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水の街-Fate of aqua-



第5話 『暑いね』




『6月第3週 聖水祭前日 時刻10:15 町長宅 別館』


レイジ 「呑気屋さーん! 機材入りまーす!」

シルク 「はいは〜い♪ 毎年ありがとね〜♪」

レイジ 「……て、アンタは」

シルク 「へ? あれ、アンタ吾妻のお手伝いさん?」

レイジ 「えと……呑気屋の方ですよね?」

シルク 「え? あ、うん、えっとこっちね」

毎年行われる世界的大イベント聖水祭、グランブルー国内どこでもこのお祭りはやるそうだが、このアクアレイクのは特別気合いが入っているように思えた。
元々町民そのものがお祭り好きなのもあるだろうが、1ヶ月前から準備を始める熱気は並々ならぬ物に感じたのだ。
そしてそんな中毎年請け負っているという呑気屋の機材の搬入を行うと、以前吾妻で酒を受け取りに来たお嬢ちゃんと再会を果たすのだった。

シルク 「…あなた、クリアブルーの従業員だったの?」

レイジ 「まぁな、てか嬢ちゃんが呑気屋の代表者?」

シルク 「そうよ、ただし出張店の方はね。本店呑気屋の方にも人材が必要だから私がこっちの責任者」

レイジ 「ふ〜ん、何やるんだ?」

シルク 「去年と同じくラーメンと焼き飯」

ラーメンと焼き飯か、結構凝っているな。

シルク 「さぁって今年も壁側! いっちょやりますかね!」

レイジ 「壁側だといいことあるのか?」

シルク 「ん? いや、コ○ケだと壁側は人気サークルの証だし?」

レイジ (聖水祭にその理論当てはまるのか?)

さて、そんなこんなで俺は呑気屋の受注で運び込んだ鍋やらなんやらを運び終えるのだった。
ちなみに、毎年呑気屋の仕事はウチが請け負っていたらしく、今年も来たようだ。
去年まではエルフィスさんたちが運んでいたそうだけど、今年はエルフィスさんは聖水祭の執行委員長を務めており、中々忙しく仕事に出向けない。

シエラ 「あら? ふふシルクちゃん、聖水祭も任されるようになったのね」

レイジ 「?」

突然、一人の女性が歩みよって来る。

シルク 「あ、シエラさん。どーもでーす♪」

レイジ 「シエラさん?」

シエラ 「こんちにはあなた…レイジさんよね?」

レイジ 「え、あ、はい……て、なんで俺の名前を?」

シエラ 「ウチの常連に地獄耳がいてね。あなたのこと噂程度に聞いていたわ」

シルク (ララね……)

レイジ (噂が流れる……て、そんなたいしたことしたかぁ?)

俺はこれまでの行動をよぉく考えてみるが、ここ最近で言うと吾妻関係で世話やいたこと位しか思いつかんのだが?
ちなみにこの女性ジュゴン種のようで身長160センチほど、とても綺麗な女性で思わず見惚れてしまいそうな綺麗な黒い瞳をしていた。
風に靡く白い髪はまるで潮風に靡く波のようで大人の女性だと認識させられる。

シルク 「シエラさんの所は今年も?」

シエラ 「ええ、ドリンクOnlyね。はい、お裾分け」

シルク 「あ、ありがとー♪ シエラさん♪」

シエラ 「レイジさんもどうぞ♪」

レイジ 「え? あ、ありがとうございます」

シエラさんは俺がいることを見越してやってきたのか缶ジュースを2本持ってきていた。
俺は折角なのでありがたくいただいて、缶を開け飲んでみるとなんてことのないソーダ水だった。
しかし、シルクちゃんはさも美味しそうに飲んでいるのだった。

シルク 「ぷはぁ! あんがとねぇーシエラさん!」

シエラ 「ふふ、今年もよろしくね」

シルク 「ええ! 聖水祭成功させましょう!」

レイジ 「ちなみにーシエラさん、お仕事は?」

シエラ 「主人と一緒にバーを営んでおります♪」

レイジ 「あ、既婚者っすか」

シルク 「なぁにぃ? ふふ、もしかして期待しちゃっているの〜?」

レイジ 「あ、いや、違うっての!」

リフ 「あっはっは! やってくれるねぇレイジ!」

レイジ 「て、あら? リフ姉?」

シエラ 「あら、リフさん?」

リフ 「こんにちわ、シエラさん」

レイジ 「あれ? リフ姉知り合い?」

リフ 「そりゃ、一応商売敵になるからねぇ」

レイジ 「商売敵?」

シエラ 「同じアルコール取り扱いのお店ですからね」

リフ 「あんたんところはバー、ウチは酒場だけどねぇ」

シルク 「あのーそれよりリフさん、今年もしかして吾妻も参加ですか?」

リフ 「ああ、あたしゃ参加するつもりはなかったんだけどねぇ……薦められちまってねぇ」

レイジ 「薦められたって誰に……て、あ」

リフ姉が頭を掻いて面倒くさそうにしていると、後ろから最近見てない二人がやってきた。

氷翠 「皆さんこんにちわ、今年より出展させていただくDearsの氷翠です」

羽鵺鵜 「同じく羽鵺鵜です」

リフ 「こいつらに誘われたのさ。可愛い昔の従業員に誘われて嫌とは言えんでしょ?」

シルク 「あはは、な〜る」

レイジ 「リフ姉、もしかして初参加なの?」

リフ 「そうだよ、去年までは吾妻の方で店開いていたからねぇ」

なるほど何となくイメージができるな。
しかしリフ姉ならお祭りは好きかと思ったんだがな……。

レイジ 「ちなみにメニューは何を出す気で?」

リフ 「ウチは鉄板焼きだよ。焼きソバもやるけど」

レイジ 「羽鵺鵜君たちは?」

羽鵺鵜 「店ではおなじみのピザにパスタ、あとクレープもやります」

シルク 「おお〜珍しく……ていうか参加者唯一の洋風? やってくれるねぇ」

シエラ 「毎年出展されるのは中華系多かったですからねぇ」

レイジ 「のわりに肉まんとかはないよな?」

リフ 「そうだねぇ今度やってみるか?」

レイジ (本気か?)

シルク 「ま、それはそうと明日は皆さんよろしくお願いしまーす!」

シルクちゃんの一声でみんなお辞儀する。
よくわからんがまぁ分かっているのは次の仕事に取り掛からんといけないということだ。

レイジ 「んじゃ俺はもう帰りますんで、あと呑気屋は明日までに納金おねがいしまーす」

シルク 「はいはーい! 明日楽しみなよー!?」

レイジ 「おう!」

俺はそう言って町長宅の別館の仮設屋台場から離れる。
祭りは嫌いじゃない。
とはいえ、俺の人生経験上祭りといえば楽しむのではなく絶好の稼ぎだった。
ところがどっこい今年に限り店長が……。

(エルフィス 「明日はお休みよ、カイさんと一緒に楽しんで♪」)

てーことになって、明日カイと一緒に祭りをまわることになった。
どうにも祭りを見てまわるっていうのには慣れない。
祭りは旅には重要な稼ぎの場所なんだよな…。

レイジ 「はぁ…できるだけ早く稼ぎたいってのになぁ…」

カイ 「どうして?」

レイジ 「――ってのぉ!? か、カイ!?」

突然、真横からカイが顔を覗かしてくる。
あまりに突然のことだったんで、心臓もバクンバクンだ。

カイ 「ねぇ、どうして?」

レイジ 「どうしてって……何がだ?」

カイ 「早く稼ぎたいって……どうして?」

レイジ 「そ、そりゃ旅を再開するためだよ……」

カイ 「旅……」

別に俺は永住するためにこの街にやってきた訳じゃない。
旅の中金がなくなって腹減りで倒れたところをエルフィスさんたちに拾われた。
その恩は出来るだけ早く返したい。
そして自分の旅を再開したい。
そう、『守るべきもの』を見つける旅に……。

カイ 「旅って楽しい?」

レイジ 「うん? そうだな……俺の場合は楽しいって旅じゃないな、辛いことの方が多い」
レイジ 「だが旅を楽しむ奴だっているな、旅行って言葉もあるし。だが、なんでそんな事を?」

カイ 「……私はこの街から出てはいけないらしいの。だから旅ってしたことがない」

レイジ 「出てはいけないってなんじゃそら……まぁいいか。で、エルフィスさんは?」

たしか、カイはエルフィスさんと一緒に明日の聖水際の打ち合わせに参加していたはずだが?

カイ 「エルフィスさんはもう少しかかるそうで、お昼ご飯は外食してって」

レイジ 「ん? そういやもうそろそろ昼か」

カイ 「これをレイジに知らせにきた」

レイジ 「なーる、んじゃどっかで飯にするか?」

カイ 「うん」

そういうことならどっか外食できる店を探すしかないな。
戻ったら食えそうな気はするがどうするかね…?

レイジ 「行くだけ行ってみるか、カイ別館の方行くぞ」

カイ 「うん、わかった」

俺は来た道を戻り、何か食えないかと探ることにした。



ジュワァァァァァッ!

カイ 「…? 何の音?」

レイジ 「油でなにか炒める音だな……どこだ?」

別館に戻るとなにやら良い匂いと油で何かを炒める音がした。
どこの店がやっているのかと思ったら、呑気屋の出店のようだった。

レイジ 「よお、何作ってるんだ?」

シルク 「あれぇ? 帰ったんじゃなかったの? まぁいいわ、焼き飯作ってるんだけどあなたたちも食べていく?」

レイジ 「おっ? いいのか、じゃあもらうぞ」

俺は貰えるのなら貰っておく。
シルクが作っていたのは香ばしい香りのする焼き飯だった。
ガスコンロの火で中華なべを温め、重そうな中華なべを振って焼き飯を炒める。
こいつ……かなりつわものだな……。

レイジ 「しかし、結構な量炒めてるな……何人前だよ?」

シルク 「6人分。私にシエラさんリフさんそれに氷翠さんと羽鵺鵜さんで多めに作って6人分」

ほぅ、この料理人面子で昼飯代表で作っているわけか。
学生のようだが大したもんだな。

リフ 「う〜ん、でもそこの2人分も含めるとちょっと足りないねぇ……よし!」

リフ姉はそう言うと出店の鉄板に火を入れ、油を塗りながら中華ソバを用意する。

レイジ 「リフ姉、焼きソバ?」

リフ 「ああ、だってアンタらも食べたら足らないでしょ? ついでだよ」

シエラ 「皆、飲み物なにがいい?」

シルク 「あ、あたしソーダで!」

リフ 「酒……はいけないから、麦茶でいいよ」

羽鵺鵜 「僕はミネラルウォーターで、氷翠はフルーツジュースを」

シエラ 「はいはい、クリアブルーのお二人は?」

レイジ 「なににする?」

カイ 「なんでもいい、レイジが決めて」

レイジ 「ああ……んじゃ、麦茶2つ頼みますわ」

シエラ 「ほーい」

注文を聞いてシエラさんは次々とクーラーボックスから飲み物を取り出し配っていく。

レイジ 「ほい、カイ」

カイ 「ありがとう」

俺はカイの分の麦茶をシエラさんから受け取ってそれを隣に座るカイに渡した。

シルク 「ほーい、おまたー♪ シルク特製焼っき飯〜♪」

シルクの持つ中華なべからなにやら異様なほど食欲をそそるいい匂いがする。
シルクは紙皿に焼き飯を盛っていき、それを配っていった。
そしてそれが終わる頃にはリフ姉が焼きソバを完成させた。

リフ 「こっちも完成だよ〜♪」

カイ 「いい匂い」

レイジ 「おう、さすがだな!」

同じ紙皿に盛られた焼きソバが全員に配られた。

レイジ 「ほんじゃいっただっきまーす!」

俺は割り箸を使って焼き飯を頬張る。
口の中に香ばしい香りと、濃い味付けが広がった。

レイジ 「おっうめぇ! やるなアンタ!」

シルク 「へっへ〜ん♪ 当たり前よ! 伊達にコック志望で何年も頑張ってないんだから♪」

氷翠 「凄いね羽鵺鵜君」

羽鵺鵜 「うん。その歳でこんな料理が作れるなんて本当にすごいよ」

シルク 「やだなぁ〜もう、皆褒めすぎだよ〜♪」

シエラ 「謙遜しなくてもいいわよシルクちゃん。あなたはもう十分な腕を持った料理人なのだから」

シルク 「えへへ……ありがとシエラさん」

シルクは頬を赤らめてそう言う。
俺はこいつのことはよく知らないが料理の腕は確かに一流だな。
色んな国や地域を回ってきたがこんなに美味い焼き飯を食ったのは初めてだ。
というか、この街は食い物に関しては世界一だな。
何でも食えるし料理も美味い。

リフ 「やるねぇさすがアクアレイク一の売り上げを誇る食堂呑気屋だねぇ……こりゃこっちもうかうかできないねぇ」

シエラ 「そうねぇ確かに呑気屋にはお客取られているしねぇ」

氷翠 「そうなんだ、知ってた羽鵺鵜君?」

羽鵺鵜 「ううん、知らなかった」

レイジ 「なんだそんな有名店でお前料理人やってたのか?」

シルク 「ううん、私は単なるウェイトレス。料理人じゃないわ」

レイジ 「あん? でもこの料理が出来て……」

シルク 「色々事情があるのよっ!」

シルクは下を向いて少し悲しそうな顔をしながらも強くそう言って会話を切った。
俺は何も言えず押し黙った。

カイ 「ごちそうさま」

レイジ 「――て、カイもう食ったのかよ!?」

気がつくと既にカイが焼き飯と焼きソバを完食していた。
そういやカイの奴食べるのが異様に早かったな。
無駄口を一切叩かない奴だから、食べる早いんだよなぁ。

レイジ 「んぐんぐ! ご馳走さん!」

俺はカイに合わせて急いで食べ終える。

シエラ 「あらあら、そんなに急がなくてもいいでしょうに」

レイジ 「い、いえいえ……カイだけ待たせるわけにはいきませんから」

俺はウーロン茶を飲み、一息つく。

レイジ 「で、代金は?」

リフ 「ウチはタダでいいよ」

シルク 「こっちもいいですよ!」

二人は快く、タダでいいという。
なんだか少し怖いが、この好意は素直に受け取ることにした。

レイジ 「んじゃお言葉に甘えますわ、明日期待してますよ!」

シルク 「まっかせなさい!」

羽鵺鵜 「明日来てくださいね」

シエラ 「ふふふ、またね」

俺は立ち上がるとそう言って皆さんと別れる。
カイを連れるとちょっと急いで午後の仕事へと急ぐのだった。



――そして次の日。


『6月第3週 時刻06:00 リブルレイク自然公園』


レイジ 「……ふあぁぁあ!」

俺はエルフィスさんに連れられて朝早くに南東区のリブルレイク自然公園にやってきた。
なんでもこんな朝早くに聖水祭は始まるらしい。
この日だけはもうすぐ7月だというのに異様な寒さがあり、半袖では凍えそうだった。

レイジ 「一体何が始まるんすか?」

俺はエルフィスさんに小声で聞いた。
目の前には大きな湖があり、その湖の周りには観光客も含めて大勢のポケモンたちで埋め尽くされていた。

エルフィス 「大いなる海そして恵まれた雨に感謝し、また今年の豊かな自然を迎える儀式よ」

レイジ 「儀式?」

すると……突然公園に霧が立ち込め始めた。
俺は思わず身震いをする。
エルフィスさんはというと、特に寒そうにはしておらず霧の立ち込める湖を見ていた。

レイジ 「一体……え?」

突然霧の中、湖の中央に一人の巫女服の女性が立っていた。
顔は分らなかったが、なんだかその場の雰囲気にもあってとても美しく見えた。

巫女服の女性は湖面に立っており、この霧も相まってそれが神秘性を高めているんだろう。
妙に腕の部分が垂れておりそれが独特の雰囲気を持つが、種族的特徴だということも後々気づく。

レイジ 「一体なにを……踊り?」

突然巫女服の女性が湖面で踊り始めた。
その踊りは大変美しく、腕から垂れた裾が時折湖面を跳ねて、水しぶきを上げる。
踊りは30分ほど続き、踊りが終了すると天を仰ぎ、巫女服の女性が喋リ出す。

若菜 「おお、豊かなる海よ、今年もこのアクアレイクに安らかな自然の恵みを与えたまえ!」

グアリクス 「それでは、今年のアクアレイク聖水祭を開催します!」
グアリクス 「皆さん、どうぞお楽しみください!」

ワァァァァァァァァッ!
パチパチパチパチパチィ!

グアリクス町長より正式に聖水祭の開始が宣言される。
それにより一気にこの湖に集まった観客が沸いた。

エルフィス 「それじゃ、私は行くところがあるから、今日はカイさんと一緒に楽しんでね?」

レイジ 「はぁ」

エルフィスさんはニコっと笑ってそう言うと杖を持って中央区の方へと歩き始めた。
俺はとなりにいた、カイをつれてとりあえず自然公園を出るのだった。

カイ 「すごいね」

レイジ 「? なにが?」

いきなりカイが脈絡なく喋る。
主語がなけりゃわからんっての。

カイ 「にぎやか」

レイジ 「そりゃいつもだろ……て、お前アクアレイク以外知らないんだったな」

アクアレイクは365日毎年にぎやかだ。
祭りの分朝早くからいつも以上ににぎやかだが、それもこの街ならではだろう。
この街しか知らないカイにはいつもが普通だから、これくらいでないとにぎやかと感じないのかもしれないな。

レイジ 「どこいく?」

俺はそう言ってカイの行きたいところを聞く。
だがまぁ、俺の予想通りの答えがカイからは帰ってきた。

カイ 「どこでもいい」

レイジ 「言うと思った」

俺は予想通りのカイの答えにある意味呆れを覚える。
カイはどうにも、自分で考えるのが苦手みたいだ。
自分で考えないわけじゃないが、どうも誰かを頼りたがるんだよな。

カイ 「どこに向っているの?」

レイジ 「どこだと思う?」

カイ 「……中央区?」

レイジ 「せーかい」

俺はそう言ってカイをつれてリブルレイクをでると、イーストアチア通りからテラアチア通りを経由して、中央区へと入る。
途中、アクアレイクを横断するテラアチア通りでは、まだ朝早く店などは開いていなかったがすでに露店の用意はある程度済んでいるらしかった。
カイはキョロキョロとその様子を興味深そうに眺めていた。
まだこの通りは人並み少なく、アクアレイクの大通りでは珍しく歩きやすく、カイと一緒に歩くのは少し楽しかった。

アクシス 「マナフィ!」

レイジ 「まぁ〜た、現れやがった……」

カイ 「?」

いつもの甲高い声がまだ静かなアクアレイクの街に響く。
丁度中央区に差しかかろうという時だった。

レイジ 「どこだ、アクシス!」

俺はアクシスを探しながら叫ぶ。
すると、突然目の前に何かが落ちてきた。

アクシス 「ここ、ここ!」

アクシスは俺の目の前に降り立つと満面の笑みで俺の顔を覗き込んできた。

レイジ 「お前どこから?」

俺は上を見上げると……白い塔が聳え立っていた。

レイジ 「まさか……な?」

俺はさすがにそれはないとその真相を封印する。

カイ 「この娘は?」

レイジ 「アクシスだよ、よくわからんが俺を誰かと勘違いしているらしい」

カイ 「アクシス?」

アクシス 「……ガーヴ」

カイ 「?」

アクシスはカイを見ると睨みつけるとまでは言わないが、すこしきつい目つきでカイを見た。

アクシス 「離れて!」

カイ 「きゃっ」

レイジ 「うおっ!」

突然アクシスはカイを突き飛ばすと俺の横を奪うようにカイと俺の間に立った。

レイジ 「! おい何するんだアクシス!」

俺は少し怒り気を込めてアクシスを睨む。
カイに対してのアクシスの行為はあまり好ましくはなかった。

アクシス 「マナフィから離れて! あなたマナフィ不幸にする!」

カイ 「? ???」

レイジ 「わけのわからないことを言うなアクシス!」

俺はアクシスを一喝する。
アクシスが何故カイにこのような悪態を働くのかは分らないが、俺にはアクシスの悪態が許せない。

アクシス 「マナフィ……」

レイジ 「何度も言わせるな、俺はマナフィじゃない」

アクシス 「どうして……ガーヴと一緒に居てもマナフィは不幸になるだけなのに」

レイジ 「俺はレイジだ! そしてカイ! 誰と間違えているのかは知らないがこれ以上俺たち引っ掻き回すな!!」

俺は怒声を上げてアクシスを怒った。

カイ 「ガーヴ……私はカイ。ガーヴって人じゃないわ」

アクシスは少し悲しむように俺を見て、俺から離れる。

アクシス 「マナフィ……そのポケモンと関わってはダメ……そのポケモンはマナフィを不幸にするから」

レイジ 「訳のわからないことを言うな。後俺はレイジだと何回言えば覚える」

アクシスの言動には意味深さを感じるが、その言動のほとんどは理解に苦しむ。
アクシスには未来でも見通すことが出来るというのか?

レイジ 「消えろアクシス、このままじゃお前が不幸を呼ぶ」

アクシス 「……」

俺はどうしてもアクシスを許すことはできない。
俺はアクシスに冷たく言い払いアクシスを追い返した。
アクシスは悲しい顔をしてその場を走り去るのだった。

カイ 「レイジ?」

レイジ 「行くぞ、カイ」

カイ 「……うん」

カイは不安そうに俺の顔を見つめていたが、俺の言葉に納得して俺と一緒に歩き出す。
終始チラチラとカイは俺の顔を見たが、その時の顔はずっと不安そうだった。
俺は何もカイに言葉をかけてやることが出来ずただカイの不安を煽ってしまうことしか出来なかった。

レイジ (くそ……なんなんだよ、アクシスの奴。嫌がらせか?)

カイはそれほど気にしてはいなかったようだが、俺は十分気にしてしまった。
カイが俺を不幸にするから、近寄るなだと?
ふざけるな……たしかに人それは時として人不幸にしてしまうことさえある。
だがカイは同じ店で働く仲間だ、仲間と共に働けないなんてそれはアクシスの言うそれ以上に不幸ではないか。
何故アクシスはあんな動揺を誘うような発言をしたのか。

今までアクシスを変な奴とは思ったが、悪い奴とは思ったことがなかった。
それだけに今回の一件には幻滅した。

カイ 「私がレイジを不幸にするの?」

レイジ 「そんなわけあるか、あんなものアクシスの讒言(ざんげん)だ」

カイが俺を不幸にするなんてとても思えない。
第一もしそれが本当だとしてもそれをなんの気兼ねもなくカイに言うあいつがそれ以上に許せない。

カイ 「でも私、レイジを不幸にしてしまった」

レイジ 「なんでそうなるんだよ?」

カイ 「レイジ、機嫌が悪いでしょう? 私の性で」

レイジ 「? それはカイの性じゃないだろ!」

カイ 「一緒、だよ……。確かに直接的にはあの娘の性かもしれない」
カイ 「でも、私が居なければあの娘はあんなこと言わなかった……だったらその責任は私にもあるんだよ」

レイジ 「……そんなの」

カイ 「折角のお祭りなのに不機嫌そうな顔をするのって……それってやっぱり不幸でしょ?」

レイジ 「……カイには敵わないな」

俺はそう言って呆れるようにため息をつく。
正直カイにそんな考え方ができるなんて意外だった。
カイにはもっと単純な思考しかできないと思っていたからだ。
でもカイは俺なんかじゃとても想像が出来ないような複雑な思考をしていたんだ。

レイジ 「ふ、これでいいんだろカイ?」

俺はカイに笑ってみせる。
するとカイもニコッと笑って見せた。

レイジ 「カイ、行きたい所あるか?」

カイ 「どこでもいい、レイジが行きたい場所が私の行きたい場所」

レイジ 「んじゃ……町長宅の別館行くか?」

カイ 「……うん♪」

カイは見たことの無いくらいの笑顔を俺に見せてくれた。
カイは決してお祭りを楽しむタイプではないし、こういった感情を表に出すタイプでもない。
でもカイはずっと気にしていたのかもしれない。
自分が周りに与える影響を。

カイの笑顔をそのものだって俺はほとんど見たことはなかった。
なのに今カイは俺のために笑顔を見せてくれている。
俺の不機嫌そうな顔を見たくないからカイは笑顔なんだ。
そんなカイを見て俺は不機嫌そうな顔を見せられそうにはなかった。

カイ 「……あ」

レイジ 「別にいいだろ?」

カイ 「うん……」

俺はそっとカイの手を握った。
カイは困ったようにか細い声を上げて小さくこっくりと頷き握り返してきた。

少し嬉しいような……困ったような。
気がつくと気温が徐々に上昇してきて、初夏の雰囲気を出しておりカイの手を握る中の温度はむしろ暑く汗ばむほど。
だけど、俺はカイの手を離さない。
同様にカイも俺の手を握っていた。
別に互いが好きなわけでもないのに、まるで恋人同士のように繋がった俺たちの手。
はたから見れば不思議かもしれない。
はたから見れば羨ましいかもしれない。

レイジ 「暑いな……」

カイ 「うん」

レイジ 「でも、もっとこれからもっと暑くなるんだよな」

カイ 「うん」

レイジ 「暑いな」

カイ 「二度目」

レイジ 「そうだな」

カイ 「うん」

俺たちは他愛の無い会話をしながら街を練り歩く。
日も昇り、商店も続々と開いて賑わいを見せている。
俺はカイの不安な顔を見たくは無い。
カイは俺の不機嫌な顔を見たくは無い。
だからかもしれない、俺たちは手を握り合った。
お互いの笑顔のために……ずっと。

レイジ 「腹……減ったな」








To be continued
















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