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POCKET MONSTER RUBY



第68話 『死すべき者、生きる者』




『4月5日 時刻8:00 サイユウシティ・総合病院511号室』


ハルカ 「………」

ピー…ピー…

ミツル 「……」

ジュペッタ 「………」

微かな電子音が響く中、僕とジュペッタはハルカさんの側にいた。
僕とのバトルの最中、ハルカさんは突然おかしくなった。
まるで、見えない何かを恐れるような、そんな…。

ミツル 「…何で、こんなことに」

ジュペッタ 「………」

僕は俯いて嘆く。
まさか、こんなことになるなんて思ってなかった。
僕はただ…バトルがしたかっただけなのに。

ハルカ 「………」

あれから、ハルカさんは死人のように眠っている。
起きる気配は無い。
倒れたあの時の狡猾な笑み…まるで、狂ってしまったかのような。
絶望的な、何かが脳裏を過ぎる。

ガチャ…

看護婦 「…検診の時間です」

ミツル 「あ…すみません」

ジュペッタ 「………」

僕とジュペッタは、その場から動いて看護婦さんに任せる。
看護婦さんは起きる様子の無いハルカさんの体温等を測る。
看護婦さんの表情は暗い…どうしようもないのだろう。





………………………。





『同日 同時刻 サイユウシティ・総合病院203号室』


ANATAHANANIWOMOTOMERUNO?

声が聞こえる。
以前に、聞いた…懐かしい声だ。

DOUSITEANATAHAKURUTTESIMATTANO?

うるさい…それは…

ANATAHA…NAZE…



………。



ネロ 「だまれぇぇぇぇぇっ!!」

ガバッ!!

ネロ 「はぁ…っ! はぁ…はぁ!」

目が覚めると、白い壁が見えた。
ここは…どこだ?

ヒードラン 「…ヒ、ヒドゥッ!」

ネロ 「…ヒードランだと? 何故、ここに…」

カミヤ 「ようやく、お目覚めかい…ネロ博士」

ネロ 「!? カミヤ! お前が、何故?」

一体、何がどうなっているのかが全くわからない。
そもそも、俺は何をしていた?

カミヤ 「…混乱しているようだね、無理も無い」
カミヤ 「正常だった君から今まで、1年以上経っているんだから…」

カミヤは眼鏡をかけなおしてそう言う。
1年以上…だと?

ネロ 「…どういうことだ? 俺は一体…」

カミヤ 「Pandoraに…あったんだろ?」

ネロ 「!? そうか…俺は…それで」

俺は事の顛末を思い出す。
そして、同時に自分が犯した大罪を一気に呼び覚ます。

ネロ 「ぐっ!? あれを…全部、俺が!?」

カミヤ 「…思い出したかい? それが真実だ」
カミヤ 「Pandoraに関わり、狂った者のね…」

ネロ 「…Pandora」

それは、まさに絶望の子。
ありとあらゆる命を終わらせることのできる、最終兵器。

カミヤ 「とにかく、無事でよかった…」

ネロ 「…どうやって元に戻した?」

俺は俯きながら聞く。
少なくとも、あの症状を治すには相当な代価が必要だったはずだ。
俺の体は、さほど問題があるとは思えない…ここまで治療するのは不可能のはずだ。

カミヤ 「…ミカゲに感謝するんだね」

ネロ 「…ミカゲ、だと?」
ネロ 「あいつ…が、か?」

カミヤはコクリと頷く。

カミヤ 「ミカゲの細胞を君に一部だけ移植した」
カミヤ 「もちろん、すぐに体細胞に食われて消えてしまう程度のね」
カミヤ 「問題は…それを脳に直接植え込んだことだ」
カミヤ 「少なからず問題はある、さっき記憶が曖昧だったようにね」

ネロ 「…なるほどな」

言われて納得する。
Giratina Cellか…確かに効果は抜群だろう。

カミヤ 「実生活に問題が無いとは言えない…少なからず、異変が起こることは覚悟してくれ」

ネロ 「…ああ、わかった」
ネロ 「で、リーグはどうなった? ミカゲは…? 優勝したのか?」

カミヤ 「いや、急なルール改正により、後5日は試合が行われない」

ネロ 「5日だと? 随分長い間隔だな」

ルール改正か…どうやら余程今年の大会はイレギュラーらしい。
俺は痛む体を何とか立ち上がらせた。

カミヤ 「お、おい! 無茶するなよ!」

ネロ 「お前に気遣われる言われはねぇ…俺は病人じゃねぇんだ」
ネロ 「さっさとこんな所はおさらばさせてもらう、戻れヒードラン」

シュボンッ!

俺はヒードランをボールに戻し、辺りを見る。

ネロ 「…服は、これしかないのか?」

カミヤ 「あ、そう言えば…ちぎれた拘束衣なら」

ネロ 「冗談抜かせ…ちっ、動くに動けねぇな」

さすがに、パジャマ姿で外まで出歩く気にはなれん。
もうしばらくはこのままか…。

カミヤ 「んじゃ、僕がひとっ走り買ってくるよ」

ネロ 「おう、変な服買ってきたら承知しねぇからな」

カミヤ 「やだなぁ…信用してよ」

ネロ 「わかったから、さっさと行ってこい」

俺はそう言い、手で『行け』とジェスチャーする。
カミヤは笑って、部屋を出て行った。

バタンッ

ネロ 「…ちっ」

ひとりになったのはいいが、暇を持て余す。
試合をやってないんじゃ、テレビもロクな番組が無いだろ。
俺はまず、用を足すことにした。



………。



ザワザワ!

ネロ 「…あん? やけに騒がしいじゃねぇか」

カミヤ 「た、大変だよネロ!!」

ネロ 「ん? どうかしたのか…」

俺は後ろ髪を掻きながらカミヤに聞く。
すると、カミヤは顔を青ざめて。

カミヤ 「と、とにかくこっちへ!!」

ネロ 「!? おい、どこへ行く気だ!!」

カミヤ 「重要なことだ! 君に頼むしかない!!」

ネロ 「!?」

俺はカミヤに連れられ、5階のとある病室に連れてこられた。



………。
……。
…。



『時刻8:30 サイユウシティ・総合病院511号室』


ガチャッ!

看護婦 「しっ! 静かに…!」

カミヤ 「あ、す、すみません! ほら、ネロ…!」

ネロ 「…あん?」

ミツル 「わっ! ネロ選手!?」

ジュペッタ 「……?」

ネロ 「何だ、こいつは確か…」

ハルカ 「………」

チャピンオンロードでミカゲと一緒にいた女じゃねぇか。
眠ってやがるのか…って、病院でただ寝てると言うわけでもねぇか。

ネロ 「…呼吸は正常、脈拍も問題無しか」
ネロ 「おかしな所は何一つ無い、何の病気だ?」

カミヤ 「…多分、君と同じ症状だよ」

ネロ 「!?」

その瞬間、衝撃を受ける。
俺と同じ症状、つまりそれは…。

ミツル 「あ、あの…? 一体、ハルカさんは?」

ネロ 「おい! テメェ! もしかして声を聞いたか!?」
ネロ 「頭に響く、少女の様な妙な声だ!」

ミツル 「え? いえ…僕は全然」

ジュペッタ 「…ハルカが何かを見ていた」

ネロ 「!?」

カミヤ 「…まさか」

ジュペッタが喋ることにも驚いたが、それ以上に今は奴の言葉に聞き入っていた。

ネロ 「…お前は見えたのか?」

ジュペッタ 「…いや、だが…何かを『攻撃させられた』」
ジュペッタ 「ハルカは、何かを見て、何かを聞いていた」
ジュペッタ 「まるで、狂ってしまうかのように」

ネロ 「間違いねぇな…」

最悪の事態だ。
俺以外に、声を聞いちまうとは。

ネロ 「…カミヤ、俺に使ったGCはまだ残ってるか?」

俺は自分の頭をコンコンと指で突付き、そう聞く。

カミヤ 「ま、まさか君の細胞から移植するのかい!? そんなことしたら君は…」

ネロ 「悠長なこと言ってる場合か! いつ、こいつが暴れだすかわからねぇんだぞ!?」

俺はそう叫んで、カミヤを押し切る。
すると、カミヤは首を俯かせ、横に何度か振る。

ネロ 「…俺はどの道、生きながらえようとは思わねぇ」
ネロ 「どうせなら、少しでも罪を軽くしてから地獄に行くさ」
ネロ 「軽く、なるならな」

カミヤ 「僕に、その決断をしろって言うのかい!? 親友の命を使って…」

ネロ 「親友なら、状況を察しろ…こいつを救えるんだ」
ネロ 「それには俺の脳細胞を使うしかない」
ネロ 「回復に成功した俺の細胞なら、『免疫』が着いてるからな」

俺はそう言い、カミヤの言葉を待つ。
カミヤは考え、ハルカと俺を交互に見る。
他に方法は無い。
ミカゲから新たにGCを得たとしても、ハルカに定着するとは限らん。
ましてや、暴走を加速させる原因にもなりかねん。
だが、俺に定着途中のGCなら、免疫が作られている。
完全に消えるまではまだ時間があるだろう。
選ぶまでも無い…こんな命ひとつで救えるってんなら、安いもんだ。

カミヤ 「…わかった」
カミヤ 「せめて、僕が自分の手でやるよ…本当は専門外だけど」

ネロ 「ああ、頼むぜ親友…」





………そして、その夜………





ピー…ピー…ピー…

ハルカ 「…う」

何かの機械音で目が覚める。
消毒薬の匂いが強い…ここは、病院?

ハルカ 「……」

目の前をライトが照らす。
その眩さに、目が眩んで私は手で光を遮る。
光に慣れてきたところで、私は体を起こす。

カミヤ 「やぁ」

ハルカ 「!? あなたは…確か」

カミヤ 「覚えているかい? カミヤだよ」
カミヤ 「しがない、物理学者の、ね」

カミヤさんは何故か暗い顔をしていた。
どうしてだろう? 凄くやつれているような顔をしている。
私は周りを見る、他に人はいないようだった。
いや、人じゃないのはいる。

ジュペッタ 「………」

ハルカ 「あなた…ずっといたの?」

ジュペッタ 「…俺は眠る必要が無いんでな」

そう言って、両腕を組んで俯くジュペッタ。
私はもう一度カミヤさんを見た。

カミヤ 「ところで、頭は大丈夫かい?」

ハルカ 「頭…ですか?」

私は頭と額を触る。
すると、額に包帯が巻かれているようだった。

カミヤ 「痛みとかは、ない?」

ハルカ 「あ、はい…何だかスッキリした位で」

カミヤ 「そうか…成功、したんだな」

ハルカ 「? あの、一体…何がどうなって?」

私は状況が理解できてなかった。
何故病院に運ばれているのか、昨日はどうなったのか、そして今日は…。
記憶が曖昧になっていた。
ミツル君とのバトルは何とか覚えている。
あの時私は…。

ハルカ 「!?」

突然、嫌な感覚を思い出す。
あの時、聞いた、女の子の様な声。
私に問いかける声。
それと同時におぞましい影が蘇る。
まるで、人の怨念そのものの姿をしたような…そんな影。

カミヤ 「…思い出したかい? 君が…何を見たのかを」

ハルカ 「…! 知っているんですか…? あの声と、影の正体」

ジュペッタ 「………」

私はジュペッタと一緒にカミヤさんを見る。
すると、カミヤさんは真剣な顔つきで話し始めた。

カミヤ 「…君が見たのは、『パンデュラ』と呼ばれるポケモンだ」

ハルカ 「ポ、ポケモン!?」

あんな、おぞましい姿をしたのが、ポケモン。

カミヤ 「正確には、本当にポケモンかどうかもわかっていない」
カミヤ 「生きて、『見た』と言った人はいないからね」

ハルカ 「……!」

私は、瞬間ぞくっとする。
それはつまり、見た人間は全て『死んでいる』と言うこと。

カミヤ 「どんな姿をしているのかは誰も知らない…記録には姿形のないポケモンと言われている」
カミヤ 「ただ、女の子のような声をしているらしい」

ハルカ 「聞きました…少女の声」
ハルカ 「何だか、何故戦うの? だとか…あなたになんちゃら…とか」

カミヤ 「それが、『パンデュラ』の声だ」
カミヤ 「通常、その声を聞いたものは発狂し、狂人化する…ネロの様にね」

ハルカ 「ネロ…って、まさかネロ選手!?」

カミヤさんはコクリと頷く。
そして、同時に涙する。

カミヤ 「…ネロは、生物学者だった」
カミヤ 「医療も携わっていて、ぶっきらぼうで荒々しい性格だけど、優しい人間だった」
カミヤ 「でも、『パンデュラ』の声に狂わされ、罪を犯した」

ハルカ 「つ、罪って…」

カミヤ 「大量虐殺さ…人間とポケモンをね」

ハルカ 「!?」

聞かなきゃよかったと思う。
私も…そうなってしまうのだろうか?

カミヤ 「君は…多分もう大丈夫だ」
カミヤ 「免疫ができたはずだからね…理論上は」

ハルカ 「免疫…」

カミヤ 「そう…今の君の脳内には、ネロの脳内から移植した免疫細胞がある」
カミヤ 「とは言っても、もう多分消えてしまっている…君の細胞と同化してね」
カミヤ 「今残っているのは、免疫のできた君の細胞だけだ」

言われてもピンとこない。
つまり、ネロ選手の細胞が私の細胞に…?

ハルカ 「で、ネロ選手は?」

カミヤ 「……彼は、死んだよ」

ハルカ 「!? どういうことです?」

私はやや強い口調でそう聞く。
死んだって…まさか。

カミヤ 「…ネロは君へ細胞を移植した」
カミヤ 「だけど、その細胞はネロを同時に死に至らしめた」
カミヤ 「僅かな細胞だったけど、一度『パンデュラ』に狂わされたネロから免疫を取り除く結果になったから」
カミヤ 「…だから、君の命は」

ハルカ 「…ネロ選手に生かされたってわけですか」

カミヤさんは頷かなかった。
でも、多分そうなのだろう。
私は、頭を抱えて嘆く。

ハルカ (私のせいで…人がひとり死んだ)

結果的にとはいえ、死なせてしまった。
そうしなければ、私が死んでいたかもしれない。
ネロ選手は、死ぬことが怖くなかったの?

カミヤ 「…ネロは、満足そうだったよ」

ハルカ 「!?」

カミヤ 「最後の最後で、誰かを救える…そのことが、何よりも嬉しそうだった」

ハルカ 「……」

私には想像もできない。
あの狂ったようなネロ選手の姿しか知らないから。
本当の姿…か。

カミヤ 「…ハルカちゃん、君にこれを」

ハルカ 「…これは?」

カミヤさんは、ひとつのモンスターボールを私に渡した。
だけど、デザインが見たことない。
黒一色と思いきや、ボールのボタンスイッチだけが僅かに白かった。

カミヤ 「それはネロの形見…パンドラボールだよ」

ハルカ 「パンドラボール?」

カミヤ 「ネロが、パンデュラを封印するために開発していたモンスターボールさ」
カミヤ 「ただし、その性能はマスターボールを超える」

ハルカ 「マ、マスターボールをって…マスターでも100%捕獲なのに」

カミヤ 「パンドラボールは、ポケモンだけでなく、この世に存在するありとあらゆる存在を捕獲できる」
カミヤ 「しかも、一度捕獲したら、1000年以上は外に出ない仕様だ」
カミヤ 「パンデュラを封印するためのボールであり、人類の希望のボール…」
カミヤ 「覚えておいてくれ、そのボールには99%の絶望を封じるために、1%の希望が込められていることを」

ハルカ 「…それって、私に封印しろって事ですか?」

カミヤさんは答えない。
どうとも言えない表情だった。

カミヤ 「別に強制するわけじゃないし、頼んでもいない」
カミヤ 「ただ、覚えていてほしいだけだ」
カミヤ 「君は、Pandoraに関わって唯一『生きている』人間なのだから…」

そう言って、カミヤさんは部屋を出て行った。
私はボールを握り締め、俯く。

ハルカ (酷いよね…こんなのさ)
ハルカ (何で、私生きてるんだろう?)
ハルカ (何で、私…生かされたんだろう?)

その日は、結局何も考えられなかった。
ただ、押し潰されそうな、重い…使命感だけがのしかかってきた。





………………………。





『4月6日 時刻9:00 サイユウシティ・自由公園』


ハルカ 「……」

私は、何となくここに来ていた。
『パンデュラ』のことは、今は置いておく。
私は、自分のためにやらなければならないことがあるから。

ハルカ 「よっし! こうなったら誰でもいい! バトルを挑むわ!!」

私はそう思って、自由公園の中を歩き回る。
とはいえ、さすがにまだ時間が早めのようで、バトルのできそうなトレーナーは少なかった。

ハルカ 「う〜ん、誰でもいいとは言ったけど、あんまり適当過ぎるのも問題よね〜」

と言うよりも、何だか避けられている気がする。
どうにも、私を見て逃げる…と言うか避けるトレーナーが多い。

ハルカ (私、何かしたかしら?)

少なくとも、こっちに来てからは、比較的温厚なつもりだけど。
はぁ…思ったようにはいかないなぁ。

? 「あら、あなたはハルカさん…だったかしら?」

ハルカ 「あ、あなたは!?」

と、驚いてみるが、別に驚くほどではない。
そこにいたのは、長い髪にアロハシャツとさりげなくダイナマイツなお姉さまの『ミク』さんだった。

ミク 「こんな時間からバトル? 精が出るわね」

ハルカ 「いや〜…相手が全然見つからなくて」

ミク 「相手が…? …なるほどね」

ミクさんは私の言葉を聞き、周りを見渡して納得する。

ミク 「あなたの実力じゃ、この辺りのトレーナーは避けるのも当然でしょうね」
ミク 「例え戦ったとしても、今のあなたじゃ相手にならないわ」

ハルカ 「そ、そんな酷いですか私?」

当たり前のように言われて、さすがにヘコむ私。
はぁ…少しはマシになったと思ったんだけどなぁ。

ミク 「酷い…と言うか、あなた、自分の実力をもう少し理解した方がいいわ」

ハルカ 「う、善処します」

要するに、井の中の蛙…か。
まだまだ、強くならないと!
でも、相手がいないのは事実…負けるの覚悟でも挑むべきだと思うんだけどなぁ。

ミク 「…悩むほどのことではないと思うけれど」

ハルカ 「悩みますよ〜…次の相手だって、半端じゃないですし」

ミク 「…そうね、あなたがザラキさんと戦うには決勝まで行くしかない」
ミク 「それまでに負けてもらうのはいただけないわね…」
ミク 「少し待っていなさい、相手を探してきてあげるわ」

ハルカ 「えっ? あ、いえ別に…」

だが、私が言うよりも早くミクさんは先へ行ってしまう。
な、何だかこう言う強引な所は何となくザラキさんに似ている気が。



………。



ミク 「ちょっと、いいかしらっ」

男 「うん? 俺ですか?」

私は、赤髪の坊主頭をした男性に聞いてみる。
すると、男性は不思議そうにこちらを見た。

ミク 「ええ、バトルの相手をお願いしたいのだけれど」

男 「いいですよ! で、ルールはどうします?」

思いの他、相手のノリはいい。
実力もありそうだし、丁度いいわね。

ミク 「あ、ちょっと待って…戦うのは私じゃないから」

男 「?」

私は男性を連れ、ハルカさんの元に戻る。



………。



ミク 「待たせたわね、早速連れてきたわよ」

ハルカ 「ゲッ! また、凄い人を…」

男 「あれ! 君は確かハルカ選手!」

ミクさんも何と言う人を連れてくるのか…この人、前にキヨミさんと戦ったトレーナーじゃない。
確か名前は…。

ハルカ 「ジェット選手ですよね? 確か」

ジェット 「ああ、覚えていてくれて光栄だ!」
ジェット 「もしかして、バトルの相手を探しているのって…」

ハルカ 「あ、はい…私なんですけど」

いくらなんでも、相手が悪いのでは?と思ってしまう。
あのキヨミさん相手にそこそこのバトルを演じていたのだから、相当な強さのはず。
だけど…勝てない相手でもないはず。
私は、気合を入れなおす。

ジェット 「こいつは、面白そうだ…期待の新人の強さとやら、見せてもらおうか!」

ハルカ 「ルールはシングル1対1! それでいいですか?」

ジェット 「1対1か…いいぜ、緊張感のあるバトルになりそうだ!!」

ジェットさんは笑ってボールを構える。
悪いけれど、相手のポケモンはわかってる。
とはいえ、それがどんな戦い方をするのかは全く持ってわからない。
少なくとも、以前の戦いだけで判断はできないでしょうね。
私は、それを踏まえた上で出すポケモンを決めた。

ハルカ 「行くわよ、『ジバコイル』!!」
ジェット 「任せたぞ『ピート』!」

ボボンッ!!

ジバコイル 「PPG〜」

ピート 「ピジョー!」

予想通り、出てきたのはピジョット。
とはいえ、どんな性能なのかは戦ってみないことにはわからない。
果たして、相性の差をどう覆してくるのか。

ジェット (さて、予想通りだが)

ハルカ (見せてもらおうかしら、弱点を覆すバトルを!)

ミク 「審判は私がやるわ…両者ともに準備はいいわね!?」

私たちは互いに頷く。
それを確認した後、ミクさんは手を上げてコールする。

ミク 「バトル・スタート!」

ハルカ 「行くわよジバコイル! 『10まんボルト』!」

ジェット 「ピート『すなかけ』だ!!」

ジバコイル 「PP!」

バチバチッ!

ピート 「ピジョー!」

ズザザァッ!!

ジバコイル 「PGPG!?」

ピジョットは先制で『すなかけ』を行う。
空中から一気に地上へと急降下し、地上スレスレで砂をかき上げた。
その勢いは凄まじく、スピードのないジバコイルはまともに砂を食らう。

ビビビッ! バチバチィッ!!

ピート 「ピジョー!」

ハルカ 「く…そう来たか」

ピジョットは『10まんボルト』を、悠々と回避する。
いくら、効果抜群の技でも、当たらなければ意味はない。
相手はそう言った対策を極めていると言えるのだろう。
一筋縄ではないかない。

ジェット 「いいぞピート! つぎは『どろかけ』だ!!」

ピート 「ピジョー!!」

ハルカ 「ジバコイル『ミラーショット』よ!」

ジバコイル 「PGG!!」

ドギュンッ!!

旋回し、再び向かってくるピジョットにジバコイルは『ミラーショット』を放つ。
しかし、狙いの定まらない攻撃に、ピジョットを捉えることはできなかった。

ピート 「ピジョーー!!」

ドババッ!!

ジバコイル 「PGG〜〜!!」

ハルカ 「今度はダメージ!?」

ピジョットは『すなかけ』の時と同じような動作で技を繰り出す。
ただし、今度のは泥も交えた『どろかけ』だが。 どうやら『すなかけ』と違い、『どろかけ』は効いているらしい。
一応、攻撃力があるにしても…そこまできついとは。

ハルカ (鋼と電気は両方地面に弱い…)

いくら威力が低くても、それは痛い。
スピードに差がある以上、攻撃をかわすのは難しい。
ましてや、命中率が下げられている状態じゃ…。

ハルカ (待てよ…ジバコイルの技には確か)

私はジバコイルの技を思い返す。
そして、この場で有効と思われる技を指示する。

ハルカ 「ジバコイル! 『ロックオン』よ!!」

ジバコイル 「PG!」

ピピピ…!

ジェット 「その手があったか! だがさせるか! ピート『かげぶんしん』!!」

ピート 「ピジョジョ!!」

バババババッ!!

ジバコイル 「PG!?」

ジバコイルは相手を見失って戸惑う。
く…ロックできなきゃ意味がない。
でたらめじゃ通用しない、か。

ハルカ (これも訓練ね…今度は、変な物見えないでよ?)

ジェット (目を閉じた!?)

私は目を瞑って、相手を探す。
今度は心を読むわけじゃないので、少し気が楽だ。
私は精神を落ち着け、ピジョットの位置を探る。
高速で動いているわね…スピードが速いわ。
だけど、捉える方法はある!

ジェット 「何を考えているのかはわからないが! ピート『どろかけ』だ!!」

ピート 「ピジョー!!」

ハルカ 「! ジバコイル! 左に『10まんボルト』!!」

ジバコイル 「PGGG!!」

バチバチッ! バチィッ!!

ピート 「ピジョーーー!?」

ジェット 「何だと!? ピートォ!!」

ヒュゥゥッ! ドシャァッ!!」

私は目を開けて状況を確認する。
ジバコイルは健在、ピジョットは地上に落下。
結果は明白ね…。

ミク 「ピジョット戦闘不能! よって、勝者ハルカ!」

ハルカ 「うっし! まずは1勝!」

私はガッツポーズを取り、1勝を噛み締める。
さすがに相性有利で負けるわけにはいかない。
今ので、ジバコイルにも経験になったはずだわ。

シュボンッ!

ジェット 「完敗だ…強いな君は」

ハルカ 「いえ、相性がよかったからですよ」

ジェット 「いや、それだけなら負ける気はしなかった」

ジェットさんは手を差し出して笑う。
私はそれに答え、握手する。

ハルカ 「バトル、ありがとうございました! いい経験になったと思います!」

ジェット 「そう言ってもらえれば幸いだ! 頑張れよ、本戦でも暴れてくれ!」

ハルカ 「はいっ」

ジェットさんは走って去っていく。
う〜ん、スポーティね。
私はミクさんを見る。

ミク (やはり、ザラキさんの目に狂いはないわね)
ミク (あの時とは別人のように強くなっている)
ミク (本人はまるで気づいていないようだけど)

ハルカ 「あの、ミクさん?」

ミク 「…何かしら?」

ハルカ 「あ、いえ…何だか考え込んでたみたいですから」

ミク 「…何でもないわ、さぁ次の相手を探しましょう」

こうして、私は次の相手を探すことになった。
やれやれ…次はどんな強敵が選ばれるのか。



………。



リベル 「ええと…あの〜」

ミク 「ルールはさっきと同じかしら?」

ハルカ 「あ、はい…1対1で」

リベル 「は、はい…」

今度はリベル選手か…ミクさん、わざとやっているんじゃ?
って言うか、そのコスプレでよくこの炎天下を歩けるものね〜。

ハルカ 「とりあえず、行くわよ『ペリッパー』!!」
リベル 「お願い、『キーツ』!」

ボボンッ!

ペリッパー 「ペリ〜」
キーツ 「キノガ!」

相手はやっぱりキノガッサ。
問題は、どんな戦法なのか。
こっちはペリッパーで相性はいい。
だけど、油断はできない…こっちもある程度の対策は考えてある。

ミク 「それでは、バトル・スタート!!」

リベル 「キーツ『キノコほうし』!」

ハルカ 「ペリッパー『まもる』!!」

キーツ 「キノー!」

ブフゥンッ!!

ペリッパー 「ペリッ!」

ピキィィンッ!!

まずは初撃を防ぐ。
さすがにいきなりは食らってやれない。
しかし、これで相手に『キノコほうし』が使えることがわかった。

リベル (しまった…焦り過ぎたかも!)

ハルカ (スピードでは負けてる…防御力ならこっちだけど、あの『キノコほうし』は危険ね)

食らえば、1対1な以上、敗北は必至。
かと言って、食らわずに倒せるとは限らない。
ここは、私も初めて使う新技で行く!

リベル 「そう何度も防げませんよ! 『キノコほうし』!」

キーツ 「キノーー!!」

ボフゥンッ!!

ハルカ 「ペリッパー『おいかぜ』!!」

ペリッパー 「ペリーーー!!」

ビュゴゴゴゴゴゴォォォッ!!

キーツ 「キノー!?」

リベル 「きゃっ!!」

ミク 「!?」

ハルカ 「うひっ!?」

いきなり、凄い風が吹く。
ペリッパーの真後ろから突風に近い強烈な風が吹いているのだ。
その風で胞子は吹き飛び四散した。
予想以上に意味があったらしい。
でも、攻撃技じゃないわよね…効果は?

リベル 「…く、キーツ『やどりぎのタネ』!!」

キーツ 「キノガッ!」

ヒュゥゥゥ…ベチャ

リベル 「あう…全然届かない」

相手の攻撃は風に遮られ、思うように行動できていないようだった。
悪いけれど、これは大チャンス!
私は一気に構成に出る。

ハルカ 「ペリッパー! 『つばさでうつ』!!」

ペリッパー 「ペリーー!!」

ドギュンッ!!

リベル 「は、速い!?」

ドガァッ!!

キーツ 「キ、キノガ〜…」

ドシャッ!!

ハルカ 「うわ…何今の?」

ペリッパーは、まさに風に乗っての高速の一撃を見舞う。
今まで見てきて、あんなスピードは見たことがなかった。
相手も呆然としている、よくわかっていないようだった。

ミク 「キノガッサ戦闘不能! よって勝者ハルカ!!」

ハルカ 「とりあえず…2勝!」

リベル 「はう…参りました」

シュボンッ!

リベルちゃんはポケモンをボールに戻し、がっくりと項垂れた。
何て言うか…私も意外だったつーか。

ミク 「ふたりとも、よくわかってないようだから教えてあげるわ」
ミク 「あの『おいかぜ』という技は、使用者の後ろから突風を巻き起こし、スピードを加速させる技なの」

ハルカ 「か、加速…それであのスピードが」

ミク 「ええ、ダブルバトルなら、2体とも影響を受けるわよ」

リベル 「は〜…なるほどぉ」

私たちはふたりで納得する。
役に立つ新技講座だ。

ミク 「ちなみに、効果時間はおよそ3分…そう長い時間じゃないわ」
ミク 「使い方を間違えると、相手に利用されることもあるから、気をつけるように」

ハルカ 「は〜い」
リベル 「は〜い」

私たちは同時に答える。
何か、先生と生徒みたいだ。

リベル 「それにしても、ハルカさんって強いんですね〜」
リベル 「テストでは最下位だったのに、本戦出場ですもんね!」

ハルカ 「いや〜、私なんかまだまだ…もっともっと強くならないとね」

ミク 「そうね…もっと強くなってもらわないと、意味がないわ」
ミク 「さぁ、次の相手を探すわよ!」

ハルカ 「って、休憩なしなの〜?」

リベル 「あ、あはは…頑張ってくださいね」

私はミクさんに振り回されているような気がしながらも、次の相手を探すことにした。
今日はまだまだ長い。
後、何回位戦うことやら…。



…To be continued




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