Menu
BackNext
サファイアにBackサファイアにNext




POCKET MONSTER RUBY



第36話 『立ちはだかる壁』




ハルカ 「…さてと」

時刻は朝の7時。
私の体調はほぼ完治した。私は早朝からポケモン達を引き取り、ポケモンセンターの外に出る。
ペリッパーはまだ完治していない。
やはり、ジム戦は先日決めた4体で行くことになるだろう。

ハルカ (果たして、アノプスで戦えるのかどうか…)

正直不安すぎる…。
せめてスパーリングの相手でもいれば…。
しかしながら、そう上手い具合に出会えれば苦労はない。
ジムで頼めば、ナギさんにばれてしまうかもしれないし。

ハルカ 「119番道路はもう懲り懲りだし、逆に行ってみますか」

私はそう思うと、ツリーハウスから繋がっている橋を渡る。
そして、私は120番道路に向かうのだった…。



………。
……。
…。



『某日 時刻7:30 120番道路・北部』


空は蒼く、雲ひとつ無い晴天だった。
しかしながら安心はできない。
この辺りはいつ雨が降ってもおかしくはないのだから。

ハルカ 「とはいえ、今の所は大丈夫そうね」

私は現在の空を見て、歩き始める。
この辺りも高い草が多く茂っており、自転車が使えない。
とりあえず、先がほとんど見えない状態なので、私は草を手で掻き分けながら進むことにする。

ガサッガサッ…

私の身長よりも高い草を手で掻き分け、ゆっくりと進んで行く。
ここからの視点だと、草が邪魔で周りが全く見えない。
ゆえに、近くにトレーナーがいるかどうかもわからないのだ。
まぁ、さすがにこの状態でわざわざ仕掛けてくる馬鹿は、某サークル位だろう。
こんな場所ではバトルするのも一苦労なのだから。

ハルカ 「…ふぅ」

そんなことを考えながら進んでいると、すぐに草地帯は終わりを告げる。
ひとつため息をついて、私は先を確認する。
すると、先には一本の橋が見えた。
方角で言うと西側に当たり、割と大きな橋だ。
横に人が4人位並んでも窮屈にならないだろう。

ハルカ 「ん…? あの後ろ姿は…」

私はその橋の真ん中辺りに佇む、黒いスーツ姿の人間を見つける。
その姿は特徴的で、見間違うとは思えない。
私は駆け足気味にその人に近づく。
すると、私が近づく足音に気付いたのか、その人は振り向く。

ハルカ 「あー! やっぱりダイゴさんっ」

ダイゴ 「やぁハルカちゃん。奇遇だね、こんな所で会うなんて」

互いの顔を見合って、驚く私とは裏腹に至ってマイペースなダイゴさん。
これで会うのは3度目だけど、この人のことは未だによくわからない。
何となく、大物だという感じはする…でも、ただの天然かもしれない。
不思議と、この人には何か気になるところが多いのよね…。

ダイゴ 「そういえば、体は大丈夫かい?」

ハルカ 「は…? まぁ、本調子とはいきませんけど…」

急な質問に思わず戸惑う私。
そんな私の返答聞いて、ダイゴさんは静かに笑みを浮かべる。

ダイゴ 「そうか…無事で何よりだよ。あの状況で生きているなんて、それだけでも奇跡のようなものだからね」

ハルカ 「!? まさか、天気研究所のことを言っているんですか?」

私がそう言うと、ダイゴさんは笑顔のままで答える。

ダイゴ 「うん、そうだよ。僕が駆け付けた時は、すでに研究所は全壊状態」
ダイゴ 「誰かいないかと探してみたら、瓦礫に埋もれて意識不明の君と、君を心配そうに見ていたアノプスが見つかった」
ダイゴ 「丁度その時、ナギちゃんが一緒にいたからハルカちゃんとアノプスは先にヒワマキシティに連れて行ってもらった」
ダイゴ 「僕は残って、更に探してみたんだけど、一階の仮眠室で運良く瓦礫(がれき)の下敷きにならなかったバシャーモが、ほぼ無傷のベッドと一緒に見つかったんだ」
ダイゴ 「多分、君のポケモンじゃないかと思って僕がヒワマキシティのポケモンセンターに預けておいたんだ」
ダイゴ 「後は、今に至る…ってことさ」

ダイゴさんはわざわざ解説してくれる。
なるほど…それで私はヒワマキジムにいたのね。
ナギさんと一緒にいたのかぁ…。

ハルカ 「じゃあ…ダイゴさんとナギさんが、私と私のポケモンを助けてくれたってことですね」

ダイゴ 「そういうことになるね…。それにしても、君は一体誰と戦ったんだい?」

ダイゴさんは初めて見せる真剣な表情で、そう尋ねる。
私はあの時の状況を思い出し、ダイゴさんに語った。



………。



ダイゴ 「そうか…マグマ団の幹部に」

ハルカ 「はい…正直、レベルが違うと思いました」

ダイゴ 「…そうだね、あの研究所を、ポケモンの『じしん』一発で全壊させるなんて、普通のレベルじゃまず無理だね」

ハルカ 「そ、そうなんですか…やっぱり、凄かったんですね」

ダイゴさんの言葉を聞いて、私はぞっとする。
この人がここまで言うのであれば、何故か信用できる気がした。

ダイゴ (しかし…マグマ団にそれほどのトレーナーがいるとは思わなかった)
ダイゴ (少なくともあのレベルの『じしん』を繰り出すなんて、四天王クラスだ…)
ダイゴ (今のハルカちゃんで勝てないのは、仕方ないのかもしれない)

ハルカ 「あの、そう言えば…ダイゴさん、どうしてここに?」

今更だけど、聞き忘れていた。
この人がいるというだけで、何かある気がするのだ。
私が聞くと、ダイゴさんは笑顔を見せて答える。

ダイゴ 「そうそう忘れていたよ、実はね…」

ハルカ 「実は…?」

ダイゴさんは何かを言おうとしたが、私を見て。

ダイゴ 「…いや、実際にやってみせた方がいいな」
ダイゴ 「ハルカちゃん、ポケモンバトルの用意はいいかい?」

ハルカ 「えっ? ええ…」

突然のことに、私は驚きながら頷く。
まさか、いきなりバトルをする気なのだろうか?
私は腰のボールを確認しておく。
1・2・3・4・5…大丈夫、すぐにでも戦える。

ダイゴ 「よし、それじゃあ…ここに見えない何かがあるよね?」

ダイゴさんはそう言って西の方角、橋の続く道の先を指差した。

ハルカ 「…? 見えない何か…って」

見えないとまで言っているのだから、当然目視できるわけはない。
だけど、そこに何かがいるということはわかった。
妙な気配を感じる。
格闘家としての勘だ。

ダイゴ 「実はこれを使うと…」

ピシャッ!

ハルカ 「!?」

突然ダイゴさんは、懐から取り出した緑色の機械を使って音を出した。
渇いたような音で、あの機械のスピーカーから出た物だ。

? 「レオーン!!」

ハルカ 「な、何っ!? まさか、このポケモンが…」

いきなり姿を現したその緑色のポケモンを私は図鑑で確かめる。


ポケモン図鑑 『カクレオン:いろへんげポケモン』
ポケモン図鑑 『高さ:1.0m 重さ:22.0Kg タイプ:ノーマル』
ポケモン図鑑 『体の色を自在に変える事で、周りの景色に溶け込む事が出来る。お腹のギザギザ模様だけは変えられない』


ハルカ 「…そう言うことか。だったら、容赦はしないわよ!」

カクレオン 「レオー!!」

カクレオンは興奮している様で、すぐにでも飛び掛かってきそうだった。
私はモンスターボールを手に取り、すかさず……

カクレオン 「レオレオレオレオレオレオレオレオレ!!」

ハルカ 「無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!」

ドガガガガガガガァッ!!

カクレオン 「ギャベバァ−−!!」

こちらの事情もお構いなしに向かって来たカクレオンは、私の蹴りによるラッシュで不様に散った…。
私は蹴りを振りぬいた態勢のまま、動きを止める。

ハルカ 「やれやれ…ね」

それだけを私は言い残した。
そしてダイゴさんを見てみると、僅かながら苦笑しているようだった。
ちょっと恥ずい…。

ダイゴ 「…何て言うか、君の戦い方って面白いね」

それが精一杯の言葉のようだった。
私ももう否定する気も起きなかった。



カクレオン 『いろへんげポケモン』

再起不能…リタイヤ

ハルカ 「…やれやれ」



………。



ダイゴ 「…とりあえず、これはハルカちゃんにあげるよ」

そう言ってダイゴさんは私に緑色の機械を手渡す。

ダイゴ 「それは『デボンスコープ』と言って、うちの製品だから」

ハルカ 「…ありがとうございます」

私は有り難くそれを受け取る。
が、私には使い道がないかもしれない…。

ダイゴ 「…さっきみたいに、姿の見えないポケモンに対して使えば、音に驚いて姿を現すはずだよ」

ハルカ 「カクレオン以外にも姿を消すポケモンっているんですか?」

ダイゴ 「…そうだね、姿消すポケモンはカクレオン位かもしれない」
ダイゴ 「でも、使い道はきっと他にもあると思うよ」
ダイゴ 「それを見つけるのは、使う本人だから…」
ダイゴ 「それじゃあ、僕はこれで…」

ボンッ!

エアームド 「エアー!」

バサッバサッバサッ!!

ハルカ 「…行っちゃった」

何だか、去る時はいつも一瞬だなぁ…。
やっぱり社長の息子だけに、忙しいんだろう。
私はここで、本来の目的を思い出す。

ハルカ 「結局、バトルは出来なかったわね」

いつのまにやら、カクレオンも姿を消している。
このままここにいてもしょうがない気がした。

ハルカ 「時間は…まだまだ余裕。先に進んでみようかな?」

私はそう思い、道沿いに進もうとする…。

? 「そこの君! もしかしてトレーナーかい!?」

ハルカ 「はぁ…? 一体何…?」

急に後ろから声をかけられ、私は思わず振り向く。
そして、当然のように目が合った。
それはポケモンバトルの合図。
見ると、相手は鳥使いの風貌。
年は私と変わらない位の少年だった。
少年はすぐにモンスターボールを手に取る。
それを見て私も臨戦態勢を取った。
都合良く相手は鳥使い。
さっそくスパーリングの相手になってもらおう。

少年 「俺は鳥使いのツバサ! 俺とポケモンバトルだ!!」

ハルカ 「私はハルカ! 挑まれた以上、相手になるわ!」

私たちは互いにバトルの意志を確認すると、ほぼ同時にボールを投げる。

ハルカ 「行けっ『アノプス』!」
ツバサ 「行けっ『チルット』!」

ボボンッ!!

アノプス 「アノッ!」
チルット 「チルッ」

互いのポケモンが登場し、バトルは開始する。
私はまず相手の出方を伺うことにした。

ハルカ (確か、チルットは『うたう』を使うのよね…)

『うたう』とは、相手のポケモンを眠らせてしまう技だ。
眠ってしまったポケモンは、簡単には起きない。
決まると恐ろしい技だけど、使うタイミングが難しいためか、失敗することもしばしば。
読まれればとたんにリスクに変わる技だけに、使い手はかなりの注意が必要と言えるわね。

ツバサ 「チルット『おどろかす』!」

チルット 「チルーッ!」

ハルカ 「突っ込んで来た!? アノプス『ひっかく』!」

正面から飛んでくるチルット。
どんな『おどろかす』が来るのかわからないけど、ここは受けて立つわ!

アノプス 「アノーッ!!」

こちらのアノプスはその場から飛び跳ねて『ひっかく』を敢行する。
互いの距離が一気に近づき、技が繰り出される。

チルット 「チルーーーッ!!」

アノプス 「!? ア、アノッ!?」

ドシャッ

チルットはいきなり大声を出し、アノプスは怯んでしまう。
空中での競り合いに負けたアノプスは不様に背中から地面に落ちてしまった。

ツバサ 「チャンスだ! チルット『うたう』!!」

ハルカ 「アノプス『まもる』!」

チルット 「チルッチルッチル〜♪」

アノプス 「アノッ!」

チルットの『うたう』が繰り出されるのとほぼ同時にアノプスは『まもる』を繰り出す。
どうにか防げたようね…危なかったわ。

ツバサ 「く…『まもる』を覚えていたのか。それならチルット、『みだれづき』!!」

チルット 「チルチルッ!」

チルットは戦法を変え、攻めてくる。
しめたと思った私は、反撃に転じる。

ハルカ 「アノプス、『げんしのちから』!!」

アノプス 「アノッ!」

ゴゴゴゴゴッ!

アノプスは体勢を立て直し、体の周りに岩を集める。
そして、突っ込んでくるチルットに向かって真っ向から突っ込む。

ドッガァ!!

チルット 「チルーーー!!」

ズデンッ! デンデンッ!!

チルットは敢えなく地面に落ちる。
効果は抜群、完全勝利ね!

ツバサ 「ま、まいった…」

ハルカ 「OKアノプス! 戻っていいわよ!」

アノプス 「アノアノッ♪」

アノプスは嬉しそうに跳ねる。
私はそんなアノプスを誉めてボールに戻した。

ツバサ 「やられたよ…君は強いんだな」

バトルが終わり、鳥使いのツバサが近くに歩み寄った。
私は笑顔で返答する。

ハルカ 「ううん、たまたま相性が良かっただけよ」

ツバサ 「…でも互いに進化前のポケモンだったから、悔しいよ」

そう言いつつも、右手を差し出して握手を要求するツバサ。
私は何も言わずに握り返す。

ツバサ 「そうだ! 良かったらエントリコールを登録し合わないかい?」

ハルカ 「そうね、いいわよ……はいこれ」

私はあらかじめ用意してある番号のコピーをツバサに渡した。

ツバサ 「それじゃ…これが俺の」

こうして、私たちは互いに番号を交換した。

ハルカ 「よし…登録完了」

ツバサ 「こっちも登録したよ」

ハルカ 「そう言えば、聞きたいことがあるんだけど、いい?」

ツバサ 「え…何?」

私は唐突に尋ねると、ツバサは不思議そうな顔をする。

ハルカ 「チルットの進化系って、チルタリスなのよね?」

私がそう聞くと、ツバサは笑顔で頷く。

ツバサ 「ああ、そうだよ! 進化までが長くて大変だけど、その分楽しみだよ♪」
ツバサ 「ハルカちゃんも、アノプスを育ててるから同じ位大変でしょ?」

楽しそうに言うツバサ。
私は苦笑しながらも笑顔で答える。

ハルカ 「…そ、そうね。大変といえば大変かも」

少なくとも、未だにアノプスは進化する様子はない。
もしかしたらジム戦までには…とか思ってたけど、とても期待している余裕はない。
あの状態で戦えるようになっておかないと。

ツバサ 「でも、どうしてそんなことを? もしかして育てるつもりなのかい?」

ハルカ 「あ、そうじゃないの! 実はジム戦を控えててね…少しでも情報が欲しかったから」

私はそう言い繕う。
嘘ではないが、つい慌ててしまった…。
だけど、特に気にした風もなく、ツバサは感心したように答える。

ツバサ 「なるほど…ということはヒワマキジムに挑むのか」

ハルカ 「うん…ジムリーダーがチルタリスを使っているの見たから、気になってね」

見た目はチルットにそっくりだけど、明らかに大きさが違う。
初めて見たポケモンだけど、何となくチルットの進化系だというのは予想できた。
でも、そうなるとノーマルと飛行タイプの併せ持ちということになるのだろう。
それならば、バシャーモの格闘技でもダメージは期待できる。
だけど、その考えはツバサの次の台詞であっさりと覆された。

ツバサ 「気をつけなよ、チルタリスは飛行タイプだけどドラゴンタイプでもあるから」

ハルカ 「!? ド、ドラゴン!?」

あんな可愛い風貌してドラゴン?
どう見ても鳥類に見えるのに爬虫類とはこれ如何に?

ハルカ 「あ、あの…ドラゴンタイプが有利なのって?」

私は恐る恐る聞いてみる。
少なくとも、私は対戦成績にドラゴンタイプはいない。
そして、ツバサの口からはとんでもないことが告げられる。

ツバサ 「ドラゴンタイプは、炎、水、電気、草タイプの技に耐性を持ち、氷、ドラゴンタイプの技に弱いんだ」

ハルカ 「4つも耐性があるのか…」

となると、私のポケモンでまともに渡りあえるのはマッスグマとアノプス位か…。

ハルカ 「…? 弱点がドラゴン」

私はふと気付く。
ドラゴンタイプはドラゴンタイプの技に弱いのか…。

ツバサ 「そう、ドラゴンタイプは強力だけど、効果抜群になるのはドラゴンタイプだけなんだ」
ツバサ 「半減できるのは、鋼タイプだけ…後は全て普通のダメージだよ」

つまり、ドラゴンタイプは耐性が高い代わりに有効な攻撃が少ないということだ。
とはいえ、ナギさんはあくまで飛行タイプの使い手。
ドラゴンタイプの技をメインで使うわけではないだろう。
だけど、それはこちらにとって不利になることはあれど、有利になるとは思えなかった。

ツバサ 「…確かにチルタリスは相手にするには厄介なポケモンだけど」
ツバサ 「それでも、氷タイプの技にはまず勝ち目がないんだよ」

ハルカ 「氷タイプは、残念ながら持ち合わせていないわ」

私は沈みがちの声でそう言う。
そんな私の言葉を聞いてか、ツバサは励ますように。

ツバサ 「まぁ、ハルカちゃんならきっと勝てると思うよ!」
ツバサ 「だから、自信を持って戦ってくれ!」

ハルカ 「…そうね、結局はできることをやるだけだし」
ハルカ 「後は開き直るしかないわね! うんっ、ありがとう!」

ツバサ 「いやいや、応援してるから頑張ってね!」

ハルカ 「よしっ、じゃあ私は、もう少し先に行ってバトルをしてくるわ!」

私は気合いを入れてそう言う。
そして、すぐにでも駆け出しそうな私をツバサは呼び止める。

ツバサ 「そうそう! この先でバトルするなら気を付けた方がいいよ!?」

ハルカ 「? 何かあるの?」

私がそう聞くと、ツバサは少々暗い顔をして。

ツバサ 「…凄腕のエリートトレーナーがいるらしんだ」
ツバサ 「この辺りでは、敵無しって言われてる」

ハルカ 「…覚えておくわ」

私はそう言って走りだす。
凄腕か…どれほどの者か知らないけど、そう簡単に私は負けないわよ!
…まぁ、最近不調気味だけど。
私はそんなことを思いながら走った。



………。
……。
…。



『時刻11:00 120番道路・中部』


ハルカ 「アノプス『げんしのちから』!」

アノプス 「アノッ!」

ゴゴゴッ! ドガァ!

ホエルコ 「ホエー!!」

ズシャア! ゴロゴロ−!!

アノプスの技がクリーンヒットし、相手のホエルコはボールのように地面を転がる。
それで勝負は終わった。

パラソルお姉さん 「ああ!? ホエルコ〜!!」

私は勝利を確信し、アノプスをボールに戻す。
これで5連勝。
アノプスの調子は、どんどん良くなる。
『げんしのちから』にも慣れてきた様で、段々とキレが良くなってきている。
この調子なら、ジム戦でも十分通用するかもしれない。
私は時間を確認し、後一度位戦ってから戻ることにした。



………。



ハルカ 「…やな雲ね」

空を見るといかにも降りそうな雲が覆っていた。
アノプスは水に弱いから、雨が降ると不利になるわね。

ハルカ 「泳ぐことはできても、水に強いとは限らない…か」

ここは戻った方がいいかもしれないわね。
そう思った矢先、そうは問屋が下ろさないようだった。

? 「あなた…結構強いらしいわね。バトル、してもらえるかしら?」

ハルカ 「…もう帰ろうかと思ったけど、しょうがないわね!」

ボンッ!

アノプス 「アノッ!!」

本日、絶好調のアノプス。
苦手と思われた水タイプ相手でも、勝利することができ、今が伸び盛りと言えるだろう。
私は相手を見る。
長い髪に、エリートトレーナー特有の服装。
冷静そうな表情でいかにも…といった感がある。
まさか、このトレーナーが例の…?

? 「出なさい…ミロカロス」

ボンッ!

ミロカロス 「ミロー!」

相手が出したポケモンは何やら蛇のようにクネクネしたポケモンだった。
しかしながら、長さが普通じゃない…ゆうに6メートルはあるだろう。
いくらアノプスが小さいとはいえ、かなりの大きさだった。

ポケモン図鑑 『ミロカロス:いつくしみポケモン』
ポケモン図鑑 『高さ:6.2m 重さ:162.0Kg タイプ:みず』
ポケモン図鑑 『最も美しいポケモンと言われている。怒りや憎しみの心を癒して、争いを鎮める力を持っている』

アノプス 「アノッ!!」

ハルカ (よりにもよって水タイプ…!)

アノプスとの相性は最悪。
弾みで出してしまったとはいえ、やや後悔する。
相手は恐らく、凄腕と言われるトレーナー。
まともな相性で戦っても勝てるとは限らない。
ましてや、あのポケモン…間違いなく強い。
見た目からして、強そうなオーラを感じる。
キヨミさんやカガリさんのポケモンも、似たようなオーラを身に纏っていた。

ハルカ (…それでも、出した以上はやるしかないか)
ハルカ 「アノプス、『げん…!」
女 「話にならないわね…」

ハルカ 「!?」

私が指示を出そうとする途中でそんなことを呟かれる。
数秒の沈黙があったけど、すぐに相手が口を紡ぐ。

女 「さっさと交換しなさい、こんな勝つことがわかり切ったバトルに意味はないわ」

ベロベロに舐められているようだ。
当然頭に来る…が、そう思われても仕方がない。
相性差は明白、加えてこちらのポケモンは進化さえしていない。
相手の実力がどれほどかは知らないけど、軽く見られてもおかしくはないのだろう。
だけど、私は退くつもりはない。

ハルカ 「話にならないかどうか、試してみなさいよ!」
ハルカ 「アノプス『げんしのちから』!!」

アノプス 『ア…アノッ!』

私は速攻で指示を出す。
しかし、アノプスは困ったような感じで動かなかった。

ハルカ 「ちょっとどうしたのよ!? ビビってるんじゃないわよ!」

アノプス 「アノッアノッ!!」

しかしながら、アノプスは訴えるような鳴き声をあげるだけだった。

女 「呆れた…PPの限界にも気付かないなんて」

言葉通り、見下すような表情と口調で呆れられる。
こっちは怒りよりも驚きの方が大きい。

ハルカ 「PPって…」

私は今日アノプスが使った『げんしのちから』は5回。
普通たった5回で切れるなんて思えない。
今まで自分が多く使ってきた技でも、少なくて15回位は持った。

女 「無知なあなたに教えてあげるわ…『げんしのちから』は岩タイプの技の中でも上位技」
女 「威力こそは高くないけれど、時に使い手の戦闘能力を引き上げる効果のある、魅力的な技よ」
女 「そして、ポケモンの技は難しい技になればなるほど、PPの残量が少なくなる」
女 「有名な例として、『だいもんじ』、『ふぶき』、『はかいこうせん』などが例に挙げられるわ」

ハルカ 「…解説どうも、反論もできないわね」

明らかに私のミスだ。
こんな状態では、とても勝てるとは思えない。

ハルカ (…どうしよう?)

柄にもなく迷ってしまう。
それが命取りになった。

女 「ちなみに、そちらから仕掛ける意思を見せた以上、こちらも容赦はしないわ…ミロカロス『みずのはどう』」

ミロカロス 「ミロッ!」

ギュッバァッ!!

ミロカロスの口から圧縮された水の塊が吐き出される。
判断に迷った私には、何もできなかった。

ザパァンッ!!

アノプス 「アノップスッ!!」

なすがまま直撃を食らうアノプス。
その威力にアノプスは一撃で倒れる。
見事なまでの完全敗北だ。

女 「余興は終わり…さっさと本命のポケモンを出しなさい」
女 「こっちはミロカロス1体しかいないけど、遠慮はいらないわ」

相手はつまらなさそうにそう言う。
どうやら、本気で舐められているらしい…これは『気』を入れてかからないといけないわね!

ハルカ 「負けても後悔しないでよ! 行けっ『ライボルト』!」

ボンッ!

ライボルト 「ラ〜イ♪」

相変わらずの能天気声でライボルトは現われる。
私は最初から倒しに向かう。

ハルカ 「ライボルト『スパーク』!」

ライボルト 「ラーイ!」

バチバチィ!!

ミロカロス 「ミロー!」

ミロカロスの頭に向かって電撃付きの体当たりするライボルト。
ミロカロスは仰け反るがすぐに体勢を立て直す。

ハルカ (く…直撃なのに、倒せないなんて)

一瞬、以前の敗戦を思い出す。
あの時も倒せなかった。
私のポケモンは攻撃力が低い…そんな思いがどうしても残ってしまう。

女 「甘い攻撃ね…その程度の威力じゃミロカロスは倒れないわ」

ハルカ 「それなら、別の戦法で…! ライボルト『でんじは』」

ライボルト 「ライッ!」

ビビビビッ!!

ミロカロス 「!!」

またしてもミロカロスに技が決まる。
ミロカロスは『まひ』によって痺れてしまう。

ハルカ 「よしっ! 動きを制限すれば…」
女 「ミロカロス、『リフレッシュ』」

ミロカロス 「!!」

技の宣言を聞いた直後、ミロカロスの体が輝く。
そして次の瞬間。

女 「ミロカロス『みずのはどう』」

ハルカ (そんな馬鹿な! 『まひ』しているはずなのに、反応が速過ぎる!)

ミロカロス 「ミローーッ!!」

ギュッバァッ!!

考えている暇はない!
食らったら、大ダメージだ!

ハルカ 「ライボルト、伏せて!!」

ライボルト 「!!」

ジャパァンッ!!

素早く声に反応してくれるライボルト。
水の塊は伏せたライボルトの頭上を掠め、後ろの木に着弾する。
どうにか『みずのはどう』を回避できたようね。

ハルカ 「…どうなってるのよ一体」

『でんじは』は確実に決まった、『まひ』したはずだった。
なのに、ミロカロスは何の問題もなく反撃してきた。
どう考えてもおかしい。
普通『まひ』したら、まず素早さが激減する。
動きそのものが制限され、動けないことさえある。
トレーナーからの声にも反応は遅れ、すぐに反撃などできるはずがない。

ハルカ (と言うことは…『リフレッシュ』という技が原因か…)

あの技を宣言した後すぐだった…つまり。

ハルカ (『リフレッシュ』は英語で『Refresh:回復』)

ということは間違いなく、状態回復技と見るのが妥当だ。 だとしたら、『でんじは』の効果はほぼ皆無。
こうなったら…。

ハルカ 「覚悟決めてライボルト! こうなったら当たって砕けろよっ!! 『スパーク』!!」

ライボルト 「ライッ!!」

ライボルトは真っすぐ突進する。
ミロカロスはかわす気がないのか、その場から動こうとはしない。
一気に間は詰まり、ライボルトは頭からぶち当たった。

バチバチバチィッ!!

電撃が炸裂し、ミロカロスはやや後ろに後退する。
効いている…でも倒れない。
2発目も直撃なのに、まだ倒れない。

ハルカ 「だったら、倒れるまで何発でも…!」

女 「ミロカロス『じこさいせい』!」

ミロカロス 「ミロッ!」

再びミロカロスの体が輝きだす。
だが今度の光は『リフレッシュ』の時よりも淡い。
そして見る見る内にミロカロスのダメージが回復していく。

ハルカ 「ダメージの回復…そこまで出来るの!?」

こんなポケモン、どうすれば倒せる…!?
どれだけ考えてもいい考えなんて浮かばない。
どこかの某ロボットシュミレーションゲームなら、この辺りで味方の増援が来るか、新しい必殺技で撃退するところだろう。
しかしながら、これは現実の世界。
そんな美味い話はない。

女 「…それが限界みたいね」
女 「もういいわ、終わりにしましょう…ミロカロス『まきつく』」

ミロカロス 「ミロッ!」

ライボルト 「ライ〜!」

ギュ〜!!

ミロカロスは蛇のようなその体でライボルトを締め付ける。
さすがに大きさと体重が違い過ぎる。
160kg相当の体重から締め付けられるライボルトは、全身を完璧に捕らえられた。

ハルカ 「く…振りほどくのよライボルト!!」

ライボルト 「ライ〜!!」

ライボルトは抵抗するが全く動けない。
このままでは…!!

ポツ…ポツ…

女 「…雨か、振り出したわね」

ハルカ 「!?」

ザアアアアアアァァァァッ!!!

空を見た瞬間、雨が降り始める。
そして、次の瞬間。

女 「ミロカロス『みずのはどう』」

ミロカロス 「ミロー!」

ドッパアァンッ!

ライボルト 「ライーーーッ!!」

ミロカロスに巻き付かれたまま、ライボルトの至近距離で『みずのはどう』が炸裂する。
今までの中で、最も威力の集約された一撃だった。

ドシャアッ!!

ミロカロスから解放されたライボルトは力なく倒れる。

ハルカ 「ライボルト!!」

声をかけるが反応はない。
気絶しているのだろう…私は無言でライボルトを戻す。

女 「少しは現実がわかったかしら?」

相手はミロカロスをボールに戻し、その場で立ち尽くす私に向かって言葉を放つ。

女 「…もし、雪辱を挑みたいなら、ポケモンリーグまで来ることね」

ハルカ 「……」

女 「私はすでにポケモンリーグの出場資格を得ているから、その気があるなら、上ってくることね」
女 「もっとも…その程度の実力で目指せるほど甘い所じゃないけれどね」

それだけを言って、相手は去っていく。
すでに周りには誰もおらず、私だけがその場で雨に打たれ続けた。
そんな状況の中、私は一言呟く。

ハルカ 「…嫌な雨ね」

…To be continued




Menu
BackNext
サファイアにBackサファイアにNext




inserted by FC2 system