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POCKET MONSTER RUBY



第60話 『チャンピオンロード開幕! 生き残るのは!?』




『3月27日 時刻9:00 サイユウシティ・チャンピオンロード前』


ハルカ 「……」

ついに、私はここまで来た。
ポケモントレーナーなら、誰もが望む栄光の地、『ポケモンリーグ』
ここはまだ、入り口の入り口に過ぎない…けど。

ハルカ (やっと、辿り着いたんだ…ここまで)

本当の強さを知るため、私は格闘家を辞めてトレーナーになった。
チャンピオンになることが出来るなら、その意味を知ることが出来るかもしれない。
私は、ポケモンリーグの第1次予選である、このチャンピオンロードの前で、今か今かと始まるのを待ち続けた。



………。



スタッフ 「…それでは! これより本年度ポケモンリーグ・サイユウ大会・第1次予選の説明を始めます!!」

複数いる、スタッフの中のひとりが、マイクを片手にそう叫ぶ。
確認できるだけで、今この場にいる挑戦者は軽く100人以上。
果たして、何人が突破できるのだろうか?

スタッフ 「まず、このチャンピオンロードには10個の入り口があります!」
スタッフ 「この場にいる全員の中から、抽選でそれぞれどの入り口からかが割り振られます!」
スタッフ 「まずは、皆さんそれぞれ箱を持ったスタッフの前に並んで、順にクジを引いてください!」

ザワザワ…

こうして、いきなりクジを引かされることになった。
とりあえず、10人位のスタッフが箱を持っているので、まぁそんなに時間はかからないようね。

ハルカ 「さて…これも運試しか」

私はクジを引いて中を見る。
すると、書かれている番号は『7』
いきなり縁起のいい数字ね♪

スタッフ 「クジを引かれた方は、クジに書かれている番号と同じ看板を持ったスタッフに着いて行ってください!」
スタッフ 「予選開始は今から30分後! 皆さん、速やかに移動をお願いします!!」



………。



『時刻9:10 チャンピオンロード・第7ゲート』


ハルカ (…ざっと見て、15人か)

思ったよりも、人数は多くないようね。
とはいえ、この10倍は総人数でいるわけだから、相当な数なのは確かね。
一体、この割り振りがどう影響するのだろうか?
初体験の者にとっては、不安がよぎる。
私は、少しでも気を紛らわせるために、軽く体を動かすことにした。

ハルカ 「……」

まずは伸脚で足をほぐす。
長い道のりになりそうだから、念入りにやっとかないと。

? 「あらぁ…あなた、確かミナモで会ったわね」

ハルカ 「はい?」

いきなり、後ろから声をかけられる。
私は伸脚をしながら後ろを見る、すると…とんでもないのがいた。

ミカゲ 「うふふ…あなたのこと、一応知ってるわよ」
ミカゲ 「確か、フィオネを使っていたでしょ?」

ハルカ 「…あなたは、確かミカゲだったっけ?」

私は、割と普通に返事をする。
すると、ミカゲは冷たげな微笑を浮かべ。

ミカゲ 「あら、自己紹介の必要は無かったかしら?」

ハルカ 「グランドフェスティバルの決勝を、すっぽかした有名なコーディネイターだもん」

ミカゲ 「……」

私の鋭いツッコミにミカゲは黙る。
だが、特に気にした風もなく、ミカゲは笑みを浮かべる。

ミカゲ 「うふふ…面白いわねあなた」
ミカゲ 「でも、残念ね…私がいる限り、ポケモンリーグで優勝することはできない」
ミカゲ 「あなたも、どうせくだらない名声を求めて戦っているんでしょう?」
ミカゲ 「くだらないわ…本当に」
ミカゲ 「ポケモンバトルは自分の楽しみのためにやる物…他人からどう思われようが、関係ないわ」

ハルカ 「…別に、そうとは言ってないけど?」

ミカゲ 「……」

勝手に話を進めるミカゲに対し、私は普通に答える。
この娘、何か変。
いや、変態とかそういうのじゃなくって…何か普通じゃない。
考え方もそうだけど、どうしてそれならミカゲはポケモンを育てるんだろう?

ハルカ 「…あなた、どうしてポケモンを育てているの?」

ミカゲ 「? 何を言っているの…バトルに勝つためでしょ?」

ハルカ 「…私は違う。私はポケモンと触れ合いたいから、守りたいから一緒にいる」
ハルカ 「そして、一緒に生きていくから、私はポケモンと一緒に強くなるの」

私がそこまで言った所で、場の空気が途端に重くなる。
どうやら、始まるようだ。



………。



スタッフ 「それでは、これよりチャンピオンロードの第7ゲートを開門します!!」

ゴゴゴゴゴゴゴッ!!

重い扉が開け放たれ、岩山を切り抜いたような入り口が私たちを迎える。
場にいる全員(ひとり除く)が、緊張に包まれる。
今か今か…と皆、待っているのがわかった。(ひとり除く)

スタッフ 「今から、説明を行います!」
スタッフ 「今皆さんに配っている赤色の襷(たすき)が、皆さんのシンボルです」
スタッフ 「同じ色の襷を持っているトレーナーとバトルはできません! チャンピオンロード内では常に監視カメラと監視員が見張っています!」
スタッフ 「くれぐれも不正を行わないよう、気をつけてください!!」

なるほど、それなら同時に出発していきなり全滅…なんて訳のわからないことにはならないわね。

スタッフ 「なお、ルールには明記されていませんが、ふたりまでならば協力体制で進むことも認められています」
スタッフ 「この場合、ひとりのトレーナーとぶつかった時はダブルバトルのルールで戦ってください」
スタッフ 「例を挙げると、ひとりが2体、ふたりが1体づつ出してバトルをすると言うことです!」
スタッフ 「ただ、この場合でも、自分のポケモンが6体全滅した時点で、失格となります!」

つまり、ふたりで行動した方がどう考えてもお得…12体で戦うようなものだもんね。
でも、同時にリスクも負うわけか…ふたりで行動すれば、足の引っ張り合いになる可能性もあるしね。

スタッフ 「最後に、チャンピオンロードには制限時間があります!」
スタッフ 「4月1日に日付が変わった時点でたどり着けなかった場合、失格となります!」
スタッフ 「また、食料等は十分用意しておりますが、危険と感じた場合は近くのスタッフに棄権を申請してください」
スタッフ 「そして、皆さんには持ち物をこちらに預けていただきます」
スタッフ 「必要な物は、全てこちらで用意したバッグに入っていますので、原則として全員持ち物をこのバッグと交換してもらいます!」
スタッフ 「パソコンも準備されていますので、持ち物やポケモンの整理が必要な方は、あちらで準備してください!」
スタッフ 「準備ができている方は、こちらでバッグの交換を!」

ハルカ (仕方ないか、持ち物で優劣決まったら、問題だもんね)

周りが動き出すと、私も動き始める。
数分並んだ所で、私は持ち物を預けてバッグを受け取る。
黄色のスタンダードなバッグだ。
中に入っている物は…。

ハルカ (『すごいキズぐすり』、『げんきのかけら』、『なんでもなおし』、『ピーピーエイド』…後は、『モンスターボール』?)

スタッフ 「なお、チャンピオンロードには野生のポケモンも出現しますので、必要ならばゲットしていただいても構いません!」

なるほど、この時点で6体持っていなければ、ここでゲットしてしまうと言うことも有りなのね。
私は、おおよそ4日分の食料と水を確認し、バッグを背負う。
リュック式なので、楽ね。

ハルカ 「…さて、後は始まるのを待つだけだけど」

スタッフ 「ちょっと待ってください!」

ハルカ 「…はい?」

振り向くが、私のことを止めているわけではなかったらしい。
見ると、私のすぐ後ろにいたミカゲをスタッフが呼び止めていた。

ミカゲ 「…何が問題あるのよ?」

スタッフ 「原則として、持ち物は全て預からせてもらっているんです! その石もこちらに預けてください!」

なるほど、ミカゲが持ち込みを画策したと言うわけね。
でも、ミカゲは悪びれた風は無い。
すると、ミカゲは呆れた顔をする。

ミカゲ 「…あなた、何年この仕事をやっているの?」

スタッフ 「は?」

? 「ミカ〜」

スタッフ 「う、うわっ!」

ドサッ!と、大きな尻餅を着いて、スタッフの若い男は転ぶ。
ミカゲの持っていた石から、急にポケモンが現れたのだ。
って言うか、30cm位あるわね、あの石。
その石から伸びるようにそのポケモンは存在していた。
見た目は、紫の渦のような物に、目と口が着いている感じ。
不定形のポケモンだと言うのは見てわかった。

スタッフ 「…こ、この石」

ミカゲ 「…わかったかしら? もう行くわよ」

? 「…ミカ〜」

ミカゲは両手で持っていた石をバッグに詰める。
重いでしょうに…ポケモンならボールに戻せばいいのに。

? 「ミカ〜」

ハルカ 「うわひゃあ!? あなたバッグに入ったんじゃなかったの!?」

思いっきり外に出ているし。
ミカゲの背負っているバッグから、すり抜けて外に出ていた。

ミカゲ 「…ミカルゲ、いい加減にしなさい」

ミカルゲ 「ミカ〜…」

ミカルゲと呼ばれたポケモンは、しゅん…となって、ミカゲの後頭部辺りに引っ込む。
イタズラ好きなのだろうか? それとも好奇心が強い?

ハルカ 「そのポケモンが、ミカルゲなんだ…」

ミカゲ 「……」

ミカゲは答えなかった。
ミカルゲは、何を考えているのかまったくわからない表情をしていた。

ハルカ (このポケモンが、キヨミさんを圧倒したポケモン)

ミカゲ 「…そんなに珍しいの?」

ハルカ 「え?」

ミカゲは唐突にそう聞く。
それは、本当に疑問に思っていることのようだった。

ハルカ 「…少なくとも、ホウエン地方では見たこと無いけど」

ミカゲ 「…そう」

私がそう応えると、ミカゲはつまらなさそうに、入り口の方へと向かう。
ミカルゲは外に出っ放しだった。



………。



『時刻9:30 チャンピオンロード・第7ゲート前』


スタッフ 「それでは、これよりチャンピオンロードを開催します!」
スタッフ 「皆様のご武運を!!」

スタッフが促し、全員が一気に駆け抜ける。
ついに始まった…ポケモンリーグの予選が!





………………………。





『同時刻 第1ゲート』


キヨミ 「…さて、今回はどの位のタイムで行けるかしらね」

私は先陣を切って、進んでいく。
周りにはトレーナーが集まっているが、同じ襷を持っているのでバトルにはならない。
昔は、こんなルールなかったのにね…。
私はそんなことを考えながら、先へと進む。



『同時刻 第4ゲート』


キヨハ (できるだけ、他の皆とは出会わないようにした方がいいわね)

私はそう思い、できるだけ人が通らない、荒れた道を選んで行く。
チャンピオンロードでは、バトルをあまりしないことが、攻略の鍵だからだ。



『同時刻 第3ゲート』


フィーナ 「いよっしゃーーー! 俺のポケモンの力を見せてやるぜーー!!」

とはいえ、いきなりバトルにはならないみたいで、ちょっと安心。
まずは生き残らなきゃ意味ないもんなっ。
皆、一緒に突破できるといいんだけど…。



『同時刻 第9ゲート』


ヒビキ 「………」

思いの他、静かな立ち上がりだな。
周りを見るが、野性のポケモンがいる位で、他の襷を持ったトレーナーは見当たらない。
入り口はそれなりに離れて設置されているということか。



『同時刻 第5ゲート』


メフィー 「はぁ…ふぅ…走るのは苦手です〜」

私は一番後方でゆっくり走っていた。
体力が無いのが恨めしい…。
私、突破できるのかな?





………………………。





そして、それぞれが思い思いを胸に、チャンピオンロードを進んでいく。



『3月28日 時刻12:00 チャンピオンロード・第2エリア』


ハルカ 「フィオネ『みずのはどう』!!」

フィオネ 「フィオッ!」

バッシャアァッ!!

ドクケイル 「ド、ドク…」

虫取り少年 「ああ、ドクケイルー!」

これで、相手は全滅。
何とか乗り切ったわね。
なお、ポケモンバトルは、別にフルバトルする必要は無い。
トレーナー同士の任意で行われるものなので、無理にバトルをする必要は無いのね。
でも、バトルで勝利すれば、相手の持ち物をもらうことができる。
食料と水は例外だけど、薬が足りなくなったら、バトルに勝って奪うしかないということ。
全滅さえしなければ、基本的に失格にはならないので、全滅しそうになったら、降参してしまうというのも有りなわけ。
薬は奪われてしまうけど、チャンスは残る。
私は、この時点で10戦こなした。
ポケモンたちも次第にレベルアップしている。
ここに来て、私はできる限りバトルを多くこなした。
ポケモンたちは疲労しているが、今までブランクのあった皆を育てるには丁度良かったのだ。
そう、今私のポケモンは、レベルアップが必要な6体。
それは…
アゲハント、アメモース、コノハナ、クチート、ジバコイル、フィオネの6体だ。
今まで、怪我でブランクのあったものや、ゲットして時間の経っていないポケモンを重点的に育てている。
キヨミさんが言うには、本戦での戦いは6体だけで勝ち抜くには、体力的にも精神的にも辛いらしい。
つまり、控えのポケモンを用意しておいた方がいいとのこと。
しかし、控えが育っていなかったら意味が無い。
だから、私はあえて危険を承知で6体全てを控えに交換した。
これが乗り切れなかったら、初めから優勝なんてできない!

ミカゲ 「………」

ハルカ 「…どうかしたの?」

私のバトルが終わると、ミカゲが明後日の方向を向いてじっとしていた。
私はミカゲの隣に並び、その方向を見る。

ハルカ 「……?」

その時、ふと視線を感じる。
何かに見られた…そんな寒気を感じる。
私はその場から一歩踏み出す。
が…

ス…

ハルカ 「? ミカゲ…?」

突然、ミカゲが私の前に腕を出して遮る。
ミカゲの表情は、どこか鬱陶しそうな表情だった。

ミカゲ 「…ロクでもないのがいるわね」

ハルカ 「……?」

何かの気配は感じる。
だけど、それが何なのかは私にはわからなかった。
ただ、ミカゲはそれを確実に感じ取っている。
そして、ミカゲはボールをひとつ取り出し、ポケモンを出す。

ボンッ!

マニューラ 「マニュ」

ミカゲ 「マニューラ、あそこに『こおりのつぶて』よ」

マニューラ 「マニュッ!」

ヒュヒュヒュッ!! ドガガガッ!!

ミカゲは斜め前の岩山を指差して指示を出す。
言われた方角に向かって、正確にマニューラは技を撃ち込んだ。
そして、つぶてが当たった岩山は僅かに崩れ、そこから人影が現れた。

ハルカ 「…!? 誰なの…?」

ミカゲ 「…ネロ」

ネロ 「…クククッ」

そこには男がいた。
髪は短く、まるで引きちぎられたかのように見えるほど、ボロボロの白髪。
肌も色白く、痩せ細っている。
だけど、身長は170以上はあり、かなりの長身。
そして、問題は服装。
男が身に着けている服は、白い拘束衣だった。
両腕を拘束する部分が、無理やり引きちぎったような千切れ方をしており、もはや拘束衣としての機能を果たしていない。
男が持っている雰囲気は、確実に『危険』を感じさせる雰囲気だった。
殺気、と言ってもいいかもしれない。

ミカゲ 「…くだらないわね。こんな余計な物を送りつけてきただなんて」

ハルカ 「…な、何? 何のことなの?」

私はミカゲに返答を求めるが、ミカゲは鬱陶しそうな表情のまま、答えようとはしなかった。
ただ、ミカゲはマニューラを連れ、男に歩み寄っていく。

ネロ 「クククククッ…ミカゲェ〜久しぶりだなぁ」

ミカゲ 「…私は思い出したくもなかったわね」

会話から察するに、ふたりは知り合いのようだ。
しかし、空気は懐かしい友人が再会したなどという、普通の空気ではない。
まるで、今から殺戮でも始まるかのような、そんな雰囲気だった。

ハルカ 「…い、一体何なのよあなた!?」

私は声を振り絞って、そう叫ぶ。
すると、男は首だけを私の方に向け、ニタリと笑う。
正直、普通じゃない…それだけは確実にわかった。

ネロ 「…ありゃあ何だ? お前の餌か?」

ミカゲ 「…くだらないことを言わないで。あの娘は関係ないわ」

ハルカ 「……?」

今、何と言った?
餌? 餌と言ったのか?
一瞬寒気がする。
私は、今ほど人が怖いと思ったことはない。
あの男は、平気で人のことを『餌』と言った。
その言い方は、まるで人を人と思っていない、そんな冷たい言い方だった。

ミカゲ 「…さっさと消えなさい、ネロ」

ネロ 「クククッ…つれねぇなぁ〜。折角会いに来てやったんじゃねぇかぁ?」
ネロ 「クク…じゃあ、再会を祝って。パーティの始まりだ!!」

ボボンッ!

ボーマンダ 「ボーマッ!!」
ザングース 「ザンッ!」

ハルカ 「!?」

突然、ネロと呼ばれる男は2体のポケモンを繰り出す。
それは、確実にバトルの合図だった。

ハルカ 「…相手は2体、ダブルバトルなら!」

ミカゲ 「余計なことはしないで!」

ハルカ 「!? ミ、ミカゲ…?」

ミカゲは私を横目に、そう言い放つ。
助けなんて、いらない。
ミカゲは無言でそう言っていた。
一体、ミカゲにはどんな秘密があると言うのだろう?
相手はどう考えても危険な相手。
このまま戦ったら、ミカゲと言えども……

ハルカ (…負けるとは思えない、か)

残念ながら、そう言う結論に達した。
あのミカゲが、そうそう負けるとは思えない。
いくら、危険な相手でも、ポケモンはポケモン。
何だかんだで人が育てたポケモンなら、ミカゲは簡単には負けないはず。

ミカゲ 「…鬱陶しいから、すぐに終わらせるわ。出なさい『ドクロッグ』!」

ボンッ!

ドクロッグ 「…ググッ」

ミカゲはポケモンを追加する。
そこから出てきたのは、毒々しい姿をした、二足歩行の蛙だった。
正直、見た目からして気持ち悪い。

ネロ 「クククッ、せいぜい楽しませてくれよぉ? あっさり終わっちゃあ面白くねぇからなぁ!!」

ミカゲ 「ふふ…随分大きな口を叩くわね。その台詞、そっくりそのまま返してあげるわ!」

ふたりは、不適に笑いあう。
完全にキレてしまっているネロに対し、ミカゲは普段通りのテンション。
果たして、どんなバトルになるのか、私には想像もつかなかった。

ネロ 「ひゃははっ! 行けザングース! マニューラに『ブレイククロー』だ!」

ザングース 「ザンッ!」

ミカゲ 「ドクロッグ、『ふいうち』」

ドクロッグ 「グッ!」

ドゴァッ!

ザングース 「ザ、ザンーーー!!」

ミカゲのドクロッグは、ザングースの動きを見てすぐに技に入る。
確か、あの技は私も一度食らったことがある。
相手の技に合わせて、先制攻撃を仕掛ける悪タイプの技。
威力も高く、軽量のザングースは派手に吹っ飛んだ。

ザングース 「ザ、ザン…」

ネロ 「ヒャハァッ! ボーマンダ、ドクロッグに『かえんほうしゃ』!!」

ミカゲ 「マニューラ、ボーマンダに『こおりのつぶて』」

ボーマンダ 「ボーマッ!」

マニューラ 「マニュッ!」

ゴオオオアアアアアァァァッ!! ドジュジュジュジュッ!!

ドクロッグ 「ググッ!?」

ドグオゥッ!!

とてつもない火力がドクロッグを襲う。
ボーマンダの『かえんほうしゃ』は、マニューラの氷を溶かしてドクロッグを襲った。

ドクロッグ 「……グ」

ドクロッグは炎に焼かれてダウンする。
あのミカゲのポケモンが、こうもあっさりと!?

ミカゲ 「……」

シュボンッ!

ミカゲは何も言わず、苦い顔をしてドクロッグを戻した。
その姿を見てか、ネロは不適に笑う。

ネロ 「クックック…おいおい、だらしねぇなぁ」
ネロ 「お前のポケモンは紙か? あれ位の炎でもう終わりかよ」
ネロ 「ククク…つまらねぇ戦いにだけはするなよ?」
ネロ 「ザングース『じたばた』! ボーマンダは『ほのおのキバ』だ!!」

ミカゲ 「マニューラ、ザングースに『れいとうパンチ』」

ザングース 「ザンッ!」
ボーマンダ 「ボーッマ!」

マニューラ 「マニュー!!」

3体がほぼ同時に接近を始める。
陸を高速で走るザングース。
上空から急降下してくるボーマンダ。
そして、それらを圧倒的に超えるスピードで突っ込むマニューラ。
一瞬でザングースとの間合いを詰め、ボディブローの角度で『れいとうパンチ』をザングースの腹に叩き込む。

ドガアッ!! コキィィンッ!!

ネロ 「!?」

ザングースはさっきの攻撃で凍りつく。
そして、それを見たミカゲはすぐに次の指示を出す。

ミカゲ 「マニューラ、ザングースをボーマンダに『なげつける』!!」

マニューラ 「マニュ〜〜〜! ラーーーーーッ!!」

ビュオゥッ!!

ボーマンダ 「ボ、ボマッ!?」

ドッガァァァンッ!!

鈍い音がし、急降下してきたボーマンダはザングースを投げつけられて、後ろに吹っ飛ぶ。
な、何!? あれも技なの!?
マニューラは小さな体に似合わず、凄まじいパワーで凍ったザングースを投げつけて攻撃したのだ。
さすがに予測できなかったのか、ネロは多少なりとも怯んでいるようだった。

ネロ 「…ちっ、引っ込めザングース」
ネロ 「やるじゃねぇか、『なげつける』をそう言う風に使うなんてな」

ミカゲ 「…さっさと、消えなさい。ボーマンダじゃ相性の悪い氷タイプには勝てないわよ」
ミカゲ 「それとも、完璧に叩きのめされないと気がすまないのかしら?」

ミカゲは鬱陶しそうな表情でそう言い放つ。
さすがと言うか何と言うか…やっぱりミカゲって凄い。
ミカゲだけじゃなく、それに着いてくるポケモンもやっぱり凄い。
ミカゲのポケモンは、決して愛情無しに育っているわけじゃない。
あのマニューラや、ミカルゲを見ればよくわかる。
あのポケモンたちはミカゲを好きだから、無茶だってこなせる。
ミカゲはどう思っているかは知らない、でも、ミカゲに愛情がなかったら、ポケモンとの信頼は決して生まれない。
私には、そう思えた。

ネロ 「クククッ…上出来だ」
ネロ 「そろそろ、こっちも本気になれそうだな」

ネロは不適に笑う。
まだ、勝負は着いていない、そう言っている笑みだった。

ミカゲ 「…面倒臭いわね、マニューラ『こおりのつぶて』」

マニューラ 「マニュッ!」

ネロ 「ボーマンダ! 『δ』(デルタ)モードだ!!」

ボーマンダ 「!!」

カァァァァッ!! ドジュジュジュジュッ!!

ミカゲ 「!! 何ですって…!?」

ボーマンダは、いきなり赤い輝きを放ち始める。
すると、ボーマンダには相性最悪の氷が一瞬にして溶けてしまった。
そして、あのミカゲがうろたえる。
ポケモンバトルに置いて、完璧を誇っていたミカゲが、初めて見せる慌て様だった。

ネロ 「ヒャーーッハッハッハ!! 見たか、この力を!」
ネロ 「これが、俺のボーマンダ『δ』(デルタ)だ!!」
ネロ 「相性が最悪なら、変えちまえばいいのさ!!」

ミカゲ 「…『ホロンエネルギー』、完成していたのね」

ハルカ 「ホ、ホロン…?」

聞いた事のない言葉が飛び交う。
δとか、ホロンとか、私にはさっぱりだった。

ネロ 「時間がないからな、さっさと終わらせるぜ! ボーマンダ『ほのおのキバ』!!」

ボーマンダ 「ボーマッ!!」

ミカゲ 「さしずめ、炎タイプに変化したと言うことね」
ミカゲ 「氷が効かないなら、それ以外の倒し方をすればいいだけよ!」
ミカゲ 「マニューラ『つじぎり』!!」

マニューラ 「マニュッ!!」

2体が一気に接近する。
どちらもかなりの速度で、間合いはすぐに詰まる。
だけど、陸を移動するマニューラと空を移動するボーマンダでは、行動範囲が違う。

ボーマンダ 「ボーーーッ!!」

マニューラ 「マニューーーラーーー!!」

ドゴアッ! ザシュウッ!!

2体が空中で交錯する。
攻撃は同時に決まり、マニューラだけが後方に吹き飛び、地上に落下した。

ドシャアッ!!

マニューラ 「…マニュ」

ミカゲ 「……」

シュボンッ!

ミカゲは無言でマニューラを戻す。
ダウンは明白。
これ以上は、戦えない…あのミカゲが、負けた?

ネロ 「ちっ…役立たずが」

ボーマンダ 「……」

ズゥゥゥゥンッ!!

時間差を置いて、ボーマンダも無造作に地上へと落ちた。
どうやら、引き分けだったようだ。
でも、ミカゲのポケモンは後4体生き残っている。
このチャンピオンロードのルールでなら、まだ負けたわけじゃない。

シュボンッ!

ネロ 「…納得いかねぇが、仕方ねぇ」
ネロ 「てめぇとの決着は、ポケモンリーグで着けてやる」
ネロ 「覚えてやがれ…今度は絶対にぶちのめしてやる!」

バッ!

そう言って、ネロは身を翻して去っていった。
それを見て、ミカゲは鬱陶しそうに。

ミカゲ 「…本当に鬱陶しいわ」

そう呟いた。
全く…どんなレベルなのよ、こいつら。
私の出番がほとんどないし。
あのレベルがポケモンリーグのレベルなのかと思うと、ぞっとする。
って言うか、アレと戦う可能性もあるわけね…。
考えるだけでげんなりする。
キヨミさんや父さんが嫌になった理由が、ちょっとわかった気がした。





………………………。





『同日 同時刻 第3エリア』


フィーナ 「畜生…結構ダメージを食らったな」

あれから、何回もバトルをこなした。
バトルに勝てば、相手の持ち物が手に入るとはいえ。

フィーナ 「ここまで10回戦って、『かいふくのくすり』が1つか」

こっちのポケモンはすでに3体がダウン。
残り3体も決して万全じゃない。
正直、危機を感じつつあった。
残っているポケモンは、アブソル、ジュカイン、カメックス
アブソルはまだほとんど無傷。
ジュカインは半分程度のHP。
カメックスはすでにPPが切れかけている。
現状を打破するには、可能性にかけてトレーナーとの戦いに勝つしかない。
もしくは、誰とも会わずにゴールするか。

フィーナ (…って、すでに誰かいるし!)

私はすぐに身を隠す。
こういう時は、様子を見ながら行動しないと。
相手がもし6体持っていたら、その時点でほぼアウトだ。
ギブアップする手はあるけど、俺のプライドが絶対許さねぇ。
俺は、岩陰に隠れ、相手トレーナーを観察する。

女性 「……」

見た所、女性のようで、ハルカさんよりも年上に見える。
キヨミさんやキヨハさんと同じ位かもしれない。
見た目からは、どんなポケモンを使うのかはわからない。
ここは、強気に行った方がいいのだろうか?
私は、意を決して前に出る。

フィーナ 「オイ、あんた! 今から俺とポケモンバトルを…」

女性 「あら、あなたは…」

フィーナ 「…う、嘘」

俺は女性の顔を見て驚きのあまり、言葉を失う。
よりにもよって、とんでもない人に出会ってしまった。
まさか、こんな所にいるなんて。
いや、ありえない話じゃない。
確か、この人の出身はカントー地方。

女性 「…大きくなったわね、あれから2年ぶりかしら?」
女性 「今は何歳だっけ…フィーナ?」

フィーナ 「ラ、ラファさん…何でこんな所に?」

ラファ…それが彼女の名前。
7年前、あるトレーナーに負けたことで修行を続けるトレーナー。
今から2年前、彼女はオーレ地方にやってきた。
そこで、私は彼女に出会った…場所はバトル山。
俺は、あの頃はまだまだ貧弱で、バトル山の20人目位で限界だった。
でも、この人は当時のバトル山を100人抜きと言う、とんでもない記録を叩き出していた。

ラファ 「理由は、まぁ…知っているんじゃないの?」

ラファさんは、笑ってそう言う。
長いストレートの金髪が優しく靡く。
160cm前後と、身長はあまり高くないけど、私よりかは高い。
年に似合うのか似合わないのか、ミニスカートに上半身はトレーナーと、アバウトな組み合わせ。
白い帽子も被っており、はたから見たら気づかない方がおかしいと思える。
何で、飛び出す前に気づかなかったのか…。

ラファ 「…背、伸びたね」

フィーナ 「え、あ…はい」

ラファさんは私の頭をそっと撫でて笑う。
あの時と同じだった。
私は、強くなりたいとずっと思っていた。
でも、強くなれなかった。
一度は辞めようかと思ったポケモントレーナー。
でも、そんな私を支えてくれたのが、この人だった。

ラファ 「…あははっ、フィーナもポケモンリーグに出られる位強くなったのね」

フィーナ 「そ、そんな…私なんて、ラファさんに比べたら」

ラファ 「謙遜しないの、ここまで来たのはあなたの実力」
ラファ 「折角だから、バトルでもしてみる?」

ラファさんはそう言って、ボールを構える。
まずい、今の状態で戦えるほど甘い相手じゃない。
手加減はしてくれるかもしれないけど、あまりバトルを受けたいとは思えない。

フィーナ 「その、私…今はちょっと」

ラファ 「…さしずめ、ダメージが溜まってピンチ…と言った所かな?」

フィーナ 「……!」

ピシャリと当てられる。
性格もばれているんだから当然か。
バトル好きな私が断るって事は、そう言うこと。

ラファ 「…ま、それならしょうがないわね」
ラファ 「いいわ、それなら一緒に進みましょう」
ラファ 「旅は道連れ、世は情け…困った時はお互い様だしね」

フィーナ 「え…でも襷の色が違いますよ?」

ラファ 「いいのいいの! 色が違うからって、一緒に行動しちゃいけないってルールは聞いてないもの」
ラファ 「ほら、行くわよ! ひとりじゃ、辛いんでしょ?」

そう言って、ラファさんは手を差し伸べる。
この人にかかったら、私はやっぱり子供なのだと実感する。
私はラファさんの手を取って、歩き出す。
何はともあれ、これでどうにか切り抜けられそうだ。





………………………。





『同日 同時刻 第4エリア』


キヨミ 「…ここまでで、バトルは3回」
キヨミ 「少なすぎるわ、いくらなんでも」

私はあれから、ほとんどトレーナーに会うことなく、簡単に進んでいた。
このまま行けば、自己最短タイムが出そうなほど、すんなりと進んでいた。

キヨミ 「ん? あれは…トレーナー?」

道を駆け抜けていると、前方にエリートトレーナーの服を着ている男を見つける。
男は、近づいてくるこっちに気づいていないのか、がっくりと項垂れたように地面に膝を着いていた。

キヨミ 「…あなた、どうかしたの?」

男 「…あ、あんたは? ま、まさか!?」

男は、私を見て驚愕する。
どうやら、私を知っているらしい。
まぁ、エリートトレーナーの間では、ある意味伝説化しているのだから当然かもしれないわね。

男 「で、伝説のトレーナー・キヨミ…あ、あんたならひょっとしたら、あいつに勝てるかも…」

キヨミ 「あいつ?」

誰のことを言っているのかは知らないけど、男は怯えたような表情で、私を見ていた。

男 「多分、まだ近くにいるはずだ…恐ろしいレベルのポケモンを使うベテラントレーナー」
男 「いいか! 出会っても、バトルはするな! いくらあんたでも、アレと戦ったら無事にはすまない!」
男 「奴の名は『ザラキ』! 緋色の着物に深緑の袴を身に着けた、中年のトレーナーだ!」
男 「見ればすぐにわかる…いいか、絶対に戦うな! 出来るなら逃げろ!!」
男 「あんたは、こんな所で危険な橋を渡る必要はないはずだ…」

男の口調は必死だった。
それほど、圧倒的な強さを持ったトレーナーがいると言うの?
ザラキ…聞いた事のない名前ね。
それほど、強いのなら聞いたこともありそうなもの……

キヨミ 「!? ま、まさか…ザラキは」

この時、私の記憶にある光景が蘇る。
かつて、ジョウト地方・シロガネリーグにおいて、センリさんに敗北したあのザラキでは…!?

キヨミ 「…もし、私の覚えているザラキさんであれば、会わなければならないでしょうね」

私は覚悟を決める。
もし、本当にザラキさんなら、男の言うように危険な橋だ。
下手をしたら、この場で私は失格になるかもしれない。
それほどの覚悟を持たなければ、あの人の前には立てない。

キヨミ (まだ、近くにいるとか言っていたわね)

ダッ!

私は駆け出す。
探さなければならない。
その人が本当にザラキさんなら!



………。
……。
…。



キヨミ 「…!!」

10分後、私は目的の男を発見する。
緋色の着物に深緑の袴。
間違いない、ザラキさんだ…。

ザラキ 「…ほう、とてつもない気を持ったトレーナーのようだな」

キヨミ 「ザ、ザラキさん…」

私の接近に、男は振り返る。
肩まで伸びるボサボサの髪の毛。
無精髭にしわの見える顔つき。
だが、その眼光は凄まじく、対峙しているだけで気圧されるほどだった。

キヨミ 「…な、何故あなたがここに?」

ザラキ 「それは、貴公にも言えることであろう、キヨミ嬢」

低く、覇気のこもったその声は私に向けられる。
どうやら、私のことは知っていたらしい…。

ザラキ 「…何故知っている?そんな顔をしているな」
ザラキ 「貴公は、ポケモントレーナーの間では伝説的存在よ」
ザラキ 「ジョウトに住む者で、貴公を知らぬトレーナーはいまい」

ザラキさんは、懐かしむかのような素振りで、そう言い放つ。
何かを思い出すかのような、そんな素振りだった。
そして、一瞬の沈黙の後、ザラキさんは突然凄まじい気を放つ。
素人の私でさえわかるほど、圧倒的なプレッシャーだった。

ザラキ 「ここで出会ったのは、宿命! 小生との戦いは避けられぬ運命(さだめ)よ!!」
ザラキ 「行けいっ! 『エルレイド』!!」

ボンッ!

エルレイド 「…エルッ」

ザラキさんはポケモンを繰り出す。
避けられぬ戦い。
そこまで知っている仲ではないけれど、この人の性格は十分わかっているつもりだ。
バトル以外に選択肢はない。
こうなったら、やれるだけやるしかないわ!
私だって、ポケモントレーナー、バトルには負けられない!!

キヨミ 「行くわよ、『ハピナス』!!」

ボンッ!

ハピナス 「ハッピ〜♪」

ザラキ 「ほう…あえて、相性の悪いポケモンを繰り出すか」
ザラキ 「それでこそ、キヨミ嬢! 戦いとは相性で決まるものではない!」
ザラキ 「トレーナーとそのポケモンの強さで決まるものだ!!」
ザラキ 「小生に油断という文字はない! 行けエルレイド!『インファイト』だ!!」

キヨミ (しまった!? まさかそんな大技をいきなり使ってくるとは…!?)

エルレイド 「エルレッ!!」

ダダダッ!!

エルレイドは高速で走ってくる。
先に攻撃を仕掛けるのは不可能、だったらやるしかない!

エルレイド 「エルーーッ!!」

ドガガガガガッ!!!

ハピナス 「ハ、ハピ〜〜〜!!!」

エルレイドの『インファイト』に苦しむハピナス。
だけど、もう私は信じるしかない。
今まで私たちがやってきたことは、決して半端なことじゃないはずよ!!

ザラキ 「むぅ!? 耐え切ったか!」

キヨミ 「お返しよ! ハピナス『カウンター』!!」

ハピナス 「ハ〜ッピーーーーー!!!」

ドグシャアァァァァァッ!!

エルレイド 「〜〜〜〜!!」

ズッドオオオオオオオォォンッ!!

とてつもない衝撃がエルレイドを襲う。
ハピナス渾身の『カウンター』がエルレイドを吹き飛ばした。
ハピナスの体力は全ポケモンの中でも最強。
エルレイドと比べれば、その体力は倍近くある。
そのハピナスの体力をギリギリまで削ったダメージを倍返しするのだから、とても耐えられるものではない。
エルレイドは岩壁に強烈に叩きつけられ、砂埃に紛れる。
耐えられるわけはない、この勝負は勝った!

ザラキ 「…戻れエルレイド。これ以上は戦えまい」

シュボンッ!

ザラキ 「ふっはっは! さすがは、キヨミ嬢!」
ザラキ 「まさかあれを耐えられようとは思わなんだ」
ザラキ 「ふふふ…これだからポケモンバトルはわからぬ物よ」
ザラキ 「このまま貴公とバトルを続けてもよいが、それでは後の楽しみが減ってしまう…」
ザラキ 「さらばだキヨミ嬢! このバトルの借りは本戦で返そう!!」

キヨミ 「あっ、ザラキさん!! 待ってください!!」

私は呼び止めるが、ザラキさんは止まってくれなかった。

ザラキ 「互いに生き残れば、いずれまた会えよう!!」
ザラキ 「それまで、決して負けるなキヨミ嬢よ!!」

背中越しにそう叫んでザラキさんはさっさと行ってしまう。
とてつもない速度ね。
ハルカちゃんと同じ位かもしれないわ。

キヨミ 「…厄介なリーグになりそうね」
キヨミ 「今年は、もしかしたら…歴史に残るポケモンリーグになるかもしれない」

ミカゲにザラキさん、そして現チャンピオンの中では最強の声も高いホウエンチャンピオン・ダイゴ。
そして、姉さんにハルカちゃん…か。
まだ、他にも強いトレーナーは潜んでいるかもしれない。
私たちが、今までホウエン地方で出会ったトレーナーは、氷山の一角に過ぎなかったのかもしれない…。





………………………。





『同日 時刻15:00 第3エリア』


ハルカ 「…はぁ、はぁ」

ミカゲ 「……」

気がつくと、ミカゲに離されていた。
それは当然で、私はバトルをほとんどこなしてきている。
対してミカゲはあまりバトルをしていない。
やったとしても、私とは比較にならない速度でバトルを終わらせている。
しばらくは、ミカゲも私に合わせてくれていたみたいだけど(理由は不明)、ミカゲはいい加減自分のペースで進み始めていたのだ。
まぁ、ミカゲにはミカゲのペースがあるのだから私に合わせる必要はまったく無い。
逆に言えば、私は私のペースで進みたい。
無理にミカゲの後を追うよりも、自分のペースで行った方がいいでしょうね。
そう思うと、私はペースを落とす。

ハルカ 「…ふぅ、ここらでクールダウンね」

私が歩き始めると、ミカゲはすぐに見えなくなってしまった。
意外に身軽ねぇ…私と変わらない体力持ってるかも。
私はしばらくスローペースで休みながら進んでいった。
その日は、そんな感じで終了した。





………………………。





『3月29日 時刻1:00 ポケモンリーグ』


スタッフA 「今年は、何人位来ると思う?」

スタッフB 「そうだな、今年は150人位が出場だから…せいぜい半分って所か」
スタッフB 「下手したら、一桁…何て例も過去にはあるわけだから、わからないけどな」

俺たちは、ポケモンリーグの入り口で監視をしていた。
いつ誰が、ここに来てもいい様に、監視しなければならないからだ。
とは言っても、このタイミングでたどり着く奴なんて、俺は知らないが。

スタッフA 「でもさ、今までで一番早くたどり着いたのは誰なんだ?」

スタッフB 「う〜ん、確かホウエン地方では…誰だっけなぁ?」
スタッフB 「名前は忘れちゃったけど、かかった時間は50時間!」
スタッフB 「もう何十年も前の記録だけどね…未だに打ち破られてないよ」
スタッフB 「…最も、ホウエン地方では、ね」

スタッフA 「ふ〜ん。じゃあ、あの娘は最高記録だな」

スタッフB 「え!?」

言われて見ると、何と月明かりに照らされて、歩いてくる少女がひとり。
俺は慌てて時間を計測する。

スタッフB (げっ! 39時間で到達!?)

ミカゲ 「…通してもらうわよ」

少女はそう言って、バッジケース見せる。
確かに8つ。
文句なしの最速クリアタイムだった。


ミカゲ (第3エリアから、第7エリアのここまでで、半日弱か…こんな物ね)
ミカゲ (ハルカ…とか言う娘、今頃はどの辺りにいるのかしらね)
ミカゲ (少なくとも、あれだけじゃ、大したことはわからなかったわ)

私は1日一緒に行動したハルカを思い出す。
実力的に言えば、まだまだ中の下と言った所。
少なくとも脅威に感じることは何ひとつ無い。
だけど…

ミカゲ (どうして、あの娘はあんなにも必死なの?)

私にはそれがわからなかった。
ハルカは、ひとつひとつのバトルに全身全霊をかけて戦う。
何を考えているのか、私には何ひとつわからなかった。





………………………。





『同日 時刻3:00 ポケモンリーグ』


キヨミ 「…こんな物ね」

私は時間を見て、安心する。
結局、あれからバトルは一度も無かった。
自己最小記録のバトル4回。
まぁ、ザラキさんの性格を考えれば、しょうがないのかもしれないわね。

キヨミ (ザラキさんが、片っ端からトレーナーを倒したんでしょうね)





………………………。





『同日 時刻4:00 ポケモンリーグ』


キヨハ 「…あら」

キヨミ 「遅かったわね、姉さん」

たどり着くと、先にキヨミがいた。
さすがに早いわね…今度は、自信あったんだけど。

キヨミ 「姉さん、何回バトルした?」

キヨハ 「…5回ね」

キヨミ 「勝った…4回」

なるほどね…それは勝てないはずだわ。
よく、4回で済んだものね、こっちも相当回避したんだけど。

キヨハ 「まぁいいわ…記録にはこだわるつもりはないし」

私はそう言って、中に入る。
さて、これから本番ね。





………………………。





『3月30日 時刻12:00 ポケモンリーグ』


ヒビキ 「…着いたか、意外に手間取ったな」

予想以上にバトルが多くなったのが原因か。
だが、ポケモンの経験を積む分には適度と言った所か。
それでも、まだミカゲに勝てるレベルではないだろうな。

ヒビキ (まだまだ、強くならなければな)





『同日 時刻20:00 ポケモンリーグ』


フィーナ 「やったーー! 着いた!!」

ラファ 「やったわね、フィーナちゃん」

私はラファさんと一緒に到達を喜んだ。
お世辞にもいいタイムじゃないけど、やっぱり嬉しい。

ラファ 「さて、これで互いに敵同士。後は別行動にしましょ」

フィーナ 「あ…はい。そうですね」

私は、つい不安そうな表情をしてしまう。
そんな姿を見てか、ラファさんは優しく微笑みかけてくれる。

ラファ 「ほらっ、沈んだ顔はしない!」

フィーナ 「は、はいっ」

私はラファさんに言われて、立ち直る。
駄目だな、やっぱり私は…ハルカさんに元気付けられて、今度はラファさんにも…。
やっぱりもっと強くならないと。
私だって、優勝を目指すんだから!





………………………。





『3月31日 時刻9:00 ポケモンリーグ』


メフィー 「ふひぃ…やっと着きました」

フィーナ 「あ、メフィー!」

メフィー 「あ、フィーナちゃん! やっぱり早かったんですね〜」

フィーナちゃんは、入り口の所で待っていてくれたようですね。
私は、息を整えてフィーナちゃんの側に向かう。

フィーナ 「…結構、時間かかったわね」

メフィー 「ふひぃ…だって…皆、体力ありすぎですよ〜」
メフィー 「私は、体が強くないんです…」

フィーナ 「でしょうね…それは、初めからわかってたけど」
フィーナ 「まぁ、いいじゃない! もうキヨミさんやキヨハさん、ヒビキさんもいるよ!」

メフィー 「…ハルカさんは?」

私が聞くと、フィーナちゃんは苦い顔をする。
ま、まさかまだ…?

メフィー 「ね、ねぇフィーナちゃん…残り時間はどの位?」

フィーナ 「…約15時間」

メフィー 「…今日中にたどり着けなかったら」

フィーナ 「予選落ち…」

かなり、まずい状況になっているのかも…主人公ピンチですよ。





………………………。





『同日 時刻23:00 ポケモンリーグ』


キヨミ 「どう!? 来たの!?」

キヨハ 「駄目だわ、まだ来てない」

ヒビキ 「あと1時間だぞ?」

フィーナ 「まずいよまずいよ! もう時間が無い!」

メフィー 「主人公ピンチです!」

キヨミ (一体、どうなっているのよ…いくらなんでも、ここまでてこずるほどハルカちゃんのレベルは低くないはずだけど?)

未だに、我らが主人公(笑)は到着していない。
このままでは、主人公が予選敗退という惨めな結果が残される。
1時間以内…頑張ってハルカちゃん!!





………………………。





『同日 時刻23:50 チャンピオンロード第7エリア』


ハルカ 「あ〜もう!! 何でこんなにトレーナーがいるのよーー!!」

もうそろそろ時間もやばい!
出口はもうすぐなのに、トレーナーやら野生ポケモンやらが邪魔をしてくる。
ここまでで戦ったトレーナーは計30人!
全て勝利を収めたけど、ポケモンもいい加減限界!
何せ、生き残っているポケモンはコノハナ1体。
もう出口は、見えてる!
後は走り抜けるのみ!!
私は、限界を超えて出口を目指す。
前方に障害物は無し! このまま行く!!

? 「待ってくださいハルカさん!!」

ハルカ 「なんとぉーーー!?」

突然後ろから聞き覚えのある声がする。
もしかしなくても、バトルの挑戦ですかい!?
はっきり言って、限界!
これ以上はとてもバトルしている暇は…。

ハルカ 「…え?」

私は考えがまとまらないまま、少年を見た。
そう、少年なのだ…そこにいたのは。
それも、以前に出会った、少年。

ハルカ 「…ミツル、君」

ミツル 「ハルカさん…ようやく、追いつきました」

ミツル君は、息を切らせることなく、私に歩み寄る。
肺を病んでいたあの病弱な少年が、この過酷なチャンピオンロードを、潜り抜けてきた?
それは、間違いなくいっぱしのトレーナーとして、私の前に立っていることの証明だった。

ミツル 「僕、あれから努力しました! ハルカさんを目指して頑張ってきました!」
ミツル 「だから、ハルカさん! 今ここで、僕とバトルしてください!!」
ミツル 「僕がどれだけ成長したか、ハルカさんに見てもらいたいんです!!」

ハルカ 「断る」

私はあっさりと言う。
正直、そこまで余裕は無い。

ミツル 「え!? あ、いや…でも、こう言う場合って普通断らないものじゃ?」

ハルカ 「知らないわよ! こっちは元々ギャグ主体なんだから何でも有りなの!」
ハルカ 「ともかく! こっちはすでに戦えるポケモンが1体のみ! 危険な賭けはしないわ」

ミツル 「大丈夫ですよ、僕も残り1体ですから♪」

嘘くせーなーんか嘘くせー。
その笑顔が怪しい。
騙されはせん!

ハルカ 「っていうわけで、ダッシュ!!」

私は一目散に逃げ出した。
このままではタイムアウトしてしまう!

ミツル 「あ、待ってくださいよハルカさん!!」

結局、このまま私はミツル君と同時にチェッカーインすることになった。



………。



『同日 時刻23:59 ポケモンリーグ』


フィーナ 「あ、来たーーーー!!」

メフィー 「ハルカさんハルカさーーーーん!!」

キヨミ 「やれやれ、ね」

キヨハ 「…後30秒」

ヒビキ 「…ギリギリにも程がある」


ハルカ 「はぁはぁ! 間にあったーーー!!」

私は入り口手前でガッツポーズ!
まだ日付が変わってない! 間に合った!!

スタッフA 「はい、それじゃあバッジケース見せて」

ハルカ 「はい? ケース?」

私は、ふとケースを探す。
やばい…見当たらない。

ミツル 「はい、ケースです!」

スタッフB 「1、2、3………よしOK! 早く入りな!」

ミツル 「それじゃあ、ハルカさんお先に失礼します!」

そう言ってミツル君はさっさと行ってしまう。
やばい、この展開はもしかしなくても?

スタッフA 「ハイ駄目ーーー! 残念!」

ハルカ 「マジデ!? マジナノカ!?」

不覚にもバッジケースを見失う私。
ここで、私はふと過去に遡る。

ハルカ 「ああーーーーーー!! 自分のリュックに入れたまま預けてるーーーー!!」

それは無理だ。
無い物は見当たらない。

スタッフA 「まぁ、規則は規則だから。諦めて」

スタッフB 「いるんだよな…毎年、こう言う情けないミスする奴」

ハルカ 「ぐさっ」

ぐんぐにるで刺された気分だ…ほ〜れほれ、きもちよかろ〜?

ハルカ 「いや、待って待って! 自分のリュックにあるから! ね? ね!?」

私は笑顔で、お願いする。
すると、スタッフは笑顔で返してくれる。

スタッフA 「ああ、帰りはあっちからね♪」

スタッフB 「さ〜って、そろそろ中に入って休むか」



………。



ハルカ 「………」ぽつ〜ん



『4月1日 時刻0:00 ポケモンリーグ・入り口…ハルカ再起不能・リタイヤ』



…To be continued






ハルカ 「って、終わるかーーーーー!!」

? 「そのとーーーーーり!!」
? 「例え、作者(神)が許しても、このノリカ容赦せん!!」

スタッフA 「な、何奴!?」

スタッフB 「ひーでーぶーーー!?」

サヤ 「こっちは片付きました…」

ノリカ 「うむ! さすがは暗殺者! 手が早い!!」

スタッフA 「き、貴様ら!?」

ノリカ 「あの世で詫びろ!! ハルカ様にーーーーー!!」

ノリカは全力のアッパーでスタッフAを吹き飛ばす。
見事なオーバードライブね…。



………。



とまぁ、そんなこんなで、無理やり何とかしたハルカたん。
事実、この日ふたりのスタッフの記憶が消えたことは、言うまでもない…



…今度こそ本当に、To be continued♪




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