。
年齢18歳以上60歳以下。
初任給:時給800円。
営業日:毎日
就業時間:午後4:00〜午後10:00まで
働ける曜日はご相談ください。
求人…酒場『吾妻』。
住所アクアレイク北西区レイクリア通り2丁目15番地。

レイジ 「求人のチラシ作ったんですか…」

リフ 「まぁ、今は従業員がいないからねぇ…すぐにでも集めたいし」

レイジ 「それで俺に白羽の矢が立ったと?」

リフ 「あたしも氷翠たちを送り出したのは心から喜んでだけどねぇ…持ちかけたのはアンタだ」
リフ 「責任もって見つけてきな…仕事内容は簡単さ!」
リフ 「このチラシ300枚を全て配り、なおかつその場で戦力になりそうな新人3人獲得してきな!」

レイジ 「3人って…一人増えてますよ…リフ姉さん」

リフ 「それは誰の性だい〜?」

レイジ 「う…俺の性です」

リフ 「期間は3日、頼んだよ?」

レイジ 「3日以内に3人…か」

こいつぁきつそうだ。
早々都合よく3人も見つかるのか?
だが、やらねばなるまい…これがいわゆるオトシマエというやつか?

レイジ 「…早速行ってきます、ここの従業員に炊きかけたのはたしかに俺ですからね…」

俺に責任があるのは確かだ。
しかし、いくら人口の多い街とはいえ、3日で3人も集まるだろうか?
やるしかないんだが…。



…………。



『同日 時刻15:15 アクアレイク中央区』


レイジ 「求人、募集していまーす!」
レイジ 「酒場吾妻にて求人募集していまーす!」

俺はとりあえず中央区でめぼしいやつを見つけるとチラシを渡していった。
…問題は3人も集めることだよな?
すぐに着てくれるような人いるのか…?

セーラ 「ちょっといい?」

レイジ 「はい?」

突然、呼び止められる。
俺は声の方を向くと、そこにはシャワーズ種の女性がいた。
シャワーズ種特有の首もとのシャンプーハットみたいなのと、耳が特徴的だった。
身長は普通に高く160センチくらいはある。

セーラ 「ウエイトレス…すぐにでも雇ってもらえるの?」

レイジ 「!? まさか着てくれるんですか!?」

セーラ 「え? ええ…私も仕事を探していたし」

レイジ 「おっしゃー!! 着いてきて! 店に案内する! 今なら多分100パーセント受かるから!」

セーラ 「え? そうなの…?」

レイジ 「ちなみに、ウェイトレスはやっとことは?」

セーラ 「…ないわ、でも、どういう仕事か位は知っているわ」

まぁ、そりゃ俺も知っているがね。
しかしまぁ、よほどのことがない限り、この人なら採用は確定しそうだ。
少なくとも仕事が出来ない顔じゃない。
まぁ、さすがに氷翠ちゃんと比べるとピッチピッチ感はないが。

レイジ 「住所は北西区レイクリア通り2丁目15番地、場所はちゃんと覚えといてくれよ?」

セーラ 「ええ」

俺は足早に吾妻に連れて行く。
まさか、早速一人目が見つかるとは。

レイジ 「そういやあんた名前はなんていうんだ? 俺はレイジ」

セーラ 「セーラよ、わけあってこの街にずっと滞在しているんだけどね…」

レイジ 「へぇ、てことはここの住民じゃないわけか」

セーラ 「あなたもそうなんじゃない?」

レイジ 「ああ、俺も訳あり滞在している身だ」

さて、そうこうしているうち俺は吾妻まで連れてきたのだった。

レイジ 「リフ姉さん! 早速連れてきたぜーっ!?」

俺は酒場に入って意気揚々と連れてきたことを叫ぶ。

リフ 「へぇ、中々早いじゃないのさ、偉い偉い♪」

セーラ 「あの、セーラといいます、ここで求人をしているとのことで応募にきました」

リフ 「ふーん、セーラっていうんだね? よし、採用!」

セーラ 「え?」

レイジ 「は!?」

なんとリフ姉は名前を聞くといきなり採用してしまう。

セーラ 「あ…あの、面接とかは…?」

リフ 「大丈夫大丈夫、レイジが連れてきたんだ、問題ないでしょ」

レイジ 「いや、しかし一応面接くらいはした方が…」

リフ 「なに? それじゃあんた、問題ある奴連れてきたわけ?」

レイジ 「い…いえ、そんなことは…」

リフ 「じゃ、問題ないわね、はい採用♪ 仕事の日時は後から連絡入れるわ」

セーラ 「は…はぁ…」

レイジ (…やばい、もし問題ある奴を連れてこようものなら…間違いなくリフ姉に殺される…!)

リフ姉…恐ろしい人だ…。



…………。



『再び中央区』


レイジ 「……」

選ぶ時は慎重に選ばねば…。
仕事が出来そうな人間…この中にいるだろうか?

俺は中央区で仕事の出来そうな人間をひたすら探していた。
しかし、どれもこれも疑心暗鬼してしまい、どうにも選べない。
次第に空は暗くなってくるし…。

レイジ 「…今日は休もう、明日回しだな…」

期限は残り二日、あと集めないといけないのは2人、チラシはあと133枚。

レイジ (チラシはともかくなぁ…)

とりあえず飯喰って寝て英気を養おう…。



…………。



レイジ 「うっす、おはよーございまーす」

次の日…とりあえずいつも通り朝起きる。
なにやら…ちょっと店内は忙しそうだった。

エルフィス 「あ…お、おはようございます、レイジさん!」

レイジ 「ど、どうしたんだいエルフィスさん…随分と慌てて…」

エルフィス 「仕事が立て込んでいてね…伝票も溜まってて」

カイ 「…これ、終わりました…」

エルフィス 「あ…ありがと、カイさん…!」

二人がかりでどうやら大量に溜まった伝票を整理していたようだ。

レイジ 「もしかして、徹夜?」

エルフィス 「え…ええ…」

レイジ 「オイオイ…どうして俺を起こさないのさ? 俺だって伝票整理くらいはできるぜ?」

エルフィス 「でも…」

レイジ 「…はぁ、朝飯用意します〜」

エルフィス 「あ、それは私が…!」

レイジ 「伝票整理お願いしまーす」

俺はそう言って台所に入る。



『…そして朝8時』


レイジ 「さって…3日がけの仕事、再開しねぇとな…」

エルフィス 「あの…レイジさん、申し訳ないんだけど…」

レイジ 「はい?」

エルフィス 「この仕事、引き受けてもらえないかしら…?」

レイジ 「仕事って…」

エルフィス 「多分、同時に行えると思うんだけど…」
エルフィス 「ほら、昨日請けた仕事ってチラシ配りでしょ? だからたぶんこれなら…」

レイジ 「て…なにこれ…荷物運び?」

エルフィスさんが渡してきた仕事票はなんと荷物運びだった。

エルフィス 「いつもは海原さんが行っているんだけど、今年は北方の方で仕事が長引いているみたいなの…」
エルフィス 「港でこの仕事票を見せれば、依頼受託になるからお願い」

レイジ 「マジすか…」

荷物運び、何をどこに運ぶか書いているのだが…。

エルフィス 「ごめんね…毎回仕事を貰っている定連さんなの、どうしても引き受けないわけにはいかないから…」

レイジ 「エルフィスさんは…?」

エルフィス 「町役場で来月の聖水祭の打ち合わせがあるから…」

レイジ 「カイは?」

カイ 「エルフィスさんと同席、なんでも私にグアリクス町長さんがお話あるらしいから」

レイジ 「あっっそう…」

当然ながら仕事はあるよなぁ…。
つーか祭り? 聖水祭?

レイジ 「てか、聖水祭ってなに?」

エルフィス 「聖水祭はこの水の街だけのお祭りでね、毎年6月の第3週から第4週にかけて行われる盛大なお祭りなの」

レイジ 「へぇ…なるほどね」

エルフィス 「ごめんなさいね、この時期は街全体が忙しい時期なの」

レイジ 「はぁ…わかりました、行ってきます」

まぁ、チラシは配れるな。
人員の現地確保は速攻で仕事終わらせてからだな。



…………。



レイジ 「…つーわけで、仕事引き受けたわけだけど〜…」

俺は南西区にある大きな港にやってきたわけだが。
貨物船の近くにコンテナが8つ、無造作に置いてますが?

トール 「おう! おめぇがこいつを運ぶのか!?」

レイジ 「? あんたが仕事の依頼人?」

トール 「違う違う! 俺は漁師だ! 漁師のトール! ちなみにそこにあるのが俺の船な」

そう言ってトールというニョロボン種の男は小さな漁船を指した。
なんともご丁寧に大漁の旗が差してある。

トール 「う〜ん、体力はありそうだな!」

レイジ 「あんたも十分だぜ?」

トールという男は漁師らしく、白黒の縞々タンクトップに、ボロボロの長ズボンだった。
身長も俺より高いな、180センチくらいはあるぞ。
そしてなによりガタイがいい、筋肉隆々だな。

レイジ 「はぁ…たく、仕事の依頼人はどこだぁ?」

トール 「そこそこ、そこにいるよ」

? 「あなたが海原さんの代わり?」

レイジ 「え?」

トールって漁師の指した先にはメガネを掛けた黒いスーツ姿の一人の女性がいた。

? 「初めまして、私こういうものです」

レイジ 「えっと何々? 貿易会社リアクター、本社代表取締役社長ネルフ?」
レイジ 「…て、社長さん!?」

いきなり、礼儀正しく名刺を差し出してきた本人はなんと貿易会社の社長さんだった。

レイジ 「あ…えと、何でも屋クリアブルーから来ました、レイジです、えと仕事を引き受けたんですけど」

ネルフ 「失礼ですが、依頼状の方は?」

レイジ 「あ、これですね」

俺はそう言って仕事票を渡す。
社長さんはそれを確認すると。

ネルフ 「はい、確かに弊社が出した物ですね、よろしくお願いしますレイジさん」
ネルフ 「コンテナには番号が振ってあります、地図にどれをどこへ運べばいいか書いてありますからお願いしますね」

そう言って社長さんは地図を渡してきた。
地図にはいくつかバッテンが描いてあり、どこに運べはいいのかがわかった。

ネルフ 「では、私は社に戻らないといけないもので…失礼します」

そう言って社長さんは街の方へと向かっていった。

レイジ 「…えらく若い社長さんだったな…」

トール 「あいつはネルフ、ネオラント種のネルフだ」

レイジ 「ネオラント…ねぇ?」

トール 「12歳の時に会社立ち上げて早6年、でかくなったもんだ」
トール 「今じゃ年商2000億、名実共に世界を股にかける貿易会社になったもんだ」

レイジ 「12歳!? あの娘何歳だよ!?」

トール 「今年で18だったな、はっはっは! 最初は単に外国から珍しい物を持ってきて取引で小遣い稼ぎしていたのになぁ〜」

レイジ 「天才ってやつか…」

氷翠ちゃんたちは19歳でやっと店の立ち上げって時、18歳にて年商2000億を上げる貿易会社の社長さんか…。
世の中何があるかわかったもんじゃねぇな…。

レイジ 「…で、コンテナの運びは?」

俺は地図でどれをどこに運ぶか確認をする。
えと町長宅に2つ、自警団署に3つ。
更に公安庁にも2つで最後、自警団寮に1つ。

レイジ 「なぬっ!? 自警団寮は北西区かよっ!?」

他三つは中央区に位置するが、ひとつだけ自警団寮だけは北西区にあった。
どうしてこんな遠くに寮を置くかね?
寮生活のやつには遠くて敵わんな…。

レイジ 「…大体、あのコンテナ、どうやって運べはいいんだ?」

コンテナは2メートル四方の正方形型で見るからに重そうだった。

トール 「う〜ん、車を使うかサイコキネシスで運ぶかだぜ?」

レイジ 「サイコキネシスは使えねぇ、車は持ってないし、使えない」

トール 「だろうなぁ、車が走るような公道もねえしな」

レイジ 「大抵はどうしているんだ?」

トール 「中身をばらして運んでるぞ、近くにある倉庫にコンテナごと積んでもあるけどな」

レイジ 「コンテナごと運ぶ手段はないか…」

トール 「あるにはあるが…」

レイジ 「あるのか?」

トール 「台車がある、乗せられるだけの大きさもな」
トール 「ただし、本来はこの港内だけでの使用を前提としたもんだ」
トール 「わかっていると思うが、北西部は標高が高いのに大して、この南西部は標高が低い」
トール 「埋め立てをした港内だけなら問題もないが、港の外に出たたちまち上り坂だ、きついぜ?」
トール 「おまけに幅をくうしな、一人で使う物じゃない」

レイジ 「いいよ、それ貸してくれ、早めに仕事を終わらせないといけないんでな」

トール 「…無理だと思うぜ?」

トールという漁師はそう言って、しぶしぶ台車を持ってきてくれる。
台車は荷車式で引っ張るタイプだ。
ただ、馬鹿でかい積み重ねりゃコンテナ2つが乗れそうだった。

トール 「…クレーン車で荷物を荷台に乗せるぞ、どれからいく?」

レイジ 「じゃ、町長宅へのふたつだから…それとそれ頼むわ」

トール 「ふたつ!? そりゃ無茶だ!」

レイジ 「なぁに、なんとかなるさ」

トール 「お前がじゃなくて台車の底が抜ける!」

ああ、そうか…確かに抜けたら困るな…。

レイジ 「仕方ない…じゃ、それを頼むぜ!」

俺はそう言ってコンテナを台車に載せてもらった。



…………。



『同日 時刻16:41 アクアレイク北西区、自警団寮前』

レイジ 「こいつで…最後…!」

俺は最後のコンテナを運び終える。
結局丸一日時間を使う羽目になり、チラシは配り終えた物の人員の確保はまるで出来ていなかった。
ちなみに、コンテナを降ろす際、どうやって降ろすかということで焦ったが根性でなんとかするのだった。

レイジ 「後は台車を返すだけか…」

カイ 「…お疲れさま」

レイジ 「? お、カイ…どうしたんだ?」

カイ 「エルフィスさんに言われて手伝いに来たの…だけど」

レイジ 「ああ…終わったぜ」

カイ 「…信じられない」

レイジ 「なんとかなるもんさ」

カイはもう全て運び終えたことが信じられないらしい。
後は台車を返すだけだ。

レイジ 「来るか?」

カイ 「…うん」

俺はちょっと足早に台車を引いて港を目指した。
カイも隣を足早に追っている。

レイジ 「エルフィスさんはどうだ?」

カイ 「エルフィスさんはまだ会議中」

レイジ 「そうか…しかし、なんでエルフィスさんが?」

カイ 「エルフィスさん、今年の聖水祭の執行委員長だから…」

レイジ 「へぇ…」

カイ 「ねぇ…こっちからも質問していい?」

レイジ 「なんだ?」

カイ 「どうして、助けてくれるの?」

レイジ 「そりゃ、居候もしているしなにより、金がいるからな…」

カイ 「でも、エルフィスさんに聞いたら、もっと稼げる仕事はいっぱいあるって」

レイジ 「一食の恩だよ」

カイ 「それでけで?」

レイジ 「俺にとっては命の恩人だ、お前もな」

カイ 「……」

カイはそれっきり黙ってしまう。
そういえば、俺はカイのこともよく知らないな。
というか、この街のことはまだまだほとんど知らないんだよな。

レイジ 「1ヶ月前から準備とは盛大な祭りなんだろうなぁ…」

カイ 「祭りっていっても仕事はあるみたい…」

レイジ 「そりゃそうだろうなぁ…」

俺は荷車を引きながら台車を返すと、再び人員確保へと動くのだった。








To be continued
















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