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POCKET MONSTER RUBY



第3話 『天下無双のお人好し』




ハルカ 「勇気リン!リン! 元気ハツ!ラッツー! …以下略」

私はどこぞアニメ主題歌を熱唱しながら、森の中を歩いていた。
時刻は午前7時。
結局、昨日はまたトウカで泊まる事になったからなぁ。
とりあえず、当面の目的であるカナズミシティに行くため、この森を抜けようと思うところだ。
で、ここでの問題は…。

ハルカ 「…虫、多すぎ!!」

ジグザグマ 「ジグジグ…」

予想はしていたけど、ここまで多いとは思わなかった。
ちなみに、今まで野生ポケモンと30戦ほどして、その比率は…。
虫8、ジグザグマ1、スバメ1!!
他にもポケモンがいそうな感じだけど、今の所はこんな物だった。
その間、ジグザグマも色々ボールやら薬やら拾ってきてくれた。
ただ、見たこともない道具が多く、かさばっていくのも問題だった。
ちなみに、新しいポケモンはゲットしていない。
が、その代わりと言っては何だが、ケムッソがカラサリスに進化した。
そして、それは今から1時間前にさかのぼる。



………。
……。
…。



ハルカ 「今日中に抜けられるといいんだけど…」

正直ここで野宿はきつい…『むしよけスプレー』でも持っていればよかったかもしれない。
幸いアチャモのおかげで、大分苦労はない。
どんな虫が出てきても炎で一掃してくれる。
たまに木が燃えて、かなり焦ったけど…新人のキャモメがそこは活躍してくれた。
火の(ポケモン)用心は怠らないように…ちゃんと水(ポケモン)を用意しましょうね♪

ハルカ 「にしても、気が付いたらアチャモとジグザグマばっかり育ってるなぁ」

ジグザグマ 「ジグ?」

元々、最前線で戦っているので当然といえば当然だけど。
ただ、実の所問題は、タネボーとアメタマにあった。
この二匹…かなり戦えない。
よって前線に出すも、ここのポケモンは今までよりちょっと強く、途中で交換することがほとんどだった(特にタネボー)
しかしながら、ちょっとでも戦闘に参加すれば、若干だが成長している模様…。(多分)
それを信じながら、ケムッソも含めた、タネボー、アメタマの3匹は、めっきり戦闘に出るだけで、アチャモ、ジグザグマ、キャモメが仕留めていることが多い。
後述の3匹は、すでに十分に強くなっているので、この森のケムッソやジグザグマはほとんど一撃。
新しい技も覚えたりと、好調子ではある。
ジグザグマが『ずつき』を覚え、キャモメは『ちょうおんぱ』を覚えた。
対して、肝心のタネボーはやっと覚えたのが『せいちょう』…攻撃技じゃないぢゃん。
アメタマは何とか『でんこうせっか』を覚えてくれるが、イマイチ攻撃力が低い。
そして…。

ハルカ 「今だ幼虫のケムッソか〜…」

技は『どくばり』を覚えたのだけど、どうにも戦いがきつい。
努力の甲斐あって、何とかひとりでも戦うことができる。
とりあえず、今は最優先で戦わせている。

ガサッ!

ハルカ 「?」

ジグザグマ 「ジグ…」

ガサ、ガササ!

近くで何か物音が聞こえる。
距離はおよそ周囲5メートル。
森の中といっても日差しは入ってくるので視界はそんなに悪くない。
ジグザグマが警戒するが、私はそれを制して、ケムッソを先に繰り出す。

ハルカ 「ジグザグマは退がって! ケムッソ、頼むわ!」

ジグザグマ 「ジグ…」

ケムッソ 「ケム…」

ケムッソは鳴き声をあげながらも、どうにもぼ〜っとしている。
やっぱり不安なのよね。

? 「マユマユ…」

ハルカ 「…あれ?」

見ると、見たことのないポケモンが出てきた。

ポケモン図鑑 『マユルド:さなぎポケモン』
ポケモン図鑑 『高さ:0.7m 重さ:11.5Kg タイプ:むし』
ポケモン図鑑 『マユルドの体は口から出した細い糸が体を包み、硬くなった物。繭の中で進化の準備をしている』

ハルカ 「あれ…これってケムッソの進化系だ」

ふと、進化ルートのデータに目が行く。
ってことは、私のケムッソもこれになるわけかぁ…ならゲットしなくてもいっか。
私はそう思い、ケムッソにすかさず指示を出す。

ハルカ 「ケムッソ、『どくばり』!!」

ケムッソ 「ケム」

ヒュヒュッ!

ケムッソの小さな口から細い針がいくつも発射される。
そして、マユルドの体に全てが直撃する。
が。

マユルド 「マユ〜」

全く効いてないご様子…結構丈夫ね。
だが、相手は反撃する気配を見せない。

ハルカ 「…やる気あるのかなぁ?」

マユルド 「マユ〜」

私はとりあえずケムッソに攻撃させる。

ハルカ 「ケムッソ、『たいあたり』よ!!」

ケムッソ 「ケム…」

ケムッソはどうにも気合の入らない鳴き声でマユルドに突っ込んでいく。
が。

ドカッ!

ケムッソ 「ケ、ケム?」

ハルカ 「うっそ、硬い!?」

マユルド 「マユ〜」

マユルドは全く効いていないご様子だった。
いくらなんでも硬すぎでしょ…さすがは進化系。

ハルカ 「ん? まさか…」

私はピンと来て、図鑑を見る。
そして、確信した…。

ハルカ 「硬くなってるー!?」

そう、マユルドの技『かたくなる』だ。
しかもそれしかない御様子…守るだけで消耗戦仕掛ける気?
だが、私はムキになってケムッソに指示を出す。

ハルカ 「勝つ気のない相手に負けてられないわよ! ケムッソ、『どくばり』を連発して!!」
ハルカ 「さすがに毒になれば硬くてもいつかは倒れるわ!」

ケムッソ 「ケム…」

ケムッソはこれでもかと言うほど毒『どくばり』を繰り出す。
マユルドもそれに合わせてひたすら硬くなっていく。
『どくばり』のダメージは、どうやら虫タイプには効果が元々薄い模様…なるほど。
しかし、その意味はあり、マユルドは毒に犯される。

マユルド 「マ、マユ〜…」

マユルドは鳴き声をあげて、ダウンする。
かなりの時間がかかったけど、どうにか勝つことが出来た。

ハルカ 「ふぅ…苦しい戦いだったわ、私をここまで追い詰めるなんて…」

どこぞのアメリカ被れの格闘家の決め台詞を真似てみる…いつもながら、笑わせる台詞だわ。
何せ、どんなに楽勝で勝っている試合でもこの台詞を吐くのだから、見ている方としては面白いことこの上ない。
しかしながら、それで負けている相手は相当の精神ダメージがあると思われる。
一応、意味はあるんだろうと思っておく。
そんなことを考えながら、私はケムッソを見てみる。

ハルカ 「あれ? ケムッソは?」

見るとどこにもいなかった。
しかしながら、ケムッソがいたであろう、その場所は…。

? 「サリサリ…」

ハルカ 「…誰?」

私は目を丸くする。
見ると、何となくマユルドに似ている。
私は、とりあえず図鑑で見ることに…。

ポケモン図鑑 『カラサリス:さなぎポケモン』
ポケモン図鑑 『高さ:0.6m 重さ:10.0Kg タイプ:むし』
ポケモン図鑑 『落ちないように糸を枝に巻きつけて、体を支えながら進化を待っている。小さな穴から外の様子を伺う』

ハルカ 「…ケムッソの進化系?」

カラサリス 「サリサリ…」

見ると、間違いなくあのケムッソの風格が漂う…このおっとり感。
私は、どうにも腑に落ちない。

ハルカ 「…マユルドとカラサリスのどちらかに進化するの?」

カラサリス 「サリ?」

カラサリスは?を浮かべ、いつものおっとり感全快で佇んでいる。
私はとりあえずボールに戻した。

ハルカ 「…どうなってるんだろう? まぁ、いっか」



………。
……。
…。



…とまぁ、こんな感じで進化に至ったわけよ。
で、私はとりあえず進化を心の中で喜びながらカナズミシティを目指していた。

ハルカ 「…?」

ジグザグマ 「ジグジグ」

しばらく歩くと、前方に変な男がいるのに気がついた。
…と言っても、オダマキ博士の例もあるから、油断は出来ない。
その人は、全身真緑のスーツでぴっちり固め、はたから見るとどこにでもいそうな会社員と言った感じね。
何かを探しているようにその辺りをうろうろしながら、草むらの影とかを念入りに探していた。

ハルカ (例によって、あんまり関わりたくはないわね…)

等と思うが、どうせ巻き込まれるであろうと心の中では確信していた。
私って、運がないから…多分。
さて、そんなことを心の中で言っている内に、気がつくと男との距離は縮まっていた。
とりあえず、私は無視する方向で。

変な男 「あ、ねぇ、そこの君」

ハルカ 「……」

あっさり…声をかけられてしまった。
予想を裏切らないのはある意味立派だ。
しかしながら、私は明らかに嫌そうな顔をしたであろう…。

変な男 「この辺に、キノココって言うポケモン見かけなかった?」
変な男 「おじさん、あれ好きなのよね」

ハルカ 「キノココ?」

とりあえず知らない言葉が出てくる。
少なくとも出会ったことはない。
ということは、ここで出てくるのだろうか?
私は少しここで特訓でもしようかと思っていると。

? 「いつまで経っても来ないから、わざわざ来てみればいつまでもこんな所でうろうろと…」

突然男の後ろ(恐らくカナズミ側)から、不思議なコスプレ(?)をした変な男が出てくる。
歳は割と若く、20代位の男だと思うが、いい年こいてコスプレ?
って言うか、そうでなかったらあれも制服の類?
趣味悪ぅ…私はそう思いながら、とりあえずさっさとこの場を退散したいと思った。

変な男 「な、何だ君は!?」

? 「さぁ、おとなしくその荷物を渡してもらおうか!」

どうやら、山賊の類らしい…それともただの盗賊?
どっちにしても、とりあえず穏やかではないようだ。
私ははぁ…とため息を着き、低い体勢でその盗賊野郎に近づく。

? 「んなっ!?」

ドカァッ!!

森の中で、鈍い音が響く。
恐らく周りから見たら、一瞬時が止まった様にも見えただろう(多分)
私は、相手の懐に一瞬で入り、相手が体勢を整える前に倒したのだ。
ちなみに右胴回し回転蹴り、間違いなく相手のテンプルを捉えたわ、気絶しているでしょうね。
一応手加減はしたけど、私は念のために確認することに。

ハルカ 「……」
ハルカ 「まぁ、男前になったということで♪」

ジグザグマ 「ジグ…?」

そんなことを可愛く言う。
ジグザグマがかなり?を浮かべていたが、気にしなかった。
ちょっと顔面がエグイことになってた…多分死んではいないと思うけど、出血が多かった。
私は仕方ないなので、使い捨てタオルで男の傷を塞いでおいた。

変な男 「…え〜っと、とりあえずありがとう」

例を言われる。
まぁ助けたといえばそうなのかもしれない。
下手したら一方的な暴行だけど…今度からもっと手加減しよう。
どうにも、昨日のカガミの1件のせいもあって気が昂ぶってた…。
この歳で殺人犯にはなりたくないし。

ハルカ 「ところで、この辺って変な盗賊が多いんですか?」

私がそう聞くと、変な男はう〜んと唸りながら答える。

変な男 「いや、多分荷物の中身を知ってて狙っている気がしたよ」
変な男 「…は!?」
変な男 「た、大変だ急いで戻らないと!」

変な男は、何かを思い出したようで、勝手に何処かへ行ってしまった。
多分カナズミの方だろう。

ハルカ 「…狙ってた? 何かキナ臭いなぁ」

どうにも、嫌な雰囲気だ。
もしかしたら、あいつみたいなのが組織で動いているのかもしれない。
とりあえず、この場に留まって仕方ないので私はしばらくこの辺りでポケモンを鍛えることにする。
6匹いるだけに、多少不安があった。
バランスよく育てていても、それだけレベルが上がりにくくなる。
少なくとも、全員がひとりで戦えるようにならないと、ジム戦などもっての他な気がした。

ハルカ 「…カラサリスって、すぐに進化するかな?」

ジグザグマ 「ジグ?」

ジグザグマは?を浮かべて首を傾げる。
いや、ジグザグマに聞いたわけじゃ…。
とりあえず、前に戦った虫取り少年が言っていた言葉を思い出す。
虫ポケモンは進化が早いから使いやすい。
私はそれを宛てにし、カラサリスに全ての戦闘を任せる。



………。
……。
…。



私は、森の出口付近で戦闘を繰り返す。
そして、夕暮れ時になり、ポケモンたちが疲れてきたこともあって切り上げることにする。
まだカナズミシティはちょっと遠いので、この辺で野宿する場所を探そう。
私はトウカの森を抜け、歩き出す。

ハルカ 「…あれは?」

ジグザグマ 「ジグジグ…」

私は森を出てすぐの所に大き目の家を見つける。
もう日が隠れ、ちょっとどうしようかと思っていた所にいいタイミングね。
私はその家に泊めてもらおうと画策する。

ハルカ 「…ん?」

見ると、立派な花壇があった。
綺麗な花が咲き、木の実が生っていた。
今までも何度か木の実をポケモンたちに食べさせたことがある。
これもその類だろう。
色と形は同じように見えた。
私はとりあえず家の呼鈴を鳴らす。

チリンチリン…

? 「は〜い」

すると、女性が出てくる。
私よりもちょっと年上に見える。
私は控えめに切り出す。

ハルカ 「あの、実は眠る場所を貸してもらいたいんですけど…」
ハルカ 「他には何もいらないので、良ければお願いできませんか?」

ジグザグマ 「ジグジグ…」

私がそう言うと、女性は笑って。

? 「いいわよ、もう夜も遅いし、どうぞ入って!」
? 「そこのジグザグマも、入れてあげて」

ハルカ 「あ、いえすぐに戻しますから」

私はジグザグマをボールに戻す。
そして、女性に中を案内される。
そして、その中に私は唖然とする。

ハルカ 「わぁ…凄い花」

そう、どうも花屋のようだった。
中にはカウンターもあり、色とりどりの花やら木の実やらがあった。
私はしばらくぼ〜っと花を見つめていると、さっきの女性よりも年上の女性が近づいてくる。

女1 「ようこそ『サン・トウカ』へ」

ハルカ 「あ、どうも…」

私は丁寧に頭を下げる。
すると、女性も頭を下げ。

女1 「そんなに硬くなさらないで、気軽にしてくださるといいですよ」
女1 「最近、この辺りも物騒ですから、気をつけてくださいね」

ハルカ 「物騒…?」

私がそう言うと、今度は私よりも小さな娘が近づいてくる。

女3 「うん、何だかおかしな格好をした集団がカナズミに向かったそうなの」

おかしな格好…。
私はあの時の盗賊を思い出す。
多分あいつらの一派だろう…と思った。
確信はなかったけど、そんな気がした。

女2 「狭い部屋かもしれないけど、我慢してね」
女2 「こっちよ、さぁ」

そう言って、私は部屋に案内される。
確かに狭い。
って言うか…。

ハルカ (押し入れ?)

そう思えるほど物が押し込められていた。
多分これでも整理したのだろう。
だが、文句を言える立場ではないので、私は笑って。

ハルカ 「いえ、十分です…どうも」

私はとりあえず荷物を置いて備えてあった布団の上に座る。
とりあえず、疲れた。

女2 「あなた、ポケモントレーナー?」

ハルカ 「え? ええ…」

私は不意を突かれて、そう答える。
正直気が遠くなってた。
女性は私を不思議な眼で見る。

女2 「あなた、もしかして初心者トレーナー?」

ハルカ 「……」

見事にズバッといってくれる。
そうか、やっぱりはたから見たらそうなのね…。
私はちょっと沈む。

女2 「あれ? どうしたの?」

ハルカ 「あ、いえ…あのもう寝ますんで」

女2 「って、まだ7時くらいよ?」

ハルカ 「朝は早く起きるので、大丈夫です」

女2 「そう…? まぁ人それぞれだろうから追求はしないけど」
女2 「ああ、先に言っておくわ、トイレは部屋を出て右手側にすぐだから」
女2 「シャワールームも一緒だから、好きな時に浴びて」

ハルカ 「あ、どうも」

私はそう答えると、女性は部屋を出て行く。
途端に静かになる。
この辺りは夜になると途端に静かになる。
私はとりあえず、今日はシャワーを我慢することにした。
もう寝たい…。
後はそのまま大の字になって眠ってしまう。



………。
……。
…。



? 「ドーーードリオーーーー!!!」

ハルカ 「…?」

途端にそんな声が聞こえる。
私は何事かと思い、目を擦りながら外を見る…が見えない。
窓がないのだ。

ハルカ 「あ…そっか、押入れで寝てたんだっけ」

私は荷物を確認し、部屋を出ることにした。

ガチャ…

私が部屋を出ると、皆起きていた。
私は寝過ごしたのか? と思い、備え付けられていた時計を見る。

AM6:00

間違いなく早朝だ。
ということは…単にこの家の人たちが早いだけ?
私がそんなことを思っていると、3人は私に気付く。

女1 「あら、お目覚めになられたのですね」

女2 「遅かったわね、もっと早く起きると思って早起きしてたのに」

女3 「おはようございま〜す」

上から順にそう言う。
どうやら、ここでは普通よりも遅いくらいらしい。

ハルカ 「…あの、ありがとうございました。私、もう行きます」

女1 「そう、何だか突然ね…」

女2 「まぁ、止める権利もないし、頑張ってね」

女3 「さよ〜なら〜」

ハルカ 「…は、はは」

思わず苦笑してしまう、何だかこの人たち…どこか変だ。
それとも私が変なのか…どうにも疲れが抜けなかった。
私は花の香りに癒され、サン・トウカを出た。

ハルカ 「う〜ん、まだ鍛えたい気がするけど…カナズミシティも気になるわね」
ハルカ 「とりあえず、行くだけでも行ってみよう、そこで特訓してもいいしね」

ジグザグマ 「ジグ」

ジグザグマも頷くように鳴き声をあげる。
こうして私は、道なりに歩いていく。
湖のせいで、真っ直ぐ抜けることが出来ないのため、迂回していかないといけない。
私がそんなこんなで、ゆっくりと景色を見ながら歩いた。



………。



ハルカ 「うん?」

ジグザグマ 「…?」

私は湖の上を走っている橋を渡っている途中で、ふたりの少女を見る。
あまりにもそっくりな顔つき、間違いなく双子ね。
すると、思わず目があった。

双子ちゃん左 「あ、今目が合いました!」

双子ちゃん右 「だったらポケモンバトルです!」

そう…これがトレーナーの定め。
目が合ったトレーナー同士はバトルをするのが基本なのだ。
これは基本的に避けることが出来ない。
目を合わせなければ問題ないのだけど、うっかり合うと例えこちらのポケモンがボロボロでも戦わざるをえない。
もちろん例外もあるけど、この場合はそれに当てはまらない。
私は仕方ないので、ボールを取り出す。

ハルカ 「行け! 『カラサリス』!!」

ボンッ!

カラサリス 「サリサリ…」

双子ちゃん左 「『タネボー』ちゃん、出てきて!」
双子ちゃん右 「『ハスボー』ちゃん、お願い!」

そう言って相手は二匹のポケモンを出す。
…ん? 二匹?

ハルカ 「2体1ーーー!?」

思わず叫んでしまう。
さすがにこれは初めてのケースだ。
こういうバトルってあり!?

双子ちゃん左 「2対1じゃないよ〜?」

双子ちゃん右 「そっちも2匹いるのです!」

そう言われる。
ああ、そうか…ジグザグマがいるものね。
私は納得しながらも、図鑑を開く。
見たことのないポケモンがいたからだ。

ポケモン図鑑 『ハスボー:うきくさポケモン』
ポケモン図鑑 『高さ:0.5m 重さ:2.6Kg タイプ1:みず タイプ2:くさ』
ポケモン図鑑 『池や湖の水面に浮いて暮らす。葉っぱが枯れると弱ってしまうが、綺麗な水を求めてたまに陸地を移動する』

ハルカ (…と言うことは二匹とも草タイプなのね)

私は改めて自分のポケモンを見る。
カラサリスは虫なので草と相性がいい、これは今までの戦闘で気付いたことだ。
ジグザグマは今の所弱点がわからない。
だけど、こちらが有利にもならない…つまり相性上の有利不利がないので戦い方を組み立てやすい。
納得し、とりあえず私はその2体で戦うことにする。
しかし、ここで問題点がある。

ハルカ (2匹同時に、命令を与えればいいのかな?)

どうにも、判断が難しい。
要は、格闘技で言うタッグマッチという奴だけど、お互いに2匹同時で戦うというのが気になる。
初めてのことだけに、上手くやれるかどうかがわからない。
自分が戦うのなら余計なことは考えなくていいけど…。

ハルカ 「ええい、仕方ない! ジグザグマはタネボーに『ずつき』! カラサリスは『かたくなる』!」

ジグザグマ 「ジグ!」

カラサリス 「サリサリ…」

私はここであることに気付く。
って、先に言ったら相手にバレる!
時既に遅し、相手のタネボーが前に出る。
ヤヴァ!

双子ちゃん左 「タネボーちゃん、『がまん』です!」

双子ちゃん右 「ハスボーちゃん、『なきごえ』です!」

タネボー 「タネッ」

ハスボー 「ハス〜♪」

相手はこっちの動きを見て同時にそう指示を与える。
完全に私のミスだ。
ジグザグマは止まることなく、タネボーに『ずつき』をかます。
返されたら、やられる!?

ジグザグマ 「ジグ…!」

ドカァッ!!

タネボー 「タネッ!?」

タネボーが『がまん』の体勢に入る前にジグザグマの『ずつき』がヒットする。
何故かというと、ジグザグマが真っ直ぐ進んだからだ。
ジグザグマなのに…。
だが、これは幸運だった。
『ずつき』は相手を怯ませやすい、この場合もタネボーは怯んで技を出せなかったようだ。
だが、タネボーはまだ余裕があるようだ。
直撃だと思ったけど…。

ハルカ (そっか、ハスボーの鳴『なきごえ』でちょっと攻撃が甘くなったのね)

多分そうだろう、『なきごえ』はモーションがない分すぐに出せる技だもんね。
ちなみに、私のカラサリスは無傷で『かたくなる』ことに成功していた。

ハルカ 「とりあえず、私のペース! そのまま行くわよ、ジグザグマ『たいあたり』!」

双子ちゃん左 「タネボーちゃん、『がまん』です!」

ハルカ 「カラサリス、『いとをはく』!!」

カラサリス 「サリ〜」

タネボー 「タネ!?」

タネボーが『がまん』に入るとほぼ同時にカラサリスの糸が絡みつく。
ちなみに、ハスボーも同時に巻き込んでくれた…そこまでは予想外だった。
こういう場合、複数を指定することもできるのね…覚えておかないと。
まぁ、結果オーライ!

ジグザグマ 「ジグッ」

ドンッ!!

タネボー 「タネ〜…」

ドサッ!

タネボーはサイドから『たいあたり』を受け、ダウンする。
後はハスボーだけ!

双子ちゃん右 「ハスボーちゃん、『みずでっぽう』!!」

ハスボー 「スボー!!」

カラサリス 「サリ…!」

迂闊だった、ハスボーは糸に巻かれてもすぐに振り払って『みずでっぽう』を繰り出す。
私は反応することなく、カラサリスは『みずでっぽう』を直撃される。

ハルカ 「カラサリス、大丈夫!?」

カラサリス 「サリ…」

どうやら、無事のようだ…硬くなっていたのが良かったのかも。
水自体のダメージは無理でも、衝撃は確実に和らげてくれたようだ。
私はすかさず指示を出す。

ハルカ 「カラサリス、『どくばり』よ!」

カラサリス 「サリサリ」

ヒュヒュヒュ!

細かい針が連続でハスボーを狙う。
当たれば毒も有り得る、さてどうする?

双子ちゃん右 「ハスボーちゃん、避けて!」

ハルカ 「そこへ、『ずつき』よジグザグマ!」

双子ちゃん右 「ええ!?」

私は行動を読んでいた。
この状態で相手が動かないわけはない。
何故なら、草タイプは毒に弱いんだから!
理由は単純。
トウカの森で私のタネボーがケムッソの『どくばり』に散々悩まされたから…。
まさに効果抜群…一撃で倒れるとはいかなくても、かなり致命傷。
だから、かわそうとするのは本能的に正しい。
そして、それは同じ草タイプのハスボーも同じだと思った。
つまり、この場合は私の読み勝ち。

ジグザグマ 「ジグッ」

ハスボー 「ハスー!」

ジグザグマがタイミングよくハスボーの避けた先に『ずつき』をかます。
スピードが速いからこういう戦法もこなしてくれる、ホント頼りになる娘だわ♪
とりあえず、これで私の勝ち!
初めてのタッグマッチにしては、出来すぎなくらいの結果だ。

ハルカ 「ジグザグマ、カラサリス、おめで…って!?」

何と、カラサリスの様子がおかしい。
私は何事かと思うと…。

? 「ハ〜ント♪」

進化した!
これは驚いた、しかも可愛い!!
私は嬉々として図鑑を参照する。

ポケモン図鑑 『アゲハント:蝶ちょうちょポケモン』
ポケモン図鑑 『高さ:1.0m 重さ:28.4Kg タイプ1:むし タイプ2:ひこう』
ポケモン図鑑 『甘い花粉が大好物のポケモン。花をつけた鉢植えを窓辺に置けば、花粉を集めに必ず飛んでくるよ』

ハルカ 「やったぁ…ようやく進化だ!」

双子ちゃん左 「おめでとうおねえちゃん!」

双子ちゃん右 「今回は負けちゃったけど、また機会があったらバトルしてくださいね!」

ハルカ 「あ、うん! もちろん!!」

私は笑ってそう言う。
ここまでが結構長かったので、嬉しさは倍増だ。
私はとりあえずアゲハントを抱きしめようと近づく。

ハルカ 「おいで、アゲハント!」

アゲハント 「ハ〜ン♪」

アゲハントは羽を羽ばたかせて私の腕に飛び込んでくる。
そして、私はアゲハントを抱える。

ハルカ 「…って、あなたこんなに重かったっけ?」

よくよく思い出せば、図鑑では28.4kgとか書いてあった…。
へたな鉄アレイ並みの重量ね…これは。
とりあえず、私はアゲハントをボールに戻し、一路カナズミへと向かった。
この橋を越えれば、もうすぐだ。



………。
……。
…。



−ここはカナズミシティ、自然と科学の融合を追及する街−




ハルカ 「…時間はちょうど昼過ぎか、結構早く着いちゃったな」

携帯時計を見て、そう言う。
時刻は14時を差し掛かった所。
私はカナズミシティの前にいる。
さすがに、ただの街じゃない…かなりの広さだ。
道には数々の人が行き交い、街の活気を伝える。
私は少し、オドオドしながらも街の中に入った。



………。



ハルカ (これから、どうしようかな…)
ハルカ (少なくとも、今ジム戦をしても絶対勝てない気がする)

私は自分でそう結論付け、とりあえずはポケモンセンターに向かうことにした。
まずは拠点を構えるのが必要だ。
もしかしたら何泊もすることになりかねない。
幸い、真っ直ぐ進むだけでセンターには到着できた。

ハルカ 「造りはほとんど同じなんだ」

受付 「いらっしゃいませ、ごゆっくりどうぞ!」

街の広さとは裏腹に、センターはほとんど同じ造りだった。
中もさして変わらず、いつも通りにカウンターの受付嬢が出迎えてくれる。

ハルカ 「とりあえず、ポケモンの回復をお願いします」

昨日は一応家で眠る結果になったけど、ポケモンは回復しているようだった。
ポケモン自身もちゃんと回復能力があるのね。
それでもセンターで一気に回復してもらった方が早いので、それに頼るのが普通だ。
私はボールを受付に渡す。

受付 「それでは、お預かりします」
受付 「およそ20分程で、終わると思いますが、それまではどうなさいますか?」

どうなさいますかと言われても…とりあえずこの街は初めてだし。

ハルカ 「しばらく、観光がてら歩き回ります。なので、しばらく預かってもらえますか?」
ハルカ 「1時間ほどで帰ると思いますから」

受付 「わかりました。責任を持って、こちらでお預かりさせていただきます」
受付 「申し訳ございませんが、トレーナーカードをご提示いただけますか?」

ハルカ 「あ、はい」

私はすぐに懐からカードを出す。
長時間預かってもらうには、そう言う対応も必要なのね。
慣れた手つきで受付嬢はカードをPCに通す。
そして、数秒してそれを引き抜き、私に返す。

受付 「それではハルカ様、カードをお返しいたします」
受付 「どうかお気をつけて、ご観光なさいませ」

ハルカ 「は、はい」

さすがは天下の受付嬢。
何だか堅苦しすぎて肩がこる…。
私は苦笑しながらセンターを出た。

ハルカ 「…どうしようかな?」

私は、色々と動き回ることにした。
ここに来るまでに、ショップを見つけたのでそこにも寄ることにする。
トウカシティで父さんにちょっとお小遣いを貰ったから、少しだけ余裕がある。
それでも、食事だけでやはり意外に食われてしまう。
ポケモンたちはポケモンセンターで食事を摂れるから問題はないのだけれど…。
如何せん人間はそうもいかない。
私は空腹感に負け、近くに飯処を探す。

ハルカ 「お…いかにもな店」

見ると、でっかく看板に牛丼と書いてあった。
しかも値段はかなりリーズナブル。
私は迷わず中に入った。

ビィィン…

店員 「いらっしゃいませーーー!!」

中に入ると、冷房が効いているのか冷たい風を感じる。
それもそのはず、この時間帯でもやたらと暑苦しい男共がたむろしていた。
特に熱気が凄い…汗臭いことこの上ない。
女が入る場所じゃないでしょうね普通…。

ハルカ (しかっし…この面子)

店の中をざっと見渡すが、やたらと屈強なお兄さんたちが多い。
どう考えても格闘系の人たちだと考えられる。
同種なのでわかりやすい。

店員 「お客さん、忙しいから早く座ってくれますかー!」

ハルカ 「あ、すみません!」

私はすぐに空いている席に座る。
不幸にも、暑苦しい男に挟まれる席だ。
そこしか空いてなかった。

店員 「はい、どうぞ! 注文は!?」

やけに威勢のいい若店員さんが、お冷を出してそう聞く。
私はメニューも見ずに。

ハルカ 「特盛り汁濁卵付きで!!」

店員 「はい、まいど! …特盛り汁濁卵付き一丁!!」

テンポよく厨房にそう告げる。
すると、メニューを聞いてきた店員が不思議そうに私を見る。

店員 「お客さん、常連? 初めて見る気がするけど、手馴れてるねぇ」

それはそうだ。
だってコガネシティでも散々食ってるもん。
ここも同じチェーン店だから、慣れてて当たり前。
ただ、どうにも最近世界情勢が狂ってきたのか、牛丼店のくせに牛丼を廃止すると言う強行に出ていたのだ…。
代わりに出したのが豚丼だから驚き、まずくはないけど、やっぱり牛の底力には到底勝てない。
なので、あまり期待してなかったのだけど、ここは牛を扱っているようで嬉しかった。

ハルカ 「まぁね、ここでは初めてよ」

私は箸を取ってそう言う。
この熱気も慣れたものだ。
何せ、ロードワーク後に寄ってたからね♪

店員 「へぇ…女の子では結構珍しいね」
店員 「もしかして、お客さんも格闘系?」

いきなり当てられる。
と言っても、本当は元格闘が正しいんだけど…。
まぁ、今でも同じか…格闘好きには変わりないものね。

ハルカ 「以前はね、今はポケモントレーナーだけど」

店員 「そうか〜、ってことはやっぱりジム戦だな?」
店員 「カナズミジムは岩タイプのジムだからな」
店員 「おっと、仕事があるからそれじゃ!」

私は手を振って見送る。
他の客への対応のようだ。
そして、私はその後すぐに出来上がった牛丼を全て平らげる。
久しぶりの味に感動した気分だ。

ハルカ (にしても…岩タイプだから、やっぱり…って?)

腑に落ちなかった。
何で格闘系でトレーナーでジム戦に繋がるんだろう?
しかも岩タイプだからって…。
私は食い終わってもしばらくそこで考え続けていた。
次第に客は少なくなり、ピークも終わりを迎えるようだった。

店員 「あれ? 考え事?」

ゆっくりお冷を飲んでいると、先ほどの店員が話し掛けてきた。
私はちょうどよかったと思って聞いてみる。

ハルカ 「ねぇ、どうして格闘系がトレーナーだったら、やっぱりジム戦なの? 岩タイプとはどういう関係?」

私がそう言うと、店員はあっけに取られる。
余程意外だったのだろう。

店員 「どうしてって…ふつうそうだろう? 格闘タイプのポケモンは岩タイプに相性がいいんだから」

ハルカ 「格闘タイプ…って、そうなんだ」

店員 「本当に知らないの? てっきりそうだと思ってたのに…」

予想が外れて意外だったのか、店員は軽く唸った。

ハルカ 「あはは…私まだ初心者だから」
ハルカ 「残念だけど、格闘タイプのポケモンは持ってないの」

店員 「そうか、じゃあどんなポケモンを使ってるの?」

店員は興味津々に聞いてくる。
休憩時間なのか、誰も彼を咎める様子はなかった。

ハルカ 「そうね、一応私が使っている中で一番強いのは、炎タイプのアチャモ」

店員 「炎タイプ!? まさか、それでジム戦に挑む気かい?」

店員はかなり驚いた様子でそう聞く。

ハルカ 「え、まぁ…やるならそうなると思うけど」

店員 「止めとけ止めとけ! 腕に自信があっても普通炎で岩に戦うのは避けるもんだ!」
店員 「初心者って言ってたから、ついでに教えてやるけど、岩は炎、虫、飛行に対して有効な技を放てる」
店員 「逆に、岩タイプに有効なのは水、草、格闘、地面、鋼タイプの技だ」

店員がそう説明してくれる。
これは勉強になるわね…。
でも、同時に辛い現実を突きつけられる。

ハルカ 「……」

店員 「どうした?」

ハルカ 「あ、ううん…何でもない。ありがとう、教えてくれて…代金、ここに置いておくから」

店員 「あ、まいどありー!」

ハルカ 「……」

私はすぐにポケモンセンターに戻ることにした。
よく考える必要がある。



………。
……。
…。



ハルカ 「…あ、先客か」

中に入ると、1人の女性が受付と話していた。
立ち聞きするつもりはなかったけれど、近づくことで会話が聞こえる。
私の耳がいいのも原因だけど。

受付 「お疲れ様です、ポケモンたちの回復ですね」

? 「はい。私のポケモンたちを、お願いします」

そう言って女性は、受付にふたつのモンスターボールを渡した。
トレーナー…か。

受付 「確かにお預かりいたしました。10分程で完了いたしますので、よろしければ左手側の待ち受けベンチで、しばらくお待ちください」

受付嬢はそう言って、お辞儀をする。
マニュアル人間…何となくそんな言葉が脳裏をよぎった。
そんなことを考えていると、受付嬢が私に気付く。

受付 「あ、おかえりなさいませハルカ様。ポケモンの回復は終了しております。どうぞ…」

ハルカ 「あ、どうも…ところで部屋は空いてますか? ワンボックスでいいんですけど」

私がポケモンを受け取り、そう言うと受付嬢は困った顔をする。

受付 「大変申し訳ございません…多数のお客様が既に予約なされておりますので、ワンボックスは全て埋まっております」
受付 「空いているのは、トップルームのみですが…いかがなさいますか?」

簡単にそう言われる。
まずいことになった…ちなみにトップルームは一番高い部屋よ。
まさにホテル同然なので、設備もサービスも全て込みなので、至れり尽せりだが…高い!
ただでさえ節約したい所なので、それはできない。

ハルカ 「あ、じゃあちょっとベンチで待たせてもらっていいですか?」
ハルカ 「それで、キャンセルとかあったら回してください」

店員 「そうですか、わかりました。キャンセルが届いた場合は、すぐにご連絡いたします」

ハルカ 「はい…お願いします」

私はそう言って、礼をする。
受付嬢も礼をしてくれた…まぁマニュアルだろうけど。

? 「では、行きましょうか」

ハルカ 「は、はぁ…?」

さっきの女性だ…まだいたのね。
突然、女性はやんわりとした口調でそう言った。
見た感じ、私とそんなに歳は離れてない感じ。
年上ではあるようだけど、やけに丁寧な口調ね…素かしら?
とりあえず、目的は互いに待合室のはずなので、断る理由はない。
私は女性の後ろに着いて歩く。
そして、ベンチの前に着くと私たちは座った。
他の客は近くにいない、ベンチにはふたりきりだ。
それでも女性はわざわざ端っこに座る。
私はその隣に腰を降ろした。

? 「初めて見る顔ですけど、旅人さんですか?」

ハルカ 「…はい。ミシロタウンから」

私は冷静に答える。
どうもしっくり来ない…こう言う堅っ苦しいのは苦手だわ。

? 「そう…ミシロタウンからでしたか」

ハルカ 「……」

? 「…どうかしたのですか? 何か悩み事でも…」

私は牛丼屋でのことを思い出していた。
切実な問題だ…。
私はつい、女性のことを忘れてしまっていた。

ハルカ 「あ、いえ…大丈夫です」

と言っても、大丈夫なわけはない。
それがわかっているだけに、表情に出さざるをえなかった。
そういえば、この人誰なんだろう?
少なくとも普通の人とは思えなかった。
髪はロングで、後頭部に大きな赤いリボンをつけているのが印象的。
服は藍色が基調の制服にも見える服。
下には白のカッターシャツを着てあり、赤いネクタイも着用している。
スカートを履いているが、ミニ。
色は上と同じで、下半身には赤いタイツを着用している。
靴は藍色のスニーカーで、足首に何か藍色のバンドを着けていた。
タイツはよくズレるらしいけど、それを防ぐためかな?
とりあえず、見てくれからどうにも普通じゃないことがわかる。
明らかに、お嬢系とかそう言う類に思えた。
またはエリート系、そう言う風格を感じる。

? 「申し遅れました。私、ツツジと言います」

ハルカ 「私はハルカ…」

女性はツツジと名乗り、ぺコリと私に頭を下げる。
私も名乗るが、そこで私は気付く。

ツツジ 「どうしたんですか?」

ハルカ 「…あなたが、カナズミジムのジムリーダー?」

多分間違いない。
それっぽい雰囲気は感じる。
私がそう言うと、ツツジさんは驚いた顔をする。

ツツジ 「知っていたんですか…そうですね。あれだけ噂などが飛び交えば、自然と耳に入る物でしょうし」

ハルカ 「…トウカシティのジムリーダーをやっている父さんから聞いたの。『ツツジに会え』って。知り合いなんでしょ?」

私はそう聞く。
父さんは知り合いだからこそ会えと言ったはずだ。
そう言ったわけじゃないけど、普通はそう考えるのが当たり前でしょう。
だが、期待とは裏腹にツツジさんは?を浮かべる。

ツツジ 「いえ、まぁ…お会いしたことはありますけど。そんなに知り合いと言うほどでは…」

ハルカ 「はぁ…?」

意味がわからなくなる。
じゃあ何故父さんはああ言ったのか…?
ただ単に、会ってぶっ倒せと言いたかったのだろうか?
ありうるわね…あの天然親父の頭だと。
いい加減すぎるわよ…。
私が深いため息をつくと、受付嬢がツツジさんを呼ぶ。

受付 「お待たせいたしましたツツジ様」

ツツジ 「どうも、ありがとうございます」

ツツジさんはボールを笑顔で受け取る。
自然な笑顔だ…きっとファンも多いんだろうな〜。
私がそんなことを考えると、ツツジさんが私の所に来る。
まだ何かあるのだろうか?

ツツジ 「…今日はかなりの人間がここに来ています」
ツツジ 「多分、キャンセルが入る確率は低いと思いますよ?」

ハルカ 「…だったら、街の外で野宿します」

私はやや突き放すように言う。
この人、どうにもやりにくい。
お人好しなんだろう…心配してくれるのは嬉しいけど、後で戦うかもしれない人間相手に心を許すのは引っ掛かった。

ツツジ 「…あの、よろしければ私が眠る場所をご提供いたしますが?」

ハルカ 「…え?」

いきなり美味しい申し出だ。
確かに悪くはない。
でも、どうにも恩は作りたくない…。
私はあくまでGive and Takeが心情だ。
タダは信用しないし、易々と頼るつもりもない。

ハルカ 「…いえ、結構です」
ハルカ 「私、ここでギリギリまで待ちますから」

ツツジ 「…そうですか」

私がムキになるように、やや強く言うと、ツツジさんはしゅんとする。
ああもう! 何でこんなに覇気がないのよ!?
私はさすがに我慢の限界を感じそうになる。
ツツジさんに悪気は1ドットもないのだけど、どうにも反撃しそうになる。
私って虐めっ子なのかもしれない…そう思いつつも、私は激情を抑えて冷静になる。
これじゃ、どっちが年上なのか…って、年齢は聞いてないけど、多分年上でしょ。

ハルカ 「あの…まだ何か?」

ツツジさんは一向に帰る気配がなかった。
時刻はまだ16時前なので、時間はある。
私はできるならひとりでジム戦のことを考えたかった。

ツツジ 「いえ…でしたら、ギリギリまで私も待ちます」
ツツジ 「そして、一緒に私の家に帰りましょう♪」

そんなことを言う。
もうわけがわからない…。
何でそうなるのよ…?
どうやら、すでにツツジさんの家にお邪魔することになっているらしい。
私は…一気に脱力する。
何でこんなのがジムリーダーなんだろう?
気が抜けた…それでもジム戦はやらなければならない。
私はこの状況を打開するため、街を出ることに決めた。
その方がいい…ここは何か空気がおかしい!

ハルカ 「…はぁ、ごめんなさい。私、もう街を出ますんで!」

ツツジ 「ええ? って、ハルカさん!?」

私はツツジさんを無視して歩き出す。
はぁ…もう何だかやる気がなくなったわ。
対策考えないといけないのに、やる気をなくしてどうするのよ。

ハルカ 「本当にどうしよう…私のポケモンじゃロクに戦えないよ」

そう、問題はそれなのだ。
私のポケモンは、炎、ノーマル、草、飛行、虫、水。
各種揃っているが、ほとんどが岩に分が悪い。

ハルカ (アチャモは炎だから攻撃も防御もロクに通用しない…)
ハルカ (アゲハントは虫と飛行だから岩の攻撃は絶対耐えられない…)
ハルカ (アメタマとキャモメは水を持っているけど、岩にも弱い)
ハルカ (タネボーは草タイプの技がないし…)
ハルカ (ジグザグマも相性的には悪くはないはずだけど、技の性質上、岩には効きにくそう)

何せ、『たいあたり』と『ずつき』だもんね…やった方がダメージくらいそう。
結論…どうにもならない。
新しいポケモンを見つけるしかないのかもしれない…。
だとしたら、トウカの森ではなく、カナズミシティを北に出てみた方がいいのかもしれない。
そこなら新しいポケモンもいるかもしれない。
特訓も兼ねて、行ってみることに決めた。
私はとりあえずその場から180度方向転換する。

ツツジ 「きゃっ!」

ハルカ 「ツツジさん!? 何でこんな所に…」

諦めると思っていたら甘かった…どうやらこの人、筋金入りのお人好しらしい。
私は本日何度目であろうかとも思えるため息をついた。

ハルカ 「はい、わかりました…もう、あなたの家に行きますから…好きにして」

ツツジ 「は、はい! じゃあ行きましょう!!」

そう言って、案内されることになった。
正直、疲れた…もう何が何だか。



…To be continued




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