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POCKET MONSTER RUBY



第19話 『上で待つ者、這い上がる者』




キヨミ 「…やるからには、覚悟はしてもらうわよ?」

ハルカ 「…はい」

場に緊張感が走る。
さすがキヨミさん…普段は結構『甘い』イメージがあるけど、いざポケモンバトルになると途端に重圧が増す。
別人と言っても差し支えない…。
さて、ここで問題がある。

ハルカ (誰を出せばいいんだろう?)

言い出したのは私なんだから、当然根拠があってのこと。
しかしながら、今の私でキヨミさんとどれくらいの差があるのかが知りたいわけで…。

キヨミ 「あまりダラダラと続けても仕方がないから…使用ポケモンは3体にするわよ!? 私から行くわ! 出なさい『ヘルガー』!!」

ボンッ!

ヘルガー 「ヘルッ!!」

ハルカ 「ヘルガー…か」

以前、アチャモを完膚なきまでに負かしたポケモン。
悪タイプ…とのことだけど、炎タイプでもあるんでしょうね…。
少なくとも炎は全く通用しないときた…だけど、今ならもしかしたら。

ハルカ 「なら、私は! お願い『ワカシャモ』!!」

ボンッ!

ワカシャモ 「シャモ!」

ワカシャモは元気良く登場する。
と言っても、ついさっきまで戦闘に出ていたので全快とはいいがたい。
そこまでダメージを負った訳じゃないけど、無傷ではないはず。

キヨミ 「……」

キヨミさんは無言でワカシャモを見る。
何を考えているのかがさっぱりわからない。
元々、キヨミさんのバトルを直に見たことはあまりなかったわけだし、今使っているポケモンは借り物だと言う。
つまりはキヨミさんの本当のポケモンではない。
だとしたら、少し位は穴があるかもしれない。
相性的には有利なはずだから、やれる所までやってみよう。
こういうのはチャレンジ精神よ!!

ハルカ 「ワカシャモ、『でんこうせっか』!!」

ワカシャモ 「シャモ!」

ワカシャモは高速で左右に体を振ってヘルガーに近づく。
大抵の相手なら、この動きに多少は翻弄されてくれるが…。

キヨミ 「……」

ヘルガー 「…ガゥ」

ハルカ (み、見てるわね…冷静に)

ワカシャモはそれなりに高速で動いている。
普通なら、目で追うだけでもしんどいはずだけど…キヨミさんは当然の如く冷静。
ヘルガーも全く動じず、ただ近づいてくるのを待っている気がした。

ハルカ (真正面から言っても通じない…かな?)
ハルカ 「ワカシャモ、『すなかけ』!!」

ワカシャモ 「シャモ!」

ドカッ!

ヘルガー 「!!」

ワカシャモ 「シャモー!」

ワカシャモは『でんこうせっか』でヘルガーに体当たりし、すかさず右足の爪先を地面に突き立てて砂をヘルガーに向かって巻き上げる。
速いコンビネーションを出すだけに、『でんこうせっか』の威力は全く無くなったが、この奇襲が決まれば…

ザシャァッ!!

ヘルガー 「ヘルッ!」

が、ヘルガーは何の指示もなしに素早いバックステップで距離を離す。
反応が早いとかそう言う問題じゃない、指示を必要としてないの!?

キヨミ 「ひとつ、教えておくわ…ポケモンは長い間トレーナーと多くのバトルを越えていくと、自分の苦手なタイプの技は必然と回避するものなのよ」

ハルカ 「…え?」

キヨミ 「『すなかけ』は地面のタイプの技…炎タイプでもあるヘルガーは反射的にそれを回避するよう体が覚えているのよ」

そいつぁ驚きだ…つまりそれだけ経験の差があると思っていいのだろう。
しかしながら、そうなると手の出しようがなくなってくる。
ただでさえ、格闘タイプのワカシャモはヘルガーに近づかなければいけないのに。
苦手なタイプを反射的に避けると言うのだ…向こうは余裕を持って反撃に移れる。

ハルカ (ん? 待てよ…反射的に避けるってことは)
ハルカ 「ワカシャモ、突っ込んで『にどげり』!!」

キヨミ 「ヘルガー、『かみつく』!」

ワカシャモ 「シャモッ」
ヘルガー 「ガルッ!」

ドガァッ!!

ワカシャモ 「シャモッ!」
ヘルガー 「グゥ…!」

2体がほぼ同時に激突する。
が、体重の差かスピードの差か、ワカシャモの方が派手に吹っ飛ぶ。
だが、ダウンはせずに何とか踏みとどまった。
ダメージはそこまででもないよう。
逆に、ヘルガーはさすがに効果抜群なのか、やや頭を振っていた。

キヨミ 「いい蹴りね、ハルカちゃんが仕込んだの?」

ハルカ 「あ、ええと…まぁ」

キヨミさんは至って余裕の笑みを崩さない。
それ所か、こっちを褒めてくれた。
これは、喜んだ方がいいのだろうか?

キヨミ 「随分鍛えたものね、あれからまだ一ヶ月も経ってないのに、良くここまでやってるわ」
キヨミ 「だけど、まだまだね…上を狙うにはもっと鍛えなければダメよ」

ハルカ 「…は、はい」

重圧感が更に増す。
まだまだ相手は準備運動もいい所だろう。
こちらは初めから全力なのにね。

キヨミ 「さぁ、続けるわよ! ヘルガー『かえんほうしゃ』!!」

ヘルガー 「ヘルッ!!」

ハルカ 「ワカシャモ、避けて!!」

ワカシャモ 「シャッ!」

ゴオオオオオオォォォォッッ!!

とんでもない火力の『かえんほうしゃ』がワカシャモの右肩を掠める。
半端じゃないわ…クチートの比じゃない。

キヨミ 「いいわよ、よくかわしたわね。ヘルガーは特殊攻撃力の高い種族だから、半減と言っても過信せずに避けたのは正解よ」

ハルカ 「あ、あはは…」

さすがにアレを正面から受けようとは思いませんって!
しかしながら、あんな物を連発されたんじゃたまったものではない。
どうやって活路を見出そうかしら?

ワカシャモ 「シャ、シャモ」

見た目からして消耗し始めているワカシャモ。
ダメージはそんなにないはずだけど、ヘルガーのプレッシャーが強すぎる。
以前にやられたこともあるし、臆病なワカシャモの性格が災いし始めているのね。
これはちょっと喝を入れないと。

ハルカ 「ビビッたら負けよワカシャモ! 『きあいだめ』!!」

ワカシャモ 「シャ、シャーモ!」

ワカシャモは気合を入れて吼える。
それでもやはり疲れは明らかに出てる、これは短気決戦で行くしかないか?
そこで、私は図鑑を見てワカシャモの技を見直す。
何か、いい技はないかな?
と思っていると、ふとある技に目が向く。

ハルカ (あれ? この技って…確か)

キヨミ 「何をする気かは知らないけど、こないならこっちから行くわよ。ヘルガー『かみつく』!」

ヘルガー 「ガウッ!」

ハルカ 「! ワカシャモ受け止めて!!」

ワカシャモ 「シャモッ!」

ガシイッ!!

ヘルガー 「ヘル!?」

キヨミ 「!」

ワカシャモは何とヘルガーの上顎と下顎を挟んで『かみつく』を止めていた。
眼前で口を閉じられているヘルガーはキョトンとしていた。
だけど、これはチャンスだった、私は『あの技』を指示する。

ハルカ 「今よ、ワカシャモ! 『ビルドアップ』!!」

キヨミ 「!?」

一瞬キヨミさんの表情が変わる。
それなりに意外だったようだ。
それだけに効果的だということが予想される。

ワカシャモ 「シャモーー!! シャー!!」

ヘルガー 「グルル…!」

『ビルドアップ』により、強靭となった力でヘルガーの顎を閉めるワカシャモ。
そして私は次の指示を出す。

ハルカ 「ワカシャモ『にどげり』!」

ワカシャモ 「シャーモ!」

ドガァ! バキィッ!!

ヘルガー 「ガァッ!!」

ズシャア! と派手な音をたててヘルガーは吹っ飛ぶ。
ワカシャモは顎を掴んだまま、右足でヘルガーの腹を蹴り、顎が下がった所で左の回し蹴りを放ったのだ。
さしものヘルガーもかなり効いている様だった。
というよりも…あれで起き上がるのか。

キヨミ 「…驚いたわ、そんな無茶な戦術で来るとは思わなかった」
キヨミ 「意外性が高いのもひとつの才能よ、誇ってもいいわ」

ハルカ 「あはは…こっちは倒す気で戦ってるのに、余裕もいいとこですね」

キヨミ 「そうね、でもヘルガーは思っている以上にダメージを負っているわ、もう一発耐えられるとは限らない」
キヨミ 「元々打たれ強い種族ではないから…でもそれだけに詰めを誤れば痛い目を見るわよ?」

そう言ってキヨミさんは笑う。
正直恐ろしい。
ヘルガーは後一発耐えられないと宣言しているのだ。
つまり、当てられるものなら当ててみろってことでしょうね。
ここからは本気で来る…。
それがビリビリと伝わってきた。
だけど、退く訳にはいかない!

ハルカ 「ワカシャモ、『でんこうせっか』!!」

キヨミ 「ヘルガー『スモッグ』!」

ヘルガー 「ヘルッ!」

ワカシャモ 「シャモ!?」

ゴウゥンッ!

ヘルガーは口から黒い煙を噴出し、辺りの視界を完全に奪う。
その煙はワカシャモを完全に覆ってしまう。
これじゃあ私もワカシャモの姿が見えない。

ワカシャモ 「シャモ!」

ヘルガー 「ガウッ!」

だが、ワカシャモはその煙の中から飛び出す。
そしてヘルガーに向かって渾身の『でんこうせっか』を見舞う。
が、それで限界だった。

キヨミ 「ヘルガー『かえんほうしゃ』!」

ヘルガー 「ヘルッ!!」

ゴオオオオオッ!!

ワカシャモ 「シャモーーー!!」

ドンッ! ズシャッ! ザザァッ!!!

ワカシャモは『かえんほうしゃ』をまともに喰らい、勢いで地面を転がる。
もちろん立てるはずがなかった。

ハルカ 「…ワカシャモ」

ワカシャモ 「…シャモ」

私はモンスターボールにワカシャモを戻す。
よくやったと褒めるべきだろう。
正直ここまでやってくれるとは思っていなかった。
多分、キヨミさんも。

キヨミ 「ヘルガー…戻って」

ヘルガー 「…ガゥ」

シュボンッ!

キヨミ 「よくやったものよハルカちゃん。少なくともあのヘルガーはポケモンリーグでも大活躍したポケモンなんだから」
キヨミ 「あのワカシャモも、進化が楽しみね」

ハルカ 「へ? ワカシャモって、まだ進化するんですか!?」

キヨミ 「あら、知らなかったの? 結構有名なはずだけど…」

ハルカ 「まだトレーナーになって1ヶ月経ってませんので…」

私がそう言うと、キヨミさんは不思議そうに私を見る。
よっぽど意外だったらしい。

キヨミ 「それで、あれだけの才能を持っているのね…私の眼力も捨てた物じゃないみたい」

ハルカ 「でも、ワカシャモが更に進化するって…?」

キヨミ 「そうね、まだ先の話になると思うけど…今回のバトルで、かなり経験を積んだと思うわ」
キヨミ 「『ビルドアップ』覚えたと言うことは、ひとつの節目を超えたと思っていいと思う」
キヨミ 「後はハルカちゃん次第ね」

ハルカ 「そ、そうですか…」

ワカシャモが進化ねぇ…考えたこともなかった。
てっきり、最終進化系だと思ってたからなぁ…。 と言うことは、他にも進化ができるポケモンがいてもおかしくはなさそうね。

キヨミ 「さて、じゃあ次に行きましょうか? 今度はこのポケモンよっ!」

ボンッ!

マンタイン 「マン〜」

ハルカ 「さ、魚!?」

どうせ図鑑を参照しても出てこないと思ったので見ることはしなかった。
だが、それはまさに『魚』…と言うか、そのまま『マンタ』?
どっちにしても、地上で戦うようなポケモンには見えない。
しかしながら、思い出す。
キヨミさんはこのポケモンでテッセンさんを打ち倒しているのだ。
つまり、どうにかして戦うのだろう。
しかしながら、確かこのポケモンは『じしん』と言う技を使うらしい。
と言うことはラクライの相性が悪い。
だとしても、ペリッパーは水タイプ…相手と同タイプだけに、まともに攻撃が通用するとは思いがたい。
って言うか…。

ハルカ (あれのどこが『飛行』タイプなんだろう?)

体長はかなり大きく、横幅だけで2メートルはゆうにあるだろう。
少なくとも見た目だけでは、どうやって『飛ぶ』のかわからない。
しかしながら、飛行タイプと言うからには飛ぶのだろう。
私はこの際、相性を考えずに行くことにした。
ひょっとしたら、意表はつけるかもしれない。

ハルカ 「頼むわ、『マッスグマ』!」

ボンッ!

マッスグマ 「グマ…」

マッスグマは静かに鳴き声をあげて出てくる。
二本足で立っているのが、どうにも馴染めない…まぁいつか慣れるでしょうけど。

キヨミ 「……」

キヨミさんは見定めているように見えた。
ノーマルタイプは弱点が格闘タイプだけ。
逆にノーマルタイプの技では効果の高さは望めない。
だけど、『わざマシン』の対応率は恐ろしく高い。
ほとんど、何でも覚えるような対応率の良さ。
だけどそれはキヨミさんも当然知っているはず。
意表…と言う程のことではないのかもしれない。

ハルカ 「ええい、女は度胸! マッスグマ『たいあたり』!!」

マッスグマ 「グマッ」

マッスグマは前に突進し、4足歩行で走る。
一直線にマンタインの側まで行き、体ごと突っ込む。

キヨミ 「上昇よマンタイン!」

マンタイン 「マンッ!」

ゴゥッ!!

ハルカ 「な、何っ!?」

マンタインは大きな翼をはためかせ、その場から飛び上がる。
水上でやるならわかるけど…地上でもできるものなの!?

マッスグマ 「グ、グマ…!」

キヨミ 「マンタイン、『のしかかり』よ!」

マンタイン 「マンー!」

ズゥゥゥンッ!!

ハルカ 「マ、マッスグマ!?」

かなりの音がした。
どうやら、あのポケモン相当な重量があるみたいね…。
直撃だったらかなりやばそうだけど…?

マッスグマ 「グマッ!」

ドカッ!

マンタイン 「マン!?」

キヨミ 「……」

キヨミさんは特に動じていない。
だけど、これだけは言える。
マッスグマは自分で回避した。
あれが直撃だったらその時点で終わっていたかもしれない。
だけどそれを回避してから、『たいあたり』をするなんて。
あの娘も随分成長しているのだと感心する。
私はこのままマッスグマに指示を出す。

ハルカ 「マッスグマ、『みだれひっかき』よ!!」

マッスグマ 「グマ!」

私はつい最近覚えたばかりの新技を指示する。
マッスグマはまだ体勢の整っていないマンタインに向かって飛び掛った。

マッスグマ 「グマッ、グマッ、グマッ!!!」

ザシュザシュザシュッ!!!

マンタイン 「マンッ!!」

キヨミ 「マンタイン、『こうそくいどう』」

マンタイン 「!」

シュゴウゥ!!

砂煙を上げ、マンタインは一瞬にしてマッスグマの目の前から消える。
は、速い…って言うか、速度が上がってる。
多分、今の技はスピードを増す技。
マンタインは数メートル飛び上がってマッスグマの真上に来る。

キヨミ 「マンタイン、『のしかかり』」

ハルカ 「負けるなマッスグマ! 『ずつき』よ!!」

マンタイン 「マンー!」

マッスグマ 「グマー!」

ドッガァァァァァッ!!!

大きな激突音。
互いのポケモンがそれぞれ吹っ飛ぶ。

ザシャァァッ! ズウウンッ!!

マッスグマ 「グ、グマ〜…」

マンタイン 「マンッ!」

ハルカ 「く…」

思ったよりもダメージは差があった。
さすがに重量が違いすぎるせいか、マッスグマの方がダメージが大きい。
対してマンタインはまだまだと言った感じだった。
キヨミさんも全く動じてない、計算範囲!?

キヨミ 「動きはいいわ、反応も速い。ハルカちゃんとのコンビネーションもスムーズね」
キヨミ 「だけど、肝心の攻撃力が低い…性格が合ってないのね」

ハルカ 「!?」

見事に指摘される。
そう、マッスグマは『ひかえめ』性格なせいか、攻撃がとにかく下手だ。
さすがにキヨミさん位にはわかってしまうんだ。
だけど、それは私にとって、好都合でもあった。
キヨミさんは幸い、マッスグマの攻撃力の低さを信じた。
警戒が低くなったことが感じられる。
だけど、今はまだ…もうちょっと。

ハルカ 「マッスグマ『なきごえ』!!」

マッスグマ 「グマ〜〜♪」

マンタイン 「!!」

マッスグマの『なきごえ』でマンタインは多少ながら怯む。
この技は相手の攻撃力を少し下げてくれる。
お手軽に使える技なので、結構使える。

キヨミ 「…何を考えているのか本当にわからないわね。でも、そろそろこちらも本腰に入るわよ。マンタイン『みずのはどう』!」

マンタイン 「マンッ!!」

マンタインはその場で上昇し、そこから口を開いて水の塊を吐き出す。
『みずでっぽう』の比じゃない、かなり威力が集約されてる。
喰らったら、まずい!

ハルカ 「マッスグマ、よけて!」

マッスグマ 「グ、グマッ!」

ズバァァンッ!!

マッスグマ 「!!」

地面に『みずのはどう』が激突し、弾ける。
その衝撃でマッスグマは吹っ飛ぶが、何とか空中で体勢を整えて着地する。
だがキヨミさんは攻撃の手を緩めない。

キヨミ 「マンタイン『つばさでうつ』!!」

マンタイン 「マンー!」

ドンッ!!

マッスグマ 「グ〜!」

キヨミ 「な…?」

ハルカ 「嘘っ!?」

何と、マッスグマはマンタインの翼を受け止めた。
かなりの重量があると思うのだが、マッスグマはその場から一歩も退がらずに受け止めたのだ。
さしものキヨミさんも驚きが隠せていなかった。
予想外だったらしい。
私はこの一瞬を逃さなかった。

ハルカ 「今よマッスグマ『10まんボルト』!!」

キヨミ 「!?」

マッスグマ 「グ〜マーーー!!!」

マッスグマは渾身の気力を振り絞って、体中から放電する。
翼を持った所から電気は伝わり、マンタインの体に伝わった。

バリバリバリバリバリ!!

マンタイン 「マンーーー!!!」

ズウウウンッ!!

マッスグマ 「グ、グマ…!」

ズシーンッ!

マッスグマは限界に来たのか、その場で倒れてしまった。
初めて使った技だけに、制御の仕方がわかっていなかったんだろう。

ハルカ 「…マッスグマ」

マンタイン 「マンッ!!」

何とマンタインは何事もなかったかのように起き上がる。
それでもそれなりに効いていたのだろう、さすがに動きがちょっと固かった。
しかし、あれを喰らってもまだ動けるなんて…マッスグマの渾身の一撃だったのに。
私はマッスグマをボールに戻す。
ありがとうマッスグマ…。

キヨミ 「いい攻撃だったわよ…最後の『10まんボルト』」
キヨミ 「あなたのマッスグマは、攻撃よりも特殊攻撃力の方が強いみたいね」
キヨミ 「性格か、それとも努力か…それはハルカちゃんが知っていると思うけど」
キヨミ 「それ以上の進化はもう望めないけど、これからも頑張って育てなさい」

ハルカ 「は、はいっ!」

そうか、私のマッスグマは物理的な攻撃よりも、特殊的な攻撃の方がいいのかぁ〜。
だったら、技の構成も後々に色々追加していった方がいいってことよね…。
キヨミさんはマンタインをボールに戻し、3体目のボールを手に取った。

キヨミ 「さて、それじゃあ最後になるけど…最後はこのポケモン!」

ボンッ!

クロバット 「クロッ!」

ハルカ 「あ…そのポケモンは」

確か、クロバット。
ズバットやゴルバットに似ている感じのポケモンだ。
私はもしかしてと思い、図鑑を見てみることにした。


ポケモン図鑑 『クロバット:こうもりポケモン』
ポケモン図鑑 『高さ:1.8m 重さ:75.0Kg タイプ1:どく タイプ2:ひこう』
ポケモン図鑑 『腕か足のどちらかだけで羽ばたいている時は、長い距離を飛んでいる証拠。疲れると、羽ばたく羽を代えるのだ』


やっぱり、このポケモンはホウエン地方にも生息するポケモンなんだ。
でもそう考えると、やっぱりズバットやゴルバットの進化形と考えられる。
性能は、あの時の戦闘で実証済み。
果たしてどう戦えばいいのか?
いや、どう戦おうなんて私にはそのレパートリーはないと言っていい。
だったら、ここは一番セオリーに行こう!

ハルカ 「最後よ、頑張って『ラクライ』!!」

ラクライ 「ライッ!」

ラクライは元気よく出てくる。
軽快なステップを踏んで、クロバットを見据えた。

キヨミ 「電気タイプね…セオリーだけど、一番正解と言えるわ」
キヨミ 「このクロバットには少なくとも電気に効果の高い技は覚えていないから」

ハルカ 「……」

わざわざそうやって教えてくれるのは絶対の自信があるからだ。
実際、まだ一度も勝ててない。
いい勝負と言えなくもないけど、キヨミさんは絶対の余裕と自信がある。
遊ばれている…とまでは言わないけど、掌の上で踊っている気がしてならなかった。
だけど、弱気になんてなれない。
胸を借りるつもりで行こう!

ハルカ 「行くわよ、ラクライ。『スパーク』!!」

ラクライ 「ライッ!」

キヨミ 「クロバット、『そらをとぶ』」

クロバット 「クロッ!」

バサササササッ!

ハルカ 「く、また…か」

ラクライ 「ライ〜…」

ラクライの『スパーク』はまるで届かない位置にクロバットは飛行する。
スパークは体当たりする技だけに、こうされると手も足も出ない。
だけど、相手もそのままと言うことはないはず、降りてくるまで耐えるしかない。

キヨミ 「…まさか他に手がない、何て言うんじゃ話にならないわよ? クロバット『エアカッター』!」

クロバット 「クロッ!」

ハルカ 「ゲッ! 忘れてた!」

そう言えば、あのクロバットは飛び道具を持っている。
これじゃあ、ジリ貧じゃない!
とか言っている間に空気の刃がラクライを襲う。

ザシュゥッ! ズバァッ!

ラクライ 「ライ〜…!」

だが、ラクライは何とか踏み留まる。
かなりの距離があったせいか、それとも電気タイプのおかげか、ラクライはまだまだと言った感じだった。

ハルカ (『スパーク』は電気を帯びて体当たりをする技…普通に戦っていたら勝ち目はない)
ハルカ 「だったら、これしかない! ラクライ『でんじは』!!」

ラクライ 「ライ!」

ビビビッ!!

クロバット 「クロッ!」

ラクライは『でんじは』でクロバットを狙うが、クロバットは優々と回避する。
距離がありすぎるのも問題だろう。
なら、こっちも動き回れば…!

ハルカ 「ラクライ、こっちも距離を取るのよ!」

ラクライ 「ライ!」

ラクライは軽快な足取りでその場を離れる。
キヨミさんは冷静に見ているが、クロバットは攻撃してくる様子はなかった。

ハルカ (これだけ距離があればクロバットの攻撃もそうそう届かないはず)
ハルカ (問題はどこまで『我慢』できるか、ね…)

ラクライ 「……」

キヨミ 「……」

クロバット 「……」

予定通り、キヨミさんはラクライの動きをじっ…と見ている。
クロバットもそのまま飛び続けているだけだ。
だけど、そこにはちゃんと穴を用意している。

ハルカ (いくらクロバットでも、飛び続けていれば疲れは絶対溜まる)

図鑑にも書いてあったように、クロバットは飛び疲れた時、腕と足のどちらかだけで羽ばたくと言う。
どこまでクロバットの体力が持つかはわからないけど、このままであれば間違いなくクロバットは疲労していく。
でも、キヨミさんは馬鹿じゃない。そんなことは百も承知だろう。
だから、どこかでクロバットを休ませようとする。
または、あちらから近づいて来るしかない。
『エアカッター』だって無限に撃てるわけじゃない、いつかは撃てなくなる。
だから、ここは我慢よ…。

キヨミ (さて、どこまで読んでいるかはわからないけど…仕掛けてみましょうか)
キヨミ (この『姉さん』のクロバットの力は、多分ハルカちゃんが思っているよりもずっと凄いわよ)
キヨミ 「クロバット、接近して!」

クロバット 「クロッ!」

ハルカ 「来た! ラクライ、気をつけて!」

ラクライ 「ライ!」

凄まじいスピードでクロバットが接近してくる。
一直線の動きだが、今まで見た感じあのクロバットは旋回性能も段違いだわ。
間違いなく普通の攻撃じゃかわされてしまう。
だったら、直接接点ができるのを待つしかない。

キヨミ 「クロバット『ちょうはつ』!」

クロバット 「クロッ!」

ハルカ 「そ、その技は…!?」

言わずと知れた、補助的な行動を封じてしまう技だ。
この場合、『逃げ回る』と言う行動も封じられてしまうようだった。

ラクライ 「……!」

ラクライは動けないのか動かないのか、その場からピクリともしない。
ただ、クロバットに対して怒りを覚えたのか、小さく唸りながらクロバットを真っ直ぐ見据えていた。
退くに退けなくなったか…!

キヨミ 「これで足を使って逃げる…なんて戦術も使えなくなったわよ」
キヨミ 「さぁ…次に何ができるのか、見せてもらいましょうか?」

キヨミさんは余裕を見せてそう言う。
初めから、許容範囲だったわけか…底の深さが全く違うことはわかっていたけど。
これで私の作戦は全く通用しなくなった。

キヨミ 「クロバット、『エアカッター』!」

ハルカ 「こうなったら突っ込めラクライ! 『でんこうせっか』!!」

ラクライ 「ライーー!!」

クロバット 「クロッ!!」

ズバァァッ!!

『エアカッター』の刃に自分から向かい、ラクライはそれを突破してクロバットに飛びかかった。

クロバット 「クロッ!」

が、やはりクロバットは上昇して逃げる。
だけど、私はここで次の指示を出す。

ハルカ 「ラクライ、岩場を蹴って『スパーク』よ!!」

キヨミ 「…!」

今度はクロバットの反応が遅い。
今までの飛行で多少は疲れているのか、動きがやや鈍く感じた。
そしてラクライは今まででも最速の動きを見せる。
『でんこうせっか』の後、その軌道上に高い岩場を見つけた私は、そこを足場に三角飛びをすることにした。
そうすれば高い所でも届くようになる。
ラクライは見事、期待に答えてくれる。
今度こそ、クロバットの体に攻撃を加えることが出来た。

ラクライ 「ライーーー!!」

バチバチバチィッ!!

クロバット 「クローー!!」

ハルカ 「ラクライ、そのままクロバットを地上に落とすのよ!!」

キヨミ 「…クロバット振り落とすのよ!」

クロバット 「ク、クロ…!」

ラクライ 「ライーーー!!」

ズッドオオオオオオオオンッ!!

物凄い音がして地面が一瞬揺れる。
そして、土煙を上げ、視界を遮られた。

ハルカ 「ラ、ラクライ…!?」

キヨミ (『スパーク』の衝撃で麻痺してしまったのね。これは…やられたかもしれないわ)

土煙はもくもく…と舞い上がり、やがて視界が澄み渡っていく。
そして、そこに立っているポケモンは一匹だった。
避雷針のようにツンと立った黄色いたてがみに、青い体。
鋭く赤いその瞳は、まさに雷獣を思わせる。
そう、それは全く見た事のないポケモンだった。

ラクライ? 「ラーーーイ!!」

ハルカ 「……」

私は目を点にして図鑑を参照する。


ポケモン図鑑 『ライボルト:ほうでんポケモン』
ポケモン図鑑 『高さ:1.5m 重さ:40.2Kg タイプ1:でんき』
ポケモン図鑑 『鬣(たてがみ)からいつも放電しているため、火花で山火事を起こしてしまうことも。戦いになると雷雲を作り出す』


ハルカ 「し、進化してる…!?」

キヨミ 「…おめでとうハルカちゃん、今度はやられたわね」

そう言ってキヨミさんが称えてくれる。
喜ぶべきことが同時に起こってちょっとうろたえる私。
一体何から喜べばいいのか…。

キヨミ 「あのライボルト、きっとこれからもハルカちゃんを助けてくれると思うわ」
キヨミ 「相性の差もあったけど、あのクロバットを倒せたのなら、きっといいポケモンよ」

ハルカ 「でも、それはあのクロバットが疲労していたから…」

キヨミ 「それもあるかもしれない。でもそんなやわな体作りはしてないと思うわ」
キヨミ 「ポケモンリーグでは、もっと過酷なことも要求されるから」

ハルカ 「…厳しいんですね」

キヨミさんは頷く。
そしてクロバットをボールに戻した。

シュボンッ!

キヨミ 「…じゃあ、ここまでね。次に会う時はどうなっているかわからないけど、楽しみにしているわ」
キヨミ 「いつか、私の本当のポケモンと戦うのを…ね」

そう言ってキヨミさんは去って行った。
絶対の余裕と自信を持っていたキヨミさんの背中が、少し昂ぶっているように思えた。
そう言えば、聞いたことはなかった。
キヨミさんは、どうしてポケモントレーナーになったのか。
気にはなるけど、結局聞けなかった。
だけど、それはまたいつかの機会でいい気がした。
私は今の興奮を爆発させる。

ハルカ 「もう〜〜…よくやったわよーーーーラクライーーーー!!!!! じゃなくてライボルトーーー!!!」

ライボルト 「ライライ♪」

可愛い鳴き声をあげて照れるライボルト。
能天気な性格は相変わらずだろうけど、もう今はこの娘が可愛くて仕方がない!
何せあのクロバットを倒すなんて!
色々悪循環も重なったことは違いないと思うけど、それでも嬉しい!

ハルカ 「ああ〜まさかあのキヨミさんに勝てるなんて〜…1回だけど。後全部負けてるけど」

もう嬉しくて嬉しくてしばらくその辺で踊ってしまった。
思い返せばこれもいい思い出である。





………………………。





そして、時刻は夜。
今はハジツゲタウンのとある民家。
私は届け物を持ってここにやって来た。

ハルカ 「ごめんくださ〜い、ソライシ博士いますか〜?」

がちゃ、と音をたてて扉は開く。
そして、私の顔を見て博士は驚いたように。

ソライシ 「あ、君はあの時の…! 一体どうしたんだい?」

ハルカ 「えっと、これ…ソライシ博士のなんでしょ?」

博士は私の差し出したそれを見てとにかく驚く。
そして、それを受け取り、わなわなと震えていた。

ソライシ 「ま、まさか…あの『いんせき』が戻って来るなんて! ありがとうハルカちゃん!!」
ソライシ 「何て言うか…その、もう本当に嬉しいよ!! わーーーーーい!!!」

ソライシ博士はその場で走り回って喜ぶ。
子供かい…と思っていると、ひとりの女性が私の元にやって来た。
奥さんだろうか? セミロングの似合う美人だ。
エプロン姿をしている所を見ると、夜食でも作っていたのだろうか?

奥さん? 「わざわざありがとうハルカちゃん…お礼にこれを」

ハルカ 「…『わざマシン』、ですよね?」

ソライシ 「それの中身は27番『おんがえし』だよ」
ソライシ 「良くしてくれるトレーナーのために、ポケモンが全力で攻撃する技なんだ」
ソライシ 「絆が高ければ高いほど威力に差ができるから、攻撃力の高いポケモンにつけてあげれば効果も倍増だ!」

ハルカ 「あ、ありがとうございます! 活用させてもらいます」

私はこうして、一旦ポケモンセンターに戻る事にした。



………。



ハルカ 「ふぅ…ようやく、一難去った…って所かな?」

結局、マグマ団に関わってしまった。
あんな捨て台詞を吐いたからには、あれで終わるとは思えない。
当然次の作戦を画策していることだろう。
とは言っても、成り行きでああなったのだからこちらから仕掛ける要因はない。
とりあえず、本業に戻ろうと言った所だ。

ハルカ 「う〜んと…まずはフエンタウンよね。また『ほのおのぬけみち』通らないと」

こちらのポケモンもパワーアップしているのでさすがに問題はほとんどない。
ただ、どちらのルートを通るか。

ハルカ 「一旦『りゅうせいのたき』でポケモン探したり、特訓したりするのもいいかもしれないな〜」

目的はポケモンリーグだけど、折角だから色んなポケモンと出遭いたいと言うのも本音だ。
『りゅうせいのたき』ではロクに探索も何も出来なかったから、ズバット位しか見れなかったし。

ハルカ 「ん〜…でもキヨミさんに少しでも追い着かないといけないしなぁ」

あんまり待たせすぎるのも悪い。
と言うことは、やはりフエンへ直行した方が良さそうね。
色々トラブル続きだったけど、今度こそまともに到着したいなぁ〜。
そんなことを思っていたら、急に眠気が襲う。
疲れたし…今日はもうお・や・す…み〜〜〜〜………



…To be continued




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