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POCKET MONSTER RUBY
第37話 『ただ、前を見て』
『時刻13:00 ヒワマキシティ・ポケモンセンター』
ハルカ 「それじゃ、お願いします」
店員 「はい、お預かりします」
私はポケモンを預けて、ワンボックスルームに向かった。
考えることはいくらでもある。
このままジム戦をやっても、負ける。
………。
ハルカ 「…どうしよう」
本気で行き詰まっていた。今回の負けで、ライボルトの力不足が露呈された気がする。
有利なはずの水タイプ相手にあそこまであしらわれてしまっては、もはや実力以前の問題だ。
あれでは、きっとナギさんのポケモンにも勝てない気がする。
弱点でもまともに倒せないのに、そうでないチルタリスをライボルトでどうやって倒す?
ハルカ (…答えなんて、何も出てこない…か)
ポツポツポツ…サァァァァ…
外では雨の打ちつける音が聞こえる。
前に負けた時も雨が降ってた。
頭にざらつきが残る。
開き直るつもりだったのに、迷いが出た。
こんな精神状態じゃ、まともなバトルなんて出来ない。
ハルカ (キヨミさんが待っているのに…そこへ辿り着くことがこんなにも困難だなんて)
これなら自分が闘う方がよっぽど楽だわ。
ここの所、どんどん自分の力が及ばなくなってきているのを感じる。
こんな調子で本当に辿り着けるのだろうか?
とてもそんな甘い道ではない気がする。
ハルカ (…ダメだ、どんどん落ちていく)
勝てないのは私が弱いからだ。
私がもっとポケモンのことを知っていれば…。
私は布団の上で三角座りをして落ち込む。
そして、何の答えも出ないまま、時間だけが過ぎた。
………。
……。
…。
ハルカ 「……」
どの位こうしているだろうか?
もうそれさえもわからくなっているほど精神は疲弊していた。
あれから良い考えは何も浮かばない…突破口が存在しないのだ。
予定は明日…このままじゃ、無理ね。
コンコン
ふと、扉が叩かれる。
私は予想以上に重かった体を動かして扉を開ける。
キィ…
ユウキ 「うわ…予想以上に酷い顔してるな」
ハルカ 「…何? 冷やかしなら帰って」
いきなり視界に入ってきた顔を見て、私はそっけなく言う。
すると、ユウキは慌てたように私を呼び止める。
ユウキ 「ああ、待て待て! ちょっと、付き合わないか!?」
いきなりそんなことを言ってくる。
何で私が付き合わなきゃならないのよ…。
ハルカ 「…悪いけど他を当たって、あなたの相手をしているほど暇じゃないの」
ユウキ 「とてもそうは見えねぇな…」
ハルカ 「あんたに私の何がわかるのよ…? 出て行かないなら蹴り殺すわよ?」
私は身構えて、そう言う。
それを見て、ユウキは呆れたように。
ユウキ 「やれやれ…相当キテるみたいだな。何があったか知らないが、思いつめすぎだぞお前」
ハルカ 「…うっさいわね、そんな時もあるわよ」
ユウキ 「…ったく、どうせ無い知恵絞って考えてたんだろ? 無理するなって」
ユウキは帰る様子は無い。
どうやら、ユウキはユウキで無駄に気を使っているようだ。
下手くそな芝居だけどね…言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに。
ユウキ 「ぶっちゃけ、開き直れ」
ハルカ 「ぶっちゃけないでよ…こっちは必死なんだから」
ユウキ 「何が必死だよ…だったら、ハナから余計なこと考えずに自分らしく戦えばいいだろうが」
ユウキ 「誰と比べてるか知らないけど、ハルカはポケモントレーナーになりたてなんだから、できないことが多くて当たり前だっての」
ユウキ 「ただでさえ、ハイペースなリーグ挑戦なんだから、もうちょっと気楽に行った方が良いぞ?」
ハルカ 「…そんな悠長なこと言ってられないわよ、待ってる人がいるんだから」
ユウキ 「…それが誰かは知らないけどさ、人に合わせんなよ」
ユウキは急に真剣な顔になってそう言う。
まるで叱るような口調だった。
ユウキのこんな顔を見るのは…初めてだった。
ユウキ 「いいか、お前もポケモントレーナーならな、もっと自分をよく見ろ」
ユウキ 「ポケモンってのはな、トレーナーを見て育つんだ」
ユウキ 「お前がそんなんだったら、ポケモンも気分悪いぜ」
ハルカ 「……」
反論できなかった。
自分を見ろ…か。
思えば、私はトレーナーになってから、一度も誰かに怒られたり叱られたりはしなかった。
自分の力だけで、どうにかなると思ってたからだ。
私…いつのまにか、ひとりで戦ってた。
どうしてだろう? 理由さえわからない。
ポケモンとトレーナーは一心同体みたいなもの…私がこんなのじゃ、ポケモンたちも心が離れてしまう。
ハルカ 「そっか…そうだよね」
ユウキ 「わかったら、さっさと付き合え。飯…食ってないだろ?」
ハルカ 「…ん、そういえば」
気がついたら、急に空腹感を感じるようになった。
気が楽になった証拠だろう。
全く、とんだ先輩ね。
それでも、私は心の中でユウキに感謝しておくことにした。
………。
……。
…。
ハルカ 「…今日は、ありがと」
ユウキ 「…別に、お前の調子が悪いとこっちも変になりそうだからな」
ユウキはわざとそんなことを言う。
嘘の下手な男だ。
ハルカ 「はぁ…とりあえず、あなたの言った通り、開き直ってみるわ」
ハルカ 「この際…負けたら負けたで、いいことにする」
ユウキ 「…その方がいい、トレーナーってのは、勝ち続けるために戦うんじゃないからな」
全く、無駄に良いことを言う。
だけど、私にとってはいい先輩になるわね、こいつ。
まだまだ駆け出しの私とは、全然違うわ。
ユウキ 「さて…俺はもう行くよ」
ハルカ 「次の街に?」
ユウキ 「…ん、とりあえずはな」
ユウキ 「まだポケモンの調査が残ってるから、でももうすぐ終わる」
ハルカ 「そうなんだ? じゃあ、終わったらどうするの?」
私がそう聞くと、ユウキはしばし考え、空を見上げる。
そして、やや早く流れる雲を見て。
ユウキ 「その時の気分次第かな…じゃ、頑張れよジム戦!」
そう言うと、ユウキはさっさと走り去ってしまう。
振り向かないのがわかっていたから、私は何も言わなかった。
さぁ、私は私で、出来る事をしよう…。
………………………。
『某日 某時刻 某海上』
ザザァッ!! ザパァンッ!!
ダイゴ 「…こんな所にいたのか、相変わらずだなあの人も」
僕は、ようやく見つけることの出来た船に向かってエアームドを近づける。
………。
エアームド 「エアーー!!」
船員 「!? 船長! エアームドが!!」
船長 「…エアームドだと? この海上にか?」
船長 「馬鹿者が、よく見ろ…あれは野生のポケモンではない」
ダイゴ 「…ようやく見つけましたよ、ゲンジさん」
僕は『古い』船長服に未だに身を包む男性にそう言う。
ゲンジさんはボロボロの帽子を少々上に上げて僕の顔を見る。
ゲンジ 「…ダイゴか。わざわざ何の用だ? ポケモンバトルでもしたくなったか?」
ダイゴ 「ははは…それはまた今度の時に取っておきます、今回は別件ですよ」
僕がそう言うとゲンジさんはつまらなさそうに近くの折畳み椅子に座った。
ゲンジ 「…ふん、まぁいい。で、何だ?」
ダイゴ 「少々お聞きしたいことがあります…できれば、ふたりで」
僕が真剣にそう言うと、ゲンジさんは少なからず驚いた表情を見せ、立ち上がる。
そして、無言のまま歩き出す…着いて来いということだろう。
僕はゲンジさんの後を着いていって船内へと入っていく。
………。
……。
…。
ゲンジ 「…で?」
ダイゴ 「…ゲンジさんは、マグマ団を知っておられますか?」
辿り着いた先はゲンジさんの部屋だった。
そこで僕たちは椅子に座って向かい合っていた。
ゲンジさんはズボンのポケットに両手を突っ込み、背もたれに持たれかかっている。
一見、だるそうだが、眼は真剣そのものだった。
ゲンジ 「知っている、だがそれがどうした?」
ダイゴ 「…マグマ団の幹部に四天王クラスのトレーナーがいると言う情報を入手しました」
ゲンジ 「! それで…?」
さすがのゲンジさんも興味が出てきたようだ。
明らかに表情が変わる。
ダイゴ 「ついこの間、天気研究所が全壊した事件がありました…」
ゲンジ 「…ほう、それがそいつの仕業だと?」
さすがに飲み込みが早い。
僕は笑顔で頷いて、続きを話す。
ダイゴ 「ええ、そのトレーナーが使う、バクーダの『じしん』一発、それだけだったらしいです」
ゲンジ 「……」
ゲンジさんは考えるように俯く。
何かしら想像はつくのだろう、だが、不鮮明…そんな感じだ。
僕は続ける。
ダイゴ 「あの研究所は、それなりに頑丈な造りです、いくら強力なポケモンでも一撃で全壊させるのはそうそうできません」
ダイゴ 「少なくとも、僕の経験上でも、それができるのは、あなた位だと思っています」
ゲンジ 「バクザン…」
ダイゴ 「?」
ふと、ゲンジさんがそんな名を呟く。
バクザン…?
どこかで聞いたことのある名だ。
ゲンジ 「…かつて、四天王の中にその名のトレーナーがいた」
ゲンジ 「勇猛果敢な炎使いで、誰もがあいつのポケモンと技を恐れたほどだ」
ゲンジ 「あいつも…バクーダを使っていたな」
ゲンジさんは遠い眼をしてそう語る。
思い出した…四天王バクザン。
ダイゴ 「確か、当時まだカゲツさん、フヨウちゃん、プリムさんの3人がいない頃ですよね?」
ゲンジ 「…うむ、ワシがまだ若い頃の話だ」
ゲンジ 「あの頃のワシはまだ四天王になったばかり、当時の四天王と言えば、炎のバクザン、水のハギ、草のウコン…そしてドラゴンのワシじゃった」
ダイゴ 「…そうそうたるメンバーですね、さすがに」
それは今から何十年以上も前の話だ、確かゲンジさんが四天王になったのは、わずか17歳と聞いている。
今ゲンジさんが…57歳だから。
ゲンジ 「もう40年にもなるか…懐かしい話だ」
ダイゴ 「…何故今頃そんな話を?」
ゲンジ 「バクザンのバクーダならば、それ位のことはやってのけたろう…そう思ってな」
なるほどそう言うことか、だけど。
ダイゴ 「それはありえませんよ、バクザンさんはまだ日本に帰ってきていません」
ダイゴ 「それに、そのトレーナーは…女性です」
ダイゴ 「恐らく20代前半だと聞いていますが」
ゲンジ 「…アスナ」
ダイゴ 「……」
一瞬、考えてしまう。
確かに、同じ年代でバクザンさんには孫がいた。
アスナちゃんか…だけど、それならハルカちゃんは面識があるはずだ。
ダイゴ 「アスナちゃんじゃありませんよ、彼女はフエンタウンでジムリーダーをやっています」
ゲンジ 「……」
ダイゴ 「…やはり、ゲンジさんにもわかりませんか」
言葉が出てこない…それはわからないということだ。
やはり、マグマ団には僕たちの予想も出来ないほど強力なトレーナーが動いているのか。
ゲンジ 「仮に…わかったとして、どうする?」
ダイゴ 「え?」
ゲンジ 「マグマ団が何をやっているか位は知っている」
ゲンジ 「だが、そんなものは所詮マツブサ坊やの考えていることだ」
ゲンジ 「ワシにしてみれば、子供の遊びよ」
ゲンジ 「子供の遊びに、大人が首を突っ込んで裁くことはないのだ」
ダイゴ 「子供…ですか」
この人にかかったら、確かにそう見えるかもね。
実際、マグマ団の規模はそんなに大きくはない。
最近になって、急にTVでも報道されるほど大きく活動しているけど、もしゲンジさんが本気になったら、すぐにでも潰れてしまう程度の組織だ。
それだけなら、僕も気にはしない。
ただ、ハルカちゃんを倒したトレーナー…それだけが大きく気にかかっていた。
ダイゴ (何故、それほどの実力者が幹部に甘んじている?)
少なくとも、四天王クラスの実力ならば、マツブサよりも遥かに強い。
マツブサは確かに強いトレーナーだが、はっきり言ってゲンジさんたちのような人たちとは格が違う。
だけど、その女性は確実に、その四天王の器なのだ。
いや、下手をしたらそれ以上なのかもしれない…いくら僕のポケモンでも、あの研究所を『じしん』一発で破壊する自信はない。
ゲンジ 「…何を考えているかは知らんが、あまり係わり合いになるのは止めておけ」
ゲンジ 「もうすぐ、待望のポケモンリーグが始まる」
ゲンジ 「…ワシはお前との再戦を楽しみにしているのだからな」
ダイゴ 「もうすぐと言っても、まだ時間がありますよ?」
ゲンジ 「そんな時間など、あっという間に過ぎていく…楽しみな分な」
ゲンジ 「ここの所、ホウエン地方のレベルは下がりっぱなしだった…」
ゲンジ 「そんな時、お前が現れた。ワシはあの敗戦を忘れんよ」
ゲンジ 「自分に足りなかった物を、全て取り戻した気分だった」
ゲンジ 「ワシは…ポケモンリーグだけが生き甲斐だ」
ゲンジさんは本当に楽しみなように呟く。
やれやれ…この人は、本当にポケモンリーグが好きなんだな。
ダイゴ 「でも…今年は、お互い会えるかどうかはわかりませんね」
ゲンジ 「何故だ? お前ほどのトレーナーを倒せる物など…」
ダイゴ 「ええ、確かに今は…ですがね、きっと…開催する時には」
僕がそう言うと、ゲンジさんは不思議そうな顔をして。
ゲンジ 「ふん…まぁいい。それならば楽しみが増えると言う物だ」
ゲンジ 「ふふふ…今年は、今までにない楽しいバトルが出来そうだ」
ダイゴ 「…確かに、楽しみですよ僕も。早く、彼女が来るのを待っています」
ゲンジ 「…なんだ、お前のような奴でも女に興味があったのか?」
ゲンジさんが驚いた顔でそんなことを言う。
ダイゴ 「…ゲンジさん、別に僕はただの石マニアじゃないんですよ?」
ゲンジ 「ふん、ホウエンリーグのチャンピオンになってから、ロクにバトルもしていない男の言う言葉か」
それはごもっともで…確かに、やってないなぁ…バトル。
ちょっと、僕もそろそろ準備期間に入らなければならないのかもしれない。
ゲンジ 「…しかし、お前がそこまで入れ込む女にはワシも興味がある」
ゲンジ 「一体、どんなトレーナーだ?」
ダイゴ 「つい最近、トレーナーになったばかりの女の子です」
それを聞いて、ゲンジさんは驚く。
意外…という顔だ。
ダイゴ 「…でも、素質は確実にありますよ。今は一番大変な時かもしれない」
ダイゴ 「それでも、ジムバッジをすでに5つ集め、今ヒワマキにいます」
ダイゴ 「彼女には…成長力があります」
ダイゴ 「きっと…サイユウシティに着く頃には、凄いトレーナーになっているでしょう」
ゲンジ 「……」
ゲンジさんは何も言わなかった。
でも、帽子の下から見える口元はどこか笑っているようだった。
ダイゴ (ハルカちゃん…今頃はジム戦かな?)
………………………。
『同日 時刻17:00 ヒワマキシティ・ポケモンセンター・ポケモン広場』
ハルカ 「…よし、とりあえず皆出てきて!」
ボボボボボンッ!!
バシャーモ 「シャモ…」
マッスグマ 「グマ」
ライボルト 「ライッ」
コノハナ 「コノ〜」
アノプス 「アノッ!」
私はメンバーを確認する。
そして、まずは今回のトレーニング内容を説明する。
ハルカ 「明日は、公式戦では初の4体戦! 今まで以上に激戦になると思うから、気ぃ引き締めていくわよ!!」
ハルカ 「特に、アノプス! あんたには中核をになってもらわないといけないんだから、覚悟しなさい!」
アノプス 「アノアノッ!!」
アノプスはやる気満々にアピールする。
さて、まずは…。
ハルカ (ここはアノプスとライボルトを中心に育てた方がいいわね)
ハルカ 「よしっ、アノプスはマッスグマと、ライボルトはバシャーモとバトルよ!」
ハルカ 「コノハナは休んでていいわ」
コノハナ 「コノ〜♪」
コノハナは嬉しそうに私の隣で座る。
そして、それぞれのバトルが始まった。
アノプス 「うりゃあ!!」
マッスグマ 「遅い、そんな攻撃には当たらない」
ボグシャア!
アノプス 「ブベッ!!」
アノプスの直線的な攻撃を、マッスグマは軽くいなす。
やっぱり、アノプスにスピードを生かした戦法は必要ないわね。
ハルカ 「アノプス、動かずに相手をよく見なさい!!」
アノプス 「!!」
ハルカ 「相手の動きをよく見て、一瞬の隙を突くのよ!!」
ハルカ 「あなたからの攻撃ではスピードのある相手を捉えるのは不可能よ」
ハルカ 「でも、相手との接点を見つければ、必ず捕まえられる!」
私がそう叫ぶと、アノプスは動きを止め、マッスグマの動きをよく観察する。
アノプス 「……」
マッスグマ 「……」
互いに睨み合いが続く。
どちらも動く気配は見せない。
う〜む…そう来るとはね。
まぁ、確かにそうなんだけど…う〜ん。
ハルカ 「…マッスグマ、動かなきゃ訓練にならないわよ!」
マッスグマ 「…!」
そう言ってやる。
今回の訓練はあくまでアノプスとライボルトの訓練。
マッスグマには悪いけど、それを手伝ってもらうわ。
マッスグマ 「…!」
ビビビビビビッ!!!
アノプス 「ブベベベベベベベベ!?」
プスプス…
焦げ臭い匂いをあげながらアノプスは沈没する。
『10まんボルト』とはね…。
ハルカ 「こら、アノプス! あなたには折角の防御技があるんだから、ちゃんと『守りなさい』」
アノプス 「! はっ!?」
アノプスは気付いたように構えなおす。
全く…どうして自分の技をもっと活用できないのかしら。
頭が悪い分、腕っ節は強いんだけどねぇ…。
それでも、攻撃力の低いパーティの中じゃ、この子は必要な存在だ。
何とかして戦ってもらわないと。
マッスグマ 「……」
アノプス 「……」
再び互いの睨み合いが続く。
私はもう片方の組み合わせを見てみる。
バシャーモ 「せぇっ!」
ライボルト 「やぁっ!」
ドガァッ! ガシィッ!!
こちらは力と技のぶつかり合い。
バシャーモが蹴りを放てば、すかさずライボルトが『スパーク』で突っ込む。
互いに近距離での戦いが主なだけに、自ずとぶつかり合いになる。
ただ、ライボルトの方がスピードは上。
接近戦でバシャーモは多少、空回りしているようだった。
バシャーモ 「くっ!」
ライボルト 「!!」
ブオッ!!
バシャーモの『ほのおのパンチ』はライボルトの頭上を掠めるだけ。
すかさずバシャーモの背後に回るライボルト。
無防備なバシャーモの背中からライボルトは『でんこうせっか』で体当たりを…。
バヒュゥッ!!
ライボルト 「うひゃあ!?」
バシャーモ 「!!」
ハルカ 「…無双○殺」
まさかそこまで体得していたとは…って、単にあの娘の反応よね。
ポケモンの経験が高くなれば、指示なしでも最良の行動を取ると、キヨミさんは言っていたけど。
バシャーモはすでにその領域に入りかけているのかもしれない。
ライボルトはさすがに面食らったのか、動きが止まる。
そして、バシャーモはそれを見逃さない。
バシャーモ 「ちぇいっ!!」
ドゴォッ!!
ライボルト 「うきゃあっ!!」
飛び蹴り気味に飛び込んだバシャーモの『ブレイズキック』がライボルトの横っ面に炸裂する。
それを喰らったライボルトは後ろに向かって派手に吹っ飛んだ。
ハルカ 「そこまでね! バシャーモ、ライボルトは休んで!!」
バシャーモ 「…シャモッ」
ライボルト 「ライ〜…」
この2体は、元々十分な力を持っている。
多少の不安はあれども、一番信頼が出来る。
私は改めて、今回のエース候補を見る。
マッスグマ 「!!」
ビビビビビッ!!!
アノプス 「ふっ!!」
バチバチバチィ!!
アノプスは見事に『まもる』で『10まんボルト』を防ぐ。
だが、それだけでは勝てない。
相手が近づいてこなければ、攻撃は出来ないのだ。
当然、それがわかっているから、マッスグマも近づかずに遠距離から攻撃している。
ノーマルタイプの技が効かないというのも理由だろうけど。
ハルカ 「…アノプス、『すなあらし』!!」
アノプス 「アノッ!!」
マッスグマ 「!?」
私はアノプスに指示をし、技を使わせる。
つい前にアノプスに『わざマシン』で覚えさせた技だ。
相手との距離が問題なら、それを打破する状況を作ればいい。
そして私の出した答えがこれだ。
アノプスは地面から大量の砂を撒き散らし、あたり一面を『すなあらし』で覆った。
マッスグマは『すなあらし』によって、視界を奪われる。
そして…。
アノプス 「チェストォー!!」
ズガァッン!!
マッスグマ 「!!」
ドシャアッ!!
見事、『げんしのちから』がマッスグマにヒットする。
さすがのマッスグマもすぐには立てなかった。
予想外過ぎたようね。でも、良かったわ…思った以上にこの技は使える!
ハルカ (ヒントは、あの雨だった)
天候の変化。
雨は水を強くし、炎を弱まらせる。
日照りはその逆。
そして、砂嵐。
ゴーグルがなければ、視界をほとんど奪われてしまう砂嵐は、確実に相手の動きを止める。
ただでさえ、砂嵐は相手の体力をも奪うのだ。
しかし、岩タイプと鋼タイプ、地面タイプはその対象外となる。
アノプスは岩タイプ、『すなあらし』との相性は十分だったようだ。
ただ、この技単体では決め手にならない…。
ちゃんとした決め技を持っていなければ、ただの時間稼ぎなのだ。
ハルカ (それでも、アノプスは『げんしのちから』を覚えていた)
飛行タイプを落とす岩の技。
PPが5回という弱点を除けば、十分に有効な技。
きっと、ジム戦での役に立つ。
私はそう確信した。
迷いはもうない…後は、自分でやれることをやるだけだ。
………。
……。
…。
『同日 某時刻 ヒワマキジム・バトルフィールド』
ナギ 「…明日はハルカさんとのバトル」
ついさっき連絡があった。
明日の10:00にバトルがしたいと。
ついに、その時が来たのですねハルカさん…。
ナギ (あなたの心の翼…見せてもらいます)
私は夜の闇が包む、このフィールドにひとり立つ。
明日はこの場が戦いの場となる。
広すぎると言われるこのバトルフィールド。
だけど、私はそうは思わない。
空を舞う鳥ポケモンたちにとっては、この場所は狭過ぎる位。
どんなフィールドも、この天空の広さには勝てない。
そして、その空を自由に舞うことの出来る、翼を持ったポケモンたちが私のポケモン。
ナギ 「…願わくば、その翼が折れませぬよう。ハルカさんの心を御支えください…『ホウオウ』」
『ホウオウ』
私が一番、好きなポケモン。
鳥ポケモンの中でも、最も伝説とされるポケモン。
ひとつの場所に留まる事をせず、常にこの空を飛び続けていると言われている。
私も見たことはない…それでも、この空をポケモンと舞うことで、私はホウオウの側に居る気分になる。
ナギ 「ハルカさん…私は、信じています」
………………………。
『同日 同時刻 ミナモシティ』
ユウキ 「もう、こんな時間か…でも辿り着けたな」
ユウキ 「俺の終着駅、ミナモに」
俺は夜の闇を照らす灯台の光を見る。
ホウエン地方で最も大きな街、ミナモシティ。
大きな港のあるこの街は、数々の船が泊まって……あれ?
ユウキ 「ど、どうなってるんだ!? 船が全く泊まってない!!」
俺は港の船着場を双眼鏡で見るが、船は一隻も泊まってなかった。
そして、暗闇に混じって、妙な光景を見る。
ユウキ (ん…? あれは…ホエルコか?)
その近くには妙な格好をした男たちがいる。
どうやら、何か組織的なグループのようだった。
もしかして、何かがこの街で起こっているのか?
俺はそんなことを考え、移動しようかと思った瞬間。
女性 「あら、オイタしちゃんだめよ、坊や…」
ユウキ 「!? あっと…な、何のことですか?」
横からいきなり、話しかけられる。
俺は思わずそんな言い訳をしてしまった。
やば…この人も同じ服…じゃない。
ユウキ (…あれ、この人は普通の格好だな)
でも、多分観察していたのを見られた。
もし、関係者だったら…間違いなくコンクリート詰めだろう。
グッバイ・マイ・人生♪
女性 「…何を見たのか見当はつくけど、忘れた方がいいわね」
女性 「じゃないと、私が始末しなきゃならなくなるわ」
ユウキ 「し、始末〜?」
まるで暗殺者のような台詞だ。
勘弁してくれよ…何でこんなことに。
? 「そこまでよ…あんまり横暴なことするなら、私が相手になるわ」
女性 「…あら怖い、もしかして本気にしちゃった?」
その女性は笑いながら後ろを振り向く。
すると、そこには布で全身を包んで、正体を隠したいかにも怪しい人がいた。
やばい…やばすぎる。
キヨミ 「…前例があるから、信じられないわね」
キヨミ 「研究所のこと、忘れたわけじゃないのよ?」
カガリ 「あははっ、意外と根に持つのねぇ〜」
ユウキ 「…研究所?」
理解に苦しむ単語がいくつか出る。
この人たち、一体何なんだ?
口調からは布の人も女性のようだけど…。
キヨミ 「ハルカちゃんを危険な目に合わせたのは、正直怒ってるのよ私?」
ユウキ 「ハルカ…って、もしかしてあのハルカ?」
カガリ 「あら…ここにもファンがひとり、いいわねハルカちゃん、モテモテで♪」
軽い表情でそう言う。
この人たち、ハルカちゃんの知り合いなのか?
友達は選べよなぁ…。
キヨミ 「…いいから、行きなさいもう」
ユウキ 「え?」
キヨミ 「いいから…今はポケモンセンターも満員だから、あそこの宿を使いなさい」
そう言って、布の人は宿を指差す。
確かに…あるな。
俺は、この際言葉に甘えることにした。
正直、関わり合いにならない方がいいだろう。
危険な香りがプンプンする。
俺は自転車を漕いで宿に向かうことにした。
あのふたりは、しばらく何かを言い合っているようだったが、俺はもう気にしないことにした。
…To be continued
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